友情の杯

ページ名:友情の杯

登録日:2016/07/15 (金) 01:09:39
更新日:2024/01/25 Thu 13:52:22NEW!
所要時間:約 5 分で読めます



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星新一 小説 短編小説 短編 ショートショート 友情 後悔 友情の杯






もはや、思い残すこともないのだよ。

ただ一つのことを除いて……





【概要】



「友情の杯」とは、星新一による短編小説である。
『日本掌編小説秀作選 下 花・暦篇』『マイ国家(新潮文庫)』などにSSとして収録されている。


長年の友情は嘘なのか?本当なのか?
ラストの結末が読者の想像に委ねられたタイプの作品であり、最後に真実を知った老人の心境は……。


そして真実が分からないとはいえ、老人がどの結末であろうと抱いた唯一の感情を考察すると苦々しい作品にもなる。



【あらすじ】



かなりの財産家の老人が入院していた。


この老人はもう死期が間近で、最後の願いとして入院時に所持してきた古い瓶に入ったお酒を飲みたいという。
看護婦は老人の体を考えて要求に否定的だったが、彼のあまりに熱心な態度に応答しかねる。
仕方なく看護婦は担当医の元へと相談に向かい、一杯だけ飲むことが許可された。


そしてその酒を他人に一滴も飲ませたくないかのように、注がなかった残りの分は捨てさせて瓶も洗浄させる。
老人の妙な要求に、この洋酒に何か事情があることを察する看護婦。
飲む準備を済ませた老人は、この洋酒にまつわる事情を語りだす。


この酒は、老人が過去に結婚祝いとして友人から送られた物らしいが、ある疑惑が消えずにいた……



【主な登場人物】



老人


この物語の中心人物。


病院の立派な個室に一人入院しており、さらに看護婦が一日中付き添っている。
このような入院ができるほどの財産家であり、正体は大手の薬品会社の社長らしい。


順風満帆な人生を歩んでおり、実績も名前も世の中に知れ渡った人物でもある。
そのためか、自分の死期が近い状態でも未練がましい様子はなく大人しかった模様。


そんな彼は、付き添いの看護婦に人生最後の頼みを要求する。
そのお願いは、入院時に持ち込んできた古い洋酒を飲ませて欲しいという簡素な願いだった。
老人曰く、結構長生きして思い残すことのない自分が最後にやり残したことらしい。


一杯だけ飲んでも良いという許可が下された後は、嬉しそうな表情を見せる。
しかし、洋酒は注いだ分以外は捨てるように要求し、瓶の中も洗浄させるという謎の頼み事を行う。
この謎の行為にこの酒に関する秘密を察した看護婦に対し、老人はこの洋酒にまつわる話を語りだす。


かつて老人の若い頃、会社に入社したばかりの新人時代にライバル的存在の友人がいた。
若さの為にお互い意識しあい、仕事に関してだけでなく創立者の娘に関する恋の戦いも繰り広げた。
創立者はライバルを買っていたようだが、娘は老人に好意を見せた。


その結果老人が勝利をおさめるが、友人は精神的に思いつめた姿を見せてくる。
ところが、友人は会社を辞めないどころか、ある日家を訪ねて婚約祝いの酒を渡される。それが老人が今回飲む酒である。
それ以降は老人と友人は和解し、それどころか友人は人が変わって老人に大きく貢献する働きを見せる。


だが、老人はあまりにも変貌しすぎた彼の性格に懐疑心を抱く。
友人が製薬会社の人間であることなどから、婚約祝いの酒に毒薬が含まれている可能性を考え、酒を飲まなかった。


とはいえ、製薬会社に勤めていたのは老人も同じこと。
モルモットや試薬を利用して毒入りかを調べられたが……。



看護婦


個室で入院する老人につきっきりで世話をしていた看護婦。


物語冒頭で、老人に最後の頼み事を聞かされる。
『最後』という言い方に注意しながら老人を励まそうとするが、その気持ちを察しられていたことで何も答えられなかった。


最後の願いは酒を飲ませてくれという内容だったので、当初は止めさせようとするが老人の熱意に負けて担当医の元へと相談に向かう。
そして、一杯ぐらいだったらと許可を下した*1
異様に酒に拘る老人に何らかの事情があることを察し、そこから老人の酒にまつわる過去話を聞かされる。


作中の様子から、なかなか考察力が高いと思わしき描写がある。
また、男性の友情を「さっぱりとしていて、強くて」と憧れているような描写もある。



友人


老人が若き時代にライバルとして戦った友人。


物語開始以前に、既に亡き人となっているようだ。
仕事や創立者の娘を巡って競争し、お互い強く意識した関係だったらしい。
会社の創設者は友人の能力を買っていたようだが、娘は老人に好意を抱いたことが決定打となり、敗れ去った。


その際には気が抜けて思いつめた様子となり、目つきもおかしくなったらしい、
しかし、老人曰く他の会社でも十分活躍できたにも関わらず会社を辞めなかったようだ。
それどころか、ある日には老人の家を訪ねて婚約祝いの洋酒を彼に渡す。


その日を境目に、彼は人が変わったように老人を持ち上げ続け、目覚ましい努力を見せた。
老人が言うには、製薬会社が大きく発展したのはこの友人の働きが大きいらしい。


ところが、急激な性格の変貌や職業の都合から、婚姻祝いの酒に毒を入れた疑惑を老人に抱かれる。



【ストーリーの結末(ネタバレ注意!)】







毒入り疑惑の酒とモルモットでその毒を調べられるという老人の話を聞き、毒の真相を知りたがる看護婦。


そこで老人は即答せずに話をずらし、毒を入れた当人の気持ちを聞き出す。
看護婦は、老人が死ななかったのだから計画が発覚したのだと気がつくはず。
そうなると逃げ出すはずだが、すぐに手配される。
だから、覚悟を決めるかそれともどんな目に合うかとビクビクし続けるのか……と想像を口にし出す。


その彼女の想像を、老人はもどかしそうに引き継いだ。
言ってしまえば、老人が生きている以上相手は殺人計画の証拠を渡した形となるのだ。
相手はこうなると老人に弱みを握られたために一生老人の為に働く始末である。


看護婦はこの話を聞いて、殺人計画はいけないがどんな人生だったんだと同情し始める。
こんな残酷な人生はないと語り、事業で成功した老人である以上本当にこのような目に合わせたんだろうと老人を非難する鋭い目つきとなる。


しかし、老人は首を振りながら断定されては困ると口にした。
看護婦にモルモットで調べられるとは口にしていたものの、実は真相を調べていなかったのだ。
当の友人は数年前に死んでいるし、この酒に関する話も友人とは生涯会話を交わさなかった。


看護婦は調べてみる気はと問うが、老人は大変な賭けだと即答する。
調べれば友人が本当に真の友情の持ち主か、それとも憎悪に燃える人間なのか簡単に結論が出る。


その結論を知る勇気が老人にはなかった。


前者の場合であれば、老人は友人の崇高な人格の前で恥続けることとなる。
そうなれば、とてもでないが老人は一緒に仕事をする気が起きなかった。
後者であれば、老人は友人を許すことなく一生こき使い続け、彼が死んでも許さなかったはずだと。


こうなった時、あなたならどうすると看護婦に問う老人だが、看護婦は返答のしようがない。


それを見てやはり迷う、私もそうだったと語り始める老人。
迷い続けて分からないまま、いや、分からないからこそ親友として一生付き合えたんじゃないかと。
ある時は彼を尊敬し、ある時は彼を嘲笑い、そんな交錯の中で別れることなく付き合い続けてきた。


他人から見て、両者の友情は唯一無二の関係に見えたはずだ。
ところが、そんな友情関係にすらこんな事情がある物なのだと。
もしくは、友情なんて本来はこんなものなのかもしれないと。


でも、わからずじまいというのもと口にし出す看護婦だが、老人は即座に否定する。



わからずじまいではない。

友情のきずなともいうべきその酒を、いま、私が口にした。

まもなく答えがわかるだろう……



老人は舌の先でグラスをなめていた。
その光景に看護婦はどう扱ったものかすぐに分からず、黙って立ち続けていた。


そのうち、老人は苦しそうな様子になった。
看護婦の連絡で担当の医師が駆けつけてきて老人に気分の様子を問う。
だが、老人は何も聞かないでくれと口にした。
いつもは医師に協力的な老人だったが、今は答えることを頑なに拒んだ。



病気の発作なのだろうか。
酒のアルコール分がやはりいけなかったのか。
謎の回答を知ってしまったことで悪いショックを受けたのだろうか。
それとも、酒に含まれていた成分が原因なのだろうか。



どれもが考えられるが、老人は他人に知られたくないようだった。
友情の答えは、自分の心に秘めてあの世に持ち去ろうかとするように……。


医者はどう手当てして良いのか分からず、躊躇ってから注射を打った。
しかし、その効き目はなく老人の息遣いは弱くなっていった。
看護婦は顔を近づけ、老人の表情から何かを読み取ろうと試みた。



だが、それはあまりにも複雑で、まだ若い彼女には手に余る物だった。









それは大変な賭けだよ。
編集者が真の追記・修正心の持ち主なのか、荒らしへの憎悪に燃えた人間なのか。
すぐに答えが出てしまう。


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  • タイトル見た瞬間に思い出せた。星新一の話の中でも5本指に入るくらい好きな話だ -- 名無しさん (2016-07-15 01:32:56)
  • どちらに転んでも、老人にとって苦い記憶にしかならない。……救いとして、酒が美味かったことを願いたい -- 名無しさん (2016-07-15 02:59:01)
  • 只管に苦々しい話だなぁ -- 名無しさん (2016-07-15 09:21:24)
  • 状況的に毒を入れることができたのは看護婦さん、アンタだけだ。さらに酒を捨てボルトも洗浄し、証拠を隠滅している・・・ -- 名無しさん (2016-07-15 09:42:42)
  • 英語にすればフレンドシップカップ……シティは一つ、みんな友達! -- 名無しさん (2016-07-15 14:32:00)

#comment

*1 許可が下った理由は、一杯だけなら本当に平気なのか、もう最期を迎えるから好きなことをさせてやるというどちらの方針によっての判断なのかは曖昧にされている。

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コメント

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