登録日:2023/06/20 Tue 06:28:14
更新日:2024/07/05 Fri 13:58:56NEW!
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ゴルゴ13 ゴルゴ13の登場人物 商社マン 農民 米 傑物 勝ち逃げ 先物取引 ゴルゴ13を使って成功した人
俺か?俺は日本の農民だ!はっははは!
【概要】
藤堂伍一とは、漫画ゴルゴ13の登場人物の一人である。
岩手の農村の出身である中年男性で、農民と名乗っているように本人は裏社会とは縁がない。
なのでデイブやヒュームさんのようにがっつり裏社会と関わる者、マンディ・ワシントンや梶本といった危険な橋を渡ろうとしたジャーナリストとは全くの畑違いである。
このため準レギュラーにはならなかったものの、複数話に渡り登場したというかなり珍しい人物。
しかしながら大学を出た後大手商社に勤め、更に柔剛流空手の三段であるなど、文武両道の只者ではない農民である。
そして農民という立場から日本の将来を憂い、そのために自分ができることをやろうと立ち上がった愛国者でもある。
【本編での活躍】
登場したのは『穀物戦争 蟷螂の斧』、その後編とも言える『汚れた金』、そして『潮流激る南沙 -G資金異聞-』の3エピソード。
『穀物戦争 蟷螂の斧』
藤堂は丸菱物産シカゴ支店で働く商社マンであり、小麦を手配するためアメリカに渡っていた。
そしてネブラスカ州の郊外にある農地で小麦を見て、自分の国を憂う。
こういうパン用小麦が我が国で作れれば苦労はないが………と。
戦後生まれで農家出身の藤堂は、米の消費が減り小麦の輸入が増えたことを嘆いていた。
そして大学の同期で友人の堀田と話す中で、その全ては戦後のPL480法のせいだと話す。
毎日学校給食で出てくるパン…それらは無料ではなくアメリカから円建てで買った小麦で作られたものだったのだ。
更にはマスコミやキッチンカーを使ってパンの宣伝と普及をして大成功、日本にはパン食文化が十二分に行き渡った。
食事の欧米化も進み、牛などの動物を育てるのに更に穀物を輸入せざるを得なくなっていた。
(作品発表時の)米の生産高は1億2千万トンあるにも関わらず、飼料穀物の輸入は1900万トン以上、食糧自給率はたった33%。
みんなが米を食べていればこんな数字は出ないはずである。
そしてこの先にあるのは農民の安楽死だと話す。
農民が文句を言えば金は出すが、余りに余った米は買い叩かれ、堂々と米が作られることはないからだ。
そしてやがてはアメリカの石油メジャー、穀物メジャーにより日本が支配されてしまう未来が待っていると話す。
とにかく防衛費なんかよりも米の利用先と自給率を増やすべきで、そしてそのために自分はビッグフォーを出し抜いてアメリカから穀物を調達するルートを確立しようとしていると話すのだった。
飢饉や娘の身売りといった、他の農家の話を聞かされて育った二人は、いつもこうして憂いているのだ。
そして堀田はこうしたいつもしている話を打ち切り、飯にしようと言う。
シカゴから岩手まで持ってきた米で作られたただの日の丸弁当…だがこれからの戦争の始まりに、そのうまみを二人で噛み締めた。
やっぱりうまいな、米のめしは……
一方で支配者のビッグフォーたちはそんなことを快く思わない。
日本はアメリカで作られた農作物を買い、工業製品だけを売れば良いのだと。
だが藤堂は倒産したクック社からアメリカ内にあるカントリーエレベーターを購入、これを囮にしてアメリカ各地の農家から直接買い付けを行った。
これによりビッグフォーを出し抜き、10万トンの小麦輸入の入札を安値で買い叩くことに成功する。
その後藤堂はニューオーリンズ支店長となり、ビッグフォーに穀物を使った攻勢を仕掛ける。
これに対しビッグフォーは団結し一流のプロなど二度も刺客を送るが、空手三段の藤堂と空手使いの用心棒のジェームス・ウノによって退けられた。
そしてニューオーリンズでエレベーターを見張るウノたち藤堂の用心棒。
仲間の一人バルボアがついタバコを吸おうとしたのをウノが咎めた。
いつも藤堂さんが言ってるだろう、エレベーターは粉塵爆発がいつ起きるかわからない地上の炭鉱なんだ、と。
そのカントリーエレベーターが、突然大爆発した。
現場に駆け付けビッグフォーの仕業に違いないと断言する藤堂。だがその手口はわからなかった。
保険が下りるから大丈夫だまだやれるだろうというウノ。
だが藤堂は自分はクビになるがそんなことはどうでもいい、アメリカでの取引はエレベーターがなくてはどうにもならないのだと話す。
ビッグフォーが差し向けていた三度目の刺客は超一流のプロ…ゴルゴ13。
ビッグフォー最大のカーギル社社長直々の依頼を受け、わずか20ミリの換気口に、デイブに特注で作らせたM16用炸裂弾を撃ち込んで爆破させたのだ。
藤堂たちにはこの時はまだわからなかった、全てが一発の銃弾で起こされたことだとは……
俺の野望が吹っ飛んじまった……あのエレベーターと共に……
そして丸菱物産はビッグフォーとの直接取引を禁じられ、日本には今日も海外からの穀物が流れ込む。
300万トンの古米を新たに倉庫に眠らせながら……
『汚れた金』
夢破れて会社をクビになった藤堂だが、野心は燃え尽きていなかった。
十勝平野で小豆畑を見ていた藤堂は、早霜で小豆の相場が上がることに気付く。
その後岩手に戻り、12月に全額売り払った。その額は3億円以上にも上る。
そしてある決意を胸に、岩手を後にしたのだった。
東京のぼろアパートで先物取引を始める藤堂。
そこでロイターやAP通信などのテレックス(当時の通信機器)、大商社の情報室並の設備を整えた。
……これで準備完了!……ゲーム開始だ!うっふふふふふふ…………
更にぼろアパートにウノたちを呼び寄せた。
ウノたちには小麦を買う名義人80人を、アメリカ中の代理店で登録させておいたのだ。
さらに次の便でロンドンに発ち、ある計画を実行するように伝え、ある男とのコンタクトを取ったことを確認する。
ある男とは…もちろんゴルゴ13。プリンスホテルの1107号室にスズキという名前で入室していた。
用件を聞こうか……
そこで藤堂はターゲットの情報について話す。
まずソ連は経済政策の失敗に加え、かのルイシェンコ農法による大凶作でアメリカから2300万トンもの穀物を買っている。
しかもそのほとんどをビッグフォーが扱っていて、中でもカーギル社は800万トンも扱っていた。
だがソ連は外貨が少ないため、その代金をシベリアからかき集めた金(gold)で南アフリカのデビアス社を通じてドル建てで支払っている。
普段は対立していても貴金属の生産においてはトップの2ヶ国。市場を支配するために裏で手を握る……それが「商売」なのだ。
そして標的は200トン、時価30億円にもなる金塊を運ぶ週一の定期貨物列車。これは金相場の動きとデビアス社がロイズにかけた保険でわかるという。
しかも秘密保持のためロイズへの保険は駆け込みで引き受けさせる。
それにゴルゴは列車を止めて何をするのかと問うが、藤堂は盗んだり爆破したりすることではないと答える。
どうやら複雑な計画らしいな……
藤堂は、まず6割もの保険引受人で、金塊の保険がサインなしに成立しないというこの計画の重要人物スクワイア卿をウノたちに数時間ほど誘拐させた。
ロイズの保険は個人事業主の集まりで、その天井は無制限。これほど高額だと複数人でシンジケートを組まなければ成立しないのだ。
そしてポーランドにある鉄橋には藤堂が情報を流した記者を配置する。
ゴルゴの仕事は鉄橋で列車を止め、予め設置しておいた黒色火薬とマグネシウムの混合薬を記者に見られずに狙撃し爆破させること。
これを爆破させるととんでもない光と煙が発生し、キノコ雲が生じる。その光景はまるで核爆発が起きたかのような……
そう、これらは「金塊を乗せた列車が核攻撃され、更に保険も適用されない」という状況を演出するために行ったことである。
例え盗んだり爆発で変形したりしても金は金。その価値は失われたりしない。
だが放射能汚染されれば別である。除染が必要な金となればその価値はゼロになってしまうのだ。
更にソ連領内では握り潰されフランスなど西側諸国だとすぐ事実が行き渡ってしまうが、当時のポーランドは西側のマスコミとソ連寄りの当局が入り混じるグレーゾーン。曖昧な情報しか送れない。
つまり真実が明かされるまでの空白の時間が生み出されるのだ。
その時間で何が起きるか?
30億円分もの小麦が余ることから先物取引市場は混乱し売りが殺到したため、一斉に大暴落する。
そして藤堂は予め情報を流した名義人たちと演出がバレるまでの一日ほど、暴落した先物を買い漁る。
小麦と引き換えるはずの金塊が核攻撃されたと世界中を騙し、それがバレるまでに先物のインサイダー取引を行って多額の資金を得る……これが藤堂の計画の全容だった。
そうして藤堂は僅か2日で1300万ドルもの利益を得て、手元には90億円相当の取り分が入ってきた。
そこに丸菱の重役である山岸らがやってきて復職の話をもちかけるが、藤堂はこれを断って本当の農業のための援農基金を作ると宣言する。ウノたちも藤堂と農場をやりたいと言う。
こうしてぼろアパートでの生活が終わり、ウノたちとディナーに出かけた。
だがそこで藤堂は食事中歯切れの悪くなったウノからある話を聞く。
ニューオーリンズのエレベーターは、上述のように僅かな隙間を通した一発の弾丸で吹き飛んだのだと。
その時は信じなかったが、ゴルゴ13ならそれが可能なのではないか…と。
ゴルゴ13によって狂わされた人生がゴルゴ13によって新たな道へと開かれる…二人は皮肉な巡り合わせを感じるのであった。
『潮流激る南沙 -G資金異聞-』
1992年の大晦日の前日、いきなり山岸に丸菱本社へ呼び出された藤堂。山岸は常務に就任し、石油を扱っているという。
そこで山岸はゴルゴ13と南沙諸島の石油開発が絡んでいるという話を始める。
各国が利権を狙ってはいるものの、大手開発資本は半ば高みの見物を決め込んでいて積極的な行動には出て来なかった南沙諸島。
ここに4年以内に領有権を確立した場合、「G資金」と呼ばれる200億ドルの裏金、すなわちゴルゴ13からの資金提供が成されるというのだ。
ゴルゴ13が特定の国家に肩入れしかねないこの噂、もしも事実であるならば表の経済に新たな巨大勢力が登場して経済戦争に突入しかねない……
それを話した山岸に対し、藤堂はゴルゴ13について調査することだと受け取りそんなことはとてもできない、お互いに命がなくなると警告する。
だが山岸は調査ではなくメッセンジャーとなって欲しいと話す。ゴルゴ13がどう動くかでしか状況を判断できないからだというのだ。
気が進まないと話す藤堂に対し、動いてくれれば礼はするということともし実際にそうなったならセブンシスターズとビッグフォーを含めた世界経済がどう動くのか興味が無いかとそそのかす。
日本に甘い汁を吸わせて養殖してきた彼らがゴルゴ13の金でどうなるのか、藤堂は心を動かされる……
そして「G型トラクターの設計・仕様につき面談の要有り」という広告を載せ、ゴルゴ13とコンタクトを取ることに成功した藤堂。
雪が降り積もる夜の岩手県早瀬村で、車の運転席に乗せられる。
G型トラクターについて“面談”とは、思わせぶりなよびかけだ……
つまり……仕事の依頼じゃあないのだ。
ゴルゴが自分のルールで同じ依頼人に二度会うことを好まないことは知っている。
だがそれでもメッセンジャーとなるためには会うしかない、藤堂は自分の死を覚悟の上でやったと前置きした上でこの噂について話し、話した理由についても興味本位だと嘘偽りなく答えた。
更に4年以内とは何か、と問うとゴルゴは香港への中国返還のことを持ち出し、これに藤堂はハッとする。
金は使ってこそ意味があるのは当たり前だが、ゴルゴは当たり前の外で動いている人、そう思っていたがこれが本当ならそれもまた常識はずれでゴルゴらしい話かもしれないと言う。
それを考えただけでも…と思ったことを口にしてしまうが、ゴルゴに降ろしてくれと言われ途中で遮られる。
そしてゴルゴが降りた後、振り返らずに走り去ってくれと言われた。
藤堂はバックミラー越しにでゴルゴを見ながらではあるが、言われた通りに車で走り去ったのであった……
その後、4月4日のことである。自宅の縁側で朝刊を読んでいた藤堂は「2日に国連へ匿名で200億ドルの寄付があった」という記事を見つけた。
そこには続けて「200億ドルの用途は自然環境保護に限定されており、貸付や寄付者への詮索を禁じる」とも書いてあった。
更に同じ誌面に「南沙諸島を巡る軍事的緊張が沈静化する見通し」という記事も載っていた。
これに藤堂は、何がどうなったのかわからんが全てを捨てることでゴルゴは自分の生き方を守ったのだと考えた。
そこに妻が銀行から振り込み通知が来たと話しかけてきた。その額はなんと1億円。
ゴルゴが何故藤堂に1億円を渡したのかは不明だが、藤堂は同じ生き方を貫く同志へのささやかな報酬だと感じ受け取ったのだった。
これ以降、藤堂伍一はゴルゴ13に登場していないし、これからもおそらくしないだろう。
そして藤堂が、ゴルゴが自身の噂について行った調査と、その噂を流した目的がどんなものだったかを知ることもない。
何故なら裏社会と関わりのない、一介の農民なのだから……
【関連人物】
- 堀田
大学の同期で岩手出身の友人。
食糧庁輸入課の海外情報員という国家公務員であり、藤堂とは日本の将来を憂う仲。
- ジェームス・ウノ
用心棒であり相棒。
元々は裏の仕事の用心棒をやっていた空手使いだったが、ヤクに溺れていたところを藤堂によって救われたという恩があり、藤堂を陰から支えている。
藤堂のためなら殺人や誘拐などといった裏仕事も厭わず、藤堂がゴルゴに接触できたのも、ウノの働きがあってのもの。
ウノの祖父とも関わりがあるようなので日系アメリカ人のようだが、掘り下げられることはなかった。
- バルボア
用心棒の一人。
タバコを吸ったりパチンコを楽しんだりと俗っぽい。
- テレノ
用心棒の一人。
セリフも出番もほとんどないが、日本観光は楽しみにしていたようだ。
- 山岸
丸菱商事の上司であり重役。
復職させるのには失敗したものの、付き合いが長いだけあってか藤堂に命を懸ける決心をさせた。
- 一流のプロ
ビッグフォーが差し向けた二番目の名無しの刺客たち。
一流のプロを差し向けるべきだとビッグフォーが談合したあと送られたことから便宜上このような名前としておく。
藤堂とウノの二人をメキシコ湾に葬ろうとするが、手を縛られた状態の二人の空手によって全員返り討ちにされた。ゴルゴ世界における一流とは…?
【余談】
- 『蟷螂の斧』のモデルになったのは1977年に起きた穀物メジャーのクック社の倒産、およびカントリーエレベーター連続爆発事故と思われる。
元々(というか現在も)穀物メジャーはビッグ4ではなくビッグ5である。
その一角を占めていたクック社だったが大豆の先物取引で大損失を出し、エレベーターなどの資産を売り払った末に同年5月に倒産した。
また、同年12月にニューオーリンズでコンチネンタルグレイン社*1所有のエレベーターが粉塵爆発を起こし、従業員37名全員が死亡する事故が起きた。
その5日後にもテキサス州で輸出用エレベーターが粉塵爆発を起こしたが、これがクック社がFEC社*2に売却した当時最新鋭のエレベーターだった。
- なお、穀物メジャーと共に危惧されている石油メジャーによる石油支配だが、こちらは産油国であるアルジェリアやサウジアラビアらによるOPEC(石油輸出国機構)による反抗に遭い1976年に瓦解している。
そのOPECも連帯感の無さから石油支配が長く続かず、石油市場はグローバルな会社による群雄割拠の競争になった。
日本も住友・出光・コスモなどがその開発・採掘の競争に参加しており、藤堂と堀田が危惧していたような両面からの日本支配は当分ないものと思われる。
穀物支配は依然として継続しているのだが……
追記・修正は米を食べてからお願いします。
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- ゴルゴ13が映画ではなく新聞に成り得るのを示したのがこの人の大きな点だと思う。各国情報部とか雲の上の話やバトルアクション以外に新聞の話題をゴルゴが裏で解決する狂言回しの様なエピソードの中でも初期に当たる上に完成度が高い -- 名無しさん (2023-06-20 07:58:03)
- 凄えなゴルゴが認めるのも分かる化け物だわこの人… -- 名無しさん (2023-06-20 08:22:17)
- 冒頭で裏社会に縁がないって言って二人名前が出てるけど、そこで名前だすなら梶本じゃないかな? -- 名無しさん (2023-06-20 12:57:23)
- >農民の安楽死 今は酪農家の安楽死にそのまま置き換えられるんだよね -- 名無しさん (2023-06-20 13:38:06)
- 最近になってヒュームの執事や部下だった人が再登場したし、意外とこの人も年老いた姿で再登場してもおかしくない(なおゴルゴは老けない模様) -- 名無しさん (2023-06-20 19:07:13)
- 名前がゴルゴの偽名かそっくりさんっぽく見える -- 名無しさん (2023-06-21 09:13:53)
- 名前は穀物戦争の頃だと完全に主人公でゴルゴが脇役のエピソードは珍しいし、東洋人実業家だとかなりの傑物なので恐らく意図的にゴルゴに似せてるんだと思う -- 名無しさん (2023-06-22 07:43:29)
- 「潮流激る南沙」は「ゴルゴ13」の最終回と言っても過言ではないと言われる高評価なエピソード。 -- 名無しさん (2023-06-23 20:32:58)
- 名前は覚えていないが、エピソードの内容からすぐに顔が浮かぶ。藤堂はそんなキャラ -- 名無しさん (2023-06-23 23:53:13)
#comment(striction)
*2 1980年に倒産している
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