aklib_story_狂人号_SN-ST-3_無人の大通り

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狂人号_SN-ST-3_無人の大通り

AUSと出会った狩人たちは、町が攻撃を受けていることに気付いた。彼女らが町を守って戦う中、エリジウムはウルピアヌスによる襲撃を受ける。その頃、スペクターはアマイアとの邂逅を果たしていた。


[大審問官] アイリーニ。

[審問官アイリーニ] あ、はい、師匠! ……失礼しました、上官!

[大審問官] 大丈夫か?

[審問官アイリーニ] っ、はい……問題ありません。

[大審問官] ……グランファーロは、単なる小さな田舎町だ。恐らく、多くの地図にはその名前すら載っていないほどだろう。

[大審問官] だが、これはカルメン閣下からの依頼である上に、ケルシー医師とあのエーギル人たちにも関係している話だ。

[審問官アイリーニ] 理解しております、上官! ですので――

[大審問官] それを踏まえて、お前の中で答えが出ていないようなら、同行は許さん。

[審問官アイリーニ] ですが、審問官となって上官についていくと決めた時点で、私の覚悟はできております!

[大審問官] お前が導き出した答えが、これまで見聞きしてきたことと折り合いのつくものでないのなら、そう簡単に結論を出すべきではない。

[大審問官] いいか、アイリーニ。無駄死にはするな。お前は我々の立ち向かうものが何かを理解しているのだから、自分なりの答えを出さねばならない。

[審問官アイリーニ] 私は――

[審問官アイリーニ] ……わかりました、上官。

[グレイディーア] ケルシー。

グレイディーアの口ぶりに変わりはなかったが、その足取りは心情を表していた。

一陣の風が吹くほどの瞬きの間に、彼女はケルシーのそばに立っていた。

[ケルシー] 苦労をかけたな、グレイディーア。

[グレイディーア] 裁判所は、あなたに何もしなかったようですわね。

[ケルシー] イベリアが未だ沈まずに在ることは、彼らがまだわずかな謙虚さと警戒心を持っていることの証左だからな。

[グレイディーア] では約束通り、方法を見つけ出してくださいましたのね。

[ケルシー] ああ。だが……

[ケルシー] ……イベリアが憂慮を捨て去り、向き合ってくるとして、エーギルは――

[ケルシー] 君たちはどうする?

[グレイディーア] ほかに選択肢がないのなら……そして、一時的に手を結べば、海に帰ることが叶うというのなら、喜んでご協力いたしましょう。

[Alty] やっとイメージ通りのエーギル人が来たわね。まさに波そのものっていうか、海みたいな感触と煌めきを思わせるっていうか……

[Alty] こんにちは、特別なエーギルさん。ほかのメンバーにはもう会ってそうね。

[グレイディーア] ええ。そう仰るということは、あなたもAUSの方ですのね?

[Alty] ベース担当のAltyよ。よろしくね。

[Alty] それで、外はどんな感じ?

[グレイディーア] 深海教徒たちが総出で押し寄せてきたところですわ。数だけは大勢いるようですけれど、貧弱でお話になりませんのよね。

[グレイディーア] あの程度なら、私たちだけで十分ですわ。

[ケルシー] 言っておくが、グランファーロの問題を解決してからでなければ、裁判所の協力は得られない。

[グレイディーア] であれば、すぐに始めましょう。

グレイディーアは矛を高く掲げ――

それと同時に、とある異変を感じ取った。

[グレイディーア] ……!

[グレイディーア] ……まさか、この恐魚たちに混ざり合っているのは……いいえ、そんなはずはないわ……

[ケルシー] ――私だ。

[エリジウム] ケルシー先生、聞こえますか!? 奴らの目的は――

[ケルシー] ……エリジウム? 応答しろ。

[グレイディーア] どうかなさいましたの?

[ケルシー] オペレーターに危険が迫っているようだ。

[グレイディーア] やはり、ここには何かが潜んでいるのですね。

[ケルシー] ……Alty。すでに伝えた通り、AUSは陸で待機してもらうだけでいい。

[ケルシー] 我々は可及的速やかに問題を解決してくる。

[Alty] ええ、それじゃ待ってるわね。

[Alty] その冒険を音楽で彩ってほしくなった時は言ってちょうだい。いつでも手伝ってあげるから。

[スカジ] ……いくらなんでも弱すぎるわ。

[スカジ] こんなふうに次々向かってくるなんて、時間稼ぎでもしているか……

[スカジ] ……もしくは、何かを撒き散らしている……とか?

[スカジ] 何にせよ、黒幕を見つけないとね。

[恐魚] ――ガアァッ!

[スペクター] ……

[スカジ] スペクター。

[スペクター] ……?

[スペクター] ああ、スカジ……お久しぶりです。ここにいらしたのですね。

[スペクター] 何かご用ですか?

[スカジ] ……調子はどう?

[スペクター] 快調です。ほんの少し、眠気はありますけれど。

[スペクター] あら? 私たち、戦いの最中でしたか? ……この海の香り……思い出しますね、故郷の匂いを。

[スペクター] ですが……故郷? 私の故郷は……

[恐魚] グアアァッ――!

[スペクター] ……海。

[スペクター] 海の匂いが、段々と強くなってきていますね。私たちは帰ってきたのでしょうか? 今いるのは、帰り道の途中かしら?

[スカジ] ……ええ、私が保証する。きっとそうなるわ。スペクター……ローレンティーナ。

[スペクター] では、教えてください。……目の前にいるのは、何なのでしょう?

[スカジ] 目の前って……

その時、通りの反対側から鼻歌混じりに歩いてくる人影が見えた。

町民のパニックにより、町は大変な騒ぎになっていたが、若きFrostは何一つ気付いてすらいないかのようだった。彼女は空気をかき鳴らし、頭の中で音楽を奏でていた。

[スカジ] ……ッ!

[恐魚] ギュ、ゥルル……

[スカジ] ……この恐魚たち、あの人には近付かないのね。というか、まるで彼女の存在に気付いてないみたいな……それにしても、あの仕草……何か演奏でもしているのかしら?

[スペクター] 素敵な曲でしょうか?

[スカジ] さあ、わからないけど。

[スペクター] では、お伺いしてみましょう。

[スカジ] ちょっと、待ちなさい!

[エリジウム] はぁ、っはあ……

[エリジウム] (追ってきてない……のか? なら、今のうちに……)

[エリジウム] ……って、壊れてるじゃないか!?

[エリジウム] まさか、さっきの一撃で……? 嘘だろ、ちゃんと避けたはずなのに……

[ウルピアヌス] ……もう一度言おう、イベリア人。その資料は破棄すべきものだ。

[ウルピアヌス] 五体満足でいたければ、俺の言うことを聞くんだな。

[エリジウム] (くそっ、なんでこんなに速く動けるんだか……!)

[エリジウム] ……おかしいなあ。君の仲間は急いでここを離れるために、この資料を燃やしてたんだよね。

[エリジウム] でも、君はそんなに腕が立つんだし、誰かに取られたとしても、奪い返すのは簡単じゃないか。なのに、どうしてそこまでこいつを燃やしたがってるのかな?

[ウルピアヌス] 「仲間」だと?

男は、屈辱に掠れた声で、低く呻くようにそう呟いた。

[ウルピアヌス] 奴らは……仲間などではない。

[エリジウム] だったら何なの?

[ウルピアヌス] 貴様には関係のないことだ。……今すぐその資料を渡して、ここから立ち去れ。

[ウルピアヌス] たとえ貴様が裁判所の人間でも、あるいは他国の人間でも……

[ウルピアヌス] ……!

[エリジウム] (なんで止まったんだ……?)

[ウルピアヌス] まったく……いつまで経っても、お前たちはやはり鋭いな。

謎めいたエーギルは、ある方向に視線を向けた。

「仲間」。

[ウルピアヌス] (エーギル語)俺たちの血は繋がっている。しかし今は、お前たちはエーギルに近付いてはならない。

[エリジウム] ――っ!

エリジウムはその一撃を躱した。しかし同時に、それを避けられた理由を理解することとなった。

彼が手にした黒焦げの紙束は、振り下ろされた剣の生む風に巻き上げられ――真相は無数の紙片となって、舞い落ちていった。

[エリジウム] しまった……!

[ウルピアヌス] (エーギル語)彼女らはまだ、エーギルに帰るべきではない。あの独断専行を放っておけば、エーギルの滅びを早めてしまうことになるだろう。

[ウルピアヌス] (エーギル語)たとえ、エーギルがとうの昔に……滅亡の道を自ら選んでいたのだとしてもな。

[聖徒カルメン] 近付いてくる恐魚はもういないようだな。

[聖徒カルメン] こうも海が近くては、あれほどいるのも頷ける。だが、お前たちは一体どこに隠れていた?

[傷付いた深海教徒] ぐ、っ……ぁ、やめろ……そ、その灯りを、近付けるな……!

[聖徒カルメン] 答えよ。このグランファーロで何を企んでいる?

[傷付いた深海教徒] た、頼む……! 灯りを、灯りを遠ざけてくれ……!

[聖徒カルメン] 私は、答えよと言ったのだ。

[傷付いた深海教徒] っ……

[傷付いた深海教徒] ね、狙いはあれだ……向こうにある、あの……

[聖徒カルメン] ふむ。

カルメンは振り返って、深海教徒が指し示したほうを見た。

そこには、広場の真ん中に鎮座する彫刻があった。

[聖徒カルメン] ……なるほど。

[聖徒カルメン] グランファーロといえば、灯台だ。お前たちがあれを探すのも当然のことだろうな。

[傷付いた深海教徒] お願いだ……アーツを、止めてくれ……うぅっ……

[聖徒カルメン] あの偉大な建築物は、昔、貴族たちから「イベリアの眼」と賞賛されたものだ。かつて、イベリアの海岸にはこうした灯台が何十基と建てられていた……

[聖徒カルメン] たとえ、リターニアの巫王の高塔が破壊されておらずとも、海を見守る我らの巨塔に匹敵するものなどなかったことだろう。

[聖徒カルメン] あの灯台は、この大地に残されている人類文明の痕跡の中で、最も偉大なものなのだ。

[傷付いた深海教徒] 海、が……ごほっ……イベリアの眼、を……

[傷付いた深海教徒] 神の、奇跡が……あの冒涜の塔を、破壊したのだ……ぐ、ああっ……その、灯りを……近付けるな……!

[聖徒カルメン] 確かに、大いなる静謐は灯台のほとんどを破壊した。辛うじて残されたものも大部分は使用に耐えない状態だ。

[聖徒カルメン] ――お前たちは、一体何を企んでいる?

[傷付いた深海教徒] ……

[聖徒カルメン] なるほど。察するに……

[聖徒カルメン] お前たちは、最後の一基となったあの灯台が、稼働可能だということを――そして、グランファーロにおける全計画の最終目的は、イベリアの眼を守ることだという事実を、知っていたのだな。

[聖徒カルメン] ゆえにこの地へと根を下ろし、時を待っていた、と。

[傷付いた深海教徒] ……貴、様……

[聖徒カルメン] よもや裁判所の中枢にまで背信者が潜り込んでいたとはな――奴らはどこにいる?

[傷付いた深海教徒] ……フッ……ハ、ハハハッ……

[傷付いた深海教徒] そうして、喋っている間にも……事は、進んでいくんだ……!

[傷付いた深海教徒] 見てみろ……お前の、足元を……! 己の、視野の狭さを……思い知るが、いい……ハハ、哀れな奴め……!

[聖徒カルメン] ――何?

[瀕死の恐魚] ……

[瀕死の恐魚] ……グギュ、グ、ギュギュ……

[聖徒カルメン] ……これは――

[聖徒カルメン] 恐魚が……光っている?

[聖徒カルメン] この光る斑点のようなものは、一体……?

[ケルシー] カルメン閣下、離れてください!

[聖徒カルメン] ッ……!

[ケルシー] Mon3tr!

[Mon3tr] (待ち切れなさそうに低く唸る)

[ケルシー] メルトダウン。

[Mon3tr] (情熱的な雄たけび)

[スペクター] ごきげんよう。

[Frost] (ひと際穏やかなソロを奏でる)

[スペクター] なんだか……懐かしい匂いのする方ですね。それが何なのか、あなた自身はご存知なのでしょうか?

[Frost] (ひと際情熱的なソロを奏でる)

[スペクター] ……素敵な旋律。ですが、私の知るものとはまるで違いますね。

[Frost] ……なら、君の知るそれは?

[スペクター] ……

彼女が祈る時、星のきらめきも止まる……♪

彼女が涙する時、夜空も微笑む……♪

彼女が嘆く時、苦痛が狂気に延び広がっていく……♪

[Frost] ……エーギルの歌か。哀愁を感じる。

[Frost] だが、私は好きじゃない。それは過去に在り続け、熱意や無益な感傷を捨て去ってしまうものだ。エーギルと同じように。

[スペクター] まあ、残念です。

[Frost] ――おかえり、エーギル人。

[スペクター] ……? 私、帰ってきたのでしょうか?

[Frost] 歌ってみろ。

[Frost] 自分を取り戻すために。

[スペクター] 歌うのですか?

[スペクター] そうすれば……何かを、思い出せるのかしら?

[Frost] 歌えば、過去に出会うことができる。どの道、君はいずれ、自分の運命と向き合うことになるんだ。あるいは、運命のほうから君を訪ねてくるかもな。

[Frost] 少なくとも、海を出たあとの私は、ずっとそうしてきた。

[スペクター] ……変わった方。ですが、私も歌は嫌いではありません。

[スペクター] ひとまず、歌ってみましょう。

[スペクター] ……♪ ……♪♪

[スペクター] 彼女が祈る時、星のきらめきも止まる……♪ ……

......

...

[アマイア] ……相変わらず、哀愁に満ちた歌声ですね。

[スペクター] あら……どなたですか?

[アマイア] ローレンティーナ。こんな状況でまたあなたに会えるなんて、思ってもみませんでした。

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