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孤星_CW-ST-2_迫る荒波
サリアは狙撃を受け、ドクターは危険に晒される。そして、軍と副大統領はいったんの和解に達していた。事態が収まらないうちに、意外な人物が姿を現す。
[イフリータ] サイレンス、よかった! この街に来てからずっと、いつになったら会えるんだろうと思ってたんだよ……
[サイレンス] ……
[イフリータ] えっと……さ、サイレンス?
[サイレンス] ……イフリータ、こっちに来て。
[イフリータ] 大丈夫だって! まだまだ悪い奴らをぶっ倒せるし、片手でサイレンスを抱えて走り回ったりもできるぜ! 信じないっていうならもう片方の手でサリアも抱えて走ってやるからさ! はは、は……
[サイレンス] しゃべらないで。医療ドローンの測定値に影響するから。
[イフリータ] う……わかったよ。
彼女の身体を見下ろして検査をするサイレンスは、いつもと同じ几帳面で優しい表情に見えたが、イフリータは緊張していた。
彼女は、サイレンスに怒られるのを恐れはしない。
サイレンスが自分のことを叱るのは、気にかけてくれているからこそだというのは、彼女が成長するにあたって一番最初に学んだことだったからだ。
怒ったあとには、必ず自分に害をなすものや怖いものを一緒に片付けて、追い払ってくれる。サイレンスはそういう人だと、イフリータは知っていた。
彼女が見せる怒りは、本当の怒りではないのだ。
だが、そんな彼女が黙っているのがイフリータには恐ろしかった。
サイレンスが怒りを見せず、常よりも静かな時というのは――
何かがサイレンスの中の、越えてはならない一線を越えたということを意味している。
[イフリータ] トリマウンツの空っていつも灰色だし、雨雲も怪獣みたいにでっかいんだな。昔部屋に来てくれる時に、サイレンスの髪がしょっちゅう濡れてた理由がわかったよ……
[イフリータ] ……そういえば、サイレンスは「ホットドッグ」って好きか? ドクターがオレサマとロスモンティスに買ってくれたんだけどさ、次はイチゴ味のシロップかけてみたいんだよな……
[サイレンス] ……
[イフリータ] サイレンス……
[イフリータ] オレサマは、自分で決めてここに来たんだ。ケルシーにしつこく頼んで、途中でドクターにすげー長い誓約書も書いた。
[イフリータ] それに、この何年かで勉強も訓練も一通り終わらせて、サイレンスとサリアみたいにいろんな任務をこなせるようになったんだぜ。
[サイレンス] 血中源石密度が若干上がってる。
[サリア] ……上昇速度と源石融合率の予測はどうだ?
[サイレンス] 今のところは制御可能な範囲。
[サイレンス] そのほかの結果は、イフリータを本艦に帰して詳細な検査をしないとわからない。
[イフリータ] 本艦に帰すって……二人とも、まだオレサマのこと信じてくれないのかよ……
[サイレンス] 違うよ。あなたのことは信じてる。
[サイレンス] でも……
[サリア] ……
[イフリータ] サリアがいるんだから、でもも何もねーだろ!
[サイレンス] ……もう四年以上前、まさにこの街で、今と同じようにライン生命の中で。
[サイレンス] あなたを永遠に失うところだった。あの時も彼女はあなたのそばにいたんだから、それは根拠にはならない。
[イフリータ] でもオレサマは生き延びたし、今もピンピンしてる! サリアはオレサマを守ってくれたし、今度はオレサマも一緒にサイレンスを、みんなを守ることだってできるんだ!
[サリア] サイレンスの言うことを聞け、イフリータ。彼女はお前の主治医であり、誰よりも信頼すべき相手だ。
[イフリータ] サイレンスと同じくらい、サリアのことも信じてるんだよ! それにドクターも、ロスモンティスも、オレサマはみんなを同じくらい信頼してる!
[サリア] ……
[サイレンス] ……サリア。あの日――何かが空から降ってきた日に、十三区の工場であなたを見たの。ロングコートを着た誰かと一緒にいたでしょう。
[サリア] お前もあの場に来ていたんだな。
[サイレンス] あれも、ライン生命関係の秘密の実験なんじゃない?
[サリア] ……
[サイレンス] あなたは答えないのはわかってた。だって……それが私とイフリータを「守る」ことだから。
[サリア] ……つい十分前、イフリータは副大統領暗殺を阻止した。
[サイレンス] ……え?
[サリア] 何も意図的に隠していたわけではなく、私が持つ情報も非常に限られたものなんだ。この件の背後には多くの勢力の影があり、私にも最善を尽くして状況悪化を防ぐことしかできはしない。
[サイレンス] ……
[サイレンス] 「全ては秩序に則るべき」――サリア主任のこの言葉なら何度も聞いてきた。
[サイレンス] ライン生命にいた頃も、あなたは常に事態を制御できる立場にいたのに、ああいう恐ろしい実験はいくつも行われていた。
[サイレンス] 誰かの野心で傷つく人は常に存在するし、その傷はあとから正しい裁きが下されようと決して癒えることはない。言うまでもなく……そんな裁きが下されたこと自体ないけれど。
[サイレンス] 私は……あなたたちがこの火を消し止めた時、一体どれだけの人があの時のイフリータみたいに瓦礫の中で死にかけているのかを考えずにはいられない。
[サリア] ……
[サイレンス] ……あなたは私よりも多くのことを明確に理解して、考えている。
[サイレンス] だけど、みんなのために状況を「制御」することに慣れてしまっていて、なるべく小さな被害で、穏便に済ませるのを最優先にしているんだ。非人道的な行為を根本からなくすことじゃなくてね。
[サリア] ……否定はできんな。
[サイレンス] サリア……私は何年も、あなたに聞きたいと思ってた。
[サイレンス] あなたが本当の意味でライン生命に立ち向かうことができないのは――あなたの芯の部分が、あの人たちと……統括と同類だから?
[サリア] ……
[サリア] 私は……
[サリア] ――狙撃手だ!
[サリア] サイレンス伏せろ! イフ――
[サイレンス] ッ――
[サリア] ――!
[サイレンス] サリ……ア?
真っ白なカルシウム結晶が目の前に飛び散った。
それは攻撃を受けた瞬間に彼女とイフリータを守り、術者が倒れるとともに音もなく崩れた盾の成れ果てだった。
[クルビア兵] ターゲットに命中しました!
[ブレイク] よくやった。
[ブレイク] だが、これほど高出力のエネルギー兵器であれば装甲車に穴を開けることすらできるのに、あのアーツを貫くことはできなかったか。
[ブレイク] *クルビアスラング*、あの忌々しいヴイーヴルとそのアーツは、パワードスーツよりも頑丈らしいな。
[クルビア兵] では……奴はまだ生きている可能性があると仰るのですか?
[ブレイク] ハッ、「可能性」か。研究者どもが何かにつけ使うその言葉にはうんざりだ。
[ブレイク] 私が求めているのは、明確な結果なのだよ。
[クルビア兵] でしたら、副大統領のほうは……
[ブレイク] マイレンダーは我々に二度もチャンスを与えないだろう。
[クルビア兵] 待機中の行動部隊はどうしましょう、すぐに撤退させますか?
[ブレイク] その必要はない。何か仕事を与えてやれ。
[ブレイク] あの一番目障りなヴイーヴル同様、ライン生命内で邪魔だてをしてきた人間は一人も逃すな。
[ブレイク] 今こそ、会社をいくつか立ち上げただけで流れを変えられると思っているあのバカどもの目を覚まさせてやる時だ――
[ブレイク] クルビアの地で、クルビア軍の権威に盾突くことのできる者などいないと思い知らせてやる。
[フェルディナンド] どいてくれ!
[フェルディナンド] ブレイク! 私がライン生命内の人脈を紹介したのは、ライン生命をトラブルに巻き込むためではないんだぞ!
[ブレイク] それで君は、ライン生命のパイプを使って抵抗したわけだ。
[ブレイク] 自分が先に裏切っておいて被害者面とはな、フェルディナンド。
[ブレイク] 今の状況をわかっていないのか?
[ブレイク] 何者かが情報伝達を妨害したことで、爆発が早まったんだ。
[ブレイク] 現在、世論はすでに記者たちによって誘導され、本件はジャクソンの訪問とは無関係だということになりつつある。
[フェルディナンド] なんだって?
[ブレイク] 暗殺は失敗した、と言っているんだよ。
[フェルディナンド] ……
[ブレイク] これで満足か?
[ブレイク] ああ、それと、隠している武器はそのままにしておくことだ。
[ブレイク] 本当に私を傷つけられるなどとは思わんだろう?
[フェルディナンド] ……
[ブレイク] まあ安心しろ、君を責めているわけではない。
ブレイクはフェルディナンドの顔を軽く二度叩いた。
フェルディナンドは、ブレイクの目には殺意が宿っているだろうと予想していたが、その瞬間に見たのは彼の笑みだった。
[ブレイク] 現在の情報から判断すると、たとえ君が妨害してこなくとも、ライン生命ビル内での暗殺は極めて困難だっただろう。
[ブレイク] 加えて、この期に及んで君はまだライン生命のことを考えているわけだが……欲望に忠実であることは悪いことではない。
[ブレイク] 正直に言うと、私は君を評価しているのだよ。
[ブレイク] 君は実に軍人向きだ。
[フェルディナンド] しかし、我々はもう失敗して――
[ブレイク] それが何だ? これは始まりにすぎんのだぞ。
[ブレイク] マイレンダーは事あるごとに我々の頭を押さえつけてきたんだ。私の上官に、とうの昔から奴らに手をかけたがっていた人間がどれだけいるかわかるかね?
[ブレイク] 事態が完全に制御不能になるまでは、こうした失敗はただ私にさらなる援助を与えるだけだ。
[フェルディナンド] では、もし事態が制御不能になったら――
[ブレイク] 私を信じろ。君も私が辿る末路など知りたくはないだろう。
[ブレイク] 無論その時は、君の末路についても保証はできんがな。
[フェルディナンド] ……あなたとの約束はまだ有効だ。私はこれからも全力でクリステン捜索を手伝おう。
[フェルディナンド] 彼女をコントロールできれば、事態はまだ好転する余地がある。
[フェルディナンド] 私たちにとっても、そして……ライン生命にとってもな。
[フェルディナンド] ……ヤラに会ってくる。
[ブレイク] ……いいだろう、好きにしろ。
[ブレイク] 我々が幸運を手にするのが先か、責任を追及されるのが先か……試してみるとしよう。
[警備課職員?] チームAは向こうを捜索しろ。
[警備課職員?] チームBはこの辺りを探すぞ。
[警備課職員?] ターゲットは、フードをかぶった丸腰の人間と殺傷能力の高いアーツを扱うフェリーンの少女だ。
[ロスモンティス] 私の端末が光ってる。
[ロスモンティス] ってことは……イフリータとの約束の時間が来たんだ。でも、彼女の気配は感じ取れない……
[ドクター選択肢1] もうサリアと合流している頃だろう。
[ドクター選択肢2] 我々の計画は成功した。
[ドクター選択肢1] ライン生命はひとまず安全だ。
[ロスモンティス] でもここは……安全じゃないよ。
[ロスモンティス] 同じような白い壁の研究室がたくさんあって、迷路みたい。
[ロスモンティス] イフリータはこういう部屋を一番嫌ってるの。そこで過ごした頃のことを話す時は、息が荒くなって、手の温度もいつもほど熱くなくなっちゃうんだ。
[ロスモンティス] ドクター、私イフリータを探しに行きたい。友達が傷つくのは見たくないから。
[ロスモンティス] この壁はそんなに頑丈じゃないし、ドクターが命令してくれたら、すぐ外に連れて行ってあげるよ。
[ドクター選択肢1] 今はまだその時じゃない……
[ドクター選択肢2] 現在地を特定されるわけにはいかない。
[???] ここの壁を壊さないでくださってありがとうございます。これはカジミエーシュから輸入した材料で作られているので、なかなか高価なんですよ。
[ロスモンティス] ……
[???] そう警戒しないでください、お嬢さん。ご覧の通り、私はポケットにもペンと財布しか入れていないようなビジネスマンです。
[ドクター選択肢1] あなたは……
[ドクター選択肢2] 初めまして。
[ドクター選択肢1] フィッツロイ主任、ここで会えるとは思わなかった。
[ジャスティンJr.] ハハッ、そうですね。次の会議がこの近くで行われるので、偶然通りかかったついでにお客様へご挨拶をしにきました。
[警備課職員?] ……エリアC及びエリアDの捜索完了。
[警備課職員?] 前方に複数の会議室あり。一部屋ずつ確認を開始する。
[ロスモンティス] ……廊下に敵がいるよ。それも、かなりの数。
[ロスモンティス] 命令を出して、ドクター。
[ドクター選択肢1] もう少し待ってくれ。
[ドクター選択肢2] ……
[ドクター選択肢3] まだ客人がいるだろう。
[ジャスティンJr.] 恐ろしい陰謀を阻止した影の英雄が、今度は秘密裏に捕獲される側にまわるとは。
[ジャスティンJr.] こういうことはクルビアではよくある話ですし、脚本のネタにしたところでランクウッドですらろくな値段がつかないでしょうね。
[ジャスティンJr.] これは目論見を阻止された側が罰を用いて威信を示そうと考えてのことか、あるいは依頼を出した側がこの知られざる取引を永久に海へ葬ろうとしているのか――
[ジャスティンJr.] どう思われますか?
[ドクター選択肢1] 推測する必要はないだろう。
[ドクター選択肢2] 彼らは皆、我々を「調査」する理由を持っている。
[ドクター選択肢1] それはあなたもそうだ、フィッツロイ主任。
[ドクター選択肢1] 今現れたのは、ただ挨拶をするためだけではないだろう?
[ジャスティンJr.] おっといけない。思いつきで行動しがちなもので、会議のお相手を待たせているのを忘れるところでした。
[ジャスティンJr.] ほんの少しお時間をいただくくらいでは、そちらのご計画にも影響しませんよね?
[ロスモンティス] ドクター、始まるよ。下がって。
[ドクター選択肢1] ……フィッツロイ主任。
[ジャスティンJr.] 友人からはジャスティンJr.と呼ばれていますので、ぜひそのように。
[ドクター選択肢1] では、ジャスティンJr.さん。
[ドクター選択肢1] 我々といることを軍に知られたらそちらにも益はないだろう。
[ジャスティンJr.] ならばもし、あなたのそばにいる若く可愛らしいフェリーンのお嬢さんが、本来人目に触れるべきでない軍の極秘実験に関係していると彼らに伝えたらどうなるでしょう?
[ロスモンティス] ……
[ドクター選択肢1] それは敵対する者としての脅しか?
[ドクター選択肢2] それは友人としての忠告か?
[ジャスティンJr.] ……選ぶのはあなたですよ。
[ジャスティンJr.] 正しい数を失念したので、教えていただきたいのですが、御社はこれまでに我がライン生命から優秀な職員を、一体何人引き抜いていかれましたか? 八名、あるいは十名でしょうか?
[ジャスティンJr.] ヤラさんはずっと、そちらの人事部の責任者とお知り合いになりたいと考えているようですよ。
[ジャスティンJr.] ロドスとライン生命にこれほど密接な協力関係があるのであれば――次にお会いする際は、あなたにとって断りようのない条件の契約書をご用意することになるかもしれませんね。
[ドクター選択肢1] 楽しみにしている。
[ドクター選択肢2] ……
[ドクター選択肢3] 興味を持っていただいたことに感謝する。
[ジャスティンJr.] それでは、お先に失礼いたしますね。と、そうだ、Dr.{@nickname}。お戻りになられましたら、私の代わりにミュルジスさんに尋ねていただけますか?
[ジャスティンJr.] 彼女はどういうレストランがお好きなのかを、ね。
[警備課職員?] この会議室で最後だな。ターゲットは恐らくこの中だ。
[警備課職員?] 突入準備を。
[警備課職員?] ……誰もいない?
[ジャスティンJr.] 何か聞こえませんでしたか?
[警備課職員?] 音……?
[ジャスティンJr.] 水の音ですよ。いやはや、実に素晴らしい。
[ジャスティンJr.] これぞ……運命に抗うだけの強さを持った力というわけです。
[イフリータ] サリア……サリア!!
[イフリータ] 反応しない……まさか……
[サイレンス] ……頭部に受けた衝撃が大きすぎる。今のところバイタルサインは確認できるけれど、すごく危険な状態だよ。今すぐ治療しないと。
[サイレンス] イフリータ、サリアの腕を持って……う、重すぎる……
[イフリータ] これ以上、サリアを傷つけさせるわけにいかねーんだ!
[イフリータ] オレサマが道を開く! ドクターと合流しよう、サイレンス!
[サイレンス] ……それはダメ。私たちを狙う相手なら、ロドスにも目をつけているはず。
[???] 彼女の言う通りよ。ライン生命にはもう、軍の人間が入り込んでいるわ。あなたたちのお友達も危険にさらされているはず。
[サイレンス] ヤラ主任……!?
[ヤラ] ついてきなさい。
[ヤラ] ライン生命創設者の一人が、こんな所で倒れるのを黙って見ているわけにはいかないもの。
[副大統領秘書] 副大統領、連合議会から折り返しがありました。例の軍事基地の撤廃法案に関して、早期公聴会の準備が整っているとのことです。
[副大統領秘書] それと、こちらに連絡を取ってきた大法官ですが、以前の判決を覆すのに協力するという旨をほのめかしています。
[副大統領秘書] 軍は必ず、自らの無謀さの代償を払うことになるでしょう。楽観的に考えるなら、あのブレイクという大佐は半日以内にトリマウンツから撤退するはずです。
[副大統領秘書] どうかご決断を。
[ジャクソン] ……そろそろ電話が来るはずだ。
[副大統領秘書] はい、副大統領臨時執務室です……ええ、こちらにいらっしゃいます……はい……
[副大統領秘書] 副大統領、お電話です。お相手は……
[ジャクソン] ……出よう。誰からの電話かはわかっている。
[ジャクソン] ……もしもし。
[ジャクソン] わかりました。私も、こんな時に皆様を失望させるようなことはしたくありませんから。
[ジャクソン] ……
[副大統領秘書] 副大統領、法案の件は……
[ジャクソン] ひとまず置いておくとしよう。今後半年間は、その件を議題にする必要はない。
[副大統領秘書] わかりました……マイレンダー基金の意向ですか?
[ジャクソン] ……パヴァール、君は先ほどの騒動でどれだけの人が亡くなったと報告してくれたかな?
[副大統領秘書] こちらでは、三十名の兵士を射殺したとのことです。
[ジャクソン] では、我々はそうした軍人の育成に毎年どれだけの金額を費やしているだろうか?
[副大統領秘書] 国防部の基準を満たす戦闘員を育成する場合、一人当たり300万の費用がかかります。
[ジャクソン] となると我々は先ほど、9000万の費用と、三十名の優秀な人材を失ったわけだ。
[副大統領秘書] ……仰る通りです。
[ジャクソン] では、これが誰の意向かを問う必要はないだろう。クルビアにとって最大の利益となる決定なのだから。
[ジャクソン] さあ、ブレイク大佐との面会を手配してくれ。国防部と手を取り合うべき時がきたんだ。
[副大統領秘書] わかりました。
[ジャクソン] ……
[ジャクソン] 私にはいつまでも忘れられない瞬間があります。それは選挙の結果が出て、ついに夢にまで見たテーブルにつけるのだと有頂天になっていた矢先に――人生で最大の衝撃を受けた時のことです。
[ジャクソン] ハハ、当時はこの国の生活すべてが陰謀の中にあるのだとすら思ったものですが……
[ジャクソン] 私も、次第にそうではないということに気付きました。
[ジャクソン] この国は陰謀の中で生きているわけではないですし、マイレンダーも私の想像とは違い、この国を操ってなどいなかった。
[ジャクソン] ただ、荒唐無稽な出来事があまりにも順序よく起きているために、すべてが良いほうへ進んでいるかのように見えているだけでした。
[ジャクソン] しかし、私は依然として平凡な人間です。時折、バカげた考えが頭をよぎるくらいには。
[ジャクソン] 仮にあの爆発が、本当に私の目の前で起こっていたら……私は烈士としてクルビアに名を刻むことができたでしょうか。あるいは無能な人間として、即座に歴史の片隅に追いやられていたでしょうか。
[ジャクソン] あなたは……どう思いますか?
副大統領は、あたかもその場の空気が自分の質問に答えてくれるのを待っているかのように、無人の執務室を見渡した。
そうして、クルビアの権力の頂点近くに座す彼はため息をついた。
[???] 軍はこれ以上あなたを悩ませることはないんでしょう? だったらどうして浮かない顔をしてらっしゃるの?
[ジャクソン] ……ミス・ホルハイヤ。君に会うのは容易ではないね。
[ホルハイヤ] ごめんなさい、お詫びするわ。久々に会う上司もトリマウンツに来ているものだから、報告書の準備に時間がかかってしまったの。
[ジャクソン] 残念ながら、ブリキはその報告書のコピーをこちらに送り忘れているようだ。
[ホルハイヤ] だからこそ、私が出向いてあなたのご質問にお答えしようと思ったのよ。私の知っていることなら何でもお話しさせてもらうわ。
[ジャクソン] では、マイレンダー基金のライン生命関連業務の第一責任者である君に、早速教えてもらおうか。
[ジャクソン] クリステン・ライト――この騒動の元凶は今どこにいるのかな?
[ホルハイヤ] 彼女は、クルビアが誇る特殊部隊ですら到達できず、マイレンダー基金によって記録されたこともない場所にいるわ。
[ジャクソン] クルビアにそんな場所などないだろう。
[ホルハイヤ] 今はまだクルビアの地図には載っていない場所なのよ。それはえてして私たちの都市や土地と重なっているけれど、視界の外にある場所なの。
[ジャクソン] ということは……
[ホルハイヤ] 副大統領さんなら、長年にわたってマイレンダー歴史協会が……いいえ、正確に言えば、ブリキさんが主導してきた一連の考古学関係プロジェクト――「地下探査計画」のことはご存知でしょう。
[ジャクソン] ……広大な荒野に埋もれた古代遺跡か。
[ホルハイヤ] ええ、その通り。最近ライン生命職員に対して行った強制捜査で、この資料を偶然見つけたの。
[ジャクソン] ……
[ジャクソン] 地下の探査記録を、かね?
[ホルハイヤ] その記録は今、ライン生命の元幹部で、クリステン・ライトの親友であるあの人の……そして、クルビアで犯罪歴のある外国企業の手にあるわ。
[ホルハイヤ] さらに偶然にも、その企業――ロドスは、私の親愛なる上司ブリキさんと浅からぬ関係にあるのよ。
[ケルシー] ……浄水循環システムか。
[ブリキ] 単に「下水溝」と呼ぶこともできますがね。
[ケルシー] かつては「ローカスオブソーサリー」と呼ばれたこともあったな。あれはティカズの最も原始的な巫術武器だった。
[ブリキ] それが正式名称だったのですね。しかし、そんなものがこうして開拓隊の移動式仮設住宅に設置されているとは。
[ケルシー] この装置の核心部がもはや失われていることには、疑いの余地などない。
[ケルシー] 今残されているのは最も外側にあったパイプだけだが、君たちは……これを再利用する方法について、合理的な考えを持っているようだ。
[ブリキ] クルビア人に代わって、お褒めの言葉を頂戴しておきましょう。
[ブリキ] この国は、極めて困難な時代を経て今に至っています。ゆえに物資の乏しい大開拓時代には、あらゆるものが役に立つかそうでないかの二択で分類されていました。
[ブリキ] あなたにとってこれは、壮大な思い出を運んでくるものかもしれませんが、クルビアで暮らす普通の人々にとっては、どれほど時間が経とうが錆びない便利なパイプでしかないのです。
[ブリキ] 結局のところ、どんなに古い遺物でも、どんなに素晴らしい時代を経てきたものであっても、今の時代の人々から理解を得なければ、ゴミと何ら変わりません。
[ケルシー] 人々の認識というものは、身を置く時間と空間に縛られるものだ。君や私とて例外ではない……無論、クリステン・ライトもな。
[ケルシー] ……彼女がこうしたティカズの遺産から力を引き出すことは不可能であり、察するに彼女の頼る外力はより強いものであるはずだ。
[ケルシー] その外力として用いられる可能性の高い技術の候補が、まだ三十二個存在している。そしてこの技術の大半は、マイレンダー歴史協会の地下探査記録に載っていなかった。
[ブリキ] この先の道に、私の同行はもはや必要ないということですね。
[ケルシー] ……そうなる。だが、このことが我々とマイレンダーの協力関係に影響を与えることはない。
[ブリキ] ええ、ええ。これはあなたのいつも通りの行動基準に則ったものですからね。
[ブリキ] あなたはそうした技術がクリステンの手に渡ることを望まず……一方で、同様にクルビアがこの財産を手に入れるのも時期尚早と考えていらっしゃる。相変わらず……無私で中立な方ですね。
[ケルシー] それと、もう一つ君に頼みたいことがある。
[ブリキ] どうぞ仰ってください。
[ケルシー] Dr.{@nickname}……そして子供たちのことだ。
[ケルシー] 君の言うように、私一人でしか行けない道もある。私の都合がつかない時は、代わりに彼らの面倒を見てやってほしい。
[ブリキ] おお、私は判断を誤っていたようですね。あなたも、まったく変化がないわけではないようだ。以前よりもずっと人間らしくなられましたね。
[ケルシー] 人間にせよ、事物にせよ、不変のものなどないんだ。レヴァナント……ブリキよ。我々にできるのは、こうした変化を受け入れることだけだ。
[???] やれやれ……ドクター、大丈夫?
[???] あら? 水が気管に入らないように気を付けたつもりだったんだけど……
[???] もしかして、このやり方は久しぶりだから、腕が落ちたかしら?
[???] ドクターは多分、途中の揺れで気を失っちゃったんだと思うよ。
[???] ああ、ごめんごめん。
[???] 全部あのジャスティンJr.のせいなのよ。急に大量の書類を渡してきて、主任全員にこれを書いて提出してもらってるとか、でないと来年度の予算はなしだとか言うんだから。
[???] ほんと、危うく間に合わなくなるところだったわ。
[ドクター選択肢1] げほ、ごほっ……
[ドクター選択肢2] ……
[ドクター選択肢3] 間に合わないとは、何が……?
[???] あっ、目が覚めたのね、ドクター!
[ミュルジス] おはよう……じゃなくて、もうこんばんはね。
[ドクター選択肢1] ここはライン生命ではないようだな。
[ドクター選択肢2] ……
[ドクター選択肢3] 通風口あたりで記憶が途絶えているような……
[ミュルジス] そう、あなたたちが危険にさらされてるってわかってからずっと、水を操って探してたのよ。
[ミュルジス] 二人が見つかっちゃう寸前にやっと見つけたから、水に包んでそのままここまで連れてきちゃった。
[ミュルジス] 急を要する事態だったから、多少の揺れは許してちょうだいね。
[ドクター選択肢1] 借りができたな。
[ドクター選択肢2] ……
[ドクター選択肢3] この大恩にどう報いたものか。
[ミュルジス] この前はあなたが助けてくれて、今度はあたしがあなたを助けて……次はどっちかどっちを助けることになるでしょうね?
[ミュルジス] もしかして、あたしにどうお返しするかを考えてるのかしら?
[ミュルジス] それなら……今度、あたしの買い物に付き合うっていうのはどう?
[ミュルジス] ふふ、そんなに大したことじゃないわよ。
[ミュルジス] だけど本当にそう思ってくれてるなら、この雇用契約書にサインしてちょうだい! あなたみたいな賢い助手が増える分には一向に構わないから。
[ミュルジス] さて、目覚めたばかりで悪いけど一つ良くないニュースがあるの。
[ミュルジス] あなたとロスモンティスが狙われたのと同じタイミングで、サリアも襲撃を受けたみたいよ。
[ドクター選択肢1] 彼女は無事なのか?
[ドクター選択肢2] ……
[ドクター選択肢3] イフリータは?
[ミュルジス] 詳しい状況はあたしにもわからないけど、あのダイヤよりも硬いサリアなのよ! さすがに命の危険まではないでしょ?
[ミュルジス] それより今大事なのはこれからどうすべきかよね。あなたも身にしみたと思うけど、軍が一度あなたたちに目を付けた以上、簡単に諦めてはくれないもの。
[ミュルジス] 今のあなたの……というよりロドスの状況は相当まずいと言わざるを得ないわね。
[ミュルジス] イフは多分平気よ。でも、サリアが……
[ミュルジス] 詳しい状況はあたしにもわからないけど、あのダイヤよりも硬いサリアなのよ! さすがに命の危険まではないでしょ?
[ミュルジス] それより今大事なのはこれからどうすべきかよね。あなたも身にしみたと思うけど、軍が一度あなたたちに目を付けた以上、簡単に諦めてはくれないもの。
[ミュルジス] 今のあなたの……というよりロドスの状況は相当まずいと言わざるを得ないわね。
[ドクター選択肢1] ロスモンティス……
[ロスモンティス] ……
[ドクター選択肢1] ロスモンティス?
[ロスモンティス] 外……
[ロスモンティス] 廊下の向こうから……誰かが来てるよ。
[ミュルジス] ええっ?
[ミュルジス] 道中はかなり警戒してたし、軍の人間がそう簡単に追いつけるとは思えないわ。
[ミュルジス] もしかして、マイレンダーの人かしら? たとえばあのブリキ頭さんとかその部下だとか……エージェントって、大体こういう感じで突然現れるわよね?
[ドクター選択肢1] ロスモンティス、その誰かというのはブリキか?
[ロスモンティス] わからない。
[ロスモンティス] 何も感じられないの……この人が発している気配は……すごく普通……
[ドクター選択肢1] ミュルジス、周囲の状況に気を配っていてもらえるか?
[ミュルジス] 外にも「目」がほしいってこと? いいわよ。
[???] ふぅ……はぁ……ようやくついた……
[???] 申し訳ない、遅くなってしまったかな?
[???] 本当は、君がトリマウンツに来た時すぐに会いに来ようと思っていたんだが……思ったより仕事に手間取ってしまってね。
[ミュルジス] あなたは……
[ミュルジス] 待って、資料で見たことあるわ……あなた、ローキャン・ウィリアムズ!?
[ロスモンティス] ……
[ロスモンティス] ロー……キャン?
[ローキャン] ああ、そうだとも。
[ローキャン] 私の手紙を読んだから来てくれたんだろう、ナルシッサ。
[ロスモンティス] ……ナルシッサって、誰?
[ロスモンティス] 私はロスモンティス。私の名前は、これ一つだよ。
[ローキャン] 君は……まあいい、大切なのは君が来てくれたという事実だ。実を言うと、手紙を出した時からずっと気が休まらなくてね。
[ローキャン] 会いに来てくれて……本当に嬉しいよ。
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