登録日:2012/06/12(火) 07:20:35
更新日:2025/02/18 Tue 23:08:10NEW!
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完全犯罪の準備は、すべて整った
悲劇の幕は、今夜開く
カルロッタの、凄惨なる死をもって――
オペラ座館・新たなる殺人とは、金田一少年の事件簿での事件の1つであり、かつて金田一少年が解決した事件のうちの一件。
テレビアニメ版は劇場版第1作として1996年12月14日に公開。
オペラ座館殺人事件に続く、オペラ座館3部作の2番目の事件。
登場する怪人は「ファントム」。
ノベルズに収録。現在は文庫版も発売中。
前述のとおりTVアニメシリーズが放送開始される前にアニメ映画化された。
メインキャラのCVは、美雪役の中川亜紀子を除きTVシリーズでは変更されている。
【あらすじ】
かつて伊豆の孤島・歌島で金田一達が巻き込まれた「オペラ座館殺人事件」。
その舞台であるオペラ座館が取り壊され、新築される事になった。
オーナーで高名な演出家でもある黒沢和馬が演出し、その弟子達が行う新築記念公演に招待された金田一達はオペラ座館へと足を運ぶ。
しかしオペラ座館は再び凄惨な殺人事件の舞台となってしまうのだった…
【以下ネタバレにご注意下さい】
【登場人物】
◆事件関係者
- 黒沢和馬
CV:山本圭
前回の事件でも登場したオペラ座館オーナー。
今回の話で昔劇団『幻想』の演出家をしていた事が判明。
その演出家としての手腕は日本で五本の指に入ると言われ、オペラ座の怪人の演出だけで異なる八種類の演出を行いその全てを成功させるほど。
今回の事件でオペラ座館殺人事件では見られなかった彼の闇が明らかとなる。
頬の傷痕は美歌が死んだ直後の自傷行為によるものであった。
- 黒沢美歌
CV:円谷憂子
黒沢和馬の娘。故人。
少年のような短く刈った黒髪の美少女。
天才とまで謳われ、将来を渇望された女優であったが、4年前に突然主演舞台をドタキャンし、オペラ座館に憔悴しきった様子で戻ってきた。
そして、その数日後に自殺してしまう。
恋人であった能条に裏切られ、失恋の失意を抱いたままオペラ座館の劇場でヒ素を飲んで服毒自殺したらしいが…。
余談だが、三部作完結編にて異母兄の存在が明らかになる。
円谷氏は劇場版の主題歌や、後に放送されるTVアニメ版の初代OPも担当。またリアルでの従兄は宇宙刑事だった。
- 能条光三郎
CV:平田広明
劇団『幻想』所属の若手スターで黒沢美歌の元婚約者。
長身に筋肉質で、男の一ですら目を見張る美しい容貌を持つ美青年。
表向きは社交的で爽やかな、絵に書いたような好青年。
…だが裏の顔は愚劣にして外道。
女癖が悪くかつての劇団員やファンに手を出しているという噂が絶えない。ただし理央には馴れ馴れしくしてるだけで手は出してこないらしい。
誰彼構わず罵り、師である黒沢にすら暴言を吐くその姿は金田一に醜悪さを感じさせるほどのものだった。
3人目の標的としてアイスピックのような刃物で襲われ、自身がクリスティーヌの恋人ラウル・シャニィ子爵に加えて演じていた、大道具係のジョセフ・ビュケに見立てられ首を縄で絞められかける。
平田氏は後にTVアニメ版でいつき陽介を演じることになる。
- 能条聖子
CV:勝生真沙子
劇団『幻想』所属の女優で能条光三郎の妻。旧姓は真上寺。
劇団の理事長でもある大財閥真上寺家の娘で、美人ではあるが欲しいものは手に入れなければ気がすまない傲慢さと人を見下したような雰囲気を持つ。
加奈井曰く簡単に手に入る物はすぐ飽きるけどなびかないものに執着する性分らしく、能条には愛想を尽かしつつすっぱり切る事が出来なかった様子。
かつては美歌の役の代役を急遽務められるなど、演技力は親の七光りではなく確かなものであるようだが、劇中では彼女に対する演技の評価はほとんどない為、(あの黒沢にも)あまり期待はかけられていなかったようである。
あるいは、自身の度が過ぎるワガママぶりが、女優としての自分の評価をマイナスにしていたのかもしれない。正直、自業自得である。
第1の被害者で絞殺された後、自身が演じるオペラスターカルロッタに見立てられ死体にシャンデリアを落とされた。
勝生氏は後に天堂四郎を演じることになる。
ちなみに、原作オペラ座の怪人ではカルロッタは死んでいない。
- 緑川由紀夫
CV:千葉一伸
劇団『幻想』所属の俳優。能条と滝沢の共通の使い走り。
権威主義で常に人に媚びへつらうような笑みを浮かべた小心で卑屈な小男。名前と外見からして、モデルは某元首相だと思われる。
第2の被害者で絞殺された後、自身が演じるフィリップ伯爵に見立てられ給水槽に放り込まれた。*1
千葉氏は後に台湾警察の李白龍刑事を演じることになる。
- 滝沢厚
CV:高木渉
劇団『幻想』所属の俳優。少年探偵団のオニギリじゃないぞ!
色白で小太りな容姿をした神経質そうな男。
極度のナルシストであり、痩せられればイケメンになれるほど整った顔立ちをしているようだが、痩せる気はないらしい。勿体ない。
部屋には自分を撮ったビデオが大量にあるとか。こんなんでもそこそこモテるらしく、女の子を取っ替え引っ替え遊んではそのお楽しみの光景を隠し撮りしている。
能条とは親友のように仲が良かったそうだが、1ヶ月前に大喧嘩をして以来険悪な仲になってしまったとの事。
役者としての素質は高いものの、そのナルシストぶりが災いし、敵役やイロモノ的な役しか貰えないらしい。
脚本家志望らしく、暇さえあればワープロで自作の脚本を打っている。
劇団の実質トップである理事長・真上寺秋彦に渡してもらおうと自作の脚本を能条夫妻に渡していたようだが、理事長の目に触れる前に夫妻によって握りつぶされていたようだ。
能条の襲撃後、自身が犯人である事、脚本を握りつぶされていた事、それを動機に能条夫妻の殺害を計画した事、それを知って脅迫した緑川も殺した事を述べた遺書をワープロに残してオペラ座館裏の木で首を吊ったようだが…
劇場版では死体は物置で発見される。滑りやすいビニール紐で首を括ったために紐がほどけて落下、その際に立てかけてあった斧が後頭部に突き刺さった事が直接の死因となっている。
現場に出血が少なかった事から、どこかで殺された後に物置に運び込まれたと一は推理するが…
高木氏は後に正野刑事を演じる事になるほか、天樹征丸の由来となった巽征丸や歌島の最初の事件の神矢修一郎等々も担当した。
- 加奈井理央
CV:大谷育江
劇団『幻想』所属の女優。ヒロインのクリスティーヌを演じている。少年探偵団の黒幕候補じゃ(ry
幼い顔立ちと優れたプロポーションを持ち、役者としての腕も高い。意外にも喫煙者。
タンクトップにノーブラでいるような軽い女を演じているが、本質は冷静に周りを見渡せるだけの目を持つ。
黒沢美歌とは親友で、さらにその父である黒沢和馬には淡い思いを抱いている。
その為本心では能条を憎んでおり、黒沢が犯人だと疑って喚く能条に平手打ちを喰らわせ「黙らないと私があんたを殺してやる」と一喝している。
原作では一に色仕掛けをして美雪にやきもちを妬かせていたが、劇場版では美雪を気にかけている。また、滝沢のワープロにいたずらをする一面もある。
- 江口六郎
CV:菊池正美
夏休みの間だけオペラ座館にアルバイトに来ている大学生。
黒沢美歌の高校時代の同級生であり、彼女に好意を寄せていた。その為、美歌を捨てた能条に憎しみを抱く。
また、4年前に美歌の後を追おうと自殺未遂をした黒沢を助けた命の恩人でもある。
1シーンだけ美雪に興味を示していた。
- 間久部青次
CV:大場真人
ゴーグルとマスクで顔を覆い隠したオペラ座館の常連である画家。
極度のアレルギー体質で人目をはばかって絵ばかり描いて生きてきたが、美歌との出会いにより、個展を開き脚光を浴びるほどの有名画家となった。
オペラ座館の近くにアトリエがあり、そこには幼い頃からの黒沢美歌の絵が大量に飾られている。
とある人物の本質に唯一気付いており、彼の絵をきっかけに一は犯人の正体に思い至った。
劇場版では舞台の美術担当も行っている。
原作のみの登場。前回の事件以来、2度目の登場となる開業医。
オペラ座館殺人事件の後オペラ座館が気に入ったらしく、毎週末訪れているらしい。
3人も殺されて周囲の人は軒並み食欲がわかない中、この人はせっせと朝食をたいらげていた。
◆主要人物
CV:山口勝平
毎度お馴染み主人公。奇遇にもちっちゃくなった方の高校生探偵と声がおなじ。
黒沢の招待を受けオペラ座館に2度目の来訪。
オペラ座館に着いた直後に不吉な予兆を感じ取っていた。
…とりあえず旅行で毎日同じ服を着るのと、髪の毛洗うのをサボるのはやめなさい。はじめちゃん。能条と加奈井と金田一の中の人は、某海賊アニメのコックと船医と狙撃手でもある。
CV:中川亜紀子
毎度お馴染みヒロイン。
冒頭から一のお宝を見るハメになったり、理央にヤキモキしたり、血のシャワーを浴びさせられるなどひどい目に遭ったが、事件となるといつもの助手ぶりで一を支えた。
演劇部所属というだけあって劇団「幻想」に詳しかったが、黒沢が有名な演出家とは気付いていなかった。
上述通り、中の人はTVアニメ版でも引き続き美雪を担当している。
CV:夏八木勲
毎度お馴染みオッサンこと剣持警部。
前回の事件の管轄だった静岡県警では、剣持が事件を解決したと思われている*2らしく、県警でご馳走になったりパトカーで送迎されたりと殿様待遇を受けている。
ちょっと感覚が麻痺しているが、警視庁の現役警部と言えば、警察官にとっては雲の上の人で憧れのエリートそのものなので、この待遇も当然と言えば当然なのである。
終盤犯人とのある約束を守る男気を見せた。
故・夏八木氏は、ドラマ版「オペラ座館殺人事件」に黒沢役で出演していた。
◆劇場版オリジナルキャラクター
- 佐伯涼子
CV:吉田理保子
劇場版オリジナルキャラクター。能条のホームドクターを務める美人女医。
しかし裏では能条への想いを抱き、聖子に対して嫉妬していたようだ。
劇場版には登場しない結城の代役も兼ねている。
声優の吉田氏は後に蝋人形城殺人事件で多岐川かほるを演じる。
- 武村英三
CV:三代目三遊亭圓歌
劇場版オリジナルキャラクター。不動産会社社員。
アミューズメントパーク建設計画を立て、歌島の買取を狙う。
オペラ座館でかつて殺人事件が起こっていた事は知らなかったようである。
【以下、悲しい真相… 更なるネタバレに注意してください】
───おれは美歌を愛していたんだ──…───
美歌は、おれの人生のすべてだった
その気持ちは、今も少しも変わっていない
【ファントムの復讐劇】
- 能条光三郎
この事件の真犯人「ファントム」。
前述した愚劣にして外道な部分は全てが演技であり、本質は黒沢美歌への愛と黒沢和馬への尊敬を抱いた誰よりも実直な青年。
そんな彼が下劣な男を演じていた理由、それは4年前彼の下に届いた美歌の遺書が始まりだった。
そこに書かれていたのは、1人の女の醜い嫉妬と、野獣のような2人の男の欲望の犠牲になった少女の話…
能条を欲した真上寺聖子が、滝沢と緑川をけしかけて美歌を強姦。
さらに滝沢がそれをビデオに撮っていた
という、あまりにも衝撃的な内容だった。
こんなスナッフフィルム(殺人動画)同然のおぞましい代物を「いっちょこの場で流してみるかい?」と口走ってしまった一は、後で相当後悔しただろう…
遺書を読んだ能条はすぐさま3人を殺してやりたい衝動に駆られるが、1つの事実に至る事で思いとどまる。
そんなことをしたら、美歌が強姦されているテープが残ってしまう。
…それだけは誰の目にも触れさせたくなかった能条は殺意を隠し、3人に接触する事にしたのである。
まず白々しく能条を慰めに現れた真上寺に美歌とは冷えきっていた、もう何とも思っていないと嘘をつき彼女と交際、結婚までこぎつける。
全ては婚約者を自殺に追い込んだ連中の懐に入って、おぞましい記録が残されたテープを探しだすため…
わざと女癖の悪い噂を自分で流し、恋人を裏切って野心と欲に走ったゲスを演じながら、能条は滝沢と緑川にも接触してテープを探し続けた。
何度もくじけそうになり、長い舞台と思い込むことで必死に耐え続けていた。
何を食べても味を感じず、どんなに強い酒を飲んでも酔えない日々…。
そんな狂ってしまいそうな日々を送っていた能条は、事件の1ヶ月前、とうとう真実にたどり着く。
彼と自分が同類だと思い込んだ滝沢が好色な笑みを浮かべながら能条に見せたのだ。彼が探し求めていた真実…その一部始終が収められたビデオを。
忘れたくても忘れられないんだ。
ビデオが小さなうなりを立てはじめて、そこにあるでっかいテレビ画面が、コマーシャルから灰色のノイズに変わって……
美歌の……
美歌の泣き顔が……アップに…… ああ……
金田一くん、わかるか?その時のおれの気持ちが!
地獄だよ。
地獄そのものだ!!
考えてみてくれ!
本気で愛した女が、目の前で、最も軽蔑する男に汚されるんだぜ!!
それも、この世のものとは思えない、
ケダモノじみた方法でだ!!
わかるか、金田一くん!?
これだけはわからないだろうな、君にも! いや、誰にもわかりゃしないさ。
あの時のおれの苦しみだけは!!
地獄のようなその光景に、ともすればその場で、目の前にいるこの人間の皮を被った鬼畜生を殺しかねないほど膨れ上がった憎悪を、能条は必死に抑え込んだ。
テープのコピーやダビングも含めて残さぬよう、復讐を確実にやり遂げるため、3人をふさわしい舞台で血祭りにあげるために。
オペラ座館でも悪党を演じながら、『オペラ座の怪人』に見立てて真上寺、緑川、滝沢を殺害、最後に自分も襲われたふりをして滝沢に全ての罪を着せようとした。
ちなみに、真上寺殺害の密室トリックは、
- 舞台の上に置いた聖子の死体を前に伏せたような姿勢で置いて、2枚の強化ガラス製の特注の大鏡で隠す。
- 聖子殺害の予告状で一たちを一度は舞台に向かわせ、何もないことを確認させる。
- その後、蚊取り線香を用いた時限式の装置でシャンデリアを舞台の上に落下させることでトリック用の鏡を粉々にする…
というもの。
そのシャンデリアには、ガラスがたくさん使われているうえにミラーボールまで付いているため、粉々になった鏡の破片も大量のガラスの破片と混ざって分かりにくくなっていたのである。
更には、緑川の前でワザと「黒沢犯人説」をまくし立てる事で緑川・滝沢の両名の警戒心を黒沢に向けさせ*3、二人を芋ずる式に殺害する事に成功した。
しかし真上寺殺害の際、偶然黒沢が現場を密室にしてしまった事から、急いで偽装した滝沢の遺書に無理が生まれてしまい*4、さらに唯一本質を見抜いていた間久部の絵を見た一が、絵の中と現実の能条のギャップに違和感を覚えた事から悪辣な態度は演技ではないかと疑惑を抱かれてしまう。
そして滝沢のマンションからテープを回収したところを取り押さえられ、犯行の露見に至った。
だが、付け焼き刃に近かったとはいえ、滝沢の遺書の中の「鍵すり替えトリック」を思いついたのは、たったの1時間程である。しかもみんなと一緒にカードゲームをしてる最中で。
それだけでほとんど違和感がないようにぶっつけ本番で実行してしまった。
これには剣持警部も「なんちゅう頭のいい犯人だ」と敬意さえ表していた。
一の推理中は反論したのは最初だけで、後は一の推理に聴き惚れてるかのように、一切の弁明も行わなかった。
能条が滝沢に罪を着せたのは、あくまでも「テープを始末する為の時間稼ぎ」であった為、それさえ出来れば後はどうでも良かったのかもしれない。
殺人は決して肯定されるべきではないが、彼の気持ちを思うと、他に選択肢があったのだろうかと思えてしまう。
黒沢に美歌の死の真実を打ち明けようとも考えたとも思われるが、黒沢が美歌の自殺によって自傷行為までしているため、真実を知ってしまえば娘の後を追い、黒沢自身も自殺してしまう可能性があったため話せなかったと思われる。
最後は「テープを誰にも見せずに始末する代わりに真実を話す」という約束を守った剣持警部にテープを渡されそれを川に破棄、4年続けてきた『悪党・能条光三郎』の演技を終えて、穏やかな表情で舞台から降りていった。
───さぁ、行きましょう、警部。
芝居は終わりだ。
ファントムの復讐劇は、もう幕を閉じたよ。
おれの一世一代の舞台は、ようやく終わったんだ。
事件から半年後に行われた裁判では、情状酌量の余地は多いものの殺害人数の多さから、恐らく無期懲役になるであろうと剣持警部から言われている。
被害者が文字通り屑だった事、4年間演技を続けてきた執念、終盤まで登場人物のほとんどを騙し、その本質が高潔だったギャップから『金田一少年』の中でも人気の高い犯人。
以降の事件にも、実直な性格でありながら粗暴なフリをしたり、自分を被害者側の人間と思わせた上でそのまま自らの命も絶とうとした犯人たちはいるが、彼らを『能条タイプ』と呼ぶ読者がいる事からも、能条光三郎が読者に与えた影響は大きいと言えるだろう。
最後に彼が黒沢に向けた言葉は、胸に来ること請け合いであろう。
── 黒沢先生。どうでしたか、おれの演技。 ──
── 少しは、巧くなりましたか? ──
君を巻き込むつもりはなかった…あれは僕の仕事だ…
いいえ、私も想いは同じです…美歌の夢は私たちの夢です…
この舞台も…黒沢先生の、そしてみんなの夢です…
- 加奈井理央
劇場版における滝沢殺害の真犯人「もう一人のファントム」。
能条が滝沢を殺害するために劇場に呼び出したその日、実は理央も美歌の絵を見るために偶然劇場に来ていたのだ。
しかしそこで滝沢と鉢合わせ。犯人だと勘違いされたのか、護身用の斧を手にしていた滝沢に迫られる。
そこへ(ファントムの衣装を着て)現れた能条が滝沢を絞殺しようとした形で助けられる。
そして理央は、滝沢からの予想外の反撃で返り討ちに逢いそうになった能条を助けようとアイアンテール滝沢の斧で彼を殺してしまったのだ。声だけ聞くと光彦が元太をぶっ殺したことになっちゃってる
滝沢の死体発見時の奇妙な状況や劇場の全焼は理央の関与を隠すための能条の工作である。
だが劇場を焼く直前に一に血痕を見られたために、もう一人の犯人である理央の存在を感づかれてしまう。
滝沢の自宅前での告発時、能条は一が既に理央の関与に気づいている事を承知した上で東京公演までは理央の関与については口をつぐんでいる。
その後、明確な描写はないものの東京公演の終了後に恐らく能条と同様に逮捕された(自首した)と思われる。
ただし、殺意はなかったし、凶器を持参したのは滝沢で、先に手を出そうとしたのも滝沢なので、理央には裁判で正当防衛が成立する可能性が高い。
だが、そのぐらいは救いがあったっていいだろう…。*5
ちなみに原作では事件後『幻想』を退団し、黒沢が新たに立ち上げた劇団 遊民蜂起に入団。
…こうざぶろう… さん…
- 黒沢美歌
聖子の差し金で、滝沢と緑川に強姦され、更にはビデオで撮影されていたという、あまりにも悲惨な彼女の死の真相が明かされた。
何も自殺までしなくても、野良犬に噛まれたと思えばいいじゃないか…と一部の読者は思うかもしれないが、待ってほしい。
美歌はその光景を一部始終全てビデオ撮影されていたのである。
文字通り、首根っこを掴まれた美歌は能条と結婚「できなくなった」のだ。*6
もしも滝沢が聖子の命令で(自分たちの顔は処理した上で)そのビデオや写真をマスコミにでも流せば、自分はともかく、能条と黒沢の名誉と未来まで地に堕ちかねない。
最悪、このテープをネタに能条と父が滝沢達に脅迫されるという事だって有り得るのである。*7
愛する恋人を守る為、愛する父を守る為…美歌は「死」を選ぶしかなかったのではあるまいか…。
彼女が死の直前まで能条との婚約指輪と、父・黒沢との思い出の硬貨を握りしめていたのは、二人への愛の表れであろう。
だがそれでも、この胸の内を能条にだけは打ち明けたかったようで、自分の死後に彼の元に遺書が行くように手を回していた。
そのあまりにも卑劣で残酷な内容に能条は怒り、悲しみ…復讐を決意したのだった…。
事件後は、黒沢がオペラ座館を売却した為、彼女の遺骨は都内にある黒沢家の墓に移されたとの事。
同時に能条の逮捕(自首)によって死の真相が公表されたと思われる為、名誉回復は出来た事だろう。
劇場版では流石に悲惨すぎる故か、自殺の原因が若干変更されている。(余談を参照)
- 真上寺聖子
- 緑川由紀夫
- 滝沢厚
文字通りの屑で、外道だった今回の被害者。
聖子が能条を美歌から奪うために滝沢と緑川をけしかけ、美歌を強姦させるという鬼畜な行為をしたのが、そもそもの始まりだった。
元々滝沢は強姦魔であり、美歌の他にも同じ目に遭わされた女性がたくさんいる模様。こらそこ、声が同じだからってうな重ではなく性欲の方に暴走した劇場版の元太とか言わない!ていうか劇場版では光彦と声が同じ女に襲いかかったうえほぼ返り討ちで殺されてるという変な偶然起きちゃってるし(しかもアイアンテールで)
しかも、尚更タチの悪い事にナルシストの滝沢本人は自分の好色でサディスティックなところも女性には魅力的に映るだろうという、壮大な勘違いをしていたようである。
恐らく能条が何もしなくとも、遅かれ早かれいずれは被害者の女性(の、恋人や家族)達に報復されていた事だろう。
実はあの時のビデオをネタに聖子を脅迫するなりすれば、主役の役を貰う事も、念願だった脚本家にも簡単になれたはずなのだが、何故かそうしようとはしなかった。
過剰なナルシスト故、自身のプライドがそれを許さなかったのか、もしくはそこまで頭が回らなかったのか…。
聖子はこんな外道な事をしてまで能条を手に入れながら、いざ結婚すると能条の(屑を装う為の)美歌への掌返しと女遊びの派手さにドン引きしたらしく、「黒沢へのコネ目当てで美歌に近づいたように、自分にも金目当てで近づいたのでは」と考え、預金を父親名義に変更したり生命保険に入らないようにしたりと、金目当てで殺されないように手を尽くしていた*8。
その割に「自分に近づいたのは美歌の復讐のため」とは露ほども考えてなかった(美歌の遺書で真相を知ったのは知らないのもあるが)。
美歌にあのような仕打ちをしたのは、能条欲しさからだけでなく、同じ偉大な父を持ちながらも、天才と謳われた美歌への嫉妬の気持ちもあったのかもしれない。
彼女の実家は劇団『幻想』の理事長でもある超資産家だが、娘と劇団員の悪事が露呈したことで、真上寺家も『幻想』もこれから信用はガタ落ちであろう。
緑川は金でやとわれて加担させられたにすぎず、美歌が自殺するとまでは思っていなかったようで、3人の中では唯一良心の呵責もあり、能条にさりげなく探りを入れてきたとの事。
もしもこの時に素直に謝っていれば、美歌を強姦した罪で逮捕される事にはなっても、彼だけは復讐のターゲットからは外されたかもしれない。
だが屑のフリをしていた能条の態度を見て安心し切った彼は、それ以降己の罪を顧みる事はなかったようで、その事に関しては能条も「バカな男ですよ…」と憐れみの言葉を口にしていた。
- 江口六郎
- 間久部青次
- 佐伯涼子
- 武村英三
アニメ版ではエピローグの東京公演にも登場。
六郎は真相を知ったことから、能条への憎しみを氷解。これまでは呼び捨てにしていた能条をさん付けで呼ぶようになる。
間久部は一が自分たちを呼んだのは単に芝居を見せるためだけではないことに逸早く勘付いた。
武村は「この事件はラウルも演じる能条がクリスティーヌの美歌を求める物語でもあった」と発言した美雪を中々の詩人と評した。
佐伯は台詞はないものの能条の真実を知ったことから哀しげな表情を浮かべていた。
…私もヤキが回ったものだよ。
弟子の演技さえ見抜けないとはな…!!
- 黒沢和馬
娘の死の真相と、弟子を信じてやれなかった自分を恥じ、強く後悔した。
上記の言葉は、ある意味弟子への最大級の賛辞であると言えるだろう。
能条が逮捕された後、黒沢はオペラ座館を売却。
美歌の遺骨を都内の黒沢家の墓に移し、オペラ座館の売却金で新たな劇団『遊民蜂起』を旗揚げする。
”能条がいつか罪を償い終えて出所した時、自分の演出で舞台に立たせる”
“娘の遺言であった「多くの人達を感動させてほしい」”
…その二つの願いを携えて、『娘』と『息子(になるはずだった青年)』の為に、黒沢は再び演出家として立ち上がった。
復活した黒沢の最初の舞台…それは演出黒沢和馬・脚本能条光三郎の【オペラ座館殺人事件】だった…
だがしかし…そんな黒沢の願いは叶わなかった
他でもない黒沢の死によって…
【原作との違い】
◆劇場版
- 劇中劇『オペラ座の怪人』でファントムを演じるのが能条と判明(ラウル、ジョセフ・ビュケと合わせると最低三役、原作では恐らく滝沢である可能性が高いが、ハッキリとは不明。)
- 能条と聖子は婚約中でまだ結婚には至っていない
- 能条があいさつ代わりに海に飛び込むシーンが追加。
- 能条は第一の事件のトリックで使われる大きな鏡を緑川と滝沢に運ばせている。
- 美歌の死因を服毒から首吊りに変更(動機の変更については、余談を参照)
- 間久部はゴーグルではなく、サングラスを着用し、マスクは未着用。髪型も変更された。
- 能条を描いた間久部の絵に関する描写はカット
- 能条と佐伯が密会するシーンが追加。
- 加奈井はタバコを吸わない。また、能条を引っ叩くシーンもカット。
- 緑川は滝沢に敬語を使わない。
- 第一の事件の現場検証に美雪は居合わせない。
- ファントムのデザインを変更(原作ではオペラ座館殺人事件の物と同じ)
- 滝沢殺害に使われた凶器を滝沢自身が持参した斧に変更
- 滝沢を殺害した人物を加奈井に変更
- 滝沢殺害後に劇場が全焼する
- 一が真相を明かす場所を滝沢の部屋の玄関前に変更(原作では中に入っている)
- 真相の告発時に立ち会うのは美雪、剣持、黒沢のみ
- 能条が探し求めていた美歌が聖子達に受けた仕打ちの一部始終が収められている物をカセットテープに変更
- 能条が動機を明かす場所を滝沢が住むマンションの屋上に変更
- 能条はテープの投棄の他に東京公演への出演を自白の条件とする(事件の最終日は東京公演の日)
- 能条が、自分は美歌を愛していた。今もそれは変わらない事を伝える相手を黒沢に変更
- 犯行の自供後、能条が黒沢に「自分の演技はどうでしたか?」と聞いた時の一人称を僕に変更。
- また、黒沢の返答後の発言も「初めて先生に誉められた気がします」に変更
- その後、黒沢は能条に死なない事、舞台を最後までやり通す事を約束させる
- 東京での舞台に能条と加奈井が出演する。また、一は東京公演に他の容疑者も全員集めて滝沢を殺したのは加奈井だと話す。
- 一が舞台終了後、能条に「他にゴールなかったの?ゴールしたら走れないレースなんてつまらないじゃないか!」と説得し、能条を見送った後涙を流すシーンが追加。能条は金田一に「お前みたいなやつと一緒に走りたかったな」と言い連行される。
【余談】
全年齢対象になる映画で強姦を扱うなんてどう考えてもアウトなので、劇場版では美歌の自殺の原因が「薬を飲まされて大事な舞台を失敗させられた上、薬の作用で見た幻覚が原因で能条に捨てられたと思い込んだ」となっている。
能条が探していたテープの中身も美歌が幻覚に苦しむ様子を映したものになっている。
もっとも、その行いが人間としていかなる行いかというのは、後の事件を見ればお分かるいただけることであろう。
なお、ノベルスの初期の版では、現場の見取り図に「鏡」というトリックの答えが書かれてしまっていたりする。
(後の版では削除されたが…後の事件の動機みたいな話である)
ちなみに「謎はすべて解けた!」から真犯人の告発に至るまでの展開には様々なパターンがある本シリーズであるが(お決まりの「真犯人はこの中にいる!」や黒い人を現行犯で捕まえるタイプや真犯人と一対一で対峙するタイプ等々)、
その中でも本事件は、能条が謎の追跡者(正体は金田一)に尾行されるというシリーズ内でも類を見ないパターンとなっている。
またここまでに真相を掴めているか否かによって『真犯人である能条の後をつける探偵』が『標的である能条の後をつける真犯人』という全く逆の構図に見えてしまう所が面白い。
追記修正は4年間悪党を演じてからお願いします。
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▷ コメント欄
- 黒沢さん黒沢さん死ぬみたいだけどなんで死んだんだ? -- 名無しさん (2015-12-31 18:47:38)
- ↑ネタバレだけど、車を運転してた時、崖に誤って車ごと転落。車の中には黒沢さんは乗っていなかったが、生存は絶望的だったので死亡となる。ちなみに初期プロットでは加奈井理央さんも一緒に亡くなっているはずだったが没になる。 -- 名無しさん (2015-12-31 19:05:03)
- コメント欄が長くなってきたのでリセットしました -- 名無しさん (2016-01-05 23:54:33)
- 中学の図書室に小説版ということもあってか、置いてあったので休み時間の度に読んだ思い出の作品。だが、強姦の描写が出て来た時には流石に面食らった。中学校に置いていい本ではないだろう。 -- 名無しさん (2016-05-24 00:22:17)
- ↑「強姦はいけません」と、ちゃんと言わないとわからないガキがいるから -- 名無しさん (2016-08-09 00:03:00)
- 映画の最後の能条さんと金田一のやりとりが凄く好き。 -- 名無しさん (2016-11-07 23:21:32)
- 読み直して思ったけど、被害者たちって剣持警部の殺人の被害者といい勝負になるぐらいクズ。そうじゃなくてもクズの被害者の上位に入るだろうな -- 名無しさん (2017-01-05 09:32:33)
- ↑ そうか?この3人はまだ多間木・魚崎ほど性根が腐ってるとは思えないんだが。つーか魔犬の森や首吊り学園や獄門塾の被害者連中にも劣ると思う。 -- 名無しさん (2017-01-05 18:57:28)
- ↑そもそも多間木・魚崎はモデル自体滝沢達が可愛く見えるレベルの凶行を犯してる連中だからな -- 名無しさん (2017-05-13 21:19:03)
- ↑亀レスサンクス。金田一の被害者でどう考えてもこの2人を上回る被害者はいないよね。 -- 名無しさん (2017-05-14 00:17:57)
- ↑実際コンクリ事件は滝沢達が裸足で逃げ足すレベルの事件だからな -- 名無しさん (2017-05-14 08:43:26)
- 映画の金田一と犯人の最後の会話は泣ける -- 名無しさん (2017-09-13 16:50:42)
- ↑4 亀レスだが、んだんだ -- 名無しさん (2017-09-13 17:19:15)
- レイプ→幻覚剤への変更は致し方なしだが、レイプのほうが、殺意が明確ではあるんだよね。 -- 名無しさん (2017-12-30 11:45:22)
- ↑美歌の死の真相も含めて原作に忠実に映像化してたら最低でもR15指定は免れないだろうね -- 名無しさん (2018-06-02 17:24:04)
- 金田一と能条と加奈井の声優ONE PIECEの狙撃手&コック&船医 -- 名無しさん (2019-06-18 17:59:58)
- 折角37歳になりイブニングになったんだからこれくらい人間関係ドロドロしたビターな事件また見てみたいなぁ。事件のあった場所で解決じゃなくて一旦解散させておいて油断したところで解説編って珍しいよね -- 名無しさん (2019-10-08 23:04:12)
- 37歳でまた事件現場に…もうファントムに呪われた島とか言われてそう -- 名無しさん (2019-11-05 17:23:55)
- ↑ 異人館ホテルのほうで似たような事があったな。犯人も能条タイプだった。 -- 名無しさん (2020-04-14 20:12:52)
- かつて小学生の頃 -- 名無しさん (2020-10-22 00:26:55)
- ↑ごめん誤爆>< -- 名無しさん (2020-10-22 00:27:21)
- 小学生の頃、ビデオテープを見るシーンを読んでこの世には何て残虐な行為があるんだと愕然したと同時に、変な性癖に目覚めました。全部金田一のせいです -- 名無しさん (2020-10-22 00:29:06)
- この作品をドラマ化するとした場合能条は誰になるんだろうか 自分はちょっと考えて間宮祥太郎とかいいかなって思った -- 名無しさん (2021-03-05 12:34:31)
- 映画版、ラウルとファントムを一人二役って無理じゃね? -- 名無しさん (2021-04-14 23:04:28)
- ↑具体的にどう演じたかのシーンはなかったけど多分一人芝居みたいな感じでやるんだと思う。参考になるかは分からんけどおジャ魔女どれみではおんぷが会った舞台女優が若い女と老婆の一人芝居をやってた。 -- 名無しさん (2023-07-18 21:32:41)
#comment
*2 一応、公式でもほとんどの事件で一は剣持警部に手柄を譲っている事が明らかになっている。
*3 もちろん、本気で黒沢に罪をなすりつけるつもりは毛頭なかった。
*4 能条本人も「考える暇がなかったとは言え、あれは失敗だった」と述懐している。
*5 結果として、理央の関与により能条の殺害人数も原作の3人から2人に減ったので、能条の方も減刑される可能性が高いと思われる。
*6 この時黒沢は、「能条が美歌を捨てたせいで結婚できなくなった」と美歌の言葉を誤解してしまった。
*7 皮肉にも幸か不幸か、二人が表向き破局した事で、能条に対してはテープは脅迫の意味を持たなくなった。能条は逆にこの事で滝沢と緑川を脅迫し返している。
*8 むしろ能条からすれば、金目当てに殺したという疑いをかけられてはたまらなかったようで、聖子の尽力は願ったり叶ったりだった
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