ルイス・キャロル

ページ名:ルイス_キャロル

登録日:2018/11/9 Fri 15:20:00
更新日:2024/03/26 Tue 11:30:43NEW!
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ルイス・キャロル(1832~1898)は、イギリスの作家・数学者・論理学者・写真家である。
この名前はペンネームで、本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン。


代表作『不思議の国のアリス』は、現代日本のアニヲタにも多大な影響を与えている作品である。



生涯


アイルランド系イギリス人であるドジソン家に1832年1月27日に誕生。
ドジソン家は代々「軍人か聖職者」というお堅い家系で、父は有名な聖職者だった。


幼少期から成績優秀な子供であったが、一方で吃音症にも苦しめられており、後にはてんかんの診断も受けている他、肺に持病を抱えるなど、生涯にわたって病弱であった。


1850年に、名門オックスフォード大学のクライスト・チャーチ・カレッジに入学(なお、この慶事の僅か2日後に母親が亡くなる)。
その2年後、弱冠20歳にして「特別研究生」という身分を手に入れる試験に合格。
これは生涯クライスト・チャーチ・カレッジの寮に住みながら、年俸を貰って好きな研究ができるという、なんとも羨ましいものだった。
もっとも、この身分はずっと独身でいることが条件というハードなものだったため、有資格者のほとんどは数年で結婚して資格を返上したが。


だがルイスは生涯この身分に留まり、当然結婚もしなかった。
この辺りが、後世ルイスが「非モテ」のように思われる一因となっているが、実際は後述するように結構女性との交際を楽しんでいた


1854年にはわずか23歳で教授の資格を獲得する。
そして1855年、もしかしたら生涯に最も影響を与えた人物と出会う。
クライスト・チャーチの学寮長をしていたヘンリー・リデルの娘のアリス・リデル(4歳)、およびその姉妹と母親たちである。


ルイスとリデル家の母子はやがて家族ぐるみの付き合いをするようになり、ルイスの趣味の写真のモデルになってもらったり、一緒にボート遊びをしたりするようになる。
そして1862年、アリスたちとボートで遊んでいた際に、当時10歳だったアリスにせがまれて即興で語り聞かせた話が、『不思議の国のアリス』の原型であるとされている。
ルイスはこの物語を清書するとともに挿絵も自筆して、1864年に『地下の国のアリス』というタイトルを付け、私家版(要するに同人誌)としてアリスにプレゼントした。
そしてこれに更に加筆・改変した上で、当時の人気画家ジョン・テニエルにも挿絵を依頼し1865年に商業出版したのが『不思議の国のアリス』である。


この本は発売と同時にベストセラーになり、現代まで読み継がれる児童文学の大傑作となった。
だが一方皮肉なことに、リデル家の人々とはこの頃には疎遠になっていた(これについては後述)。


40代以降のルイスは、元々の持病による繊弱さがさらに悪化したためか、内向的で引きこもりがちになり、さらに気難しくなっていったという。
後半生は詩と論理学の研究に注力するようになり、1896年には学者としての主著『記号論理学』を出版。
この続編の出版も計画するが果たせず、1898年1月14日に風邪をこじらせて死去する。66歳だった。



逸話


写真の腕前はプロ級で、ビクトリア朝における重要な写真家の一人に数えられている。


そのユーモア溢れる文学作品から受けるイメージからすると意外に思えるが、大学における彼の講義は、
学生がボイコット運動を計画するほどつまらなかったと言われている。


『不思議の国のアリス』を読んで気に入ったビクトリア女王が、「他の本も読みたい」とルイスに頼んだら、(恐らく『アリス』に関する作品を想定して言ったのだろう女王の意とは異なり)数学者として書いた数学の専門書『行列式初歩』が送られてきて困惑した、という有名な逸話がある……が、都市伝説のようで実は生前のルイス自身が否定している。
なお、ビクトリア女王には自身の次女をはじめ縁戚にも何人か「アリス」という名前の女子がいた。


42」という数が好きだったと言われており、「不思議の国のアリス」の規則42条や「スナーク狩り」の42個の箱、その他7×6という組み合わせが作品にみられる。


アリス・リデルは、ルイスとの交流が無くなった後で、今度は時のイギリス王子と、秘密の恋愛関係になるも身分差から結婚を諦め、28歳で治安判事と結婚し、82歳の天寿を全うした。
幼少期には世界的ベストセラーのモデルとなり、青春時代には王子と恋仲になるとは、凄まじいヒロイン力である。
余談ながら、『不思議の国のアリス』のアリスと言えばロングの金髪(にエプロンドレス)という姿が一般的だが、これはジョン・テニエルの挿絵(及びディズニーアニメとしての『ふしぎの国のアリス』)が生んだイメージで、実際の少女時代のアリス・リデルは黒髪の短髪である。

















ロリペド疑惑



さて、現在この人物のことを語るには、この疑惑について触れないわけにはいかないだろう。
すなわち、「ルイス・キャロルはロリコン、もしくはペドだった」という、根強いイメージである。


その根拠とされるのは、以下のような行動および後世の憶測である。



・少女のヌード写真やコスプレ作品を撮っていた。これはロリペドだった証拠だ。


ルイスが少女のヌード写真を撮影していたのは事実である。
が、これは当時のイギリスにおいては異常なことでもなんでもなかった


現在の感覚からするとヤバイ以外の何物でもないが、当時は少女の裸は「無垢・純粋の象徴」とされ、写真家の主な題材の一つだったのである。
このような写真を撮っていたのも、ルイスだけでは無い。


実際、ルイスは写真について「ふしだらだ」と非難を受けたことはある。
が、それは少女のヌード写真についてではなく妙齢の女性の水着姿や、露出度の高いコスプレ写真に対してである。
当時の価値観においては、そのような写真のほうがよっぽど不道徳的であり、逆に少女のヌードなどはふしだらなものでもなんでもなかったのである。


なお、ルイスの撮影した少女のヌード写真は、モデルの子孫らによって数枚が現存している。
コスプレ写真については、「ジプシーのコスプレをするアリス・リデル」の写真が有名。



・リデル家と不仲になったのは、ルイスがまだ年端も行かないアリスにプロポーズしたからである。


これも根強く残る主張である。
この根拠とされるのが、ルイスの日記の中の1863年6月のあるページが切り取られており、そのページを境に、それまでよく登場していた
アリスたちリデル家の人々が、ほとんど出てこなくなるからである。


よって、このページに何かルイスやその子孫にとって不都合なことが書かれていて、それがリデル家と疎遠になった理由ではないかと推測されている。
そして、「アリスとの結婚を、リデル夫人に申し込んで断られ、夫人に『二度とうちの娘たちに近づくな、このペド野郎!!』とでも言われたのではないか?」という憶測が自然と発生した。
当時は現在よりも適齢期は低かったが、この時点のアリスは11歳であり、流石に当時の基準から見ても若すぎる。



が、この憶測には、具体的な根拠は何もない
ルイスがロリペドだった根拠というよりは、「ルイスはロリペドだから、11歳の幼女に求婚したんじゃね?」と疑われているという話である。


現在では、むしろ可能性が高いのは、アリスではなくて姉のロリーナのほうに求婚して断られたというパターンではないかと言われている。
ロリーナは当時14歳であり、現在ではともかく、当時においては十分結婚適齢期である。
が、母親から「でも先生、結婚したら大学にいれなくなるんでしょう?」とでも言われて断られた、という展開である。


あるいは逆に、ルイスがロリーナとも将来のアリスとも結婚する気が無いことを知ったリデル夫人が、
このままルイスと仲良くしていたら娘たちが婚期を逃すと考えて、ルイスに距離を取るように要請したという説もある。


さらに極端な説では、ルイスの狙いはアリスでもロリーナでもなく、リデル夫人のほうだったという説すらある。
すなわち、ルイスとリデル夫人は不倫関係にあり、このことが表沙汰になるのを恐れて身を引いた、というわけだ。


これは流石に珍説の類だとしても、このエピソードがルイスがロリペドだったことを示すとは言えないのだ。



・不特定多数の少女たちと文通していた。けしからん。


これは一応事実であり、ルイスは知人の娘から、電車でたまたま知り合った見知らぬ少女まで、多数の14歳未満の少女と文通をしていた。
その手紙の多くが現存している。確かに下心があったと疑われてもおかしくはない趣味である。
また、これについては同時代人からもツッコまれており、実の妹のメアリーからも
「あんまり少女たちと親しくしてたら、世間からよからぬ噂を立てられるわよ」と忠告されている。
また、ルイスからの手紙を受け取った少女たちの親や教師が、ルイスに苦情を入れることもあったようだ。


だが、ここでも当時と現在との価値観の違いを考慮する必要がある。
先述した写真の件とも関連するが、この時代はどちらと言えば、
「年端も行かない少女たちと成人男性が仲良くする」よりも、「10代後半くらいの婚姻適齢期の女性と成人男性が仲良くする」ほうがよっぽどヤバかった


後者もロリペド的な意味で非難されるというよりは、「妙齢のお嬢さんを、結婚する気もない癖に弄ぶなんて」という意味合いでの非難である。
上記の妹や親たちの懸念も、どちらかというとこの観点から、すなわち
「何年かして子供が適齢期になったら、よからぬことをするつもりなんじゃないのか。それで婚期を逃したらどうするのか」という意味合いのものだったようだ。


逆に前者の場合は、むしろ「微笑ましい光景」として受け取られ、よほどのことが無ければ問題にはならなかったようだ。


また、ルイスが少女に宛てて送ったとされる手紙の中のかなりのものは、実際には成人した女性に対して送ったもので、
他人に見られても言い逃れできるように、まるで少女に宛てて書いているかのような文面を装っていたという説もある。



なお、ルイスが少女に送った手紙は数多く残っているが、「少年」に対して送った手紙は一通しか現存していない。
それも、手紙の中に「君にはお姉さんか妹さんはいますか?」という一文があるため、
後世の研究者からも狙いが見え見えだぜとツッコまれている。


ここから、「単なる子供好きな気のいいおじちゃん」と解釈するには無理があるとも言われるが、手紙を受け取ったのが少年だった場合、
ちゃんと保管せずに捨ててしまっていたという可能性も無くはない。




以上のように、ロリペド疑惑の根拠とされるものは、いずれも根拠としては弱く、現在の研究では「少なくともペドではない。おそらくロリコンとすらも言えない」という見解が主流である。


なお、「ルイスは少女だけが好きで、成人女性とは縁が無かった」と言われることも多いが、これは明らかな間違いである。
実際には前述したように、生涯で交際関係もしくはかなり親しい関係にあった女性は、決して少なくなかったことが分かっている。
「ひどい吃音症だったが、少女と話す時だけは吃音が出なかった」と言われることもあるが、これも根拠がない。


「吃音症で気難しく、大人の世界とは交流を持たず、子供たちとだけ親しむ非モテ」という典型的なルイス・キャロル像は後世に作られたもの。
実際には、少なくとも健康状態が悪化する前半生までは「女性を含めて、多くの人と親しく交際するリア充」といったほうが実像に近いようだ。


このようなルイス像が生まれたのは、一説にはルイスの子孫によって、ルイスと成人女性との交際の記録が隠蔽されてきたからだと言われている。
前述のようにこの時代、特に聖職者でもあったルイスにとっては、少女との交際よりも成人女性との交際のほうがスキャンダルになりえた。
そこで成人女性との交際の記録をできる限り隠す一方で、少女との交際の記録はそのまま残した。
このため、後世から見るとまるで少女としか交際していないように見えてしまうようになったというわけだ。



結論として、ルイスは「少女好き」というよりは、どちらかというと「女好き」と言ったほうが正しいだろう。




代表作


  • 『不思議の国のアリス』

説明不要の代表作。近代の小説では、最も多くの言語に翻訳されている作品である。
特に主人公の「アリス」は多くのキャラクターのモチーフになっており、現代のサブカルチャーに与えている影響は計り知れない。
ディズニー版の『ふしぎの国のアリス』を始め、関連作多数。



  • 『鏡の国のアリス』

『不思議の国のアリス』の続編。
元が即興の話だったからか、いい意味で行き当たりばったりだった前作とは異なり、
世界観が緻密に構成されており、前作とは結構雰囲気の異なる作品である。



  • 『スナーク狩り』

「鏡の中のアリス」における「ジャバウォックの詩」のような技法が援用された、4行節で構成された全8章のナンセンスな物語詩。
上二つより以上に分けが分からないがとりあえず「スナークはブージャムだった」らしい。
なるほどわからん。


  • 『亀がアキレスに言ったこと』

論理学者としての代表的な論文。「ルイス・キャロルのパラドクス」が言及されていることで有名。
このパラドクスは、簡単に言うと以下のようなもの。


教師「前提Aが正しい。前提Bも正しい。よって、AとBから結論Zが得られる」
生徒「先生、その結論を言うには、『前提AとBが正しければ、結論Zが正しい』という前提Cが無ければダメじゃないですか?」
教師「よろしい。ならば、前提A、B、Cがいずれも正しいので、結論Zが得られる」
生徒「先生、その結論を言うには、『前提AとBとCが正しければ、結論Zが正しい』という前提Dが無ければダメじゃないですか?」
教師「よろしい。ならば……」


以下、無限ループ



サブカルチャーにおけるルイス・キャロル作品


あらゆる媒体で非常に高い人気を誇る。
作品そのものが『不思議の国のアリス』をモチーフにしていることも珍しくない。
キャラのみが出張したり、用語が使われたりすることも多く、「金髪に青いエプロンドレス」という出で立ちや「ウサギトランプ、薔薇、紅茶」のモチーフとくれば一発で「アリス」とわかるほどである。







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  • 当時と今の価値観の違いで見方が変わるかー。当たり前だけど気にしたことなかった、記事立て主ありがとう -- 名無しさん (2018-11-09 15:31:13)
  • アリス・ミラーという紛らわしい名前の心理学研究者が居たりする  ちなみに彼女は幼児虐待に関連する本を出している -- 名無しさん (2018-11-09 15:33:16)
  • 建て乙! かなり詳細で良い記事だと思います、日本だとキャロル=ロリコンなので。 -- 名無しさん (2018-11-09 16:36:52)
  • FGOでエレナ・ブラヴァツキーが急にドジソンなんて名前出して「誰?」と思ったけどルイス・キャロルのことだったのな。 -- 名無しさん (2018-11-09 18:23:39)
  • モデルのアリスの写真見た時は驚いた。ディズニーのイメージが強すぎて金髪碧眼だと思ってた -- 名無しさん (2018-11-09 20:52:44)
  • ハンプティ・ダンプティ「7歳と6か月か!どうも中途半端な年齢だ。わしのところに相談にきてお れば『7歳でやめとけ』と忠告したところだ--もう手遅れだが。」 この辺りもロリコン説の根拠扱いされてるなw -- 名無しさん (2018-11-09 23:58:36)
  • ↑2 当時の挿絵描きに「アリスのイメージと違うんだけど」と文句つけたという逸話があるそうな。本当かは知らんが「コレジャナイ」とは思っただろうな。 -- 名無しさん (2018-11-10 07:26:05)
  • 挿絵ガチャでSSR引いたけど挿絵のイメージに引っ張られすぎたでござるの巻って感じか -- 名無しさん (2018-11-10 07:39:43)
  • この作品に関して言うんなら挿絵ガチャはRでもSRでも関係なかっただろ、単に最初がテニエルだったから有名になった。挿絵の力が無いとは言わないが、物語の凄さがあってこそ大ヒットしたんだし -- 名無しさん (2018-11-10 07:45:31)
  • 水島努はこの作品のファンでローズヒップのキャラデザにこの時の挿絵をイメージとして支持してる -- 名無しさん (2018-11-10 08:12:28)
  • 数学者としての説明がほとんど書かれてないな、不思議の国のアリスも当時の彼の数学思想が見れて面白いのに -- 名無しさん (2018-11-11 17:05:07)
  • ↑ ぜひ追記を… -- 名無しさん (2018-11-12 09:42:36)
  • 記事の半分くらいが「ルイスキャロルはロリコンのペド野郎じゃない」ことについて書かれているのは草 -- 名無しさん (2020-12-10 16:25:57)
  • 華やかな前半生とキャリアからは想像も付かない寂しい晩年を送ったのね。 -- 名無しさん (2021-05-01 16:41:52)

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