偽幻覚

ページ名:偽幻覚

偽幻覚とは

表象幻覚、仮性幻覚とも呼ばれる。

北村(2013)よれば、偽幻覚とは「細部に至るまで明瞭で、かつ意思で左右できない表象」のことを言う。

正常の心理現象の一つである。

愛する者と死別した際に起こりやすいとされる。例えば、「亡くなった人が話しかけてきた」等、幻覚と区別がつきにくいが、これは幻覚ではなく偽幻覚である。

 

一方、幻覚は知覚の障害であり、知覚と区別がつかない。目を閉じても見えることもある。

偽幻覚が「心の目」に映るのに対し、幻覚は外界にあるものとして知覚される。

 

知覚・表象と偽幻覚

知覚は対象を感覚的に実体として(客体がそこにあるという性質で)心の中に描き出すことである。

そして表象は対象を心像として(実体は今ないものとして)心の中に描き出すことである。

 

表にまとめると以下の通りである。

項目 知覚(幻覚) 偽幻覚 表象(ファンタジー)

体験

具体的、固定的、客観的、実体的

絵画的、主観的

出現 外界 精神内界
外延 確定的、完全、詳細 非確定的、不完全、部分的詳細
明瞭性 明瞭、完全、新鮮 多くの要素が不明瞭で中性
持続性 保持される 消失する
意思との関連 意思によって左右されない 意思によって創造できる
洞察 知覚であると認識 思考の要素を認める
行動との関連 感情・要求・行動と関連性あり 感情・要求・行動と関連性なし
感覚様式 他の感覚様式で体験しうる 他の感覚様式で体験できない
対象の存在

対象は存在する

個人から独立

対象は存在しない

個人の存在に依拠

心理状態との関連 独立

依存

「自分の心理状態に由来している」

北村俊則 『精神・心理症状学ハンドブック 第3版』より引用

 

ICと偽幻覚

大饗ら(2007)によれば、ICは精神病理学的にはJaspersの言う偽幻覚に相当する現象である。

Jaspers(1971)は偽幻覚を以下のように述べている。

偽幻覚には実物性がなくて主体の内空間に現れるが、はっきり定まった輪郭があり、細かいところまではっきりし、感覚の要素は知覚の通りに、心の目にうつる。こういうものは一気に、感覚のように細かいところまではっきりと、意識に現れる。こういうものはすぐくずれてしまうことがなく、恒常的に固定され、その中また一気に消えてしまう。最後にこういうものは自分の勝手に生ぜしめられず、変化せしめられず、主体はそれを受動的に受取るだけである。

続けてこのようにも述べている。

しかし普通現れるものは決してこのようにちゃんと出来上ったものではない。普通よく見られるものはいろいろまちまちで、大抵は上にのべた性質のいくつかのものしか示さない。たとえばごく淡い、こまかい所のわからない表象でありながら、意志に反して、意志に無関係に現れる。あるいはごくこまかい所までわかる恒常で変わらないものが意志通りに生ぜしめられる。

 

参考文献・引用文献

  • マルクス・イェーガー 木谷知一訳 『基礎としての精神病理学』 星和書店, 2019.
  • 北村俊則 『精神・心理症状学ハンドブック 第3版』 日本評論社, 2013.
  • 大饗広之・浅野久木 『解離と Imaginary Companion 成人例について』 精神科治療学 22(3), 275-280, 2007.
  • カール・ヤスパース 西丸四方訳 『精神病理学原論』 みすず書房, 1971.

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