登録日:2020/07/08 Wed 11:14:29
更新日:2024/05/20 Mon 11:12:54NEW!
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SCP-1406-JPとは怪奇創作サイトSCP Foundation日本支部のオブジェクトである。
項目名は『安息の灯』。
オブジェクトクラスは「Euclid」。
概要
簡単に説明するとこのオブジェクトはランプである。暗くなると自動的に点灯する機能付き。
オマケに、燃料を補給しなくても燃え続けるし、逆に消したくなったら水をかければいい、と対処方法もハッキリしているため燃え続けてエライことになる危険性もない。
……と、まぁこれだけなら「単なる便利なランプ」なのだが、そこはオブジェクトクラスEuclid。そんな簡単には収まらない。
この自動点灯式炎(以下SCP-1406-JP-1と呼称)には、「勝手に点灯して燃え続ける」以外にも異常性が存在する。
第一の異常性は、「半径3.7キロ圏内の周囲に存在するあらゆる光源を無力化する」というもの。
この「あらゆる」は本当に「あらゆる」であり、一般的な照明器具や炎だけでなく、テレビなどの本来照明ではないが発光するもの、あるいはホタルなどの生物や化学発光に至るまであらゆる光源が物理的破損や急速な劣化により発光しなくなる。
月や星の光なら対象外だろうが、後述するようにこのランプには夜盲症を引き起こす作用があるので、そのようなささやかな灯りでは意味はないと思われる。
唯一の例外はSCP-1406-JP内で点灯しているSCP-1406-JP-1だけであり、必然的に暗闇の中で不安になった人々はSCP-1406-JPに集まってくる傾向が見られる。
しかし、SCP-1406-JP-1はSCP-1406-JPから取り出すと自らの異常性により急速に火勢を弱らせてしまう。
第二の異常性は、「SCP-1406-JP-1を視認すると急速に不安になり、夜盲症のような症状を発現する」というもの。
そりゃ他の灯りがすべて原因不明に使用不能になっている中、ランプの灯りだけが頼りという状況では不安になっても仕方ないだろうが、このランプの炎はそのような一般的に説明できる範囲を超えて不安にさせる異常性を持つ。
不安になった人々は、現在の状況を合理的に説明するための何かしらの要因を周囲の暗闇の中に見出そうとする傾向が見られる。
この作用はSCP-1406-JP-1から離れれば自然に回復するが、暗闇の中の唯一の光源から自発的に離れるわけがないのはご想像の通りであり、結局人々は無自覚のうちに症状を悪化させる可能性が高い。
これらの異常性から、特別収容プロトコルではSCP-1406-JPは常に灯りの灯された部屋の中の水槽に放り込まれ、厳重に監視されることになっている。
また、万が一の際に重大なトラブルに発展する可能性があるため、収容サイトはセキュリティシステムに発光パーツを用いない特別設計。
それ以外にも精神作用を引き起こす可能性があるので、一定以上SCP-1406-JPに接した職員は精神検査を受けることも義務付けられている。
収用に至った経緯
このランプはとある山奥の村で発見された。
発見時は大規模な火災により村の建物のほとんどは焼失、犠牲者も多数出ている状況だった。
なぜこのような事態に至ったのか、財団は保護された生存者にインタビューを試みた。
インタビューログを閲覧
対象: ██氏
インタビュアー: ██博士
付記: ██氏はSCP-1406-JP回収時に救出された生存者の一人である。重度の全身火傷のため財団の医療施設で治療中であり、インタビューは同施設の病室で行われた。
<録音開始, 19██/██/██>
██博士: こんにちは、██さん。お加減は如何でしょう。ここ何日かあまり眠れていないとのことですが……痛みがひどいようなら私から薬の量を増やすよう伝えることもできますよ。
██氏: いや、それはいい。大丈夫だ。始めてくれ先生。
██博士: 結構。ではこれからあなたには、あの夜起きた出来事について話していただきます。まずはあなたがSCP-1406-JP……例のランプを見つけた時のことから。
██氏: わかった……といっても、あれをうちに持ち込んだのは俺じゃなくて兄貴だった。言うには、山道の中程で置き去られているのを見つけたんだと。俺は登山客が残したものなんだろうと思って気にもしなかったが、兄貴は違うようだった。山に入るには時季外れだし、それらしい連中も見かけていない。なによりうっかり忘れていったにしては置かれた場所があまりにこれ見よがしだったと気味悪がっていた。
██博士: ランプに異常なところは見られましたか?
██氏: 最初のうちは何も。言ったようにさして興味もなかったし、兄貴にしたって話のタネに持ってきただけだったんだろう。ちょいと弄った後は軒先に放置してたよ。だからそう、おかしなことが起こり始めたのはもっと後……日が沈んで、しばらく経った時分のことだ。前触れなく、家中の明かりが一斉に消えたんだよ。電灯から、吸ってた煙草の火まで、文字通り全部だ。手探りで引き出した明かりもどういうわけかまるで役に立たない。あの日は厚い雲がかかっていたから月明かりにも頼れなくて、二人して途方に暮れていたら女房の声が上がったんだ。"こちらに明かりがありますよ"って……。
[対象は固く目を閉じ、十数秒間沈黙する]
██博士: 続きを、██さん。
██氏: ああ……すまない。それで見てみたら、確かに軒先のランプに火が点いていた。誰もあれに触れていなかったから妙だとは思ったが、とにかく困り果てていた俺たちはそれに頼った。あのときはようやく明かりを手に入れられたことに胸を撫で下ろしたのを覚えている。とはいえ、そのまま腰を落ち着けちまうわけにもいかない。この状況で妻子を連れ歩くのには抵抗があったが、結局みんな連れ立って順繰り近所を伺っていくことにした。奇妙な停電は村中で起きていて、案の定どこも明かりが使えなくて参っていた。独り身や年寄り、他にもそれなりの数の村人がそのまま俺たちにひっついてきて、ひと段落ついたころにはちょっとした大所帯になっていたよ。だから俺たちは広場に集まって、起こした焚き火を囲みながらこれからどうするかみんなで相談することにしたんだ。
██氏: そんな中、まず騒ぎだしたのは婆さん連中だったと思う。暗い、怖い、よく見えないからもっと火を焚けとな。確かに火持ちは奇妙なほど悪くて、気づけば焚火はすっかり小さくなっていた。だがそれにしたって大げさだろうと最初の内はみんなで宥めすかしていたんだが、そのうち同じようなことを言う奴が増えてきた。やがて焚き木が次々と炎の中に突っ込まれ、焚き火の数が増えて、大きくなって……あとはその繰り返しだ。それが焚き火なんて域を超えた頃には、誰もそんなこと気にしちゃいなかった。いつの間にか村中の人間が集まって、みんながみんな火を大きくすることだけに執着していた。仕方がないんだ。誰だってあんな暗闇の中、一人きりなんて耐えられない。
██博士: 一人? 広場には多くの住民が集まっていたはずでは?
██氏: そんなのは頼れる明かりがあって、辺りを見渡せられるから言える理屈だよ、先生。周囲は暗くてロクに見えやしない。隣にいた連中は残らず暗闇に消えちまった。そこにいるのは自分一人で……いいや、確実に一人ってならまだ良い。でも、実際はそれすらわからないんだ。聞こえてくる息遣い、視界の端をよぎる影、得体の知れない何かの気配……ここはどこで、そこにはいったい何がいる? 暗がりの中じゃ確かなことなんて何もない。だからまずは、何にも優先して十分な明かりが必要なんだ。馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないが、あのとき俺たちはそう信じてた。
██博士: 少なくとも、あなたはそのように考えたと。
██氏: ああそうだ。なにせ気がつけばそんな有様だ。俺は一刻も早く家族を見つけないといけなかった。とにかく必死で、少しでも辺りを見通せるように、俺は……[顔を歪める]そうだ……俺には明かりが必要だった! 息子は歩き始めたばかり、家内は身重だったんだぞ! 必死になって何が悪い!
██博士: 落ち着いて██さん、動かないで。ナース、すまないが来てくれ。鎮静剤の準備を
██氏: 待て! [息を吐く]待ってくれ先生。悪かった、少し興奮したんだ。もう落ち着いたから大丈夫だ、大丈夫……。
██博士: 本当に? ……いえ、しばし時間を置きましょう。続きはあなたが十分落ち着いてから。
██氏: すまない、すまない……[手で顔を覆う]ただ先生、これだけは分かってくれ。誰も好きであんなことをしたわけじゃない。奪おうだとか傷つけようだとか、そんなつもりであんなことをやったわけじゃないんだ。ただみんな不安で、心細くて……安心したかっただけだ。見慣れた場所で見知った奴らと、夜を越えたかっただけなんだ。だから俺たちは火を焚いた。辺りを明るく照らし出しさえすれば、そこには昼間と変わらない、いつも通りの景色が広がっていると信じて。……けど、それは間違いだった。ようやく待ち侘びた朝がやってきたとき、そこに広がっていたのは炭と灰と、焼け焦げた地面と、誰かもわからない黒焦げの……。
[数十秒間、対象はすすり泣く]
██氏: 日が落ちる。夜が来る。けれど、街に明かりは灯らない。ただそれだけのことが、あんなにも恐ろしいとは。夜が、あんなにも長いとは……。
██博士: 十分です、██さん。今のあなたには、休息が必要だ。ナース、頼む。
██氏: よせ、違うんだ聞いてくれ。あの夜は本当に暗くて、手元だってロクに見えなかったから……なあ先生、俺はあの夜、いったい何を炎に投げ込んだんだ? もう今となっちゃわからない。わからないから……夢に見るんだ……。
[投与された薬剤の効果によって、対象は鎮静化する]
<録音終了, 19██/██/██>
……………
彼らは一体……何を燃やしてしまったのだろうか?
棍棒での殴り合いコンテスト
本オブジェクトは「棍棒での殴り合いコンテスト2018(BBC2018)」の優勝作品である。
物騒なコンテスト名だが、コンセプトは至ってシンプル。
「要注意団体やメタネタに頼らず、オブジェクト本体に関わる記述だけで物語を完成させようぜ」というものである。
要は昨今複雑になりがちなオブジェクトの設定をあえてシンプルにまとめ、財団内部だけで完結させよう、というSCPの原点回帰とも言えるコンテスト。
元ネタ同様に、オブジェクトとしての単純な「面白さ」が求められるストロングスタイルなだけに難易度の高いコンテストと言える。
本オブジェクトはオブジェクト単体としては極めてシンプルな、「周囲を暗くして不安を巻き起こすだけのランプ」でありながら、そこから発生した被害事例の凶悪さのギャップから人気を博した。
また、ある意味では「夜の闇の怖さ」という人間の最も原始的だが忘れがちな恐怖に回帰したのも高評価の理由かもしれない。
なにせ、
人類は恐怖から逃げ隠れていた時代に逆戻りしてはならない。他に我々を守るものはいない、我々自身が立ち上がらなければならないのだ。
人類が健全で正常な世界で生きていけるように、他の人類が光の中で暮らす間、我々は暗闇の中に立ち、それと戦い、封じ込め、人々の目から遠ざけなければならない。
が財団の基本理念なのだから。
余談
「現状完全に封じ込めはできているし、Safeじゃないの?」という質問がディスカッションで挙げられているが、執筆者は、
「平時では完全に封じ込められているが、万が一の事態があった場合の被害規模がヤバく、さらにその万が一の事態への対処手段が存在しない(要約)」という理由でEuclidにした、と述べている。
要はこいつが収容違反をやらかした場合、サイトそのものが機能不全に陥っている可能性が極めて高く、その対策としてこのサイト近辺には一切のリスク要素(他のオブジェクトとか)を持ち込めないため、財団の管理に要するコストと手間が莫大なのがEuclid指定の主要因になっていると言える。
追記・修正は暗闇の中でランプを頼りにお願いします。
CC BY-SA 3.0に基づく表示
SCP-1406-JP - 安息の灯
by home-watch
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1406-jp
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- インタビューを見るに朝まで精神影響に耐え続けられたら異常性は大人しくなるっぽい? -- 名無しさん (2020-07-08 11:31:39)
- ↑元サイト見ると当日は未明から雨が降ってたみたいだから、それで元の火が消えたんじゃないかな。燃え広がってた分も雨とかもろもろで収まったっぽい -- 名無しさん (2020-07-08 11:48:45)
- 収容違反した場合、サイト内のタブレット端末・PCの類を残らず破壊するやべーやつ -- 名無しさん (2020-07-08 13:16:43)
- 歩き始めたばかり・・・あっ -- 名無しさん (2020-07-08 14:58:53)
- 光源以外が闇に包まれる道具って「忍法八犬伝」の魔羅蝋燭みたいだな -- 名無しさん (2020-07-10 23:13:00)
- 棒(非誤字)覇者のカードを思わせるコンテスト名だなと思ったらマジで棒覇者のカードが名前の由来だったでござる -- 名無しさん (2020-07-11 05:38:32)
- なんか印象としてSCP-882に近いものを感じた。 -- 名無しさん (2020-07-16 10:20:08)
- インタビューログの人は……灯りを確保するために燃やすものを求めた。 -- 名無しさん (2021-01-08 02:07:00)
- 何があるのかもわからず、手当たり次第燃料として放り込んで全てが終わった後真相を知った訳か -- 名無しさん (2021-01-08 02:08:16)
- 適切に扱えば火災を速やかに鎮火できるアイテムかもしれない(MCF並感 -- 名無しさん (2021-01-08 04:50:56)
- 鎮火に使えるとしても範囲が広すぎるからなぁ。と思ったけど山火事なら範囲が必要だし強いな。 -- 名無しさん (2021-02-13 19:45:27)
- 火消しした後身動きとれなくならんか? -- 名無しさん (2021-06-10 11:27:11)
- ドローン的な無人機に積んで近付ければ山火事は収まるだろうが、そんなことにオブジェクト使えないだろうな。でも収容違反で発生した火災消すのとかはワンチャンあるかもしれない -- 名無しさん (2021-08-05 15:42:07)
- 光を打ち消すだけじゃなく光源そのものを消滅あるいは無力化するのか…みんなが火災消火の話をしてるのを見て「えっ『燃えてるけど見えないだけ』じゃないの?」と思ってしまったが自分が本文を誤読してただけか -- 名無しさん (2022-03-11 10:24:26)
- 今風に言うと根源的恐怖になるやつ -- 名無しさん (2023-03-23 07:06:22)
- 最初から目が見えない人が対処すればいいんじゃないの?財団なら、目が見えないけど優秀な人材くらいいるだろう。 -- 名無しさん (2023-06-15 22:11:54)
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