登録日:2012/09/26 Wed 22:21:33
更新日:2023/11/24 Fri 13:32:24NEW!
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銀河英雄伝説 銀河英雄伝説登場人物項目 銀英伝 紅茶 元帥 智将 軍人 指揮官 魔術師 チェス 提督 富山敬 毛利元就 鈴村健一 有能な怠け者 郷田ほづみ 黄金の精神 主人公 銀河万丈 人間臭い 運命に翻弄された者 不敗の魔術師 不敗の名将 自由惑星同盟 トリューニヒトの天敵 ←寧ろ高評価 魔術師ヤン 奇跡のヤン ミラクル・ヤン 首から下は不要 エル・ファシルの英雄
要するに私の希望は、たかだかこの先何十年かの平和なんだ。だがそれでも、その十分の一の期間の戦乱に勝ること幾万倍だと思う。
私の家に14歳の男の子がいるが、その子が戦場に引き出されるのを見たくない。
ヤン・ウェンリーは小説『銀河英雄伝説』において国として衰えつつあった自由惑星同盟を軍事面から支えた自由惑星同盟最年少の元帥である。
同盟軍の名だたる名将を全て打ち破ったラインハルト・フォン・ローエングラムが最後まで勝つことのできなかった唯一の人物であり、またラインハルトの直属を数多く葬り去った。
同盟滅亡後も民主主義擁護の為、エル・ファシル独立政府に参加し、対帝国の軍事指揮を行った。
生没年 | 宇宙暦767年〜800年 | ||
CV | 富山敬(OVA本編) | 郷田ほづみ(外伝) | 鈴村健一(TVアニメ) |
■[来歴]■
767年に星間交易商ヤン・タイロンの息子として生を受ける。
歴史家を志すも、父親の事故死により学費の捻出が不可能となり進学を断念。
無料で歴史を学べる同盟軍士官学校戦史研究科に入学。
同学科の廃止を以って戦略研究科に転科。
士官学校卒業後、同盟軍に任官(少尉)。
788年に惑星エル・ファシルに赴任(中尉)し、300万人を救出した「エル・ファシルの英雄」として二階級特進(少佐)。
数々の会戦で武勲を重ね、軍人として栄達。
796年、准将として初めてラインハルト・フォン・ローエングラムと対峙することになるアスターテの会戦に従軍し、奇策により艦隊を救う。
その功績によって少将に昇進し、残存兵力に新兵を加えて編成された第13艦隊の初代司令官に任ぜられる。
同年5月14日、第13艦隊の最初の任務で、難攻不落といわれたイゼルローン要塞を陥落させ、中将に昇進。
「魔術師ヤン」「奇跡のヤン」と評される彼は同年の「帝国領侵攻作戦」と「アムリッツァ星域会戦」で全軍崩壊を防いだ功績により大将に昇進。
対帝国の最前線であるイゼルローンに要塞司令官兼駐留艦隊司令官として赴任*1以降は軍事クーデター鎮圧や帝国軍侵攻に対処する。
宇宙暦799年の「ラグナロック作戦」で軍事的意義を喪失した(表面上は自爆を偽装した)イゼルローン要塞を(内部工作を施しつつ)放棄し、ハイネセンに帰還後は最年少元帥として実質的な全軍指揮権を獲得する。
同年、帝国軍最高司令官との間に行われたバーミリオン星域会戦で優勢な戦いを進めるも、同盟政府が発した戦闘停止命令並びに無条件降伏の通達を受け、戦闘停止。
一部幕僚の意見具申を制しつつ、ヤン艦隊客将であったメルカッツ提督に一部戦力を託し脱出を幇助した。
停戦後に行われた会談では帝国元帥の座を用意して引き抜こうとしたラインハルトを謝絶。
ハイネセン帰還後に退役し、6月には副官フレデリカ・グリーンヒルと結婚し、一市民として生きる道を選ぶ。
一方でメルカッツと共謀し、艦隊戦力拡充や情報提供といった反帝国運動を密かに行っていたため、同年7月に帝国政府の一部上層部や同盟政府により謀殺されかけるが、難を逃れて身を隠す。
同年12月、メルカッツ艦隊と合流しエル・ファシル独立政府に参加。
革命軍を組織して、万一を考えて施していた内部工作を使ってイゼルローン要塞を奪還し、帝国軍との決戦に備える。
宇宙暦800年の「回廊の戦い」では軍事的才覚をいかんなく発揮し、帝国軍重鎮を幾人も戦死させる等の着実な戦果を挙げたことで皇帝ラインハルトより一時講和を引き出す。
しかし、その会談に向かう途上、地球教徒のテロリストに襲撃され、6月1日午前2時55分、凶弾に倒れる。33歳没。
ごめん、フレデリカ。ごめん、ユリアン。ごめん、みんな…
彼の死後、その遺志は残されたヤン艦隊を中心としたイゼルローン共和政府によって受け継がれる事となる。
■[能力]■
他者から見て優雅に立ち振る舞い、戦場において一度も敗れる事のなかった彼の軍事的才覚は「不敗の名将」と評され、同時代の英雄ラインハルト・フォン・ローエングラム同様に高く評価されている。
特に「休んでいる時にもその脳裏では策略を練っていた」彼の、戦術面において優位な状況を作り出し、状況が敵将を誘導することに最善を尽くす姿を歴史家は「知将・謀将」と評する。
しかし、ヤン自身は「運が続いただけ」と評価し、戦略レベルの物量作戦を敷かれたが最後、自分では太刀打ちできないことを独白したりと弱気な姿勢を見せていた。
事実、彼の対手であったラインハルトが最終的に国家と軍を手中に収めたのに対して、ヤンは同盟軍の政治的迷走に見舞われて艦隊指揮官に終始し、戦略としての指揮指導を行う事は無かった。
同時にアムリッツァでの大敗を筆頭とする戦争での軍事力が払底し、ヤンが全軍指揮権と元帥の肩書きを得た時にヤン艦隊以外の戦力はもはや存在せず、それゆえ彼が戦略的な主導権や優位を確立したことはついに一度もなく、ラインハルトに対して常に守勢に立つ立場であった。
しかしこれは逆に言えば、ラインハルトの築いた戦略的優位性を局地的な勝利によって食い破ってきたということでもあり、ヤンの戦術的才能の凄まじさを示すものであるとも言える。
■[人物]■
私人としては諸事につけのらりくらりとした、極めてマイペースな生活無能力者。
作戦立案・艦隊指揮こそ目を見張るものがあるが、歴史学に対する関心と紅茶、飲酒以外は無趣味と、むしろ問題だらけであり、被保護者ユリアン・ミンツが来る前は荒んだ生活を送っていた。
それを以って
「ヤン・ウェンリーは首から下はいらない人間である」
と当時から評されていたという。
政治的には父親の教えもあって、ゴールデンバウム王朝銀河帝国の敷く専制君主制を忌避し、過大と言えるほどに民主主義を信奉している。
ただ、同じく専制君主制とはいえローエングラム王朝の新銀河帝国が民衆のための公平な政治を行っている点では仲良くするべきと理解していたり、民主主義の根本は、別種の人間を認め共に生存することとの理解もきちんとしていたりと、専制君主制ならば一切全否定、というようなものではない。
民主主義を信奉する一方で、たとえそれを実現するためであろうとも手段としてのテロリズムに対して
「歴史の停滞を招くばかりで全く建設的ではなく、世界を良い方向に変えることは出来ない」と嫌悪している*2。
そのため、裏では右派テロ組織「憂国騎士団」との繋がりを持ち、口先で戦争を賛美し民衆を扇動する統制的・翼賛的なトリューニヒトらへの忠誠心もとぼしい、というかゼロを通り越してマイナス。
それを踏まえた上で、自由惑星同盟の重要な立ち位置にいる事を自覚しつつも自分の判断で主導しようとはしなかった。
本編を読むとわかるが、ヤン・ウェンリーは「自分の判断・決断が正しい」と思った事は一度もない。最初から最期まで、彼は自分自身を疑い抜いていた。
腹心の部下達からも度々、緊急避難的にでも国を主導すべきだと進言されていたが、ヤン自身は同盟が自らの政治思想に反する方向に進んでもそれを解決するために行動しようとはしなかった*3。
後世の歴史家の
『信条や信念を持つ者は評価を下げるなどと嘯いていたヤン自身が、民主主義や文民統制の原則に自ら強く縛られていた』
『「国家の大事を個人に委ねるべきではない」という民主共和制の根本原理を徹底するあまり、旧友や祖国を見殺しにした』
という批判はまことにもっともである。しかしそれに対して
『彼は常に批判・反論を受け入れていたし、自分を道具として使える人が出てきて民主共和制を守ってくれと訴えていた』
という反論もこれまたもっともである。
生前は関わる人みんなを困らせ、後の世に重要人物として彼を調べる歴史家みんなを困らせた難儀な戦術家(戦略家かもしれないぞ?)…
それがヤン・ウェンリーという面倒くさい人物なのである。
大衆から英雄視され、身内の結束が固いヤンらをトリューニヒトが軍閥として十分な要素・条件を持つ事から警戒し、グリーンヒル大将らが盛大にやらかした事を考慮すると政治に慎重な姿勢を貫く事は間違っていないだろう。
それでも戦時体制の長期化と慢性化した腐敗・堕落で機能不全を起こし、トリューニヒトが暗躍する自由惑星同盟と民主主義体制が敗北する様をヤンは「黙って見て」いた側の人間とも言える。
独裁者は、出現させる側により多くの責任がある。積極的に支持しなくても、黙って見ていれば同罪だ
――ヤン・タイロン
その「黙って見ていた」こと、いわば「消極的な支持」の報いか、密かに共和制再建の軍事力「動くシャーウッドの森」を組織したために、同盟末期から敗戦後の混乱期にかけてオーベルシュタインに地球教と体制反体制双方から暗殺対象になって暴力や恐怖政治………嫌悪してやまないテロリズムに呑まれてゆく。
一方で「今の世の流れは悪いものだから、自分が変えないといけない」という考え自体がテロリズムの入り口なのも歴史が示す事実ではあり、ヤンはそれを何より忌避していた。
優秀で功績大きい人物であろうと、ただ一人の人間には違いない。大きな顔をせず、ただ一人の参政者として関わるべし
───彼のこの「民主共和制原理主義」は、作中世界でも現実世界でも議論が絶えない。
歴史小説の体裁を採る『銀河英雄伝説』にはラインハルトなどと同じく、「後世の歴史家」の彼に対する評価が多々存在する。
本編で描かれているヤンの態度に職業軍人として甚だしく不真面目な面が見受けられるにも関わらず、そういったヤンを毛嫌いする人物は軍事的・政治的に無能とする描写が多い。
「彼の無用な抵抗によりラインハルトの統一が遅れ、歴史に不必要の混乱と出血を招いた」等がそれである。
(例えば査問会でのやり取りは恐らく記録が残っているだろうことから「後世の歴史家」による創作ではなく、実際にあの場であのような発言をしていただろうと推測される)。
その為ヨブ・トリューニヒトが歴史小説中の悪役として過剰に演出されたように、本編中のヤンもまた主役として過剰に演出されている、と見る事ができる。
もっとも、在命中であっても本人は他者の評価をそれほど気にしていなかったようであるが。
■[余談]■
- 犬にも劣るヤン・ウェンリー
道原かつみ版のコミック化の際に田中氏はヤンのことを名探偵ホームズの犬のホームズのような感じ、とイメージを伝えたところ
道原女史は「そんなにかっこよくしていいんですか?」と返され、それから田中芳樹事務所内では「犬にも劣るヤン・ウェンリー」というフレーズが流行ったそうな。ホームズかっこいいからしょうがないね
「私は最悪の項目でも最良の建て逃げにまさると思っている。だから冥殿氏の為に荒らし共と戦うのさ。こいつは、なかなかりっぱな信念だと思うがね」
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*2 「停滞させることはできるが」と警戒も当然していた
*3 「姉を奪った王・王朝」「腐敗や縁故の蔓延した貴族社会」打倒を誓うも、君主制自体は微塵も否定せず「ルドルフ・ゴールデンバウムのようになる」事を望み動いたラインハルトとは好対照
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