aklib_story_赤松林_影ひとつ

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赤松林_影ひとつ

合成樹脂騎士シェブチックを無冑盟の襲撃から救出するも、不遜な態度の彼を前に、感染者騎士「遠牙」ユスティナは、自分の過去の境遇と、帰ることのできない故郷を思い出すのだった。


ユスティナ、また干し草の上にいたのね。

いつもあっちを向いてるよね、大騎士領を見てるの?

知ってるよ。大騎士領のことは知ってるって。あそこはすごい騎士たちの参加する大会が開かれる場所、でしょ?

ユスティナが何回も言うから、いつの間にか覚えちゃったよ!

......

ねぇ、ユスティナ……本当にあそこに行くの?

あなたが騎士になりたがってるのは、村のみんな知ってるよ。 畑仕事の合間に訓練を続けてるし、強盗だって追い払えちゃう。 あんな小悪党相手じゃ、もうあなたは満足できないよね。

でもユスティナ、大騎士領はとても遠いよ? もし行っちゃったらあなたは二度と帰ってこないんじゃ――

えっ、ホントに? 騎士になったら帰ってきてくれるの?

……約束だよ。あなたが立派になって帰ってくるのを待ってるね。そうなったらあちこちに宣伝して回るよ、ここは騎士ユスティナの故郷だって!

[無冑盟の刺客] 足跡がない……ここを通った痕跡はありません。

[無冑盟の刺客] 奴らが逃げた方角はこちらではないみたいですね。

[無冑盟チームリーダー] ターゲットを見失ったのは、病院担当のチームだ。あそこから逃げるなら、必ずこの辺りを通るはず。

[無冑盟チームリーダー] 警戒を怠るな、逐一状況を報告せよ。

[無冑盟の刺客] 了解。

[無冑盟の刺客] ……

[無冑盟の刺客] ん?

[無冑盟の刺客] うぐっ!? あぁ……

[???] ......

[ユスティナ] ……行こう。

[ユスティナ] 奴らはここの異常にすぐ気付く。時間がない、私についてきて。

[合成樹脂騎士] お前に指図されるいわれはないぞ、感染者。

[合成樹脂騎士] このクズどもを、あの距離から簡単に片づけられるお前の実力は、ある程度認めざるを得ない。

[合成樹脂騎士] だが勘違いするなよ。だからと言って俺がお前の指示に従うということではない。

[ユスティナ] ……

[ユスティナ] すでにこの一帯は、無冑盟に囲まれている。君一人で逃げ切るのは難しいよ。

[ユスティナ] 奴らは君をずっと追い続ける。

[合成樹脂騎士] だから何だ?

[合成樹脂騎士] ……連中に自らの愚かさを思い知らせてやる。

[ユスティナ] ……無理じゃないかな。

[ユスティナ] 君の傷はまだ塞がっていない。その体で奴らの監視の目から逃れるのは不可能だよ。

[合成樹脂騎士] フンッ……忌々しい無冑盟め。

[合成樹脂騎士] いいか、お前たちに協力するとは言ったが、それは俺たちに共通の敵がいるからだということを忘れるな。俺はあの下劣な人殺しどもに、愚行の代償を払わせてやりたいだけだ!

[ユスティナ] その話は後で。今はまだ完全に窮地から脱したわけじゃない。

[合成樹脂騎士] これ以上、お前たちと話し合うことなどない。

[合成樹脂騎士] 小娘、あのバカげた要求を提示したチャンピオンに感謝しろ。あれがなければ、お前は今ここでその鎧を着て俺と話などしていない。

[ユスティナ] ……

[ユスティナ] 君の言う通りだよ。

[ユスティナ] 私はかつて、血騎士に心から感謝していた。

[合成樹脂騎士] ん?

[ユスティナ] ……

[合成樹脂騎士] どうした、話は終わりか?

[ユスティナ] ……あの試合。

[ユスティナ] 君とマリア・ニアールの試合を見たよ――“プラスティック”シェブチック。

[ユスティナ] 私は君が嫌い。

[ユスティナ] でも競技場での君は、今よりも少しだけマシだった。

[合成樹脂騎士] お前の感情なんぞどうだっていいが、言葉には気を付けるんだな。そもそも、なぜお前は嫌いな俺を病院から連れ出したんだ?

[ユスティナ] ……それが必要なことだとソーナが言ったから。それに――

[合成樹脂騎士] それになんだ。ソーナというのが、お前たちのリーダーの名か? フンッ、そいつも同じく小娘のようだな。

[ユスティナ] ……ソーナは仲間だよ。

[ユスティナ] 今から拠点に戻る。ソーナとほかの仲間が私たちを待ってる。

[合成樹脂騎士] ……俺をお前たちと一緒にするな、感染者騎士。手を組むことに同意はしたが、それは一時的なものにすぎない。

[ユスティナ] いや……そんなつもりは毛頭ない。君と私たちは違う。

[ユスティナ] だけど、“プラスチック”シェブチック、君も自分でわかってるはずだよね。一人では無冑盟に立ち向かうすべなどないって。

[合成樹脂騎士] ……

[合成樹脂騎士] フッ……そうだな、お前の言う通りだ。

[合成樹脂騎士] ……今のカジミエーシュは、どうかしている。感染者が騎士になれたり、無冑盟のような日陰者までもが堂々とのさばっている。

[合成樹脂騎士] まったく悪い冗談だ……

[ユスティナ] ……まずはほかの仲間と合流しよう。

[ユスティナ] 多勢に無勢では何もできない。

十日前

[ユスティナ] 君たちは民間人じゃないよね、一体何者!?

[ユスティナ] 次から次へと……

[怪しい通行人?] ……

[ユスティナ] 人混みに紛れて襲うつもり!?

[ユスティナ] あまり舐めないでよ――

[???] 待って! まだ手を出さないで!

[???] ……あちゃー、来るのがちょっと遅かったかな。まさかこんな大乱闘になっちゃってるなんて。

[???] まったくだ。困ったことになったな。

[???] ぐずぐずしてる暇はない。こうなった以上、連れて行くべきだ。

[???] ええ、そうするしかなさそうね。

[ユスティナ] 君たちは……

[焔尾騎士] こんにちは、遠牙騎士。称号を獲得したお祝いがまだだったわね。おめでとう、とても喜ばしいわ。

[焔尾騎士] あなたのニュース見たわよ。人気急上昇じゃない?

[灰毫騎士] 人気急上昇? 独立騎士団の設立を宣言し、物議を醸したのが? フンッ、要らない連中を引き寄せただけじゃないか。

[怪しい通行人?] 感染者騎士……

[灰毫騎士] 黙れ。

[怪しい通行人?] ひっ……

[焔尾騎士] やめなさいって! はぁ……まぁいいわ、どうせ手を出しちゃったんだし、もう追っ手も掛かってるはずだから、今さら一緒よね。

[ユスティナ] 焔尾、それと灰毫……君たちがなぜここに?

[ユスティナ] ……こいつらが何者か知ってるの?

[焔尾騎士] はっきりくっきりね。でもここで立ち話してる場合じゃないわ。こいつら騒ぎを大きくしたいから、すぐにマスコミがやってくるわ。そうなったらあなたにとってはデメリットしかない。

[焔尾騎士] それに、あなたケガしてるでしょ?

[焔尾騎士] あたしたちを信用してちょうだい。ついてきてくれれば、ゆっくり説明してあげるわ、どう?

[ユスティナ] ……

[灰毫騎士] ソーナ、その言い方は何だか誘拐しようとしているみたいだぞ。

[焔尾騎士] えっ? そんなことないよ?

[灰毫騎士] ある。

[ユスティナ] ……信じるよ。

[焔尾騎士] え? 今なんて?

[ユスティナ] 信じるから、一緒に連れて行って。

[ユスティナ] 君たちと私は――

[ユスティナ] 私たちは同じだ。だから君たちを信じる。

[ユスティナ] ここは……

[焔尾騎士] あら! 早かったわね、ケガの手当はもう済んだの?

[ユスティナ] うん。

[ユスティナ] ここにいる人たちは、みんな感染者なの?

[焔尾騎士] うん。ここに住んでる人はみんなそうよ。ほとんどが不運な事故で感染して、仕事も家も失って行き場がない人たち。

[焔尾騎士] ここには粗末な寝床と食べ物しかないけど……何もないよりはマシでしょ?

[ユスティナ] ……

[灰毫騎士] ソーナ、イヴォナの方で問題が発生した。様子を見てくる。

[灰毫騎士] 無冑盟はまだ行動を起こすはずだ。ほかの奴にも警戒させないと。

[焔尾騎士] わかってるわ。安心して、あたしが見てるから。

[ユスティナ] ……

[灰毫騎士] ……

[灰毫騎士] ……ああ。任せた。

[ユスティナ] ……彼女は……

[焔尾騎士] ん? あぁ、カイちゃんのこと? 彼女はとってもいい子よ。時々融通が利かないこともあるけどね。

[ユスティナ] 君たちと会ってから、彼女は一度も私に話しかけたことがない。

[焔尾騎士] アハハ……多分、人見知りしてるんじゃないかな。

[焔尾騎士] ……

[ユスティナ] ……

[焔尾騎士] (ため息)わかった、話すよ――

[焔尾騎士] カイちゃんはあなたのことを、あたしたちとは違うと思ってるの。目指してるものが違うだろうって。

[焔尾騎士] ほら、あなたは今回のメジャーの大注目選手だし、騎士称号も獲得したばっかり。まさにノリにノってるでしょ?

[焔尾騎士] どう見たって明るい未来が約束されてるもの!

[ユスティナ] ……そんなことはないよ。

[ユスティナ] 感染者には……感染者騎士には、明るい未来なんてない。

[焔尾騎士] あら、試合に勝ったばかりの人が言うセリフだとは思えないわね。

[ユスティナ] 初めは騎士になりさえすれば、まだ希望はあると思ってた。試合に勝てば、もしかしたら……

[焔尾騎士] もしかしたら尊敬が得られて、本当に騎士として認められ、元の生活を取り戻せるって?

[ユスティナ] ……そう思ってた。

[ユスティナ] でも、それは不可能なんだ。感染者騎士は結局、騎士よりも先に感染者だった。世間の見る目は何一つ変わらない。

[焔尾騎士] ……そうね。あたしもカイちゃんに同じことを言ったわ。

[焔尾騎士] それに――同じ騎士として扱われたとして、今の騎士ってどうなのかしら。人混みに紛れて襲ってきた連中を見たでしょ? 奴らは感染者騎士だろうと貴族騎士だろうとお構いなしよ。

[ユスティナ] あいつらって、無冑盟?

[ユスティナ] 騎士殺し……嫌な名前だよね。

[焔尾騎士] そ。無冑盟よ。

[焔尾騎士] 商業連合会に魂を売って、刃向かう騎士たちを陰で始末する……対騎士のスペシャリストを自称して、それを誇りに感じているのよ。

[焔尾騎士] 観客の歓声や投げ銭の前で、今の「真っ当な騎士」にどれほどの尊厳が残ってるかしら? ましてやあたしたち感染者騎士なんて……

[ユスティナ] ……

[ユスティナ] 今回、私を襲ったのも、商業連合会の指示なの?

[焔尾騎士] おそらくね。あなたは目立ち過ぎてるし、勧誘してきた騎士団に入る素振りもないでしょ。その上、あんな宣言までやらかしちゃって……ああいった奴らは遅かれ早かれやってきたでしょうね。

[焔尾騎士] 連中は、あなたを金づるにできないなら、ビジネスの邪魔にならないよう、「不名誉」な退場をさせるつもりなのよ。

[ユスティナ] ……

[焔尾騎士] どう? こんな理由で襲われるなんて、バカげてると思わない?

[ユスティナ] ……三週間を、二回経験した。

[焔尾騎士] え?

[ユスティナ] 大騎士領へと来る途中で、私は感染してしまった。

[ユスティナ] 感染者だという理由で騎士競技の登録を拒否され、泊まれるホテルもなかったから、この周辺を三週間さまよった。

[焔尾騎士] そう……

[ユスティナ] 三週間目、そのシーズンのメジャーで血騎士が優勝を果たした。

[ユスティナ] それから三週間後、感染者騎士向けの登録窓口が設立され、正式に開放された。

[ユスティナ] でもその時、私はほとんどお金を持っていなかった。だから闇市の試合に出て、どうにか登録に必要な手数料を稼いだ。

[焔尾騎士] それはとても……大変だったでしょうね。

[ユスティナ] 感染者騎士の地下競技場は、そういうモグリで行われてる違法試合と大差ない。

[ユスティナ] 地下競技場からメジャーまで、私は不条理な場面をたくさん目にしてきた。だから今更こんなことで驚きはしない。

[焔尾騎士] アハハッ、そうね……たしかに地下競技場には無冑盟よりデタラメなことがいっぱいだもの。

[焔尾騎士] 多かれ少なかれ、そういう経験をしてきたからこそ、あたしたちは今こうやってここに集まってる。

[ユスティナ] ……それにここには、普通の感染者も大勢いる。

[焔尾騎士] うーん……どう言えばいいかしら。やっぱり、騎士競技はそれなりに稼げるのよね。少なくともこうした行き場のない人を引き取るには充分よ。

[焔尾騎士] だったら、こういうお金にも少しは価値があると思わない?

[ユスティナ] ……うん。

[焔尾騎士] えへへっ、よかった。

[ユスティナ] なに?

[焔尾騎士] あなた、思ってたよりもだいぶ付き合いやすい性格だわ……最初の印象だと、すごく冷たい人かと思ったもの。

[ユスティナ] ……

[焔尾騎士] あれ、どうしてまた黙っちゃうの?

[ユスティナ] ……わからない。

[ユスティナ] こういう時にどう言えばいいのか、わからないんだ……

[焔尾騎士] なるほどねぇ。

[焔尾騎士] 大丈夫よ……あなたもカイちゃんと同じく人見知りだってのはよくわかったから。

[焔尾騎士] それとそのしゃべり方――先に結論を少しだけ話すって癖にも慣れてきたわ。たまにちょっとわかりにくい時もあるけど、大した問題じゃないわ。

[ユスティナ] ……とにかく、今回は助けてくれてありがとう。

[焔尾騎士] どういたしまして。あんまり気にしないで。

[焔尾騎士] そうだ、これからどこへ行くつもり? すぐに戻ったりしたらまたあいつらに狙われるわよ?

[焔尾騎士] 今日の事件はすぐニュースになるわよ。ねね、なんて報道されると思う?

[ユスティナ] ……知らない。好きにさせればいいよ。

[ユスティナ] 私は……どこへ行くべきなのかわからない。行ける場所はとっくになくなってしまった。

[焔尾騎士] うーん……

[焔尾騎士] こう言うと何だか、ちょっと恩着せがましくてイヤなんだけど……でもこれは思いつきじゃなくて、ずっと前から考えてたことなの!

[焔尾騎士] あたしとカイちゃん、それにイヴォナ――あなたも会ったことがあるでしょ? あの声のでっかい子よ。

[ユスティナ] ……うん、覚えてる。

[焔尾騎士] 実は……あなたが前に宣言した独立騎士団の設立についてだけど、あたしたちも同じこと考えてたのよ。

[焔尾騎士] レッドパイン騎士団。名前はあたしが考えたの、あたしたちの騎士団よ。

[ユスティナ] ――!

[焔尾騎士] ユスティナ、もしどこにも行くあてがないのなら、あたしたちと一緒に来ない? レッドパイン騎士団に。

[ユスティナ] 私を……誘ってるの?

[ユスティナ] ……ホントに?

[焔尾騎士] えっと、そう聞こえなかった?

[ユスティナ] ……

[ユスティナ] レッドパイン……騎士団。

[ユスティナ] わかった。私も君たちに加わるよ。

[ユスティナ] ――君たちと……一緒に。

ユスティナ、もう出発するの?

もう一回草笛を吹いてよ、何でもいいから。みんなあなたの草笛が好きなんだよ。

......

きれいな音色。

これからはあなたの草笛が聴けなくなるのね。みんなきっとあなたが恋しくなるわ。

心配に決まってるでしょ? あなたが一人であんな遠くへ行くんだもの。寂しがり屋なくせに口下手で、いつも黙ってみんなのそばに座ってるだけのあなたが、よ。

ねぇ、風はあなたの音を運んでくれるかな? 聞こえたらいいな。

あなたはきっと騎士になるわ。立派な騎士になれるって、みんな信じてる。あなたが好きな、あの耀騎士のように。

幸運を祈っているわ、ユスティナ。

たまには顔を見せに帰ってきてね。

[ユスティナ] ここまで来れば大丈夫。この先に迎えがいる、もう安全だよ。

[ユスティナ] 傷の具合はどう?

[合成樹脂騎士] 問題ない、かすり傷にすぎん。だが、まさかお前たち感染者騎士の拠点が、都市の外縁や近村ではなく、都市内部にあるとはな。

[合成樹脂騎士] 感染者が街の中で暮らすことを許す奴はいるはずがない――いったいどんな手を使ったんだ?

[ユスティナ] 別に何も。

[ユスティナ] お金さえあれば、難しいことじゃない。

[合成樹脂騎士] ハッ、金……その通りだ。金さえあれば、この都市でできないことはないか。

[合成樹脂騎士] だが、誰かが情報を漏らせば、お前たちは法律違反で捕まるぞ。

[ユスティナ] その誰かが口を滑らせる前に、私の矢がそいつを片づける。

[ユスティナ] 誰にもレッドパイン騎士団に手は出させない。

[合成樹脂騎士] ならば早く段取りを決めよう。今もあの無冑盟のクズどもが好き勝手していると思うと、一刻たりとも我慢ならん。商業連合会に弓を引くと決めたからには、行動はできるだけ早い方がいい。

[合成樹脂騎士] さっさとそのリーダーに会わせろ。お前みたいに実力のある奴が、自らの意志に背いてまで命令に従う、感染者騎士のリーダーにな。

[ユスティナ] ……

[ユスティナ] ……背いてはいない。

[合成樹脂騎士] ――なに?

[ユスティナ] 合成樹脂騎士の救出という任務は、ソーナの命令なんかじゃない。私が自分から志願したもので、私個人の意志に背いてなんかない。

[合成樹脂騎士] ……どういうことだ? 俺たちは互いに相容れない者同士と思っていたが。

[合成樹脂騎士] それとも、お前が志願したのは騎士団の利益を尊重してのことか?

[ユスティナ] 違う。

[ユスティナ] ただ……君には家族がいる。

[合成樹脂騎士] どういう意味だ……まさか!?

[合成樹脂騎士] あの虫けらども、子供にまで手を出す気か!?

[ユスティナ] 心配はいらないよ。ソーナが護衛をつけてるから。無冑盟の殺し屋はすでに撤退してる。奴らは君の息子に何もしていない。

[合成樹脂騎士] ……

[合成樹脂騎士] その件については感謝しよう。

[ユスティナ] お礼はソーナに言って。全部彼女が段取りしたことだから。

[ユスティナ] 私が君のことを認めているかどうかと、君に不幸が起きてほしいかどうかは、別の話だよ。

[ユスティナ] ただ、君の息子を見て……

[ユスティナ] 君がいないと、あの子には帰る家がなくなるって思った。

[ユスティナ] 騎士ユスティナには故郷があり、そこには今も彼女の帰還に期待を寄せる家族や友人がいる。

[ユスティナ] でもそれは――感染者ユスティナにはない。

[ユスティナ] ……感染者には行き場などない。

[ユスティナ] いいえ、感染者に限らず、ここでは多くの人に帰る場所がない。

[ユスティナ] 私も、もう帰れない。

[ユスティナ] もし風が本当に私の音を運んでくれるのなら……

[ユスティナ] ……

[ユスティナ] 口を閉ざし、草笛の旋律以外は、何も伝えないで。

[ユスティナ] ユスティナを、みんなの記憶の中の、単純で平凡な……騎士を夢見る女の子のままでいさせて。

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