aklib_story_将進酒_IW-4_持燭人_戦闘後

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将進酒_IW-4_持燭人_戦闘後

ズオが再びクルースに接触し、炎国司歳台の存在を明かしてロドスに協力を申し出た。リーとリャンは酒を飲み、酔っている間、ある恐ろしい真相を垣間見た。


[リー] 今日は成果なしか……

[リー] ……龍門の探偵事務所でだったら、こんな面倒なことはなかったんですがね。

[船頭] リャン様から与えられた手がかりが少なすぎたからですか?

[リー] いんや、龍門には……ツテが多いんですよ。

[リー] 尚蜀での友人はあの出不精のリャン様を除くとシェンさん、あなたしかいませんからねぇ。

[船頭] ……はぁ。

[船頭] 入り口に人がたくさんいますね。

[リー] 隠れるつもりもないみたいですね。

[怪しい市民] ……おい、あの龍門人もいるぞ……下手に動くなよ、あいつらがここから出れないようにすりゃそれでいい。

[怪しい市民] 逃げないようにしっかり見張っておけ。

[リー] はぁ、これっておれたち飛んで火に入っちまったなんとやらってやつですか?

[船頭] ……おかしいですね。かつて幅を利かせていたとしても、今は飯屋や酒楼を開いているだけです。これだけの人数をどうやって。

[奇妙な客] この周囲には誰も――ま、待て!

[怪しい市民たち] シャ……シャンの旦那だ。

[山の担夫] ……

[山の担夫] 戻ったぞ。

[船頭] ……

[リー] ……どうぞ、座ってください。茶でも飲みますか?

[山の担夫] ……調べてきた。

[山の担夫] 人はめったに行かず、昔から残っている東屋がいくつかある。すべて地図に書いておいた。

[山の担夫] で、酒を売ってる場所についてだが、村がある場所には大抵酒屋もある。強いて言うなら、この数ヶ所が条件に合う場所だな。

[リー] ふぅむ……

[船頭] 取江峰のすぐそばに一ヶ所ありますね。

[山の担夫] ……俺の記憶にはないけどな。だが銭(チェン)さんは絶対あると言い切っててさ。

[山の担夫] 古い東家につながる道はまともに整備されてないし、不便なところにある。普通の客が歩くような場所じゃないから、気を付けろ。

[リー] なるほどねぇ、ありがとうシャンさん。

[山の担夫] ……他に用がないなら俺はもう行くぞ。

[リー] シャンさん、外のあの連中は……?

[怪しい市民たち] ――!

[山の担夫] ……知らん。

[山の担夫] じゃあな。

[怪しい市民] ど、どういうことだ……

[怪しい市民] (お、おい、早く番頭に伝えろ……シャンの旦那とあの龍門人たちが繋がってる!)

[奇妙な客] (じゃこの見張りはどうします?)

[怪しい市民] (バカ言うな、ひとまず退散だ、ほら行くぞ。)

[リャン・シュン] 帰ってきたか。

[リー] 一日中駆けずり回って徒労に終わったよ、何も聞かないでくれ。

[リャン・シュン] 私はただ盗人が君に目をつけていないか心配しているだけだ。

[リー] ……リャン様が盗人に目をつけている限り、盗人はおれに目をつけられないさ。

[リー] それに、あのやっかいな酒杯は今おれの手元にはないんでね、むしろ気を付けるべきはリャン様の方だろう。

[リャン・シュン] ……構わない。

[リャン・シュン] 君を襲撃した人物を探り当てたが、ただの誤解だったようだ。君が文化財を盗んだ密輸犯だと勘違いしたらしい。

[リー] ほぉん、どうやら尚蜀の義侠心は健在のようだ。ただの「誤解」であんな派手にやるとはねぇ。

[リャン・シュン] 彼らを責めないでやってくれ。

[リャン・シュン] シェン殿、リーは尚蜀には不案内だ。いましばらくの間、君に面倒をかける。

[船頭] とんでもありません、ご命令に従いますよ。

[リャン・シュン] ちょうど渡し場は繁忙期であるし、ここ数日の賃金は倍支払わせてくれ。

[船頭] いえ、リャン様、金銭など無粋でしょう。ご理解いただけていると思いますが。

[リャン・シュン] あなたの気持ちは理解しているさ。だが都合がいいことに、私も民に対して不当な扱いはできないのでな。

[リャン・シュン] あなたには今まで随分助けられているし、今後もより多くの助けが必要かもしれない。

[船頭] ……わかりました。そこまで仰るなら、お気持ちはありがたく頂戴いたします

[船頭] しばらくの間は、私がリーさんのお供をいたします。担夫と私が居れば山川を網羅し、尚蜀の三山十七峰は丸裸も同然です。

[リャン・シュン] 頼んだ。

[リー] ――リャン。

[リャン・シュン] 何だ?

[リー] 中で話そう。

[リー] 前に言ったと思うが……お前がおれに何も隠してないなら、この件は簡単な話なんだ。

[リー] もう一度聞くぞ、この酒杯、それにその持ち主には、どれだけの秘密がある?

[リャン・シュン] ……

[リー] 言えないのか?

[リャン・シュン] 言えない。

[リー] 昼間に山で、またあの連中に会った。

[リャン・シュン] なに……

[リー] つまりな、お前の言うところの「誤解」とやらは、全くもって説得力がない。

[リャン・シュン] ……

[リー] で、どこまで揺らぐような話なんだ。

[リャン・シュン] どこまでも。

[リー] ……はぁ……

[リー] ならもっと早く言ってくれればよかったんだがねぇ。

[リャン・シュン] ……知り過ぎたら、むしろ君が巻き込まれるのではないかと思っていたんだ。

[リー] この状況が巻き込まれてないように見えるか?

[リャン・シュン] ……すまない。

[リャン・シュン] ゆっくり休んでくれ。もし本当に見つからないようであれば……もういいさ。

[リー] リャン、ここまでしといて、今更急に罪悪感を持ったわけじゃないだろう?

[リー] 気持ちだけ受け取っておくよ。おれが本当にいま匙を投げたら、お前さんが今後困るのはわかってるしな。

[リー] そんじゃ、その「どこまでも」ってやつを詳しく聞こうか。

[リャン・シュン] 国が、そして民の暮らしが揺らぐ。

[リー] ……そりゃ確かに「どこまでも」だな。話が大きすぎて、信じられやしない。

[リャン・シュン] 私はこうしたことで冗談を言ったことはない。

[リー] お前がこういう冗談を言う奴じゃないってことは、もちろん知ってるさ。

[リー] じゃあ別の質問をさせてもらうが、今晩はどっかの娘さんがお前を訪ねに来たりはしないんだろうな。

[リャン・シュン] ――ゴホンッ。

[リャン・シュン] ……私とニンさんは別に何もない。

[リー] おれがお前たちに何かあると言ったか?

[リャン・シュン] 君の目が言っている。

[リー] 本当かい? お前さんはいつも朴念仁だと馬鹿にされていたが、いつまでもガキのままじゃないだろう? ワイの娘だってもうあんなでかくなったんだ。

[リャン・シュン] ……

[リー] 何か事情でもあるのか?

[リャン・シュン] ……

[リャン・シュン] ……酒でも飲むか。

[リャン・シュン] そろそろ一杯付き合ってやるべきだろう。

[リー] ……いいだろう。そうさ、とっくにそうすべきだったよ。

[ズオ・ラウ] クルースお姉さんはやはり腕が立ちますね。テイさんが言った通りです。

[ズオ・ラウ] あの扇子使いのお兄さんはどちらに?

[クルース] もしこれが罠だったら、全滅するわけにはいかないでしょ~。

[ズオ・ラウ] ……これは驚きましたね。クルースお姉さんならあのお兄さんを寄越して、自分は陰に潜むものだと思ってました。

[ズオ・ラウ] 「車を捨て帥を守る」という言葉がありますが、クルースお姉さんは「帥」であるだけでなく、逃げ足に自信を持つ射撃手でもあるようですね。

[ズオ・ラウ] 罠だと疑いながらも、あなた自らやってきた。

[クルース] ウユウくんはまだ正式なオペレーターじゃないからねぇ。危険な目に遭わせるわけにはいかないよぉ。

[ズオ・ラウ] オペレーターだとしても、クルースお姉さんなら自分が危険な役回りを引き受けるでしょう。

[クルース] もし「あなたのことは何でもお見通しですよ」みたいな感じで賢いアピールするなら、先に帰って休むけどいい~?

[ズオ・ラウ] ……ははっ、本当に真っ直ぐな方だ。では戯言だったということにしておいてください。

[ズオ・ラウ] 単刀直入に話しましょう。我々もロドスについて多少は調査したのですが、時間があまりなくてですね、情報が少ないんです。

[ズオ・ラウ] クルースお姉さんがどんな人であるかは、会った時にすぐわかりました。理解しているとは言えませんが、私は信用しています。

[クルース] ……信用ぉ? あなたたちのことに首を突っ込んだ部外者で、感染者でもある私をぉ~?

[ズオ・ラウ] 適材が居るのであれば、適所に用いるべきでしょう。鉱石病は感染者にとっての不幸でしかないのに、彼らの責任や能力と何の関係があるんです?

[クルース] ……

[ズオ・ラウ] 実は、ロドスにご協力をお願いしたいことがあります。

[ズオ・ラウ] いえ、言葉を変えましょう。ロドスが協力を拒む場合、我々に敵対したと見なします。

[クルース] リーさんの酒杯が欲しいんでしょ~。

[クルース] 梁府に泥棒が入った日、屋敷を出たあたりで痕跡が二つになったんだよねぇ。夜で暗くて、あなたたちの動きは早かったけど、私は片方の人を追ってた――梁府から逃げ出した人をねぇ。

[クルース] でもすぐに見失っちゃった。その後目の前に現れた人は、まるでわざと私の気を引こうとしてるみたいだったぁ――

[クルース] 客桟の店主が私の気を引いたのは、あなたを守るためかなぁ?

[ズオ・ラウ] テイさんはあなたを高く評価していましたが、間違いではないようですね。

[クルース] ……じゃあそういうことなんだねぇ。

[クルース] あの酒杯は「歳」と関係があるのぉ?

[ズオ・ラウ] 「歳」を知っているのですか?

[ズオ・ラウ] ……ふっ……クルースお姉さんは嘘はついていませんが、すべてを話しているわけでもないようですね。

[クルース] うーん、そうかなぁ?

[ズオ・ラウ] ニェンとシーを友とみなしている上に……その件までもあなた方に話しているなら、彼女たちがロドスを頼みの綱としているのは明らかです。

[ズオ・ラウ] 数百あるいは数十年前であれば、彼女たちがどんな行動をしたところで、規則に反しない限り司歳台は気にもしなかったでしょう。

[ズオ・ラウ] ですが今は違います。

[ズオ・ラウ] 時勢が変わっただけではない。あなた方はニェンと友好関係を結んだ上、シーを勝手に隠居先から連れ出したのです。そのせいで司歳台は怒り心頭ですよ。

[クルース] 私たちはただ……

[ズオ・ラウ] あなた方に故意がないことは理解しています。ですが次はどうするのですか?

[ズオ・ラウ] 彼女たちが集まって大地を揺るがすような陰謀を企てていないと言い切れますか? 我々大炎はどうそれを信用しろと?

[クルース] ……「大炎」、かぁ。

[ズオ・ラウ] ……私は大げさに言っているわけではありませんよ。

[ズオ・ラウ] シーが連れ出され、ニェンと共に尚蜀へ向かう途中で行方をくらませました。その一方で彼女たちと関係のある酒杯が尚蜀に現れ、これらの関係者は、皆「ロドス」にまつわる人物だときている。

[ズオ・ラウ] これ以上ないほどの偶然ですよ。そう思いませんか、クルースお姉さん。

[クルース] ……

[ズオ・ラウ] そして私は、この世にこれほどの偶然などないと思っています。

[客桟の店員] ……やっちまった!

[客桟の店員] 洗った服干すのを忘れていた。しまったな……今日干さないと、明日着る服がねぇ。

[客桟の店員] ……尚塚(シャン・ジョン)か、ここへは来るな。

[山の担夫] ……

[客桟の店員] さっさと行け、そうすれば見なかったことにしてやる。

[山の担夫] 今日とある若い男から、山で東屋を探すように頼まれた。

[客桟の店員] ……お前が去った時の状況が複雑だったのはみんなわかってる。だがなんの断りもなく抜けて、しかも番頭を狙うなんて、掟からしてお前は裏切り者だ。

[山の担夫] お前らのところの若いのがその男を取り囲んでいた。

[客桟の店員] 裏切り者の兄貴、シャンの兄貴よ、頼むから帰ってくれ。誰かに見られたら、手を出すしかなくなっちまうんだぞ? もっと仲がこじれるだけだって!

[山の担夫] あいつは何者だ?

[客桟の店員] 話を聞いてくれよ!

[山の担夫] あいつは誰かって聞いてるだろ?

[客桟の店員] ……龍門人のことか?

[山の担夫] ああ。

[客桟の店員] ただの商売だ。部外者には関係ないし、言うことはない。

[山の担夫] ……今年が過ぎれば、ちょうど十年だ。そろそろ、終わりにしようと思ってるんだ。

[山の担夫] 鏢局とケリをつける。

[山の担夫] テイの奴にもケジメをつけてもらう。

[客桟の店員] やっぱり言えねぇよ、シャンの兄貴。

[山の担夫] リュウ! あの時お前を救ってやったのは誰だ!?

[客桟の店員] 俺からは言えない。

[山の担夫] あの酒杯と関係がある、そうなんだろ? 十年前のあの酒杯だ、違うのか?

[客桟の店員] な――

[山の担夫] ……やっぱりそうか。

[山の担夫] あの若い衆たちが言っていた「酒杯」は、やはりそうだったか……

[客桟の店員] おい、勝手に若い連中を詰めたりしてないだろうな――

[山の担夫] ……これは天意か。

[客桟の店員] ――おい、シャン・ジョン! 聞きたいことだけ聞いて行っちまうなんて、卑怯じゃねぇか! おい!

[リー] ハッ、飲めるようになったじゃないか。

[リー] 昔のリャン・シュンなら今頃とっくに酔いつぶれてたんだがね。

[リャン・シュン] 一人で酒を呷るうちに、だんだんとな。

[リー] さすがはリャン様だねぇ。役人になってのんびりと一人酒とは――待て、一人で飲むなんて、お前まさか……?

[リャン・シュン] 酒の力を借りたところで一時の忘れ薬でしかない。一人で飲みたいと思うのは人情の常だろう。

[リー] ……「飲む酒の量が変わったなら、人も変わっている」とはよく言うが、お前もそう思うのかい?

[リャン・シュン] 思わなくはない。

[リー] はぁ、酒よ酒、杯の中にあるのは義理人情さ。

[リー] 正直、尚蜀に来てお前さんに会った時は、だいぶ驚いたもんさ。

[リャン・シュン] ん? なぜだ?

[リー] とんでもない堅物で仏頂面のリャン・シュンしかおれは知らないからな。

[リー] まだ学生の頃に、先師閣(せんしかく)の外でお前は言っていただろう。民草の幸せを追求したいと。この暗く寒い大地で、皆が手を取り合って火を起こし、暖をとれるような世の中にしたいと。

[リャン・シュン] ……若い頃は、怖いもの知らずで大言壮語を言うものだ。その言葉はずっと自省に用いてきた初心ではあるが。

[リー] もう何年も前だな。

[リャン・シュン] ああ、何年も経った。

[リャン・シュン] 君も、あの頃のように洒脱な良家の貴公子ではなくなった。

[リー] 無駄に歳を重ねてくたびれたのさ。

[リャン・シュン] ……家を離れて久しいが、家族とは連絡を取っているのか?

[リー] 家を出てからいくらも経ってないがねぇ。

[リャン・シュン] ……つまり、龍門のあの探偵事務所こそ今の家だと?

[リー] もちろん。

[リャン・シュン] なら江東の方は……

[リー] ただの邸宅に、いくつかの提灯、わずかばかりのかつての縁。

[リャン・シュン] ……君も私も変わったな。

[リー] おれとしては、この杯のぶつかる音が、お前さんの過去の壮大な初心が崩れ去る音でないことを願うばかりだよ。

[リー] いや、違うか。リャン様は今じゃ四品(しほん)っていう上から数えた方が早い序列で、一都市の知府だもんな。民がお前さんを認めているなら、昔の願いは叶ったということだ。

[リャン・シュン] 道のりはまだ長い。尚蜀はもともと栄えているし、私はほんの少し花を添えることしかできていない。

[リー] ならリャン様が初心を忘れないことを願って、乾杯。

[リャン・シュン] 乾杯。

[クルース] 炎国の神秘学の研究ってさぁ、いつだってこの大地で一番の秘密だよねぇ。

[ズオ・ラウ] 我々が研究を抱え込んでいると言いたそうですね。

[ズオ・ラウ] 形式は異なりますが、炎国以外もそれぞれの方法でこの問題に対処していますよ。大地における問題とは、大抵共通しているものですからね。

[ズオ・ラウ] ですが……ある歴史的理由のため「巨獣学」の面においてはテラ全土を見回しても、炎国司歳台が抜きん出ています。過去においてもそして未来においても必ず。

[ズオ・ラウ] 今日、イェラグではいまだそれらをあがめ、サーミでは依然としてそれらと共存していますが、司歳台の研究はとうにそれらの深くそして細部にまで及んでいますよ。

[クルース] 歳を司る……つまり、司歳台の「歳」の字は、ニェンさんが言ってたあの「歳」から来てるの?

[ズオ・ラウ] ニェンはそれらの伝説を語ったのですか? 古代皇帝、国を挙げての狩り、そして台頭した者の話を。

[クルース] (ラヴァちゃんが言ってた……)

[ズオ・ラウ] かつて古代の人々が「カミ」だと見なしていた生物たちは、文明が興るにつれ、その姿を徐々に隠していった。

[ズオ・ラウ] いわゆる「歳」も、そのうちの一つです。

[クルース] 生物たち……?

[ズオ・ラウ] それらが生物の定義に符合するか否かは、無駄な議論でしょう。

[ズオ・ラウ] それらが国と民に災いをもたらす時、炎国にはそれらを消し去る力があるということ。これを理解していただければ十分です。

[クルース] ……確かにねぇ。

[ズオ・ラウ] これらは別に司歳台の機密事項とは言えませんが、誰もが知っている常識というわけでもありません。

[ズオ・ラウ] クルースお姉さんに教えたのも、学術的な会談をしたいからではありません。

[クルース] ……

[ズオ・ラウ] ……ニェン、シー、それと尚蜀のどこかに隠れているもう一人。その者たちは常に司歳台の監視下にあります。

[ズオ・ラウ] 本来はここまで事を急ぐ事態にはならないはずでした。突然灰斉山を覆っていた雲が消えて、司歳台の持燭人が駆けつけた時、シーが姿を消していることに気付くまでは。

[クルース] 数日前の話だねぇ。

[ズオ・ラウ] 司歳台の持燭人たちから、この件の報告はすでに朝廷へ上がっています。

[クルース] ……すごいねぇ、灰斉山は炎国の首都からかなり遠いよぉ。

[ズオ・ラウ] ロドスは全容を知らない状況でこの件に介入しました。無知である者に罪はありません。ですが逆に言えば、何も知らないのにあの二人と普通に付き合うとは、全く常軌を逸していますよ。

[ズオ・ラウ] 今、ロドスには司歳台の指示に従っていただき、あの龍門人を説得して、酒杯を我々に返していただきたいのです。

[クルース] ……やっぱり、リャンは初めからあなたたちの命令を受けていたんだねぇ。

[ズオ・ラウ] そうです。

[クルース] リーさんに龍門から持ってこさせて、盗まれたふりをしてひそかに渡してもらうつもりだったのぉ?

[ズオ・ラウ] 知府のことは呼び捨てで、あの龍門人は「さん」付けとは、やはりクルースお姉さんは優しい方ですね。

[クルース] 「優しい人」って炎国語だと別の意味があるのかなぁ?

[ズオ・ラウ] 誤解しないでください。皮肉ではなく、純粋にあの龍門人への信頼を隠さないことを評価しているんです。それは彼がロドスと協力関係にあるからですか?

[クルース] リーさんとは、ただ協力関係にあるってだけじゃなくて……友達でもあるからねぇ。

[ズオ・ラウ] ……友達と呼べる相手は多くないものです。ニェンとシーも、あなたの友達のようですが。

[クルース] 話を聞く限り、司歳台は炎国で高い地位にあるんだよねぇ。ならわざわざこんな芝居を打って、一体誰の目を欺きたいのかなぁ?

[ズオ・ラウ] それは恐らく、ロドスが知るべきでない領域にあるお話ですね。

[クルース] そんなに潔く認めるのぉ?

[ズオ・ラウ] 別に後ろ暗いことはありませんから。ただ役人としての体面があるので、愚にもつかない小細工を弄しただけです。

[ズオ・ラウ] さて、ロドスには大分事情をお伝えしましたし、そろそろ先日の件は水に流して、今後の協力について話しませんか?

[クルース] ……ロドスに手伝ってほしいんだよねぇ?

[ズオ・ラウ] そうすればリーさんも動きやすくなると思いますよ。

[クルース] 何をするのぉ?

[ズオ・ラウ] 歳を除くのです。

[リー] ……おれは酔ってないぞぉ、支えなくていい。

[リャン・シュン] 君は客人だ。

[リー] おれはただ、お前に龍門からパシリに呼ばれただけだぁ!

[リャン・シュン] 実はな、信使が龍門に行っても、必ずしも君を見つけ出せるとは限らないと思っていた。

[リー] おれはぁお前らが見つけやすいように、龍門であの事務所を登録したんだよ。

[リャン・シュン] 「リー探偵事務所」、か。どうしてまた突然龍門に身を置き事業を起こそうとした?

[リー] あそこは炎国のいーちばん端っこだからだ。

[リー] あそこより外に……おれに行き場はない。

[リャン・シュン] ……戻ってくればいい。

[リー] 嫌だね。

[リー] なぁ、リャン。

[リャン・シュン] ……ああ。

[リー] 実はおれ、わかってるのさ。

[リャン・シュン] 君はずっとわかっていた。

[リャン・シュン] 龍門は結局のところ君の家ではない。だが君は龍門で生きることを望んでいた。

[リー] ……あそこなら、ずっとやり続けられることが見つかると思っていたんだ。

[リャン・シュン] 見つかったのか?

[リー] 見つかった。見つかったとも。だが気付いたんだ。実はそいつはどこでだって、見つけられるってな。

[リャン・シュン] 若い時、ワイの奴は武を修め、大地に名を轟かせると言った。

[リー] あの時のリャン・シュンは、大地の民のために動き、二度と人々が不安に怯えながら生きることがないようにすると言った。

[リャン・シュン] ……君は?

[リー] おれは、流れのまま世間を泳ぐ一匹の鱗獣に過ぎなかったさ。水面からほんのちーと飛び跳ねたくらいで、この大地は、みぃんなおれの帰る場所だと思い込んでいた。

[リャン・シュン] ……

[リー] あーあ、眠くって瞼がくっつきそうだ。明日はまた大忙しだろうしおれは寝るよ。リャン、もういいから戻りな。

[リャン・シュン] わかった。

[リャン・シュン] また。

[リー] ……酒は残ってないか。

[リー] はぁ。

[リー] 昔の縁、縁なぁ……

[リー] はぁ……

......

......

[おぼろげな夢の中の人] ……これはまた、妙手だね。

[リー?] ……

[おぼろげな夢の中の人] ここから挽回できそうにないな。続ける必要はないんじゃない?

[リー?] そうだな。

[リー?] 続ける必要はない。

[おぼろげな夢の中の人] 文人の四芸は琴棋書画だろう。毎度毎度「棋」でもって私と腕比べしなくてもいいと思うんだけど、これっていじめじゃない?

[リー?] 長所は伸ばすものだろう。

[リー?] 詩詞歌賦においては、私はどれもお前にかなわない。

[おぼろげな夢の中の人] それもそうね。

[おぼろげな夢の中の人] また退屈に感じてるのかな?

[リー?] 太平の世だ。

[リー?] しかしこの太平の世は、ただ炎国の太平でしかない。

[おぼろげな夢の中の人] 君の石は、炎国の外に打てないよ

[リー?] そうだ、私の盤は炎国にしかない。

[リー?] けれど碁を打つ者が、いつも私であるとは限らない。であれば他の対局もまた、大地各所にあるだろう。

[おぼろげな夢の中の人] その者たちは君と関係あるのかな?

[リー?] 盤を見て語らずは真の君子、碁石を打ちて悔いなきは真の丈夫。

[おぼろげな夢の中の人] ……君はただ見ているだけだろう。人類を……争い合う人間、もつれあう人間を見ているだけ。

[リー?] 碁盤を眺めて、碁の道を識ったにすぎない。無知な子供もみな模倣から始める。

[おぼろげな夢の中の人] ……そうか。

[おぼろげな夢の中の人] でも貴君は彼ではないよ。

[リー] ……どういう意味です?

[おぼろげな夢の中の人] 貴君は……おっと、貴君は手に彼の石を握っているね。

[おぼろげな夢の中の人] それなら、彼の代わりに貴君が打つ? 龍門のリー氏よ。

[リー] なっ……おれ……?

[おぼろげな夢の中の人] うむ。これは……珍しいね。

[おぼろげな夢の中の人] 彼はなぜ、貴君のような普通の人間を引き入れたのだろうね?

[おぼろげな夢の中の人] いいや、あるいは……彼は意図的に貴君を選んだわけではないのかもね。彼はただ、いかなる者もいかなることも、いつかはこの結果になることをわかっていただけかな?

[リー] 何を言っているんです?

[おぼろげな夢の中の人] 貴君はあの、この世に絶望し尽くした者ではないということさ。しかし貴君は彼の席に座って、私と一局打っている。

[リー] ……あなたは誰なんです?

[おぼろげな夢の中の人] リィン。

[リー] ここはどこなんです?

[おぼろげな夢の中の人] とある……百年前の夢さ。

[リー] ご冗談を、どうやっておれが百年前の夢なんて見るんですか……

[おぼろげな夢の中の人] そうだね……

[おぼろげな夢の中の人] どうやって見るんだろうね?

何が目的!?

[リー] ――!

[リー] うっ……何かとんでもない夢を見たような……ん?

[窓の外の声] 待ちなさい!

[リー] ……この声は……

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