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ドッソレスホリデー_DH-8_ゴールを目指せ_戦闘後
カンデラはホシグマたちの行動に感謝を告げると、その場の椅子へかけるようにと招くのだった。 この時、船上ではチェンとユーシャが話し合い、次の行動を決めているところだった。
[カンデラ] ごほん。……あー、あー。聞こえているかな?
[カンデラ] 親愛なる市民の皆さん、そして観光客の皆さん。私だ、カンデラ・サンチェスだ。
[カンデラ] まずは、ご安心いただきたい。この事態についてだが……そう心配する必要はない。
[カンデラ] 確かに、パンチョの取った行動は完全に想定外だった。
[カンデラ] まさか、信頼する部下が、私のドッソレスを乗っ取ろうと企んでいたなんて……まったく、信じられないことだ!
[カンデラ] しかし、初めに言ったように、心配はいらない。
[カンデラ] それどころか、彼には感謝しなければいけないくらいさ。
[カンデラ] 正直な話をすると……ここ二年ほど、私には悩みの種があってね。どうすればよりエキサイティングで魅力に溢れ、人々を楽しませられる大会を実現できるのかを、考え続けていたんだ。
[カンデラ] けれども、長いこといい方法が思いつかなくてな……どうしたものかと思っていたところだった。
[カンデラ] そんなところへ、親愛なるパンチョが私のために、その方法を見つけてきてくれた。彼は自ら行動することで、よりエキサイティングな大会を見せてくれたというわけだ!
[カンデラ] ――「お遊びは終わり」だって?
[カンデラ] いいや、その逆だ。正反対だとすら言える。言うなればあの瞬間――今大会は本当のクライマックスに突入したのだから!
[カンデラ] 今この時を以て、これまでに敗退したすべてのチームを復活扱いとする! それに伴い、「予想」イベントについても仕切り直そう!
[カンデラ] 参加者諸君は、街で騒ぎを起こしている連中をできる限り抑えてみせてくれ。なあに、君たちにならできるはずさ。
[カンデラ] 無論、事態が収束した暁には、相応の報酬が待っているぞ。
[スワイヤー] …………
[ホシグマ] …………
[カンデラ] やあ、待たせたね。君たちが噂のお二人さんか。……なんでも、私を殺そうとした連中を阻んでくれたらしいじゃないか。部下から聞いているよ。
[カンデラ] さ、この椅子にかけたまえ。頑張ってくれたご褒美だ、私と共に特等席で試合を楽しもうじゃないか。
[スワイヤー] ……さっきのお話、本気でいらっしゃるんですか?
[カンデラ] もちろん本気だとも。
[カンデラ] ――パンチョは理解しているのだ。私と直接やり合ったところで、勝ち目は薄いということをな。
[カンデラ] だから、私が預けておいた船の中に閉じこもっているのさ。
[カンデラ] まあ、私の予想が正しければ、奴はひそかにあの船へ色々仕込んでいるんだろう。例えば大砲とか、ね。
[ホシグマ] ですが、奴らの備えがそれだけであれば、大した脅威にはならないのでは?
[カンデラ] うむ、君の推測は正しい。
[カンデラ] ただ、一つ問題があってね。第二、第三ラウンドの試合期間中は、各地の権力者たちに大会を間近で楽しんでもらうべく、彼らを船へと招待していたんだ。
[スワイヤー] なるほど。その権力者たちの命こそが鍵を握っているんですね。
[スワイヤー] なぜなら、ドッソレスの都市運営には彼らとのコネクションが必要だから、ですね。
[カンデラ] ああ、まさしくその通りだ。私が彼を排除する分には大したことでもないが……先ほど言った問題というのは、お偉方の部下たちが、果たしてそれを望むのかということなのさ。
[カンデラ] とはいえ、これだけ派手にやっておいて結局小細工頼りとはね。
[カンデラ] 恐らく、こんな悪知恵を仕込んだのはエルネストだろうな。
[カンデラ] なんにせよ、見ての通り今の私にできることは多くない。しかし、それはパンチョの方も同じことなんだ。
[カンデラ] となれば、何事も、より面白い方がいいに決まっているだろう?
[スワイヤー] ですが、それでは彼をさらに刺激してしまうのでは……
[カンデラ] 考えてもみたまえ。もし本当に権力者たちを殺してしまったら、私がこの都市を彼に明け渡したところで彼らは何一つとして成し遂げられまい。
[ホシグマ] 市長の仰る通りです、お嬢様。彼がこの都市を手に入れて、戦争をしたいと思うのなら、結局は捕まえたお偉方を頼るしかないんですよ。
[ホシグマ] 軍資金にしろ、そのための人員にしろ、勝手に湧いては来ませんからね。
[ホシグマ] 思うに、船内の権力者たちの中には、すでに彼と手を結んだ人も何人かいるのではないでしょうか。
[スワイヤー] ……
[カンデラ] ほう、君たちは実に面白い若者だな。その出で立ちからして、ボリバル人ではないように見えるが?
[ホシグマ] ははっ、さすがのご慧眼ですね。我々は龍門から来た者です。実は友人二人がまだあの船に乗っているんですよ。
[カンデラ] おや……? と、いうことは、チェン君とリン君の友人か? 知らなかったよ。なぜ彼女たちは何も言ってくれなかったのだろう。
[ホシグマ] ああ、それも当然かと思いますよ。彼女たちには知らせずに、こっそり遊びに来たものですから。
[カンデラ] はははっ、そういうことか。
[カンデラ] ならば、君たちにはもう少し詳しい事情を話してやれそうだな。
[カンデラ] ――私は、この件をチェン君とリン君に任せてはいるが、同時に……フミヅキ夫人に対しては、「この地では二人のことをどんな危険にも晒させない」と約束をしたのだよ。
[カンデラ] ……この意味がわかるかな?
[ホシグマ] 今はまだ、あなたが動く必要などないということですね。
[カンデラ] 素晴らしい。よくわかっているじゃないか、極東から来た娘よ。
[カンデラ] もしも私が動くとすれば、それは二人の命が本当に脅かされた時だろうな。……そうなれば、船の上にいるお偉方も、哀れなパンチョ共々葬られることになってしまうがね。
[スワイヤー] ……
[ホシグマ] 大丈夫ですよ、お嬢さん。ご心配なさらず。
[カンデラ] ははは、彼女の言う通りだとも。……さて、君たちが助けてくれたお陰で、こうして知り合えたことだ。せっかくだし、ゆっくりお喋りでも楽しむとしようか。
[ユーシャ] ――どう? そっちは終わった?
[チェン] ああ、もう片は付いた。
[チェン] だが状況は相当深刻だな。
[ユーシャ] ええ。あなたがエルネストの相手をして、その間に私が調査するってやり方だと遅すぎたみたい。
[チェン] ……そのようだ。
[ユーシャ] 不満そうな返事ね。
[チェン] どうにも歯がゆくてな。……しかし、打開策がない。
[ユーシャ] この件がそんなに単純な話じゃないことくらい、とっくに予想は付いてたじゃない。
[チェン] ここまで騒ぎが大きくなるとは思っていなかったんだ。
[ユーシャ] あら、今更怖じ気づいたの?
[チェン] 馬鹿なことを言うな。
[チェン] それよりお前、今どこにいる?
[ユーシャ] 今? 適当に入った船室。
[ユーシャ] あなたとエルネストがお喋りしてる間に、船内を歩き回ってみてたのよ。パンチョが行動を起こすまでは、そこまでピリピリした雰囲気でもなかったんだけど……
[ユーシャ] 彼の演説が終わるとすぐに、乗組員たちが動き始めたの。
[ユーシャ] だから今はもう、厳重な警戒態勢が敷かれてるわ。しかも、見た限り装備や物資も十分みたいね。
[チェン] なるほど、籠城の備えはできていると。厄介だな……
[ユーシャ] まあ、完全に打つ手なしってわけでもないわよ。
[チェン] というと?
[ユーシャ] 彼らは、船内にいた権力者たちを人質に取って閉じ込めてるの。
[チェン] くだらない真似を。ハイジャックでもあるまいし……いや待てよ。
[チェン] その人質こそが解決の糸口となる、というわけか。
[ユーシャ] ふうん? わかってるじゃない。
[チェン] 考えてみれば簡単なことだ。この船にどれほど備えがあるにせよ、陸地での協力者がどれだけいるにせよ……どの道、都市全体を掌握しているカンデラさんとは引き分ける程度が関の山だからな。
[チェン] この事態が長引くほど、彼の勝率は低くなるはずだ。
[チェン] となれば、お守り代わりに人質を確保した、というのが妥当な線だろう。
[ユーシャ] ええ、そういうこと。ちなみに、この権力者たちは全員、三政府から来た大物よ。
[ユーシャ] だから彼らを人質に取っておけば、いい抑止力になるでしょうね。
[ユーシャ] それに、そもそも向こうからしたら、ほんの少し時間が稼げたらそれで十分なのよ。カンデラさんがいくらか躊躇ってくれさえすれば……
[ユーシャ] その隙を狙って行動を起こし、より多くの交渉材料を手に入れることができるんだもの。
[ユーシャ] で、話を戻すけど。人質を解放するにしても、やり方は考えなきゃいけないわ。私たち、たった二人しかいないんだし。
[ユーシャ] ここは役割分担するとしても、私、誰かさんみたいなヒーローなんて絶対演じたくないのよね。
[チェン] ……言いたいことはわかった、引き受けよう。
[チェン] 奴らの注意は引いておく。その隙に人質を救出してくれ。
[ユーシャ] 決まりね。救命ボートくらい、この船にもあるはずだし、最悪、海に飛び込んでもらえばいいでしょ。
[ユーシャ] それで、その後は?
[チェン] その後?
[ユーシャ] 救出したらそれで終わりでいいの?
[チェン] ヒーローなんて演じたくないと言ったのはお前だろう? 一人残ってヒロイズムを体現するつもりなら、別に止めはしないが。
[ユーシャ] 無理ね。冗談じゃないわ。
[ユーシャ] ――それじゃ、もう始めていいわよね?
[チェン] ああ。通信は切らずに、繋げておけよ。
[エルネスト] ……うっ……こ、ここは……?
[ラファエラ] ! よかった……目が覚めたんだね。お兄ちゃん、大丈夫?
[ラファエラ] あっ、えっと……ここは船の上で……お兄ちゃんは、あのチェンって人と戦って、気絶させられちゃったみたい。
[エルネスト] ああ……うん、そうだった。思い出したよ……
[エルネスト] ……状況は? 今、どうなってる?
[ラファエラ] 計画通り、順調に進んでるよ。偉い人たちも何人か、パパに協力してくれるって言ってて……
[エルネスト] ――待った、チェンさんはどこだ?
[ラファエラ] うーん……お兄ちゃんと戦った後は、船中の色んな場所に現れて騒ぎを起こしてるみたい。パパから、捕縛命令が出てるけど……
[エルネスト] 騒ぎを起こしてるって……? ……まずいな。
[エルネスト] ……ラファエラ、人質のいる場所を急いで見に行ってくれ。一人では行くなよ、誰でもいいから連れて行くんだ。
[エルネスト] 多分……チェンさんは今、リンさんのためにチャンスを作ってる。
[エルネスト] もし、二人に人質を連れて行かれたら、この計画は終わりだ。
[ラファエラ] で、でも……お兄ちゃんはどうするの?
[エルネスト] 俺のことはいいから。ほら、早く行けって。
[ラファエラ] うん……わかった。
[エルネスト] ……
[チェン] ――以前、昔なじみにこう言われたことがある。一度しこたま殴られないと、自分の執念が単に手放し時を逃した衝動だと気付かないのだろう、とな。
[チェン] 私は……今もなお、区別がつけられずにいるんだ。何が守り抜くべき執念で、何が幼稚で無謀な衝動なのか……
[チェン] しかし、だからといって、為すべきことを為さないのなら、私はもうチェン・フェイゼたりえない。きっと彼女にも、それはわかっていたはずだ。
[エルネスト] ……いいよなぁ、チェンさんは。自分が何をするべきなのかとか、それをどうやればいいのか、とか……全部わかってんだから。
[エルネスト] ……だったら……俺は。
エルネストは無理やり立ち上がると、おぼつかない足取りで部屋を出て行った。
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