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光冠残蝕_10-11_穴だらけ_戦闘前
工場から撤退する途中、ホルンはマンフレッドに遭遇する。
[マンフレッド] つまり、ヘドリーは仕損じたと?
[サルカズ戦士] はい、将軍。先ほどの戦闘で、彼が確かに重傷を負ったのを目撃しました。
[マンフレッド] その場には、彼の古馴染みの爆弾魔の他に、もう一名サルカズの女性がいたと言ったな?
[サルカズ戦士] はい。ですがその女は……潜行に長け、さらに身のこなしも非常に素早く……
[サルカズ戦士] 気取られかねないため、近付くことができませんでした。
[マンフレッド] 賢明だ。でなければ、生きてここに戻ってはこれなかった。
[マンフレッド] しかし、聴罪師がバベルの刺客の闊歩を許しているとは。これは彼らの失態か、あるいは何かしらの意図が……
[マンフレッド] ……まあよい。
[マンフレッド] ヘドリーは今どこに?
[サルカズ戦士] 残りの傭兵を集め、引き続き逃走した囚人たちを追う準備を進めています。
[マンフレッド] 準備を中止し、戻るよう伝えなさい。彼が手を出さずとも、どのみちあの囚人たちの自由はいつまでも続かない。
[サルカズ戦士] ……将軍?
[マンフレッド] 言っていたな、彼は重傷だと。
[サルカズ戦士] 僭越ながら申し上げます。なぜ将軍はそこまでヘドリーを信用なさるのですか?
[マンフレッド] 君をつけているではないか。
[マンフレッド] 記憶違いでなければ、君から彼が何か過ちを犯したと報告を受けたことを一度もない。
[サルカズ戦士] ですがヘドリーはかつてバベルのために働いていたのですよ!
[サルカズ戦士] 今日の騒ぎはヘドリーの下の傭兵のせいで起きました。衝突した相手は、これまた偶然彼の昔馴染みです。これ以上ヘドリーを重用することは危険すぎると思われませんか?
[マンフレッド] ……君も目の当たりにしたはずだ。一人のヴィクトリア人が、自分以外のヴィクトリア人をどう見ているのか。
[サルカズ戦士] それは……
[マンフレッド] 一人のサルカズにとって、自分以外のサルカズを信用するのはどれだけ難しいと思う?
[マンフレッド] かつて我々は全てを奪い取られた。限られた生存の権利をめぐり、互いに争うよう強いられた。その状況に慣らされたのだ。
[マンフレッド] しかし今、我々は新たな機会を得た。
[マンフレッド] 選びたまえ。スパイの懸念が残るサルカズの監視を続けるか、それとも、私と共にヴィクトリアの汚垢を掃除しに行きたいか。
[サルカズ戦士] ……
[サルカズ戦士] 将軍、我々はあなたについていくことを選びます。
[フェイスト] ハァ……ハァ……振り切ったか?
[アーミヤ] フェイストさん、まだ警戒を緩めることはできませんよ。
[フェイスト] ん、わかってる……ハァ……わかってるさ。
[ロックロック] ……隊長。
[フェイスト] どうした?
[ロックロック] 顔が血だらけだよ。
[フェイスト] 血!? ビル……ビル?
[ビル] うぅ……
[フェイスト] ……なんだ俺の血じゃん。ならそんなに焦ることはないって。
[フェイスト] ビルさあ、もうちょっと大きく息をしてくんねーかな! こんだけしんどい思いして、死人を背負って帰りたかないんだよ!
[ビル] なら俺も言わせてもらうが……レンチを振る時はもう少し軽くやってくれないか。
[ビル] お前……さっきからずっと……俺の頭に当たっている……
[フェイスト] はいよ、今日はあんたの言う通りにするよ。
[フェイスト] もうちょっと頑張れば……すぐに家に着くんだ。そうだよな?
[フェイスト] うぇ、血が目に入ってよく見えねぇ……ロックロック、約束の合流地点まではあとどのくらいだ?
[ロックロック] 三百メートルくらい。
[フェイスト] あそこには第六隊がいんだよな? 早く合流したいぜ、ビル、あんたほんとにどんどん重くなってくな……
[シージ] ……地上部隊からの信号はまだ入らないか? 途絶えてからどれくらいになる?
[インドラ] ドクターが言ってたろ。一つ前の合流地点に着いてから俺たちに連絡するってよ?
[シージ] いや違う、私が言っているのはその合流地点にいるはずの自救軍のことだ。
[シージ] 事前に打ち合わせた通りなら、三十分おきに地上の状況を連絡してくるはずだ。
[インドラ] やっべ、時間計るの忘れてた! どれくらい経った?
[シージ] ……上に状況を確認しに行く必要があるな。
[インドラ] ダメだ!
[シージ] 仮に合流地点がすでにサルカズに発見されていたら、ドクターたちの隊が危険だ。貴様だってモーガンとダグザが心配だと顔に書いてあるぞ。
[インドラ] お……俺はヴィーナのことも心配なんだ!
[インドラ] なんなら俺が見に行きゃいいんだ、お前はここに残ってろ。万一本当に何かあれば、すぐに奥に逃げろよ……
[シージ] インドラ、私はいつまでも貴様らの後ろに隠れてはられない。最初は先生、それから貴様やグラスゴー、そしてドクター――
[シージ] ――私はあまりにも誰かが作ってくれた安全の中に居すぎた。ダグザが言ってたことも間違っていない。いつも影に隠れている奴は、やがて太陽を直視する勇気を失ってしまうのだ。
[インドラ] ダグザはお前を煽ってただけだ! あいつはなんちゃら王とかいうのをぶち殺したくて、さっさと宮殿に連れて行ってほしいんだよ!
[シージ] 貴様だって、できるなら今すぐグラスゴーの仲間を探しに行きたいはずだ。ダグザの気持ちがわからないのか?
[インドラ] 俺は……わかるに決まってんだろ。だけどわかってるからこそ、俺は……
[シージ] ダグザの衝動がいずれ彼女自身を殺してしまわないか心配しているのか。
[インドラ] だって、そうだろ? 今のあいつを見てると、死に急いでるようにしか見えねぇんだよ!
[シージ] ……信じてやるべきだ。
[シージ] ダグザは必ず我々のため……そして、より多くの人のために生きることを選ぶだろう。たとえそれがこの上ない苦痛を意味していたとしても。
[シージ] ダグザは優秀な騎士であり、ヴィクトリアの戦士でもある。彼女は必死に生き延び今もヴィクトリアのために奮戦し続けている人々と同じだ。
[シージ] そして私は……そうした者たちと共に戦う必要がある。これは私の身分が特殊なものだからではなく……我々が、みな「地元民」であるからだ。
[インドラ] ヴィーナ……
[シージ] インドラは、あの指揮官……クロヴィシア女史が自救軍の戦士を見捨て、己の保身のためだけに逃げ出すと思うか。
[インドラ] あんま話してもねぇけど……多分そんなことしねぇだろ。戦士たちはあの人を信じてたしよ。
[シージ] では私が彼女と比べものにならないほどの能無しに見えるか?
[インドラ] ありえねぇ!
[シージ] なら私についてこい。戦友が無事帰ってこられるよう、私たちが道筋をつけるんだ。
[マンドラゴラ] すぐにこのクソみたいな場所から離れられるから。
[マンドラゴラ] 「スパイ」、あんたまだ喋れる?
[ターラーのスパイ] ……ハァ……ハァ……大丈夫だ、マンドラゴラ。
[ターラーのスパイ] 最近「スパイ」って呼ばれるのは……サルカズが新しい罰を思いついた時だったから……それが俺のコードネームだったことを忘れかけてたよ。
[マンドラゴラ] 次があったら、もっとセンスのいい名前にすることね。「雄弁家」とかいいんじゃないかしら。どうせあいつら何一つ残さず綺麗さっぱり死んだわけだし。
[ターラーのスパイ] ハハ……
[マンドラゴラ] 体力を温存しておきなさい。リーダーにはまだあんたが見つけたサルカズの情報が必要なんだから。
[ターラーのスパイ] つまり……ザ・シャードの……
[マンドラゴラ] 待って。言わないでいいわ。
[マンドラゴラ] 聞きたくないわけじゃないけど……リーダーの許可が必要なのよ。うちの戦士は単純で素直なのが多いから、あまり大きな負担をかけないようにしなきゃ。
[ターラーのスパイ] わかった……マンドラゴラ……君は変わらず大した娘だな。
[マンドラゴラ] ……あの「略奪者」みたいなことを言わないで。まったく、あいつらが揃いも揃って死んじゃったせいで、あたしがこんなとこでリーダーの心配をするハメになったのよ。
[マンドラゴラ] でも良かったわ。これであんたが向こうに戻るんだから。あんたがいないと、アルモニがいつまでもリーダーの隣を独り占めしてるわけだし、そんなの……怖いわ……
[ターラーのスパイ] 何が怖いんだ?
[マンドラゴラ] リーダーがあの貴族たちに近付きすぎて……いつかあたしたちが要らなくなるんじゃないかって。
[ターラーのスパイ] リーダーは……
[ダブリン兵士] 上官、他の者の位置を特定しました。所定の地点でサルカズのために工場の出入り口の守備を続けているようです。今すぐ合流しますか?
[マンドラゴラ] ええ。医療兵に準備させなさい。「スパイ」上官はすぐに治療が必要だってね。
[マンドラゴラ] そうだ、それと……トランスポーターを遣って都市外のモーニング伯爵に知らせて。「スパイ」をできるだけ早くリーダーに会わせる必要があるわ。
[ターラーのスパイ] モーニング伯爵? 君が……リーダーのために味方につけたのか?
[マンドラゴラ] チッ……結局、こんな時に当てにできるのが貴族の手助けだけだなんて……笑っちゃうわよね?
[ターラーのスパイ] ゴホゴホッ……君は……随分と成長したな……
[マンドラゴラ] 無駄話が多いわね、あんたらしくないわよ、「スパイ」。残りは、こんな死にかけのボロ雑巾の状態でなくなってからにしなさい。
[ホルン] ……止まって。
[ロッベン] どうしました、ホルンさん? もう出口は見えてますよ。
[ホルン] 周囲を警戒して。
[ロッベン] ……
[ホルン] 三時の方向!
[ロッベン] ホルンさん、サルカズです!
[ホルン] ――
[ホルン] ロッベン、弾薬はまだ足りる?
[ロッベン] ハ……ハハ……すみません、ホルンさん、実はこっそり手榴弾を一つ隠してたんです。
[ロッベン] またダブリンかサルカズの手に落ちた時……絶対この手榴弾を抱えて突っ込んでやるって考えてたんです。
[ホルン] ……でも残念ね、その手榴弾は私たちが作ったものなの。
[ロッベン] だから何ですか……
[ホルン] それと、ごめんなさい。あなたの考えを実現するチャンスを与える気はないの。
[ロッベン] あれ? 私の手榴弾が――
[ホルン] やっぱり、自作だとどうしても威力が足りないわね。
[ロッベン] ですが……ですが……無傷で済むはずはありません!
[ロッベン] あのサルカズ……
[ホルン] あのサルカズが、彼らの言う将軍ね。
[マンフレッド] ……ようやく会えたな。自作の手榴弾はあまり礼儀正しい挨拶とは言えぬが。
[ホルン] ヴィクトリア兵など見飽きているでしょう、サルカズ。それどころかあなたの枕元では、殺されたヴィクトリア兵たちの亡霊が列をなしているはずよ。
[マンフレッド] そう自分を卑下する必要はない、ヴィクトリアの白狼。
[ホルン] ……
[マンフレッド] サルカズと比べても、君は勇敢な戦士だと言える。
[マンフレッド] 二百年前のあの戦争において、カズデルを再び火の海にしたヴィクトリア将校の中に、君の先祖がいたと記憶している。
[ホルン] あなたも数百年生きる化け物か何か?
[マンフレッド] あの戦争を見届ける機会は私にはなかった。
[ホルン] しかし、戦争について話す時のあなたのその口調、人の命をすすって生き長らえる同族たちと同じよ。
[マンフレッド] 「サルカズの血を被った者は、千倍、万倍の血でもって贖わなければならない。」
[マンフレッド] 我々が何ゆえこの地を訪れたと思う、ヴィクトリア人。ロンディニウムの上空で昼となく夜となく同族を殺された恨みをささやき続ける亡霊を恐れているのは、一体誰だ?
[ホルン] いい? 私が職業として兵士になることを選んだのは、目の前の戦いに理由を見出すことに嫌気が差したからよ。
[ホルン] 来なさい、サルカズ。
[ホルン] 私の耳には、あなたと同じくらい多くの死者の言葉が残っている。
[ホルン] それに……私は彼らと約束をしたの。
[ホルン] 仲間が生きてここから脱出するのを見届けるまで――私は絶対に戦い続ける。
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