登録日:2022/09/02 (金) 05:05:43
更新日:2024/06/27 Thu 10:24:15NEW!
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最
悪
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奇
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起
こ
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NOPE
概要
『NOPE/ノープ』とは、2022年に公開された米映画である。
ハリウッドにある牧場を舞台に「空に浮かぶ謎の物体」を中心とした事件を描く。
タイトルの「NOPE」とは、「いいえ」「全然」「無理」「ありえない」「もってのほかだ」など、否定的な小さな返事として使うスラングのこと。
監督は『ゲット・アウト』『Us/アス』の監督、『キャンディマン(2021年版)』の脚本を務めたジョーダン・ピール。
主演は『ゲット・アウト』でピール監督と組んだダニエル・カルーヤ。
IMAXでの上映を前提に製作された事もあり、撮影監督は『インターステラー』『ダンケルク』『TENET テネット』でクリストファー・ノーランとタッグを組み、IMAX撮影の経験を積んできたホイテ・ヴァン・ホイテマが担当。IMAXフィルムカメラを用いた場面は本編の約4割に及び、一部のIMAXシアターでは最大画角1.43:1の巨大画面での映写が可能となった。
ピール監督といえば『ゲット・アウト』『Us/アス』では都市伝説をモチーフにした社会問題を扱ったスリラーを撮る監督と知られている。
今作でも当然その要素は盛り込まれているが、より高度な比喩やメタファーが溢れていることに加えて純粋なスペクタクル映画としての色もより強くなっている。
ストーリー
エドワード・マイブリッジが撮影した12枚の連続する写真は『動く馬』と呼ばれ世界初の映画とされている。
それに登場する騎手の子孫が経営するヘイウッド牧場では、ハリウッドに貸し出す馬を育成していた。
だがある日、空から降ってきたコインによって牧場主のオーティスは命を落としてしまう。
原因は飛行機からの落下物による事故死と処理されたが、息子のOJはそれに納得がいかなかった。
OJは父の跡を継ぎ調教師として働くものの、不愛想な性格から仕事が無くなり近所にあるテーマパークに馬を売って生活費を稼ぐ生活が続いてしまう。
その一方、テーマパークのオーナーであり元人気子役のジュープはOJから買い付けた馬を使って、何やら一発逆転のショーを開こうとしていた………
そんな中、ヘイウッド牧場では奇妙な事件が続発する。
夜中になると牧場の周囲だけ停電が起こって電波が遮断され、馬は突然逃げ出し悲鳴と共に姿を消すのだ。
…ある時OJは「雲の谷間に消える巨大な円盤」を目撃する。
彼は妹のエメラルドと共に円盤を撮影することで名声を得ようとカメラを仕掛けるが、円盤の正体は彼らの想像を遥かに超えていた……
登場人物
- オーティス・ジュニア・“OJ”・ヘイウッド*1
演:ダニエル・カルーヤ/吹き替え:三宅健太
主人公。ヘイウッド牧場の現当主で動物調教師。
不愛想で気難しく他人からあまり好かれない性格だが、動物に対する愛情は大きく仕事を熱心に取り組んでいる。
馬の行方不明事件と空飛ぶ円盤を目撃したことからエメラルドの口車に乗せられ円盤の撮影に乗り出す。
- エメラルド・“エム”・ヘイウッド
演:キキ・パーマー/吹き替え:根本圭子
OJの妹。牧場の共同経営者だが、本職はマルチなハリウッドの裏方。趣味はバイク。
不愛想な兄とは対照的にお喋りで社交的な性格ゆえに動物調教の売り込みをしており、何かと問題の多い彼の世話を焼いている。
幼い頃は兄と同じ調教師を目指していたが、父に相手にされず不貞腐れて家を飛び出した。
OJから円盤の話を聞き、特ダネ映像として売り込み一攫千金を狙おうと彼を焚きつける。
- エンジェル・トーレス
演:ブランドン・ペレア/吹き替え:川中子雅人
プエルトリコ系の家電量販店の店員。大のUFOマニア。
職場が家電量販店なのも相まってガジェットに関しての造詣が深く、自宅にあるVRゴーグルなどでゲームをプレイしている様子も描かれている。
ヘイウッド兄妹のカメラ設置に付き合ったことがきっかけで2人がUFOを撮影すると察して興味を抱き、勝手にカメラにアクセスして盗撮するなど何かと絡むようになる。
- アントレス・ホルスト
演:マイケル・ウィンコット/吹き替え:宮内敦士
カメラマン。「奇跡の映像」を撮影すると豪語している。
「円盤を撮影してもらいたい」というヘイウッド兄妹の連絡を最初は一蹴したものの、とある事件がきっかけで乗り気になり彼らに機材一式を貸し出して作戦に参加する。
バカでかくて取り回しにくいIMAXカメラを手回し式に改造して電力を使わずに撮影できるようにしたビックリドッキリメカを自作したりと技術力も高い。
自宅には動物が上位種から捕食される映像が大量に保管されており、暇な時はずっと見ているかのような描写があるが…?
- リッキー・“ジュピター”・パーク*2
演:スティーヴン・ユァン/吹き替え:勝杏里
近所にある西部劇テーマパークのアジア系オーナー。
少年時代は子役として数々の作品に出演したが、1996年に出演したシットコムドラマ『ゴーディ 家に帰る』にて起きた“とある事件”で大きなトラウマを残した上、それがきっかけで業界からも忘れ去られてしまった。
現在は妻や子供達と共にアミューズメントパーク「Jupiter's Claim」を経営している。
ヘイウッド牧場から購入した馬を用いたショーを開催し、もう一度世間から注目を浴びようと奮闘する。
- オーティス・ヘイウッド・シニア
演:キース・デヴィッド/吹き替え:菅原正志
ヘイウッド兄妹の父親で先代の牧場当主。
ハリウッドで活躍する動物調教師で、OJとエメラルドの憧れの的だった。
空から降ってきたコインが目に貫通して死亡してしまう。
- ライダー・マイブリッジ*3
演:デヴォン・グレイ
OJ達の円盤撮影作戦中にバイクで乱入してきた特ダネ狙いの記者。
他人には無作法にカメラを向けながら自らはミラー・シールド付きのフルフェイスヘルメットを装備し、あくまでも一方的な「撮る側」として円盤を撮影しようとする。
なお、乗っているバイクは電動式である。
- メアリー・ジョー・エリオット*4
演:ソフィア・コト/吹き替え:二階堂結
かつてジュープと共に『ゴーディ 家に帰る』に出演していた女性。
しかし“とある事件”によって唇を噛みちぎられ車椅子生活になるほどの重傷を負ってしまう。
同時にジュープの初恋の人でもあり、彼が主催したショーに招待される。
最悪の奇跡の正体(※ネタバレ注意!)
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"I WILL CAST ABOMINABLE FILTH AT YOU,
MAKE YOU VILE,
AND MAKE YOU SPECTACLE."
'NAHUM 3-6
“私はあなたに汚物をかけ、
あなたを辱め、
あなたを見世物にする。”
旧約聖書 ナホム書3-6章
NOPE
登場動物
- ゴーディ
演:テリー・ノタリー(モーションキャプチャー)
1996年に放映のシットコムドラマ『ゴーディ 家に帰る』の主人公を演じたチンパンジーの一頭。
チンパンジーは本来同種との群れで生活して人格を形成していくのだが、人間の都合によってドラマ出演を強いられ、人間のまねごとをさせられ不自然な暮らしを強いられたことによって彼のストレスは溜まっていった。
そして1998年、ある撮影の日に小道具の風船が割れたショックで暴走し、人間達に殴り掛かってしまう。
ゴーディは共演していた役者を次々と殺害したが、駆け付けた警官により射殺される刹那
ジュープだけは襲わずに、彼と「グータッチ」をしようとした。
……ゴーディ暴走の一連は生存者であるジュープの主観で描写されるが、実際のところ
彼は荒れたスタジオに偶然生成されたかかとを上に向け直立する靴を無意識ながら注視していたためゴーディの目を「見て」おらず、ゴーディもちょうど目線の高さにかかるテーブルクロスのせいでジュープの目がしっかり「見えて」いなかったためにジュープは襲われなかった。
とどのつまり、もしも彼らの目が合っていたらジュープは襲われていた可能性が非常に高い。
さらに、ゴーディは撃ち殺される寸前に落ち着きを取り戻し「いつものように」ジュープとグータッチをしようとした。それどころかしっかりと目も合わせていたため……ジュープはこの壮絶な「最悪の奇跡」を心の中で消化するために
「自分は凶暴な動物と心を通わせられる」という想いを抱いてしまう。
演じたテリーは『猿の惑星』新シリーズでも猿のモーションキャプチャーを務めた。
- ラッキー
OJが牧場の中で一番大切にしている馬。
撮影に使うためハリウッドに連れてこられたが、機材のミラーに映る自分の姿に興奮して女優を蹴飛ばしかけてしまい、それによってOJは職を失う。
その後ラッキーはジュープに売られかけるが、物語後半の円盤撮影作戦でOJの相棒として活躍する。
未確認飛行物体JEAN JACKET【Gジャン】
学名:Occulonimbus edoequus*5
ヘイウッド牧場の上空に出現した「円盤の形をした怪生物」。
「Gジャン」という名称はOJが兄妹の思い出の馬から名付けた。
カウボーイハットのような外観の真ん中に円形の穴の空いた形をしているが実は穴に見えるものは口であり、そこから地上の「獲物」を吸い込み捕食する。
穴の大きさは直径75mもあり、その全身は直径数百mにもなる地上にも存在しないサイズの巨大生物である。
吸引の際周囲の砂がまるで竜巻のように巻き上がっていることから吸引力の強さがうかがえ、人間は複数人はもちろん数百kgある成馬も平気で吸い上げるため、人間の力で何かにしがみついているくらいでは到底抵抗できない。
範囲も75mということで相応に広大で、自分が捕食対象でなくてもその近くに捕食対象がいるなら巻き添えで吸い込まれかねない。
とはいえ頑丈な建造物を破壊できるほどの力はさすがに無いようで、きちんとした建造物のある街中なら逃げ隠れできる可能性は高いが、
映画の舞台となった見渡す限り遮蔽物のない荒野等で遭遇した場合脅威度は桁違いに上がる。
普段は雲に擬態し上空にとどまり、食事、つまり狩りの際はほぼ無音で下降移動しながら音を頼りに獲物を探し、地上にいる生物(の形をしたもの)の「視線*6」を認識して襲い掛かる。
さらに、獲物を逃さないためでもあるのかそういう生態なのか周辺の電磁波を妨害して電気が止まるため、その撮影はとても困難となっている。
雲に擬態している際は、他の雲が風に流されている中で全く動かず静止している雲と言う不自然極まりない雲なので、見た目は雲だがその行動様式を理解して見比べてみれば一目瞭然。
電波妨害の届かない距離に定点カメラなどを設置して長時間撮影をするとより分かりやすく、主人公たちもこの方法でその存在を気付くことができた。
獲物の上に舞い降りたら力強い吸引力で吸い上げ、いわゆる「咀嚼」をせずに丸呑みして体内で押しつぶし体液を啜る。そのことからわかるように口は開きっぱなしの体構造であるため先に飲まれた犠牲者が消化される悲鳴丸聞こえで舞い降りることが多く、何も知らない者が「何の音だ?」と思って視線を上げようものなら即捕食対象としてロックオンというハメ技を仕掛けてくる。
もしかしたらこの捕食した存在の音を聞かせる体の構造自体が、他の獲物をおびき出す疑似餌の役割のためのものと言う可能性もある。
ただし旗や風船といった無機物は消化出来ないため、しばらくすると吐き出していく。OJの父、オーティスの死亡時に降り注いだ金属片やコインは犠牲者の「食べ滓」を超高空から吐き出したものであり、カウボーイハットの穴は口であると同時に排泄器官でもある。クラゲかな?
出自や起源に関しては一切不明だが、ひとつ確かなこととして「自分を『見る』者に対して危害を加える」という習性はチンパンジーを始めとする既存の野生動物と同様であり、彼もまた立派な生き物である。
半年前、Gジャンはジュープの目の前に突然出現して調教していた馬を捕食。前述のゴーディ事件を経験したジュープはこれを見てGジャンを飼いならして見世物とすることで再びスターになろうと東宝特撮の悪役辺りが考えそうな金儲けを思いつく。
ジュープはどうにか「調教」しようとヘイウッド牧場から買い付けた馬を次々と与えるが当のGジャンはそんな思惑などつゆ知らず、与えられるがままに馬を食らっていた。そのうち周囲を自分の縄張りと認識しOJの牧場まで足を伸ばし、UFOを撮影しようと監視カメラを設置したヘイウッド兄妹に電磁波攻撃を加えながら悠々と馬を捕食する。
しかしエムがジュープのテーマパークから盗んだ馬の像と「視線」が合ったためそれを吸い込み、運悪くその瞬間をOJに見られたため存在を勘づかれてしまう。
……そしてジュープはテーマパークのイベント「星との遭遇体験」を開催し、記念すべき1回目に際し初恋の人を含む観客を大々的に招待。OJから買い取ったラッキーを餌にしてGジャンの姿を披露しようとしたが………
Gジャンは大勢の餌から「見られた」事により馬には目もくれず、
イベントに来ていた人間を全員捕食。
一通り餌を食いつくしたGジャンは同じ縄張りの中にある餌場ことヘイウッド牧場に体内でもがき苦しむ人間の悲鳴を撒き散らしながら向かっていく。エムとエンジェルが立てこもる家の真上に陣取り、馬の像を食わされた報復とばかりに消化できなかった無機物を落下させたり捕食した獲物で血の雨を降らせるうんこ攻撃を仕掛けるも、OJの手引で逃げられてしまう。
「視線を向けると襲われる」「無機物は消化できず吐き出す」ことに気付いたヘイウッド兄妹とエンジェル、そして「失踪事件は動物の仕業である」ことに興味を示したホルストによって本人はただ飯が食いたいだけなのに最後の対決に引きずり出される。
彼らの作戦はよりによって電動バイクでスクープを撮りに来た記者が乱入して無事捕食されるハプニングもありつつ成功はしたが……
実は重度の捕食フェチだったホルストが暴走。
雲に遮られていた太陽が見えたことで照明があるから最高の場面が撮れると言い出し、IMAXカメラを抱えながら自らをGジャンに食わせながらの撮影を行った。*7
無論、ここでおとなしく引き下がるGジャンではない。
ホルストの近くにいたエンジェルも食おうとするが、彼は転がっていた有刺鉄線やブルーシートを自分に巻きつけることによって無機物と誤認させて吐き出させ脱出に成功してしまう。
そして、散々腹の足しにならない無機物を食わされた事に遂にキレたGジャンは視線を認識したエムへと向かい……
JEAN JACKET【Gジャン】第二形態
Gジャンが円盤の形から本来の姿に戻った状態。
見るからに金属質の空飛ぶ円盤のようだった姿から一転し、絹のような質感の体表とイカやクラゲなどの海洋生物じみた様相を持つ異形へと変形した。
周囲に繊毛のような触手を付けた正方形の目を持ち、それで視線を認識している。
バカ記者が乗ってきた電動バイクでなんとか逃げようとするエムを捕食しようと電磁波を流しながらにじり寄るも、妹を救うべく駆け付けたOJに視線誘導させられてしまい、無電地帯の外に出たエムはそのまま逃亡。
その後Gジャンはエムを追ってテーマパークに向かっていくが、彼女が放ったジュープの巨大バルーンに「見られた」ことで反射的に捕食してしまい、吐き出すこともできずにバルーンの破裂に巻き込まれて爆散。
テーマパークにある記念撮影装置でバッチリ全体像も撮影されてしまうのだった。
人間に振り回された凶暴な野生動物は、奇しくも哀れなチンパンジーと同じく風船に脅かされてあっけなく最期を迎えた。
解説
ジャンル映画として
今作の宣伝やジャケットを見たならば、多くの人が『未知との遭遇』のようなSF映画、あるいは『エイリアン』『サイン」』ようなSFホラーかと思うかもしれない。
しかし、後半に円盤の正体が判明してからはジャンルが一転する。
今作は「円盤に擬態したモンスター」をテーマにしたモンスターパニック映画なのである。
ジョーダン・ピール空想特撮
恐怖の
円盤生物シリーズ
ド田舎壊滅!
円盤は生物だった!
クリーチャーである「Gジャン」は、日本の特撮ファンなら円盤生物を連想するだろうし、「特に超人的力を持っていない一般人が怪獣に立ち向かう」作風は『ウルトラQ』を彷彿とさせる。
また、同じような作風として「ハリウッド版『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』」という声もある。
そして、ジョーダン・ピール監督は「Gジャンのコンセプトは日本のTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の「使徒」から影響を受けた」と明言している。
確かに、「幾何学的な変形」はこいつ、「布のような肉体」はこいつを連想することも多い。*8
さらに、同じユニバーサル映画製作作品として元祖モンスターホラーである『トレマーズ』、ひいては永遠の名作である『ジョーズ』の影響も大いに受けている。
「陸の『ジョーズ』」の『トレマーズ』に対する「空の『ジョーズ』」の『NOPE/ノープ』ともっぱらの評判である。
スペクタクル(見世物)映画として
ジョーダン・ピール監督は製作にあたり影響を受けた映画として上記の『未知との遭遇』『エイリアン』『サイン』の他に
『キングコング』『ジュラシックパーク』そして『オズの魔法使い』を挙げている。
今作では繰り返し「見る」「見られる」という行為が象徴的に描かれている。
現代においてはSNSの隆盛により注目を浴びる、すなわち「見られる」ことに悦びを覚える人々がいる一方で、「見られる」という行為にはかつてより被虐性を含んでいた。
それは好むと好まざるとに関わらず演じることを強いられた俳優や、コメディリリーフとしてもの笑いのタネとされたマイノリティの人々……そして動物たちである。
『動く馬』においては世界初の俳優であるにも関わらずその名さえ知られない無名の黒人騎手。
『オズの魔法使い』においては薄給で雇われた小人症の演者や役柄のために異常なダイエットを強いられた女優。
なにより15歳の若さながら周囲の大人からぞんざいに扱われ、搾取され、恥辱を受け、果てには過酷な撮影から薬物の過剰摂取に頼り、後に47歳の若さで死に至ったドロシー役のジュディ・ガーランドが物語っている。
今作において、かかとが上を向き3回打ち鳴らせない靴が示すように、搾取され捨てられ壊れてしまったジュープが示すように、一度壊されたものはもう戻らない。
『オズの魔法使い』の事例はもはや過去のことと言えども、ハリウッドの映画の歴史は俳優の搾取とともにあったのだ。
その一方で、それは単純な搾取とも言い切れない。
人間には生理的な物質的欲求のほかに、他者から認められたい、自己を顕示したい、自己実現をしたい…といったような、精神的欲求を持っている。
かつて搾取が多く存在した俳優業は、昔も今もスターとして称えられている面を普遍的に持っている。
それは劇中においても、先祖がただ見世物として消費されたにも関わらずUFOを撮影し有名人になろうと画策したヘイウッド兄妹、
かつてステレオタイプなアジア系として消費され捨てられたにも関わらずまたスターとして帰り咲きたいジュープ……むろん、SNSに日々の徒然を書き綴る我々も同じである。
生理的な欲求が満たされ飽和され、今度は精神的な満足をみな得たがる人間社会においてはこの搾取的とも言える「見る」「見られる」という行為について、奇妙な相互関係が成り立っているのだ。
だが動物たちは違う。
自然界では繁殖におけるディスプレイなどの特殊な事例を除き、注目を浴びるということはすなわち死を意味する。
それを人間の尺で無造作に当てはめられ、その上彼らの土俵に上げられた動物たちはいったいどうなるのだろうか……
見世物として髑髏島から連れ出されたコング、見世物として古代から無理やり復活させられた恐竜、
そしてジュープ事件のモデルとなったチンパンジー「トラビス」の凄惨な事件が如実に物語っている。
その枠から外れようとした存在がGジャンであった。
Gジャンの姿を登場人物たちと同じように下から見上げた際の姿がどう見えるかと言うとこんな形→⦿に見える。
白い丸の中の黒い丸を見て連想される物の中に目があるだろう。
Gジャンこそ手の届かない距離からこちらを一方的に見る目であり、一方的に搾取=捕食する側の存在として描かれているのだ。
そんな人間社会の悪しき部分を暗喩している生物が、主人公たちの手によって白日の下に引きずり出され、
最後は本当の姿(いわゆる第二形態の姿)を映画と言う形を通して大勢の人たちに見られることになり、そして物理的にも破滅したのである。
ここからわかるように今作は悲観的な搾取のみを描いた映画ではない。
主人公たちの知恵と努力でGジャンを見返してその姿を撮影してみせたように、
ハリウッドの映画史も常に試行錯誤と発明、そして努力の結晶があった。
馬の動きを連続する写真に収めたことで映画という概念を生み出した『動く馬』
テクニカラーを用いた画期的な手法で撮影され美しい物語を紡ぎだした『オズの魔法使い』
今なお使われる多くの特殊効果を用いて芸術的な価値を残した『キングコング』
コンピュータグラフィックスで文字通り映画の歴史を変えた『ジュラシックパーク』
『NOPE』はハリウッドの負の面を描くと同時にこれらの偉大な映画が残したレガシーを紐解き、新たな黒人の映画史の一幕として再び描き直している。
作中でヘイウッド兄妹は、寄せ集めのチームを結成しUFO撮影作戦を開始する。彼らは創意工夫し、逆境に立ち向かい、一つの大きな目標に向かって邁進する。
それは、映画作りのプロセスそのものである。
そのプロセスの中において作中でレズビアンと示されたエムが、そして有色人種のヒーローたちがその属性に付随するキャラクター性を持つことなく真っ当に活躍し、
『NOPE』が搾取を扱った社会派映画ではなくUFOモノの大作スペクタクル映画として存在すること自体が
『動く馬』より続く黒人の映画史における輝かしい一幕であることは、もはや疑いようがない。
過去作との関係
監督の前作『Us/アス』で登場した架空のハンバーガーチェーン「コッパーポット・コーブ」が今作でも登場しており、当人も同一ユニバースのつもりで描いていると公言。
どうも作中のアメリカには円盤生物の他にも、
老いた白人の脳みそを健康な黒人の肉体に移植して永劫の時を生きながらえようとするKKKもビックリの秘密組織や、
政府の実験によって市民のDNAを使って勝手に作られたが失敗作として放置され、地下に潜みいつの日か地上征服を企むクローン軍団が同時に存在するらしい。もう終わりだよあの国。
追記・修正は空に浮かんだ円盤を撮影出来た人がお願いします。
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▷ コメント欄
- もう記事出来てたのか。例のアレ、性質的に木星や土星のガス惑星が故郷に見える。気球っぽい○○が生まれるとしたらガス惑星って説がある -- 名無しさん (2022-09-02 06:29:28)
- マジでよかったわ。終盤のAKIRAパロや井戸の伏線とかも中々。 -- 名無しさん (2022-09-02 08:17:06)
- チンパンジーのシーンは何の暗示? -- 名無しさん (2022-09-02 12:26:04)
- ↑ネタバレ欄に書いてるけどざっくり言うと「見世物にすることの残酷性とその逆襲」。チンパンジーを見世物にする人間=円盤を見世物にするジュープ=人間を見ながら食い物にする円盤 -- 名無しさん (2022-09-02 12:53:42)
- 「我々が見世物を見下す時、見世物も我らのことを見上げているのだ」という感じだろうか -- 名無しさん (2022-09-02 16:02:38)
- ↑2 なるほど。 -- 名無しさん (2022-09-02 16:58:27)
- 他のジョーダンピール作品はそもそもテーマの表裏がなかったけど、裏のテーマが深すぎる・・・ -- 名無しさん (2022-09-02 17:33:06)
- ウルトラマンレオの円盤生物編からウルトラマンレオを抜いたやつ -- 名無しさん (2022-09-02 22:14:46)
- 飯が食いたいだけとは言えども危険極まる生き物だから何れ駆除されていただろうな -- 名無しさん (2022-09-02 22:23:14)
- 猿の話いるか?と思って見てたけどめちゃめちゃ考えられた映画だったのか -- 名無しさん (2022-09-03 00:45:30)
- モンスターホラーだが、退治出来てるだけマシな結末だな。こいつが一体しかいないという保証もないが。生物としてあまりに異常すぎて、そもそも宇宙や異次元から来た存在なのかもしれない。 -- 名無しさん (2022-09-03 01:37:35)
- ジャケットが宇宙から来ているという証拠がない限り、元々地球に存在していた可能性も捨てられないんだよな。歴史上の集団行方不明事件は全てこいつのせいだったりして -- 名無しさん (2022-09-03 02:14:23)
- ネタバレ食らっても凄い楽しく見れた -- 名無しさん (2022-09-03 02:16:23)
- 予告動画の時点でUFO的なものは写ってたからあーはいはいアブダクションものねと思って見始める→猿??猿ナンデ???→コインや鍵を投棄したらしき描写に???→あっそっかぁ…… って感じで見事に引っ掛けられちゃったな。ただこれまでの監督先品とはガワの毛色がだいぶ違うんで、好き嫌いは分かれるかも?? -- 名無しさん (2022-09-03 06:46:16)
- 分かりにくいジュープとゴーディの回想は改めて考えると複雑な気持ちになる。文字通りにお互いまったく眼中になかったのが事実でジュープはその事に最期に気づけただろうか。 -- 名無しさん (2022-09-03 11:47:58)
- あの円盤生物、電子機器無力化は脅威だけど耐久力はそんなに高くない(特に内臓)から、ガチで倒すなら対空機関砲辺りが有効なのかな? -- 名無しさん (2022-09-03 16:08:42)
- ↑極論、爆弾抱えながら喰われて自爆! …で済みそう。ホルストはそうするべきだった。まぁあの時点ではGジャンに無機物喰わせて追っ払う作戦だったし殺傷武器は持ってなかったからねぇ…… -- 名無しさん (2022-09-03 18:33:59)
- こうして見るとSCPにも居そうな生態してるね。厄介な特性はあるものの対処法さえ確立すれば封じ込めておけそうな点も含めて。 -- 名無しさん (2022-09-03 20:47:17)
- 軍が出動すれば倒せそうだけどその場にはいないって状況はミストっぽい -- 名無しさん (2022-09-03 20:52:24)
- ジュープ氏、ショー直前の様子からすると、「よっしゃー未知との遭遇でモリモリ稼ぐぞ!俺には才能あるから大丈夫!」って能天気さよりも、なんだか「俺ならできる…俺ならできる…」みたいな不安さのほうがあったから、あの時のモヤモヤをもう一度疑似体験する事で乗り越えたいみたいなのもあったんじゃないかなあ。愚かではあったがただのアホだったとは思いたくないな。 -- 名無しさん (2022-09-03 20:56:57)
- 空を高速で移動しながらも、雲をかき分けたり、空気抵抗を受ける様子がなかったから物凄く軽くて、頑丈さは無かったのかも -- 名無しさん (2022-09-03 21:14:49)
- ↑4 サングラスとかつけてれば回避できそうだしな -- 名無しさん (2022-09-03 22:43:24)
- エメラルドがレズビアンか少なくともバイセクシャルな設定、如何にも最近のハリウッドらしいな。 -- 名無しさん (2022-09-03 23:39:50)
- 豚が無事だったのも伏線なんだよな -- 名無しさん (2022-09-03 23:42:34)
- 実を言うとアニオタwikiの記事になるとは思わなかった -- 名無しさん (2022-09-04 01:39:10)
- Gジャンの正体や所業より、ゴーディホームの顛末に胃がキュッとなった…。動画サイトなんかで「動物」を金儲けのための「物」として扱うような映像文化への批判と危険を冒してまで決定的瞬間を収めようと努力する事へのリスペクトを込めた怪作だったと思う。 -- 名無しさん (2022-09-04 11:27:36)
- 人類にとって脅威的な怪物ではなく、ただそういう生き物でしかないというのは中々新鮮 -- 名無しさん (2022-09-04 12:13:28)
- 人にとってはともかく人類にとってはそこまで脅威じゃないんだよな。生態さえ把握すればアメリカなら警察隊レベルでも退治できそう -- 名無しさん (2022-09-04 14:15:53)
- 公式サイト見たら樋口監督の興奮してるコメントが寄せられていた。そりゃ米国版ウルトラQなんか見せつけられたらねぇ -- 名無しさん (2022-09-04 15:30:32)
- 死亡フラグ立ちまくってたエンジェルが最終的に生き残ったのはお約束外してきたなと思う -- 名無しさん (2022-09-04 18:32:23)
- gordy's homeのOP映像を見たら複雑な気持ちになった -- 名無しさん (2022-09-04 22:32:48)
- 冒頭のニュースで流れていた、登山ツアー客行方不明のニュースも、犯人はGジャンだったんだろうな -- 名無しさん (2022-09-05 00:36:08)
- 序盤の方は薄気味悪さがあるからあの靴の直立が超常現象かと思っちゃって裏テーマを読み取り辛かったな自分は -- 名無しさん (2022-09-05 12:10:20)
- Gジャンに食われて消化されたジュープの最後がどのようなものだったかは視聴者の想像に委ねているところもあり、自分としてはゴーディとグータッチ・・・かーらーのショタジュープ君グチャグチャミンチ劇場でした!という事実に気付いてGジャンの栄養になったと思っている。 -- 名無しさん (2022-09-05 18:40:56)
- 眼窩が覆われてて分かりにくいゼノモーフとかに見られても、殺意を抱けるんだろうか? -- 名無しさん (2022-09-06 09:25:32)
- Gジャンがシルバーブルーメとは別の意味で凶悪だと思う -- 名無しさん (2022-09-15 09:46:17)
- ジュープの過去であるゴーディの話を重きを置いた作品もできれば作ってほしい。甘ったるい現実に妙な幻想を抱き過ぎて、希望だと勘違いしている奴らを打ち砕く意味を込めて(鬼畜) -- 名無しさん (2022-09-15 10:53:18)
- あ!野生のUFOが飛び出してきた! -- 名無しさん (2022-09-16 19:20:40)
- エンジェルはなんだかんだ最後まで兄妹に協力したし、最終的に金よりも今後犠牲者が出ないかを気にしてたり、意外にいい人だと思った。最後に助かったのもそれが理由かなとも思ってる。 -- 名無しさん (2022-09-16 22:34:44)
- 最後の反転部分でUS(アス)のネタバレを食らっちまったよチクショウ!! それはそれとして監督が次はどんな超常現象×社会問題の映画を取るのかが楽しみになったわ -- 名無しさん (2022-09-18 23:24:44)
- それがいる森も他力本願でオナシャス! -- 名無しさん (2022-09-30 18:05:31)
- ゴーディ関連の話だけでもちょっとした作品出来そうなくらいのインパクトと緊迫感あった -- 名無しさん (2022-11-05 22:49:02)
- 電子機器がより普及した都市部にGジャン出没してたら、インフラに絶大な被害を及ぼすよね。(後正体発覚した際、個人的にウルトラマンレオと戦う所も見てみたいと思った) -- 名無しさん (2023-01-26 19:16:00)
- ORTの円盤がコレっぽいな(実際にはORTの方が早いが)と思ったがORTの方が凶悪極まりなかったわ -- 名無しさん (2023-02-14 01:18:12)
- ↑そもそもORTの円盤形態事態が一般的なUFOの形なので……同じくUFOみたいな形のGジャンに似るのは当然よ -- 名無しさん (2023-04-18 23:15:20)
- ショーでは子供も食われてるんだよな… -- 名無しさん (2023-06-05 23:24:50)
- キレたチンパンに不具にされてキャリアもズタボロ、久々に昔の仕事仲間と再開したと思ったら化け物に踊り食いされるとかメアリーの不幸っぷりが半端ねぇ -- 名無しさん (2023-06-21 02:35:01)
- OJが好きなビールはキリンビール -- 名無しさん (2023-07-23 11:04:52)
- 特性を知らなければ最新鋭の軍ですらカモられかねないが、生態を理解すれば特大バルーン一個で片がつく。ここまで理解度で脅威の度合いが変わる怪物も珍しい気がするな -- 名無しさん (2023-10-14 20:30:21)
- ↑「恐怖の本質は正体不明」を体現してる感じするね -- 名無しさん (2024-02-10 19:58:03)
- サブスクで見ると、恐怖や音響のインパクトは薄れるなぁ。IMAXで観に行った初見は形容し難い迫力があった。コロナ禍で劇場離れが進んだ時に是が非でもあの体験をしてもらいたいという監督の思惑を感じる、そして最初の映像の黒人騎手とその子孫たるOJの最後の騎乗のカットがつながって、また新たな映像の歴史をここから紡いでいく、という決意の表明をも感じる。よくできた劇場体感特化型怪作映画だぜほんとに… -- 名無しさん (2024-04-09 07:40:13)
- 物理耐性は低いのかな -- 名無しさん (2024-06-05 11:11:07)
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*2 ジュープのモデルは『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』にてショート・ラウンド役を演じたキー・ホイ・クァン氏である。彼のハリウッドでのキャリアの遷移はジュープにも通ずるものとなっている。
*3 「マイブリッジ」という名は今作における原点でもある『動く馬』の製作者、エドワード・マイブリッジの名前でもある。
*4 チンパンジーに襲われ重篤な障害を負う話は「トラビス」という名のチンパンジーが起こした事件がモデルである。彼はアメリカの一般家庭で飼育されていたが、成熟するに従いチンパンジーが本来持つ凶暴性が露わとなり、些細なことがきっかけで知人の女性に襲い掛かり顔を10分間にわたって殴打。その後警官に射殺されている。被害女性は奇跡的に一命を取り留めたが映画とは比べ物にならないほどの、文字通り顔の原型がなくなる程の重傷となった(検索される際は注意されたし)。その後被害女性は劇中にてOJとエメラルドが「成りあがる」目標と定める『オプラ・ウィンフリー・ショー』に出演している。
*5 「夜空の雲に隠れ馬を襲う者」という意味。クリーチャーデザインの考証を担当した海洋生物学者が実際に命名しており、劇中においても作中の出来事の後に生存者達が情報を大学に持ち込んでこう名付けられたという設定が存在する。
*6 具体的には顔のパーツに目を思わせる二つの丸模様が付いている物体を「視線」と認識している。
*7 なおこのシーンは公開当時日本で2館しかないIMAXレーザーGT形式で見た場合、アスペクト比が横長い一般のシネマサイズ(約2.4:1)から正方形に近いIMAXサイズ(約1.9:1)に切り替わる演出がなされている。ホルストが頑張って手回しで撮影するアナログ式に改造したIMAXカメラ撮影機は決して無駄ではなかった模様だが、いかんせんその努力の結果を確認する方法が限られまくっていたようである。
*8 日本アニメオマージュとしては、エヴァの他に『AKIRA』が含まれる。Gジャンの悍ましい体内は鉄雄の「あの」シーンを連想させるほか、エムが電動バイクにて駆けるシーンは世界的に有名な「あの」金田のバイクのオマージュとなっている。
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