赤痢

ページ名:赤痢

登録日:2020/06/13 Sat 17:58:52
更新日:2024/03/29 Fri 20:50:54NEW!
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※ご自身の健康問題については、専門の医療機関に相談してください
赤痢(せきり)とは、感染症、食中毒の一種。


概要

大腸がただれて、赤い下痢(血便)を伴う感染症のことである。
病原体によって細菌性赤痢とアメーバ赤痢に区別される。単に赤痢といった場合は前者を指すことが多い。


細菌性赤痢

病原体は赤痢菌。菌が出す毒素によって出血性大腸炎が起こる。
菌は感染者の糞便に大量に含まれ、それに汚染された食べ物や水が口から入ることで大腸に感染する。
赤痢菌はノロウイルス並みに感染力が強いらしく、100個以下の菌数でも感染するので注意が必要。*1
人間だけでなく猿もこの病気にかかる。


赤痢菌の種類

赤痢菌には以下の4タイプがある。


  • A型赤痢菌(志賀菌)

明治時代に日本で赤痢が流行した際に発見された菌。別称の志賀菌とは、発見者の志賀潔(しがきよし)博士に由来する。
ベロ毒素という強力な毒素を放出する能力を持ち、赤痢菌の中で最も重症化しやすい危険な菌である。
近年はアジアやアフリカ、南米の発展途上国での流行に限られる。
感染力および攻撃力が高いため、炭疽菌ペスト菌ボツリヌス菌などと並び、バイオテロに利用される危険性が高い細菌兵器でもある。


  • B型赤痢菌(フレクスナー菌)

現代日本など先進国でも流行がみられる。


  • C型赤痢菌(ボイド菌)

非常に稀。


  • D型赤痢菌(ソンネ菌)

現代日本など先進国で流行している赤痢菌の主流株。あまり重症化しない。


症状

下痢、腹痛、発熱が主症状である。人によっては吐き気や嘔吐も伴う。
現代日本に多いソンネ菌による赤痢はあまり重症化しない。軽い下痢や腹痛程度で治るケースが多く、一般的な食中毒とあまり変わらない。
しかし志賀菌による赤痢は重症化しやすく危険である。
具体的には40度近い高熱、転げ回るような激しい腹痛、水のような激しい下痢が何回もみられる。
下痢は最初は普通の水様便(黄色~茶色)だが、進行すると真っ赤な血便になることがある。赤痢という病名は、この真っ赤な下痢に由来する。
血便が出るのは志賀菌が出すベロ毒素が大腸粘膜を傷つけるため。この血便は大量かつ回数も多いため、トイレに間に合わないこともしばしば。そのため患者は一日中ポータブル便器に座っていたり、オムツ着用になることもある。
下痢、血便は回数が非常に多い(一日20回を超えることも少なくない)ため、患者は衰弱する。
大部分は下痢が改善すれば1週間程度で治っていくのだが、一部の患者は溶血性尿毒症症候群(HUS)という重篤な合併症を起こす。
HUSは大腸粘膜から血管に侵入したベロ毒素が、血流に乗って腎臓に運ばれて、腎臓の細胞や赤血球を破壊するために起こる病気。HUSになると死亡することもある。


また、昔はきわめて稀に疫痢(えきり)という病態に陥る症例があり、高熱や激しい下痢などの症状の他、痙攣や血圧低下などの症状を起こし、短時間で死亡してしまうケースが多かった。


治療では下痢によって悪化した全身状態の改善がメインとなる。場合によっては抗生物質で菌をやっつけることもある。赤痢菌は感染力が強いため患者の隔離が必須である。血便が出るなど重症の場合は入院、点滴が必要である。


細菌による食中毒全般に言えることだが、万が一発症してしまった場合は自己判断で下痢止めを飲まないようにしよう。下痢止めを飲むと菌を体外に追い出しにくくなるため、余計に病状が悪化することがある。志賀赤痢菌のように猛毒を出す細菌なら尚更である。


予防のためには肉や魚などは十分に加熱すること、食事前に手を洗うことなどが重要。海外旅行では生ものをさける、屋台に行かないなどの対策が重要(旅行先によっては水道水も飲まないほうが良い。)。


また、ヨーグルトや納豆など発酵食品をよく食べる人は、腸内細菌(乳酸菌など)が活発になるため、赤痢菌に感染しても軽症で済むことが多いらしい。


ちなみにインフルエンザなどと違って、予防注射(ワクチン)はない。


法律上の扱い

感染症法では三類感染症に指定される。感染者はしばらくの間、飲食業や接客業で働くことができなくなる(出勤停止)。また、学校では出席停止の対象となる。
ちなみに三類感染症に分類される病気は、細菌性赤痢の他、コレラ、腸チフス、パラチフスがある。すべて食べ物や飲み水から感染する病気(食中毒)である。


コレラはコレラ菌による感染症で、米のとぎ汁と称される真っ白い下痢便が大量に出て急速に脱水症状に陥ってしまう危険な病気である。ただし赤痢と違って、下痢が激しい割には、腹痛はあまり強くなく、熱もほとんど出ない(逆に言えば腹痛や発熱が軽いせいで、病院に行くのが遅れてしまう傾向がある)。
赤痢菌が主に大腸粘膜を破壊して出血や炎症を起こすのに対し、コレラ菌は小腸に感染してコレラ毒素を放出する。このコレラ毒素が猛烈な下痢を起こすのである。
ただし、赤痢やチフスと違って、毒素が全身を回ったり、菌が血液中に侵入することはないため、点滴で脱水症状さえ改善すれば急速に回復する。
あと、コレラ菌は実は赤痢菌ほど感染力は強くないのである。赤痢菌は100個以下の菌数でも発症する可能性があるのに対し、コレラ菌は100万個以上の菌じゃないと発症しない。あとコレラ菌は胃酸に弱いので、口から入っても腸まで到達できない個体も多い。ただし、逆に言えば、胃が弱っている人は感染のリスクが高まるとも言える。
ちなみにコレラ菌はビブリオ属に分類される細菌である。この仲間としてはコレラ菌の他に、腸炎ビブリオが有名である。腸炎ビブリオは生の魚介類を食べて感染することが多い。


腸チフスはサルモネラ属の細菌の一種による感染症である。サルモネラ菌といえば生卵から感染して下痢や胃腸炎を起こすものが有名だが、腸チフスを起こすものはそれとは別種である。
また、一般的なサルモネラ菌は感染力がそれほど強くないのに対し、腸チフスを起こす菌は赤痢菌並みに感染力が強い。
腸チフスでは重症のインフルエンザやデング熱に似た高熱や発疹が1週間以上続いて全身が衰弱する。これは菌が腸の粘膜から血液中に侵入するためである(敗血症)。また、食べ物から感染する病気であるにもかかわらず、なぜか下痢はあまりみられないのが特徴である。
患者はすぐに入院して抗生物質で菌をやっつける必要がある。治療が遅れると腸に穴があいたり、多臓器不全を起こして死に至ることもある、危険な病気である。
パラチフスでも腸チフスと似たような症状があらわれるが、腸チフスよりはやや軽症であることが多い。


余談

志賀赤痢菌と同じく血便を引き起こす食中毒菌として近年有名なのが腸管出血性大腸菌O157
これは元々は普通の大腸菌だった*2のだが、ある日突然、志賀赤痢菌の能力(ベロ毒素産生)を獲得してしまったものである。*3


O157は普段はウシの腸内にいる。そのため、生または調理不十分な牛肉を食べて感染するケースが多い。ただし、その牛肉と同じまな板で調理した野菜を食べて感染することもある。


発展途上国に多い赤痢とは対照的に、O157は日本やアメリカ、イギリスなどの先進国に多いとされる。


ちなみに、赤痢菌と大腸菌は生物学的には実は性質が似ている細菌である。


アメーバ赤痢

赤痢アメーバという寄生虫が大腸に感染して炎症が起こる病気。


途上国、先進国関係なく世界中で感染者がみられ、年間10万人以上が亡くなっている。日本でも稀な病気ではない。


食中毒として発症するケースの他、他人の肛門を舐めて感染するケースもある。そのため医学書によってはエイズやB型肝炎などと同じく性感染症扱いである。


この病気でもやはり腹痛や下痢がみられるが、(急激に悪化する細菌性赤痢と対照的に)数日から数週間の間隔で悪化したり軽快したりを繰り返すのが特徴。また、下痢便には血液だけでなく粘液も混じる(粘血便)。
細菌性赤痢でよくみられる発熱はアメーバ赤痢では稀な症状である。


稀にアメーバが大腸から肝臓に転移し、生命が危険になることがある。


ちなみに赤痢アメーバは赤痢菌ほど感染力が強くないため、軽症の場合は患者の隔離は必要ない。感染症法でも細菌性赤痢が上位の三類感染症に分類されているのに対し、アメーバ赤痢は最も下位の五類感染症に分類されている。
(もっとも、症状が重いため入院しなければならなくなる可能性は十分ある。)


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  • 二次元ではパワポケ2裏の即死と…なにかあったっけ? -- 名無しさん (2020-06-13 19:07:37)
  • バイオ項目増えてきたなあ。こういうの建てる人があまりいないから有難い -- 名無しさん (2020-06-13 20:31:37)
  • アメーバ赤痢って便の色が7回?変わると死ぬと聞いた覚えがあるけど本当なのか? -- 名無しさん (2020-06-13 21:25:23)
  • 三丁目の夕日で一平が感染して家丸ごと除染されてたな -- 名無しさん (2020-06-14 00:46:24)
  • 発展途上国でO157が流行しないのは、既に赤痢菌に対する免疫ができているからという説もあるらしい。逆に赤痢が流行していない先進国では代わりにO157が猛威を奮っている。 -- 名無しさん (2020-07-13 12:17:27)

#comment

*1 腸炎ビブリオやサルモネラなど一般的な食中毒菌は100万個以上の菌が感染しなければ発症しない。
*2 あまり知られていないが実は大腸菌自体は元々無害な菌である。
*3 他の無害な大腸菌と比べゲノムサイズが大きい事から後天的な理由で毒素性をもたらす遺伝子を獲得したらしい事が分かっている。有力なのは赤痢菌に感染したウイルスが大腸菌にも感染したことで赤痢菌の遺伝子の一部が大腸菌に組み込まれる水平伝播が発生したという説。

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