登録日:2022/01/08 Sat 05:05:18
更新日:2024/06/17 Mon 13:23:35NEW!
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伝説の聖剣
それは英雄だけが
帯びることを許された
伝説の聖剣
いまこそ抜け
強く振り下ろせ
力まかせに突き刺せ
冷酷なまでに硬い刃で
万物を斬り裂き
非情なほど鋭い切っ先で
すべてを貫き破るのだ
───名馬の肖像 2018年 マイルチャンピオンシップ
デュランダルとは日本の元競走馬、種牡馬である。
名前の由来は中世の叙事詩「ローランの歌」で主人公ローランが使う不滅の聖剣「デュランダル」。
その名に違わぬ強烈な末脚を武器に、2000年代前半の短距離界に君臨した名スプリンターである。
●目次
血統背景
父:サンデーサイレンス
母:サワヤカプリンセス
母父:ノーザンテースト
サンデーサイレンスとノーザンテーストは共に社台グループを日本最大の生産者にのし上げた立役者。
...なのだが、父サンデーサイレンス×母父ノーザンテーストの配合は何故か長らく活躍馬が出なかった。
サンデーサイレンスはもちろんノーザンテーストも母父として非常に優秀。
サッカーボーイ、サクラバクシンオー、フラワーパーク、エアグルーヴ等を輩出している…が、父がサンデーサイレンスだと何故か思ったほど走らない。
一応この馬以前にもフェアリーステークス(G3)の優勝馬で桜花賞3着のプライムステージ、高松宮記念2着のディヴァインライトなどがいる。
全く走れないというわけではなかったものの、G1には届かない。呪いのようなジンクスである。
そのため配合という点だけで見れば、このデュランダルはそこまで活躍を期待できるほどの馬ではなかったといえよう。
聖剣の叙事詩
研磨の時
母や兄姉は短距離戦線で活躍していたこともあり、デビュー戦は2001年12月に阪神で行われた芝1200m。
単勝1.4倍の一番人気に推されたこのレースでは上がり3ハロン最速の末脚で快勝…したもののその後に脚部不安のため休養。
翌年の8月の復帰戦を2着とした後、条件戦で3連勝。
その後すぐ挑んだマイルチャンピオンシップでは上がり3ハロン1位タイの34.1を叩き出したものの10着に敗れる*1。
その後は条件戦を2戦目で勝利し、中山記念(G2)に挑むものの距離が長かったか9着と完敗。
再び休養に入り、休養明けのセントウルステークス(G3)では上がり最速の33.3の末脚もかなわず3着。G3で上がり3ハロン33.3の3着…と、無駄に3尽くし
ここまでの戦績だけを見れば正直微妙な馬ではあるが、上がり3ハロン1位にならなかったレースは10戦中2戦のみとその力の片鱗は十分に見せていた。
そしてこの後のスプリンターズステークスで、研ぎ澄まされた聖剣がその真価を発揮することとなる。
聖剣抜刀
調教師である坂口正大は当初、マイルのポートアイランドステークスに出走させる計画を立てていた。
しかしセントウルステークスで鞍上を務め、引退まで彼の手綱を握ることになる池添謙一がスプリンターズステークスへの出走を進言。
1200mで追い込み型の彼が勝てるのか?という懸念もあったが、最終的に進言を容れて出走することに。
そして本番のスプリンターズステークス。
前年の同レースと高松宮記念を勝利しており、これが引退レースであるビリーヴが一番人気な中、デュランダルは重賞未勝利ながら五番人気に推される。
レースでは四番人気テンシノキセキが先頭に立ち、デュランダルは最後方からレースを進める。
直線半ばでビリーヴが先頭に立ちこのまま有終の美を飾れるかと思われた瞬間、大外から桁違いの末脚ですっ飛んでくる馬が一頭。
そう、デュランダルである。
最後方にいたデュランダルが大外から一気の末脚で突っ込み、ビリーヴと並んでゴールイン。
結果、ビリーヴの単勝馬券をたくさん買ってた*2実況の青嶋アナが「きわどいきわどいきわどい!」と何度も連呼する程の大接戦ドゴーン!!。
それをハナ差で制し、デュランダルは見事G1制覇及び重賞初制覇を成し遂げた。
そしてこのレースで父SS×母父NT配合は初のG1制覇を果たした。
SS産駒がデビューしたのが95年なので実に8年もの時間を要している。
なおこの後、父SS×母父NT配合は
- 2004年の皐月賞を制し、喉鳴りを乗り越えマイル王に君臨したダイワスカーレットの半兄ダイワメジャー
- このスプリンターズステークスで3着に入り、2005年の高松宮記念を制したアドマイヤマックス
- クラシック二冠馬エアシャカールの半姉であるエアデジャヴーの娘で、母の届かなかった秋華賞を制したエアメサイア
サンデーサイレンスの子も含めれば
...など、まるで呪縛から解き放たれたかのように、多くの活躍馬を輩出。
そんな呪縛を一刀のもとに斬り伏せた張本人であるデュランダルは次走にマイルチャンピオンシップを選択。
不安材料もあったがこのレースでもデュランダルはその力を如何なく発揮。
不振にあえいでいたファインモーションが抜け出しかかり、復活する…
かと思われた刹那、大外から凄まじいとしか言いようのない末脚でデュランダルが後方15番手から前の全頭を一刀両断。2連勝を果たした。
「スプリンターズステークスに続いて名刀デュランダルの切れ味!
大外からファインモーションを切り裂きました!」
──2003年マイルチャンピオンシップ実況(馬場鉄志)
この成績が認められ、2003年の最優秀短距離馬のタイトルを獲得。一流馬の仲間入りを果たした。
聖剣君臨
翌年の2004年、初戦は高松宮記念。初の左回りコースや休養明けという不安材料がありながらも1番人気に支持された。
大外から鋭く伸びたもののサニングデールにクビ差及ばずの2着。
次走には安田記念を予定していたものの、裂蹄により春シーズンは全休となる。
秋には回復したものの復帰戦は前哨戦を挟まずスプリンターズステークス。
記録的不良馬場をものともせず、前年と同じスタイルで突っ込むもののカルストンライトオの馬場を利した幻惑逃げを捉えきれず2着。
惜しいレース続きではあったものの次走の2連覇をかけたマイルチャンピオンシップ。
ただ一頭上がり3ハロン33秒台を叩き出し、2着ダンスインザムードに2馬身差をつけて見事に連覇達成。
まだまだその切れ味は鈍っていないことを証明した。
短距離界の頂点に立ったデュランダルは香港の沙田競馬場で行われた香港マイルに招待され出走。
だが追い込み馬の彼にとっては最悪なことに馬場に大量の水が撒かれてしまう*3。
それでもいつもの末脚で懸命に前を追い5着に食い込んだ。流石の一言である。
そしてデュランダルは短距離GIでの安定した成績が評価され、2年連続でJRA賞最優秀短距離馬に選出された。
納刀の時
2005年も現役続行の予定だったものの、再び蹄が悲鳴を上げる。
しかも前年のような裂蹄ではなく、蹄葉炎。父サンデーサイレンスの命を奪った病である。
競走生活の続行は不可能とされたが懸命の治療の結果、10月のスプリンターズステークスで復帰。
二番人気に推されたこのレースでもやはり後方待機から生涯最速の上がり3ハロン32.7の末脚を繰り出すが、当時世界最速と言われた香港最強スプリンターサイレントウィットネスには届かずの2着。
三連覇をかけたマイルチャンピオンシップではこちらも上がり最速で突っ込むも前が止まらずハットトリックの8着。
蹄の状態もあり、このレースを最後に競走馬を引退した。
通算成績18戦8勝[8-4-1-5]。獲得賞金は5億323万円。
ちなみに18戦中15戦で上がり最速を記録している。
引退後
社台スタリオンステーションで種牡馬入り。
産駒の評判は良く、セレクトセールでもよく売れたのだが、小倉2歳ステークスを勝ったジュエルオブナイル以外はイマイチで正直期待外れな感じは強く、2010年にブリーダーズスタリオンステーションに移動となった。
2011年5月にはエリンコートが優駿牝馬(オークス)を制し名誉挽回
…と思われた矢先の2013年7月7日に心臓麻痺で死去。14歳という若さでその生涯を終えた。
結局後継種牡馬は残せなかったが、没後母父デュランダルのチュウワウィザード(父キングカメハメハ)・トーセンスーリヤ(父ローエングリン)が活躍。
まだまだ聖剣の系譜は続きそうである。
ちなみに産駒には聖剣の名を継いだカリバーン(地方重賞「せきれい賞」馬)やフラガラッハ(2012・2013年中京記念馬)なんてのがいた。
余談
- 気性とレーススタイル
デュランダルは非常に気性が荒く、ゲート内で落ち着きを保てずスタートがうまく切れない傾向があった。
3歳時に騎乗した武豊が調教師の坂口に「この馬は後ろから行って大外を回った方が走る」と進言したこともあり、以降馬群の大外を回って追い込むレーススタイルが定着した。
しかし彼の本領は1200mの短距離戦。正直追い込みでは不利な条件である。
スプリンターは前に付けられる馬こそ名馬であるというのは鉄則とも言われる。
しかし短距離戦で後方待機を取れる胆力と決め打ちの巧さを持った池添謙一と共に、不利条件も不文律もまとめて斬り捨てたのがデュランダルであった。
- 蹄鉄について
蹄にかかわる故障に2度も苦しめられたことからわかるように、デュランダルは生まれつき蹄が弱かった。
そのため装蹄にはエクイロックスと呼ばれる樹脂で蹄を覆ってから、釘を使わずに蹄鉄を装着する技法が採用された。
後のディープインパクトなどでも同様に採用された方式である。
- SS×NT
デュランダルを契機に呪縛の解けた相性の悪い配合。
しかし先述の通り、この馬以前にもプライムステージ、ディヴァインライトなどG1勝利こそないもののそれなりに活躍した馬もいるのは事実。
後から考えると「これ短距離血統なのに大種牡馬同士だからって中長距離に期待しすぎたんじゃねえの?」とも言われた。
もっとも、サクラバクシンオーやフラワーパークを送り出した実績を持つ母父ノーザンテーストはまだしも、当時の父サンデーサイレンスは短距離路線の実績に乏しく、G1級の大物はデュランダルと1世代しか違わないビリーヴぐらいしかいなかった。
どちらかと言うと短距離に期待しようがなかったと言った方が正確かもしれない。実際ダイワメジャーは有馬でも好走している。
なおノーザンテースト自身は欧州で7ハロン(約1400m)のG1に勝っている。
- 相棒池添謙一
共に初G1から始まりG1を3勝する相棒となったが、実は騎乗馬がなかった彼に偶然声が掛かったことが彼とのコンビの始まり。
セントウルで3着に敗れるも驚異的な末脚に惚れ込んだ池添が坂口調教師に「スプリンターSも自分に騎乗させてほしい」と頼み込んだ。
するとオーナーから「枠が開いてるなら挑戦しよう」と快諾し出走が決定。結果初G1を獲得。
マイルCSを制した時には「サイッコーだよお前ー!!」と抱き着き、インタビューでも「素晴らしいの馬と巡り会えた」と褒めちぎっていた。
その思い入れ様は後に「デュランダルがいなければ今の自分はないと思います」と彼の口から出るほど。
携帯の待ち受けをずっとデュランダルにしているレベルで彼にとっては特別な馬だった*4。
デュランダルの死後は毎年墓参りをしているそうで、このエピソードからも彼のデュランダルに対する思い入れが分かる。
池添といえばドリームジャーニー・オルフェーヴル兄弟やスイープトウショウというのは確か。
だが、このデュランダルも池添とベストコンビな馬だったといえるだろう。やはり気性難な馬に縁のある男
何よりこのデュランダルとの活躍があったからこそ、素質ある癖馬たちに乗ることに繋がったのである。受難の始まり?その通り
とにもかくにも動画サイトなどで上がっているレース映像を一度だけでも見てほしい。
一頭だけ次元の違う、まさに「聖剣の切れ味」なその末脚は、一度見たらきっと忘れられないはずである。
追記・修正は聖剣を研ぎ澄ませながらお願いします。
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▷ コメント欄
- デスティニープラン(馬)とはたぶん特別な関係はない馬 -- 名無しさん (2022-01-08 09:21:46)
- 聖剣抜刀はエクスカリバーやろがい -- 名無しさん (2022-01-08 20:22:34)
- 競馬界ではカリバーンの方が成績良いくらいエクスカリバーはナマクラばっかなので… -- 名無しさん (2022-01-08 20:33:34)
- 今年の小倉2歳ステークスの勝鞍ロンドンプランの勝ち方がマジでデュランダルだったな -- 名無しさん (2022-09-09 11:23:12)
- ガノタのせいかデュランダルと聞くと聖剣よりも議長の顔が思い浮かぶ -- 名無しさん (2022-09-29 23:41:54)
- ikzeの魂に深く刺さって抜けない呪いの聖剣 -- 名無しさん (2023-08-21 13:26:28)
#comment(striction)
*2 ゴールイン後、ビリーヴの名を連呼していたからそう言われているだけである。
*3 鞍上の池添曰く、同年のスプリンターズステークスを超える程の不良馬場だったらしい。
*4 なお現在はスマートフォンとの二台持ち。スマホの方の待ち受けは後に共に三冠を取ったオルフェーヴルだそうだ。
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