登録日:2022/04/28 Thu 00:30:40
更新日:2024/06/18 Tue 13:36:42NEW!
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児童文学 ya!entertainment 百合 つくし薬局のカレーパン 安田夏菜 ya! アンソロジー
「つくし薬局のカレーパン」はアンソロジー小説『14歳』に収録された短編作品。
作者は安田夏菜。テーマはおそらく百合。
女子校が舞台で、友達に特別な感情を抱くようになってしまった中学生の女の子の物語。
元々「14歳」は「YA! アンソロジー」という児童文学アンソロジーシリーズのひとつ。
このシリーズは中高生を主人公として子供らしい悩みに立ち向かっていくというのが基本的なストーリー。
話の雰囲気としては青い鳥文庫とか角川つばさ文庫とかのものに近い。
……そこでいきなり女の子同士の恋愛ものが出てきて性癖を破壊された驚いた人も多かろう。
【あらすじ】
主人公の花音は白翠女子学園という女子校に通う中学二年生。
友達の玲央奈と唯と共にいつものように園芸部の活動に勤しんでいた。
そんな中偶然埋められていた古い手紙を見つけてしまう。それは過去の女子生徒が女子生徒へ送った恋文であった。
女から女への恋文という想像の上をいくものを見つけてしまった花音たち。
その手紙をきっかけに花音は玲央奈に対して特別な感情を抱いていることを自覚してしまう。
【登場人物】
- 花音
中学二年生の主人公。園芸部に所属。
自称平凡な女の子。容姿は平凡で行動もどっかとろい。この学校も補欠合格であった。
ただ好みが人と変わっているところがある。地味な園芸部を気に入っていたり、ダサいと評判な制服もレトロで好みだったりと。
玲央奈とは入学して以来の付き合い。性格は真逆であったがすぐに打ち解けられた。
彼女に対してはなぜか最近言葉にできない感情を抱いており、独占欲が日に日に強くなっている。玲央奈との二人きりの時間がこれ以上ない幸せである反面、玲央奈が後輩に囲まれている姿を見るとモヤモヤした気持ちが抑えられないなど。同性の彼女にこんな恋のような気持ちを抱くのはおかしいと理解しているが止められず戸惑っている。
- 玲央奈
花音の友人。去年までソフトボール部だったが肩を壊したため園芸部に入った。
いわゆる女子校の王子様的な存在。性格は朗らかで周囲について考えられる優しい性格。園芸部に入ったのも、部が廃部になりかけている花音のことを考えてだった。また顔立ちも凛々しく結構イケメン女子であるとか。
そんな存在であるため学内では先輩後輩問わず好感を持たれている。特に後輩からの慕われ方が凄まじく、玲央奈が園芸部に入ったところ後輩が10人入部した。「レオさま」と呼ばれている。
人気過ぎて2人きりの時間が殆どないというのが花音の悩み。それだけに花音は数少ない一緒になれる機会であるつくし薬局での時間を大切にしたいと考えている。
- 唯
花音の友人。テニス部と園芸部を兼部している。どちらかというとサバサバした女子。
女子校での恋愛について否定的に考えている。曰く「周りに男子がいないから代わりに女子に行ってしまう女子校特有の病」だとか。この考えは玲央奈への想いに悩んでいる花音に微妙にダメージを与えた。
- 筑紫キヨ
つくし薬局を経営している薬剤師のおばあちゃん。
口数は少ないが優しいおばあちゃんであり、中盤では落ち込んだ花音のフォローをしていた。
【用語】
- 白翠女子学園
大正時代から続いている伝統ある女子校。
女子校とは言っても華やかというよりは質実剛健を校風としている。校祖様の命日には遠足という名のもとに山道を数十キロ歩かされる。
現在の同窓会長は「皆川紅子」。花音たちが見つけた過去の手紙の送り主と同じ名前である。
- 園芸部
花音、玲央奈、唯が所属している部活。とは言っても正式な部員は実質花音だけで、玲央奈は怪我の影響でソフトボール部から転部、唯はバドミントン部と兼部という状況だが。
作物を植えて育てるのが活動内容。あまりにも地味すぎるために玲央奈が入るまでは廃部寸前だった。
現在は後輩が十数名いるが、全員玲央奈目当てでどこまで園芸に興味あるかわからないという不安定な状況。
- つくし薬局
学校からやや離れたところにある薬局。昭和の香りがするらしい。玲央奈と花音が探検ついでで散歩していた時に見つけた場所で、学校では2人しか知らない。
薬局であるが「親戚がつくったもの」としてカレーパンを売っている。珍しいカレーパンであり、カレーをサンドイッチのように食パンで包みそれを油で揚げている。花音たち曰くとても美味しいカレーパンらしい。ただ限定発売で水金にしか売っていないうえ個数も少ない。そのためこのカレーパンの存在は花音と玲央奈だけの秘密としている。
【ストーリー】
ある日のこと。園芸部に所属する花音、玲央奈、唯の3人は土を耕していた。
夏休みの終わりに倉庫が取り壊され、その跡地に畑をつくることになったのだ。
黙々と作業をしていた3人だったが、玲央奈が土の中から何かを見つける。それは古びた缶であり、中にはさらに古そうな手紙が入っていた。
手紙は「紅子」という少女が「お姉さま」に向けたもの。病気を患い遠い診療所へ入院することとなった「お姉さま」への想いが綴られた手紙であった。
……要するに女から女へのラブレターだった。
あまりに斜め上過ぎる内容に3人は思わず悲鳴を上げてしまう。
「長い歴史のある学校だし、過去の生徒が書いたものが偶然埋まっていたのだろう」と彼女たちなりに推理する。
そして色々話あった末内容が内容なので埋めなおそうという話になった。
ちょうど埋め終わると後輩たちがやってきた。玲央奈目当ての後輩たちは黄色い歓声をあげている。
それを見た唯が「男がいないから代わりに女の子に走っているだけ」とコメントするが、その言葉は妙に花音の胸に刺さった。
花音もまた、玲央奈に対して言葉にできない特別な感情を抱いていたのだ。
わたしなんて玲央奈にはぜんぜんふさわしくない、とクヨクヨしつつ、
できれば玲央奈がわたしだけの玲央奈でいてくれたらいいのにと願ったりする
ほかの人なんかと親しくせず、わたしだけを見つめてほしいと思ってしまうことがある
これって友情っていうより、まるで玲央奈に恋してるみたいじゃない?
部活帰り、花音と玲央奈は2人でつくし薬局に向かっていた。薬局でカレーパンを買い一緒に食べるというのが2人の恒例となっていた。玲央奈と二人きりになれる数少ない時間であり、花音にとっては大切な宝物であった。
そんな中玲央奈が「限定販売じゃなきゃ、みんなにこのカレーパンを広めたいのに」と言い出す。
2人きりの時間が無くなることを恐れた花音は思わず強い口調で「ダメだよ!」と言ってしまう。
咄嗟に「下手に広めたらみんなが買いに来て食べれなくなっちゃう」と言い訳をして玲央奈を納得させる。
本当なら「学校中でこの美味しさを分かち合いたい」と考える玲央奈のやさしさの方が正しいはず。それでも「ふたりだけのカレーパンだから幸せなの!」と叫びたくなる自分がどうしても消えてくれなかった。
玲央奈のひと言でエレベーターみたいに上がったり下がったり
ふたりでいると、幸せと切なさのミックスジュースを飲んでいるみたい
同性の玲央奈に対して、いったいどうして、こんな気持ちになるんだろう?
唯の言っていた「女子校特有の病」という言葉で自分を落ち着かせようとする。
そうしようとしても玲央奈のすべてにどうしようもなくときめいてしまう。
そうであるならばせめて2人きりのカレーパンタイムが長く続きますように、と花音は祈るのだった。
……けれどもその願いは、叶ってくれなかった。
しばらくして3学期に入った。カレーパンが広まることはなかったが、なぜか肝心の玲央奈がめっきり付き合いが悪くなってしまった。英語の塾に通い始めたらしく、園芸部でもすぐに帰宅したり早退したりするようになってしまった。
その影響か、玲央奈が好きで園芸部に来ていた後輩たちが露骨に姿を見せなくなった。
このころから花音は玲央奈との溝を感じるようになる。
「実は海外に行く夢がある」と聞かされ「今まで話してくれなかったのは私に話しても仕方がないから?」と考えてしまう。塾の時間とカレーパンの発売日が重なっておりもう一緒に買えなくなることについて「もう飽きるほど食べたから」と言われ花音自身に飽きたように感じられてしまう。
何より花音ずっと玲央奈と一緒にいたいと思っていた間、彼女自身はもっと成長しようと考えていた。そのためこのままでは玲央奈に置いてけぼりにされ、見捨てられるという最悪の考えを抱いてしまう。
恐怖にかられた花音は思わず「私も玲央奈と英語の勉強をしたい」と言ってしまう。
……けれども、玲央奈の言葉は冷たいものだった。
花音には、自分がないの?
え?
人のまねするのって、どうかと思うよ
真似とかではなく、本当に玲央奈と勉強したいのだと弁解するが、「なんでも、一緒にしか行動できないのは子どもだよ!」と切り捨てられてしまう。
玲央奈はあからさまに花音の主体性のなさに怒っていた。
玲央奈に嫌われてしまった。そう思った花音は土砂降りの中あてもなく走っていった……。
気が付くと花音はつくし薬局の前にいた。びしょ濡れで泣いている彼女を見て、キヨさんは何も言わずに店の中に入れてくれた。
花音はぽつりと「嫌われちゃいました」とだけ言った。キヨさんは「恋をしているの?」と聞いてくれたがもうどっちだかわからなかったし、もう嫌われた以上終わった話だと思った。
……でもどうか、たくさん好きにおなりなさいね
ただただ、その人の力になっておあげなさいね
いつかそれが、あなたの一部になるわ
正直花音はその言葉の意味が分からなかった。
……どしゃぶりに打たれた影響か、花音はそれから数日間インフルエンザで寝込んでしまった。
熱の影響か寝ると必ず悪夢を見た。どの夢の中でも隣に玲央奈がいた。けれど現実に戻ると玲央奈はいなかった。花音はそれがつらかった。
ようやく体調が戻り学校に足を運んだ花音は、唯からとんでもないことを聞かされる。
それは玲央奈が塾に行っているという話が嘘であるということだった。玲央奈好きの後輩が後をつけたところ学童クラブに言っていたらしい。
玲央奈の親は町工場を経営しているのだが、実はそれが倒産してしまったのだ。そのため玲央奈は家族に負担をかけないよう家事を手伝い、そのために園芸部を休んでいた。そして友達にも迷惑をかけないため塾に行っていると誤魔化していた。花音にかけた厳しい言葉も、万が一自分に何かがあった時に彼女が自立できるようにするためだったのだろう。
それを聞き、思わず玲央奈のもとへ走り出していた。
彼女はそのことをあっさりと認めた。さらに学費の安い学校へ行くため既に転校の準備を進めているという。
玲央奈とお別れという事実にどうしようもなく泣いてしまう花音に、玲央奈は小さく「笑ってよ、花音」と言った。
玲央奈は今までどんな辛い時でもカレーパンや花音の笑顔に元気をもらってきた。だからこそ笑って見送ってもらえれば、転校先でも元気でやっていけそうだと。
花音は悲しくて笑える気はしなかった。それでもキヨさんの「ただただ、その人の力になっておあげなさいね」という言葉を思い出しなんとか笑顔をつくった。
……ありがと、花音
転校しても、私たちはずっと、友達だよ!
最後に玲央奈は花音を抱きしめてくれた。これは友達としてのハグということはよく分かっていたけれど、それでもよかった。
わたしはやっぱり、恋してた
男子の代わりでもなんでもなく、玲央奈というひとりの女の子に
苦しい時も愚痴ひとつ言わず、背筋をすっと伸ばしていた
凛々しくて、いつもみんなを引っぱってくれて、でも誰に対しても思いやり深くて
玲央奈、あなたが好き。これからも、ずっと好きでいる
けれど、言葉にはできなかった
また、泣いてしまいそうな気がして――
こうして玲央奈は転校していった。
それから少しして、園芸部はめっきり後輩がいなくなり、また廃部の危機を迎えていた。
ある日花音はなんとなく紅子さんの手紙をもう一度読んでみたくなった。
土の中から取り出し、あることに気が付く。実は便箋は2枚あったのだ。古いものであるために1枚目と2枚目の紙がぴったりとくっついてしまっていた。
2枚目にかかれていたのは「紅子」の名前の由来と彼女のこれからの決意。
紅子というのは本名ではなかった。「お姉さま」がすぐ頬を赤らめる彼女を見て戯れに呼んだものだった。紅子はそれがとても嬉しかった。
そして紅子はこれから薬剤師になるつもりであった。「お姉さま」のような病気で苦しむ人のために少しでも力になりたかったのだ。
手紙は「一生懸命、生きてまいりますわ」という言葉で締められていた。
読み終わった花音はふと考えることがあった。つくし薬局のキヨさんも薬剤師である。
もし、キヨさんこそが紅子さんだとしたら?
紅子さんは「お姉さま」との出会いと別れをしっかりと自分のものにした。
キヨさんの「いつかそれが、あなたの一部になる」とは経験を踏まえてのものだったのかもしれない。
花音もせめて玲央奈への思いを力にして園芸部を守っていきたいと決意をするのだった。
【余談】
- 作中に出てくるカレーパンは元ネタがある。作者が中高のころに通っていたパン屋で実際に売られていたものであるらしい。ツイッターに写真をアップしている。
- ちなみに「YA! アンソロジー」シリーズを全巻読んでみたが、男の子同士の恋愛ものはなかった。あったっていいだろ……!
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▷ コメント欄
- ちょっぴり感動 -- 名無しさん (2022-04-28 00:48:21)
- 感動してたのに、最後のあったっていいだろ……!で笑っちまったよ畜生 -- 名無しさん (2022-04-28 01:08:42)
- この場合はショートショート系と分類していいんだろうか -- 名無しさん (2022-04-28 20:19:08)
- 肩を壊す(後遺症が出るほどの障害を負う)→家業が倒産して生活が困窮→学費の安い下層ランク校(?)へ転校……ヒロインの境遇が悲惨すぎる -- 名無しさん (2022-04-28 22:24:51)
- ↑身体壊して運動部辞めるとか、生活が苦しくなって家のことするために自由時間失くなるとか、青春ものにこういう境遇のキャラよくいるよね。 -- 名無しさん (2022-11-28 08:25:55)
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