aklib_story_登臨意_WB-5_風雨来たらんと欲す_戦闘前

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登臨意_WB-5_風雨来たらんと欲す_戦闘前

ジエユンは都市を出る機会をうかがいつつ街をさまよい、この見知らぬ移動都市を物珍しげに観察する。一方、一連の事件の首謀者が自らリン・ユーシャの前に姿を現した。


日がゆっくりと西に傾く。

人と城壁の影が長く引き伸ばされて、道端の店を覆う。店主は日よけをしまって、ぐっと大きな伸びをした。

[だらけた露天商] さぁさ、寄っといで。残ってんのは三割引きの在庫一掃セールだ。俺もとっとと売って家に帰りたいんでね――

[退屈そうな露天商] 帰れよ。まだなまくらの武器模型なんか売ろうとしてんのかよ。今どきの観光客は、もうその手のは飽きてるよ。

[だらけた露天商] もし本当に剣を打つ技術があんなら、こんなとこで店やってねぇで、とっくに軍営に行ってでけぇ仕事してるさ。

[退屈そうな露天商] そういや、昨日深紅色の剣を身につけた観光客を見たんだが、ありゃ普通じゃなかったな。どこで手に入れたものなんだろうな……

少女が呆然と辺りを見渡す。彼女にとっては目の前のすべてが見たことのない光景だった。

足元の地面からはかすかに震動が伝わってくる。恐らく移動都市が減速する兆しだろう。通りの人々はすっかり慣れているようで、誰も慌てている様子はない。

通りの向こうから夕飯の香りが漂ってきて、少女はようやく、自分はもう丸二日も食べていないことを思い出した。

[ジエユン] ……

体中の痛みと空腹感が共に襲ってきた。

彼女の両足は持ち主の意に反して、香りをたどって料理店の方へと向かっていく。

[店員] お客さん、ご注文は?

[ジエユン] 隣のテーブルの人が食べてるやつ……私も同じの。

[店員] はいよ、三番テーブル焼肉涼麺(リャンメン)一つ――

夕飯時が近く、店内の席はほぼ埋まっていた。市井で確かな日々を送る人々にとっては、忙しい一日の後にありつく夕飯こそ、最高の安らぎだった。

壁に掛かったテレビでは、いつもの武侠ドラマが流されていて、剣戟の音が響いている。時折客が顔を上げ、お馴染みのシーンに見入っていた。

[ジエユン] (この箱の中の人、どうしてあいつとそっくりなんだろう?)

[ジエユン] (あいつのそばにいる女侠も、師匠と似ているような似てないような……)

[ジエユン] (「事実に基づいたフィクションです」ってなに……)

[店員] へい、麺一丁おまちどおさま! ごゆっくり~。

[ジエユン] あ……ありがとう。

[住民A] だからよぅ、長い巻物を贈るべきだって。百メートルくらいの! 街のみんなに名前を書いてもらうんだ、こういう餞別こそ意味があるってもんだろ!

[住民B] 馬鹿を言えや。宗師は旅に出るんだぞ、そんなでけぇものどうやって持ってけって言うんだよ?

[住民B] 餞別ってのは気持ちなんだから、玉門名物の美味いもんでもたくさん持たせてやった方が現実的だろうが。

[住民A] でもよぅ……にしてもさ、宗師は一体玉門をどれだけ守ってきたんだろうな? お前知ってるか?

[住民B] 具体的には知らないが、うちの親父の代の奴らが生まれた頃にゃ、もう玉門にいたらしいぜ。

[住民A] ってことは百歳以上じゃねぇか? 道理で退任するわけだ、もう体が持たねぇんだろうな。

[住民B] だが巷に流れてる噂じゃ、しばらく前に宗師を見たって奴がいるらしくてよ、見た目はごく普通の中年男だったらしいぞ。

[住民A] 宗師ってのは、普通の人間じゃねぇのか……?

[住民B] どうだろうな。術を使って寿命を延ばす奴もいるって聞くし、宗師もそうなんだろ。

[住民B] まあどんな人だろうと、玉門を守る大英雄だったってことを俺たちが覚えてりゃいいんだ。玉門人はみんなあの人に恩があんだよ。

[住民B] 唯一残念なことがあるとすりゃ、宗師に結婚話もなけりゃ、子供がいるっていう話も聞かないことだな。ズオ将軍の公子はもうあんなに大きいってのに……

[ジエユン] (この人たち、あいつが……英雄だって言ってる?)

[店員] お嬢さん、綺麗に召し上がられたようで……お口に合いましたか?

[ジエユン] ありがとう、美味しかった。

[店員] そいつは良かった。で、お会計の方は……

[ジエユン] その、それは……

[ワイフー] 私が代わりに払いますよ。

[ジエユン] あ、ありがとう……

[ワイフー] 大したことありません……奇遇ですね、またお会いするなんて。

[ワイフー] 財布をなくしてしまったんですか。それとも持ち合わせがなかったとか?

[ジエユン] その……なくしたんだ……

[ワイフー] え? それはついてませんね。

[ワイフー] あなたも玉門に来たばかりみたいですし、まだ不案内でしょう。役人に話しに行くなら、付き添いますよ。

[ジエユン] ありがとう。気持ちはうれしいけど、大丈夫!

[ジエユン] 今回のご飯代は、また今度返すから!

[ワイフー] 待ってください。

[ジエユン] !?

[ワイフー] あなたが持っているその剣は……前におっしゃっていた探しものですか?

[ジエユン] あなたも奪う気!?

[ワイフー] まさか。何の理由もなくそんなことはしませんよ……

[ワイフー] でも最近、玉門で特殊な剣が盗まれたと聞きました。もしかして……

[ジエユン] ……私はもう行く。

[ワイ・テンペイ] 誰だ……?

[ワイ・テンペイ] 出てこい!

[リー] 武芸者にゃ、こういう冗談はいけないと聞いたことがあるんだがね。

[リャン・シュン] その中でも武の道を極めるためならどんな修行もこなしてしまうような、筋金入りだ。

[リー] もしこいつが条件反射で、ロクに見もせずにおれに一撃繰り出してたら、危うく命日になるとこだった。

[リャン・シュン] その場合、私は彼をひっ捕らえて、過失致死の責を問うしかないな。

[ワイ・テンペイ] ……

[リー] リャン様、どうだい、さっきの賭けはおれの勝ちだろ?

[リャン・シュン] ……確かにな。

[リー] さっきリャン・シュンと賭けたんだ。お前が帰ってきて、おれたち二人がいるのを見たらどんな反応をするのかってね。

[リー] こいつはお前なら背を向けて逃げる方に賭けて、おれはその場に突っ立って何も言葉が出てこない方に賭けた。

[リャン・シュン] 人を見る目に関しては、君に勝てる者など見たことがないな。

[リー] その上、相手は他人じゃなく、おれの義兄弟のことだからな。

[ワイ・テンペイ] ……

[リー] 安心しろ、ワイフーはお前がここにいることは知らない。

[リー] おれがどれだけ野暮天でも、親子の再会にゃ相応しい場を設けてやるべきなのはわかってるさ。

[リー] こちとら、どこぞの知府様とは違うんでな。十何年ぶりに再会したってのに、諸々全部差し置いて、人をとんでもない面倒事に巻き込むようなことしないさ。

[リャン・シュン] あの件については、私が悪かった。君には申し訳ないと思ってる。大きな借りだ……

[リー] このままお前を責めたら、遠回しにワイのやつを非難してるように聞こえるか?

[ワイ・テンペイ] ……

[リー] ほら固まるな。ここには他人はいない、おれたち三兄弟だけだ……

[リー] 酒とつまみを用意したんだ。座れよ。腰を据えて話すとしようぜ?

[龍門観光客?] お嬢様からの情報を基に、疑わしい倉庫の場所はすべてお前たちの端末に送っておいた。

[龍門観光客?] 東から西へ、漏れなく全て調査しろ。時間はない、迅速な行動を心掛けろ。

[龍門観光客?] 何か発見しても軽率には動くな。まずは全員に連絡を入れて、それからみんな一緒に――

[モン・ティエイー] 俺を探してんのか?

[龍門観光客?] !?

男の反応は速かった。その道で幾年も生きていれば、どういった場合に戦い、どういった場合に逃げるべきかはわかる。今の状況は逃げの一手だ。

しかし向きを変えた途端、何者かの手がそっと肩に置かれたのを感じた。たったそれだけで、彼は動くことができなくなった。

[モン・ティエイー] 俺を探してるなら、なんで逃げる?

[龍門観光客?] その……

[モン・ティエイー] 頭は回るようだが、度胸が少し足りねぇ。この欠点をなくせば、まあまあ使い物になるかもな。

老人はゆっくりと手を戻した。

[モン・ティエイー] リン特使に伝えろ。今日の申の初刻、南の五街七坊にある倉庫まで来い、そこで俺が待っていると。

[リー] ……

[リャン・シュン] ……

[ワイ・テンペイ] ……

[リー] 飲まないのか?

[リャン・シュン] まだ、勤務中だ。

[リー] お前も?

[ワイ・テンペイ] 酒は体に障る。

[リー] 酒は飲まない。話もしない。おっさん三人がむすっと膝ぁ突き合わせて、目をかっぴらくだけってのは何の修行だよ……

[リー] リャン様はさっき、こいつに話があるって言ってたろ?

[リャン・シュン] 君だって同じだろう。

[リー] おれたちは酒の力を借りなきゃ、互いに物も言えないようになったのか?

[ワイ・テンペイ] 言いたいことがあるなら、言え。

[リャン・シュン] 君は今まで……

[ワイ・テンペイ] 至る所を、渡り歩いていた。

[ワイ・テンペイ] 新たな地に着いたら、そこで新たな戦いの相手を見つける、見つからなくなるまでな。それからまた別の場所へ行く。

[リー] このリャン様と再会した時は、会ってない間の変化を細かく分析したもんだが。武術狂いのワイのは、そのまま顔に書いてあるな。

[ワイ・テンペイ] どこが変わった?

[リー] 歳を食ったな。

[ワイ・テンペイ] 当たり前だろ。

[リー] おれだって真っ当に心配したこともあったよ。ある日突然お前がどこぞの誰かとの戦いで死んだって、連絡がくることをな。

[ワイ・テンペイ] そんなことあってたまるか。

[リー] 上には上がいるって言うだろうが……

[リャン・シュン] それで、君が玉門にたどり着いて……どれだけが経った?

[ワイ・テンペイ] 三年だ。

[ワイ・テンペイ] この地で戦うことを約束してくれた者がいる。

[ワイ・テンペイ] 短くて三から五年、長くて十数年。そう言っていた。

[リャン・シュン] かつては、大地に我が名を轟かせんと血気盛んだったワイ・テンペイが、まさかこのように……我慢を覚えるとはな。

[ワイ・テンペイ] どうせ他に相手も見つからん。ここで何年か待ったところで、構わない。

[リー] それで医館で三年も下働きをやってるってわけか。

杯に並々と酒を注ぐ。広がるはずの香りは、染みついた薬の臭いに負けた。ぐっと呷れば、シクシクする臓腑にてきめんに沁みる。酒では流しきれない苦みが口にわずかに残った。

[リー] 「白頭翁」、「刀傷木」、「羽不泊」、「千里及」……

[リー] 玉門の武術界隈で半月以上聞き回ってたのが、まさか客桟の向かいにある医館にいたなんてな。

[ワイ・テンペイ] 借りは返さねばならんからな。

[リー] ならよくわかってるはずだ。この世でお前が最も借りを作ってる相手は誰なのか。

[ワイ・テンペイ] ……

[リー] まあいい、おれが言うべきことは言った。リャン様は他に問いただしたいことでもあるのかい?

[リャン・シュン] 旧友を訪ねて、相手がどう過ごしているか気にかけるのに、「問いただす」という言葉は相応しくないな。

[リー] それを言うなら、こいつは玉門に三年もいた。お前だって玉門に来てしばらく経ってるくせに、わざわざこのタイミングで訪ねるのか……

[リャン・シュン] 玉門の混乱はまだ収まっていない。私事にかまけている時ではないんだ。

[リー] リャン様は国のために一心に尽くしているだろうな。だけど、おれたち庶民に多少の私事があることすら許さないってのか?

[リャン・シュン] そんなことは……

[ワイ・テンペイ] お前らが本心から昔話がしたいなら、しばらく腰を下ろしてやってもいい。

[ワイ・テンペイ] だが腹を割って話すことさえもできんとは、俺たちはなぜこうなってしまったのだ?

ワイ・テンペイは目の前の酒を持ち上げると、一息に飲み干す。それから身を翻して部屋を出た。

[リー] リャン様、それで? 知りたいことは知れたか?

[リャン・シュン] まあな。

[リー] それはワイ・テンペイの義弟としてか、それとも玉門参知としてか?

[リャン・シュン] ……君に見透かされるのには、そろそろ慣れねばならないな。

[リー] それか、厄介事ばかり引き寄せる習慣は変えるかだな。少なくとも、話し相手が誰も見つからないとこまで自分を追い詰めるのはよせよ。

[リャン・シュン] もしかしたら、ワイはあの件に適任かもしれん……

[リー] 前回、酒杯の輸送におれを選んだみたいに?

[リャン・シュン] そこまで複雑ではない……

[リー] あいつは、あのワイ・テンペイのままだ。変わってないよ。

[リャン・シュン] 彼は一番変わりにくいやつだ。

[リー] なら、おれたちはどうなんだ?

[リャン・シュン] ……

[リー] 桂花を買ひ同(とも)に載酒せんと欲せども、終に似ず、少年の遊びと。

[リー] おれたちが卓を囲んで酒を飲みながら言葉を交わすのすら、今となっちゃ滅多にない機会さ。無理に昔の日々を願ったとこで、剣を落として船を刻むような真似だ。時は流れ、船は動くんだ。

[ジエユン] あなたも私の邪魔をする気?

[ワイフー] ここ数日は色々と起きすぎて、私もよくわかっていません。

[ワイフー] もし事情があるなら、ここに留まって、事情を説明してください。

[ジエユン] 時間がないんだ……

[山海衆メンバー] それをこちらへ寄越せ。

[ジエユン] 無理!

[ワイフー] この人たちは、追っ手ですか?

[ジエユン] 知らない……

[ワイフー] ここ数日、玉門の至る所で騒ぎを起こしているのは、あなたたちですか?

[山海衆メンバー] 身の程を知らんガキが――

[ジエユン] (この人……前に比武台上で私と戦った時、全力じゃなかったの?)

[ワイフー] この人たち、大した実力もないのに、なぜ横暴な振る舞いができるんでしょう?

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