解離

ページ名:解離

解離とは

解離とは防衛機制の一つである。カプラン臨床精神医学テキストより定義を引用する。

精神医学上,解離(dissociation)は,ある一連の心理的もしくは行動的過程を,その個人のそれ以外の精神活動から隔離してしまうような無意識的防衛機制と定義される.

受け入れがたい体験や葛藤を切り離すことによって、自我の結合性を保護しようとする適応的な側面もある。

解離が起こるメカニズムについては明らかになっていない。

 

中核的症状

解離には5つの中核的症状がある。

健忘

自分が経験した内容が忘却されてしまうこと。

自分が書いたはずの日記なのに書いた覚えがない、送りそうもないメールを送ったようだが記憶がないなど。

極端な場合は自分がどこの誰だか分からなくなってしまう(全生活史健忘)。

離人

自分自身に対する非現実的な感覚。

「自分がここにいる」実感がなく、どこか離れたところから自分の行動をを見ている感覚がする。

ときに自分自身の姿が見えたり、自分が大きくなったり小さくなったりするような感覚も見られることがある。

疎隔

周囲の世界が非現実的であるという体験。

家庭や職場に馴染みがない感じがしたり、家族や友人が知らない人のように感じられる。

離人と疎隔は同時に起こりやすい。

同一性混乱

自らの同一性についての不確実さ、困惑、葛藤の主観的な感覚。

持続的に見られたり、完全な喪失が起こることもある。

同一性変容

異なった同一性、異なった自我状態の現れである客観的行動。

交代人格の出現、自発的な年齢退行などが見られる。

 

解離症状の分類

解離は大きく分けると「離隔」と「区画化」の2つに分けられる。

離隔とは「日常体験のある部分―身体,自己,外界―が分離するという感覚で特徴づけられる意識変容」のことをいう。

区画化とは「通常ならば参照可能な情報を意識に上らせることができなくなり,そのために随意的な行動を制御できなくなること」とされる。

離隔 区画化
感情の麻痺 転換症状
疎隔症状(現実感喪失) 催眠現象/トランス状態
離人症状 健忘
体外離脱体験 遁走
自己像視 交代人格
  偽幻覚

吉川徹・金田晶子 『広汎性発達障害と解離性障害』より引用・作成

 

正常な解離

解離は健康な人にも起こる。ひどい緊張や不安から免れるためによく使われている。

 

「没入」や「白昼夢」、「体外離脱体験」は正常な解離である。

「没入」は、集中しすぎたり夢中になりすぎて、周囲で何が起こったか把握できない状態である。

「白昼夢」は、とりとめもないことを考えている状態で、注意がどこにも定まっていない状態のことをいう。

「体外離脱体験」は、意識が自分の身体から抜け出てしまい、外から自分の身体を見ているように感じる体験である。金縛り中に起こることが多く、金縛りも体外離脱体験も正常である。

 

また、一過性の非現実感や、離人体験も正常な解離である。

例えば、悪い知らせを聞いたときなど、全てが非現実的に感じられたり、見たり聞いたりしているのは自分ではないように感じたりするのは正常である。

 

病的な解離

病的な解離と正常な解離には連続性がある。

一時しのぎとして使っていた解離という方法が、あまりにも長く続く、もしくは個人ではコントロールできなくなると、病的な解離となる。

病的な解離と正常な解離は明確に分けられるものではない。例えば、正常とされている「没入」もその他の解離と強く相関したり、病的な解離へ進展する可能性がある。

 

解離が正常か病的かは、その議論における解離概念の用いられ方の文脈に依存し、それぞれの解離現象は状況により、適応的にも非適応的にもなるし、正常にも病的にもなる。

長期的に解離の持つ意味が変化する可能性もあれば、解離がその人固有の生物学的特性である可能性もある。正常な解離も病的な解離も、適応的/非適応的の両方の側面がある。

 

グレーゾーンの解離者の存在も指摘されている。

正常な解離から病的な解離まで、様々な解離の機制を駆使して生きづらさに対処している。

安全の希薄さ、葛藤の抱えにくさ、他者への不信といった背景が存在する。

 

ICと解離

ICは基本的には正常な解離の一つである。

大饗ら(2007)は、偽幻覚としてのICは、体験を他者に属するように変化させることで、解離を可能にしていると言う。

この「体験を他者に属するように変化させること」を「他有化」という。

自分の傷付いた経験などをICのものにすることによって、体験を自分から切り離して適応している。

 

しかし、ICの行動がコントロールできなくなり、自分の意志とは無関係に身体活動を行うようになると病的な解離とされる。

 

参考文献・引用文献

  • 金井講治・水田一郎 『解離連続体仮説』 精神科治療学 34(10), 1153-1158, 2019.
  • 井上令一監修 『カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5診断基準の臨床への展開 第3版』 メディカルサイエンスインターナショナル, 2016.

  • 吉川徹・金田晶子 『広汎性発達障害と解離性障害』 児童青年精神医学とその近接領域 52(2), 178-185, 2011.

  • 廣澤愛子 『「解離」に関する臨床心理学的考察 「病的解離」から「正常解離」まで』 福井大学教育実践研究 (35), 217-224, 2010.

  • 岡野憲一郎編・心理療法研究会著 『わかりやすい「解離性障害」入門』 星和書店, 2010.

  • 大饗広之・浅野久木 『解離と Imaginary Companion 成人例について』 精神科治療学 22(3), 275-280, 2007.

  • 柴山雅俊 『解離性障害』 ちくま新書, 2007.

  • 西村良二編・樋口輝彦監修 『解離性障害』 新興医学出版社, 2006.