登録日:2020/06/07 (日) 09:45:48
更新日:2025/10/27 Mon 20:35:13NEW!
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火事の時は119番。どうして最後が「9」なのかご存知ですか?
ダイヤル式の電話の場合、大きな数字の方がダイヤルが元に戻る時間が長い、
それだけ心が落ち着くという事です。
つまり、プッシュホンの時代にはほとんど意味ないんです。
古畑任三郎でした…
『最後のあいさつ』とは『古畑任三郎』のエピソードの1つである。
第1シーズン第12話。初回放送は1994年6月29日に放送。
第1シーズン最終回。最終回に相応しく本作では古畑の上司が真犯人となっており、犯人役にベテラン俳優の菅原文太を迎えている。
また当時の刑事ドラマの定番であった張り込みや銃撃戦等を取り入れる事で、本作は他のエピソードでは味わえない重厚な雰囲気となっている。
ラストで古畑が語る刑事としての信念も必見。
小説版でのタイトルは、『小暮警部最後の事件』。
※以下ネタバレが含まれますのでご注意ください。
ストーリー
捜査一課警視・小暮音次郎は、麻薬の運び屋を装ってバイヤーに取引先と時間を指定。
そして部下達に麻薬事件の張り込みに出ると告げ、中華街に着くと取引先のバーが見える安ホテルにチェックインした。
今回の張り込みの真の目的は、2年半前に孫娘を殺害した生原治への復讐。
生原は孫娘を殺害したグループのリーダーとして逮捕されたが、後の裁判では証拠不十分で無罪となっていた。
生原が犯人だと確信していた小暮は自ら裁きを下す事を決意。麻薬取引現場に張り込む事でアリバイを作り、ホテルを抜け出して路上で生原を射殺する。
その後は現場に拳銃を放置し、暴力団同士の抗争に巻き込まれたように見せかけた。
事件を担当することになった古畑は、小暮の泊まるホテルを訪れ、生原の死を報告。
その際に古畑は、ヘビースモーカーの小暮にしては灰皿に捨てられていた吸殻が少ない事に気づき、彼が事件に関わっていると推測する。
古畑にアリバイを尋ねられた小暮は、今日はずっとホテルでバーを見張っていたと証言。
影で小暮をフォローしていた広瀬刑事達の証言と一致した事から、小暮のアリバイは証明されたと思われたが…。
登場人物
【ゲスト】
- 小暮音次郎(こぐれ おとじろう)
演:菅原文太
警視庁刑事部捜査一課警視*1。風貌といい物腰といい実にデカらしい風格を持つ刑事。
近寄りがたい雰囲気を持つ強面の人物だが、部下達からの人望は厚く、今泉からは「神様みたいな人」と称され尊敬されている。
かなりのヘビースモーカーであり、1時間もあれば灰皿に吸殻の山ができる程である。
集団行動を嫌い、張り込み等の捜査では常に単独行動を行っている。
若い頃から拳銃を愛用していたので、古畑が拳銃を携帯しておらず、撃ち方すら知らないと聞くと、呆れていた。
間もなく定年を迎える年齢であるため、広瀬達は彼の事を心配し、彼が張り込みに出かける度に内緒でフォローしていた。
「張り込みには握り飯」が信条で、この歳になるまでハンバーガーを食べた事がなく、古畑が差し入れで持ってきたモスバーガーを食べて「こんな美味いもんが世の中にあったんだなあ」と感激していた。
その際に「モスバーガー」を「モスラバーガー」と間違えて覚える可愛いところも。
張り込みに向かう途中で古畑から田舎から送られてきたリンゴを貰っており、わざわざホテルまで持ち込んで窓辺に置いていた。
今から2年半前に孫娘の洋子を生原に殺害されているが、後の裁判では証拠不十分として生原に無罪判決が下されている。
だが小暮は生原が洋子を殺したと確信しており、法で裁けないのなら自らの手で生原に裁きを下そうと決意した。
アリバイを作るために独自に掴んでいた麻薬密輸ルートを利用。
運び屋を装いバイヤーに電話をかけ、18時15分にバーに来るように指示。そのすぐ後でバーの入り口がよく見える安ホテルにチェックインする。
そしてバイヤーがバーに来る時間に合わせてホテルを抜け出し、帰宅中の生原を射殺した。
その後はホテルへ戻り、今日はずっとホテルで張り込みをし、死亡推定時刻にバイヤーを目撃したと主張する事で自分のアリバイ成立を目論んだ。
犯行には暴力団がよく使う拳銃「32口径ブローニング」を使用。
現場に拳銃を放置する事で、生原は暴力団の抗争に巻き込まれて命を落としたと見せかけようとした。
犯行後は古畑や広瀬達とバーに踏み込み、激しい銃撃戦の末にバイヤーを確保。
バイヤーの取り調べは広瀬達に任せる事にし、ホテルを引き払ってから署に戻る事にした。
だが踏み込んだ際にカウンターにいた男性をバイヤーと勘違いしており、バイヤーが確保されると男性に「悪かったな」と謝っていた。
- 生原治(はいばら おさむ)
演:鈴木隆仁
中華料理店のアルバイト店員。
サングラスをかけ、寄り道を咎めた店主に毒づいたり、自販機で買ったビールの空缶をポイ捨てしたりといかにもガラの悪い男で、2年半前に小暮の孫娘の洋子を殺害した不良グループのリーダーでもある。
事件後に逮捕されるが、先週開かれた裁判にて証拠不十分として無罪判決を受け、自由の身となっている。
ちなみに他のメンバーは未成年であり、3~4年で出所予定。
この事件の事を調べた古畑は、皆で口裏を合わせたような印象を受けていた。
勤め先から帰宅途中に小暮と遭遇。彼に銃口を向けられると、状況が理解しきれないまま心臓を撃ち抜かれ、殺害された。
- 井戸(いど)
演:梶原善
レトロな雰囲気の安ホテルの支配人。
1人で経営しているようで、管理人室で暮らしている。
仕事はいい加減で、小暮にも雑な接客をし、捜査にやって来た古畑にも不愛想に接していた。
夜間にラーメンを作ろうとした際、カーテンにコンロの火が燃え移り、危うく火事になりかける。
慌てて消火器で消したので大事には至らなかったが、ホテルの信用に関わるためこの事を古畑達にずっと隠していた。
しかし、古畑に無理矢理部屋に入られ、ボヤの跡を見られたことで、ようやく観念した。
- 広瀬(ひろせ)
演:中原潤
警視庁刑事部捜査一課刑事。
小暮が1人で麻薬取引の張り込みに出かけると、他の刑事と協力して密かに小暮のフォローを行う。
だが小暮はそれに気づいていたため、アリバイ工作に利用されてしまっている。
18時15分頃にバーにバイヤーが入っていくのを目撃しており、それが小暮の証言と一致した事で小暮のアリバイは証明された。
- 洋子(ようこ)
小暮の孫娘。
2年半前に生原率いる不良グループに殺害されている。
事件当時は高校2年生で、小暮曰く「30を過ぎたらいい女になった」とのこと。
- バイヤー
演:田辺年秋
麻薬のバイヤー。
運び屋を装った小暮に呼び出され、18時15分頃にアタッシュケースを持ってバーに入る。
その後は来るはずのない運び屋をずっと待っていたが、小暮達にバーに踏み込まれると、激しい銃撃戦の末に逮捕された。
- カウンターの男
演:市川勇
麻薬取引現場に居合わせた男性。
一般人だが強面であるため、バーに踏み込んできた小暮にバイヤーだと勘違いされてしまう。
すぐに本物のバイヤーが逮捕されたので小暮に謝られるが、「納得できねぇなぁ…」と首をかしげていた。
古畑が視聴者に語り掛けていた時にも登場。
【レギュラー陣】
現在弟の金四郎が知り合いの結婚式に出席するために上京してきている。
庁内の廊下で小暮と会うと、故郷から送られてきたリンゴを1つプレゼントした。
生原の事件の担当になると、彼と因縁のある小暮に報告。その際にヘビースモーカーの小暮にしては灰皿の中の吸殻が少ない事に気づき、彼が生原を殺害したと考えアリバイを疑うようになる。
窓辺に置かれていたリンゴを食べた今泉が「腐ってる」と言い出すと、最初は怒って「そんなはずがない」と否定するが、そのリンゴを見せられてある事に気づき、今泉に指示してそれを科捜研へ回させた。
小暮の事を「神様のような人」として尊敬している。
今回で古畑にかなりの不満を持っていた事が判明。科捜研を訪れた時に桑原に愚痴っていた。
生原の顔を見て、彼が先週の裁判で無罪になった事を古畑に教える。
今回が初登場。
この時点ではまだ不愛想でマッドサイエンティストの気があった。
今泉が古畑について愚痴っていると、冗談交じりで猛毒のストリキニーネの粉末を渡す。
その直後に今泉が咳込んでストリキニーネをまき散らしたので、慌てながら怒っていた。
以下、事件の真相。さらなるネタバレにご注意ください
真相
やはり生原を殺したのは小暮警視です。
彼は張り込みを利用して生原を殺害しました。
つまり、小暮警視のアリバイは偽物です。
彼がどういうトリックを使ったか、もうお分かりですね。
そして、リンゴの謎。これも考えてみてください。
誰と話してんだよ?
ん?こちらと。
納得できねぇなぁ…。
古畑任三郎でした…
小暮音次郎
ホテルへ戻ると、流石に歳には勝てず疲れてベッドで横になっていたが、そこへ古畑が「会ってほしい人がいるんです」と言ってやって来る。
彼が連れてきたのはスーツ姿で眼鏡の男性だったが、知らない顔だったので、「こちらは?」と古畑に尋ねる。
すると古畑は彼を「弟の金四郎です」と紹介し、金四郎は小暮と握手をするとそのまま部屋を出ていった。
その後で古畑はもう1つ報告する事があると言って、先程今泉が腐っていると言っていた窓辺のリンゴの話を持ち出す。
鑑識にリンゴを詳しく調べてもらったところ、実はリンゴは腐っておらず、表面に付いていたヌルヌルしたものの正体が消火器の泡だった事が判明する。
この報告を聞いてすぐにピンと来た古畑は、無理矢理井戸の部屋に入り、今夜管理人室でボヤがあった事を突き止めた。
管理人室は小暮が宿泊している部屋の真下にあり、火が消し止められてしばらく経った今もなお外壁に焦げた跡と消火器の泡が残されていた。
その時の泡がたまたま窓辺に置かれていたリンゴにくっつき、それを食べた今泉は腐っていると勘違いした、というわけである。
だが井戸は自分の不注意で火事になりかけた事がばれるのを恐れ、古畑に部屋の中を見られるまでこの事をずっと隠していた。
なお、ボヤがあったのは丁度18時頃。井戸は火を消し止めた直後に心配になって小暮の部屋を見に来ているが、その時に小暮の姿は見ていなかった。
その時に小暮は生原を殺しに出かけていたので、古畑はこの話を元に事件当時の小暮のアリバイは嘘だと確信した。
古畑にボヤのあった時刻にホテルにいなかった事を証明されると、「管理人が嘘をついているかもしれない」と言い出し、18時15分頃にホテルの部屋からバイヤーがバーに入っていくところを目撃したと再び主張する。
だが古畑に「見ていないはずです」と断言され、運び屋のふりをしてバイヤーを呼びアリバイ工作を行ったと暴かれた。
しかし小暮は落ち着いて、「確証はあるんだろうな?」と尋ねる。すると古畑は、バイヤーの顔を知らなかったからバーに踏み込んだ時に相手を間違えたと返した。
バーに入るところを本当に見ていれば、相手を間違えるなんて事はあり得ないはずである。だがそれだけでは不十分だったので、小暮は「咄嗟の事で焦っていたとも考えられる」と主張する。
古畑に「落ち着いて見れば分かったとおっしゃるんですか?」と尋ねられると「そうだ」と頷く。
すると古畑は悲しげな表情で小暮を見つめた後で外に向かって声をかけ、先程会ったばかりの金四郎が警官2名と共に入ってくる。だが彼の両手には手錠がかけられていた。
実は彼は古畑の弟の金四郎ではなく、今夜18時15分に例のバーにアタッシュケースを持って入ったバイヤーその人だったのである。*2
男の正体がバイヤーだと知ると、小暮は「君がさっき弟だと紹介するから…」と反論する。だが古畑は小暮が「こちらは?」と尋ねるまであえて黙り、その発言の後で弟だと紹介していた。本当にバイヤーがバーに入るところを見ていたのであれば、尋ねるまでもなく彼がそうであると気づけたはずだった。
バーでもここでもバイヤーの顔を確認出来なかった事で、18時15分にバイヤーを目撃していない事が明らかとなる。
小暮を罠にかけるような方法を取った古畑は、「申し訳ありませんでした」と詫びるが、小暮は「いいぞ古畑」と言い、素直に自分が生原を殺害した事を認めた。
- 古畑の信念
小暮の犯行を暴いた古畑だったが、尊敬の念を抱いていた小暮が犯人だった事はやはりショックだったようで「非常に残念です」と呟き小暮の気持ちを察する。
だがそんな彼を小暮は「もういい!」と制止した。
その後小暮は古畑の能力を認めたのか、今まで呼び捨てにしていた古畑を君付けで呼ぶようになり、犯行を認めた後で「煙草、いいですか?」と丁寧語で許可を得ていた。
古畑に煙草に火をつけてもらい、煙草を吸いながら呟く。
いつも思っていた…往生際の悪い犯人ほど、情けないものはないって。
自分が捕まる時は、誇り高くいたいもんだと…。
古畑君。生原は人間の屑だ!
分かってくれ…俺が法に代わって…。
「法で裁けないなら自分の手で裁きを与える」。そう語る小暮を古畑は制止し、
小暮さんそれは違います!
人を裁く権利は我々にはありません!
私達の仕事は、ただ事実を導き出すだけです。
と刑事としての信念を語った。
残念だよ、洋子の事件も君に担当してもらいたかった…。
そうすれば、生原も証拠不十分で無罪なんかには…。
悔やみきれん…。}
古畑の信念を知った小暮は無念そうにこう呟く。そして、
古畑君。納得いったよ。
君に、拳銃は必要ない。}
と古畑に賛辞を述べた。
小暮から最高の誉め言葉を貰った古畑は、小暮に対し深く敬礼する。
そして小暮も敬礼で返し、古畑と共にホテルを後にしたのだった。
余談
サブタイトルの『最後のあいさつ』は、『シャーロック・ホームズシリーズ』の完結編である『最後の挨拶』が由来。
小説版では小暮の名前が「木暮」となっており、階級が警部となっている。
また古畑がある事に気づく手がかりも改変されている。
小暮は『消えた古畑任三郎』にも出演しているが、他の犯人とは違い音声のみの出演となっている。
冒頭で語られた「消防が119番の理由」は実は俗説である。
大正15年に緊急回線番号は「112」と定められた。
だがその後で掛け間違いが続出したので、昭和2年にダイヤルで「1」の位置から離れたところにある「9」を最後の3桁目に持ってきて「119」が新たな緊急回線番号となった。
追記・修正は火の元に気を付けながらお願いします。
▷ コメント欄
- ストリキニーネって後にイチロー(勿論現実のイチローではない)が犯行に使ってなかったっけ。 -- 名無しさん (2020-06-07 17:22:15)
- モスラバーガー -- 名無しさん (2020-06-07 20:28:21)
- この回は確か村山内閣の成立の日で中断が相次ぎ、シリーズ最低の視聴率を叩きだしたんだよなぁ 面白いのに残念 -- 名無しさん (2020-06-07 23:39:31)
- ここの古畑の刑事としての信念って小石川ちなみが無罪になった時に刑事としてのアクションを取らなかった理由付けにもなってるよね -- 名無しさん (2020-06-09 13:36:16)
- 生原の弁護をしたのもさんまこと小清水だったりするんだろうか -- 名無しさん (2021-08-02 00:26:15)
- 小暮刑事はあの雰囲気とは裏腹に、同僚たちに高圧的な接し方はせず、後輩の古畑にも丁寧に接していた印象がある 警官として好印象を持てる人だからこそあのような結果になってしまったのは悲しい -- 名無しさん (2022-06-28 19:54:39)
- 生原はある意味古畑世界で数少ない「完全犯罪を成し遂げた人物」と言えるんじゃないかな -- 名無しさん (2022-12-27 01:00:19)
- 殺人という警察官としてあるまじき手段に及んでしまってはいるが、動機が動機(詳細は語られていないが、チンピラみたいな集団が若い女の子にヘドが出る行いをして惨殺したかは想像できる)だし、なんやかんや部下からは尊敬される仕事ぶりだったみたいだし、無罪はムリでもできる限り減刑されていたらいいんだが…。 -- 名無しさん (2023-04-02 12:03:46)
- とはいえそれを、拳銃もつの許された人間がやっちゃったって問題でもあるしなぁ -- 名無しさん (2023-04-02 12:52:04)
- ↑うん、それは判るんだけど、重い刑だったとしてもちょっとは情状酌量してあげてほしい。それにこんな言い方あれだけど、生原をあのまま野放しにしたら第二第三と被害者が出てもおかしくない…一度味占めたクズは絶対またやるからね。 -- 名無しさん (2023-04-02 20:59:13)
- 古畑1期はコロンボの「死者のメッセージ」をオマージュした1話で始まり最終回では名場面をそのまま引用して〆た辺り三谷さんにとってかなりのお気に入り回なのだろうか。 -- 名無しさん (2023-04-05 19:28:17)
- 警察の名前にも傷がつく事件だし、動機も酌量できそうなので、まあ免職は避けられないだろうけど、執行猶予が付くとは思う。「消えた古畑任三郎」でも小暮さんだけ音声のみだったし、刑務所へは入らなかったんじゃないかな。小暮さんがそれを受け入れるとも思えないけど。 -- 名無しさん (2023-04-23 22:29:21)
- 拳銃だけでなく「警察という権力」「自分らで掴んだ麻薬取引の情報」を「自分を罰から逃れるため」に悪用して犯罪した以上は警察や検察としては甘くはできないのよね -- 名無しさん (2023-04-23 22:54:29)
- 小暮警視はラストで孫娘の事件も古畑に担当してほしかったと言ってるけど生原が証拠不十分で無罪になった点を考えると証拠を一切残さずに犯行を行ってた可能性があるんだよね。だとすると生原は黒の組織並に厄介な犯人になってた可能性が高い -- 名無しさん (2023-05-04 08:36:01)
#comment
*2 本物は古畑の家で寝ていたらしい。
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