登録日:2012/01/15(日) 01:07:08
更新日:2023/08/07 Mon 13:52:20NEW!
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藤子・f・不二雄 ミノタウロスの皿 コロリころげた木の根っ子 まちぼうけ dv 短編 黒い藤子f先生 未必の故意 死亡フラグ 完全犯罪 亭主関白 舞台化 戯曲本あり 内海賢二 結婚記念日 遅筆 意味が分かると怖い話 sf短編 韓非子 北原白秋 山田耕筰
藤子・F・不二雄の短編の1つ。1974年発表。
1989年に舞台『SUKOSHI FUSHIGI もの語り』*1の一部として上演された。
マツコ&有吉の怒り新党にて、「自分会議」「間引き」とともに「新・3大 藤子・F・不二雄らしからぬ異色な物語」の一つとして紹介されている。
◆あらすじ
結婚記念日だと言うのに突然編集長に大物小説家の大和先生の原稿を取りに行かされることになった新人編集部員の西村。
一刻も早く家に帰りたい西村だったが、大和は筆が遅いことで有名で、なんとまだ1ページも書けていないという……。
しかたなくそのまま大和の家で原稿を待つことになり、その家庭の内情を見ることに。
◆登場人物
- 西村
最近文芸公論社編集部に配属された新人。
結婚一周年だったが、急遽大和の担当になってしまったことで妻と喧嘩になってしまう。
『SUKOSHI FUSHIGI もの語り』版では「トキオ」と名付けられた。
- 大和
有名な大物小説家。
書き始めたら仕事は早いのだが、そこまでに非常に時間がかかる。
外面こそ良いものの妻に対しては大変な暴君であり、理不尽な理由で暴力を振るう。
重度の酒好き、ヘビースモーカーでボトルは直ぐに空になり、灰皿には吸い殻が山盛りになっている。
ガスが充満している汲み取り式トイレの中でもタバコを吸っている模様。
『SUKOSHI FUSHIGI もの語り』版では声優の内海賢二が彼にあたる役を演じていた。
- 大和の妻
非常に大人しく、大和には決して逆らわない従順な性格。
料理のレパートリーが少ないらしく、毎晩のようにマグロとアジの料理が食卓に並ぶ。
気は利き、西村が遅くなるだろうことを見越してに天丼を取ろうといったり、取材旅行の支度をあらかじめ用意している。
しかし、廊下の酒のボトルの片付けは忘れがちなのか、西村がつまずいて階段から落ちるハプニングも。
新聞や週刊誌の記事をスクラップして集めている。
- 大和の愛人
いきなり取材旅行に行こうと言い出した大和が、あろうことか妻に呼び出させた愛人。名前はルミという。
原作では普通の女性だが、舞台版ではニューハーフに変更されている。
しかし一方的に言われるのが嫌いで、旅行には行かないと言い出す。
妻を殴りつける大和を見て、西村に「先生いつか奥さんに殺されるよ」と言っている。
- キー公
大和のペットのカニクイ猿。マレーシア産。
動物が好きな大和へ妻がプレゼントしたもの。
序盤に西村にいたずらする。
以下ネタバレ注意。
大和は原稿を全然書いておらず、西村がいた方が書けるので居て欲しいというので西村は大和の家で原稿を待つことに。
当然大和の妻に対する態度も見えるのだが、それはそれは酷い物であり、大和はことある毎に激怒しては怒鳴りつけ、暴力を振るう。
現在(2023年)であればDVとして通報されてもおかしくない。
一応、サルが逃げて西村にいたずらしていたり、西村がボトルで滑って階段から落ちたりしたことに対しては明確に妻の落ち度ではあるが、それにしたって限度がある。
さらに言えばそれらの落ち度は旦那の大和にもあるのだが。
とはいえ大和が言うには、心の中では感謝しており、妻を愛しているという。
それは妻もわかっているはずで、理不尽な暴力にも文句も言わずに20年間も自分についてきてくれているのだと。
そして大和はついに作品の構想がまとまった。
タイトルは「コロリころげた木の根っ子」。
童謡「待ちぼうけ」のように、主人公を徹底的に受け身な人間にし、自分は手を下さずひたすらチャンスを待つ話という。
サスペンス小説だろうか?
しかし酒が切れており、奥さんも入浴中。
西村は代わりの酒を持っていくため部屋を探していると、奥さんが作った1冊のスクラップブックを発見する。
「トイレが爆発」
川崎市の会社員Aさんがタバコを吸いながらトイレに……
汲み取り式であったためガスが……
引火し爆発したもの……
「おもちゃで大けが」
階段の上に置き忘れられたおもちゃにつまずき……首の骨を折って……
「ペットからの伝染病」
Bビールス症 東南アジア産の野生猿が運び屋……
脳、神経系統をおかし……死亡率が高い…………
「水銀汚染魚安全献立表」
一週間に小アジ12匹マグロ47切れ以下……
有害な食品添加物一覧……
ヘビースモーカーの肺ガン発生率……
脳卒中はいつ、どんなところで……
驚愕した西村が部屋に戻ろうと階段まで来ると、そこには空のボトルを階段前に置き直す奥さんの姿があった……
そこへうさぎが跳んで出て
コロリころげた木の根っ子
考察
新婚で妻の方が強い西村と、熟年で夫の方が強い大和という対比であり、昔の夫婦の価値観の違いを対照的に描いている。
1974年は高度経済成長期とベビーブームの時期で、結婚に対する妻と夫の立場が妻の方が強いまであったが、昔は夫の立場の方が強いのは珍しいことではなかった。
しかし、大和の妻への扱いはやはり行きすぎていた。
大和は愛しているはずだ、などと言ってはいたが、相手は人間。
お互いに思っていたところで、そんな理不尽な扱いを長年していては心が離れるのも無理はなかった。
余談
現代の価値観ではとても信じられないが、昔の作家の中では家庭内暴力を振るう人がいたというのは実際あった話である。
『コロリころげた木の根っこ』は北原白秋作詞の『待ちぼうけ』の歌詞の一部だがこの歌の元ネタは中国の故事成語『守株』。
意味は古いことばかりにとらわれて進歩の無い事を指す。
仮にこれまでの事を悔いて行いを改めたとしても大和に進歩する機会はあるだろうか…?
『待ちぼうけ』の歌は待ったところで成果がでないことを表している。
大和の妻の企みについても、そういう暗示とも取れる。
西村は猿にいたずらされたり、ボトルにつまずいて階段から落ちるという憂き目にも遭っている。
一歩間違えば西村が死ぬ可能性もあった。
追記・修正する前に身の回りを振り返ることをオススメします。
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▷ コメント欄
- ここまでされて死なない大和 -- 名無しさん (2013-09-23 16:13:25)
- 井上ひさしが創作に行き詰まると奥さんを殴ってて、編集者も黙認するどころか「あと二、三発殴られて下さい」と頼んでいた。というエピソードを思い出した。 最後の一コマの奥さんが無表情で階段の上に瓶を置き直すシーンは鳥肌モノ。 -- 名無しさん (2013-09-23 16:55:39)
- ↑2エピソードの名前からして奥さんの失敗も示唆されてるのよねこの話 「待ちぼうけ」の元ネタの故事って待ち続けて何も起きずに落ちぶれるって話だし -- 名無しさん (2013-09-23 17:30:29)
- ミステリーで言う「密必の故意」ってヤツか。 -- 名無しさん (2013-10-19 10:52:16)
- 何が怖いってドSの旦那が奥さんにもキッチリ愛情を持っていて、それを奥さんも理解してると「思い込んでる」事。だからこそラストの不気味さが一層際立つ。 -- 名無しさん (2013-10-19 12:51:59)
- まあこれだけ殴って怒鳴っておいて「自分の愛情は伝わってる」ってのも都合の良い話だと思うわ -- 名無しさん (2013-10-19 14:32:29)
- 実際にこういうやつがどっかにいるであろうと想像できる事が一番怖い -- 名無しさん (2013-10-19 14:49:00)
- 大和死ね! -- 名無しさん (2013-10-21 13:26:38)
- 男は女の気持ちがわからず「自分が偉く正しい」と思い込んでいるって言うのが凄く嫌だ。 -- 名無しさん (2013-10-23 11:23:13)
- 西村さんは警察に届けたほうがいい。もちろん大和をDVで!このままじゃ奥さんのほうが犯罪者になったらやりきれないものがある。 -- 名無しさん (2013-10-25 13:16:08)
- 実際、大和の妻みたいに直接手を汚さず人を殺したがる奴は結構居る。俺の祖父母と両親も然り。全部避けてやったがなww -- 名無しさん (2013-10-25 13:49:40)
- ↑お前どんな家庭だよw -- 名無しさん (2013-10-25 15:00:59)
- ↑だいじょうぶだぁ、俺に構わず先に行け -- 名無しさん (2013-10-25 15:06:18)
- 要するに守株待兎ってことか -- 名無しさん (2013-10-30 15:14:27)
- 大和のような人間は、大抵悪運が強いからなぁ…。大和は奥さんの真意に気づかないまま天寿を全うするんじゃないかと思う。 -- 名無しさん (2014-05-27 19:05:58)
- ↑そうなったら、途端に奥さんは生きがいをなくしちゃう気がする…。 -- 名無しさん (2014-06-05 23:12:48)
- ↑それじゃ奥さんがあまりにも・・・・・。 -- 名無しさん (2014-06-13 17:31:04)
- 離婚しないのは、死や味ヘけたいから? -- 名無しさん (2014-06-13 20:21:11)
- したくても大和がエゴで許さないんじゃなかろうか。 -- 名無しさん (2014-06-13 21:29:37)
- ↑2 奥さんもまた大和に依存してるっていう皮肉だろ 大和自身が「普通なら別れて当然だろ」と自覚してその上でついてきてくれてると思ってる -- 名無しさん (2014-06-13 21:35:13)
- いっそ本音をぶちまけるかそれでも駄目なら刑務所行く覚悟で大和を殺すしかないな。そうでなければ精神崩壊するぞ。 -- 名無しさん (2014-06-13 23:01:19)
- 死は必ず自分の手で…て執念じゃないかな? -- 名無しさん (2014-06-22 17:25:32)
- 「先生いつかおくさんに殺されるよ」あの愛人バカっぽいけど核心ついてるよな -- 名無しさん (2014-07-15 11:19:20)
- たまたま撃ちどころが悪かったんだもんね死んでも仕方ないね -- 名無しさん (2014-07-19 19:14:13)
- 初めて読んだ時、ラストで本当に背筋がぞーっとした。怖すぎてあのシーンは読み返せない。 -- 名無しさん (2014-07-27 02:05:37)
- でもこれ曲の通りの展開だとすると奥さん失敗するよな -- 名無しさん (2014-07-27 06:44:41)
- 大和が本当にくたばることを祈るしかない。 -- 名無しさん (2014-08-10 13:45:05)
- 奥さんもあわよくば殺せるみたいな感じで、こういった形でしかストレスを発散できないんだから不幸だよな。たぶん作家の先生はしぶとく長生きしそうだけど、思いっきり奥さんに感謝して都合のいいとこしか気づかないまま死にそう。 -- 名無しさん (2014-09-01 01:48:46)
- ↑多分その場合、死の間際に「いいこと、教えてあげる。」と、今までの殺意を耳元で囁いて、恐怖に引き攣った顔を眺めながら見送るんだろう。多分奥さんは、旦那より意地でも長生きするからね。 -- 名無しさん (2014-09-01 08:12:55)
- ↑たぶんすっきりあっさりぽっくり一気に逝っちゃってそれすら出来ないってオチがつく気がする -- 名無しさん (2014-09-18 01:58:30)
- プロバビリティを狙った犯罪工作、とは言えそうだが…、そうなると何かのパクリになっちまうんだよな。 -- 名無しさん (2014-09-18 02:09:03)
- ああまでされてる奥さんが離婚しないことを考えると、大和への感情はもはや嫌悪ではなく、とっくに憎悪へ変わってるんだろうな。 -- 名無しさん (2014-10-25 02:36:57)
- これ見た時に思わず「母ちゃん」と言ってしまった あの冷たい殺意が怖かった -- 名無しさん (2014-12-04 23:12:16)
- 自分の(大して見せもしない)愛情が相手に伝わってると疑わない御仁は今でもいるしな・ドラマじゃ歩く死亡フラグだが現実じゃなぁ -- 名無しさん (2014-12-18 16:53:05)
- きっと奥さん、大和が死んだら泣くんだろうね(笑) -- 名無し (2015-02-01 01:36:24)
- こういう男は最後まで愛してくれてると満足して幸せに死んでいくんだろうな -- 名無しさん (2015-11-19 19:58:27)
- 表面上は暴力をふるっていながら「本当は愛してるから」とか典型的クズの言い分だな。でもこういう奴は何も知らずに死んでいく。それが幸せなのかは知らないが。 -- 名無しさん (2015-12-05 00:10:46)
- アイディアや話の筋自体は正直ミステリで使い古された陳腐な物でしかないんだよな。でもそれを手を抜かずしっかり描く事で立派な良作になっている。 -- 名無しさん (2016-04-14 10:27:47)
- 当時は「離婚」という発想自体がなかったんじゃないかなと思う。または世間体とか親の反対とか。かといって自殺したいとは思ってない、ならこうなるわな。 -- 名無しさん (2016-06-02 15:04:46)
- まぁ差別が当たり前だった昭和だしな。独身に対する風当たりも半端ないし -- 名無しさん (2016-08-14 23:13:33)
- 俺が割りとこんな状況相手は父親だが -- 名無しさん (2016-08-24 03:27:44)
- 隙あらば自分語り -- 名無しさん (2017-03-06 23:45:05)
- 世にも奇妙な物語に出てきても可笑しくない、藤子先生のエピソードの一つ。 -- 名無しさん (2018-12-03 19:18:10)
- 警察とか離婚とかってのはあくまで今の価値観であって、書かれた当時の高齢夫婦なんてそう簡単に離婚なんてできないし、警察も家庭内には不介入だったと思うぞ。旦那は作家で社会的な名声もあるわけだし。 -- 名無しさん (2019-03-10 09:54:48)
- 憎悪+遺産目的ではないかな。直接手を下したら相続できなくなるし、ここまで苦労したなら貰えるものは貰いたいって感じ。 -- 名無しさん (2020-03-07 00:45:45)
- サイコパスが被害者に対して都合のいい解釈をしているのがリアルだった。 2年間同じ被害者に痴漢していた犯人も「相手も喜んでいると思ってた」なんて言ってたっけ。 -- 名無しさん (2020-03-08 22:31:07)
- この手の殺人の恐ろしさは、直接手を下していないためただの偶然と言い張られたら証拠が無いこと。この場合スクラップブックが警察に発見されれば証拠となるかもしれないが、そもそも事件として調査すらされない可能性も高い。 -- 名無しさん (2021-05-06 09:53:13)
- 奥さんの行為、江戸川乱歩が著書「探偵小説の『謎』」(「青空文庫」収録済)の中で「プロバビリティーの犯罪」と名付けている。 -- 名無しさん (2022-09-09 07:08:36)
- 終わるタイミングが最高に絶妙なんだよなこの話。この夫婦どうなるのかって部分は読者の想像に委ねられてて。 -- 名無しさん (2022-12-13 19:09:36)
- マツコで紹介されてた時に見てた母親が「来客時はやめとけ」って冷静にツッコんでたわ。 -- 名無しさん (2023-05-30 22:13:27)
- 完全無欠の名探偵のエピソードってこれがオマージュ元だったのかなあ -- 名無しさん (2023-06-13 21:33:43)
- 大和夫婦を見た上での西村の心情が一切描かれていないのが怖い。観察者に徹しているといえばそうだが、西村が何を思ったかは読者の想像に委ねられている。令和の世に生きる人々は夫がクズだ妻かわいそうで全員一致するだろうが、当時の価値観では「夫は乱暴者だけど妻を愛しているのに妻は理解せず事故装って殺そうとしてるなんて妻ひどい夫可哀想」という可能性もあった。アル中以外はどんなに暴力振るっても愛していると言えば許されるどころか愛の鞭として評価された嫌な時代だったからな… -- 名無しさん (2023-06-15 22:34:24)
- この夫婦を知る周囲の人間にとって(愛人だけでなく編集部の人間も)先生はいつか奥さんに殺されるというのが共通認識なのよな。本当に奥さんの仕掛けに関係ない理由で死んでも奥さんが殺ったんやろなって思われそう -- 名無しさん (2023-06-16 23:05:51)
- 原作でのセリフと細かな描写が問題になっているため、ある程度取り除いた編集を行います。 -- 名無しさん (2023-06-25 22:07:54)
- 編集を行いました。 -- 名無しさん (2023-06-26 21:43:19)
- 憎まれっ子世にはばかるで案外天寿を全うするかも。 -- 名無しさん (2023-07-03 20:59:18)
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