ゴールデンスランバー(小説)

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登録日:2019/11/01 Fri 03:45:11
更新日:2024/05/13 Mon 10:48:29NEW!
所要時間:約 15分で読めます



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人間の最大の武器は、習慣と信頼だ


●目次


【概要】


『ゴールデンスランバー』は伊坂幸太郎の小説。2008年本屋大賞受賞、第21回山本周五郎賞受賞作品。『このミステリーがすごい!』2009年版1位。
タイトルの元ネタはビートルズの楽曲である『ゴールデンスランバー』。


舞台はお馴染み宮城県仙台市。


首相暗殺の濡れ衣を着せられた主人公・青柳が、自身を捕まえようとする国家から必死に逃げようとする3日間*1の物語。
この世界の仙台には人間のあらゆるものを監視するカメラが日本のいたるところに設置されているなど、『1984年』を彷彿させる世界観であり、独特の息苦しさがある。
逃走劇という骨太なストーリーに巧みな伏線回収、そしてそれらを見事に再現した実写映画などから非常に評価が高く、おそらく伊坂幸太郎作品の中では『アヒルと鴨のコインロッカー』に並んで知名度が高い。


テーマは上述の「人間の最大の武器は、習慣と信頼だ」という言葉。作者から読者に向けたメッセージであると同時に本作最大の伏線であり、本作の各所で使われる。


物語は5章構成であり、

  • ヒロインである樋口晴子の視点で事件が起こるまでを描く『事件の始まり』
  • とある病院患者・田中の視点から事件3日間を描く『事件の視聴者』
  • 20年後を舞台にルポライターが事件の不可解な点を探る『事件から二十年後』
  • 本作のメインストーリーである『事件』
  • エピローグである『事件から三ヶ月後』

に分けられている。大半がメインストーリーである『事件』の部分。


伊坂幸太郎作品でも群を抜いた伏線回収のクオリティの高さから『伊坂幸太郎の集大成』ともされている。
ただ勧善懲悪が薄めのこと、解かれていない謎が多くあること、作品間リンクが少ないことなど、伊坂幸太郎作品としては異端の部類に入る。
そのため「集大成」という評価には首をかしげるファンも多い。
というか本作は伊坂幸太郎自身、今までと違う物を書こうとしたものであるらしい。曰く『モダンタイムス』の兄弟作であるとか。
そしてこの作品をターニングポイントとして、『バイバイブラックストーリーズ』や『残り全部バケーション』、『あるキング』、『SOSの猿』などファンの間では「第二期」と称される伊坂幸太郎作品に続いていくことになる。


ちなみに日本でも、残念な事に実際に首相及び首相経験者が殺されたケースは複数存在するが、2023年現在に置いて犯行は「近距離からの奇襲(のため実行後周辺の警備が即拘束)」「組織的クーデターの一貫として真正面から襲撃」のほぼ2パターンなため、今の所少なくとも「実行犯への冤罪」や「謎に包まれた犯行動機」という本作の様な事態は発生していない。
だが、2015年には首相官邸に放射線物質入りドローンが落とされる事件が発生しており(但し犯人はすぐ自首)、電子技術の発達による「ディープフェイク」動画問題等も考えると
この様な事件や青柳に起きた窮地は、いつ誰の身に起こっても不思議ではないのかも知れない…


【あらすじ】


10年前。大学生だった主人公の青柳、森田、樋口、小野たちはファーストフード研究会というサークルに所属しており、青春を思うがままに楽しんでいた。


そして現在、仙台で新首相のパレードが行われるある日、青柳は森田に呼び出されていた。
旧友との再会を喜ぶ青柳だが、森田は妙によそよそしい。そして森田は告げる。


お前、オズワルドにされるぞ」と。*2


すると突然パレードの方面から爆発音が鳴り響いた。
青柳は森田に車から出て逃げるように促される。そして出たほぼ直後、森田を乗せた車は爆発した。あまりの事態に呆然とする間もなく、彼は警察に追われる身となる。
青柳は現在、ドローンに爆弾を乗せて首相を暗殺したとして緊急指名手配がかけられているらしい。
身に覚えのない罪をかけられてしまった青柳。彼は状況を打破するべく逃走を続ける。


しかし青柳の影武者を使った捏造工作や、ショットガンを使う警察など事件にはいびつな部分が見られ、敵は国を絡めた大きなものであると判明していく。


【登場人物】


「それなら、俺が犯人だ」
◆青柳雅春
本作の主人公で元配達ドライバー。現在は退職しており、失業者保険で暮らしている。
大学時代、友人の森田から大外刈りを習っており、柔道はほとんどできないが、それだけは出来る。伊坂幸太郎作品の主人公の中でも特に個性が薄く凡庸な男。良くも悪くも無個性。エレベーターのボタンを親指で押すという変な癖がある。
2年前に仙台に帰省中だった当時のトップアイドル・凛香が自宅で暴漢に襲われていた時、偶然配達に訪れ大外刈りで暴漢を倒してしまったという過去がある。それをマスコミが騒ぎ立てたこともあり、現在でも仙台で彼の名を知らないものはいないほど。
上述のセリフは「俺は犯人じゃない」と言ったところ「犯人はみんなそう言う」と言われてしまい、逆ギレして言い返した言葉。手痛い沈黙の後「君は状況が分かっていない」と切り捨てられた。
彼を演じる堺雅人は『ラッシュライフ』でみんな大好き黒沢を演じていた。



「わたしたちって、このまま一緒にいても絶対、『よくできました』止まりだと思っちゃうんだよね」
◆樋口晴子
一応本作のヒロイン。大学時代青柳の恋人であった。現在は他の男と結婚しており、七海という4歳の娘がいる。
大学時代、青柳との関係は決して悪いものではなかった。しかしある日なんとなく「このまま青柳と一緒にいても小さくまとまってしまい、お互いのためにならないのではないか?」と考えてしまい別れを切り出した。この考えについて彼女は「『よくできました』と『たいへんよくできました』の関係」と例えている。
事件に対し青柳がどう考えてもやらないことの連続であったために不信感を持ち彼女なりに調査をし、事件の裏側から青柳を支え続けた。
ちなみに青柳が親指でボタンを押す癖があると気が付いたのは樋口である。



「無様な姿晒してもいい。とにかく逃げて、生きろ」
◆森田森吾
青柳の大学時代の友人。高い観察力と洞察力を備えており、それについて本人は「森の声が聞こえる」と冗談交じりに言っている。
現在は結婚し妻子がいる。しかし妻は所謂ギャンブル狂いであり、家は借金で回らない状態になっている。そんなある日、「青柳雅春を車で所定の位置に連れていけば借金を返済扱いにする」という謎のメッセージが届く。車に爆弾が積まれているのを見て青柳が何か陰謀に巻き込まれていることを察知し、彼に対し逃亡を促す。その後車の爆発に巻き込まれて死亡した。



「青柳さん! 逃げた方がいい! こいつらやばいです!」
◆小野一夫
青柳たちの大学時代の後輩。カズという愛称で呼ばれている。
会社の元同僚などあまり親交が新しければすぐに見つかる可能性があり、森田が死に、樋口は既婚済みで迷惑はかけられないという消去法で青柳が連絡を入れかくまってもらうことになる。
しかしそれは青柳を追う者たちに嗅ぎつけられており、人質にされ暴行をふるわれるという惨い目に遭う。その状況でも青柳の身の心配をし続ける姿は聖人。
最終的には解放され、(青柳に暴行をふるわれたと偽証されたうえで)入院したが、最後まで彼の無事を願っていた。



「どうせ、お前じゃねえんだろ」
◆岩崎英二郎
青柳の務めていた宅配会社の社員であり、彼の先輩。宅配業務について青柳に教えたのも岩崎である。ロックが大好きであり、逆にヒップホップには偏見がある。
もしかしたら元同僚であれば自分を信じて助けてくれるかもしれない、と考えて青柳が呼び出した。しかし仲の良かった元同僚とはいえ、警察に突き出される可能性もある。そう考え中々要件を切り出せない青柳に対し「どうせ、お前じゃねえんだろ」と温かい言葉をかけた。「人間の最大の武器は、習慣と信頼だ」を体現した名言として名高い。その後は最後まで青柳の逃走のサポートをし続けた。
誰にも内緒だが、青柳をダシにキャバクラのお姉ちゃんと浮気したことがあるらしい。



「青柳さんが相手にしているのは、そうとうでかいやつらだよ」
◆キルオ/三浦
仙台に最近出没している通り魔。武器はナイフ。「セキュリティ・ポット」が設立されたのは大体彼のせい。
飄々とした無邪気な性格であり、青柳をめぐる事件に対して興味を持って彼に協力を申し出た。ショットガンを持った奴らを相手にし、勝利できる程度には戦闘能力が高い。普通にどこぞの殺し屋たちと渡り合えるレベル。
顔立ちは幼く、青柳曰くプレーリードッグに似た不健康そうな容貌らしいが、これは警察の手から逃れるために整形した顔であるらしい。
現在はとあるアパートの一室をアジトにしている。彼曰く、本来の住人に大金を積んで無理矢理借りたらしい。当たり前と言えば当たり前だが、青柳にはそれは方便で実は殺して借りたのだと思われていた。
裏社会の人間で飄々とした性格に戦闘能力の高さというアニメチックなキャラクター性に、死亡する最後の最後まで青柳の味方でいつづけたという姿勢から結構な人気キャラである。
演じたのは中村監督作品には大体登場する濱田岳。『アヒルと鴨のコインロッカー』の椎名であり、『ポテチ』の今村であり、『フィッシュストーリー』の雅史である。



「思い出ってさ、似たようなきっかけで復活するんだよ。自分が思い出してれば、向こうも思い出している」
◆轟
花火屋「轟煙火」の社長。面の男であるらしい。青柳たちは大学時代彼の元でバイトをしていた。
昔ながらの頑固な職人でありバイト中の青柳たちには雑用を任せ、決して火薬を触らせようとはしなかった。そのため「青柳が総理大臣殺害の火薬を轟煙火から奪ったのではないか」という疑惑が出た際も「プロとしてそのような事態になることは決してあり得ない」と頑として否定し続けた。
花火の技術進歩に力を入れている。このままいけば携帯の電波で花火を着火させることも夢ではないらしい。
ちなみに伊坂幸太郎のデビュー作「オーデュボンの祈り」には髭面で轟という名前の人物が登場している。



「また一緒にゲームやろうよ」
◆凛香
2年前青柳に救われた当時のトップアイドル。ある意味青柳が有名になった原因。整形をしているという疑惑があるが、それを本人に言うとキレられる。
ちなみに青柳は彼女を助けた後、部屋に招待されている。そのため青柳は知り合いたちに会うたびに「凛香とヤッたのか」と聞かれる羽目になってしまった。ちなみに結論から言うと青柳と凛香は激しくヤッている。……格闘ゲームを。凛香は格ゲーオタだったらしい。



「犯人こそ、そう言うんだ。自分が犯人だ、なんていうのは犯人じゃない」
◆佐々木一太郎
警察庁警備局総合情報課の課長補佐で、今回の事件において捜査指揮を執ることになった。
ある部分で外見は「ポール・マッカートニー」似と称されているが、どこか人を小ばかにしているような態度が目立つ男。今回の事件の歪みを体現しているような男であり、証拠の捏造はお手の物、部下にショットガンを持たせ容赦なく発砲すると事件解決のための異常性を見せている。



「やじやじやじやじ矢島です」
◆矢島良治
テレビ局のプロデューサー。
中盤、青柳本人から電話をかけられる。なりすましの電話が多く、呆れていたがその中で唯一「自分はやっていない」と言い出す青柳だったため(他の奴らは容疑を認めていた)彼が本物の青柳であると信用する。



◆金田貞義
今回の事件で凱旋パレード中に殺された現総理大臣。50歳とまだ若く、国民からの人気も高い。宮城県出身。



「信じたいんじゃない、知ってるんだ!」
◆青柳平一
青柳の父親。正義感の強い人物であり、特に痴漢が嫌い。そのため青柳は小学校の習字の宿題で、みんなが普通の文字を書く中で「痴漢は死ね」と書かされた。
息子が犯人をされた状況でも毅然とした態度で無罪を信じ続け、テレビのインタビューを受けた際には周囲からのバッシングも恐れずに「まあ、雅春、ちゃっちゃと逃げろ」と温かく彼を応援した。青柳本人はこの中継を偶然見ており、この言葉で最後の計画に向けての決意を固めることになる。



「あんたのお父さん、泣けるな」
◆児島安雄
事件の終盤、偶然青柳を見つけてしまった老警官。とっさの判断で青柳の大外刈りが決まり、彼に拘束されてしまう。
青柳のことを凶悪犯人だと信じ、怯え続けていた。しかし上述の平一のインタビューを見て親子の絆に涙を流し、遠回しだが青柳への協力を申し出た。



「おっさん、がんばれよ」
◆若者たち
ヤンキー然とした若者たち。
青柳が警察をかく乱するために衣服を交換しなければならなくなったが、服屋には入れない。そんな時出会った若者たちであり、青柳は賭けのつもりで彼らに衣服の交換を申し出た。
キレられる……と思いきや若者らは彼を青柳と分かったうえで「おっさん、本気だな」「協力するぜ」と全員が衣服を脱ぎだした。青柳が慌てて止め、結局ひとりぶんの衣服を交換した。
3ページ弱しか登場しない割にキャラが濃く謎の人気がある奴らだが、残念ながら劇場版では存在をカットされた。



◆ドクター
キルオ御用達の整形外科。裏の世界の住人であるらしい。やたらと感情表現が薄い。
『キャプテンサンダーボルト』『陽気なギャングが地球を回す』『AX』など多くの作品で「腕はいいが無愛想な外科医」が登場するが、もしかしたら関連があるのかもしれない。



◆小学生
青柳と公園でばったり会った小学生。「たいへんよくできました」と書かれた花丸を自慢し、さりげなく青柳の心を抉った。
最近になって『ガソリン生活』の望月享ではないかと考察されはじめた。



◆保土ヶ谷康志
仙台医療センターに入院中の老人。ひょうきんでめんどうくさいおじさん。マンホールについての知識が深く、ひょんなことから青柳に協力を申し出る。



◆田中徹
一応2章「事件の視聴者」の語り部。足を怪我して仙台医療センターに入院している。保土ヶ谷と同室であり、やたらとうるさい彼に辟易している。
伊坂幸太郎作品にはよく足を怪我している「田中」という人物が出てくるが、関連性は不明。











【以下、ストーリーのネタバレ】




+ それは、ある男の逃走と抵抗の果て…-







キルオを殺害され、途方に暮れていた青柳の前に現れたのは保土ヶ谷という老人だった。
彼は何か裏家業をしており、カモフラージュのために入院するフリをしているらしい。
保土ヶ谷は青柳がもう手づまりなのではないかと告げ、そして逃げるための新しい方法を提示した。


それは地下水道を使って逃げることだった。


保土ヶ谷の提案はこのようなものだった。
まず彼が病院を抜け出し、マンホールを通常のものから軽い特殊なものに差し替える。そして青柳が何かフェイクとして騒ぎを起こしている間にドサクサで地下水道を渡って仙台市から脱出する。
それが作戦だった。


それを実行するために青柳が病院から抜け出るのと入れ替わりに樋口が病院に来る。
そしてひょんなことから保土ヶ谷と出会い、青柳が最後の大勝負をしようとしていると聞かされる。当然、晴子もそれの補助をすることを決意する。


青柳は「フェイクとしての騒ぎ」の準備をしていた。
まず矢島に電話をかけて、テレビ局に逃亡の独占取材をさせることを約束させる。
そして佐々木に電話をかけ、「条件付きであれば、捕まってもいい」と連絡を入れた。
つまりテレビで生中継をしたうえで警察に逮捕されるというシチュエーションを作り出し、その中で逃げようとした。テレビ局の前であれば警察も滅多なことはできない、そう考えてのことだった。


そのころ樋口は「警察は青柳の逮捕のために麻酔銃を使う」という情報を得て、万が一のために保険を用意した方がいいのではないかと考えていた。保土ヶ谷も了承し、もうひとつの策が用意された。


そして青柳逃亡から3日目の早朝。作戦が始まった。
テレビ局は撮影に来ている。マンホールの準備もされている。やれることはやったはずだった。
しかしそこで予想外の事態が起こる。突如としてテレビの電波がジャックされたのだ。もちろん警察たちの策略だった。テレビ局の目をかく乱し、その間に青柳を射殺しようとしたのだ。
万事休す。そう思われたその時、異変が起こる。


仙台の市街地、複数の個所で突如花火が上がったのだ。


これが樋口たちの保険だった。
保土ヶ谷は轟煙火に電話をかけて、花火を手配してマンホールを交換するついでに設置していた。
そして10年前に轟が言っていた携帯電話を介して花火を打ち上げる技術は完成していた


その隙をついて下水道から逃げる青柳。
ふと、森田の言葉が聞こえた気がした。


そして青柳は最後の作戦を決行するつもりでいた。
その作戦はキルオ御用達の整形外科の手を借りて顔を変えて生きていくことだった。医師からも了承されている。


下水道を抜けるとその医師から電話がかかってきた。
医師の知り合いが諸事情から青柳のことを心配しており、どうせならと整形外科までの案内をしたいと買って出たらしい。


しばらくするとその案内人は現れた。
青柳は吹き出し、つい「君はやっぱり、整形しているんじゃないの」と問いかける。
凛香ははしゃいだ笑い声をあげるだけで答えなかった。



その数日後、身元不明の死体が仙台港で見つかった。
それは、青柳のものであるとニュースでは流された。




【その後の登場人物たち】


◆轟
その後花火は轟煙火のものであったと判明し、警察から厳しい事情聴取を受けていた。しかし轟はそれに対して知らぬ存ぜぬで通す。
そんな中轟はふと質問をする。「あんた、この事件の犯人が、青柳雅春だと思っているのか?」と。それに対し「それは、もちろん」と返される。
もちろん? もちろん、どっちなんだ?



◆鎌田昌太
息子と共に1年半日本中を旅していた親子。妙な男に大金を積まれ、アパートの部屋をまた貸ししていた。久しぶりにアパートに帰ると、見知らぬ男に話しかけられる。なぜか彼は自分の身元を知っており、「てっきり、この世にいないものだと思っていたんで、嬉しかったんです」と物騒なことを言う。これには親子そろって首をかしげるしかなかった。



◆岩崎英二郎
とある日、家に帰ると妻にものすごい剣幕で騒がれる。なんでも見知らぬ男から「岩崎英二郎は、前にキャバクラ嬢と浮気したことがある」と言われたらしい。
呆然としながらもそのことを世界で知っている男は自分と青柳だけ、と気が付き妻に叱られながら「青柳、お前はロックだよ」と呟くのだった。



◆青柳平一
「死んだ青柳は偽物かもしれない」という疑惑が上がっていることもあり、少なくなってきてはいるが、家は監視され時折記者から電話が来る。またインタビューの内容がバッシングされ、今でも凶器が入ったものなど危険なものが届くことがある。そんなある日、一枚の和紙が届いた。
そこには「痴漢は死ね」と書かれていた。



◆樋口晴子
とある商業ビルで娘と共に買い物をしている最中、エレベーターの中で、親指でボタンを押す男に出会う。少し考えたのち、娘を通して男の手にスタンプを押した。
たいへんよくできました」と花丸でかかれたスタンプを……。



◆ルポライター
第3章『事件から二十年後』の主人公であるライター。事件について不可解な点をまとめていた。
文の末尾に「森の声は聞こえなかった」というフレーズを使っている点から、正体は青柳なのではないかという考察がある。



そして事件が一応の「結末」を迎え、追手の佐々木も既に亡き二十年後、あるルポライターが事件を考察し「青柳が犯人だったと思うものは今や日本にはいないだろう」(意訳)とも追想するも、関係者達のその後の異常な早期死亡率の高さや、真犯人の犯行動機(とその裏にいた可能性が高い黒幕)は未だ謎に包まれている…。



【劇場版】


2010年に東宝配給で公開された。脚本・監督は伊坂幸太郎とのベストマッチに定評のある中村義洋。
前述の通り原作再現度が高く、評価はかなり高い。
特筆すべきはロケがすべて舞台である仙台市内で行われているという点。これまでの伊坂幸太郎作品でも仙台をロケ地にしたものはあったが、なんと今回は全て仙台。これは『アヒルと鴨のコインロッカー』と同じ点である。
また郊外での撮影が多かった『アヒルと鴨のコインロッカー』に対し、本作は都市部を撮影に使っているため、否が応でも見たことがある場所が多い。


撮影にはせんだい・宮城フィルムコミッションや宮城県警、東日本放送など宮城県がほぼ全面協力している。特に東日本放送が関わっているということもあり、『KHBお天気情報』のBGM*3がさりげなく劇中で使われている。これにはニヤリとした宮城県民も多いのでは?


また本作の由来でもあるビートルズの『ゴールデンスランバー』も作中の挿入歌として度々使われている。特に花火打ち上げシーンでのこの曲は盛り上がりがすさまじく、
思わず劇場でゴオオオオオオルデエエエエエエエエンスラアアアアアアンバアアアアアアアイェイ!と叫びたくなったものも多いだろう。……多分。
花火をモロに食らって絶妙な角度とスピードで吹き飛ばされていく大串は決して笑いどころではない。


なお2011年3月12日にフジテレビの「土曜プレミアム」で地上波初公開される予定だった……がご存じの通りその前日、よりによって舞台である仙台を含めた地域を東日本大震災が襲い残念ながら放送はおじゃんになった。その後半年後の10月1日に改めて放送された。




以下、有名なロケ地


ヨドバシカメラ
仙台駅からほぼ直結した大型家電量販店。本作後向かい側への移転を経て、2023年にかつてと同じ場所に新ビルが建った。青柳がワンセグ付きPSPを買った場所。
なお青柳が利用したのは2階の中央カウンター。おそらく当時のこの店で一番使われていたであろうカウンターである。


◆藤崎
ラストシーンで青柳と樋口が再会した場所。
「おかげさまで200周年」がキャッチコピーの仙台老舗の高級デパート。
グルメ、ファッション、インテリア、お土産と高級なものは大体そろっている。たまにイベントコーナーでガンダム展がやっているなどとアニヲタ的にも見逃せないスポット。


◆仙台フォーラス
青柳と森田が待ち合わせをしていた場所。仙台アーケード街に直結している高級デパート。仙台に詳しい中村監督が「待ち合わせと言えばここでしょ」と言ったことで選ばれたらしい。
ちなみに藤崎とは目と鼻の先である。


◆定禅寺通り
総理大臣がパレードをしていた場所。
「杜の都・仙台」を体現した通りであり、青々としたさわやかな木々が生い茂っている。ここから西に進んでいくと、広瀬川や西公園などの自然を見ることができる。
ちなみにここも藤崎と目と鼻の先である。ついでに言うと勾当台公園とも近い。


◆卸町
キルオと警察が戦った街。
仙台は駅前を離れると閑散とするという法則通り、人通りも少なく良くも悪くも静かな所。ただ卸町では定期的に町内バーゲン祭をやっていたりと賑やかな時は賑やかで、2023年現在は地下鉄駅とイオンも立っている。
なお劇中に登場する交番は撮影のためにわざわざセットしたもの。
また仙台御用達のイベント会場ことサンフェスタがある。


◆仙台ロイヤルパークホテル
青柳が凛香に招待された場所。
ほぼ隣の市にあるというレベルの郊外にあり、緑が多い。しかし最近になってから結構開発が進められており、ホテルの隣にはプレミアムアウトレットがあり、少し北に進むと県図書館があるなどちょっと住むなら困らないだけの街ではある。強いて言うなら通行の便が悪い。


◆勾当台公園ステージ
青柳が最後の大勝負を仕掛けた場所。
駅から徒歩10分程度と行きやすく、休日には屋台が出されたりと賑わっている。ちなみにこのステージは所謂「大きめの公園によくある何に使われているのかよくわからない寂れた音楽堂」である。劇中に登場したマンホールは実際には存在しない。余談だがこの公園の裏は県庁である。青柳は早朝とはいえ、よくこの場所を選んだものである。




ゴールデンスランバーを歌いながら追記・修正をお願いします。

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  • 韓国でリメイクされた映画版もあるよね -- 名無しさん (2019-11-01 06:41:40)
  • ゴールデンスランバー(伊坂幸太郎)の方がいいかも。元ネタと被っちゃうし -- 名無しさん (2019-11-01 07:48:55)
  • 携帯投げるシーンが凄く好きだ -- 名無しさん (2019-11-01 07:54:50)
  • 青柳が逃走中に入ったファミレスはまだあって、民家も当時のまま残ってるので行くたびに映画を思い出す -- 名無しさん (2019-11-01 09:10:53)
  • 1回見たけどうろ覚えだし、TSUTAYAで借りてくっかぁ -- 名無しさん (2019-11-01 11:57:15)
  • バッテリー交換と「俺はやってない」のメモに対して「だと思った」の返しが印象的 -- 名無しさん (2019-11-02 15:46:56)
  • 記事に章ごとのタイトルがあるけどこれは一回変更されてて変更前の「事件から◯◯」で統一されてる方が好きだったな -- 名無しさん (2021-11-27 22:48:28)

#comment

*1 正確には2日と早朝
*2 1963年にアメリカのケネディ大統領を狙撃射殺したとされ逮捕されるも「嵌められた」と主張し、しかし移送中に別な人物に殺された「リー・ハーヴェイ・オズワルド」の事。首相が殺害時車に乗っていた事もケネディ大統領射殺事件から来ているものと思われる。
*3 おそらく宮城県民で聞いたことがない人間はいないのではないかというくらい有名なBGM

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