男はつらいよ

ページ名:男はつらいよ

登録日:2022/02/05 Sat 18:43:18
更新日:2024/06/17 Mon 13:46:46NEW!
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わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、


人呼んでフーテンの寅と発します。



男はつらいよとは、松竹制作の日本映画である。
主演は渥美清、脚本・監督は山田洋次。



概要

「フーテンの寅」こと車寅次郎が家族や旅先の人たちを巻き込みながら繰り広げる人情喜劇。


当初はフジテレビで全26話のテレビドラマとして作られ好評を博したが、寅さんがハブに噛まれて死ぬという衝撃的な最終回に視聴者からの不満が殺到し、ならばと映画化されたという経緯がある。そのため初期作品はドラマ版のリメイクや延長といった雰囲気が強く、人情味溢れる寅さんのゆったりとしたコメディだと思って視聴すると面食らうかもしれない。


1969年から1995年まで通常版、渥美の没後に特別版が2本制作されたためシリーズは全50本。
『ひとりの俳優が演じた最も長い映画シリーズ』としてギネスワールドレコーズにも認定された長寿シリーズである。


映画は毎年お盆と正月に公開され観客動員は毎回100万人を超えており、当時ハリウッド映画やテレビドラマに圧されて低迷期にあった日本映画では数少ない人気作品であった。
末期は正月版のみの制作となったが季節の風物詩として定着し、俳句の冬の季語として「寅さん」が一般化するほど。



話のパターンはかなり初期から確立されており、大抵


寅さんが帰ってきて何かトラブルを起こす

マドンナに出会って一目惚れして調子に乗る

あの手この手で気を引こうとするが、結局マドンナに他の恋人が現れるなどの理由で失恋

傷心の寅さんはまたどこかへ旅に出る


という流れで構成されている。時々寅さんに惚れるマドンナも現れるのだが、そういう時は寅さんがヘタレて逃げ出すのがお約束。
喜劇の皮こそ被っているが、シリーズが終了するまで結局一度も主人公の想いが実ることのない失恋ドラマという割と笑えない側面も持つ。
それ以外にも重いテーマを扱うことが多い本作だが、それでも長く愛されてきたのはどんなに辛いことがあっても必ず立ち上がって前を向いて歩いていける寅さんの人間力が成せる業…なのかもしれない。


今なお知名度の高い人気映画だが、その一方、渥美自身が「寅さん」のイメージを崩したくないという意向から他の映画やテレビドラマ、舞台など他作品の出演を断らざるを得なくなるなど、俳優としてマイナスになっていた側面もあった。
平成期以降はファンや見学者に対する挨拶もできないほど体調が悪化*1、映画の製作は年1本のみとなり、ストーリーも満男をメインに置き、渥美の出番を減らすなどの配慮が行われていた。



主な登場人物


・車寅次郎 演:渥美清


本作の主人公。愛称は「寅さん」「寅ちゃん」など。中学生の時に家を飛び出しテキ屋の道を歩む。この家出した理由については芸者の息子であることを通っていた中学校の校長に侮辱されたので殴ったら退学処分を食らったから、未成年なのにタバコを吸っていることを実父に咎められ大喧嘩して家を出たなど、何故かいくつかの説がある。単に寅さんが覚えてないだけかもしれない。


当時の基準でも相当なダメ人間に分類される人で、とにかく大人げなくキレやすい性格が目立つ。
作中では主に


時代の影響を加味してもお節介が過ぎる男尊女卑気味の考え。
連絡取れない自分が悪いのに、帰ってきた時部屋が空いてないと拗ねる
家族が寅さんのことを想って黙っていたことが判明するとキレる。多分正直に言ってもキレる。
頼み事を引き受けるも肝心なところを忘れたり面倒くさがるせいで話を大きくこじらせる。
中学中退という負い目からかやたらインテリを敵視し、近くにいる時は積極的に喧嘩を売る。


といった問題行動が目立つ。特に寅さんのバイタリティ強めな初期作ではこの傾向が強い。
中でも15作目におけるメロンを切り分ける際にうっかり忘れられた事について延々とキレ散らかした一件(通称:メロン騒動)は後続の作品にも影響を与える名(迷?)シーンとなった。


しかし根っこの性格は明朗快活で仕事柄誰とでもすぐ距離を縮める高いコミュニケーション能力を持っている。演者たちから「寅のアリア」と評されるほどずば抜けた言葉の表現力も持っており、テキ屋の商い中には立板に水を流すような七五調で道行く人の気を惹きつける。
そして義理人情に厚く、旅先で世話になった相手にはしっかり恩を返すといった真面目な部分もあるためか、なんだかんだ周りには憎めないキャラとして周りから愛されている。ただしよかれと思ってやったことが空回りして余計に話をややこしくしてしまうことも多いが。


恋愛面については非常に惚れっぽい尽くし体質。好きな人と結婚できるならテキ屋を辞めて地に足ついた生活を送る覚悟を決めることもあるほどとても純情で、まるで中高生のような青臭さすら感じさせる。本作は(恐らく意図的に)性的な事柄を匂わせる描写がほとんどないため、より寅さんの純情さが際立つようになっている。
一方で女性から好意を向けられると何故か真正面から受け止めずその場を濁して逃げてしまうことが多い。この惚れやすいくせに愛されることを極端に恐れる性格について、寅さんを演じた渥美清は「寅は自分が一番かわいいんでしょうね」と評している。


旅先では基本的に鯉口シャツに腹巻き、チェック柄のジャケットとセットアップ、ツマミ型帽子という身なりをしている。
非常に特徴的であるため、他作品でこれに似た格好をするだけで寅さんのパロディだと分かるレベル。


ちなみにフーテンの寅と自称しているが、フーテンとは無職でふらふらしている人のことを指す言葉なので、厳密に言うと寅さんはフーテンに該当しない。



・諏訪さくら(第1作では車さくら) 演:倍賞千恵子


寅さんの腹違いの妹。非常に心優しい性格で、常に寅さんのことを心配している。心配しすぎるあまり、寅さんに非がある時でも無意識にかばうような行動や言動をしてしまうことが多い。時には寅さんの消息を追うため長距離の旅に出ることも。親バカならぬ妹バカである。
しかしただ甘やかすだけではなく、心を鬼にして寅さんの心をえぐるような厳しい言葉で叱ったり諭すなど、芯はしっかりとした女性。


高校卒業後一流企業で10年間勤務していたり、上流階級の御曹司とのお見合いが組まれるなど実は結構な才女。
第1作で後述の博から劇的なプロポーズを受け結婚、シリーズ後期のキーマンとなる満男を授かる。
結婚してしばらくは内職を続けていたが、とらやの屋号がくるまやに変わってからは店を切り盛りするようになる。
屋号変更の理由は作中で一切触れられておらず、込み入った大人の事情が関係していると言われている。



・諏訪博 演:前田吟


さくらの夫。父親と対立して上京し、色々あってタコ社長の印刷工場で働くことになる。非常に実直で仕事もできる理想の夫。
寅さんを義兄として慕っているが、時には冷静に苦言を呈したり助言をするなどさくら同様甘やかしてばかりではない。そして言い回しがインテリっぽいところがあるせいでちょくちょく寅さんと口喧嘩している。
自身の生い立ちもあってか息子の満男には非常に期待をかけており、やや過保護気味。そのため満男が思春期に入ってからは些細なことから大喧嘩になることも多かった。


ちなみに彼の父親は準レギュラーと呼べるくらいには出番があり、彼と父親の確執がメインストーリーになることもあった。



・車竜造 演:森川信(第1作 - 第8作)→松村達雄(第9作 - 第13作)→下條正巳(第14作 - 第48作)


寅さんの叔父に当たる人物。本名より「おいちゃん」の愛称の方でピンとくる人が多いと思われる。兄から託された寅さんとさくらを実の子同然にかわいがっている愛情深い人。
寅さん絡みの勘が非常に鋭く、寅さんが帰郷するタイミングをピンポイントで的中させたり、序盤にポツリと呟いた言葉が寅さんの今後を暗示するなど狂言回し的な役割が多い。


寅さんには比較的厳しく接するスタンスだが、心の底では実の親に勝るとも劣らない家族愛を抱いており、喧嘩したあと上手くやれなかった自分を責めたりすることも。
様々な事情で演じる俳優が2回変わっており、


森川信  ⇒ とぼけた様子の多いコメディキャラ
松村達雄 ⇒ コメディキャラに変わりないがややおとなしめ
下條正巳 ⇒ シリアス寄りの真面目な職人


という具合に俳優の持ち味に合わせたキャラクター変更が行われている。



・車つね 演:三崎千恵子


おいちゃんの奥さんであるおばちゃん。寅さんに対してはおいちゃんと比べると同情的なスタンスを取ることが多い。
おいちゃん同様寅さんとさくらのことは大切に思っており、身内以外から寅さんが馬鹿にされた時はおいちゃんとともに本気で怒ることもあった。非常に涙もろい。



・諏訪満男 演:石川雅一(第1作のみ)→中村はやと(第2作 - 第8作、第10作 - 第26作)→沖田康浩(第9作のみ)→吉岡秀隆(第27作 - 第50作)


さくらと博の息子。第1作から登場しており、シリーズが進むと共に子役が変わったり成長したりするため一番変化がわかりやすい。演者が吉岡秀隆に代わってからは寅さんとの絡みも増え、終盤の作品では満男の家族関係や恋愛模様にスポットが多く当たるようになり、事実上の主人公として扱われている。
寅さんにとっては息子同然の存在なためか非常にかわいがられており、満男もそんな寅さんをたまに馬鹿にしながらも非常に敬愛している。
50作目『男はつらいよ お帰り 寅さん』では妻と死別しシングルファーザーとして娘を育てる小説家として登場。年齢を重ねたことで若い頃の無鉄砲さやおっちょこちょいな部分は鳴りを潜めたが、寅さん譲りの不器用な優しさは健在。



・桂梅太郎 演:太宰久雄


みんなに「タコ社長」のあだ名でみんなにバカにされてる愛されている印刷会社工場の社長。とらやの面々とは家族ぐるみの付き合いをしており、車一家団欒の中にいつもしれっと現れる。
寅さんほどではないがかなりのトラブルメーカーで、特に余計な一言で場の空気を凍らせたり、寅さんの癇に障り大喧嘩に発展することが主。
しかし本質的な部分では寅さんと馬が合うようで、お互いに憎まれ口を叩き合う悪友的な関係を築いている。


常に金と人材の少なさを周りに愚痴っており、社内でも特に優秀だった博が独立騒動を起こした時には夫婦揃って寅さんに頭を下げて説得をお願いするなど、経営者として苦労している描写が多い。その割にキャバレーで遊ぶ余裕はあるという。



・桂あけみ 演:美保純


タコ社長の娘であり、父親以上のトラブルメーカー。自由気ままな生活を送る寅さんに強く憧れている。
決して悪い人間ではないのだが、とにかく落ち着きがなく、既婚者でありながら普段の生活に刺激がないからと県を跨ぐ家出をするなどとんでもない行動力を持つので非常に扱いが面倒
50作目でも相変わらずのお調子者であり、その息子も母やタコ社長に負けず劣らずのお調子者である。



・御前様 演:笠智衆(第1作 - 第45作)


柴又題経寺の住職であり、近所の人々から親しまれている人格者。「ごぜんさま」と読む。寅さんの理解者であり最も頭が上がらない人物なので、寅さん絡みのトラブルが起きた時は高確率でとらやの面々から相談されたり愚痴を聞かされたりしている。


御前様役を演じていた笠智衆が45作目の後に亡くなったため以後登場しないが、46、47作目では御前様が健在と思われる会話が出てくる。



・及川泉 演:後藤久美子


満男の高校時代のブラスバンド部の後輩であり交際相手。親子喧嘩しながらも何だかんだ幸せな家庭である満男とは逆に深刻な家庭問題を抱えており、かなり不幸体質な面が目立つ。
満男とは付かず離れずを繰り返していたが、48作目で親に薦められるまま医者の卵と結婚することになる。だがそれを知った満男に婚礼の儀の最中無理やり割り込まれ破談となった。
その後満男にその真意を問い質した際、滑稽でありながらも心のこもった「愛してるから」という言葉を受け和解。本当なら49作目で満男と結婚式を挙げる予定だったが…(後述の『幻の49・50作目』を参照)。
50作目では泉の海外留学を満男が止めきれなかったという流れになっており、欧州で国際結婚。国連の高等弁務官を補佐する仕事に就いている。




各作品とマドンナ


■第1作『男はつらいよ』


記念すべき第1作目。柴又へ20年ぶりに帰ってきた寅さんが騒動を起こすドタバタ人情喜劇。
寅さんのいい部分と悪い部分のコントラストがハッキリしており、ダメ人間の悲喜こもごもを楽しむといった趣が強い。


・坪内冬子 演:光本幸子


本作と第7作『男はつらいよ 奮闘篇』、第46作『男はつらいよ 寅次郎の縁談』に登場。寅さんとは幼馴染で、小さい頃は出目金のあだ名でからかわれていた。
実は寅さんが帰郷する前から婚約者がおり、久々に寅さんと出会った時はマリッジブルーの状態だった。そのため寅さんと再会した時は気晴らしに「友人として」あちこちで遊び気を晴らす。だが詳しい事情を知らない寅さんはそれを恋と勘違いしてしまい、ふとしたことで婚約者の存在を知った寅さんは浮かれていた自分を恥じて旅立つ決意を固める。
近所住まいかつ幼馴染という設定だからか、第1作以外にも登場した。



■第2作『続・男はつらいよ』


1作目が好評なため制作されたが、山田監督はここでシリーズを終了させるつもりだったという。
前作以上にダメな部分が目立つ寅さんだが、それに比例するかのように恩師との死別や実の母と最悪な再会など悲劇的な部分もパワーアップしている。


・坪内夏子 演:佐藤オリエ


冬子と同じ苗字で似たような名前、さらに寅さんと幼馴染という出来過ぎた設定だが2人に血縁関係はない。そもそもシリーズ化の予定がなかったことが原因かもしれない。
訳あって入院した寅さんの面倒を見た医者と婚約するというインテリ嫌いの寅さんにとってNTRに近い苦い思い出となった。



■第3作『男はつらいよ フーテンの寅』


2作目もヒットしてしまった影響で本作の制作が決まるものの、当時多忙を極めていた山田監督は脚本のみの参加となっている。
その影響か、本作の寅さんは「何があっても愚直に前を向き続ける悲しくも強いバカ」という描かれ方をしている。


・志津 演:新珠三千代


旅先で体調を崩した寅さんが世話になった旅館の女将。
愚直に志津のため番頭として張り切り様々な問題を解決する寅さんに、人手不足ということもあってか婚約者がいることをなかなか切り出せなかった。偶然そのことを知った寅さんは書き置きを残し、志津の部屋へ窓越しに自分の想いを吐露して旅館を去るのだが、そこに志津はいなかった……。
その帰り道、タクシーに乗った志津とすれ違うも寅さんは気づかず立ち小便のため草むらに入ってしまい、志津もかけようとした言葉を飲み込み暗い顔でその場を離れていった。



■第4作『新・男はつらいよ』


本作も山田監督は脚本のみの参加。しかし2人の監督が描いた寅さん像に違和感を持ち、結局5作目から監督として復帰している。
当時は撮影スケジュールが相当タイトだったようで、遠出の必要がないとらやでのシーンが非常に長い。ついでにマドンナの影も薄い。


・宇佐美春子 演:栗原小巻


部屋貸しを始めたとらやの二階に住んでいる幼稚園の先生。
勝手に自分の帰る場所が貸し出されたことに怒り心頭の寅さんだったが借主である春子を見た瞬間手のひら返し。だが春子には婚約者がおり、おいちゃんとおばちゃんに迷惑かけたことを詫びて寅さんはまた旅立っていた。



■第5作『男はつらいよ 望郷篇』


今度こそシリーズ終了という気持ちで作られたが、観客動員数が5割増しという記録を作ったことで継続することになったという、ある意味男はつらいよのターニングポイントとなっている。
結構本気でカタギになろうとするも、シリーズ屈指の大失恋をしてしまう寅さんの様子からも最終作らしい雰囲気を感じ取ることができる。


・三浦節子 演:長山藍子


母と2人で豆腐屋を営んでいる。
テキ屋を辞めて豆腐屋になる決心を固めさせるほど寅さんを惚れこませたが、当の節子は人柄のいい従業員としか見ておらず、豆腐屋を継ぐことを宣言した寅さんの目の前で婚約者を紹介するというなかなか鬼畜な振り方をした。
節子を演じた長山藍子はドラマ版ではさくら役であり、一種のファンサービス的な趣を感じさせる。



■第6作『男はつらいよ 純情篇』


夫婦の仲という寅さんには無縁なテーマとなっている。
道中で出会った女性、さくらと博、マドンナ、その全ての夫婦関係に入ったヒビの隙間に寅さんが入り込むことで物語が動き出す。


・明石夕子 演:若尾文子


売れない小説家の夫と別居し、とらやの二階に住む。
当然寅さんは一目惚れするものの、反省したと言う割には態度があまりよろしくない夫とよりを戻してとらやを去っていった。



■第7作『男はつらいよ 奮闘篇』


色々と問題児な寅さんと知的障害を持つ女性の恋という、現代だとなかなかセンシティブな作品。
後のシリーズで顕著になる寅さんの父性が垣間見える。


・太田花子 演:榊原るみ


知的障害を持っており、ブローカーの手によって都会のキャバレーに就職するも辛さから地元青森へ帰ろうとするところで寅さんと出会う。
純粋無垢な彼女を世話していく内に寅さんは父性に近い愛情を抱くが、青森から追いかけてきた彼女の先生によって連れ戻される。青森に戻った彼女は先生が勤務する小学校の給食係として元気に働いていた。



■第8作『男はつらいよ 寅次郎恋歌』


複雑な家庭環境と、そこから見える人間の幸せの本質とは何かを問われる作品。
寅さんの気ままな暮らしに幸せを見出すマドンナと、そこに彼女の望む幸せがないことを知っている寅さんが悲しくすれ違う。


・六波羅貴子 演:池内淳子


とらやの近所にある喫茶店「ローク」を切り盛りする未亡人。
一目惚れした寅さんは彼女やその息子の世話を焼きいい仲となっていくが、テキ屋の自分と経営者である貴子の決定的な価値観の違いを悟り、自ら身を引く決意をする。結構近所に住んでるはずだが役者の都合で以降出番なし。



■第9作『男はつらいよ 柴又慕情』


TV版からおいちゃんを演じていた森川信が亡くなったことで、これまでもシリーズに出演していた松村達雄が2代目おいちゃんとなる。
今なおサユリストと呼ばれる熱心なファンが多い吉永小百合の登場とあってか、寅さんの表情が他のマドンナの時よりも緩く見える。しょうがない。


・高見歌子 演:吉永小百合


本作と第13作『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』に登場。父親に結婚を許してもらえず悩む女性。
旅先で知り合った寅さんと意気投合し、その交流の中で自分の心に正直に生きる良さを知ったことで結婚を決意した。そしてシームレスにフラれる寅さん。
13作目ではなんと9作目で結婚した男性と数年で死別してしまうという衝撃の展開に。



■第10作『男はつらいよ 寅次郎夢枕』


恋敵でも頼み込まれたら世話してしまう義理堅さと、両想いでありながら結局逃げてしまう寅さんの弱さが存分に発揮されている。
冷静に考えると寅さん含め今回の色恋沙汰に巻き込まれた人は誰も幸せになってない。


・志村千代 演:八千草薫


さくらの幼馴染ではあるが、寅さんとも交流があった。
ひょんなことから千代に惚れた男の想いを叶えるために奮闘する寅さんの言葉をプロポーズと勘違いした上にOKを出てしまう。
シリーズ初の寅さんに惚れたマドンナとなるが、当の寅さんはその想いを受け止めきれず逃げるように旅立ってしまう。



■第11作『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』


社会が敷いたレールを走れない似た者同士が心を通わせるも、またまた寅さんの弱さが炸裂する。
他のマドンナにはない、芯が強く孤高の存在でありながらどこか危なっかしいリリーの生き様が魅力的。


・リリー 演:浅丘ルリ子


本作、第15作『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』、第25作『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』、第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』、第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』に登場。全国をさすらう歌手。
生き様や境遇が近いこともあって寅さんとの相性は抜群。しかしリリーと違ってなんだかんだ身内に恵まれ帰る場所がある寅さんとの温度感の違いを悟り離別。勢い任せに寿司職人と結婚し、寿司屋の女将となった。
だが結局その寿司職人と離婚し、その後も寅さんとくっついたり離れたりを繰り返す。だがその息の合った掛け合い、そして心の底から寅さんに共感することができる生きざまから、ファンや演者からも寅さんの本命はリリーしかいないと言われているほどの人気を誇る。
また、渥美清の体調の都合で48作目が最終作になりそうだということを知った浅丘ルリ子は、山田洋次監督に「寅さんとリリーを結婚させてやってほしい」と直談判したが、監督は50作目までの構想をマドンナ込みで既に決めていたため却下されたという。だから最終作になりそうだって言ってんだろうが。



■第12作『男はつらいよ 私の寅さん』


珍しく毒気や牙の抜けたかと思わせておいて、後半で一気に恋のジェットコースターに飲まれる寅さん。
とらやでタコ社長と寂しく留守番という珍しいシーンが拝める。


・柳りつ子 演:岸惠子


寅さんの同級生の妹で、画家を生業にしている。
寅さんがふざけてりつ子の絵を汚してしまったことで、やたら切れ味のいい罵倒合戦を繰り広げてしまい互いの第一印象は最悪だったが、素に戻ったりつ子の謝罪で無事和解。その時の愛らしさに骨抜きとなる寅さん。
ひょんなことからその恋心がりつ子にそのことが伝わるも、りつ子にとっての寅さんはあくまで何でも言える友達でありパトロン的な存在だったため困惑、今後もずっと友達でいてほしいと言われてしまう。彼女の気持ちを察した寅さんは、それは誤解だから心配するなと告げて彼女のもとを去っていった。



■第13作『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』


かつて幸せを願ったマドンナがまさかの未亡人として再登場する衝撃的な話。吉永小百合と共演させたかっただけでは?
寅さんがトラブルを起こしながらも鎹となり、人と人を繋げていく。



■第14作『男はつらいよ 寅次郎子守唄』


寅さんの意外な面倒見の良さが発揮される作品。
発揮されすぎて恋敵の背中まで押してしまう滑稽ながら温かみのある寅さんを楽しめる。


・木谷京子 演:十朱幸代


工場で怪我した博が担ぎ込まれた病院で働く看護師。
当然一目惚れした寅さんだが、京子が所属するコーラスグループのリーダーも彼女に惚れていることを知る。
煽り半分同情半分でリーダーに告白するよう促したところ、まさかのカップル成立に導いてしまい失恋。



■第15作『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』


リリーシリーズ2作目。メロン騒動もここで見ることができる。
お前らさっさと結婚しろと言いたくなるレベルの相思相愛っぷりで見てるこっちがむずがゆくなってくる。



■第16作『男はつらいよ 葛飾立志篇』


中学中退でテキ屋の世界に飛び込んだ寅さんが下心から久々勉強に挑戦。
恋を勉学とするならば、寅さんは答えのない問題への道筋を我々に見せてくれているのかもしれない。


・筧礼子 演:樫山文枝


東京大学で考古学研究室助手を務める才女。
一目惚れした寅さんは、東大に見合うインテリとなるため礼子に家庭教師となってもらい勉強を始める。
しかし礼子が恩師である男にプロポーズされたことを知った寅さんは勝ち目なしと言わんばかりに身を引くが、実は礼子はそのプロポーズを断っていた。寅さんの思い込みの強さと恋愛力の弱さが同時に堪能できる回。



■第17作『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』


さっぱりしたマドンナと男気溢れる寅さんの組み合わせが爽やかな余韻を残す快作。
リリーがいなかったらぼたんはマドンナ人気No.1になっていたかもしれない。


・ぼたん 演:太地喜和子


サバサバしていて気風が良い芸者。
その性格からかリリー並みに気が合う様子を見せ、あの寅さんが所帯を持とうと面と向かって言うほど。彼女が詐欺まがいの話に引っかかり大金を失った際は、今までにない気迫で彼女を救うために奮闘した。
しかしその最中さくらに「(ぼたんは)好きなんじゃないかしら、お兄ちゃんのこと」と言われた際はそれを冗談と一蹴し、またしても土壇場で逃げに走った寅さんだった。



■第18作『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』


満男が学校に通う年齢になったことによる世界観の広がりを感じられる。
マドンナが亡くなるという禁じ手を使っているため賛否両論。


・柳生綾 演:京マチ子


満男の担任である雅子の母親であり、柴又の名門の出身である超がつくほどのお嬢様。
当初は雅子にデレデレしていた寅さんだが、「あの先生に綺麗なお母さんがいたとして、その人をお兄ちゃんが好きになったとしたら私たち誰も文句なんか言わないわ」とさくらに説教されているタイミングで綾が現れたためそちらに乗り換え惚れてしまう。
家の都合で愛のない結婚しか知らなかった綾はがさつだが心根は優しい寅さんに惚れていくが、実は寅さんと出会った時点ですでに余命僅かの身であり、程なくして亡くなってしまう。



■第19作『男はつらいよ 寅次郎と殿様』


これまでは振り回す側だった寅さんが、それ以上の変人である殿様に振り回されるという喜劇。
ちなみにその殿様は大洲の城主であった藤堂高虎の子孫という設定だが、実際の大洲城主は別の人である。


・堤鞠子 演:真野響子


大洲藩主の子孫である通称殿様が勘当していた次男と結婚していたが死別しており、そのことが物語の始まるキッカケとなる。
色々あって鞠子と和解し気を良くした殿様から「鞠子と大洲に来て結婚してほしい」という手紙をもらったことで寅さんのテンションは最高潮になるも、先に鞠子から再婚を考えている人がいることを告白されたため、寅さんはそのことに触れず去っていくこととなった。



■第20作『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!』


これまでは流れや勢いで他人の恋を応援してしまうことの多かった寅さんが自発的に恋のキューピッドとしての才能を発揮する。
タイトルの「頑張れ」が指しているのは他人の幸せを願い奮闘する姿か、何をしても報われぬ哀れな姿に対してか…。


・島田藤子 演:藤村志保


とらやの間借りをしていた良介という男の姉。
寅さんが良介に色々世話を焼いてる最中に出会い、一目惚れした寅さんはしばらく藤子の店を手伝うこととなる。
一向に進まない寅さんと姉の関係に業を煮やした良介から「思わせぶりな行動で寅さんを利用するな」と注意された際、「あの人は純粋だからそんなこと思ってるはずない」と反論し、ナチュラルボーン悪女男女の機微に疎い様子を見せた。
それを聞いてしまった寅さんはさくらにだけ別れを告げまたどこかへ旅立っていった。



■第21作『男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく』


かつて宝塚と激しい人気争いを繰り広げていた松竹歌劇団がテーマになっている作品。
仕事と恋を天秤にかけ、迷いに迷う男女の心の機微が描かれる。


・紅奈々子 演:木の実ナナ


さくらの学友であり松竹歌劇団の花形スター。
恋人はいたが結婚することで踊り子を辞めることを良しとせず、寅さんやさくらと再会した時点では実質破局状態にあった。
芸と恋に挟まれ苦しむ彼女にワンチャンあるかもと期待しつつ世話する寅さんだったが、結局奈々子は恋人と復縁。結婚し踊り子を辞める決意を固めた。



■第22作『男はつらいよ 噂の寅次郎』


占い師じゃなくてもわかるレベルの女難の相が出ていると言われた寅さんの前に現れるのは離婚寸前の人妻。
寅さんがギリギリで逃げてしまうのは無意識の自己防衛なのかもしれない。


・水野早苗 演:大原麗子


求職のために訪れた職安でとらやの求人を紹介され働くこととなった。
夫はいるも離婚を前提とした別居をしており、中盤で離婚届を出し独り身となる。そんな彼女をなんとか励まそうとして空回りする寅さんの不器用な優しさに癒されていく。
しかし寅さんは早苗の幼馴染が自分以上に強い想いを抱いていることに気付き、大金を残して去ろうとする幼馴染の後を追うよう早苗の背中を押して身を引いた。



■第23作『男はつらいよ 翔んでる寅次郎』


マリッジブルーに悩む女性にも惚れるという寅さんの節操のなさ純朴さが泣けてくる。
旅に出ようとしてそれを妨害されるという珍しいシーンがある。


・入江ひとみ 演:桃井かおり


マリッジブルー中の旅でチンピラめいた男に絡まれた際寅さんに助けてもらった。
その後地元の田園調布に戻り式を挙げるもその最中に脱走し、なんとウエディングドレスのままとらやに逃げ込むという蛮行衝撃的な行動でとらやの面々を驚かせる。
しかし何もかもを捨て裸一貫で追いかけてきた婚約者と話し合う内に、彼への愛を自覚したひとみは改めて結婚を決意する。
それを知った寅さんは傷心の旅に出ようとするも、ひとみに仲人を頼まれたため最後まで見届けることとなった。



■第24作『男はつらいよ 寅次郎春の夢』


外国人と寅さんによるまさかのW主人公形式。実は海外ロケはこの作品が初。
国境を越えた友情が帝釈天で花開いたものの、恋についてはいつも通りでした。


・高井圭子 演:香川京子


満男が通う英会話教室の先生の母であり翻訳家でもある未亡人。
マイケルという訳あってとらやに流れ着いたセールスマンを中心とした騒動の中で寅さんと出会う。が、結婚間近の男性がいるためいつものように寅さんの想いは実らなかった。
本作は寅さんとマイケル2人の恋模様とその比較が中心に描かれているためか、他の作品と比べてマドンナとの触れ合いが少なめ。ちなみにマイケルはなんとさくらに惚れてしまう。



■第25作『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』


リリー三部作の完結編。付かず離れずの絶妙な関係だった寅さんとリリーの間に一つの答えが出される。
ファン人気も非常に高く、後期男はつらいよの中では一番の傑作との呼び声高い。



■第26作『男はつらいよ 寅次郎かもめ歌』


マドンナではあるが両者ともに恋愛感情のないという後期寅さんの新しいテンプレの走り。レールから外れてしまった者の哀愁、そこに手を差し伸べる寅さんの情の篤さに新たな寅さん像が浮かび上がる。


・水島すみれ 演:伊藤蘭


寅さんのテキ屋仲間の忘れ形見。
亡くなったテキ屋仲間の墓参りにきた寅さんと出会い、東京の定時制高校に通って人生を変えたいという想いを伝える。
とらやの面々の助けもあってすみれは無事定時制高校に入学し、彼女を追って上京してきた元彼とも縒りを戻し東京で共に暮らすこととなる。
それを知った寅さんは、まるで実の娘を取られたかのように怒り狂って落ち込んでしまう。自分の存在は不要と感じた寅さんは、すみれの今後をさくらに託して旅に出た。



■第27作『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』


傷心の女性に対する寅さんのスタンスがくっきり浮かび上がる。純朴ととるか、ヘタレととるか……。
ちなみに山田監督は関西弁が苦手だったため、これまで大阪を舞台にした作品を撮ることがなかった。


・浜田ふみ 演:松坂慶子


大阪で働く芸者。両親の離婚により父方に引き取られおり、育ての親である祖母の墓参りの際寅さんと出会う。
何度か寅さんと交流を重ねる内に生き別れの弟がいることを告白、寅さんの勧めもあって弟探しに乗り出す。なんとか職場を特定できたものの、弟は二人が訪れる前の月に亡くなっていた。
ふみは寅さんの滞在する宿を訪ね慰めと愛を求める。だがあまりの距離の近さに日和ってしまった寅さんはあえて壁を作ってしまい、拒絶されたと思ったふみは書き置きを残し朝日が上がり切らぬ内に去っていく。
その後とらやを訪れ、対馬の寿司職人と結婚することを寅さんに報告。意図せず寅さんに凄まじい追い打ちをかけてしまったが、別の場所でふみ夫婦と再会した寅さんは後悔を微塵も感じさせない笑顔で祝福した。



■第28作『男はつらいよ 寅次郎紙風船』


珍しいWヒロインシステム採用。5作目以来の本気の恋というよりは庇護欲の暴走をした寅さんが地に足のついた就活を行うというこれまた珍しいもの。


・愛子 演:岸本加世子
家出して放浪していた少女。偶然相部屋となった寅さんの生き様に興味を持ち、半ば押しかけ状態でテキヤ業を手伝うが光枝について考えがあった寅さんに置いていかれ、残された情報を基にとらやへたどり着く。
マグロ漁師である兄の健吉が迎えにきた際は一瞬険悪なムードになるも、家出の理由は反抗期めいた年相応のものだったためかすぐに和解。地元へ帰ることとなった。


・倉富光枝 演:音無美紀子


寅さんのテキ屋仲間の若嫁。
余命僅かのテキ屋仲間から「自分亡き後に女房を頼む」と託されたことで本気になり、テキ屋仲間の死後彼女の世話を焼く寅さん。
しかし光枝からその遺言について質問された時、首を縦に振ることができず適当にごまかしてしまい、彼女も寅さんが遺言を本気にしていなかったことに安堵した。




■第29作『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』


ほのかな影と女性的な湿度を併せ持つかがりと寅さんの儚い恋物語。寅さんの義理堅さは強みであり時には弱みにもなる。


・かがり 演:いしだあゆみ


高名な陶芸家の家へ奉公に出ている未亡人。
その陶芸家の弟子とは結婚秒読みの段階だったが、弟子に見合い話がきたことと尚煮え切らない態度を叱責されたことで落ち込み実家に戻る。その様子を見てきてほしいと頼まれ追いかけてきた寅さんを気に入りロックオン。
シリーズでは珍しい生々しい色気で寅さんをそれとなく誘うも、悪い意味での童貞らしさを残す寅さんは手を出すことなく終わる。この時の寅さんの表情は必見。
その後かがりは関東旅行のついでに寅さんを手紙でデートに誘うも、緊張しすぎて満男を介さないと喋れないほどポンコツになってしまった寅さんの様子を見て、出会った当初の朗らかさを奪ったことに申し訳なさを感じてしまった。



■第30作『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』


やっぱりイケメンは強いねという話。それでもなお妬む訳でもなく人の幸せを不器用ながら願う寅さんに心温まる。


・小川螢子 演:田中裕子


都内の大丸デパートで働いており、友人との旅行先で寅さんと三郎という男に出会い交流を持つ。螢子に一目惚れした三郎から告白されるも、段階を踏まない急なものだったため困惑し濁してしまう。
実は螢子は親から結婚を急かされておりお見合いも組まれていたが、言われるままの結婚に疑問を持ち、寅さんの後押しもあって三郎と付き合うことになる。
しかし顔はいいのに恋愛面が奥手すぎる三郎は本当に自分のことを好きなのかがわからず破局も視野に入れていたが、三郎から「好きや」という一番聞きたかった言葉を聞けたことで三郎との結婚を決意した。
実は寅さんも螢子に淡い想いを抱いていたが、どうにも上手くやれない自身を自嘲し、直接2人を祝福することなく去っていった。
余談だが田中裕子と三郎役の沢田研二(後に山田作品『キネマの神様』主演の一人に)はこの映画の6年後に不倫愛を成就させてしまっているため、本作は人によっては笑えない作品となっている。



■第31作『男はつらいよ 旅と女と寅次郎』


テキヤと一流芸能人という本来ならば接点の生まれない2人の出会いが生む優しい物語。
だが寅さんにとってその優しさは眩しすぎるものだった……。


・京はるみ 演:都はるみ


演歌の女王と称される超売れっ子人気演歌歌手。
各地の営業にテレビ出演と激務が続く影響で仕事とプライベートのバランスに悩み、公演を飛ばし逃げ出してしまう。
その逃亡先である佐渡で寅さんと出会い、はるみが人気演歌歌手だということに気付いても態度を変えず接してくれる寅さんの心意気に段々心を癒していく。
しばらくしてプロダクションの社長に捕まり連れ戻されるが、仕事は順調に回るようになり、プライベートでは彼氏と復縁といいこと続き。その報告とお礼を兼ねてとらやを訪問し近所を巻き込んだ大騒ぎになるも、失恋した寅さんはその様子を静かに眺めることしかできなかった。
だがはるみにとっての寅さんは人生を変えた恩人であることは間違いなく、さくらたちが招待されたショーでその思い出を込めた『おんなの海峡』を歌うのだった。



■第32作『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』


寅さんの人たらしとしての魅力や意外なスキルが輝き人々を救っていく快作。その分マドンナとの別れが非常に重いものとなってしまっている。


・石橋朋子 演:竹下景子


離婚を機に実家の寺に出戻ったしっかり者の女性。
博の父親の墓参りに訪れた寅さんと意気投合、訳あって父親である和尚の代理として法事を面白おかしくこなしていく姿に段々と惚れていき、その様子は周囲がいつ結婚するのかと冗談交じりで噂するほどだった。
しかし朋子がとらや訪れた際、彼女の結婚願望が本当だと気付いてしまった寅さんはそれを和尚の冗談だと笑って受け流してしまう。悲痛な表情で去っていく彼女の姿を見た寅さんは、一部始終を聞いていたさくらに「というお粗末さ」と自嘲しながら旅に出てしまった。
他の寅さんに惚れたマドンナと比較してあまりにダメージの大きい失恋をしてしまった彼女に対する憐みの声が多かったのか、48作目で無事に再婚しているという設定が追加された。



・小暮風子 演:中原理恵


第33作『男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎』に登場。非常に面倒複雑な性格の理容師。
その性格のせいでどこで働いても長続きせず、実質フーテンとして各地を放浪していた。偶然出会った寅さんのフーテン気質に共感し旅についていこうとするも、堅気として幸せになってほしいと願う寅さんに断られてしまう。
その寂しさを埋めるように、トニーというこれまたフーテン気質で遊び人なサーカス団員に誘われ東京で同棲することになる。
だが同棲しているはずなのに生活苦からか知り合いに借金を申し込んだり、病気を患って寝込んだ際に何故か寅さんに会いたいと言い出すなど周囲をかき回すメンヘラみたいな試し行動が目立つようになる。
結局地元である北海道に戻り、そこで真面目な男と結婚。寅さんなら気に入ってくれるはずだととらやに結婚式の招待状を出すのであった。その結婚式の最中ヒグマに殺されかけていた寅さんと再会した。



・富永ふじ子 演:大原麗子


第34作『男はつらいよ 寅次郎真実一路』に登場。一流企業で働く夫を持つ専業主婦。
あまりに多忙過ぎて過労から失踪してしまった夫を探すため、富永家と交流のあった寅さんと共に夫を探す旅に出る。
ちょっとよくない展開を匂わせる瞬間もありながらも夫を一途に愛する女性であり、夫が寅さんに連れられ帰宅した時には涙を流しながら無事を喜んだ。
寅さんはその旅の中で、夫が帰ってこなければ自分にもチャンスがあるのではと思ってしまうような醜い部分があることに気付き、涙を流し喜び合う富永家の姿を確認するとそんな自分を振り切るようにさっさと旅に出てしまった。



・江上若菜 演:樋口可南子


第35作『男はつらいよ 寅次郎恋愛塾』に登場。祖母を亡くし就職活動も上手くいかず悩む女性。
寅さんが祖母の最期を看取ったことで知り合う。波乱万丈の人生を送ってきた若菜に寅さんは深く同情し、上京後の就職の世話をする。写植技術を持っていたため、タコ社長や博の伝手で無事印刷会社に就職することができた。
その後寅さんのお節介もあって、同じアパートに住み司法試験に向けて猛勉強をしていた民生という男とデートする。女性に対する免疫がない民生はその最中色々ドジを踏んで失踪騒動を起こしてしまうが、実は元々民生に好意を持っていた若菜のおかげで最悪の事態に至らず丸く収まった。



・島崎真知子 演:栗原小巻


第36作『男はつらいよ 柴又より愛をこめて』に登場。式根島の小学校教師として働いている。
式根島で開かれた真知子と教え子たちの同窓会にいい年して自然と混ざってきた寅さんと仲良くなる。
実は家族ぐるみの付き合いがあったシングルファザーにプロポーズされていたのだが、このまま流れに任せて激しい情動を心に秘めてしまうような人生を送っていいものか悩んでいた。
淡い恋心を打ち砕かれながらも、寅さんは「その男の人はきっといい人ですよ」と背中を押した。



・島崎美保 演:志穂美悦子


第37作『男はつらいよ 幸福の青い鳥』に登場。ちょいちょいシリーズに登場していた坂東鶴八郎一座の花形女優。
座長である父を訪ねてきた寅さんと出会う。既に父は亡くなっており意気消沈していた彼女だが、懐かしの人である寅さんに元気づけられたことで上京を決意。
しかし寅さんはとらやにまだ帰ってきておらず、あてもなく東京を彷徨う内に芸術家志望の健吾という男に助けられる。しばらくして偶然とらやで寅さんと再会し、下宿先と職も見つけることができた。
健吾と触れ合う内に好意を抱いていくが、美術展に落選したことで自棄になった健吾に襲われそれを拒絶し喧嘩別れ。
とらやで偶然再会した2人のやり取りを見て、どちらも互いを好いているはずなのに素直になりきれていないことに気付いた寅さんは、まるで父親のように健吾を諭し美保との復縁を手助けした。
ちなみにこの映画の一年後、志穂美氏と健吾役の長渕剛氏(バツイチ)は他のドラマでの共演も合わせ築いた縁でリアルでも結婚している。



・上野りん子 演:竹下景子


第38作『男はつらいよ 知床慕情』に登場。知床で獣医を営む順吉という男の娘。
結婚を機に上京するも、上手くいかずに離婚。知床に戻った際、順吉の世話になっていた寅さんと知り合う。
ギクシャクする2人の仲を取り持ち、さらに長らく燻っていた順吉の結婚を成立させた寅さんに感謝の念を抱く。
しかし酒の席で順吉の知り合いが「寅さんはりん子に惚れているのでは」と冗談半分で聞いてきたことに怒った寅さんはりん子と顔を合わすことなく、簡単な言伝だけを残し知床を去っていった。



・高井隆子 演:秋吉久美子


第39作『男はつらいよ 寅次郎物語』に登場。化粧品の販売員として働いている。
恋人と思われる男性と旅に来ていたが、訳あって一人で旅館に泊まる羽目に。そこに賭博仲間の遺児である秀吉を連れた寅さんと出会う。
当初は秀吉が旅の疲れもあって高熱を出したことで寅さんを厳しく責めるが、事情を知ったことで和解。互いに「父さん」「母さん」と冗談めかして呼び合う仲に。
実は過去に中絶の経験があり、その後悔もあってか秀吉の母親探しに途中まで同行する。一応ラストにとらやは訪れるも、寅さんとの関係は気の合う友人程度のままだった。



・原田真知子 演:三田佳子


第40作『男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日』に登場。信州にある病院で働く女医。
入院せず思い出の詰まった家での死を望むお婆ちゃんを説得しに来た際、たまたまそのお婆ちゃん家で泊めてもらっていた寅さんに協力してもらい、そこから段々と仲良くなっていく。
だがそのお婆ちゃんが病院で亡くなってしまったことで、これまで自分がやってきたこと、そして自分の人生の意義がわからなくなった真知子は寅さんに甘えるかのように泣いてしまう。
だが寅さんは、自分では真知子を正しい道に導く自信が持てず、気持ちを押し殺して去っていくのだった。



・江上久美子 演:竹下景子


第41作『男はつらいよ 寅次郎心の旅路』に登場。ウィーンでツアーコンダクターとして働いている。
色々あってウィーンにやってきたがすっかり迷子になった寅さんと出会い、自身の恩人でもあるマダムを紹介し助ける。
寅さんと話している内にホームシックめいた感情を抱き日本に帰ろうとするも、やや微妙な関係になっていたオーストリア人の恋人から本気のプロポーズを受けたことでウィーンに留まる決意をした。



・奥村寿子 演:檀ふみ


第42作『男はつらいよ ぼくの伯父さん』に登場。佐賀の高校に通う泉を預かる親戚の奥さん。
誰に対しても優しいが、高校教師ということもあってか堅物な夫の言葉に逆らえずにいた。夫とこれまでのやらかしからは想像つかない理知的な喧嘩をした寅さんの心を案じる。
この回から渥美清の体調が悪化したため寅さんよりも満男の恋模様がメインとなっていき、『マドンナ』の定義も媒体によって異なる。本Wikiでは寅さんとそれなりの関係がある女性をマドンナとして扱う。



・及川礼子 演:夏木マリ


第43作『男はつらいよ 寅次郎の休日』に登場。泉の母親であり、スナックで働いている。
不倫して大分県に逃げた旦那が幸せな暮らしをしていることを知り、さらに泉と満男が無断で旦那を探しにいったことで黒い感情を抱えることとなる。
酒の勢いに任せてそのどうしようもない想いを寅さんらに吐き出すも、シラフに戻った時にその恥ずかしさから顔を合わす訳にも行かず先に東京へ帰ってしまった。その後寅さんは礼子が不在の時にスナックを訪れ、花束と手紙を残していった。



・聖子 演:吉田日出子


第44作『男はつらいよ 寅次郎の告白』に登場。かつて寅さんといい関係になった。別に過去作にそういう話があった訳ではない。
寅さんと自身が働く料亭の板前との三角関係の末板前と結婚することになったが、水害によって旦那を亡くしてしまう。
久々に会った寅さんと危険な領域へと突入しそうになるが、出歯亀しようとして階段から転落した満男のせいで2人とも正気に戻り何事もなく終わってしまう。



・蝶子 演:風吹ジュン


第45作『男はつらいよ 寅次郎の青春』に登場。理髪店を営んでいる。
蝶子の散髪しにきたが、大雨と金欠のせいで身動きが取れなくなった寅さんを自宅で世話するようになる。
さらに足を怪我したことで長期滞在となった寅さんと触れ合う内に蝶子も恋心に近い感情を抱くようになるも、寅さんを迎えるついでに泉に会いに来た満男に帰宅を促され黙って帰ろうとする寅さんに激怒する。
この件について満男は「伯父さんは楽しいだけで奥行きが無いから一年もすれば結局飽きてしまう。伯父さんは良く知ってんだ。だから、帰ることを選択したんだ」という身も蓋もない寅さんの代弁をした。



・坂出葉子 演:松坂慶子


第46作『男はつらいよ 寅次郎の縁談』に登場。父親の住む琴島で療養をしていた。
実は父親の隠し子であり、満男を迎えに来島した寅さんが似たような境遇だと知ると急速に距離を詰めていく。しかしノロケとしか思えない寅さん評を語る葉子に満男が2人の結婚を急かすようなことを言ってしまい、それを知った寅さんは激怒。その島の看護婦といい感じになってた満男を連れて島を離れた。



・宮典子 演:かたせ梨乃


第47作『男はつらいよ 拝啓車寅次郎様』に登場。パートで貯めたお金で撮影旅行することを趣味とする専業主婦。
琵琶湖での撮影中に怪我してしまい、寅さんに助けられたことをキッカケに仲良くなった。だが寅さんは夫に連絡することを勧め、翌日迎えに来た夫に連れられ帰宅する。




幻の49・50作目

リリーと泉の項目でも触れたように、山田洋次監督は50作目までの構想を練っており、おおまかなプロットやマドンナも決まっていた。


49作目はタイトルも決まっており「男はつらいよ 寅次郎花へんろ」、マドンナは田中裕子。
48作目で事実上の駆け落ちをした満男と泉が正式に結婚、寅さんは中絶トラブルに巻き込まれ世話を焼くといった内容。


50作目はテキ屋稼業を辞めてキリスト教系幼稚園で働くことになった寅さんがそこで静かに息を引き取ることに。亡くなった寅さんを偲んで、寅さん地蔵が建立されるという内容。
マドンナには黒柳徹子が予定されていた。ちなみに黒柳徹子と渥美清はプライベートでも非常に仲がよく、一時期熱愛報道が出たことも。


渥美清が亡くなったことで企画は頓挫。その後49作目は新撮シーンを追加した『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』。50作目はそこから22年目に公開された『男はつらいよ お帰り 寅さん』。こちらは50歳のシングルファーザーとなった満男がふとしたことから懐かしい人々と再会し、いなくなった寅さんとの思い出と自分の人生と向き合う内容。




その他

長寿作品だったので、意外な出演者がときどき登場している。


・笹野高史が演じるキャラクター
第36作以降はほぼレギュラーだが、決まった役がない。
伊豆下田の長八役で出演して以降、あるときは市役所の職員、あるときは泥棒など、毎回のように別の役で出演している名脇役。50作には笠智衆演じた御前様の2代目としてとして登場。


出川哲朗が演じるキャラクター
「なんでリアクション芸人の出川の名前が出るんだ?」と思うかもしれない。
実は出川は元々役者志望で、第37作から第41作まで端役ではあるが5作連続で出演しており、50作にも出演。
ちょい役で何度か出演したのはリアクション芸のお笑いタレントとして売れるようになるよりも前の話である。
また、休憩中でもめったに雑談をしない渥美から声をかけられたエピソードもある。


・秋本治との関係
こち亀の秋本先生は本作の大ファンで、特に初期のこち亀は男はつらいよの影響が強い作風である事が知られているが、巻末に山田洋次監督からのコメントが寄せられた際は200巻以上のコミックスで唯一コメントに対し返信をしており、最終作であるお帰り寅さんの際には積極的に宣伝に協力している。




さくら「やっぱり追記したいの?」


寅「なんで?どうして俺が追記するのよ…」


さくら「じゃあ、どうして修正しちゃうの?」


寅「ほら、(他の項目を)見な。あんな修正をしてえんだよ」


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  • 某映画漫画で前作観ると「貶されると腹がたつようになるが、かといって擁護できにくい」という総論があったがどうなのだろう -- 名無しさん (2022-02-05 19:01:14)
  • ↑×前作〇全作 -- 名無しさん (2022-02-05 19:04:36)
  • そういや、柴又周辺から出土した古代の戸籍謄本に「とら」「さくらめ」なる名前があったと話題になったっけ -- 名無しさん (2022-02-05 19:06:48)
  • ↑3 そもそも作中人物の評価からしてそれというか寅さん自身もろくでなし駄目人間って自覚は有るからね… -- 名無しさん (2022-02-05 19:55:10)
  • 登録日おかしい? -- 名無しさん (2022-02-05 21:56:45)
  • 登録日をおそらく記事が出来たであろう時間帯に修正しました -- 名無しさん (2022-02-05 22:06:19)
  • 介護施設のDVDにこれ録画した奴いっぱいあるんだよね。お気に入りはパリに行く話。 -- 名無しさん (2022-02-05 22:57:14)
  • 遺作となった48作目の時は、余命宣告も受けてて本来立つことすらままならない状態だったとか…。ほんとに役者魂だよなぁ。 -- 名無しさん (2022-02-06 01:07:09)
  • タコ社長役の太宰久雄も渥美清が亡くなって2年後に亡くなってるんだよな・・・もし渥美清の方が長生きしていたらタコ社長の墓参りする寅さんが見られたのだろうか -- 名無しさん (2022-02-06 20:47:00)
  • 相談所に報告のあったコメントを削除しました。 -- 名無しさん (2022-02-08 12:05:29)
  • 考えてみれば両さんって、「警察官に就職した寅さん」なんだよね。似てて当たり前。仮に両さんが警察官にならなかったら、寅さんと同じ人生歩んでたと思う。 -- 名無しさん (2022-02-09 01:09:36)
  • ドラマ「少年寅次郎」での戦前モダンボーイ・モダンガールだったおいちゃん・おばちゃんが実に新鮮だった。彼等にだって若い頃はあったわけだから当然と言えば当然だけど、幾星霜を経て純度100%の庶民になっちゃったんだろうね。 -- 名無しさん (2022-03-08 00:03:02)
  • 49・50作目の構想あった事をここで初めて知ったけど、(余命宣告受けてたのを知らなかったろうとはいえ)渥美さんの体調かなり悪いのは知ってたろうにそこまでしてんのは流石に山田監督鬼かよ!と思ったな… -- 名無しさん (2022-03-11 15:33:50)
  • そういやこち亀の中で「寅さんは旅先で金が尽きた時のために世界中どこでも換金できる高級腕時計を着けている」なんて言ってたっけ -- 名無しさん (2022-05-20 23:13:03)
  • オトナはつらいよ(遊戯王SEVENS) -- 名無しさん (2023-02-21 22:43:27)

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*1 元々渥美はプライベートで共演者と交流することが少なく、本作でも撮影終了後に行われていたロケ先有志の打ち上げに顔を出すこともほとんどなかった。

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コメント

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