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将進酒_IW-ST-2_万物に霊あり
リャンが隠していた酒杯を謎のバウンティハンターに奪われ、リーはドゥと協力して追いかけることに。動く器物も次第に増え、事態をややこしくしていく。
夜が明ける。
ふいに、尚蜀に来てから一度も満足な睡眠をとっていないことに気付いた。
外が騒がしい。どうも何者かがやり合っているらしい。
誰なのかは知らないが、これだけは分かってる。双方が争っている原因はおれと、あの酒杯だ。
おれは人や物事を見極める目に関しちゃ自信がある。この件も、簡単には終わらないと予感している。
おれは予感も割と当たる方だ。だから手紙を二通用意して、机の上に置いておいた。
[リー] ……やっぱり、我らがリャン様の手を煩わせるのはナシだな。
[リー] しかし興味深いねぇ。梁府ってのは好き勝手出入りし放題な場所なのか? いくらリャンが親しみやすい知府だっていうにしても、さすがに不用心すぎないか。
[リー] はぁ……
[ドゥ] 待ちなさい!
[急いでいる女性] (レム・ビリトン語)チッ、こいつは言われたリストに載ってないよ……!
[ドゥ] ……もう逃げられないわよ。
[ドゥ] ……誰の差し金!?
[急いでいる女性] ……
[ドゥ] 待って、あんたそもそも炎国人じゃないわ! どこから来たの?
[リー] ……はいはい、ちーと失礼しますよ。人が気持ちよく休んでる部屋の前で、一体なんの騒ぎです?
[ドゥ] あら、あんた爆睡してるんじゃなかったの?
[リー] こちらの方は……
[リー] (この獣たちは、長鼻眠獣か?)
[急いでいる女性] ……
[ドゥ] こいつ外からあんたの部屋をうかがってたわよ。きっとろくなこと考えてないわ。
[急いでいる女性] (レム・ビリトン語)こうなったら、いっそのこと……
[リー] えーっと、そっちのレム・ビリトンからきた嬢ちゃん、あまり焦りなさんな……
[リー] ここは尚蜀ですからね、おれはまぁ構わないんですが、そこの役人の親玉を怒らせたら、お前さんも面倒でしょう。
[急いでいる女性] (レム・ビリトン語)……私の言葉がわかるの?
[リー] 伊達に歳食ってませんもんで。
[リー] 嬢ちゃんお名前は? わざわざこんな訪ね方をするなんて、おれになんのご用でしょう。
[急いでいる女性] ……
[イェバン] 夜半(イェバン)。
[ドゥ] あんた炎国語を話せるのになんで無視するのよ!?
[リー] レム・ビリトン人が、炎国の名前をお持ちで?
[イェバン] 名前はどうでもいいでしょ。ターゲットと会話することは滅多にないけど、私もこの都市じゃ面倒事は起こしたくないからね。
[イェバン] 計画もなし、仕掛けもなしの狩りはやっぱり失敗しやすいね。
[ドゥ] 諦めることね。このあたしがいるからには、あんたにどんな企みがあろうと無駄よ。
[リー] ……ドゥ嬢ちゃんはほんと真っ直ぐですねぇ。
[イェバン] ……君たちグルだったんだね。
[イェバン] でも、目の前にばっかり気を取られるのはよくないよ……
[イェバン] ライト、ドリル!
[近くの獣の鳴き声] グゥッ――!
[リー] (まだ眠獣がいたのか!)
[ドゥ] ちょ、そいつ酒杯をくわえてるわよ!
[イェバン] じゃあね!
[ドゥ] 待ちなさい!!
[ドゥ] ちょっと、なにぼさっとしてんのよ! 追うわよ!
[リー] ……眠獣は炎国にゃ生息してない生き物です。ましてやあれだけ多くの眠獣を飼い慣らして盗みを働くなんてねぇ。きっとほかの場所からずっと追いかけてきてたんですよ。
[リー] ……うーん……
[ドゥ] 何考えてるのよ? このあたしがいなければ、あんたは危うく殺されるところだったのよ!
[リー] あの嬢ちゃんにおれの命を奪うつもりはなかったと思いますよ。
[ドゥ] ……酒杯を奪われたのに全然気にする様子がないし、あんたリャン様のお咎めが怖くないの?
[リー] 酒杯が盗まれて、お前さんの望みは叶ったでしょう。これでちょうどよかったのでは?
[ドゥ] ……そうだけど、ブツの行方が分からなくなったじゃない。事があたしたちの手を離れて、もっと大きくなったらどうするつもり?
[ドゥ] あたしはテイのじじいにちょっとほえ面をかかせたいだけで、鏢局を潰したいわけじゃないのよ。
[リー] ……リャンは?
[ウユウ] 恩人様、それは、そのお話は……あまりに常軌を逸しています。その……す、少し消化させてください。
[クルース] しょうがないよぉ。ニェンさんと付き合いが長い私でも、受け入れるのに時間がかかったからぁ。
[ウユウ] ……しかも恩人様は包み隠さずすべてを教えてくださいました。
[クルース] ウユウくんもロドスのオペレーターだからねぇ。
[ウユウ] 恩人様のおっしゃる通りですね。
[クルース] でもぉ……私たちがどう返事するにしても、ロドスが大きな国の上層機関に目をつけられるって……結構な問題だよねぇ。
[ウユウ] 司歳台に、礼部、名を聞くだけでも震え上がりそうですよ。
[ウユウ] しかし彼らに悪意があるようには聞こえませんが?
[クルース] ……私たちは「ニェンさんの家庭の事情」を簡単に考え過ぎていたのかもねぇ。
[クルース] はぁ、本当なら少なくともアーミヤちゃんとドクターに知らせてから決めるべきなんだけどぉ……
[クルース] でもクロージャさんやアーミヤちゃんが、この件を知らないはずないし……それでも彼女たちはニェンさんの当時の要求を承諾してるわけだし……
[クルース] ラヴァちゃんは事務所に連絡してくれてるかなぁ。
[ウユウ] 恩人様、怒濤のごとく次々と事態が起きている今、我々も多少は保守的に動くべきなのでしょうか? それとも……
[クルース] ……まずはリーさんとこの件について話し合おっかぁ。ニェンさんはともかく、シーさんは適当なことを言う人じゃないからねぇ。
[クルース] もしシーさんがあの日言ったことが本当なら、この件はかなり面倒だろうねぇ。
[ウユウ] 冷静かつ妥当な判断です、さすがは恩人様!
[クルース] でも炎国の司歳台が訪ねて来ちゃったからねぇ、もう妥当も何もないよぉ――
[クルース] ――
[奇妙な物体] ……
[ウユウ] ……恩人様? 何をずっとご覧になっているのです?
[クルース] これってぇ――
[奇妙な物体] グォッ!
[クルース] ――! ウユウくん、よけて!
[ウユウ] ……よよ!
[ウユウ] な、何ですかこれは……!?
[奇妙な物体] ヴゥ……
[クルース] えっ、これは……金属の生き物?
[クルース] えっと、茶壺に、掛け軸……みんな生きてる――!?
[ウユウ] こいつら一体どこから――え、茶壷に足が生えたですと!?
[奇妙な物体] グォッ――!
[クルース] ……うわっ!
[ウユウ] 恩人様危ない!
[ウユウ] よし、一撃入れましたよ!
[奇妙な物体] (悲しげな鳴き声)――!
[クルース] 効いたみたいだよぉ――!
[ウユウ] ――あれ、こいつ、ただの文鎮に戻りましたね……?
[クルース] (まずい――そこら中にいる――!)
[奇妙な物体] グォッ!
[クルース] うっ!
[ウユウ] ――恩人様!
[興味津々な市民] なんだなんだ? なに騒いでるんだ……えっ、うわっ、花瓶が急に動き出した……?
[パニックになる市民] キャー――どういうこと! 何なのこれ!?
[ウユウ] こいつら本当にどこから……!?
[ウユウ] (うっ! 何か踏んだ?)
[ウユウ] これは――恩人様のポケットから落ちたのでしょうか?
[ウユウ] ――!
[奇妙な物体] ……ヴゥ?
[クルース] ……ウユウくん!
[奇妙な物体] グォッ――!!
[ウユウ] チッ!
[ウユウ] どうして、どいつもこいつも、急にこっちめがけて突っ込んでくるんだ!?
[クルース] もう一匹!
[ウユウ] !
[ウユウ] 危なかった! ありがとうございます恩人様!!
[クルース] いてて~……
[ウユウ] これはどういうことでしょう? また賊どもに付け狙われてのことでしょうか?
[クルース] ……なんか、この生き物たち、どこかで見たことがあるような気がするんだよねぇ……
[ウユウ] おお、そういえば! シー嬢の墨魎と手法は違えど、どことなく通ずるものがございませんか!
[奇妙な物体] ヴゥ……
[ウユウ] わわ、まだ残りが?
[クルース] この子たち、ニェンさんがラヴァちゃんに預けた護符に向かってきてるのは間違いなさそうだねぇ――
[クルース] ――なら本当に墨魎と変わらないよぉ!
[リャン・シュン] ……
[リー] ……リャン!
[リャン・シュン] リーか。
[リー] 賊が入ったようだが、酒杯が盗まれたか?
[リャン・シュン] ああ。獣使いが操る野獣にやられたようだ……私の不注意だ。
[リー] 荒野の眠獣の体内には特殊な器官があって、催眠物質を分泌することができる。
[リー] だが尚蜀にはこんな生き物いやしないから警戒も薄れて当然だ。眠獣の使役ができて、本人の武芸の腕も上々ときたら、確かに盗みには適任だろうよ。
[リャン・シュン] ……
[リー] しかも客桟の方とは、また違う勢力ときた。
[リャン・シュン] そのことまで知っていたのか?
[リー] あーあ落ち着いた顔しちゃってまあ。おれが気づいてることくらいはとっくに見当ついてたんだろう?
[リャン・シュン] ……うっ。
[リー] ほぉん、なんだ。その表情を見るに、今回は本当に予想外だったようだな。
[リー] 思い当たる相手は?
[リャン・シュン] ……酒杯を隠していた場所は、誰にも教えていない。
[リー] 他の奴らには酒杯はおれが持ってるというべきだったよ。
[リャン・シュン] ……確かにそう言ったはずだが。
[リー] ……あっそう。
[リー] しかし、この書斎を見てみろ。どこも几帳面に整ったまんま、お前さんが酒杯を隠してある箱だけがなくなってる。
[リー] 書斎に入れるのは誰なのか、こんな短い間に人をやって盗めるのは誰なのか……お前はとっくに目星が付いてるんじゃないか?
[リャン・シュン] ……
[リー] ――いやぁ、おれには言ってくれるなよ。役人社会のごたごたには巻き込まれたくないんでね。
[リー] 知りたいのはいっこだけだ。そいつの背後にいる奴をおれが引っぱり出してやる必要はあるか?
[リャン・シュン] ……まずは酒杯を奪い返してくれ。
[リャン・シュン] それと持ち主を探す件も……早くしなければならない。
[リー] ……おーい、嬢ちゃん。
[ドゥ] あたしには名前があるのよ!
[ドゥ] ったくあんたはいつも悠長に……リャン様はなんて言ってたの?
[リー] ちょっとした面倒事らしいですよ。でも今回は確実に、嬢ちゃんの親父さんとは無関係のようだ。
[ドゥ] チッ……
[リー] どうやらドゥ嬢ちゃんは、やっぱり親父さんのことを思ってるみたいですねぇ。
[リー] 口では鏢局の若いのが不満を持ってるとか、この仕事は受けたくないとか言ってても、実はほかに何か考えがあるんでしょう?
[ドゥ] い、今はあたしのことはいいの! あんたわかってるなら、さっさとあいつを見つけ出す方法を考えなさいよ!
[リー] 難しくはありません。
[ドゥ] あのイェバンとかいう奴、並の腕前じゃなかったわ。そんな簡単に捕まえられるの?
[リー] ところが不思議なことにね、凄腕であるほど、引っかかりやすいんですよ。
[リー] そんなことより、レム・ビリトン人である彼女が一体どうやって尚蜀まで追いかけてきたのか。そして背後で指示しているのは誰なのかの方が大事ですよ。
[ドゥ] 龍門から来たんじゃないの?
[リー] おれは龍門から尚蜀まで走り詰めだったわけじゃないんでね。龍門から追ってきたら、途中の信使宿場で奪いにくるはずですよ。わざわざ梁府で事を起こす意味はないんだから。
[リー] それに一人のレム・ビリトン人が、なりふり構わず知府を襲撃するなんて、彼女が馬鹿でなけりゃ利用されてるのが相場でしょう。
[ドゥ] ふっ、それってどっちも彼女が馬鹿だって言ってるじゃない?
[リー] そうとも限りませんよ。人は時に馬鹿なふりをするもんです。
[ドゥ] どんな時?
[リー] 人に頼みがある時ですよ。
[ドゥ] ……遠回しにあたしの悪口言ってない?
[リー] いえいえ滅相もない。
[ドゥ] あんたが部屋に残した手紙で、ロドスは本当に動いてくれるの?
[リー] おれらの仲ってやつでねぇ。
[ドゥ] ……そんなに親しいの?
[リー] 善人同士は通じ合うもんですから。
[クルース] 扉が開いてるよぉ……でもリーさんは~?
[ウユウ] やや恩人様、ここに二通の手紙がございます。一通は私たち宛てのようですよ!
[クルース] どれどれ~……
[ウユウ] 恩人様、前々から気になっていたのですが、このリー兄さんとは一体どのような方なのです?
[クルース] ……うーん。
[クルース] 探偵で、前からロドスと付き合いがあるんだよぉ……というより彼の事務所の人がロドスとやり取りしてたかなぁ。
[クルース] そうこうするうちに、リーさんとも知り合ったんだぁ。
[ウユウ] 探偵でしたか……それで得心がいきました、道理でかくも思慮深いわけです。装いから、アーツに多少の心得がある天師ではと思っておりました。
[ウユウ] それで手紙には何と?
[クルース] えーっとぉ……
[クルース] 自分で見てみてぇ。
[ウユウ] 「酒杯は奪われました。渡し場にいるシェンという者を訪ねてください」。それと……
[ウユウ] こ……これは明らかに我々を頭数に入れてますよ! シェンさんというのは、あの船頭のことでしょう? 今思えば確かに少し怪しいかもしれませんね。
[クルース] この件をしっかり解決しないと、ロドスにずっと面倒事がつきまとうことになるよぉ。今はリーさんの言うとおりに動いた方がいいと思うなぁ。
[クルース] ……リーさんは、この件が複雑になることを予想してたから、最初は私たちを巻き込みたくなかったのかなぁ……まさかとっくに考えてたのぉ?
[リー] ……
[ドゥ] どうしてさっきから黙り込んでるのよ? まだほんのちょっとしか歩いてないし、疲れるには早いわよ?
[ドゥ] あんたの残した手紙、あいつらが言うことに従ってくれるってどうしてわかるのよ?
[リー] そいつをドゥ嬢ちゃんのような若い方に話すのは、わざわざ恥をかきにいってるようでどーもねぇ。
[ドゥ] そうやっていっつも年寄りぶった口きいて……だからあんたたちみたいなペテン師は嫌いなのよ。
[リー] いえいえ、おれはこれでも、きちんとお上に認可された探偵事務所の社長ですよ?
[ドゥ] 探偵事務所の社長なら絶対に探偵なの?
[リー] おっと……
[ドゥ] あんた、本当にあの酒杯の持ち主を探すためだけに、こんな苦労してるわけ? 他に思惑があるんじゃないの?
[リー] もちろん。おれにも問いがありまして、そいつの答えが欲しいんですよ。
[ドゥ] 人の質問にもまともに答えないくせに……はぁ。それであのイェバンとかいう泥棒は、本当にあんたの言う通りまだ尚蜀にいるの?
[リー] リャンの書斎の、どこに何があるかを知り尽くしている者が裏で糸を引いてるはずですよ。イェバンがそいつを訪ねるなら、尚蜀のどこかにいるはずだ。
[ドゥ] 万が一逃げちゃってたら?
[リー] レム・ビリトン人が知府の物を盗んでおいて無事にこの地から逃れられるなら、それはきっと彼女を逃した人物がいるからですよ――そうでなければ、彼女は逃れられるはずがありません。
[ドゥ] そんなに確信があるの?
[リー] 実のところ、そんなに。賭けみたいなもんですね。
[ドゥ] それってもう手遅れなんじゃないの!?
[リー] なぁに、もし本当に逃げられても、ドゥ嬢ちゃんみたいな助っ人がいれば、きっと捕まえられますって。
[ドゥ] なにお気楽なこと言ってるのよ! 人任せにもほどがあるわよ!
[リー] ですがねぇ、相手は事を構えるつもりで整えてきてるんですよ。こんな広い尚蜀で、隠れようとしてる相手をそう簡単に見つけ出せますかい? 地道に探すつもりですか?
[ドゥ] なら何に頼るって……待って……
[リー] あの古臭い酒杯が欲しいのはおれじゃありません。
[リー] ちょうど欲しがってる人がいることですし、ここはひとつ、畔に釣り人が何人来て、どんな大物がかかるか見ていましょうや。
[ドゥ] あんたもしかして誰か見当ついてるの……?
[リー] おれがやらなきゃいけないのは、きちっと関係者に席についてもらうことですからね。
[ニン] ……リャン様が朝早くから私を呼び出すとは、珍しいこと。
[リャン・シュン] ニンさん……
[ニン] 途中の庭園でツバキが咲いていました、ご覧になりましたか?
[リャン・シュン] あなたが植えたものです。
[ニン] そうです。綺麗に花ひらいたのは、あなたが大事にお世話をしてくれたおかげでもあります。
[ニン] リャン様はご自身の中庭に、何が植っているかは全くご興味ないですものね。おかげで今となっては私の暇潰しの場所。
[ニン] 次は紅梅でも植えようかと思っているんですよ。
[リャン・シュン] ……好きになさってください。
[ニン] どうしてそう、落ち着かなさげなのですか?
[リャン・シュン] ニンさんに教えてほしいことがあります。
[ニン] ……
[リャン・シュン] ……
[ニン] ……あら続きは? リャン様はいつからそんな、ぐずぐずとはっきりしない方になったんですか?
[リャン・シュン] 例の友人に関してです。
[ニン] お友達? リャン様は私がご友人に何かしたとでも考えているんですか?
[リャン・シュン] このリャン・シュン。ニンさんを疑ったことはただの一度もありません。
[ニン] ……本当ですか? それが真実であるなら、なぜわざわざ私に問うのです?
[リャン・シュン] いや、確かに信じているのです……
[ニン] あなたの顔を見るために足を運ぶのを厭いはしません。けれど、私を呼び出したのはその質問のためだけですか?
[リャン・シュン] もし不快に思わせてしまったなら、謝ります。
[ニン] ふふ、どうしてそう緊張なさっているのです。私がそんなに恐ろしいですか?
[リャン・シュン] ……
[ニン] 昨日は朝から趙(チャオ)さんの宝飾店へ行き、あなたがくれた腕輪のお手入れを。お昼は、前から大きなダイニングテーブルに替えたいと思っていたので、文(ウェン)ちゃんのお店へ……
[ニン] その後ウェンちゃんと一緒に、渡し場へと彼女の旦那さんに会いに行きました。
[ニン] 午後はみんなで一緒に胡(フー)料理長の所で食事をしておしゃべりして……
[リャン・シュン] ……
[ニン] ……最後はバイおじさんの所へ行って、彼が生徒さんたちに陶芸を教えるのを見て、散歩に付き合いました。
[ニン] ほかに何か聞きたいことはございますか?
[リャン・シュン] ……私が贈った腕輪はごく普通な銀製品です。大して高価な物ではありません。
[ニン] あら、高価じゃなければ好きになってはいけませんの?
[リャン・シュン] バイさんは先日風邪をこじらせたと聞きました。もう若くありませんし、身体によく気をつけねばならないお歳です。
[ニン] ありがとうございます、気に留めておきますね。
[ニン] ですがバイおじさんは尚蜀でもう十年ばかり陶工をしており、毎日午後には必ず三時ほど仕事をなさいます。
[ニン] 習慣となってますので、言っても聞きませんよ。
[リャン・シュン] 昨日一日で、その五人に会ったのですか?
[ニン] ええ、いつも通り。
[リャン・シュン] そうですか。
[ニン] それで、質問を終えたリャン様は、このままそそくさ出かけるつもりですか?
[リャン・シュン] ……まもなく朝です。
[ニン] この時間に劇場へ行くのは少し早いですよね?
[リャン・シュン] ……ええ。
[ニン] ご存知のように私も少々身体が弱いことですし……
[リャン・シュン] では熱い茶でも淹れましょう、待っていてください。
[ニン] はい。
[リャン・シュン] そうだ、昨日私の書斎から持っていったあの本は……読み終わりましたか?
[ドゥ] あら、もう朝ね。
[リー] ……ですが雪はまだ解けてません。
[リー] ところで、おれにも嬢ちゃんに聞きたいことがあるんですが。
[ドゥ] なに?
[リー] お前さんには……こいつらが見えますかい? ますます数を増やしてますが。
[奇妙な物体] ヴゥ……グォッ!
[ドゥ] ……何よこれ?
[奇妙な物体] ヴゥ……
[リー] ……
[リー] もしこいつらがあの酒杯と関係してるんなら……
[リー] この道を選んだのは正解だってことですねぇ。
[イェバン] (……追ってきてない? さすがにちょろくない?)
[イェバン] (次は……手紙にはなんて書いてあったっけ……あの講談師は鞍替えしたの? 陶工? 陶工って何……)
[???] どこへ行くんだ?
[イェバン] ――誰!?
[テイ] ……あの「行方不明」の酒杯を、どうして君が持っている?
[墨魎] ……ガァッ……
[奇妙な物体] グォ?
[墨魎] ……ガァッ……!?
[奇妙な物体] グォッグォ!
[墨魎] ガ……ガァッ……?
[墨魎] ガァッ……
[奇妙な物体] グォ……
[シー] ……
[シー] ……やっぱりここにいたのね。
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