登録日:2021/01/31 Sun 21:30:00
更新日:2024/05/24 Fri 13:38:40NEW!
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プロレス プロレスラー 秋田書店 月刊少年チャンピオン 漫画 アントニオ猪木 カール・ゴッチ 藤波辰爾 ネオ格闘王伝説 jr.wars 上川端通 前田日明
『ネオ格闘王伝説 Jr.WARS』は、月刊少年チャンピオンに連載されたプロレス・格闘技漫画。作者は上川端通。全1巻。
1980~90年代のプロレスマニアの妄想をこれでもかと詰め込んだ怪作である。
■概要
1980年代後半から90年代にかけて、プロレス界は「U系」*1と呼ばれる格闘技志向を強めたプロレスの人気が爆発的に高まっており、ファンも細分化、過激化していた。
プロレスファン(マニア)は、自分の支持する団体こそが最強であると信じ、日々激論を交わしていたのである。*2
中でも最も熱く議論されていたのが、プロレスこそ最強の格闘技であると世に知らしめた旧プロレスの代表である“燃える闘魂”と、U系を創り上げた“新格闘王”はどちらが強いのかということであった。
現実世界ではついに実現しなかった、“燃える闘魂”対“新格闘王”をその息子たちの闘いを舞台に描き切ったのが本作である。
■あらすじ
時は2008年、NUWF(ネオUWF)の総帥で、“新格闘王”を父にもつ“ネオ格闘王”前田日光のもとに、“燃える闘魂”を父にもつ獅子王寛が挑戦状を叩きつけた。
闘魂プロレスの継承者を自認する獅子王は、日光への挑戦権をつかむため、マイク・タイソンJr.との対決に挑む。
■登場人物
◆息子たち
- 獅子王寛(ししおう ひろし)
主人公。“燃える闘魂”を父にもつ若きプロレスラー。獅子王寛は仮名であり、本名は不明。
父が生涯をかけた闘魂プロレス、魂のプロレスを継承し、その強さを証明するために、父の代から因縁のある前田日光に挑戦状を叩きつけた。
ブラジルにこそ魂のプロレスのルーツがあると語り、日光にブラジル行きの航空チケットとある住所が書かれたメモを渡す。
- 前田日光(まえだ ひかる)
もう一人の主人公。“新格闘王”を父に、映画女優を母にもつ世界最強の格闘家であり、全格闘技統一選手権王者。格闘技団体NUWF総帥。
その実績と名声は、ボクシングの統一世界ヘビー級チャンピオンが挑戦者側になるほど高いものとなっている。
ロープワークやプロレスの「受け」を、プロレスを格闘技からショーへ追いやった元凶とみなし、真っ向から否定している。本人もプロレスラーと呼ばれることを拒否し、格闘家として活動している。
獅子王とタイソンJr.の試合を獅子王のセコンドとして観戦するうちに、獅子王や彼に関わる人々が語る「魂の闘志」に興味をもち、獅子王の勧めでそのルーツであるというブラジルに渡る。
- マイク・タイソンJr.
ボクシング統一世界ヘビー級チャンピオン。アメリカ合衆国のボクサー、マイク・タイソンの息子。
モハメド・アリJr.との統一戦を制し、日光への挑戦権を得るが、獅子王の横槍を受けて彼と挑戦者決定戦を行う。
桁外れのパワーに加えて、肘打ちや故意のバッティングなど父譲りのラフ殺法*3が持ち味。
獅子王をそのパワーで一方的に追い詰めるが、魂を爆裂させた獅子王の反撃を受けて逆転負けを喫する。しかし、試合後は互いの健闘を称え合うなど日光の試合にはない爽やかさがリングを包んでいた。
なお、現実のマイク・タイソンには事故死した娘も加えて8人の子供がいるとされるが、2021年現在ボクサーとなった者は確認されていない。
- モハメド・アリJr.
ボクシング世界ヘビー級チャンピオン。アメリカ合衆国のボクサー、モハメド・アリの息子。
父譲りの華麗なテクニックとスピードで“王者の中の王者”と称されていたが、タイソンJr.の反則&ラフ殺法の前に1RKO負けを喫する。
なお、現実のモハメド・アリには息子はいないが、娘のレイラ・アリがボクシング世界スーパーミドル級チャンピオンになっている。
- ジョニー・ユキーデ
マーシャル=アーツ世界ヘビー級王者。(作中では明言されていないが)アメリカ合衆国のキックボクサー、ベニー・ユキーデの息子。
強烈無比なパンチとキックで日光を攻めるが、スープレックスとキックで一蹴される。さらに、関節技で膝をへし折られ、1RKO負けを喫する。
- 長嶋一茂(ながしま かずしげ)
プロ野球選手。スワローズ不動の四番打者。日本のプロ野球選手、ミスタージャイアンツこと長嶋茂雄の息子。
彼がホームランを打ち、実況が「長嶋」とだけ言うのを聞いた獅子王が、「もう誰もジュニアとは呼ばないってワケだな……」とつぶやくシーンから本作は始まる。
なお、現実の長嶋一茂は、1993年にジャイアンツに移籍し、1996年に引退している。
- 貴花田光司(たかはなだ こうじ)
大相撲力士。横綱。日本の大相撲力士、初代貴乃花の息子。
獅子王が読んでいたスポーツ新聞の引退記事として登場。
なお、現実の貴花田は、貴乃花と改名後第65代横綱に昇進。2003年に引退している。*4
◆その他のプロレスラー・格闘家
- 燃える闘魂(もえるとうこん)
プロレスを最強の格闘技として世に知らしめた伝説のプロレスラーであり、獅子王の父。作中の15年前に死亡している。
獅子王曰く、「プロレスに誕まれ、プロレスに生き、最後にはプロレスに殉じた偉大なる男」。
格闘技の聖地として建てられた日本格闘聖殿の前に銅像が建てられている。
その熱き心、闘う魂の情熱は格闘技にとどまらず、バブル崩壊後の日本の政治的危機、ブラジルの経済的危機を総理大臣として救った。*5すなわち、スポーツ平和党が国政与党である。
- 新格闘王(しんかくとうおう)
1980年代後半、最強の名をほしいままにしたプロレスラーであり、日光の父。作中の15年前に失踪し、現在も行方不明。
“(プロレスの)神様”と呼ばれた伝説的プロレスラー。NUWF最高顧問。『北斗の拳』の種モミじいさんみたいな見た目になっている。
年老い、格闘家として活動することはできなくなっているが、人を見る目はまだ健在であり、目を見ただけで獅子王が“燃える闘魂”の息子であることを見抜いた。
日光からは全幅の信頼を置かれており、獅子王とアリJr.(後にタイソンJr.に変更)の試合もゴッチの希望が優先されたため、実現した。
なお、現実のカール・ゴッチは、2007年に死去している。
- 炎の飛竜(ほのおのひりゅう)
華麗な技と全力ファイトで観客を沸かせたプロレスラー。現在は“燃える闘魂”が残したプロレス団体の会長を務めている。
かつて“燃える闘魂”が使っていた道場を使う者がいなくなっても毎日掃除し続け、受け継ぐに相応しい者が現れるまで守り続けていた。
小柄な体格ながらプロレスにかけた情熱は人一倍であり、“燃える闘魂”の栄光と挫折を一番近くで見てきた人物。
その生き様は獅子王からも“燃える闘魂”のもう一人の息子と称えられた。
- タイガー・ジェット・シン
“インドの狂虎”と呼ばれたプロレスラー。“燃える闘魂”の最大のライバルであり、数々の名勝負を残しており、試合中に腕を折られたこと*6もある。
既にプロレスからは引退していたが、“燃える闘魂”の息子である獅子王の存在を知り、来日。タイソンJr.との試合を観戦する。
“燃える闘魂”がもっていた底知れない力の正体は「怒りのエネルギー」であり、「魂の爆裂するエネルギー」であると日光に伝える。
なお、現実のタイガー・ジェット・シンは、2008年時点でも現役であった。
■終盤の展開
本作を既読の方、本記事をここまで読んできた方ならわかるだろうが、本作では外国人(とプロレスに関係ない日本人)がバンバン実名で出てくるにもかかわらず、日本人プロレスラーは徹底的に実名が出てこない。
それは本作を伝説たらしめた“燃える闘魂”と“新格闘王”の試合の結末にあると考えられている。
“燃える闘魂”と“新格闘王”の死闘とその結末
ブラジルに渡った日光がその地で出会った人物、それは15年前に失踪した彼の父“新格闘王”であった。
“新格闘王”は、獅子王が紛れもなく“燃える闘魂”の息子であると語り、“燃える闘魂”が14歳の頃からブラジルの大自然を相手に闘っていたことを日光に伝える。
自由さえなく命がけの毎日の中、大自然の中で培われたエネルギーこそが闘魂プロレスへと継承されたのだと。
しかし、不屈の闘志をもっていた“燃える闘魂”が“新格闘王”との試合をなぜ避けていたのか、そう問いかける日光に父が答えた。
「燃える闘魂が政治家としての使命感をいだいていたからだ!!」
“新格闘王”との試合はスポーツを超えた命のやりとりになることが分かっていた“燃える闘魂”は、揺れ動いていた国政の安定に身をささげることを優先。ついに総理となり卓越した政治力で日本の政治的危機を救うことに成功した。
政治家としての使命を果たし終えた“燃える闘魂”はあっさりと政界引退し、それから苦行とも言えるトレーニングを己に課し、プロレスラーとしての肉体を蘇らせた。
そして、“燃える闘魂”と“新格闘王”の互いの命を賭けた死闘が落成前夜の格闘聖殿で行われたのである。
なお、この決着戦の立会人は、“燃える闘魂”側から“炎の飛竜”、“革命戦士”、“過激な仕掛け人”、“新格闘王”側から“関節技の鬼”、“青春のエスペランサ”、“闘う青年将校”、“21世紀の若獅子”、外部から“神様”(カール・ゴッチ)、“東洋の巨人”、“日本プロレス界の父”(遺影)が務めている。
長い視殺戦だけで開始から30分程の時が流れた後、緊張を破り先に仕掛けたのは“燃える闘魂”であった。
激しい蹴り合いからグラウンド(関節技)へ移行し、極度の緊張感の中グラウンドの展開が1時間近く続いた。
決め手に欠けるグラウンドから再び打撃戦に移行した二人であったが、“新格闘王”が勝負を決めようとラッシュを仕掛ける。
だが、すべての攻撃を受け切った“燃える闘魂”が“新格闘王”に語り掛ける。
「俺もまた格闘家としての強さだけを追求した頃があった」
「だが、殺伐とした潰し合いは名勝負と呼ばれた幾多の試合を超越できなかった」
大観衆の嵐のような拍手、熱気あふれる大コール、全国のファンが胸おどらせるテレビ中継、声高ぶる実況、闘う相手をも引き込む白熱の試合展開、館内に轟く勝利の雄たけび、熱き感動にまやかしなどない、それらすべてがプロレスだと。
「俺の愛したプロレスはっ」
「格闘技を超えたところにあるっ!!」
なおも続く死闘。しかし、“燃える闘魂”の気持ちに応えたのか“新格闘王”は否定したはずのロープワークやプロレス技(卍固め)を繰り出す。
二人のレスラーはただひたすら殴り合い蹴り合いマットに投げつけ関節を奪い合い、互いの持ちうる全ての力と技と魂をぶつけ合った。
闘いが始まって4時間あまり――二つの肉の塊が血染めのリングでうごめいていた。
先に立ち上がったのは“燃える闘魂”であったが、彼の肉体は限界に達していた。
「たがいの命を賭けたこの決着戦お前に余力があるならば……」
「とどめをさしてもらいたい!だが、お前に人を殺めた十字架を背負わせたくない」
ブラジルに残した息子のことだけが心残り……、最後にそう言い残した“燃える闘魂”がとった行動とは――
「し、舌を噛みきったァ~~ッ!!」
自らの人生に自らで幕を下ろすことであった。
どこからか鳴り響く10カウントゴング。壮絶なる男の生き様にその場にいる誰もが涙を流し続けた…。
“新格闘王”は死闘の後、魂の叫びのルーツを求めてブラジルへ渡った。そこで“燃える闘魂”の忘れ形見である獅子王と出会い、彼を父を超えるレスラーに育て上げることに人生を賭けたのである。
■余談
- 単行本の巻末には、プロレスファンとして知られるいしかわじゅん氏、小林よしのり氏、高千穂遥氏、村松友親氏による、全1巻の新人漫画家のデビュー作とは思えない豪華なメッセージが掲載されている。
- 作者の上川端通氏は、本作の執筆後に数作を執筆した後は消息不明であったが、当時の担当編集であった奥村勝彦氏*7が2020年に自身のコラム『O村の漫画野郎』で、実家の家業を継ぐために漫画家を引退していたこと、2012年頃に死去していたことを明かした。
- 荒唐無稽でシリアスな笑いの極致にあるような本作だが、2006年頃に実際に“燃える闘魂”の娘(元ミュージカル女優、当時は一般人)とモハメド・アリの娘であるレイラ・アリ(当時はボクシング世界チャンピオン)の試合が計画されたことがある。
“燃える闘魂”の娘の怪我などによって企画は流れてしまったが、現実が創作の一歩手前まで来ていたのである。なお、この話のソースは東スポである。*8
偉大なる父を超えようとする息子に追記・修正をお願いします。
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▷ コメント欄
- まさかこの作品の項目が作られるとは……!某漫画レビューサイトで存在を知り、幸運にも古本屋で見つけたけど、とにかく80年代末期だからこそ可能だったパワー溢れる怪作だったように思う。当時としても実在人物に舌を噛み切らせて自決なんてさせるのは流石に無茶もいいとこだよねぇ… -- 名無しさん (2021-01-31 21:38:14)
- 一瞬「舌を噛み切るのはズルくない?」と思っちゃうな -- 名無しさん (2021-01-31 21:59:22)
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*2 ネットの発達した現代とは異なり、雑誌の投稿欄などで交わされる、現代から見れば穏やかなものであったが、それでも以前とは比べ物にならないほど熱気を放っていた。
*3 実際のタイソンは、ヘビー級では並外れたフットワークとスピード、急所を正確にコンビネーションで打ち抜く高度なオフェンス技術、そして相手のパンチをボディーワークでことごとく空に切らす鉄壁のディフェンス技術をもつ、超正統派のボクサーであった。
*4 連載当時は前頭であり、数々の最年少記録を更新していた。
*5 モデルとなった人物は、連載当時参議院議員であった。
*6 実際には亜脱臼程度であり、折れてはいなかったらしい。
*7 当時、秋田書店の編集者。秋田書店退社後はアスキーに入社し、『コミックビーム』編集長などを務めた。
*8 “燃える闘魂”本人がインタビューに答えているので、計画自体は本当に存在していたと思われる。
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