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シラクザーノ_IS-10_「狼の主」_戦闘前
テキサスはかつてすべてを捨て去ったにもかかわらず、今はこの地に立つことを選んだ。シラクーザにはもはやラップランドの居場所はないが、彼女にそれは必要ない。
[エクシア] 偵察完了、敵影なーし。
[エクシア] すごいね、あの人たちが教えてくれたこのルート。ここまでほとんど邪魔もされずに一番乗りで着いちゃったよ。
[ラヴィニア] 新市街の設計にはクルビアの技術が用いられていて……
[ラヴィニア] その中には、マフィアたちに馴染みのない機能が多くあるのです。
[ラヴィニア] たとえば、この司令塔への直通路は、私たちが通過したあとすぐに封鎖されています。
[ラヴィニア] ほかの入り口も、何らかの技術的手段を使って彼らが封鎖してくれているのです。
[ラヴィニア] 加えて、ここに来る途中見てきたように――
[ラヴィニア] ファミリー間の闘争は少しずつ広がっていますから、ほとんどの場合は、司令塔に手を出したくてもほかのファミリーの妨害を懸念して動きづらい状況だと思います。
[エクシア] それに、司令塔があたしたちに占拠されるなんて想像もしてないだろうしね。
[ラヴィニア] ええ。ですが、まだ安心はできません。
[ラヴィニア] 少なくとも、ベッローネ、ロッサティ、そしてサルッツォの三家はこの場所を――第二中枢区画を諦めはしませんから。
[エクシア] あたしもテキサスもいるんだから、安心しなって。
[ラヴィニア] ……ごめんなさい。本当は、あなたたちを巻き込むつもりはなかったんですが……
[テキサス] これは私が自分で決めたことだ。
[エクシア] あたしもそうだよ! あ、でも報酬をくれるなら、あとでピッツァが美味しいお店でも教えてもらおうかな。
[ラヴィニア] わかりました。
[テキサス] ……
[テキサス] 先ほど、これはクルビアの技術だと言っていたな。
[ラヴィニア] はい。技術支援を行っていたのはロッサティですから、彼らには突破方法があるのではないかという懸念はありますね。
[テキサス] ……では、奴らが必ず通るだろう道を教えてくれ。
[ウォラック] ……
[ウォラック] 妙だな。
[ディミトリ] あんたもそう思うか。
[ウォラック] さっきから回り道させられてるが、原因はほかのファミリーの妨害だけじゃない……
[ウォラック] あのゲートにしても、あれだけ見れば何かしらのアクシデントで作動したようにも思えただろう。
[ウォラック] しかし、ここまでに入った邪魔を考慮すると、何もかも意図的なものだと考えるのが妥当だ。
[ディミトリ] ……つまり、誰かに先を越されたってことか?
[ウォラック] その上、そいつらはこのエリアの構造をよく理解してるってことにもなるな。
[ウォラック] ……で、そんな知識を持ってるのは俺たちロッサティの人間か……
[ウォラック] この第二中枢区画の建造に関わった連中だけだ。
[ディミトリ] ……今はそれが誰だろうとどうでもいい。
[ディミトリ] 突破方法はわかるのか?
[ウォラック] ……試してみよう。うちの部下なら誰かは知ってるだろう。
[ディミトリ] ダメだな。時間がかかりすぎる。
[ディミトリ] それに……
[ウォラック] これが本当に意図的なことなら、必ず保険をかけてるはずだ。
[ウォラック] あんたが何を言いたいのかはわかってる。
[ウォラック] このクソッたれな協力関係もここまでらしいな。
[ディミトリ] ああ。
[ウォラック] ……
[ウォラック] おい、ベッローネの。俺らはある意味似た者同士だ。
[ディミトリ] あんたと一緒にしないでほしいな。
[ウォラック] 違うってのか?
[ウォラック] あんたは賢そうに見えて、実際はめちゃくちゃ忠実なバカ野郎だってのは見てりゃわかるぜ。
[ディミトリ] 自己弁護するのも大概にしろよ。
[ウォラック] そういう意味じゃねえ。自分が何をしてるかくらいわかってる。後悔だってしてない。
[ウォラック] だが、あんたのほうはどうなんだ? あんたの言い分が本当なら――ベッローネのドンはすべてを引き起こした元凶で、しかもあんたは兄弟分とすら敵対しそうになってんだろ。
[ウォラック] 本当に手を下せるのか?
[ウォラック] 本当に欲しいものを手に入れられるのか?
[ディミトリ] 実際そうしたあんたは手に入れたってのか?
[ウォラック] いいや。残ったのは罪悪感だが、ほかに方法がなかったんだ。
[裁判所守衛] ラヴィニアさん、この司令塔のエンジニアたちを見つけました。全員で一つの部屋に隠れていたようです。
[裁判所守衛] あなたとお話ししたいと言ってます。
[ラヴィニア] わかりました。
[冷静なエンジニア] あなたは……裁判官さん!?
[ラヴィニア] 安心してください、あなた方を傷つけるつもりはありませんから。
[ラヴィニア] 私は特定のファミリーを代表して来たわけでもなければ、ミズ・シチリアの代理人でもありません。
[冷静なエンジニア] ……であれば、何の代表としていらしたのですか?
[ラヴィニア] 今の私は、何をも代表していない立場です。
[冷静なエンジニア] ……わかりました。
[冷静なエンジニア] 危害を加えないと約束していただけるのなら、お手伝いします。
[ラヴィニア] ……では、一つお聞きしたいのですが。
[冷静なエンジニア] はい。
[ラヴィニア] 第二中枢区画の分離システムを起動するよう指示した人物は誰なのですか? ベッローネの者でしょうか?
[冷静なエンジニア] ……彼が言うには……ベッローネのドン、ベルナルドだという話でした。
[ラヴィニア] ベルナルド……本当にあなただったのね。
[ラヴィニア] 権力のために、本気でここまでやるなんて――
[冷静なエンジニア] そういえば、あの人……私に向かって、ファミリーの存在しないシラクーザを想像したことはあるか、と聞いてきたんです。
[ラヴィニア] ……何ですって?
[ウォラック] 前に見えるのがあのゲートのコントロールセンターだな?
[ロッサティの構成員] はい。
[ウォラック] だったら――
[ウォラック] また会うとはな、チェリーニア。
[テキサス] ……
[ウォラック] まあ、俺たちの間には、生きるか死ぬかしかねえのは確かだ。
[アルベルト] ……ラヴィニア? あの裁判官か?
[サルッツォの構成員] ええ。
[サルッツォの構成員] ドンのご指示通り、無理に突破せず回り道して役人を捕まえましたんで、この件はそいつから聞き出しました。
[サルッツォの構成員] ラヴィニアはすでに部下を連れて司令塔を占拠してるそうです。
[アルベルト] たかが裁判官が、役人どもの助けを借りてこんな真似をしでかすとは……どのファミリーからしても予想外だってのは確かだろうな。
[アルベルト] だが、こんな小細工で足止めしたところで、あの女に何ができる?
[サルッツォの構成員] ――ドン、大変です!
[アルベルト] 言え。
[サルッツォの構成員] ラップランドが……! あいつがさっき戻ってきて、うちの連中に切りかかってきたんです! 今もこっちに向かってます!
[アルベルト] ……
[アルベルト] あいつを止めろ。
[サルッツォの構成員] はい!
[アルベルト] 随分殺しの腕を上げたな、ラップランド。
[アルベルト] 昔のお前なら、ここまで着くのにもう少し時間がかかっただろうし手傷も負ってたはずだろう。
[ラップランド] そう言うそっちは相変わらずだね。部下が殺されるのを見ても平然としてるもの。
[アルベルト] 使えねえ部下を惜しむ必要がどこにある?
[ラップランド] じゃあ、使えない子供はどう? おっとそうだった! 忘れてたよ……お父様にとっては子供も部下も同じだよね。
[アルベルト] わかってんだろう、可愛い娘よ。俺が一番嫌ってるのは、無能で従順なバカだってことくらいな。
[アルベルト] 俺は、お前が戻ってきた時から待ってたんだ。
[アルベルト] お前が牙を剥いてくる瞬間をな。
[アルベルト] 今、ようやくその時が来た。
[アルベルト] それで、お前がこれまで何年も幾度となく俺を怒らせ、俺に背き、そして反抗してきた理由は何なんだ?
[アルベルト] 言え。さもないと、お前のしつけができねえからな。
アルベルトの言葉を聞いて、ラップランドは笑った。
しかし一方で、手にした武器を下ろしもした。
[ラップランド] ボクはね、ずっとアナタに対する暗殺計画を立てるべきかを悩んでたんだ。
[アルベルト] ほう。
[アルベルト] お前にも父親殺しを躊躇う心があるんだとでも言いたいのか?
[ラップランド] やるかどうかじゃなくて、その意味を考えてたのさ。
[アルベルト] まさかお前が意味なんてものに悩むとはな。
[ラップランド] ボクからすれば、意味は大事なんだよ。アナタが利益を重視するのと同じくらいにね。
[ラップランド] お父様は、ボクがこんなにテキサスに関心を持つ理由を知ってる?
[アルベルト] お前から説明されたことはないな。
[ラップランド] ――ボクは生まれた時からこのファミリーの一員として育って……
[ラップランド] アナタはシラクーザ人らしい方法でボクをしつけたし、ボクもアナタの期待に応えてた。
[ラップランド] シラクーザ人らしさにかけては、ボク以上の人はいないだろうね。
[アルベルト] お前はそれを認めたくないもんだとばかり思ってたよ。
[ラップランド] ボクが本当の意味でお父様の支配から逃れたことなんて……あると思う?
[ラップランド] いや、アナタの支配というよりは、シラクーザの、ファミリーの、血縁の、そしてルールの支配から、だね。
[ラップランド] ボクはそのすべてが嫌いだけど、結局そこから逃れることなんてできないって気付いたんだ。
[ラップランド] それは目に見えない形でボクを支配していて……
[ラップランド] どんなに抵抗したところで、それは結局アナタの支配下でのことでしかない。
[ラップランド] どこにも出口なんてないんだよ。
[アルベルト] シラクーザを逃げ場のない泥沼だなんて思ってるのはお前だけだ。
[ラップランド] 濁りきった自分たちでは気付いてないだけさ。アナタもほかの人たちもみんなその泥水の一部だからね。
[ラップランド] あの頃のボクにはこんなこと理解できなかったけど……
[ラップランド] 当時のボクは、自分のことを十分狂ってると思ってたし、反抗的だとも思ってた。でも、今にしてみればそんなのは自己欺瞞にすぎないんだ。
[ラップランド] あの時のアナタはきっと、あと数年もすればボクは現状を受け入れるだろうと考えてたんだよね?
[アルベルト] もちろんだ。
[アルベルト] お前の反抗心は感じたが、それがどこから来るのかが理解できなくてな。
[ラップランド] それはお父様が自分の人生と行いの正しさを信じているからだよ。
[ラップランド] アナタは、ボクがいつかは自分みたいになるって信じて疑わなかったんだよね。
[ラップランド] そしてそんな時に、あの子が現れたんだ。
[ラップランド] 初めは、遠く離れたクルビアにボクよりもデキる子がいるって知って気になってさ。
[ラップランド] チェリーニア・テキサス……サルヴァトーレの孫娘。
[ラップランド] 冷酷で、強くて、義理堅い人で。
[ラップランド] あの子はシラクーザに来てすぐに、マフィアの間では一番有名なシラクーザ人になった。
[ラップランド] 本当はただのクルビア人なのにね。
[アルベルト] お前もあいつも実力ではそう変わらんだろう。
[ラップランド] アハッ、当然。
[ラップランド] だけど問題はそこじゃなくて――
[ラップランド] あの子はどこからどう見てもシラクーザ人で、この泥沼に浸りきってたはずだってことなのさ。
[ラップランド] それなのにあの子は自分の血筋に背いて、自分のファミリーが粛清されるのを看過したでしょう。
[アルベルト] あの件で糾弾されるべきなのはジュセッペだ。チェリーニアのどこに罪がある?
[ラップランド] 群狼の間では、裏切りは珍しくないことだけど……
[ラップランド] あの子は、見捨てて逃げることを選んだんだよ。
[ラップランド] ねえ、想像できる?
[ラップランド] あの子が本気でシラクーザを離れてすべてを捨てたいと願っていることに気付いた時、ボクがどんなに――
[ラップランド] 興奮したか!
[アルベルト] お前は、チェリーニアがある種の抵抗に成功したと思ったわけか?
[ラップランド] 成功はしてないよ。この国があの子を手放すことなんてないしね。
[アルベルト] だったらお前はどうしてここに立ってんだ。あいつが原因なんじゃないのか。
[ラップランド] 原因? あの子が?
[ラップランド] 違うよ、お父様。全然違う。
[ラップランド] ボクがここに立っているのは、あの子の成功や失敗から何かを学んだからじゃない。
[ラップランド] あの子がボクに、こういう選択もあるってことを教えてくれたからなんだ。
[ラップランド] ボクには、あの子が最終的にここへ戻ってくることくらいわかってたんだ。だから、戻ったあと何をするのかを楽しみにしてたのさ。
[アルベルト] だが、あいつは何もしなかった。
[ラップランド] 違うよ。お父様にはわからないだろうね。
[ラップランド] あの子は選択をしたんだ。
[ウォラック] 何やってるかわかってんだろうな、チェリーニア。
[テキサス] それをお前が知る必要はないし、理解もできまい。
[ウォラック] あんたはかつてクルビアから逃げ、シラクーザから逃げ、すべてを放り出したくせに……
[ウォラック] 悪びれもせず、この場所に立ってやがる。
[ウォラック] ふざけた話だと思わねえのか?
[テキサス] ――この土地にはまだ救いがあるらしい。
[テキサス] だから逃げるのをやめた。それだけだ。
[ウォラック] 逃げるのをやめたから、帰ってきたってか。
[ウォラック] じゃあ、昔あんたに見捨てられた奴らはどうなるんだ?
[ウォラック] そいつらにもそう言ってやったらどうなんだ!
[テキサス] 八つ当たりだな。
[テキサス] ジョヴァンナに手を下さざるを得なかったことの原因を、私に押し付けようとしているんだろう。
[ウォラック] 俺もそこまで恥知らずじゃねえよ。
[テキサス] だとしても、その代償は払ってもらおう。
[ウォラック] ……あんた、ろくな死に方しねえぞ。
[テキサス] 心配無用だ。私にとって、死は理想の終着点だからな。
[ウォラック] く、そっ……
[ラップランド] そこで今度はボクの番ってわけ。
[ラップランド] 考えすぎて眠れない夜を過ごしたこともあったけど……
[ラップランド] こうしてアナタと向き合ってみたら、ふと気付いたんだ。
[ラップランド] ――それが案外難しいことじゃなかったことに。
[ラップランド] ボクのやりたいことは、アナタに反抗することでも、アナタを殺すことでもなかった。
[ラップランド] ただほかでもないアナタに、ボクのお父様に、このファミリーに、この泥沼に別れを告げればいいだけのことだったんだ。
[ラップランド] そのために来たんだよ。
[アルベルト] お前はシラクーザのすべてを敵に回そうっていうのか。
[ラップランド] 違うよ。
[ラップランド] シラクーザのほうが、ボクを敵に回したのさ。
[アルベルト] ……
[ラップランド] さようなら、お父様。
ラップランドは父に向かって深く別れの礼をした。
アルベルトは漠然と、この化け物を始末するならこれが最後のチャンスだと感じていた。
そう――これは化け物だ。
自ら育て上げてきた、一匹の化け物。
彼女は決して無敵ではないが、何にも負けはしないように思えた。
今すぐに手を下せば、娘をその場で殺せるという確信はある。
彼女は決して恐れ知らずではないが、失えるもののすべてを自ら捨て去っていた。
後顧の憂いを断つために、今手を下すべきなのだ。
だが……
「お父様」と彼女は呼んだ。
これは、自らの手で育ててきた化け物なのだ。
単に出ていくだけならば、会いに来る必要などあっただろうか?
はぐれ狼は自らの古巣を覚えているものだが、今日を境に彼の娘はその巣をすらも捨てるのだ。
アルベルトは深くため息をついた。
[アルベルト] 娘よ。俺を裏切った、俺の誇りよ。次に会う時はお前を殺す。
ラップランドは微笑んで、何も答えはしなかった。
彼女はもうはぐれ狼ではない。
シラクーザに彼女の居場所はなく――
彼女自身、もはやそれを必要とはしていなかった。
[ラップランド] あとはキミだけだね、テキサス。
[ラヴィニア] 本当にチェリーニアさんを一人にして大丈夫なんですか?
[エクシア] 大丈夫だって。
[エクシア] テキサスが一人で行くっていうからには、きっとそれなりの理由があるしさ。
[ラヴィニア] 気にはならないんですか?
[エクシア] 良きパートナーであるためには、相手が言いたくないことを聞かないことが必要になるからね!
[ラヴィニア] 本当に仲が良いのですね。
[エクシア] 当然でしょ~!
[エクシア] ん?
[ラヴィニア] どうされました?
[エクシア] そっちに向かって誰かがすごいスピードで近付いてるよ。
[ラヴィニア] 一人ですか?
[エクシア] うん、一人。
[エクシア] 黒髪で、派手なマフィアの若旦那~って感じの服着てて……銃の形したアーツユニットを二丁持った人だよ。
[ラヴィニア] ……レオン?
[レオントゥッツォ] ラヴィニア……やっぱりあんたたちか。
[ラヴィニア] ……どうしてあなたがここに?
[レオントゥッツォ] あんたを探していたんだ。ファミリーとの連絡手段はすべて遮断されていたから、連絡の取りようがなかったしな。
[レオントゥッツォ] 途中で、ほかのファミリーの奴から、第二中枢区画の各通路を誰かが塞いでいるという情報を得て……これはマフィアのやり口じゃないと思った。
[レオントゥッツォ] それでここに来たというわけだ。
[ラヴィニア] ……そうよね。あなたもカラチさんと長く関わっていたのだから、ここが一番の突破口になることを知っていておかしくないわ。
[ラヴィニア] だけど、もうあなたに話すことなんて何もない。
[レオントゥッツォ] 待ってくれ、ラヴィニア……
[レオントゥッツォ] 俺がここに来たのは――
[ディミトリ] レオン……!? それにラヴィニアさんも……裁判所の連中まで……
[ディミトリ] そうか。第二中枢区画の件を操っていたのはあんただったんだな、ラヴィニアさん。
[ラヴィニア] ……
[ディミトリ] レオン、あの後どこに行ってたんだ? まさか彼女とずっと一緒にいたのか?
[レオントゥッツォ] ……
[レオントゥッツォ] いいや、親父の所に行ってきた。
[ディミトリ] 何だと?
[ディミトリ] どうして言ってくれなかったんだ!?
[レオントゥッツォ] ……アルベルトに対面した時に……そして、あの洗車工の言葉を聞いた時に……俺は気付いたんだ。
[レオントゥッツォ] 自分がこれまで、とんでもない間違いをしていたことに。
[レオントゥッツォ] だから――
広い大通りの両側には、それぞれディミトリとラヴィニアが立っている。
レオントゥッツォは深く息を吸い込むと、ラヴィニアのほうへと歩いていった。
[ディミトリ] これがお前の答えなのか?
[レオントゥッツォ] ああ。
[レオントゥッツォ] 俺はもう、ベッローネのリーダーじゃない。
[ディミトリ] ……何を言ってるかわかってるんだよな、レオン。
[レオントゥッツォ] わかっているさ。
[ディミトリ] よくもそんなことが言えるな……!
[ディミトリ] どれだけ崇高な理想があろうと、ドンがファミリーを見捨てたことは事実なんだぞ!
[ディミトリ] なのにお前まで――どんなに高い目標があるかなんて知らないが、俺たちを裏切るつもりなのか!?
[ディミトリ] 俺たちは一つの家族なんだぞ、レオントゥッツォ!
[ディミトリ] 俺の目を見て答えろ!
[ディミトリ] これまでずっと共に育ち、多くを共にしてきたのに――
[ディミトリ] お前からすれば、そんなものは何の価値もないって言うのか!
[レオントゥッツォ] 親父は自らのファミリーを火種に、シラクーザの新時代へ繋がる導火線に火をつけようとしていた。
[レオントゥッツォ] 確かにそれは間違いだ。でも……
レオントゥッツォはゆっくりと目を上げ、ディミトリをまっすぐに見た。
[レオントゥッツォ] どこまで行っても、俺はいつかすべてのファミリーの敵に回る。
[レオントゥッツォ] 必ずそうなる定めなら――
[レオントゥッツォ] 長く苦しむより、一瞬の痛みで済んだほうがマシだろ、ディーマ。
[ディミトリ] ……
しかしその瞬間、突如として場の全員に悪寒が走った。
お前たちを逃しはしない。
その目論見は必ず潰える。
骨すら残ることはない……
[レオントゥッツォ] 何……だ……
[ラヴィニア] っ……頭の中で……声が……
黒い霧がその場で凝縮していく。
霧が集まっていくほどに、目には見えない威圧感がその場の人々の頭に、肩に、心の中に少しずつのしかかる。
彼らはその威圧感にわずかな近しさを覚えた。まるで血の繋がりのような……否、まさしくそれは血の繋がりある相手なのだ。
けれども次の瞬間、彼らはただ果てしない恐怖を感じた。なぜならその中には、果てしない怒りが含まれていたからだ。
理性は抑圧されていき、何かがこう語り掛けてきているように感じた――
跪け。
服従せよ。
[用心棒] っ、寒い……
その圧に耐えきれなかった者たちが次々に倒れていき、残りはレオントゥッツォとラヴィニア、ディミトリの三人だけになった。
[レオントゥッツォ] この感覚……覚えがある。
レオントゥッツォは黒い霧が形作った実体へと目を向けた。
[エクシア] 気を付けて! その霧、なんかヤバいよ!
[レオントゥッツォ] これは……狼の主だ。
その言葉が落ちた瞬間、霧は狼へと姿を変えて、レオントゥッツォたちに向かってきた。
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