aklib_story_空想の花庭_HE-2_生命の運河_戦闘後

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空想の花庭_HE-2_生命の運河_戦闘後

ジェラルドは旧友に別れを告げた。説教の開始を知らせる鐘の音が鳴らされる中、不吉な銃声が響いた。


[クレマン] ……

[クレマン] ジェラルド、鐘を鳴らすのについてきてくれるのですか?

[ジェラルド] おかしいか?

[クレマン] まあ、そうですね。以前あなたに鐘を鳴らすよう頼んだ時などは、ずいぶん不服そうな様子で、結局ライムントを呼んで彼に行かせていましたし。

[ジェラルド] そういえば、そんなこともあったかな。

[クレマン] 確かあなたは、鐘の音が嫌いだったはずです。

[ジェラルド] 好きも嫌いもない。ここにもう何年も住んでるんだ。

[クレマン] これだけ経っているのに、まだ慣れていないんですね。

[ジェラルド] 悪かったな。鐘の音にはあまりいい思い出がないもんでね。

[ジェラルド] ……クレマン、エイリーンのことをまだ覚えているか?

[クレマン] エイリーン……

[クレマン] 忘れられるはずがないでしょう。あの時あなたとエイリーンの助けがなかったら、私はとっくに盗賊たちの手にかかり、谷底へ投げ捨てられていたのですから。

[ジェラルド] ははっ、あんたを助けたのはあいつさ。俺は元々、首を突っ込まない方がいいと思ってたからな。

[クレマン] それを私の前で言いますか……

[ジェラルド] ふっ、すまんすまん。

[ジェラルド] ……

[ジェラルド] 昨夜、俺たちは外でキャンプを張った。大した収穫はなかったが、食肉処理となると楽にはいかないもんだ。

[ジェラルド] ライムントが獲物の血抜きをしてる間に、俺は火を起こした。パチパチ爆ぜる火を見ていたら、どうしてかエイリーンのことを思い出してな。

[クレマン] ジェラルド……

[ジェラルド] 実は、あいつのことを思い出したのはずいぶんと久しぶりだった。だが思い出してみて気付いたのさ……

[ジェラルド] 俺はもう、あいつの顔をはっきりとは思い出せないことに。

[ジェラルド] あいつは俺たちの間でも変人扱いだった。昔、あいつが俺に話してくれたことがある……修道院に咲き乱れる花々を見て、鳴り響く鐘の音を聞いていると心が落ち着くってな。

[クレマン] ……今はもう、花もだいぶ減ってしまいましたけどね。

[ジェラルド] ああ、惜しいことだ。

[ジェラルド] エイリーンはここの鐘の音をとても気に入っていたんだよ。死ぬ間際になっても、鐘の音が聞こえてくるまで目を閉じようとしなかったくらいだ。

[クレマン] だからあなたは、鐘の音が嫌いなんですね。

[ジェラルド] ……ひょっとしたら、ただ恐れているだけなのかもしれん。あれがまた嫌な知らせを運んでくるんじゃないかってな。

[クレマン] あの時、十分な薬さえあれば、彼女の傷も悪化することはなかったかもしれません。そうすれば、あんな風に……

[ジェラルド] 仮定の話をしても仕方ない。

[クレマン] ……どうか、彼女に救済があらんことを。

[ジェラルド] ああ、願わくばな。

[クレマン] ……

[クレマン] ジェラルド、本当に出て行くのですか?

[ジェラルド] もう決めたことだ。

[クレマン] まさかこんなに急な話になるとは……

[ジェラルド] 前もって言っておこうとは思っていたんだが、伝えそびれていた。

[クレマン] ライムントやフォルトゥナたちはしばらく引きずるでしょうね。いつも仲良しでしたから、きっと辛いと思います……

[ジェラルド] ライムントはまだ若い。ここに来た時のあいつはまだガキで、昔のことなんて覚えちゃいなかった。サルカズであるということが一体どういうことなのか、まだよく理解できてないんだ。

[ジェラルド] だがいつか分かるはずだ。慣れないといけないことだからな。

[ジェラルド] あるいはそれこそ、サルカズの宿命なのかもしれない。

[クレマン] 宿命とは、あまり良い言葉ではありませんね。

[ジェラルド] ああ、その通りだ。だが他に形容できる言葉も見当たらん。

[ジェラルド] ……さて、そろそろエイリーンに会いに行くか。

[ジェラルド] どうせじきにお互い別の道を行くことになる。ここでお別れだ。

[クレマン] ……待ってください、ジェラルド!

[クレマン] わ、私も一緒に行きます。ほんの少し回り道をするだけですから!

[クレマン] そうだ、見てください。今はちょうど開花期なんですよ。エイリーンに送る花を摘みに行きませんか……!

[クレマン] 私も、あなたたちと共に……

[ジェラルド] ダメだ、クレマン。バカなことを言うのはよせ。

[クレマン] ですが……!

[ジェラルド] あんたは来るべきじゃない。向こうの階段で上に行くんだ。あっちの景色は、きっと美しいだろうよ。

[クレマン] ……あなたたちにも、美しい景色は見えますか?

[ジェラルド] ……

[ジェラルド] 鐘を鳴らしに行け、クレマン。グズグズするな。あんたが進むべき方向はあっちだ。

[ジェラルド] 達者でな、兄弟。

[フォルトゥナ] 一体何言ってるの、フィーナ。レミュアンさんは関係ないってば!

[デルフィナ] ウソつき! あのラテラーノ人以外に、その守護銃を直せる人なんてここにはいないでしょ!?

[フォルトゥナ] どうしてそう思うの!?

[フォルトゥナ] 私がウソなんかついてないことくらい、分かるでしょ? 私が今何を感じてるか、それすら分からなくなっちゃったって言うの?

[デルフィナ] 分かったら、どんなに良かったかって思うよ。でもねフォル、あたしはもうよく分かんなくなっちゃったのよ!

[デルフィナ] あんたがウソなんてついてないって、あたしと同じように苦しんでいるんだって、光輪からはそう伝わってくる!

[デルフィナ] でもそれが本当なら、なんでこんな時にピッツェルを作れるの? どうして何も気にせずに、ラテラーノ人たちと仲良くしたりできるの?

[デルフィナ] フォル、あたしには分かんない……

[フォルトゥナ] フィーナ……

[フォルトゥナ] それは……みんなが幸せに暮らせればいいって思ってるからだよ。

[デルフィナ] どういう意味?

[フォルトゥナ] 私たちは、他に生きる道なんてなかったよね? ステファノおじいさんも、他のみんなも、何も話してくれなかったけど、心の中でははっきり分かってた。

[フォルトゥナ] ラテラーノは、私たちが帰ることをきっと許してくれる。前に大人たちの話をこっそり聞いたの……この修道院はすごい建物だから、きっとラテラーノも私たちに帰ってきてほしいだろうって。

[フォルトゥナ] それとジェラルドおじさんたちが、もしかしたら……私たちと一緒には来れないかもしれないってことも、ほんとは知ってたの。

[フォルトゥナ] だけど、私は諦めたくない! ラテラーノの人たちに、ジェラルドおじさんたちはすごく良い人なんだってことを、ちゃんと分かってもらえれば、もしかしたら──

[デルフィナ] もしかたら、何? あいつらの同意が得られれば、みんなで一緒にラテラーノで暮らせるって?

[デルフィナ] ようやく分かった気がするわ……あんたがレミュアンと話したがる理由はそれね? あんたはみんなに代わって、あいつらを説得してるつもりなんでしょ?

[デルフィナ] あいつに頭を下げたの? ライムントたちを置いてけぼりにしないためには、こっちが頭を下げなきゃって思ったんでしょ?

[フォルトゥナ] フィーナ……

[デルフィナ] で、あんたの目論見は、成功したの?

[フォルトゥナ] それは……まだ頑張ってるところで……

[デルフィナ] 失敗するわよ。

[デルフィナ] フォル、それはあんたの一方的な希望でしかないの。

[デルフィナ] あたしたちとライムントの違いって何? カロリンとあたしたちは一体何が違うって言うの?

[フォルトゥナ] ……ライムントは私よりもたくさんの仕事ができるし、カロリンさんは私よりも賢い。

[デルフィナ] ほら、自分でも分かってるんでしょ?

[デルフィナ] あいつらは、みんなを差別してるのよ。あたしたちのことを仲間と認めてはいる。でも、あたしたちにとって本当の仲間である、みんなのことを見下してるの。

[デルフィナ] あたしはそんな扱い許せない。だったらラテラーノになんて行きたくない。

[フォルトゥナ] ……

[フォルトゥナ] でも……フィーナ、私たち前に約束したよね? いつかきっとこの荒野を出て、ラテラーノへ行こうって。

[フォルトゥナ] 代わり映えのしない荒野での暮らしから抜け出そうって言ったじゃない。飢えや寒さなんかなく、どこへ行っても綺麗なお花が見られるような、そんな生活をしようねって……

[デルフィナ] ……フォル、そんなの全部子供の頃の夢よ。

[フォルトゥナ] あれが、ただの夢だって言うの?

[デルフィナ] あたしは、あんたみたいに楽観的じゃない。事実として、ラテラーノ人たちが来てから、修道院の空気がますますおかしくなってきてるのよ。

[デルフィナ] ほんと、あたしたちの暮らしはひどいものだわ。けどこんな暮らしでも、嫌になったことなんて一度もなかった!

[デルフィナ] ステファノおじいさんが毎週聞かせてくれる説教も、ジェラルドおじさんが語ってくれる昔話も、あたしは大好きだった。

[デルフィナ] お腹が空いた時、たまにカロリンがこっそり干し肉を多めに分けてくれたり、ニーナおばさんがライムントに野菜粥をひとすくい多くくれて……それをあたしたちで分けっこして食べたり……

[デルフィナ] 今の暮らしでいいの……

[フォルトゥナ] フィーナ……

[デルフィナ] なのに……

[デルフィナ] みんなラテラーノのことをいいって言うけど、あたしには、あいつらがあたしたちの暮らしを壊してるようにしか見えないの!

[フォルトゥナ] けどフィーナ、それをレミュアンさんのせいにするのは良くないと思うよ。それじゃただの八つ当たりじゃない!

[デルフィナ] 八つ当たり? 確かにそうかもね。

[デルフィナ] けどねフォル、あんたはみんなが陰で何を話してるか知ってる? 近頃になってジェラルドおじさんたちが来る頻度がますます減ってきてるって、あんたは気づいてる?

[デルフィナ] あんたがあのレミュアンって人に食べ物を運んでる時、ピッツェルなんてふざけたものを作るのにかまけてる時、カロリンたちが……みんなが一体何を食べてたのか、あんたは知ってるの?

[デルフィナ] あんたは何も分かっちゃいないのよ。

[フォルトゥナ] え……? 待ってよフィーナ、何の話?

[フォルトゥナ] カロリンさんたちがどうかしたの? 私、知らないよ……

[デルフィナ] ええ、あんたは何一つ知らないでしょうね。

[デルフィナ] あんたのせいじゃないわ。悪いのはあたし。もしもこの目で見てなければ、ここまでひどい状況になってるなんて思いもしなかった。

[デルフィナ] フォル、この頭上の光輪から、少しでも今のあたしの感情が伝わるなら──

[デルフィナ] その守護銃をあたしに渡しなさい。

[フォルトゥナ] フィーナ? 何をするつもりなの?

[デルフィナ] それを渡して。

[デルフィナ] そんなものに祈りを捧げる必要なんてないわ。

[デルフィナ] 早く渡しなさい!

[フォルトゥナ] ダメだよ、今のフィーナ、絶対おかしいもん……こんな危ないものなんか渡せないよ!

[デルフィナ] どうして? これからは一緒にそれを使おうって、さっきは言ってくれてたよね?

[フォルトゥナ] た、確かに言ったけど、それとこれとは話が別!

[フォルトゥナ] さっきフィーナは私のことが分かんないって言ってたけど、それは私のセリフだよ……一体どうしちゃったの? お願いだから正気に戻って、フィーナ!

[デルフィナ] あたしは正気よ!

[デルフィナ] これほど頭が冴えてたことなんてないくらい。何が祈りよ、サンクタ特有の繋がりよ。もうたくさん!

[デルフィナ] そんな特別なものなんていらない! あたしはただ──

[フォルトゥナ] ダメッ……!

[フォルトゥナ] フィーナ、やめて──!

[デルフィナ] うっ──!!

[フォルトゥナ] ……え?

[フォルトゥナ] フィーナ……?

[デルフィナ] ……うっ……あ、ああ……

[デルフィナ] あたしはただ……みんなで、ずっと一緒に……

[フォルトゥナ] フィーナ? やめてよ、ウソでしょ……

[フォルトゥナ] フィーナ!!

[スプリア] ふぅ、やっと見つけた。

[スプリア] どう? うまくいってる?

[フェデリコ] スプリア、単独行動を取る際は事前に知らせてください。

[スプリア] 固いこと言わないの。私だって、さっさと任務を終わらせるために頑張ってるんだからね。

[スプリア] そうそう、いいニュースがあるよ。修道院内でレミュアン先輩を見つけたんだ。

[スプリア] それから悪いニュース──あの人、私たちと合流するつもりはないみたい。

[フェデリコ] ……

[スプリア] あの人なりの考えがあるらしくて、私じゃ説得できなかったんだよね……

[スプリア] ちょっと、そんなしかめっ面しないでよ。文句があるんなら自分で連れ戻しに行けば?

[フェデリコ] 分かりました。

[スプリア] え? 分かったって……待ってよ、冗談でしょ?

[フェデリコ] 冗談ではありません。

[スプリア] ……

[リケーレ] スプリア、お前に一つ、公証人役場内部の豆知識を教えてやろう。

[スプリア] ……何?

[リケーレ] フェデリコは絶対に冗談を言わないんだ。そんな機能はついてないのさ。

[スプリア] ……

[フェデリコ] 私自ら彼女と会い、何を考えているのか確かめに行ってきます。

[スプリア] ……なんでよ? まさか私が嘘をついてるとでも?

[フェデリコ] あなたが本当のことを言っているという保証はありません。

[スプリア] フェデリコ。

[スプリア] あなたが教皇庁で、大勢の女性からブラックリストに入れられてる理由がやっと分かったわ。

[フェデリコ] ?

[スプリア] まあいいや。それより、あなたたちの方はどうなったの? ……もうここの人たちとは話した?

[修道院住民] リケーレさん……?

[修道院住民] その方は、お連れ様ですか?

[リケーレ] そうですよ。二人とも同僚です。

[年老いた修道院住民] ……お若いサンクタさんや、何か訊きたいことでもあるのかい?

[年老いた修道院住民] ここには何もありゃせんよ。全部なくなってしまったからのう……話せることなんぞ何もない。あんたたちもこんなところへ来るべきじゃなかった……

[修道院住民] ニーナおばさん! 何を言うんですか。ラテラーノに連絡をしたのは我々の方なのに……あなたもあの時は反対しなかったでしょう?

[ニーナ] はて……反対しなかったかね? ステファノにしっかりと言っておくべきだったねぇ。ラテラーノを当てにするのはよしなってね。

[ニーナ] ああ、そうさ、そうだとも。ジュリアン、この人たちを追い払っておくれ! ラテラーノ人なぞここに入れちゃいかん。ラテラーノ人の助けなんていらないんだよ。早いとこ、どっかへ消えとくれ!

[リケーレ] えーっと……

[ジュリアン] ニーナおばさん! 落ち着いてください!

[ジュリアン] 一体どうしちゃったんですか? さっきはお客さんをもてなそうって言ってたじゃありませんか!

[ニーナ] わ……私は……

[リケーレ] どうやら俺たちはお邪魔みたいだけど……何か手伝えることはあるかな?

[ジュリアン] す、すみません! ニーナおばさんは少々興奮しているようで……ああ、お気遣いはありがたいのですが結構です。ひとまずおばさんを休ませてきます。何かあれば後で話しましょう!

[リケーレ] あ、ああ! お大事に!

[リケーレ] うーむ……

[リケーレ] 何か妙だな。

[スプリア] どうやらあなたたちの方は、あんまりうまくいってないみたいね。

[スプリア] あの人、どうしちゃったんだろ?

[リケーレ] ついさっきまで問題なかったんだがな。どうなってんだ、ったく……

[リケーレ] フェデリコ、ここの住民たちに話を聞きたいって言い出したのはお前だろ。何か分かったか?

[フェデリコ] あの女性はかなり情緒不安定です。会話中に考えを改める例は特に珍しくありませんが、自分が以前話したことを完全に忘れ、さらに態度が豹変するというのは、あまり見かける状況ではありません。

[リケーレ] つまり?

[フェデリコ] ……これについては心当たりがあります。

[フェデリコ] ですが、これはまだ私個人の憶測に過ぎませんので、その可能性が論ずるに値するレベルに至るまで、言及は控えます。

[スプリア] じゃ、とりあえず黙っててくれる?

[スプリア] それで、ここの住民たちが錯乱状態に陥ってるってこと以外にも、当然何か収穫はあるんだよね?

[スプリア] さあ男性諸君、そろそろ情報交換といきましょうか。

[スプリア] つまり……その司教は、ここに住むサルカズたちのために、私たちの仕事をこーんなに増やしたの?

[スプリア] ラテラーノへの帰還を受け入れるってのは伝えたんだよね? サルカズを連れて行けないから、ここに全員で残って飢えと寒さに耐えろって? しかもラテラーノからの特使まで閉じ込めて。

[フェデリコ] ええ。

[スプリア] ……本気なの? 反逆のアンドアインがどっか行ったと思ったら、今度は博愛主義の司教様のお出ましってわけ?

[フェデリコ] はい。

[スプリア] (口笛)最高ね。

[スプリア] 私も別にご先祖の恨みなんてあまり興味ないけどさ、その司教様はさすがにボケちゃってるんじゃない?

[スプリア] そういうことならレミュアンが要求を呑めなかったのも納得ね……ただでさえロンディニウムでサルカズがやらかしたばっかりで、一部の大公爵がカンカンに怒ってるっていうのに。

[スプリア] こんな時期に、サルカズと関わりがあるかもなんて情報が万一外部に漏れでもしたら、教皇聖下の万国連合計画もおじゃんだもの。

[リケーレ] そう言われると、かなり深刻そうな話に聞こえるな。

[リケーレ] フェデリコ。レミュアンとオレンの任務は、この場所に対する援助の提供と、修道院をラテラーノに返還させることで間違いないか?

[フェデリコ] はい。

[スプリア] もっともな判断よね。この建物は要塞としても使えるし、成り立ちも特殊で、まだまだ役立つ部分はたくさんあるもの。

[スプリア] イベリアとの関係を修復したがっている今の時期なら特にね。

[リケーレ] 少なくとも今のところは、実力行使をする必要はないかな。

[リケーレ] そうだ、フェデリコ。お前、さっきのサルカズを知ってたのか?

[フェデリコ] ええ。

[リケーレ] 彼は何者なんだ?

[フェデリコ] 傭兵です。

[スプリア] あなたたちの会話、「今晩何食べるの?」「ご飯です。」ってくらいつまんないよね。

[スプリア] フェデリコ、あなたに一文字でも多く喋らせるには、いくら払えばいいのかな? 払うから言ってみてよ、帰って教皇聖下に精算してもらうし。

[フェデリコ] それについては考えたことがありません。

[リケーレ] フェデリコをからかうのはその辺にしとけ。そういや、レミュアンが無事なら……オレンの方はどうなんだ?

[スプリア] あいつはさっさと逃げ出しちゃったみたいよ。どこへ行ったのかはレミュアンも知らないんだってさ。

[スプリア] オレンは自分の身を守ることに関しては誰よりも長けてるからね。今頃どこかで何か企んでるんじゃないかしら。

[リケーレ] ふぅん? そうか……

[スプリア] あら?

[スプリア] ……鐘の音? どこからだろ?

[フェデリコ] これは説教の開始を告げる鐘でしょう。

[リケーレ] 俺たちはどうする? 参加するか? 説教の最中は人が集まってるだろうし、その隙にオレンを捜しに行くべきだと思うが……

[フェデリコ] いえ、説教に参加します。

[スプリア] わお、意外。

[フェデリコ] 修道院全体の状況を把握する必要があります。それにより、ここのシステムは現在も安定した運用がなされているかどうか、及び外部の介入が必要かどうかを判断することが可能です。

[フェデリコ] 多くの住民が集まる説教の場であれば、観察には絶好の機会となるでしょう。

[リケーレ] あー……

[リケーレ] 言われてみるとそうだな。お前のことだから、明確な問題への対処を優先すると思ってたぜ。オレンの件みたいな……なあ、もしかして何か心配してることでもあるのか、フェデリコ?

[フェデリコ] ……いいえ。

[フェデリコ] 私はただ、自分が最も合理的だと考えるやり方で責務を果たすだけです。

[修道院住民] ん? これは、鐘の音?

[修道院住民] 変だな……まだ司教様の説教の日じゃないはずなんだが、どうしてこんな時に鐘が……

[修道院住民] おお、クレマン! いいところに来た。こりゃ一体何事なんだ?

[クレマン] この鐘は司教の言いつけで鳴らしたものです。司教は本日、臨時で説教を行うと決定なさいました。

[クレマン] 皆さん、礼拝堂にお急ぎください。

[修道院住民] そりゃ……もちろん行きたいのは山々だが、今抱えてる仕事がまだ終わってなくてな……

[修道院住民] しかし、どうして突然説教を? ひょっとして、あのラテラーノ人たちに関係が? あいつらは……俺たちの邪魔をしに来たのか?

[クレマン] なぜ、そんなことを訊くのですか……?

[修道院住民] 別に……いいから答えてくれよ。あいつら、ジェラルドたちがいるせいで、俺たちのラテラーノ行きに反対してるんだろ?

[クレマン] ……誰がそんなことを?

[修道院住民] ただの憶測だけど、皆そう思ってるよ。サルカズとサンクタは仲が悪いだろ? でなきゃ今頃、俺たちとっくにラテラーノにいるはずじゃないのかって……

[クレマン] ……

[修道院住民] はぁ、ここでこんな話しても仕方ないか。ただ司教様が何を考えておられるのかが、よく分からなくてな……

[修道院住民] クレマン、今の話は聞かなかったことにしてくれ。皆も誰かのせいにしたいわけじゃないし、もともと誰のせいでもないからな。ただ……最近どんどん冷え込んできてる。この冬は辛いだろうな。

[クレマン] ええ、気持ちは分かります……

[修道院住民] もし本当にラテラーノに行けたら、あそこなら、ラテラーノなら仕事だってあるし、食い物にも服にも困らないんだろ?

[修道院住民] ラテラーノの近くに林でもありゃあ、結構なことじゃないか。せめて薪を拾って火を起こすことさえできれば、冬の間子供たちに寒い思いをさせなくて済む。

[クレマン] ええ、その通りです。少なくとも子供たちが暖かく過ごせれば……

[クレマン] ですが、我々がラテラーノへ行って、本当にそんな良い暮らしができるのでしょうか……?

[修道院住民] きっとできるだろう。そうじゃなきゃ、俺たちは他にどこへ行きゃいいんだ?

[修道院住民] クレマン、お前もあまり心配しすぎるな……俺たちには神のご加護があるんだから。

[クレマン] ……

[修道院住民] 何だ……? 今度は一体何の音だ?

[クレマン] (この音は……)

[クレマン] (銃声?)

[修道院司教] ……

[修道院司教] クレマンが鐘を鳴らしたか……

[修道院司教] 次にすべきは……最後の……

[修道院司教] 誰だ?

[修道院司教] フォルトゥナ、お前か?

[修道院司教] お前はいつも時間に几帳面だな……他の者はまだ誰も来ていない。ひとまず座りなさい。

[修道院司教] 私はまだ準備があるんだ……

[修道院司教] フォルトゥナ!?

[修道院司教] それは……

[フォルトゥナ] ……ステファノ……おじいさん……

[フォルトゥナ] 助けて……

血に染まった少女が、愕然とする老人に向かって一歩一歩近づいていく。

かすかな明かりがようやく少女の顔を照らすと、点々と付いた血の跡と、丸い額から突き出た黒い角が露になった。

少女の目の前には、銃を抱えた聖徒像が、光を浴びて立っている。しかし少女の背後には、拭い去ることのできない血の跡が、一筋の道となって残っていた。

礼拝堂の床に滴り落ちたサンクタの血が、陰気な音を立て破裂し、聞いた者の鼓膜を震わせて、夢の中から引き上げた。

祈りのための守護銃が、少女の固く握り締められた手の中からついに滑り落ちた。

[フォルトゥナ] フィーナ……フィーナが……

[フォルトゥナ] ……うう……

[修道院司教] 良い子だから泣かないでおくれ。デルフィナがどうかしたのかね?

[フォルトゥナ] ケガしちゃったの……!

[フォルトゥナ] わ、私のせいで……ステファノおじいさん、フィーナを助けて!

[クレマン] 司教! ご無事ですか? 一体何が──

[クレマン] ……フォルトゥナ? どうかしましたか……それは……血……?

[クレマン] あなたは……

[リケーレ] 何があった──!?

[リケーレ] うっ、これは……

[スプリア] ちょっと、どうなってんの……

[スプリア] ……ただ事じゃないみたいね。

[クレマン] あなたたちでしたか……これは一体何事ですか!?

[クレマン] な、なぜフォルトゥナの額から、そのような黒い角が?

[スプリア] ……

皆が見守る中、執行人が礼拝堂に足を踏み入れた。

堕ちた天使はずっと悲しみの涙を流し続けていたが、ステファノは顔を上げ、来訪者に目を向けざるを得なかった。

[フェデリコ] 光輪反応に乱れが生じ、前頭部からは角が露出している……これは極めて明確な堕天の特徴です。

[フェデリコ] 彼女は、戒律に違反したのです。

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