皇帝のいない八月

ページ名:皇帝のいない八月

登録日:2021/06/23 (水) 01:22:09
更新日:2024/05/27 Mon 13:50:17NEW!
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長く熱い8月―――日本を震撼させた戦慄の24時間!


小林久三の同名の小説を原作とした1978年の映画。上映時間140分。ジャンルはポリティカルフィクションとパニック。
自衛隊内の一部不穏分子が右翼政権樹立を狙ってクーデターを起こし、それを秘密裏に鎮圧しようとする日本政府と不穏分子の攻防を描いた作品で、同時多発的に蜂起したクーデター部隊が次々と鎮圧されていく中、ブルートレインさくら号を乗っ取ったクーデター首謀者率いる部隊は最後まで抵抗を続ける。
原作者の小林曰く「映画『カサンドラ・クロス』*1の舞台を日本に置き換える形でこの作品を書いた」とのことで、本作も「和製カサンドラ・クロス」と呼ばれることもある。


タイトルの「皇帝のいない八月」は原作では意味をぼかしているが、映画では交響曲のタイトル及びクーデター作戦の名称に設定されている。


内容が内容なだけに自衛隊・国鉄の正式な撮影協力は得られず、それどころか結末の描写に国鉄が大激怒したことで知られる。
正式な協力が得られなかったことなどに起因するツッコミどころも多いが、それ以上に三島由紀夫が乗り移ったかのような渡瀬恒彦演じるクーデター首謀者の演説など見所も多い。


あらすじ

8月14日未明。盛岡市で不審な大型トラックを追跡したパトカーが銃撃され、炎上した。自衛隊の不穏分子・A級特定隊員の藤崎をリーダーとするクーデターの発端だった。
同日18時30分。博多駅から東京行「特急さくら」に乗った業界紙記者石森は、かつての恋人で、今は藤崎の妻・杏子に再会する。
この列車は藤崎らに制圧され、やがて日本中を震撼させることになる……!!


(松竹ホームビデオより発売の同作VHSパッケージより引用)


登場人物

  • 藤崎顕正

演:渡瀬恒彦
元第32普通科連隊1等陸尉。今回のクーデター・列車乗っ取りの首謀者で藤崎杏子の夫。狂信的な軍国主義者で、自衛隊警務部よりA級特定隊員*2に指定され、監視対象となっている。
原作では何と脇役。
後に転生して警視庁の刑事となるも諸事情で警察官を辞めてタクシードライバーへ転身したり、警視庁に残って時刻表トリックを解いたりする刑事になった。


  • 藤崎杏子

演:吉永小百合
藤崎顕正の妻で石森宏明の元恋人。突然の父親の訪問に不穏な何かを感じ取って博多駅へ向かい、ブルートレインさくら号に乗り込む。
なおこの役が演者にとって初めて自分が死ぬ役になったという。


  • 石森宏明

演:山本圭
藤崎杏子の元恋人で、業界紙レザー旬報の記者。元恋人からただならぬ雰囲気を感じ取って自身もさくら号に乗り、真相を言うよう詰め寄る。
別の世界線では新幹線に爆弾を仕掛け、身代金を得ようという計画に参加するもあと一歩のところで追い詰められて自爆した。



  • 江見為一郎

演:三國連太郎
藤崎杏子の父親で、陸上自衛隊幕僚監部警務部長。盛岡でのパトカー銃撃事件から数日後、鹿児島の法事に出席していたが急遽東京への帰還を命じられる。
東京への帰還途中、博多へ立ち寄って娘と会い夫の動向を尋ねるも数日前から出かけていると知り、一抹の不安を感じ取る。
最後は口封じのためにロボトミー手術を受けさせられ、廃人にされてしまう。



制作

自衛隊がクーデターを起こしてブルートレインを乗っ取るという内容の映画なために政府・自衛隊・国鉄の協力は得られず、ブルートレインも自衛隊の車両・装備品もセットや模型・小道具で賄われている。


まずブルートレインは車両の外観・車内の全てでセットを組んでいる。
外観は北海道にあった三菱大夕張鉄道の明治生まれの木造客車に最新型のブルートレインのハリボテを付けたセットを南大夕張駅構内に設営。これを利用して駅停車中に客車へ爆弾を仕掛けるシーンなどを撮影した。細かい部分をよく見ると屋根上にクーラーがなく、元になった客車の補強用トラス棒や旧式の台車が映っている他、1両ごとの長さがバラバラなのがバレバレ。
当然のことだがカメラに映らない方は元の客車そのままである。
車内のセットはB寝台車2両と食堂車1両を製作。ポスターに新潟の国鉄指定工場に発注したと書くだけあってきちんと寝台が動くなどとてもリアル。なお新潟の国鉄指定工場とは実際にブルートレインを製造した実績のある新潟鐵工所のことと思われる。


ブルートレインの走行シーンは沿線や駅で撮影したものの組み合わせ。この関係上、ポスターに描かれている機関車と本編に登場する機関車が同じ形式なのに外観が全く異なり、沿線にカメラを構えることが出来ない関門トンネル区間の機関車が全く登場しない。
ただポスターに描かれている機関車だと走行中に客車から機関車の運転席へクーデター部隊が乗り移れないため、この変更はある意味致し方ない。


自衛隊の車両・装備品はこの映画の翌年に公開された『戦国自衛隊』の撮影に使ったものと同じものを使用している。


そしてこの映画のラスト、激しい銃撃戦の末に倒れた藤崎顕正が杏子の亡骸を抱えて爆弾を仕掛けた列車を爆破するのだが、その結末に国鉄の怒りも大爆発。国内映画会社全社が国鉄の撮影協力を得られなくなったという有名なエピソードがある。
別の国鉄の看板商品が爆破されるシーンのある映画では国鉄の意に反した隠し撮りをしたり、本物と同じ部品を使って無許可でセットを組んだりしても爆破は最悪の結末を想像したイメージカットだけだったので映画会社がしばらく出禁になっただけで済んだが、今回は(映画を見て真似する人が居ないであろう事を差し引いても)変えようのない映画の中の現実で派手にドカンとやってしまったので怒るのも無理はないだろう。ちなみに元ネタとも言えるカサンドラ・クロスでも登場する鉄道会社をヒールとして描いてご機嫌を損ねたというエピソードがある。
なお列車の爆破シーンは三菱大夕張鉄道の客車を改造した実物大セットをドカンとやった訳ではなく、模型を使用した特撮。そのため撮影終了後もしばらくは南大夕張駅にセットが残され、当時南大夕張駅を訪れた鉄道ファンが撮影した写真はインターネット上でも閲覧できる。


作中のチリ・クーデターの回想シーンは『サンチャゴに雨が降る』という外国映画と実際の記録映像の組み合わせ。この他にも記録映像は浅沼稲次郎暗殺事件や三島自決事件なども使用されている。


キャスト面では、当初主人公の藤崎顕正役は渡哲也を起用する予定だった。しかし石原プロ側の都合でスケジュールを空けてもらえず、実弟の渡瀬恒彦に話が回ってきた。
今となっては信じられないかもしれないが、当時の渡瀬はチンピラやヤクザ役のオファーばかりだった。しかし今作で狂信的な軍国主義者を見事に演じきった事が高く評価され、演技の幅を大きく広げることに成功した。
またさくら号の乗客として男はつらいよの寅さんでおなじみの渥美清も出演している。



映画内で流れる交響曲「皇帝のいない八月」は本作で劇伴を担当した佐藤勝が作曲した劇中曲で、本作のための書き下ろし。



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  • 皇帝のいない八月、天使のいない12月 -- 名無しさん (2021-06-23 13:24:50)
  • ネタがネタだけに「野生の証明」とは対照的になかなかテレビ放映されない… -- 名無しさん (2021-06-24 21:13:11)

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*1 1976年公開。イタリア・イギリス・西ドイツ・フランス・アメリカの共同制作作品でもある。
*2 左右問わない過激思想に染まっている、またはその同調者とみなされた隊員

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