登録日:2022/12/28 Wed 23:01:12
更新日:2024/06/28 Fri 13:35:18NEW!
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ちゃお ちゃおホラー サスペンス 篠突川のお呪い 小森チヒロ ツンデレお嬢様とクーデレメイド
孤独な私を癒してくれたのはあなたひとりだけだった……
『篠突川のお呪い』はちゃおデラックスホラー2020年9月号に掲載されたホラー短編。
著者は作者コメントがハイテンションなことに定評のある小森チヒロ。この界隈の中では比較的近年参加した人である。
ちゃおホラーでは少女同士の重い友情!→殺人! みたいな作風が多い。
ツンデレお嬢様の萌花とクーデレメイドの仁栄の間に芽生えた絆と、篠突川を巡るおまじないを描いた物語。
舞台は(おそらく)現代よりちょっと前の日本の田舎。
良家のお嬢様である萌花は、とある事情により母親以外信じられないでいた。
そんなある日仁栄というもの静かな少女が萌花の女中として配属される。
最初こそ仁栄を拒絶していた萌花。だが無表情ながらも献身的な仁栄に徐々に心を開いていく。
ツンデレな萌花お嬢様が徐々にデレていく姿を楽しむ作品です。
だけで終わるならよかったけど、掲載誌がちゃおホラーなので……。正直内容としてはホラーというよりもサスペンスに近い。
小森チヒロのホラー作品では何故か唯一単行本化していない。
掲載順では後年にあたるはずの『花喰い』の方が先に単行本収録されるという謎の事態が起きている。
だが掲載されたちゃおデラックスホラー2020年9月号は電子書籍になっているので読むのは容易。
またちゃお公式サイトでごくまれに無料配信される。
2024年5月に発売された小森チヒロの『メイドは恋する蜂谷くん』3巻の巻末にてようやく収録された。
【ストーリー】
好きな人と一緒にいられるおまじない
人の形に切った紙に相手の名前を書いて祈りながら篠突川に流しましょう。
神宮寺萌花は良家のお嬢様。体が弱くほとんど外に出られないため友達はおらず、兄弟もいない。何より父は家の資産を奪って失踪中の身。
そのため萌花にとって信じられるのは母だけであった。だがその母も神宮司家が経営する会社の社長として忙しく、萌花は寂しい日々を送っていた。
そんな時に知ったのが篠突川のおまじない。萌花の近所の川にはそんなおまじないがあったのだ。
だが今日はあいにくの雨であり、体の弱い萌花は外出できなかった。
ある日萌花の母が、びしょ濡れの少女を家に連れてくる。川の近くで倒れていたところを萌花の母が助けたらしい。
そして身寄りがないことを知りかわいそうに思った萌花の母は、彼女を萌花のお手伝いさんとして働かせることを提案するのだった。萌花と年も近いしきっと友達になれるだろうと。
だが自分には母しかいない、母さえいればいいと考えている萌花にそんな提案は飲めない。
怒りながら母の前から去っていくのだった。
いらいらした気持ちで萌花は部屋にこもっていた。だが見慣れない女中が萌花の部屋に訪れる。
整った身だしなみをしていたが、よく見ればそれは先ほどの少女だった。
彼女は仁栄と名乗った。萌花は妙に淡々としており無表情の仁栄に不気味さを覚える。
とにかく仁栄のことが認められず「気安く呼ばないでよ」と怒る萌花。
そんな彼女に対し仁栄は「私には他に行くあてがないのです」と表情を変えないまま土下座を始める。
その姿にちょっと引いた萌花。ほんのいたずら心で「そんなにこの家にいたいなら、床でもなめてみたら?」と言ってみる。
だが仁栄は「わかりました」と当然のように床をなめようとする。萌花はあわててそれをやめさせる。
なぜそこまでするのか、と疑問を抱く萌花だがそこでようやく気が付く。
萌花には母しかしない。だが仁栄には本当に何もない。
曲がりなりにも良家のお嬢様である自分と違い、彼女にとって生きる方法は限られているのである。
そう考えた萌花は、少しだけ仁栄に対する敵愾心を緩めるのだった。
そんな仁栄に動揺した萌花は懐に入れていたヒトガタを落としてしまう。
仁栄はおまじないのことを知っていた。そんな手段を使ってまで母といたいという気持ちを仁栄に見られ、萌花は恥ずかしかった。
それに対し仁栄は多忙で滅多に会えないから仕方がないと言うだけであった。続けて萌花の父の話題を出す仁栄だが、萌花がそれをさえぎる。
萌花の父は一族の資産を盗んで蒸発した大罪人。そのせいで母は多忙になったし、何より萌花にあまり会えなくなった。
萌花にとって一番憎む相手は父であった。
父への怒りで興奮した萌花はまた体調を崩してしまう。仁栄に介抱され部屋に戻ることに。
部屋の中でふと仁栄は部屋の膨大な蔵書を自分も読んでいいかと聞いてきた。
仁栄は知識と教養を身につけたかった。なぜなら萌花を支えたいから。
萌花さま これからは私がいます
何があっても支えられるようあらゆる知識と教養を身につけたいのです
その真摯な想いを断ることもできず、萌花は仁栄の言葉を了承するのであった。
こうして萌花と仁栄は一緒に暮らすことになった。
ある日、萌花は他の女中たちが母の悪口を言っているのを聞いてしまう。
夫をはじめとして多くの人に騙されており、あれでは人がいいのではなくただの馬鹿だと。
当然その言葉に怒る萌花。だが怒るだけで何もできない自分が、萌花は悔しかった。
そんな彼女に仁栄はとある提案をする。篠突川のお呪いを利用してはどうかと。
ヒトガタを使ったおまじないには裏の顔があった。
それは人を殺す呪術であるということ。名前を書いたヒトガタを二つに破り割き、片方だけを川に流す。すると名前を書かれた相手は死ぬ。
おまじないのもう一つの力に戸惑う萌花。取り乱しながら仁栄を止めるのだった。
そんなお呪いは嘘だと信じたい萌花だったが、そうもいかない事件が起こってしまう。
蒸発していた萌花の父が死体として見つかったのだった。しかも篠突川の下流で父の名前が書かれた半分のヒトガタが見つかる。まさに仁栄の話通りの事態であった。
呪いの力に怯える萌花だが、対照的に仁栄はいつもの無表情だった。
思わず「なんでそんなに平然としてるのよ!」と叫ぶが仁栄は「お嬢さまが取り乱した時にそばで支えるためです」と返すのだった。
平常心が保てなくなった萌花は仁栄と共に部屋で休んでいた。
萌花は仁栄に自身の感情を吐露する。父が誰かに死を願われるほどろくでなしなのはわかっていた。だが自分にもその父親の血が流れていることが萌花は嫌だった。
そんな彼女に対し、仁栄はいつも通り淡々と言葉をかける。
…萌花さま たとえ誰の血をひいていようとも
自分は自分です
淡々とした口調だが萌花のことを慰めるような言葉。萌花を落ち着かせるには十分だった。
萌花はただ「ありがとう」と呟くのだった。
それから萌花と仁栄は仲良くなっていた。
仁栄は無表情ながらも萌花にいけしゃあしゃあと言うようになったし、萌花もそんな彼女を怒りながらも受け入れている。
萌花が社長になっても…ちゃんと一番近くで支えてよね
そしてそんな本音がポロっと出てしまった萌花。恥ずかしくなり逃げるように部屋から出てしまう。
廊下に出た萌花は、廊下で女中たちが気になる噂話をしているのを聞いてしまう。
それは仁栄が死んだ父が失踪先でつくった子供かもしれないということ。
噂が正しければ、つまり仁栄は萌花の義理の妹……。
だがそれについて深く考えている時間はなかった。
なんと萌花の母が莫大な借金を背負ってしまったのだ。母は女中が言う通り馬鹿と紙一重で人がいいため、また騙されてしまったのだった。
この状況のため、女中は全員解雇ということになった。もちろん仁栄も例外ではない。
仁栄と離れ離れになるという事態に萌花は当然取り乱してしまう。
嫌よ! 離れるなんて絶対嫌!
ずっとそばにいるって約束したじゃない!
どうしようもない現実に打ちひしがれる萌花。だがそこでひとつだけ打開策を思いつく。
それは篠突川のおまじないを使うこと。ふたりで一緒に互いの名前を書けばきっと一緒にいられるはずだと。
だが仁栄の反応は冷たく「外は雨です。体に障ります」と呟くだけ。
居ても立っても居られなくなった萌花はひとり篠突川へと向かう。どしゃぶりの雨に病弱な身体。脚は思うように進んでくれない。けれども、仁栄のためなら決して苦ではなかった。
このくらい仁栄を失うことに比べたら…!
おまじないを始めようとする萌花。だがそこに仁栄が現れる。手には萌花の名前が入ったヒトガタがあった。
仁栄も萌花と同じ気持ちであったのである。感極まり、涙を流しながら仁栄に抱きついてしまう。
よかった 萌花たちおんなじ気持ちだったのね…
お嬢様…何かかん違いしておいででは?
そう言うと仁栄はヒトガタを二つに破ったのだった。
どうしてと困惑する萌花に対し、仁江は「それは私のせりふですよ」怒気のはらんだ口調で返す。
実は仁栄は神宮司家を、そして萌花を強く恨んでいた。
仁栄は今まで父親のせいでろくな生活を送れていなかった。父のせいでどこに行っても見下され、母親から見捨てられ、虐待に近い生活を受ける。それが仁栄の日常だった。
仁栄は生きるために、今まであの家の床よりよっぽど汚いものを口にしてきた。
そんな時彼女は同じ父に生まれながら全く違う人生を歩む萌花の存在を知ったのだった。
ああ 許せないと思いました
そして仁栄はヒトガタの半分を篠突川に流した。
呪いで死んでしまうとおびえる萌花を仁栄はあざけ笑う。「本当にまじないで人が死ぬとお思いで?」と。
萌花の父を殺したのは仁栄であった。そうして近くにヒトガタを置いただけ。
つまり呪いに見せかけることによって、殺人をカモフラージュしたのだった。
周囲の目を誤魔化し、何より萌花の信用を得るために。
今までの仁栄の態度は、全て萌花に信頼されそして最後に裏切るための演技だった。
仁栄は「さぁ安心して死んでくださいお嬢さま」と懐から包丁を取り出す。
彼女の真の目的は、神宮司家の信頼を得て萌花を殺し神宮司家を乗っ取ること。
既に計画は最終段階に来ていた。
仁栄は今までの関係が嘘のように、躊躇なく萌花に包丁を向ける。
萌花は取り乱しながら「今までのこと…本当に全部嘘だったの!?」と叫ぶ。
一瞬の沈黙の後、仁栄はあっさりと「そうですよ」と答えた。
最愛の仁栄に裏切られた萌花は、力を失ったように足をもつれさせ、崖から落ちてしまう。
さようなら!
最後まで愚かな萌花お嬢さま!
篠突く雨の中、仁栄の哄笑が響き渡るのだった。
その後神宮寺家では萌花の葬式が開かれていた。
萌花の死因は事故ではなく呪いだったのではないかと周囲ではささやかれている。
そして娘まで亡くしてしまい萌花の母の心は壊れかけていた。
彼女は仁栄を養子にしたいと申し出る。それも計画のうちである仁栄が断る理由もない。
笑顔でその申し出を受け入れるのだった。
本当に全部うそだったの!?
仁栄の頭の中ではなぜか萌花の最期の言葉が巡っていた。
果たしてあの日の答えはどこまで真実だったのか……。
もしかしたら違う道もあったのかもしれない。
僅かに何かを考えるような表情を見せた仁栄。
仁栄は亡骸の傍にヒトガタの半分を置くと、静かに棺を閉めるのだった。
さようならお義姉さま…
【登場人物紹介】
◆神宮寺萌花
気の毒な子。環境のせいで人に心を開けない中で初めて心を許せた相手が、自分をハメ殺す気でいたとか不憫すぎる……。根はかなり純粋な子と分かるだけに悲惨な末路となっている。
萌花の心境の変化について余談。序盤では母の名前の書いたヒトガタを流そうとしていたが、雨が身体に障るためおまじないに行けずにいた。対して終盤では仁栄のために自分の身体も構わず土砂降りの中篠突川に向かっている。それだけ仁栄が大切だったのだろう。まあ裏切られるのだが。
◆仁栄
本作の黒幕。萌花に依存させるだけ依存させておいて最後の最後で裏切る邪悪な少女。
……だがラストシーンで自分の行いに思うところがあるような表情を見せている。結局仁栄の行動は、全て演技だったのか、それとも時折本心が出てしまっていたのか……。
彼女の生い立ちを考えるに「自分は自分です」は少なからず本心だったかもしれない。なおあの場面では呼び方が「お嬢さま」から「萌花さま」になってる。
ちなみに本作では無表情の仁栄がうつる意味深なコマが時折挟まれている。仁栄の真意を知ってからその辺りに注目すると面白いかも。
◆萌花の母
本名な「神宮司圭子」。一族の会社を継いでおり多忙だった。
良くも悪くも人が良くそれでいくつもの事件を呼び込むことになった。
◆萌花の父
一コマも出ていないが全ての元凶。
【余談】
作者の小森チヒロはTwitterにて本作について「また女の子しかでてこないよ、えへへ😊😊」と呟いていた。
実際この人、ちゃおホラー4作目の『花喰い』でようやくまともに少年キャラ出した程度にはかなり男女比偏っている(『篠突川のお呪い』は3作目)。
アオリ文に『孤独な私を癒してくれたのはあなたひとりだけだった…』だの『幽霊屋敷に閉じ込められていたのは…愛』だの書いておいて女の子しかでないとかよくあるのが小森チヒロホラー。
なお本人も自覚する程度にホラーは女の子女の子しているが、それ以外だと普通に男女比整う。
ちなみに小森チヒロの少女同士の友情もの作品でハッピーエンドが見たい人は「さよなら、私たちの終末」とか読もう*1。
本人はホラーが苦手で避けていたため、執筆中「描けねえ~~~~~~wwwwwwww」になったらしい。
ホラー嫌いはコメントなどで片鱗が見えている。ちゃおデラックスホラー2020年1月号の作者コメントでおすすめのホラーを求められた際は、他の作家が真面目に答えている中一人だけ「『モンスター・ホテル』というアニメ映画が涙が出るほど笑えるのでおススメです!」と勧めていた。
この号で掲載された『王子様でいさせて』も女の子女の子している。
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*1 小森チヒロの「神さまと偽装カップルはじめました」1巻の巻末に読み切りとして掲載されている
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