aklib_story_闇散らす火花_チャリン

ページ名:aklib_story_闇散らす火花_チャリン

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闇散らす火花_チャリン!

レユニオンが電気制御システムの調達を依頼し、依頼を受けた者はそれを入手するためにクルビアの武装車列を待ち伏せる。現場では買い手と売り手が一触即発の状態になるが、お互いの陣営に旧友がいることに気付き、丸く収まるのだった。


1097年12月21日 a.m. 8:44

ボーンヤード 古びた廃城の高塔

切り立った峡谷の間に、いつの時代に造られたかわからない建造物がそびえ立っている。この廃城の物語は風化し蘇ることはない。

しかし廃城の影に集う者があり、この静寂の地にもいくらか活力が戻りつつあった。

[レユニオン戦士] ほらよ、ジャガイモだ。

[Guard] 生産量はどうだ?

[レユニオン戦士] ……一台のキャンピングカーでずいぶんたくさん収穫できている。すごいものを見せてもらったよ

[レユニオン戦士] こんな畑は今まで見たことがない……

[レユニオン戦士] 何と呼ぶんだったかな、この技術は?

[Guard] 水耕栽培だ。移動都市の水耕栽培が普及し始めたのもここ数十年の話だからな、見たことがないのも無理はない。

[レユニオン戦士] Guardさんはこういうことに詳しいのか?

[Guard] 多少はな。ロドスの内部にはこういった施設が多いから、それなりに見てきた。

[レユニオン戦士] 作物が育つのはすごいが、キャンピングカー一台分じゃ全員を養うことはできないな。

[Guard] 焦る必要はないさ。カジミエーシュの学者たちの手助けもある……俺たちに必要なのは時間だけだ。

[レユニオン戦士] しかし技術がどういうものか理解しているのは、あのエンジニアとそいつの連れだけだからな。

[レユニオン戦士] いなくなれば、全部おじゃんだ。

[レユニオン戦士] 俺はやはりあのエンジニアを信用できない。

[Guard] なぜだ?

[レユニオン戦士] あいつは感染者じゃないからだ。

[レユニオン戦士] 妻と娘が鉱石病に感染して死んだから、俺たちに力を貸してるだけなんだろ?

[レユニオン戦士] 平和な暮らしが難しくなって、運命の不公平さに憤り、感染者に共感したから、あいつは俺たちを助けているってことだ。

[レユニオン戦士] なら、もしあいつに新しい家庭、新しい家族ができて、感染者を支持することの方が普通の生活の支障になったとしたら?

[レユニオン戦士] その時、あいつはまた心変わりするんじゃないか? 生活や家族のために俺たちを裏切らないと言えるのか?

[レユニオン戦士] あいつは感染者じゃないんだ。俺たちの気持ちを真に理解して肩を並べることはできない。

[Guard] まだ起きてもいない裏切りや悪行を仮定して「非感染者」を敵として扱うな。

[Guard] 俺たちに対する善意がいつか必ず変質し、俺たちを助けてくれる人がいつか必ず心変わりすると考えるのであれば──

[Guard] 俺たちには永遠に友人なんてできない。協力は信頼の上に成り立つもので「レユニオン」を実現するためには、他者との違いを認めつつ共通点を見いだす必要がある。

[レユニオン戦士] しかし、タルラが引き起こしたようなことは、二度と繰り返してはならない。

[Guard] であれば、俺たちに必要なのは緊急事態への対応策──起こりうる危険に十分に備えることだ。常にあらゆる人を警戒し続けるのではなくな。

[レユニオン戦士] わかったよ。

[レユニオン戦士] ところでお前さ、ますますパトリオットさんに似てきたと言われないか?

[Guard] 俺とあの人じゃ比較対象にすらならないさ……

[Guard] そういえば、服の具合はどうだ?

[レユニオン戦士] 少し小さいが、大丈夫だ。

[レユニオンメンバー] この生地、きっとめっちゃ丈夫なやつですよね。

[Guard] ああ、安くて実用的だから戦闘服にはもってこいだ。

[レユニオン戦士] 以前はこんな日が来るなんて考えたこともなかったな。

[レユニオン戦士] 新しい服だぞ! 何年もそんなもの持ったことなかった。

[Guard] カレドンシティの感染労働者たちに感謝すべきだな。

[レユニオン戦士] だが、一つ理解できないことがある。

[レユニオン戦士] どうしてレユニオンのマークをはがさなくちゃならないんだ?

[Guard] 俺たちにはそのマークは必要ないからだ。

[レユニオン戦士] 俺たちにレユニオンは必要ないってのか?

[Guard] そうじゃない。

[Guard] 俺たちにはもうわかりやすい記号なんかいらないんだ。何かのマークで自分を証明する必要はない。

[Guard] 俺たちを一つに繋いでいるのは、精神であって、記号ではない。

[Guard] 俺たちは自分と他の感染者を区別するのではなく、みんなを助け、感染者全員を支える力になるべきなんだ。

[レユニオンメンバー] だったらなぜ、第四小隊の奴らはまだマークのついた戦闘服を着ているんだ?

[Guard] 彼らの活動には特殊な目的があるからな。第四小隊は俺たちのために目くらましとして動いてくれている。

[レユニオン戦士] よ……よくわからないんだが?

[迷彩狙撃兵] 第四小隊はマークのついた服を着てウルサス東部で行動し、ウルサス人の注意を引き付けている。これにより、レユニオンの残党は東部の荒野に散らばっている奴らだけだとウルサス軍に思わせる。

[迷彩狙撃兵] そうすれば、ほかの場所で俺たちが活動しても、ウルサスや他国の注意を引くことはなくなる。

[迷彩狙撃兵] 俺たちの活動はすべて、関連性のない単発的な行動だと勘違いするだろう。俺たちがレユニオンであるとは誰も思わず、俺たちに注目する奴はいない。

[レユニオン戦士] ビーンさん! 戻ったのか!

[迷彩狙撃兵] 報告。ビーン、ただいま帰投した。

[Guard] ご苦労。順調だったか?

[迷彩狙撃兵] 問題ない。設備はすでにレイド隊長が倉庫へ運んだ。

[Guard] それはよかった。状況が変わったと聞いたから心配していたんだ。

[迷彩狙撃兵] 確かにカレドンで計画にない問題が発生したが、幸いなことに制御可能な範囲だった。

[エルバ] おはよう、Guardさん。

[Guard] エルバさん! 君も来たのか。

[エルバ] トランスポーター小隊のメンバーはみんな到着したよ。

[Guard] クルビアの状況はどうだった?

[トランスポーター小隊員] ……どう言えばいいのか。

[エルバ] 開拓エリアにいる感染者のほとんどは過酷な生活をしていて、私たちの提供できる支援じゃ到底追いつかなかったよ。

[エルバ] でもクルビア人は確かに開拓者に土地を分け与えていたね。感染者でも例外はない。

[Guard] なるほど……

[トランスポーター小隊員] 都市に関して言えば、トカロントの感染者は俺たちに物資や住居を提供してくれたけど、それらは無償ではなかった。

[トランスポーター小隊員] だが、荒野にあるビール醸造所のオーナーが見返りを求めずに力を貸してくれたんだ。彼は頼りになる……少し変わり者ではあるけれど。

[Guard] 幸先の良いスタートのようだな。

[Guard] お疲れ様、エルバさん!

[Guard] 遊撃隊の方は? アウローラから返事はあったか?

[レユニオンメンバー] アウローラ隊長は、北原へ向かったっす。以前あっちに残った部隊を探すためとかで、今回は来られないと思います。

[レユニオンメンバー] でも遊撃隊から何人かサルカズ戦士が派遣されて、もうナインさんたちと合流しているはずですよ。

[レユニオンメンバー] あとカジミエーシュ方面の担当者も昨日到着して、大勢引き連れてきてくれてました。

[Guard] じゃあほとんど揃ったな。

[Guard] 俺は格納庫の状況を見てくる。君たちは先にナインの所へ行っててくれ。

[レユニオンメンバー] イエッサー!

けたたましい機械音が鳴り響く廃倉庫の中央に、一台の巨大な乗り物が置かれている。

レユニオンのメカニックたちがそれを取り囲んで慌ただしく働いており、倉庫内では金属の切断音や溶接音が響いていた。

[レイド] ゆっくり下ろしてくれ! そっとだ! ぶつけて壊さないように!

[Guard] ようやくこのエンジンを運び出せたか。

[レイド] あ、Guardさん!

[Guard] カレドンの方はどうだ? 街の感染者たちに異常はないか?

[レイド] なんといえばいいか、まあ悲観する必要はなさそうな状況かな。

[レイド] 例のアンスト議員は置いておいても、市議会の半数が感染者地区の維持を支持してくれている。少なくとも感染者地区が機能し続ける限りは、状況が悪化することはないよ。

[レイド] だが元の状況が状況だからね。例えば二ヶ月前、ある貴族に買収された警備員が感染者地区の発電機を破壊した。幸い忍ばせておいた仲間の中に専門の術師がいたから、問題は大きくならなかったが。

[レイド] ……あそこの感染者が直面する問題は減っていない。彼らはまだ多くの助けを必要としているよ。

[Guard] エンジンを運んでいる時に少しトラブルに見舞われたと聞いたが?

[レイド] ちょっと予想外トラブルに遭ったのは事実だよ。

[レイド] Guardさんが以前予想していた通り、感染者地区の存在を目障りに思っている者は少なくなかったけど、幸いにも大半の問題は解決できたよ。

[Guard] 仲間に危険はあったか?

[レイド] 安心してくれ。俺らの活動は誰にもバレていない。何人かはしばらくおとなしくする必要があるだろうけどね。

[レイド] それとあの古い物流通路はもう使えない。地上の爆破がインフラ層を破壊したせいで、廃棄通路の存在が知られてしまったんだ。

[レイド] 今後数ヶ月はカレドンでの活動を控える必要がある。

[レイド] 俺らの存在が露見してしまうと、感染者地区に深刻な影響を与えるからね。慎重に行動すべきだだ。

[Guard] 同意見だ。

[レイド] でも今回発生した問題のおかげで、スムーズにエンジンを運び出すことができたよ。しかも痕跡を一切残さずにね。

[レイド] エンジンが手に入ったとはいえ、これ、本当に飛ぶの?

[Guard] 信じてくれ、俺は以前これに似た乗り物に乗ったことがある。

[Guard] クルビアの街中では、これよりもっと小型のタイプが使われてる。確か回転翼機とか呼ばれてたような……

[レイド] オートジャイロは俺も見たことがある。ウルサス軍にいた頃にも、偵察用の一人乗り飛行ユニットを見た。オートバイより少し大きいくらいだった。

[レイド] しかしこれほど大きな空飛ぶ乗り物は、初めてお目にかかったよ。

[レイド] こんなものどこで手に入れたんだ?

[Guard] ゴミ拾い中に拾ったと言ったら、信じるか?

[レイド] 俺は大真面目に訊いてるんだがな。

[Guard] ま、ゴミ拾い中ってのは半分は本当さ。

[Guard] 七年前、クルビア軍が飛行ユニット開発のプロジェクトを動かしていたんだ。そのとき作られたプロトタイプがこれで、こいつができたあとにプロジェクトは資金面の問題で停止した。

[Guard] それから倉庫で放置されていたんだが、クルビア軍は七年も経った今になって処分しようと思い立ったらしく、今度は軍用物資の処分を外注した。

[Guard] クルビアの軍事研究プロジェクトはかなり多く、処分するものもの武器や弾薬から車両や装備品まで多岐にわたっていた。金と手間を省くために、これらの仕事はまとめて一括で外注されたんだが──

[Guard] 下請けの企業が軍の基準に厳格にのっとって処理するはずもなく、そいつらは飛行ユニットを簡易的に解体した後で、とある「荒野のゴミ回収業者」に売ったんだ。

[Guard] そしてその「荒野のゴミ回収業者」がこれらの「ゴミ」を俺たちに売り渡したってわけさ。

[レイド] ……あなたたちは、こんなプロトタイプがあることをどこで知ったんだ?

[エンジニアアンドレイ] もちろん、Dijkstraの小僧が提供してくれた情報じゃ。

[レイド] Dijkstra? あの奇妙なクルビアの術師か、「ハッカー」とかいう……

[レイド] 恐れ入ったよ。

[Guard] どうだ、アンドレイさん。このエンジンは使えるか?

[エンジニアアンドレイ] エンジンのパワーは十分じゃ。

[エンジニアアンドレイ] しかしサイズがちょっと基準規格を超えておるな……そのまま積むと機体のバランスに影響が出るかもしれん。

[レイド] ヴィクトリア産のエンジンをクルビア産の飛行ユニットに搭載して本当に大丈夫なのか?

[エンジニアアンドレイ] 方法なんていくらでもあるわい。こいつを飛ばすのはそれほど難しいことじゃない。

[Guard] 頼んだぞ。

[エンジニアアンドレイ] 機体は任せてくれ。じゃがパイロットはどうする? こいつはそこらの車とはわけが違うんだ。操縦できる奴を見つけるのは難しいぞい。

[エンジニアアンドレイ] しかもこいつを動かすには二人必要じゃ。こんな上等な機械を操れるパイロットは、クルビアでもそうそうおらん。

[Guard] ナインもそれについて指摘していたが、Dijkstraが考えがあると言っていた。

[エンジニアアンドレイ] 問題はそれ以外にもあるぞい。

[エンジニアアンドレイ] 電気制御システム一式をまるっと全部新しくしなきゃならん。流石に作れんから、どこかで調達してこねばな。

[エンジニアアンドレイ] ただ、そこらで流れてる部品を持ってきても恐らくこいつには使えんぞ。採鉱プラットフォームのメインコントロールシステムのような設備一式が必要じゃ。

[エンジニアアンドレイ] 源石エンジンの断熱タイルも交換が必要じゃ。

[エンジニアアンドレイ] この話は以前ナインには伝えたが、調達状況がどうなってるかはわからん。

[Guard] 心配はいらない、数日後に商人がそれらの部品を届けてくれる。

[エンジニアアンドレイ] 商人? 例の鉄のバケツをかぶった奴か? どれも厳格に管理されている電子機器じゃぞ。どうやって手に入れたんじゃ? どんな度胸があればそんなもので商売できるんじゃ?

[ナイン] 彼には独自のルートがあるんだ、我々があれこれ口を出すべきではない。

[Guard] ナイン! 来たか。

[エンジニアアンドレイ] いいだろう、この件はお前さんに任せるよ。

[ナイン] その商人なんだが……Guard、レイドを連れて会いに行ってくれないか。

[ナイン] 我々の誰かが現場で確認する必要があるんだそうだ。「商品の出所を知っておいてほしい」とか何とか言っていた。

[Guard] 変わった奴だ……

[Guard] 了解。

1097年12月24日 p.m. 06:44

[Guard] こんな場所で落ち合うのか。

[レイド] 本当に信用できるのか?

[Guard] さぁな……少なくともナインは信用できると思っているようだ。

[Guard] 今まで彼からはたくさん物資を買っている。その代わり、俺たちもその商人を色々と手伝ってやってるんだ。

[Guard] 変わり者だよ、会えばすぐわかるさ。

[レイド] 俺は付き合いは慎重に考えるタイプだ……相手が正体不明の荒野の行商人なんて時は特にね。

奇妙なヘルメットをかぶった人物が、遠くからゆっくりと彼らの方に近づいてきた。

彼の後ろには、襤褸(ぼろ)を身にまとい、無骨な鎧を着た数名の大男たちが続いている。

[レイド] ……胡散臭さが服を着て歩いているようだね。

[キャノット] おはよう、こんにちは、そしてこんばんは、わが友よ。

[キャノット] Mr.Guard! また会ったな! 元気そうじゃねぇか。

[Guard] 友人と一緒に来るとは少し驚いた。乗り物や輸送車が見えないようだが……

[Guard] で、キャノットさん……俺たちが受け取る荷物はどこにあるんだ?

[キャノット] まあ焦るな、わが友よ。

[キャノット] お前が欲しているそれらの品物はすぐに目の前に現れる。今は俺の手元にないってだけだ。

[Guard] 意味がよくわからないんだが、キャノットさん?

[キャノット] もう少しの辛抱だ、待ちたまえ友よ。奴らはすぐにやって来る。

ほんの数分後、西の地平線に変化があった。何台かの武装車両からなる隊列が、砂ぼこりを上げながらゆっくりと現れる。

[キャノット] おいでなすったぞ。

[Guard] 望遠鏡を貸してくれ。

[Guard] ......

[Guard] 隠れろ! 全員隠れるんだ! 奴ら車に源石大砲を備えているぞ!

[エルバ] あのマークは……ヴォルヴォート・コシンスキーだよ!

[Guard] どういうことだ。説明してくれ、キャノットさん!

[キャノット] 欲しがってるブツはあそこだ、わが友よ。真ん中のデカい乗り物が見えるか?

[キャノット] あれには工業プラットフォームで使用される源石エンジン、それと電気制御設備一式が積載されてる。クルビアからレム・ビリトンへ運ぶ途中のやつだ。

[Guard] 俺たちにクルビアの武装車両を略奪させるのが君の計画か?

[Guard] あの装甲車を撃ち抜くには少なくとも大型の軍用キャノンがなきゃ無理だ、こんなのが商品の引き渡しなのか?

[キャノット] ヘイヘイ、落ち着くんだわが友よ。お前たちは俺の客だ、客の手を煩わせるわけがねぇだろ?

[キャノット] 観客席でみていてくれよ。ここは一番眺めが良いからな。

[Guard] ......

十数分後、完全武装した車両小隊がゆっくりと峡谷に入ってきた。

フルオートバリスタと源石大砲は、周囲から出現する恐れのあるあらゆる存在に対し、狙いを定める準備ができている。

硬い合金の装甲と力強いエンジンを備えた大型車両が、起伏の激しい荒野の砂地を越えていく。

テラの荒野では、安全に目的地へとたどり着くために、理論上これだけの武装が必要になる。

だが荒野では往々にして理論が成り立たない。

峡谷の地中から、八メートルを優に超える岩塊がせり上がり、砂が滝のように流れ落ちる──

よく見るとそれは岩ではなく、あまりにも規格外の大きさの、砂の中を移動するハガネガニだった。

巨獣が荒れ狂うようにして車列へ突っ込む。

武装車両がすぐさま対応に動いた。ハガネガニに源石弾を浴びせ、速射バリスタで関節部分を撃ち続ける。

しかし巨獣の歩む速度が緩むことはなかった。

爆音の中、ハガネガニが大型車両の一台に勢いよく突進した。

側面からの激しい衝撃によって、完全武装した大型車はたちまち横転し、脇を固めていたもう一台の車両に乗り上げて押しつぶす。

その直後、山あいから荒々しい雄叫びと金属音が響いてきた。

奇妙な格好をした戦士が数百人も、岩壁の上や巨大な岩の陰から飛び出してきた。

彼らは残る敵目掛けて殺到すると、源石結晶で作られた簡易爆弾を投げ、巨大な即席バリスタで攻撃を加えた。

武装した車列の護衛たちは、混乱し散り散りになって逃げる。

すでに大勢は決し、戦闘はすぐに収束へ向かった。

[Guard] ......

[キャノット] ……友人たちにはもう少し手加減を覚えてほしいところだな、あの突進で品物に傷がついてないか心配だ。後でチェックしねぇと。

[キャノット] けど、見ただろう。本当は会った時に品物を渡したかったんだが、計画には変更が生じるからさ……

[キャノット] この車両小隊は昨日、天災を避けるために少し予定から遅れが生じてな、今になってようやくこの峡谷に着いたわけなんだ。

[レイド] (武器を構える)

[レユニオン戦士] (武器を構える)

[キャノット] ……その反応、何か勘違いでもしてるんじゃねぇか?

[Guard] キャノットさん、君が錆鎚(ラスティハンマー)のメンバーだとは聞いてなかったが。

[レイド] 悪いけどレユニオンはまだ、野盗と商売するほど落ちぶれてはいないんだ。

[キャノット] かーっ! 傷つくセリフじゃねぇか、友よ。

[キャノット] それに随分と場違いな発言でもあるな。

キャノットの背後にいた錆鎚の戦士たちが武器を構えた。

[錆鎚戦士] 生意気な口を閉じろ。自分でできないなら、俺が頭を吹っ飛ばしてやるよ。

[レイド] へえ、できるかどうか試してみなよ。

[キャノット] やめろ友よ! やめるんだ!

[キャノット] なあおい、レディース&ジェントルメン! 我々は喧嘩をしに来たわけじゃないだろ?

[キャノット] みんな共通の目的があって荒野にやってきた。それを野獣みたいに反射的に殺し合ってどうする?

[キャノット] ほら、Mr.ガレス、武器をしまえ。最初に言った通り、俺に話し合いをさせろ。

[エルバ] ガレス……?

[ガレス] その声は……エルバか!?

[エルバ] 本当に君なの!? 生きてたんだね!

[ガレス] まさかこんなとこでお前に会うとはな!

[ガレス] そんな格好してるから、気付かなかった。

[レユニオン戦士] ガレス? あの「早斬り」のガレスか! 生きてやがったのか!

[レユニオン戦士] お……お前なぜ錆鎚なんかにいるんだ?

[ガレス] おぉ、お前たちまで!

親しげな様子に、たった今まで一触即発の状態だった双方の戦士たちは互いに顔を見合わせた。その場は突然、奇妙で気まずい雰囲気に包まれた。

[ガレス] 兄弟よ、警戒する必要はねぇ! こいつらとは知り合いだ!

[ガレス] 武器を置いてくれ、兄弟たち。こいつらは悪い連中じゃねぇから!

[エルバ] 本当に君なんだね……

[エルバ] 私はてっきり君はもう……

[ガレス] それについては話せば長くなんだよ……

[キャノット] ほらな友人たちよ、みんな顔馴染みだし、数千年前には親戚だったかもしれねぇ。人類みな兄弟、仲良くいこうぜ。まずは場所を変えて団らんと洒落込もうじゃねぇか?

[キャノット] お前たちのもう一人のリーダーとの約束に従うなら、これらの品物をお前たちの……アジトまで運んでやるべきかな?

[キャノット] ガレス、何人かの兄弟を連れて一緒に来てくれ。車の荷物を運ぶとしよう。

[ガレス] わかった。

[レイド] Guardさん、このまま基地に連れて行くの?

[Guard] 彼が基地に来るのはこれが初めてじゃない。ナインの判断を信じるしかないさ……

[レイド] はぁ……

[キャノット] お見事! 実にお見事だ!

[キャノット] 本当にこいつを修理しちまうとは思わなかった。

[ナイン] 前にも言ったはずだ、我々にはそれだけの力があると。

[キャノット] レユニオンは確かに世間の想像を超えているなぁ! お前たちは物事を成し遂げることのできる集団だ。

[キャノット] それでは約束通り、少しばかりの手数料として精錬源石錐を四十をいただこうか。問題ないな?

[ナイン] お前の気前の良さに感謝する、キャノット。

[Guard] ......

[レイド] 缶詰頭、一体何を企んでいるんだ。これほどの物資への対価が精錬源石錐たった四十個だと?

[キャノット] 友よ、お前は俺をまったく信用していないようだな。そいつはどうかと思うぞ。

[キャノット] 協力とは信頼の上に成り立つものだ。逆にだって言えるぜ。俺たちがこんだけ長く協力してきたことを考えりゃ、お前も少しは俺を信用すべきじゃねぇか?

[キャノット] 俺からの投資だと思ってくれたまえ。俺はお前たちの手腕を信じてるし、お前たちの仕事の規模がもっとでかくなるとも信じている。協力する機会は今後非常に多いはずだ。

[キャノット] 教えてくれ、お前にはその飛行ユニットが何に見える?

[レイド] ただの飛行ユニットだが?

[キャノット] 俺にはそいつが可能性に見える!

[キャノット] そいつがあれば、お前たちはおよそ時速二百キロで荒野を飛行し、移動都市の間を行き来することができる。テラの大地にそんな芸当ができる組織はいくつもない。

[キャノット] これで何をするかについて干渉するつもりはないが、大事に扱ってくれよ? 壊したら修理が大変だからな。

[Guard] 協力に感謝する、キャノットさん。

[キャノット] 当然だ、友よ。今後のお前たちの成功を祈る。

[エルバ] 錆鎚……私が想像していたものとは完全に違ったよ。

[ガレス] 錆鎚を誤解してる奴らは多い。実際の彼らは外界の……「文明」の内側からの評価など気にしちゃいない。

[エルバ] あの……訊いてもいいかな。

[ガレス] ん?

[エルバ] イラ姉さんは一緒じゃないの? あの人は……

[エルバ] どうなったの?

[ガレス] あ? イラか?

[ガレス] 心配するな、イラは大丈夫だ。

[ガレス] ただあいつは……体調があまり良くなくてな。

[エルバ] 鉱石病が悪化したの? 大丈夫なの!?

[ガレス] いやいや、鉱石病じゃなくてだな……そう深刻な顔するなって。

[ガレス] あいつは……その、妊娠したんだ。

[エルバ] は? ……妊娠?

[ガレス] ああ、冗談みたいだろ? ハハハッ、俺がパパになるんだよ!

[エルバ] そんな……え? それじゃ君らもう……

[ガレス] 大丈夫、錆鎚の兄弟姉妹がちゃんとあいつの面倒を見てくれてる。荒野では、すべての新たな命は嵐と大地の祝福を得るんだ。

[エルバ] いや、私はそんな心配をしてるわけじゃなくて……

[エルバ] はぁ〜まさか、君たち二人がねぇ……アハハ。

[エルバ] とにかく、おめでとう。

[ガレス] ありがとう。

[ガレス] 実は迷ったこともあったんだよ……

[ガレス] すげー迷ってた。生まれつき苦痛を背負わせるのを知りながら、一つの命を無責任に大地に産み出すのかってな。

[ガレス] だがイラがな。言ったんだ、母親になりたいって。

[ガレス] それで俺も決心したんだ。子供の運命がどうであれ、できる限り俺が守って、育ててやるって。

[ガレス] あの子は俺なんかよりも素晴らしい人間になるよ。

[エルバ] 私は……本当に君を尊敬するよ。

[キャノット] 出発するぞ、ガレス。ここでの仕事は終わった。

[ガレス] 了解。

[ガレス] じゃあな、エルバ。まさかこんな久しぶりにお前に会えるなんて思わなかった。今日は良い日かもな。

[ガレス] 達者でな、エルバ!

[エルバ] そっちもね。

[キャノット] まだ積もる話があったんじゃないか? そんなに急いでるわけでもないし、もう少し話してても構わねぇぞ。

[ガレス] 大丈夫だ、もう話は済んだ。

[キャノット] じゃあ出発するか。

[キャノット] ……わざわざこんなところで待ってるとは、まだ何か話し合いたいことでもあるのかな?

[キャノット] しかし、まさかこの俺がお前たち二人に全く気付かないとはな。

[ナイン] レユニオンの天災トランスポーターをなめない方がいい。

[エルバ] ……キャノットさん、私のこと覚えてる?

[キャノット] 当然だ、Ms.エルバ。

[キャノット] 俺は会ったことのある人のことは忘れない。が、ここ一年でお前は随分と変わったな。危うく誰かわからないところだった。

[キャノット] 昔からの友人が変わらず元気でいるってのは、めでたいことだ。

[ナイン] お前は誰に対しても「友」と呼ぶようだな。

[ナイン] 果たしてその言葉の価値を理解しているのかどうか……

[ナイン] まぁいい、私たちが「友」であるからには──

[ナイン] お前が去る前に、一つ質問させてほしい。正直に答えてくれ。

[ナイン] お前が言うように「協力とは信頼の上に成り立つ」ものだからな。

[ナイン] 互いを信用し合える答えが必要だ。

[キャノット] もちろんだ、Ms.ナイン。なんなりと訊いてくれ。

[ナイン] なぜ私たちに力を貸す?

[ナイン] ごまかすのは無しだ。大事な部分をぼかして茶を濁すのもな。

[ナイン] 私は本当のことが聞きたい。

[キャノット] ハハハ……

鉄のヘルメットの中から苦笑いが漏れた。

男はしばらく沈黙した。分厚いヘルメットの隙間から覗くどんよりとした目が、正面に立つレユニオンのメンバーを見つめている。

[キャノット] いいか、Ms.ナイン……俺は別に誤魔化すつもりはねぇ。

[キャノット] だがこの大地では、飾られる前の本音を誰もが受け入れられるわけではない。

[キャノット] 「諫言口に苦し、嘘は蜜のごとし」だ、Ms.ナイン。

[ナイン] レユニオンのメンバーに嘘や欺瞞は必要ない。

[キャノット] 荒野を歩き、テラ各国を渡ってきて、お前は何を見た?

[キャノット] 俺が何を見てきたか教えてやろう。

[キャノット] クルビアの開拓地で見たのは、感染者と貧民が干上がった荒れ地と恐ろしい野獣との間でもがき苦しむ姿だ……

[キャノット] 彼らは血肉と引き換えにかろうじて人としての尊厳を手にしたが、死体の下から出た黄金は、クルビアという名の怪物を作り出した。

[キャノット] ヴィクトリアの方は、古い慣習に囚われて身動きが取れねぇ。貴族なんて連中は貪欲かつ醜悪だ、奴らは金と力を身分の高い人間のためにしか使わねぇ。

[キャノット] あいつらからすりゃ、感染者なんてのは陰謀のための道具、政敵を刺すためのナイフ、なんにでも化ける便利なもんだが、生きてる人間とだけは思ってない。

[キャノット] このいわゆる「テラの大地で最も強大な国家」の中に、俺は文明の進歩の痕跡すら見ることができねぇ。

[キャノット] 二年前、サーミの雪祭司が「終末の日はすでに訪れている」と悲痛な叫びを上げた時、クルビア人はサーミ人の警告など信じようともしなかった。

[キャノット] 信じるどころかクルビア人は、その雪祭司は狂っていると言った。だがあいつらはそれをどうやって判断したんだ?

[キャノット] クルビア人はサーミ人が直面している暗闇を何も知らない。長きにわたるサーミ人の闘争の歴史を何も知らない。

[キャノット] 狂気こそが大地が……いいや、この世界が直面しようとしている真相だ。

[キャノット] 極北の氷原に潜む影に、果てしない深海をも飲み込む暗闇……大地の下に眠る古の災厄などは言及するまでもない。

[キャノット] だが、まったく嘆かわしいことに、大地の上の人々は未だ閉鎖的な孤島の中で生活し、石や棍棒で互いを征伐するのに必死だ。

[キャノット] あらゆるものが崩壊しつつある。俺たちに残された時間は少ない。変革を急がなければならない!

[ナイン] それがお前が私たちに力を貸す理由か?

[キャノット] そんなところだな、理由の一つではある。

[キャノット] 錆鎚やレユニオンみたいな現状を変えようとしている集団や、崩壊しかかった現実を目の当たりにした者、そこから逃れたい者、救いを求める者……

[キャノット] とにかく、動き出せる者が必要だ。

[キャノット] 俺は多くの者、多くの組織に力を貸してきた。錆鎚、レユニオン、サルゴンの神秘学者、サーミのサイクロプスたち……

[キャノット] 非常に残念ながら、この大地には、問題を解決する「答え」を導き出せる組織はまだ一つもない。

[キャノット] しかし、少なくとも俺はお前たちに一つの方向を指し示すことができる。

[キャノット] 良いことだろうと悪いことだろうと、結局のところ俺たちはやってみなきゃわからねぇんだ。

[ナイン] ……

[ナイン] キャノット……たとえお前の言う通りであっても、私を納得させることはできない。

[ナイン] レユニオンが、お前の言うようなこの大地の危機を解決するなんてことはありえない。それは私たちの使命ではないからだ。

[キャノット] わかってる、わかってるさ。だがレユニオンの活動は一つの契機になるはずだ、俺は大いにそれを信じている。エンジンってのはまずかけてやらないとな。どこに向かうかなんて贅沢な話は二の次だ。

[ナイン] お前が探しているのはロドスかもしれないぞ。あの理想主義者たちが集まる場所にこそ、お前の必要とする人物がいるはずだ。

[キャノット] だがロドスに頼るだけじゃすべてを変えることはできねぇ。たとえロドスがこの大地の精鋭を残らず集めたとしてもまだ足りねぇさ。

[ナイン] 彼らのカジミエーシュでの件は聞いたか?

[キャノット] 知っている、現場にいたからな。

[キャノット] あいつらは確かに良い一手を打った。だがこれだけ巨大な盤面から見りゃ、たかが一手じゃ最終的な勝敗に影響を与えるまでには至らないさ。指し手自身がそれを最もよくわかっている。

[キャノット] たとえあの耀騎士であろうと……灯台のごとく輝く彼女の心の火ですらも、大地を覆いきる分厚い暗雲を打ち払うには不十分だ。

[キャノット] もちろん、この苦難と憎悪に満ちた大地においても、まだあいつらのような連中がいるってことは、嬉しく思うがな。

[キャノット] 「どれほど濃い闇の中でも、火花は煌めく」。

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