福井鉄道F10形電車

ページ名:福井鉄道F10形電車

登録日:2023/03/31 Fri 10:18:17
更新日:2024/07/05 Fri 12:32:02NEW!
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*1


福井鉄道F10形電車とは、福井県の鉄道事業者である福井鉄道が保有する電車である。


概要

福井鉄道が2014年より導入した路面電車車両。「RETRAMレトラム」の愛称を持つ。
ドイツ語の車体広告が目を引く日本の鉄道車両とは思えぬ欧風な外観が特徴。これは外国の車両を模してデザインされたものではなく正真正銘ドイツから輸入された中古電車だからである
元々ドイツのシュトゥットガルト市内に路線網を持つシュトゥットガルト市電で使用されていた「GT4形」という車両で、その後高知県の土佐電気鉄道(現:とさでん交通)が購入し、そこから更に土佐電気鉄道から福井鉄道が購入したものである。導入にかかる費用は全て福井県が負担している。
本車の導入後、多くの人に利用される人気の列車となっている。


来歴

福井鉄道移籍まで

GT4形はエスリンゲン機械製造で製造され、シュトゥットガルト市の鉄道事業者であるシュトゥットガルト・シュタットバーン(シュトゥットガルト市電)の車両として開発されたもので、1959年5月27日より運行を開始。1965年までに350編成も導入された。福井鉄道へ移った車両はGT4形でも比較的若い車両である。


シュトゥットガルト市電の起終点駅はループ線になっており、折り返す時にはループを通って編成丸ごと方向転換する方式だったため運転台はパンタグラフのある車両にのみ設置され、ドアも進行方向右側*2にのみ設置されている*3。前面部の造形は前後で同じ。


シュトゥットガルトは丘陵地帯の都市であり勾配や急カーブも多かったことから台車はボギー台車*4であるが車体中央部に1つだけ台車を配し*5、台車同士をサブフレームで連結する連接構造となった。車内から連結部を見ると丸型の間接部で接続されていることが分かる。イメージとしてはドアに付いている蝶板のような仕組み。
これにより車体がカーブ内側に張り出しすぎることを防いでいる。


シュトゥットガルト市電では1985年からの改軌(1,000mm→1,435mm)や新型車両への置き換えにより2007年までに定期運用からは離脱。一部編成はドイツ国内の別都市やルーマニアの鉄道事業者へ譲渡行われた。
シュトゥットガルトに残った編成は市電博物館で動態保存され、改軌されずに残った21・23系統で保存運転が行われている。


現在福井鉄道に在籍する車両は土佐電気鉄道が1989年に開業85周年を迎えることから行われた「世界の路面電車を走らせる」という事業の一環としてシュトゥットガルト市電から購入したもの。
GT4形は前述の通り片側にしか運転台が無く、このままでは日本での運行に適しないことから714・735の2つの編成の内運転台がある車両のみで編成を組み直している。1つの車両においてドアは片側にしか無いが、片方の先頭車が逆向きになった関係上進行方向前側の車両ではドアが右に、後側の車両ではドアが左に来るようになったためドアの増設は行われなかった*6
他にも軌間の1,067mm化(改軌)、前面連結器の撤去なども行われたが外観は広告含めほぼドイツ時代のものを保っている。
形式名は「735形」となった。
1990年8月8日より土佐電気鉄道の世界の路面電車第1号としてデビューしたが故障の多さから2005年を最後に運用を離脱し、車庫で保管され続けた。運用離脱後の保存状態は悪く、車体には錆が目立っていた。


福井鉄道への譲渡

車庫の肥やしとなっていた735形に目を付けたのが福井県。県は本車を観光資源とすべく2013年12月に車両購入費200万円、輸送・修理費7,600万円の計7,800万円を全額県予算で購入。
福井鉄道での形式名は「F10形」となり、公募で決められた「RETRAMレトラム」の愛称も付与された。愛称は「レトロ」+「トラム(路面電車)」から*7
福井鉄道入線にあたり必要な整備は京王電鉄系列の鉄道車両整備会社である京王重機整備が担当。
京王重機整備は京王電鉄の車両のメンテナンスが主な業務だが過去には銚子電気鉄道高松琴平電気鉄道などへの譲渡の整備も行っている。これらの事業者への車両譲渡には譲渡元と譲渡先の路線特性の違いから大規模な改修が必要であったためこのような改修に慣れている京王重機整備は適任と言える。


車両概説

全体的に異国情緒とレトロさが目立つ。
中も外も日本では見られない特徴ばかりで、日本国内でありながらまるでドイツにいるかのような体験が出来る。


主要諸元

形式名F10形
製造所エスリンゲン機械製造
改造所京王重機整備
編成2車体連接
車両番号735-A(たけふ新側)・735-B(田原町側)
軌間1,067mm
電気方式架空電車線方式 直流600V
編成重量19.4t
全長18,180mm
全高3,710mm
主電動機出力100kw×2基
駆動方式車体装架直角カルダン駆動方式
最高速度65km/h

機器類

こちらも製造当初から据え置き
日本の古い路面電車と言えば爆音が特徴の吊り掛け駆動方式が有名だが、直角カルダン駆動方式を採用しているため吊り掛け程のモーター音は出ない。車体装架カルダン駆動方式自体は低床車両に向いていることから豊橋鉄道や広島電鉄などにおいて最近の路面電車にも採用されている。
また勾配路線用形式だけあり電動機出力も路面電車としては強めの100kw×2の200kwとなっている。


外装

下部分が黄色で上部分が白いという塗装は製造時時からのもので、前面部のドイツ国旗は土佐電気鉄道時代に付けられたもの。
また大型のパンタグラフがよく目立つ。
乗降扉の「SSB」の文字はシュトゥットガルト・シュタットバーンの略称。


方向幕は運転席窓上にある小さなものと側面にあるものを使用。ドイツ時代に系統番号を表示するのに使われたもので、福井鉄道では種別と行先を表示している。
その下にはドイツ時代に行先を表示していた方向幕がある。福井鉄道でもシュトゥットガルト時代の行先を(演出として)表示していたが現在は「福鉄 レトラム号」と表示されている。
側面方向幕は種別と行先を個別で表示可能。
尚方向幕は手回し式である。


一際目を引く「MÖBEL CENTER Wössner DIE BESTE GEWOHNHEIT」の広告だが、これは直訳すれば「MÖBEL CENTER家具センター Wössnerヴェスナー DIE BESTE GEWOHNHEIT最高の習慣」となる。つまりこれは家具店の広告なのである。最後のキャッチフレーズは意訳すれば「最高の暮らしを提供」と言ったところか。
2021年末に潰れたようだが。


内装

こちらもドイツ時代からほぼ変わらず。


シート配置は片側が1人がけ、もう片側が2人がけのクロスシート。ただし先頭部が細いという構造上運転台後ろの席のみロングシート。
吊り革にリングは無く、パイプから吊り下がるベルトを直接掴む文字通りの吊り革。しかしこの吊り革はパイプに通してあるだけで金具で固定されていないため横にスライドしてしまう。


方向幕は普通車外にのみ表示するのが一般的だが本車は車内表示も兼ねているのが特徴。これも日本では見られない特徴と言える。


路線図や降車ボタンなど当時から残る車内の案内は勿論ドイツ語。その他ドイツ語の単語紹介のステッカーも追加されている。


連結部分は前述の構造上大きく屈折するようになっているため丸型の関節部が客室同士を繋いでいる。そのため連結部分に壁は無く開放感がある。


福井鉄道導入にあたり福鉄名物のドアステップも追加。車両特性上電動式のものを搭載出来なかったためかドアステップは手動式のものになり、展開や格納は車掌が行う。
また後に運賃・停車駅表示のための液晶モニターも追加されている。ここだけハイテク感が出ている。


そして冷暖房は非搭載。何といっても1965年製ですから。代わりに後付けの扇風機はある。


運用

2014年4月12日に福井駅前(現:福井駅)での記念式典を行った後福井駅前から田原町での営業運転を開始した。翌年度以降は越前武生(現:たけふ新)~福井駅~田原町の福武線全線での運転となっている。えちぜん鉄道への乗り入れ運転は行わない。


福武線は普段はワンマン運転を行うがF10形は運賃箱や自動放送を搭載していないため車掌が乗務し、旅客案内や乗車券の確認等は車掌が行っている。その関係上運転席後ろのドアは締切で、連結部近くのドアのみを使用する。


F10形は冷暖房非搭載のため春期(3~5月)と秋期(10~11月)にのみ運転され、臨時列車扱いで休日の急行列車として運用される。
乗車には予約や別料金は不要で、乗車券のみで乗ることが可能。
停車駅は下りはたけふ新-北府-家久-西鯖江-水落-浅水-ベル前-赤十字前-商工会議所前-足羽山公園口-福井城址大名町-仁愛女子高校-田原町-仁愛女子高校-福井城址大名町-福井駅。一部同じ駅を経由しているのは福井城址大名町~福井駅は分岐線となっているため。上りはこれが逆になったものに加え田原町到着後折り返して再度福井駅を経由する。併用軌道(道路上を走る部分)は赤十字前~田原町及び福井城址大名町~福井駅のみで、あとは全て鉄道専用軌道。
それと福武線は路面電車だが乗降の有無に関わらず全ての駅に停車するため降車ボタンは使えない。
その他貸切運転も行う。


車内では記念スタンプの押印も可能なためスタンプ帳も持っていこう。


そしてF10形の運行上の問題は何と言ってもその故障の多さスペランカーかってレベルで弱い。
まぁ製造から60年近く経っている上海外産という特異な事情もあるため致し方無い。
不具合が発生すると修復にしばらく時間がかかってしまい、運行予定日でも運休となる。更にそのシーズン中での復旧が不可能な場合はそのままそのシーズンの運転を打ち切ることになる。
そのため運行期間中であっても前日ぐらいに確認しておかないといざ行ったら故障中で泣きを見る羽目になってしまう。
故障時には他の車両の牽引で車庫まで回送されるが前述の通り併結運転用の連結器は撤去されているため排障器上によーく見ると存在する非常用の連結器にアダプターの棒を通して他の車両と連結する。


イメージキャラクター

2019年スマートフォンゲーム『駅メモ! -ステーションメモリーズ!-』には本車をモデルとしたキャラクターのリト=フォン=シュトゥットガルトが登場。古い物好きのドイツ人少女で、「春と秋が好き」「故障が多いので沢山絆創膏を貼っている」などF10形らしいキャラクターとなっている。ただ性能はドイツ人仲間のシャルロッテ*8の派生。


その後2022年にはリトの後に実装された北府ゆめの共々福井鉄道公認キャラクター化。
同時にえちぜん鉄道でも田原町つばさ田原町つばさの公認キャラクター化が行われており、2022年3月25日~11月30日まで福井鉄道・えちぜん鉄道沿線を巡るゲーム内イベントが行われた。クリアすれば彼女らの制服衣装が獲得出来た。
期間中F10形及びF1000形第一編成にリトとゆめののヘッドマーク(ステッカータイプ)が掲出された*9
やはりこの期間中F10は故障したが。


今後の予定

現在空調装置の設置が無く運行可能期間が限られている本車だが2023年2月16日遂に冷暖房化が決定した北陸新幹線福井県延伸による利用客増加を見込んだもので、これにより季節の制約無く一年中運行が可能となる。23年度から改修工事が行われる予定。改修内容は冷暖房化の他通年運行に備えた電気系統の強化も予定されている。
改修費用は何と1億9,000万円で、2/3が県、残りが国の負担となる。



追記・修正はドイツから高知経由で福井に来た人にお願いします。


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  • 一両に約2.7億か・・・新幹線より高いな -- 名無しさん (2023-03-31 14:49:38)
  • ↑同社の最新の低床路面電車一編成の価格よりは安いとは思う -- 名無しさん (2023-03-31 19:47:49)

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*1 項目作成者撮影。
*2 日本とは異なり自動車や路面電車は右側通行。
*3 現在の日本では見られない方式だが、愛知県にかつて存在した桃花台新交通桃花台線(ピーチライナー)で採用されていた方式。
*4 2つ以上の車輪を持つ台車。
*5 ボギー台車を採用する車両は一般的に車両の端に2つ台車が設置される。
*6 日本以外の譲渡先でも両側にドアが必要な路線において同様の改造がされた。
*7 F10形と並行して導入が進められた新型低床車両のF1000形は「フクラム」の愛称を持つ。
*8 こちらは元ハノーバー市電の広島電鉄200形。
*9 尚ゆめのはF1000形の第四編成である。

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