悪魔の手毬唄(映画)

ページ名:悪魔の手毬唄_映画_

登録日:2016/01/12 TUe 10:20:49
更新日:2024/01/18 Thu 13:45:31NEW!
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映画 市川崑 石坂浩二 角川 東宝 金田一耕助 横溝正史 名作 見立て殺人 岡山県 手毬歌 旅館 旧家 悪魔の手毬唄



(一)うちの裏の前栽に雀が三羽とまって 一羽の雀が言う事にゃ言う事にゃ
おらが在所の陣屋の殿様 狩好き酒好き女好き わけても好きなが女でござる
女だれが良い升屋の娘 升屋器量よし蟒蛇娘 升で量って漏斗で飲んで
日なが一日酒びたり酒びたり それでも足りぬと返された





■悪魔の手毬歌■


『悪魔の手毬唄』は77年に公開されたサスペンス、ミステリー映画。
角川書店協力、東宝株式会社制作。
前年に公開された『犬神家の一族』に続いて公開された石坂版金田一耕助シリーズの第2作である。
今作から配給のみならず、映画の企画が東宝に移った。



【概要】
市川崑×石坂浩二コンビによる金田一耕助シリーズ第2作。
脚本の久里子亭はアガサ・クリスティーを捩ったミステリー好きで知られた市川崑自身のペンネームである。
音楽担当は村井邦彦。
明るくも寂しい曲調が逆に、シリーズ中でも特に物悲しいと評される本作を彩っている。
『犬神家の一族』同様に原作の時代や世界観に忠実な作品だが、制作時期の関係からか前作同様に原作とは季節が真逆になっている。
尤も、映像化された世界観では物悲しい冬の情景が本作ならではの極めて複雑な人間の感情に根付いた奇妙な物語を原作以上に際立たせているとして、ファンからも評価が高い。
シリーズ中でも「最も泣ける金田一」として、コアな層からの人気が特に高い作品でもある。
また、前作から引き続いて登場しているキャストも多いが、これもシリーズのお約束として引き継がれていく事になった。




【物語】
――昭和27年。
金田一耕助は旧知の岡山県警本部の磯川警部の依頼を受け、磯川が指定した鬼首村(おにこべむら)の旅館「亀の湯」に逗留していた。
到着が遅れた磯川を待つ間、没落した庄屋の家系だと云う村の古老・放庵と知り合いになった金田一は、彼から別れた5番目の妻から贈られて来たと云う復縁の手紙への代筆を頼まれる。


……到着した磯川と合流した金田一は、彼から磯川が担当するも未解決のままで終わっていた、事件当時に村を荒らしていたと云われる詐欺師の恩田幾三が当時の「亀の湯」主人の源次郎を殺して姿を消したと云う、20年前の殺人事件の調査を依頼される。


小さな村は今や人気歌手となった別所千恵の凱旋に沸いていたが、恩田の娘である千恵の帰還と金田一が調査を開始したのと時を同じくするように、千恵の同級生でもあった村の旧家である仁礼家(秤屋)と由良家(升屋)の娘が奇妙に演出された姿で殺害される。


調査を進めた金田一は由良の隠居から村に伝わる「鬼首村手毬歌」を聞かされ、殺人がその歌詞に見立てて行われていたと云う事実に気付くが、手毬歌の形式から二番、三番と続いている筈の歌詞が解らない。


どうしても先の歌詞を知りたい金田一だったが、姿を消した放庵なら歌詞を知っていた筈だと聞かされ、それを知った捜査本部は放庵に疑いをかける。


……一方、更に調査を進めた金田一は事件の犠牲になった娘達もまた恩田の種で生まれた事実を知る。
そして、金田一は狭い村で起きた奇妙な齟齬の組み合わせに気付くのだが……。



(二)うちの裏の前栽に雀が三羽とまって 二番目の雀が言う事にゃ言う事にゃ
おらが在所の陣屋の殿様 狩好き酒好き女好き わけても好きなが女でござる
女だれが良い秤屋の娘 秤屋器量よし爪長娘 大判小判を秤に掛けて
日なし勘定に夜も更けて夜も更けて 寝る間も無いとて返された


※以下はネタバレ注意



【登場人物】
※原作から簡略化され、一部の人物の設定や名前に差違がある。


■金田一耕助
演:石坂浩二
私立探偵。
旧知の磯川から受けた調査の中で、今回の事件の真相にも至る。



【亀の湯関係者】
■青池リカ
演:岸惠子
「亀の湯」の女主人。美人。
20年前に夫の源次郎を失っている。


■青池歌名雄
演:北公次
リカの息子。
青年団のメンバーでモテ男。
ある意味では無自覚な元凶と言えるのが哀しい。


■青池里子
演:永島暎子
リカの娘。
身体の左半分に赤アザを持って生まれて来た。
その為、ある時期から土蔵に閉じこもって暮らしている。
本来なら母譲りの美貌の持ち主なのだが……。


■お幹
演:林美智子
「亀の湯」の女中。
実家の屋号は「笊屋」らしい。



【錠前屋(別所家)関係者】
■別所千恵
演:仁科明子
20年前に源次郎を殺害して姿を消した恩田の娘。
里子、泰子、文子とは同級生で仲良し。
有名な歌手になった。芸名は「大空ゆかり」。


■別所春江
演:渡辺美佐子
千恵の母親。
19の時分に正体の解らなかった頃の恩田の世話をやいている内に懇ろになり千恵を授かった。
村で形見の狭い想いをしていたが、千恵が歌手として成功した事で大手を振って村に帰る。


■日下部是哉
演:小林昭二
千恵のマネージャー。


■別所辰蔵
演:常田富士男
春恵の兄。
飲んだくれ。


■別所五郎
演:大和田獏
辰蔵の息子。



【升屋(由良家)関係者】
■由良泰子
演:高橋洋子
歌名雄の恋人。美人。
出生に秘密がある。


■由良敦子
演:草笛光子
由良家の女主人。
旧家として仁礼家に対抗意識を持つ。
夫の卯太郎が恩田に騙されて早逝している。


■由良敏郎
演:頭師孝雄
泰子の兄。


■由良栄子
演:川口節子
敏郎の妻。


■由良五百子
演:原ひさ子
由良家の隠居。
耳が遠く、頭も呆けてきているが事件の状況を聞いて「鬼首村手毬歌」を思い出す。



【秤屋(仁礼家)関係者】
■仁礼文子
演:永野裕紀子
仁礼家の娘。美人。
友人の泰子が歌名雄と好き合っている事を知っているが、自分も歌名雄に想いを寄せている。
出生に秘密がある。


■仁礼嘉平
演:辰巳柳太郎
仁礼家の当主。
先代からの葡萄酒販売を拡大させ、今や村一番の分限者となった。
傲慢な性格(えらもん)で、文子と歌名雄を強引に縁組みさせようと迫っている。


■仁礼直太
演:大羽五朗


■仁礼流次
演:潮哲也


■仁礼路子
演:富田恵子


■司咲枝
演:白石加代子
嘉平の妹。
総社の町に働きに出ていた頃に父無し子を生み、嘉平が子供を引き取った後に密かに神戸に嫁に出された。
それが文子である。



【その他の関連人物】
■多々羅放庵
演:中村伸郎
村の古老。
通称はお庄屋さん。
若い時分にはかなり悪辣な人物であったらしく村の人間からよく思われていない。
唯一「亀の湯」には一日置きに通ってくるようだが……。


■権藤
演:大滝秀治
町医者で、20年前の事件の検死も行った。


■野呂十兵衛
演:三木のり平
元活弁師。
神戸時代の青池源次郎こと、活弁師・青柳史郎の嘗ての同僚。


■井筒いと
演:山岡久乃
総社の町の連れ込み旅館の女将。
恩田と春恵の話を聞きにきた金田一に、放庵に手紙を寄越した筈のおはんの死を伝える。



【警察関係者】
■中村巡査
演:岡本信人
鬼首村の駐在。
磯川と立花の命令で事件の調査に当たる。


■野津刑事
演:辻萬長
岡山県警刑事。
立花に付いて事件の調査にやって来た。


■立花捜査主任
演:加藤武
「よし、解った!」
磯川の同僚。
岡山県警本部から事件の調査にやって来た。
役名は違うが基本的なキャラクターと決め台詞、粉薬芸は健在。


■磯川警部
演:若山富三郎
岡山県警本部の警部。
未解決に終わった「鬼首村」の事件の事を気に病んでおり、休暇を取ってまで旧知の金田一に調査を依頼した。
また、これ以前にも個人的に「亀の湯」を訪れては事件を調査していた模様。
ラストシーンの金田一とのやり取りに涙腺を崩壊させる人間多数。
また、磯川警部は原作小説でも「岡山編」を代表する金田一の名パートナーであり、基本的に異邦人のスタンスで描かれた石坂版金田一では珍しい、金田一を知る人物となっている。



(三)うちの裏の前栽に雀が三羽とまって 三番目の雀が言う事にゃ言う事にゃ
おらが在所の陣屋の殿様 狩好き酒好き女好き わけても好きなが女でござる
女だれが良い錠前屋の娘 錠前屋器量よし小町でござる 小町娘の錠前が狂うた
錠前狂えば鍵合わぬ鍵合わぬ 鍵が合わぬと返された



【原作】
アガサ・クリスティーを敬愛する原作者の横溝正史が、日本的な童歌を題材に描いた見立て殺人の物語である。*1


見立て殺人を題材にした作品としては、既に金田一耕助シリーズでも純粋な推理の観点での最高傑作と評される『獄門島』があったが、事件の真相部分に複雑な人間の感情を据え、作品の内容に併せて横溝正史自身が創作した「鬼首村手毬歌」が独自の魅力を本作に与えていると言える。
物語の核心となる「鬼首村手毬歌」は後のドラマ版では別の節が付けられており、映像化される際の注目ポイント。
また、こうした事件に併せて架空の村の因習や、それを顕す童歌が登場するのは日本的な探偵物語のテンプレとして後続の作家たちに引き継がれていった。






「磯川さん、貴方ほんとうは追記修正が好きだったんですね」


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  • 手毬唄とか詩になぞらえて殺人をするのが定番になったのはここから? トリックとかかまいたちの夜とかにもあるよね -- 名無しさん (2016-01-12 16:04:10)
  • ↑何が一番最初かというなら多分ヴァン・ダインの「僧正殺人事件」。日本で有名になったのはこれとか同じ金田一シリーズの「獄門島」とかアガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」がきっかけかな -- 名無しさん (2016-01-12 23:03:50)
  • 里子カワイソス… -- 名無しさん (2016-11-19 16:33:10)
  • おばあちゃん役の名女優・原ひさ子さんが手毬をするところは今でも大好き。ただ、あのおばあさんもある意味犯人なんだよなぁ…… -- 名無しさん (2016-12-24 21:57:09)
  • 何の落ち度も無い被害者達が可哀想過ぎるが、好きな作品。これが一番磯川警部の純粋な恋心が出ているかも知れない。 -- 名無しさん (2020-04-22 01:27:02)
  • 被害者たちと歌名雄がただただかわいそうな話 -- 名無しさん (2020-10-03 23:02:10)
  • 歌名雄くんのイケメンで声が良いと言うのは父親譲りだったのが悲劇だった… -- 名無しさん (2020-10-23 23:34:00)
  • ↑ネタバレになるけど、千恵子(ゆかり)も父親の才能を受け継いでたんだよね。父もアナウンサーなり落語家なり、もっと違った道を見つけられていれば… -- 名無しさん (2020-10-23 23:47:07)
  • ジッチャンがヒッピーの元祖なら原作の放庵さんはオタクの元祖みたいなキャラで、それほど悪辣な人間ではないのだが、映画では展開の都合上ああいう感じになっちゃったのはお気の毒。逆に由良の御隠居は原作では「孫が殺されたのだから仁礼家の娘にも死んでもらおうじゃないの」なんて考えて(?)いるしたたか者なんだな。 -- 名無しさん (2020-11-25 20:04:58)
  • ↑原作も読んだんだけどDVD持ってる映画やドラマといった映像作品のインパクトが強くてピンと来なかったんだが某ゆっくりで改めて見て婆ちゃん怖ぇって思った。でも善とか悪でも無いんだよな。 -- 名無しさん (2021-06-25 23:37:26)
  • そうじゃ -- 名無しさん (2021-07-22 07:39:14)
  • 高倉健バージョン(脚本家が原作を読まずにシナリオ化して、数十年後にそれを懺悔したというシロモノ)が遂にDVDに…どんな内容なんだろうねえ… -- 名無しさん (2022-04-16 18:51:20)

#comment

*1 ※海外古典ミステリーの定番とも言えるマザーグースを利用したヴァン・ダインの『僧正殺人事件』の様な作品を書きたいと思っていたが二番煎じと謗られるのを恐れていた横溝がクリスティーに同様の作品がある事を知り、日本風にアレンジして同様のモチーフを書くようになった。

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