移行対象

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移行対象とは

移行対象(Transitional Object:TO)とは、Winnicottが定義づけた現象である。その定義は、「乳幼児が肌身離さず持ち歩き,それがないと著しい不安を示す毛布,人形や動物のぬいぐるみ,その他の無生物」である。母親を象徴的に代理し、子どもの情緒的発達過程を促進する。

TOは発達に伴った母性的関わりの漸減や、母親の不在からくるストレスに対処するために所持されるようになる。

 

生後6か月から2年頃に生じ、初期には毛布がその役割を果たし、後期には人形やぬいぐるみがその役割を果たすようになる。TOの多くは数ヶ月で消失する。しかし、何年も持ち続け、青年期になっても持ち続けるケースもある。

日本では30%程と海外に比べて出現率が低い。日本では母親との身体接触が多く、TOという形で母親を象徴化する必要性が少ないという要因があるという。

 

TOを持つ子どもは、持たない子どもに比べて、扱いやすく、自信を持ち、自立的で、養育者への愛着を示すというが、逆の意見も存在する。

子どもがTOに対して愛着を示すことは正常であり、そのような愛着は後の想像遊びの先触れになる可能性がある。

 

TOとIC

TOとICの関連はよく研究されている。

 

子どものICは乳幼児期のTOの延長として生じるのではないかという説もある。

それによると、TOは持つ子どもは、それを置き忘れたり失ったりする経験を繰り返すことによって、あるいは何かを心の中で持続的にイメージすることが可能になるにしたがって、想像や空想が自らの慰めとなり得ることを発見する。その結果、直接目で見たり触れたりできるTOを必要としなくなる。代わりに、一部の子どもは目に見えないICをつくり出し、それが母親やTOが与えていた心地良さや統制感を満たすようになる。

 

参考文献・引用文献

  • 富田昌平 『子どもの空想の友達に関する文献展望』 山口芸術短期大学研究紀要 34, 19-36, 2002.
  • 森定美也子 『乳幼児期から青年期までの移行対象と慰める存在』 心理臨床学研究 16(6), 582-591, 1999.

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