登録日:2013/10/29(火) 04:22:58
更新日:2023/12/04 Mon 13:50:00NEW!
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火山 歴史 人類滅亡 氷河期 服 シラミ 理論 大噴火 トバ・カタストロフ トバ・カタストロフ理論
人類滅亡をテーマにした作品と言うのは、昔から数多く存在する。
大洪水によって全ての文明が押し流されると言う『ノアの箱舟』伝説や、神々の最終戦争『ラグナロク』など古くから伝わる話から、昨今のアニメや漫画、小説などで見られる、環境破壊や核戦争による人類の消滅、なども挙げられるだろう。中には野球選手によって地球が滅亡するなんて言う話もあるようだが……。
現実に起こりうる可能性を見せつけた物から色々な寓話や皮肉を混ぜた物まで、私たち地球人類がこの世界から姿を消す、と言うものは恐ろしくも様々な想像力をかきたてる題材とされてきた。
だが、今から数万年も昔、私たち人類――「ホモ・サピエンス」が本当にこの地球から姿を消しかけたのを皆様はご存じだろうか。
専門用語で「トバ・カタストロフ理論」または「トバ事変」と呼ばれるこの大事件を引き起こしたのは、たった一度の火山の噴火だった。
目次
◆概要
「大量絶滅」と言う単語を聞くと、隕石を思い浮かべる人は多いかもしれない。かつて恐竜を絶滅させたのも、今では宇宙から降ってきた巨大隕石が最大の原因であると言う説が主流になっている。
だが、それと同じ……いやそれ以上に凄まじい被害を地球の生物に及ぼしているのは、母なる星であるはずの地球の活動そのものである。現に、これまでの地球生物が経験した最大の大量絶滅の要因は、地球内部の活動が原因であるという考えが有力視されているのだ。
そして、遥か昔に起きた人類最大の危機もまた、地球の活動が原因となった。
東南アジアを代表する国「インドネシア」のスマトラ島に、『トバ湖』と言う巨大な湖がある。中央に大きな島「サモシール島」が陣取っているのが特徴的なこの湖は、火山の活動によって生まれたカルデラ湖の中では世界最大級と言われ、その面積は1,000k㎡にも及ぶ。
そして、この湖の近くには大陸プレートの境である『スマトラ断層』が通っている事が知られている。外からは巨大な谷のように見えるこの境目は、地下の奥深くで巨大な空洞を作っており、その中には桁はずれの量のマグマが蓄えられていると推測されている。
そう、琵琶湖よりも遥かに広いこの湖は、超巨大な火山でもあるのだ。
しかも、ただ大きいだけでは無い。あまりに大量のマグマが蓄積されていると言う事は、一度でも噴火すれば、とんでもない規模になると言う事にもなるのだ。噴火を越えた超巨大噴火、俗に「破局噴火」とも言う。
知られている限り、このトバ湖……いや、巨大な火山の証『トバカルデラ』が破局噴火を起こしたのは三度あった。
一度目は84万年前。500km³と言う凄まじい量のマグマが噴出されたと言われている。この時点で、日本最大の火山噴火と言われる9万年前の阿蘇山の噴火を超える規模となっている。
二度目は50万年前。この時は1度目よりも少ないが、それでも60km³と言う大量のマグマが吹きだした。
そして、人類を滅亡の危機に陥れた三度目の噴火が起きたのは、今から7万4千年前と言われている。
◆トバ・カタストロフ
この三度目の大噴火で地球の中から溢れ出たマグマの量はおよそ2500km³、火山灰など溢れ出た噴出物の容量は1000km³と推測されている。これは、現在人類が確認している火山の噴火の中でも、世界最大の規模である。
その規模を物語るのは、世界各地の地層に残された火山灰である。ベンガル湾を挟んだインドやパキスタン、東アジアである中国はおろか、遥か遠く離れたグリーンランドの氷の中まで、どれも7万4000年前付近の地層や氷のコアの部分に火山灰が検出されているのである。
この途轍もない大噴火の影響は甚大だった。
大量の火山灰は大気を覆い、地球にもたらされるはずの陽の光をさえぎり続けた。その結果、暖かかった地球の気温は一気に5度も下がってしまい、その状態は6千年も続いたと言う。しかもその後も爪跡は癒えず、そのまま地球は最後の氷河期へと突入していった。
……そして、人類への影響――『トバ・カタストロフ』も、計り知れないものになった。
◆人類への影響
トバカルデラの大噴火まで、地球には私たち現代の人類「ホモ・サピエンス」以外にも、ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)、デニソワ人、そしてジャワ原人や北京原人のような原人たち(ホモ・エレクトゥス、ホモ・エルガステル)などが生息していた。当時は「人種」では無く、世界各地に数多くの「種類」の人類が住んでいたのである。だが、その様相は大噴火で一変した。寒冷化による地球環境の大異変によって、所謂「原人」と呼ばれる人類の種類は絶滅。残されたのは、ホモ・サピエンス以外には、ネアンデルタール人とデニソワ人のみとなってしまった。
そして、我々ホモ・サピエンスも、大変な危機に直面していた。
所謂「ミトコンドリア・イブ」から始まったホモ・サピエンスは、その後着実に人口を増やし、干ばつなどの食料不足にもめげずに少しづつ勢力を広め続けた。だが、この大噴火によってその大部分が死滅し、多く見積もっても2万人、最悪の想定では2000人しか生き残る事が出来なかったと言われている。
数字だけ見れば結構大きいかもしれないが、大きなコンサートホールに収容できてしまうだけの人数が、7万4千年前に必死に生き続けてきた、地球上のホモ・サピエンスの総人口なのである……。
◆その後の人類
しかし、この最大の危機を何とか人類は乗り切り、その後に訪れた最後の氷河期にもめげることなく、故郷であるアフリカ大陸を飛びだして世界各地にその勢力を広めていった。総人口も時代を経るごとに増えて行き、現在はおよそ70億人とも言われるほど、地球には大量の人類が暮らしている。
とは言え、そんな現在でも、トバ・カタストロフが引き起こした影響、そしてそんな事が起きたと言う証拠は様々な場所にしっかりと残されている。
・服の誕生、シラミの進化
現在皆様が当たり前のように着ている衣類。中には着ない方が好きと言う人もいるようだが、実はそれが生まれたきっかけが、このトバ・カタストロフであったと言われている。その証拠として挙げられるのは、なんと人間の厄介な寄生虫であるシラミである。
現在、人間に寄生する「ヒトジラミ」は、大きく分けて頭に寄生する「アタマジラミ」と、服にお邪魔する「コロモジラミ」と言う二つの亜種に分かれている事が知られている。近年、それらの遺伝子を調べて行く過程で、ヒトジラミが二つに分かれたのはおよそ7万年前である事が判明した。そう、トバ・カタストロフが起きた時期とほぼ同一なのである。
それを踏まえ、科学者は『服』という文化が誕生したのがこの時期ではないかと推測している。気温が一気に下がり、その後も長い冬の時代が続く中、寒さを凌ぐために人々は体に布を纏う事を覚えた、と言う訳だ。この発明がどれほど役に立っているかは、もはや言うまでも無いだろう。
……ただし、どさくさに紛れて一部のアタマジラミが頭からお引越しし、服に移って「コロモジラミ」に進化してしまうと言う厄介な事態も引き起こしてしまったが。
・ピロリ菌の多様性
「服」の発明を経て、人類は世界中に飛び出していった。手始めにアフリカ大陸に近いアラビア半島やインド、そしてインドネシアやオーストラリアと続き、やがてヨーロッパや南北アメリカ大陸にも勢力を広げ続けて行った。その拡散がトバ・カタストロフの後に起きたと言う証拠として挙げられるのは、こちらも非常に厄介な胃の中の暴れ者である「ピロリ菌」である。
ガンを引き起こしてしまうこの恐るべき細菌だが、その遺伝子を調べて行くと、丁度アフリカの東部辺りでその多様性は減少する事が判明した。つまり、その場所こそがピロリ菌、そして彼らが住みついている私たち人類の故郷と言う事になるのだが、ここから多様性が大きくなっていった時期は、少なくとも5万8千年前以降である事が分かっている。
……ただ、この大事件の一番大きな証拠を抱えているのは、他ならぬ私たち人類そのものである。
・ボトルネック効果
現在、地球上には非常に様々な「人種」が存在している。黄色人種や黒人、白人など、その外見は実に様々である。しかし、宗教や偏見などの垣根を飛び越えれば、世界中どんな人とも結婚し、赤ちゃんを作る事が可能である事は、皆様も知っての通りである。
……ただ、これを生物学的に考えると、人類――ホモ・サピエンスと言う種類の生物は『多様性が非常に低い生物』と言う事になる。外見に色々と違いがあるじゃないかと考える人もいるかもしれないが、あくまでそれは僅かな遺伝子の差にすぎず、子孫を残す事に対する支障には何らなっていないのだ。
そして、この大きな要因として、トバ・カタストロフが挙げられている。僅か数千、数万人の生き残りに刻まれた遺伝子の情報が、現在の70億人の人類全てに受け継がれたと言う訳だ。
このように、遺伝子の多様性が急激に低くなっている現象を、生物用語で『ボトルネック効果』と呼ぶ。
◆まとめ……?
この最後の大噴火を最後に、トバカルデラは活動を休止し、噴火の後は現在のトバ湖となっている。
そして、ここまで凄まじい規模の火山の噴火も、現在の地球では確認されていない……
……そう、現在では。
インドネシアから遠く離れた、アメリカ合衆国のイエローストーン国立公園。今、そこで異変が起き始めている。
トバ・カタストロフよりずっと昔となる210万年前、この場所でトバカルデラと同じくらいの破局噴火、つまり世界最大規模の火山の噴火が起きた事が判明している。その後も数度に渡って破局噴火が続き、小規模な活動も7万年前まで続いていた。現在はその動きは静かになっており、アメリカの国立公園に指定されて多数の観光客が訪れる場所となっていた……はずなのだが、近年になって次々に危険な兆候が見られ始めている。地震が頻発し、公園全体が10cm以上も浮きあがり、高温で池が干上がり、地面から噴き出る蒸気の勢いも強まっていると言うのだ。
実は、イエローストーン国立公園の地下には、なんと9000km³と言う凄まじい規模のマグマの溜まり場が存在している事が確認されている。しかも、これまでの研究によると、破局噴火の周期はおよそ60万年と推定されている。最後の破局噴火が起こったのは64万年前であり、既にサイクルから4万年も経過していると言う訳である。
つまり、今のイエローストーンは、いつ破局噴火を起こしてもおかしくないのだ。
もしそのような事態が生じた場合、間違いなくイエローストーンは吹っ飛び、完全に崩壊するとされている。
そして、吹きあがった大量の火山灰によって地球環境は激変。アメリカ合衆国の4分の3の土地の環境が変わり、地球の気温は10度も下がり、そして「冬」は最短でも6年、最大でも10年は続くと言われているのである。
……私たちが自ら過ちを犯さずとも、地球人類絶滅の危機は、再び刻一刻と迫っているのかもしれない。
この世の終わりが来た時も一人で生き残れる自信のある人、追記・修正お願いします。
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▷ コメント欄
- 噴火の冬そのものよりも、それによって引き起こされる経済恐慌や政情不安による戦乱で、より多くの人命が失われるだろう。例えば中共なんかは間違い無くドサクサに紛れて周辺国を侵略するだろうし。 -- 名無しさん (2013-10-29 08:00:20)
- ↑そうなったら今度こそ人類のシラミならぬダニは一匹残らずカタストロフしないとねwww
-- 名無しさん (2013-10-29 08:21:28) - 引き起こされる被害を真面目に考えてみる。
・世界の穀倉地帯である北米が火山灰で大きなダメージを受ける事で食糧難が発生。
・変電所に詰まる等して送電網が壊滅する。
・ジェットエンジンを焼け付かせてしまう為、航空機は使用不能に。
・水を吸うとコンクリートの様に固まり上下水道共に全滅。
・インフラの壊滅に伴い経済混乱に陥り、世界恐慌が引き起こされる。
・株価は当然暴落。
・原油価格は需要増と経済不安から暴騰。
日本の様に資源・エネルギー・食料の自給率の低い国にはかなりの痛手になるのは間違い無いな。 -- 名無しさん (2013-10-29 17:58:09) - リアルボルケーノ… -- 松永さん (2013-10-29 18:11:23)
- 量なのにメートルで表してるのは何故? -- 名無しさん (2013-10-29 18:15:45)
- ↑3 その前に、噴火による地震で、核兵器の制御システムが誤作動して、ミサイル発射、なんてことにはならないだろうか・・・; -- 名無しさん (2013-10-29 19:15:28)
- ↑誤発射は有り得ない。
ただしソ連崩壊後みたいに、食うに困った軍人が核を売りさばいたりして核拡散の恐れはあるだろうね。もし核が撃たれるとしたら、そうして流出した物が核テロリズムに利用された時だろう。 -- 名無しさん (2013-10-29 19:20:28) - ↑3 立方メートル -- 名無しさん (2013-10-29 19:21:54)
- ↑それは安心; でも、それでなくてもそんな破滅噴火が起きたら、↑6みたいに、人類存亡の危機になるのは間違いなさそうだけど; アメリカ政府はこれに対する対策は立ててるんだろうか; -- 名無しさん (2013-10-29 19:26:06)
- この記事こわすぎィ! -- 名無しさん (2013-10-29 19:35:32)
- ↑3 あ、携帯だから3が見えてなかったのか。感謝 -- 名無しさん (2013-10-29 20:16:51)
- 日本も富士や阿蘇が予測可能な最大級の噴火を起こした場合、数十年規模で住めなくなる可能性があります(本当)少なくとも江戸期以降に起きてないだけです -- 名無しさん (2014-04-10 01:21:53)
- ガンダムXの100億→1億なみだな -- 名無しさん (2014-09-03 18:34:05)
- 学者たちは、『小規模な噴火があちこちで起こるだろうから、破局噴火はまず起こらないだろう』みたいなこと言ってるけど、ほんとなのかな?どうだろう。 -- 名無しさん (2015-07-14 17:52:50)
- それと、1レス。もし起こったら、中国も被害受けるだろうから、侵略するどころではないのでは? -- 名無しさん (2015-07-14 17:54:26)
- まあ身も蓋もないこと言うと「いつどうやって滅びるか」でしかないからなあ。それが今であって欲しくないのは当然だが。 -- 名無しさん (2016-12-24 14:08:35)
- ◆人類への影響 の所の 「ミトコンドリアイヴから始まったホモサピ」って表現は微妙に誤り。恐らくそれまで多数のホモサピが居たが、イヴ以外の子孫グループやイヴの子孫でも偶然生き残った以外のグループは全てカタストロフで滅んだと言う事 -- 名無しさん (2017-03-13 23:29:12)
- ↑微訂正、カタストロフで滅んだと言うのが正しいだろう。イヴ以外の子孫グループが本当に当時居たかは実際知らんが -- 名無しさん (2017-03-13 23:33:10)
- 核兵器の制御システムが誤作動して>冷戦時代ロシアの自動反撃システムではモスクワからの「生きてますよー」定時連絡がなければ自動発射するという、誤作動じゃないけどそれってどうなのよなシステムがあった -- 名無しさん (2017-12-17 17:06:24)
- 何となくイエローストーンという言葉が入ると某財団の影響で深刻な気がしてくる...実際深刻なんだけど -- 名無しさん (2020-02-29 00:41:12)
- そのイエローストーンに故障中とはいえSCP-2000があるのってどうなんだろうと まぁ向こうにとって外宇宙であるこちらには関係しなさそうだけど -- 名無しさん (2020-04-26 00:25:14)
- ↑「人海戦術式世界やり直しマシーン」という都合上、膨大なエネルギーと(人間を作るための)材料が必要になる→手っ取り早く材料を集められる&待機時の補助電源の地熱発電使い放題っていう点でイエローストーン公園に設置されたんじゃないか? -- 名無しさん (2020-04-26 13:46:24)
- 実際イエローストーンが噴火してSCP2000が消し飛んだ事例があるよ 噴火させたの財団だけど -- 名無しさん (2020-04-28 12:09:04)
- 7万4000年前にホモサピエンスは死滅しており、SCP-2000により生み出された2000人のホモサピエンスが以後の文明を築いた。とかな。現人類のミトコンドリア・イヴとはSCP-2000の事だったのだ! -- 名無しさん (2020-04-28 19:56:33)
- 違反コメントを削除しました -- 名無しさん (2020-05-05 06:15:34)
- 最悪の想定では2000人しか生き残る事が出来なかったと言われている。←俺にもこうして生き残った強靭強運な先祖の血が流れているのか、嬉しいなあ(楽観) -- 名無しさん (2020-12-21 23:47:30)
- 賭場で破産するのを揶揄った造語か何かかと思ってページ開いたら全く違った -- 名無しさん (2020-12-23 10:54:19)
- まあ、トバ火山の噴火間隔見ればわかるように、周期といっても10万年くらいは誤差の範疇だ。俺らが生きてる間に噴火する確率はそこまで高くないし、またそれでも噴火してしまった場合できる対策はほぼほぼない。気にしても仕方ない。 -- 名無しさん (2023-01-05 22:30:07)
- 上でも指摘があるが、人類はミトコンドリアイブから始まったのではなくたまたまその母系だけが生き残ったに過ぎない 「イブ」という表現が誤解を与えるので最近はラッキーマザーとも言う -- 名無しさん (2023-01-15 00:33:48)
- ↑2 現代だと事故や病気で死ぬ方が遥かに可能性が高いしな。宝くじに当たるより難しい確立なのは確か。 -- 名無しさん (2023-07-03 07:00:58)
- 10万年以内に噴火し、現在の新生児が100年生きると仮定すると, -- 名無しさん (2023-07-29 15:37:45)
- 生きているうちに噴火する確率は0.1%になる。ま、大雑把に見積もった結果だから一桁ぐらい変わるかもしれないが、一等よりは高確率だね。 -- 名無しさん (2023-07-29 15:43:32)
- 2021年度の年末ジャンボを調べたら4等(5万円)で0.01%だった。意外と噴火の確率は高いのか? -- 名無しさん (2023-07-29 15:51:23)
- イエローストーンによるアメリカの滅亡!世界は我々中国共産党のものだ!!! -- 名無しさん (2023-11-01 23:53:31)
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