aklib_story_塵影に交わる残響_LE-3_魔弾の射手_戦闘後

ページ名:aklib_story_塵影に交わる残響_LE-3_魔弾の射手_戦闘後

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塵影に交わる残響_LE-3_魔弾の射手_戦闘後

エーベンホルツはついにツェルニーから認められた。ツェルニーはコンサートホールへ行き、公演前のチェックを行う最中、図らずもゲルトルーデに遭遇する。


[ツェルニー] ダメですね。

[ツェルニー] 三連符のここ……いや、曲全体がそうです。

[ツェルニー] 技巧をひけらかしているのかと思っていましたが、練習を聴いて理解しました。難易度の高い箇所をあえて派手に吹くことで、それほど技術が要求されない箇所を適当にやりすごしているようです。

[ツェルニー] 本来ならば、この曲はすでに弾きこなせるはず。簡単な箇所をごまかす必要がどこにあるのですか?

[エーベンホルツ] 簡単な箇所をごまかす必要がどこに……私はありきたりな反復練習を嫌っているんだ。この答えでどうだ?

[ツェルニー] 怒っているのですか?

[エーベンホルツ] ひけらかし? ごまかし? そんなものは文句をつけたいだけの単なる口実だろう?

[エーベンホルツ] 私からすれば、ただ何度も何度も同じ曲を繰り返しているだけだ。

[ツェルニー] 理解できなくとも構いません。ですが今あなたが出ようとしているのは私のコンサート、私がダメと言えばダメなのです。

[ツェルニー] 続けて練習してください。私が言っていることを完全に理解できるまで。

[エーベンホルツ] いいだろう、ちょうど知りたいと思っていたところだ。私が一体、なにから逃げているのかをな。

[ツェルニー] 十七小節から始めますよ、ワン、ツー、スリー、フォー……

[ツェルニー] ……

[エーベンホルツ] どうした?

[ツェルニー] ……今最後の一回の演奏で、どう感じましたか?

[エーベンホルツ] どう感じたか? 特に何も。

[ツェルニー] いいえ。

[ツェルニー] あなたは私に腹を立てています。

[エーベンホルツ] ……そのようなことをわざわざ言う必要があるのか?

[ツェルニー] 正直に言いましょう、今の演奏は今日最も出来が良かったです。

[エーベンホルツ] は? 何の冗談だ?

[ツェルニー] 冗談を言う必要はありますか?

[エーベンホルツ] ……

[ツェルニー] あなたの頭の中は私への対抗心で満ちていますね?

[ツェルニー] 実はそれでいいのです。私がこの曲を作った時に思い浮かべていたのは、常に私と張り合っていた者なのですから。

[エーベンホルツ] ……

[ツェルニー] まだ怒っているようですね?

[ツェルニー] それとも私への不満が大きすぎて、口もききたくないですか?

[エーベンホルツ] いや、私はてっきり……

[ツェルニー] てっきり?

[エーベンホルツ] (深呼吸)

[エーベンホルツ] ――てっきり私に不満があるのかと思っていた。

[ツェルニー] ……確かに不満はあります。

[エーベンホルツ] それは……私が貴族だからか?

[ツェルニー] それも理由の一つですが、特に重要ではありません。

[ツェルニー] 確かに私は貴族が嫌いですが、そんなことで素晴らしい音楽を否定はしません。

[ツェルニー] 貴族たちが、感染者として忌み嫌っている私の曲を演奏しているのと同じことですよ。

[ツェルニー] 恵まれた生活を送り、苦しみを知らない幸せ者であろうと、その人が音楽に対する充分な敬意と探究心を持っていれば、生きる喜びを表現できないはずはないのです。

[ツェルニー] しかしあなたの演奏は、時に技巧を誇示し、時にごまかす。全体的にまるで……

[ツェルニー] 漫然と仕事をしつつも、どうでもいいところを無駄に派手にすることで、自分は無能なのではなく、ただやりたくないだけなのだとアピールしているようです。

[ツェルニー] 私はそれを音楽に対する冒涜であると考えます。このような態度は絶対に受け入れられません。

[ツェルニー] しかし幸いにも今、それは故意ではないと証明してくれたのです。

[ツェルニー] 少なくとも、あなたにはその状態から抜け出す能力があります。

[ツェルニー] 今、私が疑っているのは、あなたの音楽教師は非常に優れた技術を持ちながら、生徒に対して無責任なのではないかということです。

[エーベンホルツ] ……そうだ、彼は確かにそういう人間だ。

[エーベンホルツ] 彼のおかげで、私はほぼすべての楽器で、それなりの演奏をすることができる。だが私は彼を腹の底から嫌悪しているんだ。

[ツェルニー] もしそれが本当であれば、その方の音楽観はおそらく普通とはかけ離れているのでしょう。

[エーベンホルツ] その通りだ。だがこれ以上彼の話はしたくない。

[ツェルニー] わかりました。

[ツェルニー] 本題に戻るとしましょう。さっきのあの感覚を忘れないようにしてください。

[ツェルニー] 今後もずっと対抗心を募らせて練習しろと言っているのではなく、先程のテンポと感情の表現、メロディの切れ目の処理、これらを忘れないように。

[エーベンホルツ] わかった。

[ツェルニー] さて、長く練習したことですし、あなたもお疲れでしょう。

[ツェルニー] 今夜は現場チェックのためにホールへ向かい、スポンサーに会う必要がありますから、あまり遅くまでは練習に付き合っていられません。

[ツェルニー] 今日はここまでにしておきましょうか。あなたとクライデさんに、飲み物を持ってくるようウルズラさんにお願いしてきます。

[ツェルニー] ウルズラさん――

[ツェルニー] ウルズラさん、どこですか?

[ツェルニー] クライデさん? ウルズラさんは?

[クライデ] ウルズラお婆さんなら、ロドスの事務所へ薬をもらいに行くと言っていましたよ。もう出てから三十分以上経っています。

[ツェルニー] 三十分以上? あちらまでそれほど時間はかからないはずですが。

[ツェルニー] 私はロドスの事務所へ様子を見に行きます。あなた方は支度が済んだらお帰りください。

[クライデ] 僕も一緒に行きます。もともと祖父の様子を見に事務所へ行くつもりでしたし。

[クライデ] エーベンホルツさんも行きますか?

[エーベンホルツ] 特に用事もないしな。

[ハイビスカス] エーベンホルツさん、クライデさん、それとツェルニーさんまで!

[ハイビスカス] ちょうどいいところに来てくれました。今ご飯を作っていたところなんですが、一緒にいかがですか?

[ツェルニー] ウルズラさんは来ていますか?

[ハイビスカス] はい。キッチンで手伝っていただいているところです――

[ウルズラ] おや、旦那様、来たのかい。

[ツェルニー] どうして料理を作っているんです? 薬を受け取りに来ただけじゃなかったんですか?

[ウルズラ] そう思ってたんだがね、アンダンテはどっかに行っちまってるし、ハイビスカスはご飯を作ってるとこだったから、邪魔したお詫びに手伝いをしてたのさ。ついでに旦那様の夕飯も用意できるしね。

[ハイビスカス] エーベンホルツさんとクライデさんもいらっしゃったなら、もっと作りましょう。

[クライデ] それと、祖父の分もお願いしていいですか。

[ハイビスカス] お爺さんはずっと寝たきりなので、私たちと一緒には食べられないかもしれません。

[クライデ] ずっと寝たきりって……病状が悪化したんですか?

[ハイビスカス] 安心してください。よくある薬の副反応なので、しばらくすれば落ち着きますよ。

[クライデ] わかりました……

[ウルズラ] ハイビスカスや、このリンゴみたいなやつは何だい?

[ハイビスカス] 健康に良いおイモですよ。まだ味付けが終わっていないので、今からやります……

[エーベンホルツ] パトロンとホールのチェックに行くのではなかったか?

[ツェルニー] その前に空腹を満たさなければなりませんからね。

[クライデ] パトロンをされている方は、きっとツェルニーさんの良き理解者なんですね。

[エーベンホルツ] ……

[ツェルニー] 良き理解者……フッ、真逆ですよ。

[クライデ] え?

[ツェルニー] 最初はその人のことを、同じ志を持った人間だと思っていました。ですがすぐに、彼女は別の道を歩む者だとわかりました。

[エーベンホルツ] 私の記憶が正しければ、『夕べの夜明け』と深く関わる例の者こそが貴殿の本当の良き理解者だったはずだ。しかしその者は曲が完成する前にこの世を去っている。

[ツェルニー] その通りです。

[ツェルニー] 今になってよくよく考えてみると、初めの頃あなたに抱いていた不満は、この曲の由来とも関係していたのかもしれません。

[ツェルニー] 『夕べの夜明け』という曲をあのように表現されて、私の心には多少なりとも不快な気持ちがありました。

[ツェルニー] ですが今のあなたは曲を理解し、私も胸のつかえが取れました。

[エーベンホルツ] これも数時間に及ぶ貴殿の厳しいご指導のたまものだな。でなければ――

[ツェルニー] 言葉にトゲが多いのもあなたの癖ですか?

[エーベンホルツ] ……そうかもしれないな。

[ツェルニー] 構いません、気にしませんので。

[ツェルニー] 私に言わせれば、音楽家にとって最も重要なのは、誠実さです。

[ツェルニー] 多少の言葉のトゲどころか、心の底からの憎しみですら、適切な技法を用いて表現できるのならば、それには意味があるのです。

[ハイビスカス] 最後のメニューも完成しました!

[ハイビスカス] ウルズラお婆さんがいてくれなかったら、これだけのお料理を作るにはもっと時間がかかってましたね。

[クライデ] こうやって一緒に食事するなんて、なんだか家族みたいですね。

[エーベンホルツ] (小声)家族……

[ハイビスカス] 家族といえば、ラヴァちゃんは本艦でどうしてるかなぁ。

[クライデ] ラヴァちゃん?

[ハイビスカス] 私の妹です。心配ばかりかけられてますけど、とってもいい子なんですよ。

[クライデ] 妹さんの話になった途端、ハイビスカスさんの目が輝きましたよ。

[ハイビスカス] えっ、そうですか? あはは。

[ハイビスカス] みんながラヴァちゃんに良くしてくれていて、あの子もそのことをわかってるんです。でもちょっと口下手なせいで、いっつも一悶着起きちゃうんですよ。

[ハイビスカス] あの子も感染者ですが、私とは違って、自分のアーツを磨くことが大好きなんです。だから食事にはより注意しないとダメなんです。

[ハイビスカス] なのにいっつも寝食を忘れて訓練するんですよ。だからあの子には毎回注意を――

[ハイビスカス] っていけない! ごめんなさい、ラヴァちゃんの話になると、ついたくさんしゃべっちゃって。

[ハイビスカス] ご飯が冷めちゃいますから、皆さん先に食べててください! 私はクライデさんのお爺さんの薬を取り替えてからご一緒します。

[エーベンホルツ] 彼女は妹が大好きなのだな。

[クライデ] 姉妹ですからねぇ。

[ウルズラ] 私はいつも思うんだ。もし旦那様にも兄弟がいれば、今よりもっと愛想が良かったんじゃないかってねぇ……

[ツェルニー] ウルズラさん!

[ウルズラ] ハハハ。

[クライデ] ハイビスカスさん、薬の交換は終わりましたか?

[ハイビスカス] もうすぐ終わります――

[ハイビスカス] 終わりました! あれ、皆さん待っててくださったんですか? ありがとうございます。

[ハイビスカス] ――では、いただきましょう!

[露店の主人] お待ち! ザワークラウト炒め一丁!

[クライデ] ありがとうございます。

[エーベンホルツ] やっとまともなものを口にできる……

[エーベンホルツ] おい待て、彼女の健康食を持ち帰ってきたのか!?

[クライデ] 確かに味はアレですけど、食べ物を粗末にはできませんし……

[エーベンホルツ] それは明日、君一人で食べてくれ!!

[ウルズラ] 旦那様、スープのおかわりはいるかい?

[ツェルニー] もう結構です……ごちそうさまでした。

[ツェルニー] 厨房に立った時に、彼女の作るものがおかしいと気付かなかったのですか?

[ウルズラ] 人様の料理だからねぇ、味見するのを遠慮しちまったんだよ。

[ウルズラ] とはいえ、ハイビスカスの料理は確かに健康には良いものなんだ。それは見てわかったさ。

[ウルズラ] 私もハイビスカスを見習って、レシピを変えてみるかね……

[ウルズラ] ちょいと旦那様、冗談だよ、待っておくれ――

[アンダンテ] ただいま!

[ハイビスカス] ご飯は食べました? どうです、私が作った――

[アンダンテ] ――ありがと! でも外で食べてきたから!

[ハイビスカス] そう? アンダンテさんの分も取っておいたんですけど。

[ハイビスカス] しばらく外に出られそうにないので、アンダンテさんに調査をしてもらうしかありません。申し訳ないです。

[アンダンテ] 気にしないで。あたしもアフターグロー区の一員だし、異常回復の原因を特定できれば、あたしにとってもいいことだしね。

[ハイビスカス] 次はデータの分析ですね……

[ツェルニー] 予想以上に素晴らしい準備ですね。

[軽薄な貴族] まことに恐縮です。

[軽薄な貴族] あなたのフェアウェルコンサートですから、多少豪華にするのは当然です。

[ツェルニー] 私が言っているのは音響機材のことです。

[軽薄な貴族] ええ、ええ。ゲルトルーデ様が、音響機材にも多額の費用をかけております。会場と機材に関するご要望につきましては、最大限ご満足いただけるものを用意しました。

[軽薄な貴族] これで、チェックはすべて完了しました……

[ツェルニー] まだ休憩室を見ていませんが?

[軽薄な貴族] そうですね、うっかりしていました。

[軽薄な貴族] こちらです。

[軽薄な貴族] おかしいですね、どうして扉が開かないのでしょう。

[ツェルニー] 中に誰かがいるのでは?

[???] その通り、中におりますわ。

[軽薄な貴族] ゲルトルーデ様?

[ゲルトルーデ] 今回のコンサートは重要ですわ。私も自らホールの設備をチェックをしなくてはと思って参りましたの。

[軽薄な貴族] 私どもの失態です! この程度のことでお手を煩わせてしまい、大変申し訳ございません!

[ゲルトルーデ] 構いませんわ。

[ゲルトルーデ] 先程の声はツェルニーですよね?

[ツェルニー] ええ。中で何をされているのですか?

[ゲルトルーデ] 休憩室内の設備を確認していますの。

[ゲルトルーデ] この休憩室は、あなたや演奏者をそれなりに満足させるものでしょうけど、私からしてみれば不十分な点がたくさんありますわ。

[ツェルニー] はぁ……

[ゲルトルーデ] 鏡の水跡、引き出しの取っ手の錆、絨毯に開いた小さな穴、これはまだほんの一部ですわ……

[ツェルニー] 前も言ったはずです。このコンサートはそこまで豪勢である必要はありません。使えればいいのですよ。

[ゲルトルーデ] パトロンとしてそれは認められませんわ。あなたとあなたの部下のパフォーマンスが、私の評判に深く関わるんですもの。

[ツェルニー] 何度も言ったはずです。彼らは自らの意志でコンサートに参加する演奏者であって、私の部下ではありません!

[ゲルトルーデ] 招待客からすれば、どちらも一緒ですわ。

[ツェルニー] ……好きにしてください。

[ゲルトルーデ] すぐに扉をお開けしますわ。どうぞご自分の目で中の設備をご確認ください。

[ツェルニー] 必要ありません、お構いなく。

[ゲルトルーデ] 本当によろしいの?

[ツェルニー] 全く興味ありません。もったいぶった態度はやめてください。

[ツェルニー] あなたも私の顔を見たくないでしょうし、お互い不快な思いをするのはやめましょう。

[軽薄な貴族] (小声)ミスター・ツェルニー、少々言い方が……

[ツェルニー] 彼女との会話はいつもこうです。

[ゲルトルーデ] ではお好きになさって。私は引き続きここで必要なチェックを行いますわ。

[ゲルトルーデ] 私のこうした雑務が、コンサートの助力になることを心から願っておりますわ。妨げではなく、ね。

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