灰とダイヤモンド(ブラック・ジャック)

ページ名:灰とダイヤモンド_ブラック_ジャック_

登録日:2010/10/18(月) 22:16:42
更新日:2023/08/17 Thu 20:05:05NEW!
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ブラック・ジャック どろろ 百鬼丸 スターシステム ダイヤモンド 老人ホーム 灰とダイヤモンド 横領 ヒゲオヤジ 老人に全身麻酔かけっぱなしで数時間うろつく百鬼先生 ブラック・ジャックエピソード項目



「灰とダイヤモンド」は、コミックス8巻、文庫10巻収録された『ブラック・ジャック』第25話のエピソードである。


スターシステムにより第3話「ミユキとベン」にも登場した百鬼丸が百鬼博士(YBJの百樹先生じゃないよ)、ヒゲオヤジが松方老人として登場。


スーツ姿の百鬼丸とBJの共演は必見。



大金持ちの老人、松方の依頼を受け、彼の屋敷を訪れた百鬼医師。音声ガイドの案内に従って屋敷の奥にある一室にたどり着くと、そこには手術台に横たわる松方老人が彼を待っていた。
やぶから棒に手術を頼んでくる松方に、事情を話してくれなければ手術はできないと百鬼が答えると、彼は自分の体の中に三十億円分のダイヤが隠されているという驚愕の事実を話し始めた。



巨万の富を築きながらも何度も他人を信じて痛い目も見てきたという松方は、財産をどこに隠すか悩んでいた。自宅はもちろん銀行も信用できない彼がと思いついたのが自分の体内。
腕が立ち口の固い医師としてブラック・ジャックに依頼を出し、一個一千万のダイヤを三百個、合計三十億円にも及ぶ全財産を体内の三百か所に埋めてもらったのだ。


それから一年。体には特に異常はないが、もしかするとブラック・ジャックがダイヤを何個かくすねているかもしれない。心配になった松方はもう一度ダイヤを取り出してネコババされていないか調べてほしいと、百鬼医師を呼び寄せたのである。



呆れながらも手術を始めた百鬼だったが、その顔つきはまたたく間に厳しいものになっていく。メモに従い次々にダイヤが埋められた場所を切開していくのだが、見つかるのはアクリル玉ばかりだったのだ。
ダイヤが全てアクリル玉に変えられていたことを確認した百鬼は手術中の松方を放置したままBJの強欲さを罵りながら彼の屋敷へ殴り込む。
しかしBJは悪びれもせず知らん顔。


「ねえ 百鬼先生……世の中は正直に言われる通りやるのもどうかと思うんですがね」
「それでもあなたは医者かっ」


激昂し掴みかかりながら、ダイヤを元通り体に戻そうとする百鬼に、このままだとダイヤを無駄に燃やされるだけだと反論するBJ。


「だからと言ってくすねるとはなんだ!」
あんたはバカだな!



詐欺と横領で訴える、あるいは黙って返すなら黙っておくと言う百鬼にBJも屈し、ある老人ホームへ案内する。
老人達が置かれている今にも壊れそうな老人ホームの状況を目の当たりにした百鬼。


「松方氏ひとりを騙しても何千倍かの年寄りが助かるならいいと思ったのか? そうはいかないよ」
あんた クソ真面目を一生通す気かい!!


老人達に見送られホームを去るBJと百鬼。
別れ際にBJは百鬼に「心臓が弱っているのに二度目の手術をしてしまった松方氏の体は長くはもたない」と忠告する。
あなたも立ち会ったらどうだ、と誘う百鬼だがBJは断った。



無事手術を終えた百鬼は松方にダイヤはちゃんと三百個あったと伝える。
百鬼は「身寄りのない年寄り達のいる老人ホームにダイヤを寄付するつもりはないか」と松方氏に尋ねるが「他人の面倒を見てきても損してきた自分にはそんな情け心は起こらない」と言われてしまう。
それを聞いて、やりきれない表情で去る百鬼。



それから幾ばく化の時間が流れ。手術の傷も癒えた松方は自宅の庭を散策していた。
自分の体の中という絶対に奪われない場所に巨万の富を隠してすっかり安堵していた彼だったが、なんの前触れもなくその時はやって来た。
激しい心臓の痛みに襲われて胸をおさえる松方。ついに訪れた死神の前にはどんな宝も意味をなさず……


「だ、ダイヤ……」


もがき苦しみながらこぼしたその一言を最後に松方は倒れる。異変に気づいた召使いが駆けつけたときには既に彼は息を引き取っていた。



葬儀場で聞かされた事の顛末に、百鬼は立ちすくみBJは冷ややかな顔をする。
火葬場の煙を見ながらダイヤが灰となったことをぼやくBJに百鬼は語る。


「ダイヤは老人ホームへ届けたよ」
「あんたもやるね……なかなか……フフフフ……」
「シッ」


どこかで祝杯をあげよう、と二人は歩いて行くのだった。




◆余談:
「灰とダイヤモンド」という題名は
おそらく1948年のポーランドの同名の小説やそれを映画化したものから取ったと思われる。


元々は19世紀のポーランドの詩人ノルヴィトの詩で
「全てのものはいつかは燃えて無くなる、しかしその燃えカスの灰の中から
ダイヤモンドのような価値のあるものが産まれ出てくることもあるのだ」
という趣旨の「破壊と再生」を詠った詩である。


小説や映画の「灰とダイヤモンド」の主人公は
許されない罪を犯し、もうすぐ避けられない死が訪れる運命となった時に
「俺はもうすぐ死ぬが、死んだ後に何かダイヤモンドのようなものが生まれるものだろうか?」
という前述の詩にかけた悲哀を表現している。


ブラックジャックの『灰とダイヤモンド』の松方は
自分の死が近いというのに自分の財産をどうすべきかを信頼して相談できる相手がおらず
よりによって金にがめつい無免許医師のBJくらいしか頼れなかった。
そして松方の想定通り体の中にそのまま残していれば自分が生涯働いて得た財産のダイヤモンドは灰になってしまっていた。
大元の小説や映画のプロットを逆転させた痛烈な皮肉と言えるのではないだろうか。


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  • 他人を信じたがゆえに裏切られ、捻くれた富豪の年寄と貧しい状況でも肩を寄せ合い、優しさを忘れずに生きている老人ホームの人たち。人として幸せなのはどっちなんだろうな --   (2015-07-21 14:11:23)
  • 今回のBJがやったことは完全に詐欺……なんだけど(BJの言う通りであれば)本来なら松方はダイヤを誰かに相続させたりせずに自分ごと火葬させてたはずなので、松方本人が知らない(=不幸にならない)まま死んだという点も含めて誰も損をせずに済んだと言えなくもない。 -- 名無しさん (2015-10-16 13:20:59)
  • ↑2普通に前者だろ。金に勝るものなんかこの世にない。 -- 名無しさん (2015-11-29 20:40:15)
  • ↑さびしいやつだね -- 名無しさん (2015-11-29 20:56:35)
  • ここに出た百鬼先生はヤングブラックジャックにもいたサイボーグ百鬼とは別人なんだろうけど・・・まだ若くまっすぐな感じだったし、時間もそれなりに経ってるはずだから、実は事故の前にできてた百鬼と澪の息子だったらいいな、ってちょっと思った。昔の百鬼と同じ道を歩かせないようにってブラックジャックの親心も感じられるし。 -- 名無しさん (2015-12-19 10:33:03)
  • めんどくさいから全部セットで復刊してくんないかな、未収録もあるし -- 名無しさん (2016-08-12 20:32:09)
  • ↑530億も資産が消えてたら絶対誰かにバレそうなんだが、誰にもバレないあたり本当に完全な孤独死状態だったのがね・・・ -- 名無しさん (2016-08-13 10:10:01)
  • 童話で似たような話があったな。金持ちの男が黄金を壁の中に埋めて隠していたら泥棒に壁ごと持っていかれた話。その後友人に、あっても使わない金なら壁を直してそこに金があると思えって言われる話 -- 名無しさん (2017-02-07 09:13:39)
  • ↑8どっちも幸せだっただろうさ。BJは幸せにする人間を増やしたんだ。もともと法律なんて気にする人じゃないし -- 名無しさん (2018-03-05 06:29:20)
  • 二度目からの手術が無理だって(松方本人も)分かってたんなら、この時点でダイヤはこの世にないようなもの……だけど、誰かが秘密を知ったとき、死神になるかもしれない -- 名無しさん (2018-04-29 01:34:59)
  • 宝は使えずとも持っていることに意味があるわけで、とすればある意味十分満足して死ねただけヒゲオヤジは幸せ。傍から見れば「信用できる人もいない、悪戯に体を刻んで命を縮め、よりどころだったダイヤも詐欺られた寂しい男」かもしれないが、本人は「宝石を抱いて安心して死ねる」わけだから。実態は不幸でも本人がそう思うかとは別の話。結果としては何も無駄にならずベストだった -- 名無しさん (2018-08-16 08:26:49)
  • 松方視点でも幸福だった、ってのは考えもしなかった。いいコメント欄だ -- 名無しさん (2018-08-16 18:32:02)
  • 揚げ足取りな意見だが心機能悪いのに大手術して長時間手術室空けたままにしておいた百鬼先生が松方の寿命縮めた気がせんでもない。諸々のリスク説明したうえでの手術だろうだから松方は満足だろうが。 -- 名無しさん (2018-09-19 13:51:00)
  • ヒゲおやじも昔は相当他人に恵んだりして、裏切られてきたのだろうか -- 名無しさん (2018-09-19 14:17:55)
  • 黒男「ひ・・・百樹先生」百鬼「違います」 ヤング見てから見た人はこう思っただろうなww  -- 名無しさん (2018-12-22 23:57:55)
  • 直接見たわけじゃないからホントかどうか分からないけど、雑誌掲載時と単行本収録では台詞が少し変更されているらしい。雑誌掲載時はBJの母親がホーム関連で何かあったみたいなこと言ったけど単行本ではその部分は削除 -- 名無しさん (2019-01-28 20:38:51)
  • 老人ホームが救われたのはいいことだけど -- 名無しさん (2022-05-02 23:52:45)
  • 人が死んで火葬の煙を見送った後に「さあどこかで祝杯あげようぜ」っていそいそと出向く医師2人に吹くw -- 名無しさん (2022-05-02 23:53:40)
  • 「ダイヤは老人ホームへ届けたよ」を聞いた直後のBJの顔がすごく嬉しそうなんだよね。 -- 名無しさん (2022-08-15 14:36:14)

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