砧姫(伝承)

ページ名:砧姫_伝承_

登録日:2011/08/18(木) 14:45:31
更新日:2023/08/17 Thu 14:47:35NEW!
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アニヲタ昔話
砧姫



昔々、大和の国にそれは美しい姫君がおったそうな。


姫君の父は帝に仕え、自身も貴族として優雅に暮らしていたが、ある日父親は仲間の裏切りにあい謀殺されてしまった。
そればかりか、姫は独り小舟に乗せられ、沖へと流される憂き目に遭った。



幾晩も海を漂ったある日、姫君が目を覚ますとそこは大きな川に浮かぶ中島の葦の茂みの中だった。
するとそこに住む人々が大勢集まってきた。


「はぁー、こりゃよか顔したおなごじゃなー」


「こげなところでなんばしよっちゃね?」


人々は姫君から事情を聞き、また舟に乗せてあった剣や鏡から、大和の都から流れてきたのだということを知った。
姫君を哀れに思い、人々は小屋を建て食物を姫君に分け与えた。



それから調子を取り戻した姫君は、何か恩返しをしたいと思い始めた。
そこで都の召使がしていたように、砧(きぬた。布を叩いて艶を出す道具)で人々の服を綺麗にしようと考え、毎日毎日砧を打ち続けた。


人々は姫君が洗った野良着を着て働き、いつしか「砧姫」と呼ぶようになった。



それからしばらくして、立派な船が村に現れた。
なんとそこに乗っていたは熊襲討伐のため、かのヤマトタケル尊が率いてきた軍勢だという。


屋敷を建て食糧を提供せよという尊の命令に、帝の勅命ということもあって村人は渋々従った。


そうして周りを散策していた尊は、ふいにトントン、と砧を打つ音を聞いた。
葦原に分け入ると、そこには小さな小屋があり、麗しい娘がせっせと砧を打っているではないか。


「お前のような娘がなぜこんなところに?」


尊の訊ねに砧姫は事情を話し、それに深く感銘した尊は姫を側仕えとして連れて帰った。



それから尊と姫はいつも共にあった。
けれど、戦の準備が整い、尊はこの地を去らねばならなくなった。
この時すでに子を身籠っていた姫に、尊は必ず帰ってくると告げ、出発した。



それから半年ほど過ぎて、約束通り尊は帰ってきた。
けれど、尊には新たに蝦夷討伐の任が下っていた。


「もう二度と貴方と逢えぬのならば、いっそ死んでしまいたい。けれど、貴方の子を宿したいまとなっては、それも叶いませぬ……」


そう尊を引き留めようとする姫に、尊は、


「姫のことは生涯忘れはしない。ここに二人の証として銀杏を植えよう。きっとそなたを守ってくれる」


そういって、小さな苗木を姫の小屋の前に植えた。



尊が大和に帰還して、王子が産まれたとの報が届いた。
征伐に発つ直前だった尊は、帝に名付け親になることを頼み込み、東国へと旅立った。


帝は王子に「砧王」と名づけ、王子が産まれた遠賀の地を治めさせるよう命じた。
銀杏の木に見守られながら、砧王は立派に成長し、この地で生涯を過ごしたという。



一方、尊は蝦夷との戦の帰り、伊勢で命を落とした。
それを聞いた村人は、銀杏のそばに尊を祀る社を建てた。


銀杏は御神木となり、今でも遠賀に暮らす人々を見守っているという。



おしまい。








福岡県遠賀郡水巻町に伝わる伝承。
ヤマトタケル尊の西征を土台としているものの、古事記・日本書紀はおろか風土記・続風土記にさえその記述はなく、
また時代考証など諸々の観点から地元民の創作と考えられる。


砧王の息子らの名前が水巻町と隣の遠賀町出身者に比較的多い名字「重広」「徳王」「末守」と同一なのも、
この物語が編纂された頃に力のあった家名から引用し、権威の補強に利用したと想像に難くない。



ちなみに物語に登場する銀杏、及び神社(八剣神社)は現存しており、
特に銀杏は県の天然記念物にして、女性の乳房のようなこぶがあり、その樹皮を煎じて飲むと乳の出がよくなるという霊験がある。
なお八剣神社は月読神社、天照大神社、猿田彦神社の境内社でもある。






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  • 昔は病院とか産院とかがその辺に無いからなぁ。妊婦さんが戦争についていくのは無理があったろう -- 名無しさん (2017-04-17 13:17:28)

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