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選択

夜明けが訪れ、レッドパイン騎士団に選択の時が迫る。当然それは、ほかの者たちも同じことだ。しかし、どれが正しい選択かなど、今はまだわからない。


[感染者騎士] えっ? じゃあ俺たちみんな、そのロドスとかいう場所に行って、治療を受けないといけないのか?

[ソーナ] 「そうしないといけない」んじゃなくて、「そうしてもいい」ってことよ。だけど、慣れてきたからって鉱石病を甘く見ちゃダメなんだからね!

[ソーナ] やりたいことが山ほどあるのに、それを叶える前に身体を壊しちゃいました~、なんてことになったら、元も子もないでしょ?

[感染者騎士] うっ、それはそうなんだが……

[ソーナ] だったら、ちゃんと身体を大事にしましょ。あたしたちはもう随分長いこと、真っ当な鉱石病の治療なんて受けてないわけだし。

[ソーナ] 感染者騎士以外にも、仲間内には労働者や農民、普通の市民たちもたくさんいるんだから……彼らにまで、鉱石病の苦しみを強いるわけにはいかないしね。

[ソーナ] ジェイミーの時みたいな悲劇を、二度と起こさせないためにも……わかってくれる?

[感染者騎士] ……そうだな。わかったよ。

[ソーナ] ふぅ……

[グレイナティ] ソーナ。

[ソーナ] あら、カイちゃん。どうしたの?

[グレイナティ] ハイビスカス――あのサルカズの医者と連絡を取ってきたんだが、ロドスは今日の午後、大騎士領を離れることになったそうだ。

[グレイナティ] 我々は大所帯だし、早めに準備しておかなければと思ってな。

[ソーナ] なるほどね。連絡が取れる範囲の感染者には、ユスティナとイヴォナが接触してくれてるから、大丈夫だと思うわよ。

[グレイナティ] ……無冑盟と商業連合会の連中は、これ以上手出ししてこないと考えていいんだろうか?

[ソーナ] ……ええ。あの話が本当だったら、今は他人に構ってる暇なんてないでしょうしね。

[ソーナ] それに、ロドスには監査会という後ろ盾もあるから、当分は……安全と考えていいはずよ。

[グレイナティ] ……

[ソーナ] えっと……なあに? どうしてそんなに見つめてくるの?

[グレイナティ] トーランドに何を言われたんだ?

[ソーナ] えっ……どうしたの、急に。

[グレイナティ] あいつと大騎士領外の村へ行ってから、お前の顔つきが変わったように思ってな。

[ソーナ] ……

[グレイナティ] 大騎士領近郊の村は、四都連合が何年かかけて作ったもので、普通の農民が暮らしているだけの場所だ。

[グレイナティ] そんな場所にバウンティハンターが居るのは普通のことじゃない。何か目的があってのことだろう。

[ソーナ] ……一つ、頼み事をされたの。

[ソーナ] この国や、感染者、それにあたしたち全員に関わることよ。

[グレイナティ] だったら、なぜ早く言ってくれなかったんだ?

[ソーナ] あっはは……実は、あたし自身どうすればいいかわからなくて。最近はずっとそのことばっかり考えてたのよ。自分の中でまとまったら、みんなにも話そうと思って……

[グレイナティ] ……まったく……

[ソーナ] ……お、怒らせちゃった?

[ユスティナ] 悩んでいたなら、なおさら言ってほしかったな。

[ユスティナ] ソーナも、私にそう言ってくれたでしょう?

[イヴォナ] ハハッ! お前さあ、グレイナティがここんとこず~っとソワソワしてたのに、気付いてなかったんだろ? 大丈夫だって声かけて、あたしがなだめてやってたんだぜ。

[グレイナティ] こ、こほんっ! それはだな、いつもいつも、ソーナが一人であれこれ抱え込むからであって……

[ソーナ] ……ええっと……うん、ごめんね。

[ユスティナ] それで、君は何を悩んでたの?

[ソーナ] ……

[ソーナ] レッドパイン騎士団設立当初の目的とは違うことをやってみたいって言ったら……みんなは、どう思う?

[グレイナティ] ……違うこと、というのは……どういう意味だ?

[ソーナ] 有り体に言うと、活動の幅を広げてみたいのよ。……だけどそうなると、堕落した騎士や商業連合会に抗ったり、感染者の利益を勝ち取ることを目的とした戦い以外にも身を投じることになるの――

[ソーナ] さらに言うと、感染者への差別に耐え、過去に敵対していたものと新たに友好関係を築き、賢い抗い方を選び取らないといけない。そうなると当然、自分を変えることも強いられることになる……

[ソーナ] そうなれば、手に入りかけていた平穏な生活は遠ざかり、別の渦中へと飛び込むことにもなってしまう。……それでもやる価値があるかどうかを悩んでいたの。あなたたちの意見を聞いてもいい?

[ユスティナ] ……

[グレイナティ] ……

[イヴォナ] ええ~? 急にそんなこと言われてもなぁ。あたし、そういうこと考えるの苦手なんだよ。それって今までとなんか違うのか……?

[グレイナティ] ……そうだな……お前自身は、どう思っているんだ?

[ソーナ] 私もまだ、これが正しいって言い切れるわけじゃないんだけど……感染者としても、一人の騎士としても、あたしたちはもっとたくさんのことをやってみるべきだと思ってるわ。

[ソーナ] でも、「ソーナ」個人としては、それぞれの考えにそぐわない道を強要するようなことはしたくないし……かといって、みんなと離れて違う道を歩むなんてことも、そう簡単にはしたくないの。

[ソーナ] この道が一体どこへ繋がっているのかなんて、誰にもわからないわけだしね。

[グレイナティ] ……ソーナ。

[ソーナ] ……うん。

[グレイナティ] 最近のお前は考え過ぎる傾向にあるし、お陰で私たちは心労が絶えない。けど、一つだけ……理解しておいてくれ。

[グレイナティ] 確かに、「レッドパイン騎士団」は、騎士団の名を冠してはいる。だが、皆知っての通り、我々は騎士であり、騎士ではない。

[グレイナティ] 騎士として、感染者として、あるいはザラックとして、なによりただの「ソーナ」として、どの立場に基づく行動であれ、やりたいことがあるのなら、私たちに何でも相談してくれ。

[ソーナ] カイちゃん……

[グレイナティ] 我々の志は、いつでもお前と共に在る。

[グレイナティ] どこまでも、共に歩み続けよう。

[ユスティナ] ……正直……これだけのことを経験しておいて、普通に暮らしていこうと思っている人の方が、騎士団内では少数派だと思うよ。

[ユスティナ] もちろん、去って行く人や、普通の生活を求める人がいれば、助けになろうと思うけど……

[ユスティナ] でも私たちは……この四人は、そうじゃない。でしょう?

[イヴォナ] ったりめーだろ! こんなとこで膝を折っちまったら、何年も待ってたのが無駄になっちまうしな!

[グレイナティ] ……待ってた? 何をだ?

[イヴォナ] 嵐だよ! んで、そいつが来たら、あたしはそこで暴れる稲妻になろうと思ってんだ!

[ユスティナ] ……もう。そんなに雷が好きなら、鎧を金色にでも塗り替えたら?

[イヴォナ] おおっ、確かに! ナイスアイディア!

[ソーナ] ……ふふふ。

[ソーナ] みんな、嬉しい意見をありがとう! 話はまとまったわけだし、とりあえず目の前のことに集中しましょうか!

[ソーナ] まずは感染者たちをロドスに――あの船に送り届けましょ!

[ソーナ] あたしたちの出航は……もうすぐよ。

[感染者騎士] 焔尾! トラブル発生だ! 何人か、まだ来てない奴がいるんだが――どうやら、巡回中の騎士に捕まったらしい!

[イヴォナ] はあ? こっちの立場は法律上保証されてるってのに、あいつら一体何様のつもりだ!?

[感染者騎士] お、俺にもどういうつもりかはわからないが……向こうは、金を払わないと解放しないとか言ってきてるんだよ!

[グレイナティ] チッ。騎士貴族どもめ、痛い目を見ないとわからないらしいな。――ソーナ。

[ソーナ] ええ、わかってるわ。……ほかの人たちは、予定通りロドスへ向かわせてちょうだい。それと、より迅速な行動を心がけてね。

[感染者騎士] りょ、了解! それで、お前らはどうするんだ?

[ソーナ] これまでやってきたことを、いつも通りやるだけよ。

[ハイビスカス] え~っと……う~んと~。

[アーミヤ] お疲れ様です、ハイビスカスさん。随分な人数になりましたね……

[ハイビスカス] はい~……予想はしていましたけど、こんなにたくさんの患者さんをいざ目の前にすると……対応しきれるかどうか……

[アーミヤ] 確かにかなりの規模ではありますが……ドクターがマルキェヴィッチさんからのご支援を得ていますから、大丈夫だと思いますよ。

[ハイビスカス] なるほど! そういえばアーミヤさん、大騎士領に事務所を新設する予定があると聞きましたが、本当ですか?

[アーミヤ] ああ、はい。さすがに、この人数ですと、ずっとロドスにいてもらうわけにはいきませんし……我々の手が及ばない感染者も多くいますから、その打開策として、ですね。

[アーミヤ] 時期を見て、レッドパイン騎士団が事務所設立を手伝ってくれる予定なんです。

[ハイビスカス] いいですね~! 故郷に帰れるというのは、とっても良いことだと思います!

[ハイビスカス] これも、あの「焔尾騎士」さんのアイディアなんですか?

[アーミヤ] ええ。全部が全部、というわけではありませんが……ドクターも計画立案のお手伝いをしていましたしね。

[ハイビスカス] わあ~……早く会ってみたくなっちゃいますね! 凄いことをたくさんやってきた人だって聞いてますし! ……でも、まだ来てないみたいですけど……

[アーミヤ] い、言われてみればそうですね。約束の時間は過ぎているんですが……

[シャイニング] アーミヤさん、ハイビスカスさん。出発時刻になりました。

[アーミヤ] あっ、はい。わかりました。

[アーミヤ] シャイニングさん、レッドパイン騎士団の皆さんを見かけませんでしたか……?

[シャイニング] それが、先に到着した感染者騎士たちが言うには、騎士貴族に虐げられている感染者数人を助けに行っているので、出航には間に合わないそうです……

[ハイビスカス] だったら、私たちも助けに――

[アーミヤ] ――いえ、あまり軽率な動きは取れません。ロドスが国境を越えて離れるまで、カジミエーシュはずっと我々に注意を払っていますから。

[シャイニング] 今も、何十名もの征戦騎士がこちらに視線を注いでいますしね。

[シャイニング] ですが……

[感染者騎士] すまん、皆。つい頭に血が上って、騎士貴族に手を出しちまった――

[ソーナ] 気にしないで。あなたが何もしなくたって、あいつらは感染者に言いがかりをつけてくるわけだしね! さ、今のうちに逃げるわよ!

[ユスティナ] ……ソーナ、誰かいる。あれ、騎士貴族じゃない……無冑盟だ。

[ユスティナ] つけられてるよ。左右両面、ビルの屋上から見られてる。

[イヴォナ] ハハッ、ちょうどいいじゃねえか! 別れの挨拶代わりに、ブチかましてやろうぜ!

[グレイナティ] 賛成だ!

[ソーナ] ――いいえ、今は構ってる場合じゃないわ。早くロドスに追いつかないと、困らせちゃうもの。

[グレイナティ] おい、ソーナ――

[ソーナ] ――! 耀騎士……!

[マーガレット] ここは任せてくれ。

[ハイビスカス] ……わわっ……!? 一面、光でいっぱいに……!!

[アーミヤ] これは……ニアールさん、でしょうか?

[シャイニング] ええ……彼女をおいて、ほかにはいません。

[シャイニング] 間違いなく……ニアールさんです。

[アーミヤ] ……シャイニングさん……

[ハイビスカス] あっ!

[ハイビスカス] 見てください! 赤い尻尾のザラックが走ってきてますよ! もしかして……レッドパイン騎士団じゃありませんか!?

[アーミヤ] えっ!? ですが、乗船用の通路は向こうですよ……!?

[遠くの声] ――すみませ~~ん! ――アーミヤさ~~ん!

[遠くの声] ちょっと退いてもらってもいいですか~~! あたしたち、その辺に飛び乗るので~~!!

[アーミヤ] わわっ! え!? ま、まさか本当に――

[感染者騎士] っと、おお……!! 跳べた、跳べたぞ! いやあ~、まさかこんなふうに甲板へ飛び乗るなんて……小説みたいな体験しちまったな……

[イヴォナ] ハッハハ! こんくらい、ちょろいもんだったろ!

[グレイナティ] ……やれやれ……こんなことになるのなら、盾を持ってこなければよかったな。

[ユスティナ] ……ごめん。こういう乗り方になっちゃって。

[ハイビスカス] ……

[アーミヤ] あっ……はい、大丈夫です……

[シャイニング] お久しぶりです、小さな騎士さん。

[ソーナ] どうも! そこまで久しぶりでもないですけどね、ふふっ!

[アーミヤ] ……ええと……ソーナ、さん?

[ソーナ] あっ! こんにちは、アーミヤさん! どうしましょう、まずはみんなで自己紹介でもしたほうがいいかしら?

[チャルニー] ……

[村人] あっ。おはようございます、チャルニーさん。正装なんかして、今日はどうしたんですか? まさか、街に戻る日がきたとか?

[チャルニー] ……いえ、そういうわけではないのですが……今日は、ずっと待っていた大事なお客様がお見えになるものですから。

[村人] へえ~……お客様って、どんな人なんですか? その人も、街から来る人だったりします?

[チャルニー] ええ……以前の同僚です。

[村人] なるほどなあ。だったら邪魔しちゃ悪いし、俺はもう行きますね。……あっ、暗くなる前に水汲みだけしておいた方がいいですよ。

[チャルニー] ええ、わかりました。

[チャルニー] ……

[チャルニー] 彼が今、どんな姿をしているのか……私自身も、非常に興味があります。

[チャルニー] 最後に会った時……彼はまだ、救いようのない平社員でした。何を言われても唯々諾々と言いなりで、自分の意見を口にする勇気もなく、まともなスーツの一着も持っていなかった……

[チャルニー] ですが、今は……

[チャルニー] 随分とお変わりになったものですね、マルキェヴィッチさん。

[代弁者マルキェヴィッチ] ……チャルニー様。

[チャルニー] どうぞ、お入りください。

[チャルニー] 色々と、聞きたいことがお有りでしょう。

[代弁者マルキェヴィッチ] ……

[チャルニー] どうかなさいました? ……ああ、このようなあばら家に住んでいることが意外でしたか?

[代弁者マルキェヴィッチ] と、言うよりは、想像していた以上に、あなたがこの生活に順応していらっしゃることのほうが意外です。

[チャルニー] ははは……これからの時代は、生まれながらに高い地位に就いている人のほうが珍しくなっていくと思いますよ。

[チャルニー] マルキェヴィッチさん。あなたは私の想像よりも、今の仕事には適任だったようですね。おめでとうございます。

[代弁者マルキェヴィッチ] ……私は……

[チャルニー] 実は大騎士領で仕事を見つける前、私は酒屋の労働者の息子だったのです。

[代弁者マルキェヴィッチ] 会社に残されていた履歴書の記載とは全く異なる前歴ですね。

[チャルニー] おお、これはさすがです。あなたは私の調査まで行っていらしたのですね。どうですか、私にはなかなか見る目があったでしょう。

[代弁者マルキェヴィッチ] ……

[チャルニー] 急な任命を受け、連合会内部に後ろ盾がない状態だったにもかかわらず、あなたはここまで変わり、そして私が今暮らしているこの場所まで見つけて……私を訪ねていらしたのですから。

[チャルニー] 「危うく、あなたが誰だかわからなくなるところでしたよ」。

[代弁者マルキェヴィッチ] ……!

[チャルニー] そう緊張なさらず。それが無理でも、不安を表には出さないほうがいいですよ。交渉が不利になってしまいますから。

[チャルニー] さて、私は今や罪人の身ですが、あなたはというと……その姿で現れたということは、メジャーのあとも高い地位にあるようですね。

[チャルニー] となれば、あなたの出世を祝して、私からお酒を注いで差し上げるべきでしょう。

[代弁者マルキェヴィッチ] ……チャルニー様。この追放は、あなたにふさわしい処分ではないはずです。

[チャルニー] しかし、本題はそれではありませんね?

[チャルニー] あなたは真相を――そして私が受けた処分のことを知った以上、その真実を告げた人々から、ある要求を受けていることと思います。

[チャルニー] 私がその立場であれば――「チャルニー」の死を求めることは間違いありませんからね。

[代弁者マルキェヴィッチ] ですが、私にはそんなつもりはありません。

[チャルニー] おや、なぜですか?

[代弁者マルキェヴィッチ] 私の信念に反するからです。

[チャルニー] ほほう。随分と自信を持って「信念」という言葉を口になさっているようですが……お忘れですか? つい数ヶ月前まで、あなたは食べていくのも一苦労の可哀想な人だったのですよ。

[チャルニー] ――認めなさい、マルキェヴィッチさん。この社会を受け入れたあなたは、いずれ「社会にとって望ましい人材」へと変わっていくのだということをね。

[チャルニー] ……ふうむ……実に香り高いお酒だ。あなたもいかがです?

[代弁者マルキェヴィッチ] ――それでも、私は……あなたが、命まで差し出さなければならないとは思えません……

[チャルニー] ……無冑盟のプラチナも、あなたのように甘い人でした。そのお陰で私は生き延びたのです。無論、彼女は単に、余計な殺しは必要ないと判断しただけのことでしょうがね。

[チャルニー] その後、私の家族はこの小さな村へ来ることを選ばず、いまだ大騎士領に残って都市生活を享受しています。

[チャルニー] ……こうして、家族は私の財産を分け合い、耀騎士はチャンピオンとなり、チャルニーはその元凶となり……そして、感染者は世論の束縛から逃れることはできませんでした。

[チャルニー] ――これらの事実はすべて、この国に対する私の認識が間違っていないということを証明しているのですよ。……カジミエーシュは、こういう国なのですよ。

[チャルニー] では……マルキェヴィッチさん。

[チャルニー] このブランデーは、昔私が抜擢したとある職員が、私がまだ生きていると知って、秘密裏に人に頼んで送ってくれたものです。

[チャルニー] まあ、その後彼は、私が「賄賂」で得た財産を根こそぎ奪っていったので……彼が身につけていた見慣れたネックレスに気付かぬふりをする羽目になりました。

[代弁者マルキェヴィッチ] ……

[チャルニー] さて、話を戻しましょう。二つの杯のうち、こちらの一杯は毒入りです。と言ってもグラスの中へ仕込んでおいただけですから、飲み干さなければ問題ありません。

[代弁者マルキェヴィッチ] ――ど、どういうおつもりですか!?

[チャルニー] どちらか選んでお飲みください。私がもう一方を頂戴しますので。

[代弁者マルキェヴィッチ] しませんよ、そんな馬鹿げたことを! ――もう帰らせていただきます!

[チャルニー] もちろん、お帰りになっても構いません。結果は同じことですから……ああ、グラスをひっくり返そうとはしないでくださいね。毒はたくさんありますが、お酒の残りはそう多くありません。

[代弁者マルキェヴィッチ] あ……あなたは、なぜ私にそれを強要するのですか? 一体、どうして……? 私たちは、メジャーでの仕事中に偶然出会っただけの間柄でしょうに――

[チャルニー] ――どうして、ときましたか。

[チャルニー] まさか、あなたはまだ答えを得ていないのですか?

[代弁者マルキェヴィッチ] ……

[チャルニー] ――乾杯しましょう、マルキェヴィッチさん。あなたの出世に。そして私の……引退に。

[チャルニー] 乾杯!

[代弁者マルキェヴィッチ] …………

[代弁者マルキェヴィッチ] ……

[村人] あれ? もしかして、チャルニーさんとこに来たお客さんって、あなたですかね? もうお帰りですか? チャルニーさんは?

[代弁者マルキェヴィッチ] ……あの……チャルニー様は、ここで……どのように暮らしていらしたんでしょうか?

[村人] ああ。街のお偉いさんだった分、あの人は物知りですから、村人の商売の計画を一緒に立ててくれてるんですよ。それからたまに、子供たちに読み書きを教えてくれたりもして……

[村人] ……どうかしました? 顔が真っ青ですけど……お、俺……何かまずいことでも言いましたかね?

[代弁者マルキェヴィッチ] ……いえ、何でもありません。

[村人] そうですか。えーと、じゃあもうお帰りになります? それなら俺はこの辺で……

[代弁者マルキェヴィッチ] ……チャルニー様。私は、負けを認めません。

[代弁者マルキェヴィッチ] あなたが仰っていたものと、最後まで戦い続けてみせます。

[代弁者マルキェヴィッチ] 絶対に。

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