登録日:2023/07/11 (火) 03:03:50
更新日:2024/07/09 Tue 13:55:03NEW!
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f1 モータースポーツ カナダ マクラーレン・メルセデス セバスチャン・ベッテル 小林可夢偉 カナダグランプリ 史上最長 ジェンソン・バトン 2011年カナダグランプリ
2011年F1カナダグランプリとは、2011年F1世界選手権の第7戦として開催されたグランプリである。
開始から終了に至るまで雨に翻弄され続けた「史上最長のグランプリ」であり、記録にも記憶にも残る、2010年代を代表する名レースである。
舞台となるのは、カナダ・モントリオール。セント・ローレンス川に浮かぶ人工島に設営される、半公道の「ジル・ヴィルヌーブ・サーキット」である。
詳細は各自で調べていただきたいが、本項目では説明にコーナー番号などを多用しているため、走行映像を見るなどして「こんなサーキットなんだ~」くらいは頭に入れておくと、より理解しやすくなるだろう。
なお、本項目ではドライバーとチームの無線とその翻訳を交えながら解説を進めていくが、立て主は英語が得意ではないため、少なからず誤訳や意訳による微妙なニュアンス違いなどが存在するかもしれない。もしそのようなミスを見つけた場合、よりよい項目作りのために遠慮なく編集していただきたく思う。
概要:2011年、ここまでのあらすじ
さて、本題に入る前に、カナダグランプリ開幕までの2011年シーズンを簡単に解説していく。
前年に当時史上最年少でチャンピオンに輝いたレッドブルのセバスチャン・ベッテルが、今年もその強さを遺憾なく発揮。ここまで6戦を終えて5勝を挙げる無双っぷりで選手権をリードし、コンストラクターズランキングにおいても、レッドブルが文字通り圧倒的な強さで首位を独走していた。
対抗馬と言えるのは、レッドブルが落とした中国GPを制したマクラーレン。ルイス・ハミルトンが勝利を挙げ、レッドブルを80ポイント差で追いかける。一方で、古豪フェラーリは表彰台2回、ファステストラップ1回とビミョーに影が薄い展開が続く。跳ね馬なのに対抗馬になれない…
また伏兵として、開幕から2戦続けて表彰台に上がったルノー、表彰台は無いものの堅実にポイントを積み重ねるメルセデスなどが挙げられた。
予選
そして迎えたカナダグランプリ、スタート位置を決める予選ラウンド。
ベッテルが予想可能回避不可能の無双っぷりをまざまざと見せつけ、今季6回目のポールポジションを獲得。ベッテルにとっては、初めてカナダで獲るポールポジションでもあった。
ベッテルの隣にはアロンソが並び、その後ろ3番手にはアロンソの相方マッサが。2-3という今季のフェラーリにとって最高の結果を出すことに成功した。
ベッテルの相方ウェバーはトラブルで4位に終わり、マクラーレンとメルセデスが5位から8位を交互に分け合う。
我らが小林可夢偉(ザウバー)は13番手からのスタート。なお、可夢偉のチームメイトであるルーキーのセルジオ・ペレスだが、前戦モナコグランプリ予選にて大クラッシュを起こし、カナダでも体調不良を訴えたため大事をとり欠場。ザウバーは代走にペドロ・デ・ラ・ロサを立て、予選を17番手で終えている。
ダンブロシオ(ヴァージン)は遅すぎて107%ルールに引っかかってしまったが、なんとか決勝の出走を許された*1。
なお、予選18番手を獲得したアルグエスアリ(トロロッソ)は決勝を見据え、予選終了後に雨向けのセットアップに変更。マシンを弄ったため決勝はピットレーンからのスタートとなり、アルグエスアリの後ろにいたトゥルーリ以下6台のスタート位置が繰り上がった。
2011 Formula One
Round 7
Canadian Grand Prix
STARTING GRID
Position | Car No. | Driver | Team |
PP | 1 | セバスチャン・ベッテル | レッドブル・ルノー |
2 | 5 | フェルナンド・アロンソ | フェラーリ |
3 | 6 | フェリペ・マッサ | フェラーリ |
4 | 2 | マーク・ウェバー | レッドブル・ルノー |
5 | 3 | ルイス・ハミルトン | マクラーレン・メルセデス |
6 | 8 | ニコ・ロズベルグ | メルセデス |
7 | 4 | ジェンソン・バトン | マクラーレン・メルセデス |
8 | 7 | ミハエル・シューマッハ | メルセデス |
9 | 9 | ニック・ハイドフェルド | ルノー |
10 | 10 | ヴィタリー・ペトロフ | ルノー |
11 | 15 | ポール・ディ・レスタ | フォースインディア・メルセデス |
12 | 12 | パストール・マルドナド | ウィリアムズ・コスワース |
13 | 16 | 小林可夢偉 | ザウバー・フェラーリ |
14 | 14 | エイドリアン・スーティル | フォースインディア・メルセデス |
15 | 18 | セバスチャン・ブエミ | トロロッソ・フェラーリ |
16 | 11 | ルーベンス・バリチェロ | ウィリアムズ・コスワース |
17 | 17 | ペドロ・デ・ラ・ロサ | ザウバー・フェラーリ |
18 | 21 | ヤルノ・トゥルーリ | ロータス・ルノー |
19 | 20 | ヘイキ・コバライネン | ロータス・ルノー |
20 | 23 | ヴィタントニオ・リウッツィ | HRT・コスワース |
21 | 24 | ティモ・グロック | ヴァージン・コスワース |
22 | 22 | ナレイン・カーティケヤン | HRT・コスワース |
23 | 25 | ジェローム・ダンブロシオ | ヴァージン・コスワース |
PL | 19 | ハイメ・アルグエスアリ | トロロッソ・フェラーリ |
※ダンブロシオは予選Q1で107%タイム(1:18.989)に届かなかったが、審議の結果出走が認められた。
※アルグエスアリは予選終了後にマシンに手を加えたため、ピットレーンスタートとなる。
決勝
2011年6月12日、カナダグランプリ決勝当日。一周4.36kmのジル・ヴィルヌーブ・サーキットをモナコと同じくらいのペースで70周し、勝者を決める。
この日のモントリオールは雨の予報。英国BBCの実況放送で「この街はウィンタースポーツで有名ですが、これから皆さんにご覧いただくのは『ウォータースポーツ』です」と言わしめた通り、レース前になっても雨が止むことはなくサーキットは濡れたまま。
さらに、天気予報によればレース開始後に雨が強まるとすら言われており、各チームは戦々恐々としながら、現地時間13時のスタートに向けて準備を行った。
ピットレーンからスタートするアルグエスアリは、スタートに向けてチームと最終確認。
ピット「Ciao Jaime, radio check from the pit wall.」(チャオ、ハイメ。ピットウォールから無線チェック。)
アルグエスアリ「Loud and clear, loud and clear.」(音量OK、はっきり聞こえるよ。)
ピット「The race will start behind the Safety Car. It means there will be no formation lap.」(レースはセーフティーカーの後ろでスタートする。つまりフォーメーションラップは行わない。)
ピット「First lap after Safety Car will be first race lap. OK?」(セーフティーカーが抜けた最初の周が最初のレースラップだ。OK?)
全員が深溝のフルウェットタイヤを履き、セーフティーカー先導で各車スタート。
しかし激しい水しぶきによってコース全体に渡って前方視界は最悪であり、さらに低速ノロノロ進行なのに、路面が濡れすぎて真っ直ぐ走ることも困難なマシンが多発する事態に。
各チームは必死に運転するドライバーからの報告を受け取り、フィードバックを重ねていく。こちらはマクラーレンとバトンの無線。
ピット「And how are the conditions?」(それと、コンディションはどうだ?)
バトン「They're pretty wet for now! Pretty wet.」(今はかなり濡れてるよ!びしょ濡れだ。)
結局、安全にレースが行えないとして追加で何周かセーフティーカー先導でコースを周回したのち、4周目をもってセーフティーカーが退散することに。
ピット「OK, the Safety Car will be in at the end of this lap. Safety Car in at the end of this lap.」(OK、セーフティーカーはこの周の終わりに入る。セーフティーカーはこの周で終わる。)
アロンソ「OK.」(了解。)
スタート前にアルグエスアリの無線で話していた通り、セーフティーカーの撤収と同時に5周目からのレース開始が宣言された。
雨のカナダグランプリ、緊張の1コーナーはアロンソの猛烈な攻めにベッテルが耐えきり1位を死守する一方で、後方では4位ウェバーと5位ハミルトンが接触。
物理的な被害は少なかったものの、これでハミルトンは7位、はずみでスピンしてしまったウェバーは14位に転落してしまう。
ハミルトン「I understeered into Mark Webber.」(アンダーステア*2が出てウェバーに突っ込んだ。)
ピット「OK, understood Lewis. Is the car feeling OK? How's the front wing?」(OK、了解だルイス。クルマの感触は大丈夫か?フロントウィングは?)
ハミルトン「Car Feels Fine.」(クルマは大丈夫だ。)
1周目を終えた時点でのトップ10オーダーは、1位ベッテル、2位アロンソ、3位マッサ、以下ロズベルグ、シューマッハ、ハミルトン、バトン、ディ・レスタ(フォースインディア)、ハイドフェルド(ルノー)、そして可夢偉。
ベッテルは徐々にリードを広げて逃げを打つが、この間にも後方では激しいバトルと順位の入れ替わりが続く。
少し進んで、7周目のピットストレート、ここでハミルトンは、自身の前に出ていたチームメイトのバトンを抜かしにかかる。
ハミルトンはエンジン全開、なんとかバトンとピットウォールの間をすり抜けようと加速していくが、当のバトンは激しい水しぶきでハミルトンの接近に気付かない。
結局、両者はピットストレート半ばで接触してしまう。
ハミルトン「Jenson's put me in a wall. Jenson put me in the wall.」(ジェンソンが僕を壁に押し込んだんだ。ジェンソンが僕を壁に押し込んだ。)
行き場を失い壁に押し付けられたハミルトンは、パーツの破片を撒き散らしながらずるずると1コーナーを横切り、ここで無念のリタイア。自身初優勝の地であり、去年もここで勝ち星を挙げている思い入れのあるグランプリだが、今年はハミルトンにとってほろ苦い結末となった。
一方、ぶつけられたバトンもクルマにダメージを負い、緊急ピットインを要請。
バトン「In this lap, In this lap, In this lap.」(ピットインだ、ピットインだ、ピットインする。)
ピット「I understand Jenson. What is the problem? What is the problem?」(了解ジェンソン。何が問題だ?何が問題なんだ?)
バトン「Well Lewis just hit my rear. Rear-left. Doesn't Feel right.」(ルイスが僕のリアにぶつかった。左後ろだ。クルマの感覚がよくない。)
チームメイト同士のクラッシュ、いわば同士討ちであるため、急ぎピットに向かう間にもバトンの弁明とイライラはなかなか収まらない。
バトンは路面状況の改善を信じ、浅溝のインターミディエイトタイヤに交換してコースに復帰する。
バトン「You can't see anything in these mirrors guys! How big was that gap? It wasn't a gap!」(ミラーに何も見えなかったんだよ!あの隙間はどれくらいあった?隙間じゃ無かったよ!)
ピット「Let's discuss that after the race. Come on. Let's stay calm and... we got places to make here.」(それについてはレースの後で話そう。さあ、落ち着いて…順位を確保しようか。)
なおこの接触により、安全確保のためセーフティーカーが投入された。
レースは13周目に再開。ベッテル、アロンソ、マッサ、ロズベルグ、シューマッハのトップ5で、6位には可夢偉、1周目に14位まで落ちたウェバーは9位まで上がってきている。
一方、12位を走行するバトンだが、セーフティーカー先導中のスピード違反を指摘され、ドライブスルーペナルティを課せられてしまう受難が降りかかる。
ベッテルがやはり逃げを打ってリードを広げる中、ここで路面が少しずつ乾き始める。13周目、スーティル(フォースインディア)の無線を見てみよう。
スーティル「There's no grip! It's getting too dry, it's getting too dry!」(グリップが無い!乾きすぎてる、乾きすぎてるよ!)
ピット「OK mate, OK. The rain is starting now, The rain is starting now.」(わかった、わかったよ。雨が降り始めてる、雨が降り出してるよ。)
スーティル「There's no rain. There's no rain.」(雨は降ってない、雨は降ってないよ。)
ピット「Yeah, we're looking into it. We're looking into it.」(ああ、今調べてるところだ。今調べてる。)
スーティル「Hurry up!」(急いでくれ!)
一方、同じ周にシューマッハにも無線が飛ぶ。
ピット「OK Michael. Box this lap please. Box this lap for intermediates. Box this lap for intermediates.」(OKミハエル。この周にピットインしてくれ、インターミディエイトタイヤに交換だ。ピットでインターミディエイトにする。)
シューマッハ「OK... are you sure what you're doing?」(了解…なんでそうするんだい?)
ピット「Button is on intermediates and he is much quicker than everyone else at the moment.」(バトンがインターミディエイトタイヤにしているが、彼は今誰よりも速く走っているんだ。)
しかし、チーム内で混線があったのか、数秒後にはチームが態度を変える。
だが、一連の流れで少し時間を使い過ぎてしまったようだった。
ピット「Stay out Michael, stay out.」(ステイアウトだミハエル、ピットに入らないでくれ。)
シューマッハ「Too late!」(もう遅いよ!)
一周回って14周目、2番手アロンソは路面状況を読み取り、自ら無線でチームに進言。しかしチームはあくまでベッテルをターゲットにして作戦を立てていたため、アロンソと意見が食い違う。
このときベッテルはまだピットインしていなかったため、アロンソ陣営は難しい判断を強いられていた。
アロンソ「OK pit now, pit now.」(OK、ピットインだ。ピットインする。)
ピット「Let's do what Vettel does, let's do what Vettel does」(ベッテルと同じ戦略で行こう、ベッテルと同じことをしよう。)
結局、路面が改善したことで、15周目から18周目にかけて、アロンソをはじめ多くのドライバーがピットインを決断。
軒並みインターミディエイトに履き替えたことで、17周目にはタイヤ交換をしなかったマッサが2位、可夢偉が3位に浮上。バトンのタイムを見て同じくインターに交換したバリチェロ(ウィリアムズ)は、ベッテル並の速さを刻んで先頭集団を追いかける。
しかし、レースが19周目に入ったところで、サーキットに暴風雨が襲来。今までとは比較にならない豪雨によって、路面状況はみるみるうちに悪化していく。
あまりに激しい雨に、ドライバーたちも次々に無線で悲鳴を上げる。以下は全て19周目に記録された無線である。
バトン「So wet down at the hairpin. The run up to the hairpin...So, so wet! I mean you can't see anything at all!」(ヘアピンがかなり濡れてる、ヘアピンまでの路面も…めちゃくちゃ濡れてるんだよ!何も見えないよ!)
ブエミ(トロロッソ)「I have no grip! No grip! Diffcult to follow the guys.」(グリップが無い!グリップが無い!フォローするのも難しいよ。)
ベッテル「Deploy the Safety Car, seriously. Aquaplaning!」(セーフティーカーを出動させよう、アクアプレーニングが酷すぎる!)
ピット「OK Sebastian. Charlie is aware. He's listening to your comments, as well as all the other drivers.」
(オーケー、セバスチャン。チャーリー*3は気づいてるよ。この無線も聞いてるし、もちろん他のドライバーのもね。)
マッサ「We need a Safety Car man. We need a Safety Car! A lot of aquaplaning, a lot of aquaplaning.」(なぁ、セーフティーカーが要るんだよ。セーフティーカーが必要なんだ!アクアプレーニングが多発してる、アクアプレーニングが酷すぎる。)
ピット「Just keep on the track. Just keep on the track. Keep on the track.」(そのまま走り続けてくれ。そのまま走り続けるんだ。コースに留まってくれ。)
突然の豪雨によってとても浅溝のタイヤごときで対処できる状況ではなくなり、インターミディエイト戦略は大失敗。インターを履いたドライバーたちは、大慌てでピットに舞い戻りフルウェットに再交換する羽目になってしまう。
豪雨の勢いは凄まじく、競技運営もこの状況はマズいと即座に判断。20周目からセーフティーカーが投入される。
ブエミ「We need to come in!」(ピットインしないと!)
ピット「Stay out Sebastien, stay out!」(ステイアウトだよセバスチャン、ピットインしないでくれ。)
ブエミ「Too much water! too much water.」(水が多すぎる!水が多すぎるって。)
ピット「Safety Car, stay out. Stay out.」(セーフティーカーだ、ステイアウト。まだ入らないでくれ。)
ブエミ「There is a lot of aquaplaning. why do we stay out?!」(アクアプレーニングが酷いんだよ。なんでピットインしないんだ?!)
ベッテルやマッサなど、まだタイヤ交換をしていなかったドライバーはこのタイミングで新品フルウェットに交換したが、状況は悪くなるばかり。
アロンソ「We can not see anything! It will be a long Safety Car!」(何も見えない!このセーフティーカー先導は長くなるぞ!)
さらに、時間が経つとともに雨の範囲はヘアピン周辺からサーキット全体にまで拡大し、23周目にはピットレーンに川が流れる事態に。
以下はその周にマッサの担当エンジニアが飛ばした無線。ドライバーほどでは無いにしろ、スタッフたちも豪雨に振り回されているようだ。
ピット「Where we are now in the pit lane, is absolutely...well yeah, it's raining very, very heavily.」(今、僕らもピットレーンにいるけど、本当に…そうだな、めちゃくちゃな豪雨だ。)
こちらは次の周のハイドフェルド。スタッフたちも苦しめられているが、やはり雨を直に受け止めて走らなければならないドライバーが一番キツいのかもしれない。
ハイドフェルド「It's not only too wet now, but also visibility here at the back is very, very, very bad. It's a lot more wet here than where you are.」(今は雨が酷いだけじゃなくて、視界も本当に、本当に最悪なんだ。こっちは君らがいる場所よりずっと濡れてるんだよ。)
ピット「OK Nick, understood, understood.」(ニック、分かったよ、了解だ。)
その後も状況改善を信じてセーフティーカー先導で走り続けたものの、雨が弱まる気配は一向にない。
水が溜まって滑りやすい路面や水しぶきによる視界不良なども重なり、審判団と競技運営はこれ以上のレース継続は無理だと判断。25周でレース中断が宣言され、赤旗がはためく中、各車は現時点の順位でグリッドに停車して天候回復を待つことになった。
こちらはピットスタートから14位まで追い上げていたアルグエスアリの無線。
ピット「Red flag Jaime, red flag. Go on the grid, go on the grid.」(赤旗だハイメ、レース中断。グリッドに向かってくれ。グリッドに向かって。)
こちらは3番手マッサの無線だが、ちょっとした事件が。
ピット「OK, so stop in third position. Stopped in the wrong position obviously!」(よし、3番グリッドに停めてくれ…違う、絶対そこじゃないよ!)
どうやら混乱の中で、マッサが停車位置を間違えてしまったらしい。しかしよくよく見てみると、実はマッサは何も間違っていなかった。
ピット「We're alright...Kobayashi is wrong position, and Vettel's in the wrong position. ****** it's not that difficult is it?!」(あー、大丈夫だ…コバヤシもベッテルも間違った場所に停めたんだな。これそんなに難しくないだろ?!)
どうも、この状況に混乱していたのはマッサだけでは無いようで、2番手まで上がっていた可夢偉がうっかり1番グリッドに停車する凡ミス。そして1位ベッテルはというと、もはやグリッドですらない遥か前方にマシンを停めていた。
先頭2台の凡ミスで本来なら可夢偉がいるはずの2番グリッドが空いていたため、マッサのエンジニアはそこを3番グリッドだと勘違いしてしまったのである。
さて、赤旗中断の間、ドライバーはマシンから降りてもいいことになっている。ガレージに戻ってつかの間の休憩をとってもいいし、もちろんコクピットに留まってレース再開に向けて集中するのもアリ。
…ただし、コクピットに留まるのは自由だが、F1マシンは天井がなく雨が直接吹き込んでくる*4ため、こんな弊害も。
ブエミ「It's starting to get very wet in my arse.」(僕のケツの中がスゴイ濡れてきたよ…)
一方、こちらはヴァージン・レーシングのダンブロシオ。
ピット「Jerome, if you want to get out of the car, Timo's sitting up here in the garage having a cup of tea. You're welcome too.」(ジェローム、もしクルマを降りたいなら、ティモがガレージで紅茶を飲んでる。君も歓迎するよ。)
どうやら、チームメイトのティモ・グロックはマシンから降り、チームのガレージでティータイムと洒落込んでいるらしい。
ダンブロシオ「Either you're taking the piss out of me, or the situation? One of the two you know?!」(それは僕をバカにしてるのか、それともこの状況をバカにしてるのか、どっちなんだい?(笑))
ピット「No, come up here, we'll get you... get you a cup of tea ready.」(いや、こっちに来てくれ…紅茶を準備しよう。)
ダンブロシオ「Coming.」(行くよ。)
思わぬ無線に半笑いで応答するダンブロシオと、こちらも笑いながらさらに続けるエンジニア。
紅茶がしっかりと用意されているあたり、母体がイギリスのチームである名残*5が出ている。
ダンブロシオ「I'd like a biscuit, you know these cocoa biscuits?」(ビスケットが欲しいんだけど、ココアビスケットって知ってる?)
ピット「OK well you better hurry up, because Timo's got the last two in his hand.」(OK、なら急いだほうがいい。ティモが最後の2つを手に取ったところだからね。)
レースに集中するのは当然大事だが、つかの間の一息もまた大事である。
このような、普段は全力で戦うドライバーたちのほっこりするやり取りもまた、赤旗中断の醍醐味のひとつ。
場面は変わって、今度はバリチェロからの無線。
バリチェロ「We need, we need to prepare another helmet with a white visor inside. I need a new set of clothes, and a new set of... of a helmet with a white visor.」(白いバイザーのヘルメットをもう一つ用意しないと。新しい服一式と、新しい…白いバイザーが付いたヘルメットが要るんだ。)
雨と湿気でヘルメットのバイザーが曇ってしまうため、新しいものをご所望のようだ。ただでさえ水しぶきで見づらいというのに、さらに視界が曇ってしまったら大クラッシュにつながりかねない。まさに死活問題である。
赤旗中断ではタイヤ交換をはじめ、ルールの範囲内ならある程度の変更ができるので、レース再開後のことを見据えてこの機にマシンや装備を詰めるドライバーも多い。お茶会やってるヴァージンが抜けてるというワケでは決してないハズ
また、ハイドフェルドはマシンの空力に関して聞きたいことがある様子。
ハイドフェルド「How much more downforce are we putting?」(クルマのダウンフォースってどれだけ増やせる?)
しかし、無線の調子が悪いのかエンジニアは聞き取れない。
ピット「sorry, please repeat?」(すまない、もう一回言ってくれないか?)
ハイドフェルド「How much more downforce are we putting on? Can you hear me?」(どれだけダウンフォースを増やせるの?聞こえてる?)
ハイドフェルド「HOW MUCH DOWNFORCE ARE WE PUTTING ON? Can you hear me? Can you hear me?」(ダウンフォースはどれくらい増やせる?聞いてる?聞こえてる?)
ところが、無線が拗ねてしまったのか今度はピットからの応答が無くなってしまった。
ハイドフェルド「You cannot hear me I think.」(僕の声、聞こえてないよね)
こんな具合に各々が中断時間の暇を潰すが、なかなか雨は弱くならない。そして、あれよあれよという間に2時間も経ってしまった。ここまで耐えた関係者もそうだが、雨の吹き荒れる現地でF1レース1回分の時間をじっと待機し続けた観客たちの忍耐力は大したものである。
結局、レース中断から2時間と5分が経過*6。ここに来て雨が弱まったため、15時50分に26周目から再開されることが決定。全車フルウェットタイヤで再スタートに臨むこととなった。
中断時点の順位のまま、セーフティーカー先導で再びエンジン音がモントリオールに響き渡る。
先導途中の28周目でコバライネンにトラブルが発生し、リタイアするアクシデントはあったものの、7周もの先導ののちにセーフティーカーが引っ込み、無事にレースは再開。
ベッテルを先頭に、可夢偉、マッサ、ハイドフェルド、ペトロフ(ルノー)、ディ・レスタ、ウェバー、アロンソ、デ・ラ・ロサ、バトンのトップ10でスタートラインを通過。1コーナーではマッサが可夢偉に迫るが、可夢偉は絶妙なライン取りで1コーナーの優位を保ち、順位を守る。
さて、セーフティーカーが先導している間にコースは徐々に乾き始めており、再開後にベッテル以外はピットインしインターミディエイトを装着。
しかしその最中、ピットから出てきたバトンとアロンソがターン3で交錯。
ピット「OK, I see we are stuck.」(OK、スタックしたようだ。)
アロンソは縁石に乗り上げて操縦不能となってしまい、チームも無線でこれを確認。ここで無念のリタイアとなってしまった。
一方のバトンもタイヤがパンクするなどダメージを負い、またもやピットに入るハメに。
バトン「I don't know why, but... I was alongside Alonso, then he accelerated into the apex... I don't know what he was thinking?!」(何故だか分からないけど…僕はアロンソと横に並んでたけど、コーナーで彼がアクセルを踏み込んできて…あいつは何を考えてたんだ?!)
この事故でまたしてもセーフティーカーが投入され、全車がインターミディエイトを履いて41周目にレースは再開。
バトンはアロンソとの接触でタイヤがパンクしてしまったが、他車に置いていかれながらずるずるとコースを一周してなんとかピットまで自力で帰還し、タイヤ交換を果たす。パンクしたタイヤでのノロノロ走行が大いに響き、最下位に転落して再スタートに臨むこととなった。
毎度のようにベッテルが最速タイムを刻んで逃げる一方、これより下など無いというほどに空回りしまくり、文字通り最悪の週末を送っているバトン。ここまで5回ものピットストップを敢行するという前代未聞の記録を抱えてどん底に突き落とされた彼だが、さすがのバトンでもここからの挽回は無理だろうと誰もが思っていた。
しかしそのバトンは次々にライバルたちを追い抜いていき、44周目には14位まで順位を回復させ、ワールドチャンピオン経験者の意地を見せる。
一方、バトルを続けていた2位の可夢偉と3位マッサだが、51周目のターン6と8にて可夢偉が連続でライン取りをミスし、マッサに付け入る隙を与えてしまう。
ピット「Come on mate, let's get him out of the way. Quick as you can, get past him.」(行け相棒、ヤツを追い抜かそう。出来るだけ早く彼を抜かすんだ。)
そしてその隙を見逃さず、ピットの応援も手伝ってマッサが一気に可夢偉との車間を詰めていく。
しかし、さらに後ろから虎視眈々と様子見していたシューマッハが、後方から可夢偉とマッサを2台まとめて颯爽とブチ抜き、これで一気に2位に浮上。
大胆な動きと円熟したテクニックの合わせ技であり、かつてF1界を席巻した「皇帝」の時代を思わせる、わずか10秒ほどの鮮やかな追い抜き劇であった。
また、シューマッハの追い抜き劇と同じ周には、ウェバーがこのレース始まって初めてのスリックタイヤを履くギャンブルを敢行。
するとこれが見事にハマり、52周目に最速ラップを記録するギャンブル大当たりという結果を出した。そんなウェバーの走りを見て、マクラーレンのエンジニアは即座にバトンに無線を飛ばす。
ピット「OK Jenson, first cars are starting to pit for options. We recommend pit for options.」(ジェンソン、ピットインしてオプションタイヤ*7に変えたマシンが出た。我々もオプションに変えることをおすすめする。)
バトン「Roger, pit for options. pit, pit.」(了解、オプションタイヤにしよう。ピットだ、ピットイン。)
ピット「Understand Jenson, box this lap, box this lap.」(了解だジェンソン、ピットイン、この周でピットインだ。)
バトン「Box this lap.」(ピットイン了解。)
ウェバーの最速ラップを受け、この周ではシューマッハやバトン、マッサなど複数台がスリックタイヤに交換。続く53周目にはベッテルや可夢偉もピットに入る。
しかしマッサは53周目のターン8手前にて、周回遅れのカーティケヤンを避けようとして濡れた路面に踏み込んでしまい*8、マシンが横滑りしてガードレールに衝突。ウィングを壊してしまい、もう一度ピットに入る羽目になる。
マッサ「He's ****** stupid, he's stupid. Box, box.」(あの****馬鹿野郎、あいつは馬鹿だよ。ピットイン、ピットインする。)
ピット「OK, we're ready for you.」(OK、準備は出来てるよ。)
怒り狂うマッサだが、他方こちらは罵られたカーティケヤンの無線。
カーティケヤン「□☆○%♭$!*▲& ‼︎」(聞き取り不能)
ピット「Narain, I can NOT understand. Put the microphone closer to your mouth, and speak after Turn 10.」(ナレイン、何を言ってるか何も理解できない。マイクを口に近づけて、ターン10(ヘアピン)を過ぎてからもう一度話してくれ。)
カーティケヤン「You have to tell me when I'm getting lapped and everything. I don't understand anything.」(僕が周回遅れになったときとか、全部君が教えてくれないと。じゃないと何も理解できないよ。)
どうやら、無線の調子やチームとの意思疎通の問題で、後ろからマッサが迫っていることが伝わっていなかったようだった。
この周の前後には全車がピットインを済ませ、ベッテルが依然として1位、2位にシューマッハ、3位ウェバー。
そしてトップ3に続く4位には、なんと最下位まで落ちていたはずのバトンがいた。実は、先ほど完璧なタイミングでのピットインに成功し、9位から急浮上を果たしていたのだ。
56周目、バトルを展開する5位可夢偉と6位ハイドフェルドだったが、ターン2でハイドフェルドが可夢偉のマシン後部に接触。踏まれたウィングが分離してハイドフェルドは宙を舞い、ターン3の奥でやむなくマシンを降りた。
ハイドフェルド「Kobayashi just randomly nearly stopped in Turn 2, I don't know what the ****** he was doing there.」(コバヤシがターン2で無造作に急接近して止めてきたんだ、僕には彼があそこで何をしてたのか分からないよ。)
ピット「OK Nick, understood.」(OK、ニック、了解だ。)
これでコースにマシンパーツが散乱したため、本日6回目のセーフティーカー出動が宣言される。先導中には、パーツを拾おうとマーシャルがコースに飛び出したところへ、タイミング悪くやって来てしまった可夢偉がマーシャルを轢きかけるという危ないシーンも。
レースは61周目に再開となり、残り9周の電撃スプリントレースがここに開幕。後方でマルドナド師匠がスピンしリタイアする中、残りの各車は一斉にラストスパートを開始。
63周目に一度はシューマッハを抜いたウェバーだったが、追い抜く際にコーナーをショートカットしてしまう。ペナルティを避けるため、ここではシューマッハに順位を譲り、ウェバーは後ろで再度追い抜きのチャンスを狙う。
しかし、この電撃戦の主役はウェバーのさらに後ろにいた。
ピット「Vettel leading the race, then Schumacher and Webber.」(ベッテルがレースをリードしてる。その後ろにはシューマッハとウェバーだ。)
バトン「What soft of times is Vettel doing?」(ベッテルはソフトタイヤでどんなラップタイムを出してる?)
ピット「Vettel's last lap was 1:22.3. That was two seconds slower than you.」(前の周のベッテルは1分22秒3だ。君より2秒遅い。)
この日どん底から幾度となく這い上がってきたジェンソン・バトンが、まさに疾風迅雷、電光石火の猛攻でウェバーに猛烈なプレッシャーをかけ、ウェバーはたまらず最終シケインでコースアウト。
ピットストレートでウェバーを抜いたバトンは、さらに同じ周の終盤でシューマッハも軽々と抜き去り、1位ベッテルの追撃にかかる。
残り5周の時点で、バトンとベッテルの差は5秒。しかしバトンは異次元の走行ペースで最速ラップを連発し、67周目に後ろでウェバーがようやくシューマッハを攻略した頃には、バトンはベッテルの1秒後方まで迫っていた。
一方、さらに後方ではタイヤのパンクでディ・レスタがリタイアし、マッサは渾身の走りで順位を上げていく。
ピット「OK Jenson, three and a half laps to go. We can have him, we can win this race, Jenson.」(よしジェンソン、残り3周半だ。我々ならあいつを捕まえられる。このレース勝てるぞジェンソン。)
69周目、バトンはさらに最速ラップを更新し、運命の最終ラップに突入。
泣いても笑ってもこれが最後。チェッカーまで残り4km、1分あまりの長い戦いが始まった。首位ベッテルはもう目と鼻の先、両者はタイム差0.9秒で1コーナーに飛び込んでいく。
ベッテルはここまで69周のうち68周の間1位であり続けるという圧倒的な強さでレースを支配し続け、一方のバトンは不屈の魂と卓越した運転技術、天気や路面状況を見抜く力によって、5回のピットインと1回のペナルティ、最下位すらも経験しておきながら最後の最後に2位まで這い上がってきた。そしてどちらも、雨のレースが大得意という雨の名手。そんな二人による頂上決戦が、ここ雨上がりのカナダで繰り広げられようとしていた。
ついに迎えた緊迫の最終ラップ。バトンは驚異的なスピードで一気に車間を詰めるが、ベッテルの牙城を崩すにはあと一歩が足りない。どんなに小さな、どんなに細かいことでも、ベッテルの歯車が少しでも狂えば、トロフィーはバトンの手中に収まるのは確実だった。しかし、今日ここまで仕事を完璧にこなすベッテルに隙はほとんど無いといっていい。
とはいえ、バトンはこのカナダで、ここまで充分過ぎる活躍を見せてきた。度重なる受難を乗り越え、バトン大逆転の2位表彰台、1位ベッテルには一歩及ばず……そんな結果でも、バトンに文句を言う者は一人もいなかった。なぜならベッテルは圧倒的で、これを打ち崩すにはもう一回ミラクルを起こす必要がある。そしてバトンはこの日、奇跡を起こす力を使い切ってしまった。テレビを、中継映像を、サーキットを見つめる誰もが、そう思っていた。
しかし。
ファイナルラップ70周目、左90度のカーブであるターン6に差し掛かったときのことだった。
背後に迫るバトンの猛烈な攻め、サイドミラーに映る強烈なプレッシャー。その猛攻を前に、ついに、ついにベッテルが屈してしまった。
ターン6進入の際、ベッテルはライン取りを見誤る。ほんの数センチだけ、右タイヤが乾いた走行ラインから外れ、濡れた路面を走ってしまったのだ。
たった数センチ。ほんの少しの、些細なミス。しかし、それが致命傷となった。
ベッテルはターン6で走行ラインから大きく外れ、ドリフトにも似た挙動でハーフスピンを喫してしまう。そして、ベッテルの1秒後方にいたバトンはその隙を見逃すことなく、乾いた路面をぴったりとなぞり、鮮やかに追い抜いていったのである。
この瞬間、セバスチャン・ベッテルの2011年カナダグランプリ優勝は泡と消えた。ほぼ手中に収めていたトロフィーは、ベッテルの手からあっけなく滑り落ち、チャンスを確実につかみ取ったバトンの手に収まったのだ。
そして、怒涛の大逆転劇から1分もしないうちに、バトンがピットストレートに帰ってきた。柵によじ登り、ユニオンジャックを掲げるマクラーレンのチームスタッフの前を、バトンは誇らしげに通過していく。2011年、F1カナダグランプリ。大荒れのレースを見事に渡り切り優勝を飾ったのは、マクラーレン・メルセデスのジェンソン・バトンであった。
バトン「AHH HAHA! Guys, that was a hell of race! A hell of a race!」(アァハハ!みんな、すごいレースだったな!すごいレースだった!)
ピット「Absolutely brilliant, Jenson. Really great effort. Great overtaking. Great driving, Great speed, just brilliant.」(本当に素晴らしいよジェンソン、本当に素晴らしかった。素晴らしい追い抜き、素晴らしいドライビング、素晴らしいスピード、実に見事だ。)
バトン「I love Canada! He he he he!」(カナダ大好き!ヘヘヘヘ!)
2位には最後の最後で優勝を逃したベッテル。3位にはウェバーが入り、何だかんだでレッドブルは表彰台2位3位を獲得。4位にはミハエル・シューマッハ。2010年の復帰以降は精彩を欠いたミハエルだが、2012年の引退までの3年間では、一時2位を走ったこのレースが一番優勝に近づいたものとなった。5位にはしぶとく順位を上げたルノーのペトロフが名を連ねる。
ゴールラインまで続いた6位争いは、直線スピードの差でフェラーリのマッサに軍配。こちらも一時2位を走ったザウバー・フェラーリの小林可夢偉は、最後の最後でマッサに抜かれ、7位フィニッシュとなった。8位にはピットレーンスタートから粘り強く走り続けた大健闘のアルグエスアリが入り、9位はベテランの走りを見せた16番手スタートのルーベンス・バリチェロ*9。
そして10位にはセバスチャン・ブエミが滑り込み、ここまでがトップ10となった。
後方では、HRTのカーティケヤンが14位でフィニッシュ。チームメイトのリウッツィも13位に入り、2011年ベストの成績にチームは歓喜に包まれた。カーティケヤンのエンジニアの無線からも、いかにこの結果が大きかったかが伝わってくる。
ピット「WOOHOO! You are P14, good job, good job! Good job! good job Narain. Great race!」(うぉーほー!14位だ、よくやった!よく頑張ったな!よくやった!いい仕事だナレイン、素晴らしいレースだった!)
しかし、ショートカットで優位を得たとしてレース終了後に20秒ものペナルティが換算され、カーティケヤンは17位に降格となってしまった。残念。
2011 Formula One
Round 7
Canadian Grand Prix
RESULTS
Position | Car No. | Driver | Team | Start position | Time/Retired |
1 | 4 | ジェンソン・バトン | マクラーレン・メルセデス | 7 | 4:04:39.537 |
2 | 1 | セバスチャン・ベッテル | レッドブル・ルノー | 1 | +2.709 |
3 | 2 | マーク・ウェバー | レッドブル・ルノー | 4 | +13.828 |
4 | 7 | ミハエル・シューマッハ | メルセデス | 8 | +14.219 |
5 | 10 | ヴィタリー・ペトロフ | ルノー | 10 | +20.395 |
6 | 6 | フェリペ・マッサ | フェラーリ | 3 | +33.255 |
7 | 16 | 小林可夢偉 | ザウバー・フェラーリ | 13 | +33.270 |
8 | 19 | ハイメ・アルグエスアリ | トロロッソ・フェラーリ | PL | +35.964 |
9 | 11 | ルーベンス・バリチェロ | ウィリアムズ・コスワース | 16 | +45.117 |
10 | 18 | セバスチャン・ブエミ | トロロッソ・フェラーリ | 15 | +47.056 |
11 | 8 | ニコ・ロズベルグ | メルセデス | 6 | +50.454 |
12 | 17 | ペドロ・デ・ラ・ロサ | ザウバー・フェラーリ | 17 | +1:03.607 |
13 | 23 | ヴィタントニオ・リウッツィ | HRT・コスワース | 20 | +1周 |
14 | 25 | ジェローム・ダンブロシオ | ヴァージン・コスワース | 23 | +1周 |
15 | 24 | ティモ・グロック | ヴァージン・コスワース | 21 | +1周 |
16 | 21 | ヤルノ・トゥルーリ | ロータス・ルノー | 18 | +1周 |
17 | 22 | ナレイン・カーティケヤン | HRT・コスワース | 22 | +1周 |
18 | 15 | ポール・ディ・レスタ | フォースインディア・メルセデス | 11 | +3周 |
DNF | 12 | パストール・マルドナド | ウィリアムズ・コスワース | 12 | スピン |
DNF | 9 | ニック・ハイドフェルド | ルノー | 9 | 接触 |
DNF | 14 | エイドリアン・スーティル | フォースインディア・メルセデス | 14 | サスペンション |
DNF | 5 | フェルナンド・アロンソ | フェラーリ | 2 | 接触 |
DNF | 20 | ヘイキ・コバライネン | ロータス・ルノー | 19 | ドライブシャフト |
DNF | 3 | ルイス・ハミルトン | マクラーレン・メルセデス | 5 | 接触 |
※ディ・レスタはリタイアしたが、周回数の9割を走破していたため完走扱い(3周遅れ)。
余談
- バトンはこのグランプリでF1参戦11年目にして10勝目を達成し、ポイントランキングでも101ポイントをマークし2位に浮上。ベッテルは痛恨のミスで2位に甘んじたものの、当グランプリ開幕時点でランキング2位につけていたハミルトンが序盤で退場したため、傷口を最小限にするどころか下位との差を広げる余裕の結果に。
ベッテルは161ポイントで、2位バトンに60Ptの差をつけている。ハミルトンがポイントランキングで順位を下げた一方、同じくリタイアしたアロンソは何とか現状維持の5位で踏みとどまっている。
- このあまりに劇的な内容のため、2011年カナダグランプリでは
【史上最長のレース(4時間4分39秒537)】
【1レース中のセーフティーカー最多出動(6回)】
【1レースのピットイン回数史上最多での優勝(6回、ペナルティ1回を含む)】
【レース優勝者の最低平均時速(74.844km/h)】
という、数々の記録が打ち立てられた。このうち、最低平均時速については2022年日本グランプリで更新された*10が、赤字で書かれている他の記録は記事作成時点(2023年)で未だに保持している。
- 優勝したバトンは、ベッテルを抜いた最後の一周で初めて先頭に立ち、そのままチェッカーを受けた。このため、優勝したにもかかわらず、バトンが1位で周回を終えたラップはたったの1周だけである。
- この長すぎるレースをきっかけに、翌2012年に2時間ルールが改正。「赤旗中断の時間も含め、最長で4時間まで」という条文が追加された。
- なお、予選に先立ち金曜日に行われた1回目の練習走行において、ベッテルが操縦を誤り最終シケインの壁に突っ込むという事故が発生している。
この壁は、かつて1999年のグランプリでチャンピオン経験者3人が揃って壁に突っ込むという事故を起こした出来事から「チャンピオンズ・ウォール」と呼ばれており、史上最年少チャンピオンの称号を持つ若武者ベッテルでさえも、見事に壁の餌食となってしまったのだった。
- この目まぐるしい展開や「ジェンソン・バトン」というレーサーを象徴するような結果から、今でもこのレースを愛するファンは多い。2020年初頭にF1公式が制作した動画「2010年~2019年までのベストレース10選」においては、並み居る名勝負や名レースを退け、見事2位に選出されている。
- そしてその2020年は、コロナ禍によってF1が大きく揺れた年でもあった。春から夏にかけて開催予定だったレースがことごとく中止・延期となる中、7月に延期された開幕戦までの間、F1公式は過去の名レースをフル尺でYouTube上で無料配信するという企画を打ち出す。その企画のひとつとして、6月13日にこの2011年カナダグランプリが配信された。
2023年現在はフル尺のレースは公開期間が終了してしまったが、同時に投稿されたレースハイライトと車載カメラ映像まとめは現在も視聴可能。さらに新企画として、「RADIO REWIND」と題したドライバーやチームの無線を抜粋してまとめたハイライト動画も同時に投稿。目まぐるしく変わる状況と展開を、裏側の緊迫したやり取りとともに楽しむことができる。なお、この項目における無線部分も、「RADIO REWIND」の動画をかなり参考にさせていただいている。本家の映像や音声を聞きながら本項目を見るのも一興だろう。
追記・修正は6回ピットインしつつ優勝してからお願いします。
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- リアタイ勢だけど、当時きつかったわ。終わったら夜が明けてるんだもん(日本時間7時) -- 名無しさん (2023-07-11 18:53:19)
- モータースポーツ疎いけど分かる。これはドラマだわ -- 名無しさん (2023-07-13 14:44:03)
- 地上波放送では赤旗中に最大延長を過ぎてしまい、めざましテレビで結果を知った記憶がある -- 名無しさん (2024-02-02 09:02:20)
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*2 簡単に言うと、カーブを曲がる際にタイヤのグリップより遠心力が勝ってしまって、ハンドルを切っても思ったほど曲がらずに真っ直ぐ進んでしまう状態のこと。
*3 チャーリー・ホワイティングのこと。F1運営の技術部門トップにしてレースを統括するレースディレクターであり、ペナルティやセーフティーカー導入などを判断する大事な役割に就いている重鎮である。2019年に死去。
*4 雨の具合やチームの準備によっては、ドライバーの頭上に傘を差したり、マシンを覆うように簡易テントを張る場合もある。
*5 ヴァージンは元々マノー・レーシングというイギリスのチームだったが、紆余曲折あって2011年はロシア国籍でエントリーしている。
*6 F1にはスタートから1位のゴールまでを2時間以内に収める「2時間ルール」が存在するが、赤旗中断が挟まれた場合は中断の時間も含めて最大で4時間くらいがタイムリミットとなる。
*7 ここでは、スーパーソフトタイヤのこと。かつてのF1ではいかにピットイン無しで長く走れるかが重要視されており、より速く走れるが代償に寿命も短くなっているタイヤのことを、オプション=予備と呼んでいた。
*8 基本的に、周回遅れのマシンは走行ラインから外れて進路を譲る必要があるが、この時はカーティケヤンが走行ラインから離れなかったため、マッサはライン外の濡れた路面を走らざるを得なかった。
*9 バリチェロもまた、ミックスウェザーの路面状況を正確に読み取ってF1初優勝を決めた雨の名手である。
*10 マックス・フェルスタッペンの53.583km/h。このレースも豪雨に見舞われ、さらにクラッシュも重なってレース自体が短縮される事態となり、結果として優勝者の最低平均時速が大幅に更新されることになった。
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