登録日:2023/03/29 (水) 01:00:11
更新日:2024/07/05 Fri 12:30:33NEW!
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叫んだせいで、両親は亡くなってしまった。
私は、自分を一生憎むと思っていた。
でも、違う運命が待っていたの。
誰にでも悪魔はいるけど、私の悪魔には名前がある……
概要
『ウェンデルとワイルド』(原題:Wendell & Wild)は、2022年10月28日よりNetflixにて独占配信されたストップモーションアニメ映画。
監督・脚本は『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』や『ジャイアント・ピーチ』、『モンキーボーン』のヘンリー・セリック。
『コララインとボタンの魔女』以来、実に13年ぶりの監督作品となる。
『コラライン』の後、セリックは2012年にはピクサー初のストップモーション映画『The Shadow King』を手がけることになった。
その時の契約は、「ピクサーの大作よりもずっと予算が安い代わりに、自由を与える」というものだったが……そうはいかなかった。
当時ディズニー・ピクサーのアニメ作品の最高責任者だったジョン・ラセターは完璧主義者な性格上、作品に死ぬほど口出ししまくり、創造性を重んじるセリックと衝突。
予算が膨らみすぎたこの企画は打ち切られ、結局2年かけて完成した映像はわずか5分しかなかったという。
この結果にすっかり打ちひしがれたセリックは、長い雌伏の時を過ごすことに……
彼に転機が訪れたのは、コント番組『キー&ピール』を見たことがきっかけだった。
番組のコントの内容は、人種差別問題など社会派なテーマを扱ったもの。
キーガン=マイケル・キーとジョーダン・ピールの才能に感銘を受けたセリックは、3シーズン目になる頃にはすっかり番組にハマっていた。
インスピレーションを取り戻したセリックは一緒に仕事をしないかとオファーを出してみた所、二人とも乗り気になってくれた。
特にピールは彼やストップモーションアニメそのもののファンであり、本作の脚本もセリックと共に手掛けている。さらにピールは、大学時代に人形劇を専攻していた。
監督デビュー作『ゲット・アウト』が大成功を収めていたことも、この企画を売り込む上で追い風となった。
こうして出来上がった本作は、ダークな奇想とユーモアに満ちた世界観でありながら、企業城下町の衰退や刑務所ビジネス問題などを扱った硬派なテーマとなっている。
ダークファンタジーのセリックと、社会派ホラーのピール。この異色の組み合わせは、今までにない化学反応を見せたと言えるだろう。
あらすじ
ビールの醸造所で成り立つ町、ラストバンク。
祭りの日、醸造所の経営者であるエリオット夫妻は、資産家のクラクソン夫妻からそれを渡すよう脅されていたが、その気はなく断りを入れていた。
しかし祭りから帰る途中、娘のカットがリンゴ飴を食べると中から双頭の芋虫が現れ、思わず悲鳴を上げてしまう。
悲鳴に驚いた父は運転を誤り橋から転落。母はカットを車の外に出したが、車は夫婦を乗せたまま沈んでいった……
一方その頃死者の世界では、悪魔の王バッファロー・ベルザーが自身の腹の上にある「叫びの遊園地」で、運ばれてきた霊魂をいたぶっていた。
その頭上では、悪魔の兄弟ウェンデルとワイルドが父の育毛作業をやらされている。
作業をサボりヘアクリームを食べていたワイルドをウェンデルが咎めるが、ワイルドはそれをウェンデルの口に突っ込み、一緒にトリップし始める。
すると、緑の髪の女の子──カットの姿が見えた。しかもその感触はまさにリアルなものがあった。
──それから5年が流れた冬の日、孤児となったカットは学校でいじめられて傷害事件を起こし少年院送りにされるなど、不良少女となっていた。
やり直しのチャンスとして女子校RBC(ラストバンク・カトリック校)に通うことになったカットだったが、彼女は未だにトラウマから立ち直れておらず、橋の上でパニック発作を起こしてしまう。
しかも醸造所は廃墟化し、ラストバンク全体がかつての盛況が嘘のように寂れていた。
保護観察官のハンターによると、醸造所は両親の追悼式の時に火事になり、大勢の犠牲者を出したとのこと。そしてRBCは、「連鎖を断ち切ろうプログラム」に賛同した初の学校なのだという。
しかし授業初日、いきなり超常現象に見舞われ、カットの左手に歯のような模様が表れる。
担任のシスター・ヘリー曰く、これは誰にも見せてはいけない特別な証とのこと。
一方ウェンデルとワイルドも、「地獄の乙女」が現れたとの知らせを受け、地上に遊園地を作るべく、彼女に召喚してもらおうと動き出す……
登場人物
(CVは原語版/吹き替え版)
・カット・エリオット
(リリック・ロス/おまたかな)
本作の主人公の黒人少女。13歳。
本名はキャサリン・コニクア・エリオットだが、カット以外の名前で呼ばれると怒る。
幼い頃に両親が事故死した件で強い罪悪感と自己嫌悪を抱えており、自分に関わった人は死ぬと思い込んでいる。
その辛い境遇から問題を起こすようになってしまい、更生のためRBCに送られてきた。
制服を着崩し、父の形見のラジカセ「サイクロップス」を担いで音楽を流しながら廊下を闊歩するシーンは本作の名シーン。
しかし授業初日に左手に「地獄の乙女」の印が浮かび上がり、さらに夢の中に出現したウェンデルとワイルドに自分たちを召喚してほしいと持ちかけられる。
「両親を復活させる」という条件で取引に乗り召喚するが、肝心の悪魔兄弟は召喚の過程ですれ違ってしまい、約束をすっぽかされたと思い込む。
その後紆余曲折の末に悪魔兄弟に出会うが、「地獄の乙女」の印によって忠誠を誓わされ、印が暴走し始めるようになる。
同じ「地獄の乙女」のシスター・ヘリーに保護された彼女は、自身のトラウマを克服するための試練に挑むことになるのだった……
その内なる怪物の姿は、自身のトラウマである自動車のような姿をしたものだった。それを打ち破った後、小さくなった怪物を受け入れ、予知能力に開眼した。
予知能力でラストバンクが壊滅するビジョンを見るが、シスター・ヘリーに「未来は変えられる」と諭され、クラックス社と戦うことを決意する。
・ウェンデル
(キーガン=マイケル・キー/多田野曜平)
・ワイルド
(ジョーダン・ピール/丸山壮史)
死者の世界の主バッファロー・ベルザーの息子の悪魔兄弟。
自分たちで理想の遊園地を作ることが夢だが、その計画をベルザーに知られ、彼の頭上で一生育毛作業をやらされるという罰を受けている。
が、そのヘアクリームを食しカットの幻覚を見たことで、自分たちを召喚できる「地獄の乙女」だと確信。
さらにヘアクリームに偶然蘇生効果があることを発見。そのために三回もリアルな潰され方をしたダニがかわいそう
カットの両親で人間も生き返らせられるか試し、成功すれば遊園地の建設資金を稼げると思い込む。*1
しかし地上に行く際にカットとすれ違ってしまい、代わりにベスト神父を蘇生。このためにますます騒動が大きくなっていくのだった……
ちなみに寝る場所はベルザーの鼻の穴の中であり、脱走するときは鼻クソで身代わり人形を作っていた。
また、彼らの愛馬(?)の名前はスパーキー。フラン犬とは関係ない……と言いたいところだが、死者蘇生というテーマが共通してるのでやっぱり意識していると思われる。
モデルは声も担当したキー&ピールの二人。
また、この二人のキャラクターの大元となったのは、セリックの二人の息子。
幼い頃はまるで悪魔のようないたずらっ子で、この二人を元に描いた7ページの小さな物語が、本作の原型なのだという。
・デルロイ・エリオット
(ゲイリー・ゲートウッド/横田大輔)
・ウィルマ・エリオット
(ガブリエル・デニス/新藤みなみ)
ラストバンク醸造所のオーナーの夫婦で、カットの両親。
彼女が幼い頃に車で橋から転落し命を落としてしまった。
その後成長したカットが悪魔兄弟に二人の復活を約束させるが、紆余曲折あって約束を反故にされた所を、ラウールが復活させた。
廃墟化した実家にて親子は再会を果たし、カットに事故の責任はないことと、罪悪感故に友達を作れないと言う彼女に友達を大事にするように諭した。
しかしクラクソン夫婦と約束している悪魔兄弟やベスト神父には都合の悪い存在であり、墓に戻されそうになる……が、あっさり返り討ちにした。曰く、3歳の娘の方が怖かったとのこと。
ベスト神父二度目の死によって自分たちに残された時間が短いことを知るが、悪魔兄弟がバクバク食べたせいで残り少ないクリームを町を守るために使うようにとカットに伝える。
クラックス社の野望を阻止した後、クリームの効果がついに切れる時が来た。
カットがラストバンクが復興し、自身も更生プログラムを支援するという未来を見たことを伝えると、満足げに息を引き取った。
そして父から遊園地再建を託された悪魔兄弟は、死後の世界で両親をVIP待遇することを約束するのだった……
・ラウール・ココロトル
(サム・ゼラヤ/大野智敬)
RBC唯一の男子生徒。雪解けに向けて家々の屋根に絵を描いている。
実はトランスジェンダーで、かつての名前は「ラモーナ」。
彼はストップモーションアニメ史上初のトランスのキャラクターであり、声優もトランス当事者を起用している。
我が道を行くカットといい、教室にヤギを連れてくるシボーンといい、RBCは結構自由な校風のようだ。
かつては3人組と友達だったが、現在は距離を置かれている。
両親と再会するために悪魔兄弟を召喚しようとするカットによって立会人にさせられたり、悪魔兄弟に墓暴きをやらされたりと、何かとトラブルに巻き込まれやすい。
が、悪魔兄弟がヘアクリームを食べすぎて眠った隙にカットの両親を蘇生させ、代わりに約束を果たしたのだった。
母マリアンナはパラリーガルで醸造所の火事を調査しており、クラクソン夫妻の罪を暴くべく事件の目撃者を探している。
・シボーン
(タマラ・スマート/鈴宮早織)
・スウィーティ
(ラモーナ・ヤング/内山茉莉)
・スローン
(シーマ・ヴァーディ/南波ゆき)
RBCへの転入が決まったカットを出迎えた3人組。
カットに「ケイケイ」というあだ名を付けたりしてウザがられるが、上から煉瓦が落ちてきたのを助けられて、ますます彼女に興味津々になるのだった。
シボーンはクラクソン夫妻の娘で、ペットはヤギのギャビー。
刑務所ビジネスの実態を知った後は騒動の渦中にいた一同と合流。両親が学校を救う気や遊園地建設に協力する気などさらさらないことを教え、彼らに協力する。
……あの両親からよくまともに育ったものである。
スウィーティとスローンも、終盤の刑務所建設反対の抗議デモに、反対派の議員たちと共に参加している姿が見られる。
・シスター・ヘリー
(アンジェラ・バセット/桜井ひとみ)
カットのクラスの担任。
実は彼女もまた「地獄の乙女」となった過去があり、同じ境遇のカットを気遣っていた。
そのためか、どこにでも侵入する能力を持つ。
用務員のマンバーグとは因縁があり、12歳の時から悪魔の捕獲に利用されていたが離反し、召喚に必要なクマのぬいぐるみのバブ*2を盗んで机の中に隠していた。
後半、悪魔兄弟に忠誠を誓い「地獄の乙女」の印が暴走し始めたカットを更生させるべく、マンバーグと協力する。
・マンバーグ
(イガル・ナオール/中村浩太郎)
車椅子の用務員。
実は悪魔ハンターで、「地獄の乙女」となったシスター・ヘリーを使って悪魔を捕らえては生きたまま瓶詰めにしてコレクションしていた。
彼は正義の戦いだと主張しているが、ヘリーからは罠ではめただけと、そのやり方に反発されている。
バッファロー・ベルザーが出現した時はかつてない大物にウキウキしていたが、彼が自身の子供たちを探していたことを知ると、快く返した。
・バッファロー・ベルザー
(ヴィング・レイムス/手塚秀彰)
死者の世界の主で、飲みこんだ霊魂を腹の上にある「叫びの遊園地」でいたぶっている。なのでしっかりと排泄描写もある
その内容は、車両同士が激突するジェットコースター、電気ウナギの水槽に落とされる観覧車、熱々のコーヒーを注がれるコーヒーカップ、遠心力で吹っ飛ばされる回転ブランコ。
ウェンデルとワイルドが脱走したことを知って、地上に降臨。彼らを連れ戻そうと大暴れするが、家々の屋根に積もった雪が解けてラウールが描き続けたアート──
我が子(ラウール)を双頭の竜(クラクソン夫妻)から守ろうとする、マヤ族の女戦士(母マリアンナ)の絵が浮かび上がる。
これを見て態度を変えてきたベルザー。彼には子供たちに何度も脱走され、一人も戻って来なかったという過去があった。
それを知ったマンバーグらは、瓶詰めになっていた子供たちを返しに来た。
そして降臨の際に壊れてしまった遊園地の再建をウェンデルとワイルドに託すと、元の世界に帰っていった。
バファローベルとは関係ない。
・レベル・ベスト
(ジェームズ・ホン/越後屋コースケ)
RBCの校長を務める神父。
生徒たちの信頼も厚く、「連鎖を断ち切ろうプログラム」を主導しているが、実際学校は予算不足であり、州からの奨励金目当てでカットを引き取った。
醸造所の火災の件でクラクソン夫婦に有利な証言をしたことで繋がっている。
が、そのやり方がクラックス社のビジネスモデルとかち合うことや、刑務所建設に賛成する保守派の議員*3がすでに全員死んでいることを告げたために殺害されてしまう。
その後、悪魔兄弟のヘアクリームの実験台にされ、最初の蘇生者となった。
ラストバンクが衰退した町であることを教えた途端、金目当てで動いていた兄弟に見捨てられそうになるが、クラクソン夫妻が保守派の議員を求めていたことを思い出し、彼らの蘇生を提案する。
目的を果たし大金を受け取った彼であったが、その金の正体はクラックス社内でしか使えない、何の価値もない紙切れであった。
ベルザーの件が解決した後はクリームの効果が切れて再び絶命。このことは、カットに両親と共にいられる時間が残り少ないことを告げるものだった……
・イルムガード・クラクソン
(マキシン・ピーク/小林さとみ)
・レーン・クラクソン
(デヴィッド・ヘアウッド/広瀬竜一)
ラストバンクを買収したクラックス社のオーナー夫妻。醸造所を放火した張本人でもある。
州知事と結託し町に刑務所を建設しようと目論んでいるが、市議会に尽く否決されてきた。
復活したベスト神父と悪魔兄弟に、保守派の議員を復活させたら遊園地や学校の資金援助をしてやると約束する。
しかし二人の気がかりは、同じ墓地に醸造所の火事の犠牲者も眠っていたことだった。そのため、議員以外を復活させることを固く禁じた。
翌日、市議会はいつも通り刑務所建設案が否決されるはずだった……が、蘇生した保守派の議員も出席。
彼らが生きていると見なされたことで評決はやり直しに。
反対派は5人、保守派の議員は6人……ついに建設案が可決されてしまった。
その刑務所のシステムは、
犯罪者を受け入れると、州から大金が懐に入る→
彼らを刑務所にすし詰めにして、人件費を極限まで削って衣食住も健康もボロボロに。更生支援もなし→
「連鎖を断ち切ろうプログラム」に賛同したRBCに問題児たちを送り込み、まともな教育も受けさせずに落ちこぼれるよう仕向け、問題を起こしたら刑務所送りに
……という、現代の奴隷制とでも言うべき恐るべきものであった。
刑務所建設の開始日、娘が抗議デモに参加している姿を見てブチギレたイルムガードは邪魔者全員をブルドーザーで押しつぶすよう保守派の議員たちに命じる。
大乱戦の末に彼らは倒され、ラウールが醸造所の火事の犠牲者を復活させ証言してもらったことで夫妻の罪は暴かれ、御用となった。
こうして、町を壊滅に追いやり支配し私腹を肥やそうとした夫婦の野望は断たれたのであった。
余談
〇ストップモーションアニメと言えば製作の苦労話がつき物だが、本作の場合自然の脅威もそれに加わっている。
コロナ禍だけでなく、山火事がスタジオに近づいたことにより人形たちを避難させたり、大寒波により停電したり……
セリック自身が旧約聖書のヨブ記に例えるほどの苦難だったが、これにより一同団結し、無事完成までこぎつけている。
〇デジタル技術によって、劇的に進歩したストップモーションアニメ。
しかしあまりにも完璧すぎると、CGアニメとほぼ変わらなくなることが問題になっていた。
そこで本作では、人形の顔の上下の継ぎ目を残したり、あえて1秒を24コマでなく12コマや8コマで撮った動きの粗い場面を入れたりして、手作り感を守っている。
〇カットと父はお揃いのTシャツを着ているが、描かれているロゴはミクスチャーロック・バンド『FISHBONE』のもの。
セリックはこのバンドの「Party at Ground Zero」のPVを製作していたという繋がりがある。
〇エンドロールをよく見てみると、ジャック・スケリントンらしき骸骨が転がっている場面がある。
さらに終了後にはスタッフによるオマケ映像もある。
追記・修正は、ヘアクリームを食べながらお願いします。
参考文献
Henry Selick on making a comeback with ‘Wendell & Wild’, his first film since ‘Coraline’
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*2 原語版ではBearzebub。クマとベルゼバブのかばん語である
*3 字幕では「退役軍人」となっている
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