霊形手術(水木しげるの作品)

ページ名:霊形手術

登録日:2019/03/06 (水曜日) 12:27:04
更新日:2025/11/09 Sun 17:30:49NEW!
所要時間:約 5 分で読めます



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のっぺらぼう ゲゲゲの鬼太郎 マスク 水木しげる 短編 ずんべら 人魂の天ぷら 美容整形 霊形手術



『霊形手術』とは、水木しげるの短編作品である。初出は『週刊女性』1970年4月4・11日号(掲載時は前後編、単行本収録時は一つの短編として収録)。
原型は1962年の作品『人魂を飼う男』とされる。


●ストーリー

東京で整形をして故郷に戻るも、不細工な幼馴染三吉に悩まされる美女月子
彼女は求婚避けのため、偶々出会った妙に押しの強そうな男村田宗仁に偽装恋愛を依頼することに。
だがそれは、三吉と月子の人生を大きく変えるものになるのだった…。


●キャラクター


  • 月子

本作のヒロイン。
2回の美容整形によってどこか仮面の様な理想のルックスを手に入れるも、「あなたと結婚するためじゃないわ!(意訳)」と三吉にぶっちゃける程度には冷たい性格。
また図太くもあり、三吉が「あの人(宗仁)が物置で人魂を飼っている」と常識外の事を言い出しても、信じられなかったせいでもあるが「表情一つ変えないスーパーマンじゃない」と意に介さなかった。
宗仁とは最初こそ三吉対策のみの関係だったが、彼が急にイケメン化すると急速に仲を深め、遂には三吉を立会人兼唯一の客にして結婚式を挙げてしまう。


  • 三吉

水木作品によく出てくる「眼鏡出っ歯(サラリーマン山田)」顔の青年で、月子の幼馴染。柔道初段でもある。
月子の父親(母共々交通事故で他界)に彼女を任されたこともあり、帰郷した月子の傍に居座ろうと彼女の家に居つくが
悲しいかな不細工な彼に脈は無かった。
だが宗仁に振舞われたとんでもない料理によって、予想外の転機が訪れることに…。


  • 村田宗仁

月子が偶然出会った、ぬぼーとした顔とオネエ喋りの男。
彼女に偽装結婚の相手役を依頼され受諾し、彼女の家に居候することに。
その後三吉を「ある場所」へと導く。


…その場所とは「墓場」であり、墓場で虫取り網を使って「人魂」を捕獲。
翌日、月子の家の物置に置いた水入り桶で生簀にしておいた人魂を天ぷらにし、三吉に振舞う。
その後三吉が調子を悪くする中、「整形」によりイケメン顔&喋りに変化して月子と再会。モテ顔で彼女とゴールインすることに成功する。
だが月子の家で開かれた結婚式にはなぜか客を一切呼んでおらず…(いたのは新郎新婦と三吉のみ)。


以下、作品の結末について触れるのでネタバレに注意


●ストーリー(後半)

寂しい結婚式後、月子と三吉は宗仁手製のウェディングケーキをごちそうになり、月子はおいしそうにケーキを全部平らげた。
だが月子が三吉を正式に家から追い出すべく一旦式場から離れた時、三吉が具合の悪さと共に、ある事を月子に打ち明ける。


…あのケーキの味は、人魂の天ぷらの味に似ていたと


その直後、三吉は顔に異変を感じ突如逃走、それを追う月子が見たのは…


目鼻顔のない、のっぺらぼうと化した三吉だった。


一方その頃、手洗いで顔を洗っていた宗仁。だがその顔もまたのっぺらぼうで、傍らにはイケメン顔のマスクが置かれていた*1
洗顔後マスクをつけた彼は、三吉の変貌におののき逃げて来た月子を「どうでもいいじゃないですか」とあしらい、月子に「自分は籍に問題があるから本籍地まで行ってほしい」と依頼する。
尺の都合か所詮三吉なんて大したことなかったのか、月子はそれを引き受け彼の故郷に旅立った。


だが、そこで彼女が知ったのは、宗仁が故郷では10年前死んだことになっており、墓まで建っているという予想外の事実だった。
何でも人魂を食ったのが原因らしいが…。
度重なる衝撃を受けながらも、そこでやる事を無くし帰りの汽車に乗った月子。
だが車中でせき込みだし、「三吉の異変と似ているのでは」と感じつつ宗仁が事前に「具合が悪くなったら飲むように」と託した「薬」を開けた中には…。


美女タイプの「顔の皮」が入っていた。


…三吉に起こった異変と彼の証言
…宗仁の整っているが妙に無表情な顔


そこで、自分が宗仁に嵌められたことに気づいた月子は、だが待ち受けている未来が三吉と同じのっぺらぼうという現実に、「今更それを言っても周囲から笑いものになるだけ」と諦観してしまった。


一方その頃、月子の家ではのっぺらぼうの三吉と宗仁が笑い続けていた
月子が逃げた後行くところを無くした三吉は、皮肉にも元凶である宗仁に頼る以外他はなかったのだ。
その心理を「同じ種類が集まる本能」と推理する宗仁は彼に対し、自身の過去を語る。
…かつて故郷で人魂を食し、「人間」でも「幽霊」でもない、顔はなくとも新しい感覚で五感を感じる「ずんべら」とも言うべき状態になった彼は、
その異形ゆえに故郷で死人扱いされ、東京に出ても正体がバレるとすぐ追い出され、「人間」扱いされなくなった。
孤独に耐えかねた彼は、自分の同族を増やすため月子と三吉に目をつけ、「顔の皮されあればどんな顔にだってなれる」と三吉を説得。
…そう、三吉の勘通り、あのウェディングケーキには人魂が仕込まれていた。
宗仁の持つ多数のイケメン「顔の皮(マスク、及び月子用美女マスク)」や「同じ体でもベッドインごとに顔を変えれば飽きない(意訳)」等というセールストークにすっかり有頂天となった三吉は、早速アラン・ドロン顔になって街を回ることに。


そうしている内月子の帰りが近くなったため駅まで迎えに行った宗仁は、車中で腹をくくったのかマスクをつけ嬉しそうに現れた現れた月子に対し、「この手法(=ずんべら化とマスク着用)を新型整形術法『霊形手術』として広めたい」という自分の夢を告白。
万人がずんべらになれば、生まれつきの美醜の差による幸不幸は無くなる」・「神の手落ちを埋め合わせる」と熱く霊形手術の必然性を語り、
自宅にて、霊形手術のため三吉の協力を得て養殖に成功した人魂の桶を披露する。
そしてアラン・ドロン顔で人生初のモテ期を味わって帰って来た三吉と共に、彼らは妙に整った顔で笑うのだった


●解説

「人魂の天ぷらでのっぺらぼう化する」という部分においては『ゲゲゲの鬼太郎』の「のっぺらぼう」の原型・亜種と言えるが、
「のっぺらぼう」の人魂が「のっぺらぼうが顔をストックするための手段(顔は分離していて取り戻せる)」なのに対し、本作では「人間をずんべら化するための手段(顔は消し飛ぶ)」という違いがある。
またプロトタイプ『人魂を飼う男』では「霊形手術」の手法が異なり、「眼鼻のパーツを福笑いの如く張り付ける」ものだった。
この時点では美容目的ではなく元の顔と同じパーツを使っており*2、「霊形手術」を営利目的で行うつもりはなく、尻尾が生え軟体になり顔のなくなった*3自分たちの仲間を増やすために人魂を養殖している。


●アニメ版ゲゲゲの鬼太郎

本作は単独作品なのだが、アニメ版鬼太郎第2期にて鬼太郎作品としてアレンジされアニメ化。
その後第6期でもさらにアレンジされたバージョンが放送されている。
但し「皆ずんべらなら幸せだよね!」というブラックユーモア寄りのオチや「人間を辞めてのっぺらぼうになる」というアイデアが子供作品として微妙だったせいか、
鬼太郎世界では一貫して、「生粋の妖怪種『ずんべら』」・「マスクの原材料は人間の顔*4」・「美を求める女の業は深く黒い」というホラー寄りの修正がされている。


  • 第2期版:第41話『霊形手術』

  • 第6期版:第15話『ずんべら霊形手術』

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  • 初出が女性誌ってところがミソだよね。当時は今以上に強かったであろう整形手術への忌避感をブキミなオバケという形で表しつつ、「でももし今よりいい顔になれたら…」という誰にでもある願望がブラックなハッピーエンドという形で暴き出される。実に巧みだ。 -- 名無しさん (2019-03-06 16:22:37)
  • ラストのあらすじを見て藤子・F・不二雄先生の「流血鬼」を思い出した 意外と一線を乗り越えた人間の感情ってこんなものなのかもね -- 名無しさん (2019-03-06 19:41:08)
  • ↑人間全員がこうってわけじゃないだろうけど、そういう人も少なくないんだろうなっていうね -- 名無しさん (2019-03-12 04:17:10)

#comment

*1 作中表記では「顔の皮」。
*2 ガマ吉の場合「ニキビがなくなった分だけ美男になった」とのたまっているぐらい
*3 詳細は不明だが村田曰く「自殺もできない」
*4 原作では「技術の進歩」とのみされている。

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