登録日:2023/04/09 Sun 21:57:30
更新日:2025/06/29 Sun 09:37:28NEW!
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笑ゥせぇるすまん 笑ゥせぇるすまんエピソード項目 チャンバラ 時代劇 懐古 映画館 現実逃避 藤原啓治 伊倉一恵 メリーバッドエンド 考えさせられる話
「オールド・シネマ・パラダイス」は、『笑ゥせぇるすまん』50話のエピソード。アニメ版は末期の「年忘れ特大号」にて放送された(動画配信等の話数は124話)。
流行に乗ることができない男が、遠き日の想い出にはまった末に出した結論は……
※本項の内容はアニメ準拠で記載してあります※
【あらすじ】
勝戸大介は新作の時代劇漫画の原稿を編集長の魚坂に見せる。
「勝戸ちゃん、これ個人的には悪くないと思うよ」
「えっ そうですか!」
「しかしうちの雑誌じゃ使えないねえ。どっかよそへ見せたら」
チャンバラ漫画は受けないということで、魚坂はこの原稿を没にする。勝戸は「ぼくは時代劇が大好きなんです!」と食い下がるが、魚坂も「テーマを変えない限りうちは無理だ」と突っぱねる。
他の出版社へ持ち込んでも「古臭い」と言われて没にされた勝戸は、その夜、帰宅途中に自販機で酒を飲みながら「忠臣蔵」(漫画版では「丹下左膳」)の真似をして鬱憤を晴らしていた。
そんな勝戸に拍手をする人物が現れる。
「うまいうまい! いや~あなたのような若い人がそんな古い時代劇に関心があるとはうれしいですなあ~!」
現れたのは喪黒福造だった……
【登場人物】
CV:大平透
おなじみ笑ゥせぇるすまん。
「幻のスタア」以来の、時代劇に対する関心の深さを今回も披露する。
- 勝戸大介
CV:藤原啓治
31歳の劇画家。
少年時代から父親がやっていた映画館でチャンバラ物の映画を見ているうちにチャンバラのとりこになり、漫画家になってもチャンバラものしか描かない(描けない)ほどに徹底していたが、「時代劇は今では受けない」と没にされるという鬱屈した日々を送っていた。
そんな中、喪黒から昔に返ることができる映画館を案内される……
- 勝戸の妻
CV:伊倉一寿(現:伊倉一恵)
勝戸の才能を認めてはいるが、チャンバラ趣味を全く理解しておらず、勝戸にチャンバラなんか書くのはやめろとしつこく言ってくる。アニメ版は後述のように勝戸に助言したり執筆中の勝戸にお茶を出すなど、根は優しい部分が追加されている。
- 魚坂
漫画雑誌の編集長。役職上忙しいにもかかわらず勝戸の原稿を見たり、勝戸をディスコに連れて行ったりと、面倒見は意外といいようだ。
【顛末】
自分の趣味を理解してくれる人が現れて勝戸は上機嫌になる。
「いや~ 昔の時代劇映画は最高ッスよ!」
「ホーホッホッホ。それじゃその辺で活動写真の話でもしながら一杯やりませんか?
「えっ!! 時代劇を!? でも……」
勝戸はお金がないことに気づくが、喪黒は飲み代の心配はいりませんと言って強引に連れて行った……
BAR『魔の巣』にて、喪黒は勝戸の原稿を一読する。
「ほう… こりゃなかなか傑作ですな。いまどきこういうチャンバラものなつかしいですなあ」
「編集長はそんな古臭いものはだれも見ないというんです。でもぼくはチャンバラものしか描く気が起きなくて…」
上述の通り、勝戸は父親がやっていた映画館で時代劇の映画を見ているうちに時代劇のとりこになったことを喪黒に語る。
「で、その映画館は?」
「モチロン、とっくの昔につぶれちゃいましたよ」
「あーあ あの映画館が残っていたらなあ… オヤジみたいに毎日チャンバラの活動写真をかけて暮すのに…」
過去の想い出を振り返る勝戸に喪黒が「映画館を紹介してさしあげましょう」}と助け船を出す。
「そんな映画館がまだ残ってるんですか?」
「まあ、気に入るかはわかりませんが、古い映画館には違いありませんよ」
「ぜひ連れてってください」と頼み込む勝戸に対し、喪黒は「ではいかがですか、今から」「終夜営業ですから」と話を進める。この言葉に勝戸も目を輝かせるが、家のことを思い出していったんは思いとどまる。
ここで喪黒はいつもの名刺を勝戸に渡す。
「モ・グ・ロ… フ・ク・ゾ・ウ… 変わった名前ですねえ」
「よくそう言われますよ。ホーッホッホッホッホ」
自宅のアパートに戻った勝戸は、部屋に入るや否や、妻にこんな時間になるまでどこをほっつき歩いていたのかと怒られる。勝戸は「雑誌社で待たされた」とごまかすが、酒の匂いに気づいた妻は、金もないのにどこで飲んできたのかとさらに詰め寄る。
「それが、街で出会った不思議な人におごられて……」
「まさか原稿料で飲んだんじゃないでしょうね?」
「とんでもない。飲もうにも原稿売れなかったんだもの」
勝戸のこの言葉に妻はブチ切れる。
「売れなかったで済むと思うの!? 今月の払いどうすんのよーっ!!」
物を投げつけるなど妻の癇癪に耐えられなくなった勝戸は部屋を飛び出して、近くの公衆電話から喪黒に電話をかける。
「喪黒さんですか?遅くにすみませんが、さっきの話の映画館ですが、やっぱり今夜連れてってもらえないでしょうか?」
「そうですか。ではお迎えに参りましょ」
「えっ?お迎え? あっ、もしもしこの場所…」
勝戸の言葉が終わらないうちに、タクシーがやってくる。タクシーの中の喪黒が一言。
「さ、行きましょうか」
「あれ?なんだか懐かしい感じだ」
魔の巣のマスターが運転するタクシーに揺られ、勝戸は外の光景を見てつぶやく。
タクシーから降りた勝戸はその光景を見て目を丸くする。それは、映画の大きな立て看板が立ち、「文化の泉★娯楽の王」というキャッチフレーズが書かれた看板が掛けられ、壁には映画のポスターが張られている、いかにも昭和を思わせるいでたちの映画館だった。
「そっくりだ。オヤジの映画館とそっくりだ!」
喪黒に連れられて映画館の中に入った勝戸は、モギリのおばさんや掃除のおじさん、壁に飾られた時代劇スターの写真を見て、「まるで昔に戻ったみたい」と驚嘆する。そして劇場に入ると、『国定忠治』を上映していた。
「いよーっ! 日本一!」
勝戸は周りの客への迷惑も顧みず、歓声を上げる。
「同じだ…何もかも……」
昔の想い出に浸る勝戸だったが、後方の映写室に人影を見る。気になった勝戸が映写室の扉を恐る恐る開けると……
まず鏡に映った自分の姿に驚くと同時に、こんなところもオヤジの映画館と同じかと感慨にふける。さらに上階にまた人影を見た勝戸が階段を上ると……
そこには誰もおらず、ただ映写機が回っているだけだった。
「ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ!」
背後からの喪黒の声に勝戸は驚く。
「どうかしたんですか?」
喪黒が改めてたずねる。
「なんだか、ここに死んだオヤジがいるような気がして、つい……」
勝戸は映写室の窓から再び映画を観る。映画館で昔を懐かしむことができて、勝戸は満足そうに微笑んでいた…… 忠治が見る月には喪黒の顔が描かれていた
ストレスが発散された勝戸は新しいチャンバラ漫画を懲りずに魚坂に見せる。
「まさか今度もチャンバラじゃないだろうね?」
「ギクッ」
「まあとにかく見せてもらおう」
魚坂は原稿を見ると即座に顔をしかめる。
「やっぱりチャンバラじゃないか!」
「チャンバラでも、今度は前のと違って……」
「チャンバラはチャンバラなんだ!」
魚坂は原稿をテーブルに叩きつける。
「無駄な時間を使わせやがって!」
魚坂の暴言に勝戸は切れそうになった。自分を『忠臣蔵』の浅野内匠頭、魚坂を同じく吉良上野介にダブらせ、吉良上野介にいびられる姿を妄想する。
「おのれ吉良ーーーっ!!」
勝戸の剣幕に魚坂もタジタジになる。慌ててその場を取り繕う魚坂は、お詫びとして勝戸をいい所へ連れて行くと提案する。
「え?」
勝戸は魚坂と共にディスコにいた。
魚坂はお立ち台で踊るギャルを指差し、
「ほらほら見ろよ、あっちの右から2番目の。ほれほれ、あの娘なんかきっとノーパンだぞ」
魚坂は勝戸に諭すように言う。
「どうだ?なかなかの見ものだろう」
「はあ……」
「これが現代というもんだ。これを見たら、今がチャンバラの時代じゃないことがよーくわかるだろ」喪黒も顔を赤らめながらお立ち台のギャルを見つめていた……
「そう、やっぱり売れなかったの?だから言ったでしょ?チャンバラなんか売れっこないのよ」
自宅に戻ってふさぎ込んでいる勝戸に妻が声をかける。一言も口を利かない勝戸に、妻はまずトレンディ漫画でも描いて名前を売ってからにしたらと提案する。
「とにかく家賃も払えないんじゃ、アパート追い出されてチャンバラどころじゃなくなるわよ」
勝戸は突然立ち上がり、外へ出ようとする。
「ちょっとレンタルビデオに……」
この言葉に妻はブチ切れ、またも喧嘩になってしまった……
「最高!!最高っスよ!!」
勝戸は喪黒と共に再び映画館を訪れ、時代劇に見入って日ごろの鬱憤を晴らしていた……
勝戸は今度は露出度が高めのコスチュームの美少女剣士を主人公にしたチャンバラ漫画を執筆する。
「やれやれ、まあそれでもちょっとは進歩したかな」
「どうも…」
魚坂は今回は読切で載せようとOKを出す。これには勝戸も「本当ですか」と喜んだ。
そして魚坂は書き直しを要求する。
「ラストだけど、まずこの女剣士が現代に突然現れて、お立ち台ギャル軍団や女子プロレスラー軍団と戦うんだ」
「え!?」
「それとお色気。3・4ページに一回は裸を出すんだ」
「で、でも、それじゃまるっきりギャグに…」
「まあ、読切だからそう固くならないでリラックスして描いてよ。なあに、脱ぐ理由は適当でいいんだ。とにかく裸を出せばそれなりに受けるからな。ハハハハ」 あまりにもひどい要求に勝戸はげんなりしていた……
自宅に戻った勝戸は、女剣士がワンレンボディコンギャルの手で裸にむかれるシーンを描いていた。
そのギャルは女剣士を踏みつけ、「フフフ あんたの時代は終わったのよ まだわからないの やァネ 時代さくごもいいとこネ」とのたまう。
描いている最中、上記の妻や魚坂の台詞が勝戸の脳裏に浮かぶ。
描きたくもないものを描かされる苛立ちがついに爆発して……
妻がお茶を持って勝戸のもとにやってくる。妻は「やっと売れる絵を描く気になってくれてうれしいわ」と労いの言葉をかけるが、勝戸は「まだ売れたわけじゃないよ……」と震えた声で答える。
「大丈夫よ。あなたさえその気になれば、才能はあるんだから」
妻はそういって描きかけの原稿を見るも、途端に目を丸くする。
そこには、突然現れた剣士が妻本人や小池さん、魚坂にボディコンギャルを次々と斬っていく画が描かれていた。当然妻は激怒。
「もう呆れてものが言えないわ! どういうつもりなの!? せっかくの仕事をやらないでこんな落書きばっかり! まったく、まだわからないの!? あなたのくだらないチャンバラなんて売れっこないのよ! もう嫌!!」
「嫌なのはこっちだ!!」
妻の癇癪に勝戸もついに切れる。
「俺は本格的な時代劇が描きたいんだ!! こんな仕事……」
「クソっくらえーーーっ!!」
勝戸は怒りに任せ、机をひっくり返す。今度は勝戸がものを投げるなど荒れた状態になってしまった……
勝戸は喪黒に頼んでまた例の映画館へ連れて行ってもらった。
時代劇の映画を観て勝戸は歓声を上げ、仕事や家での嫌なことを吹き飛ばそうと映画を夢中で見ている。
「ああ……ここにいるとまるで夢の中の人になった気分です! 一生このままこの映画館にいられたら、どんなに幸せかなあ!」
「ほんとにそう思いますか?」
喪黒が声をかける。
もしほんとにそうしたいのならかなえてあげますよ」「えっ!?何ですって!?」
喪黒が願いをかなえてやると聞いて勝戸は驚く。
「あなたがこの映画館にず~~っといたいのならそうさせてあげますよ。ただ!」
喪黒は勝戸を指差して続ける。
「そのためには今までのあなたの生活を一切捨てなければなりませんよ!」
勝戸は自分を認めてくれる人がいない今までの生活を思い出し……
「いいですとも!今までのぼくの生活を全部捨てます!ここで働かせてください!どんなことでもやりますから!」
勝戸は決心を固める。
「わかりました。ではスクリーンをご覧ください」
勝戸がスクリーンを見ると、そこには剣士のコスプレをして二刀流を携えた喪黒がいた。喪黒は刀を振り下ろし……
「ドーーーーン!!」
『魔の巣』にて、勝戸の妻が喪黒にいつもの名刺を見せる。勝戸が行方不明になって心配した妻が名刺を見つけたので、何か知らないかと喪黒にたずねたのだった。
これを受けた喪黒は、妻を例の映画館へ連れていった。
タクシーから降りた妻は映画館を見て凍りつく。映画館は数十年も使われなかったかのような廃墟と化していた。
「あ、あの…… 本当に……」と困惑する妻を、喪黒は中へ案内する。
妻が廃墟の中を勝戸を探し求めるも、いるはずもなく落胆する。その時、妻の背後から映画が映し出された。妻が慌てて映写室へ駆け込むも、そこには誰もおらず、ただ映写機が回っているだけだった。
小窓から映画を観て妻は愕然とする。スクリーンには、切られ役を演じる勝戸の姿が映したされていた。
妻の後ろから喪黒が語りかける。
「ずいぶん楽しそうでしょ? もうもとへは戻らないそうですから、奥さんも自由にしてほしい…ということですよ」
「だれでもみんな自分だけの夢の世界を持っています… でもほとんどの人は現実の生活にに追われて夢をかなえることができません… 夢は… かなえられないから夢なのでしょうか? ホーホッホッホッホ」
【余談】
- 本作が描かれた1993年は「鬼平犯科帳」の連載が始まったばかりであり、「るろうに剣心」「あずみ」の連載開始は翌1994年からである。これらの時代劇漫画のヒットを知っていたら、「時代劇は受けない」というのが先見性のない思い込みというのがわかるだろう。勝戸は時期が悪かったのかもしれない。
追記・修正は白黒の時代劇映画を観ながらお願いします。
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▷ コメント欄
- コミック乱の前身が1995年からだからタイミングが悪い -- 名無しさん (2023-04-09 22:10:42)
- 出版社だって売れなきゃ飯は食っていけないんだから後出しジャンケンは卑怯だわな -- 名無しさん (2023-04-09 22:29:33)
- 魔の巣マスター、タクシー運転できるのか -- 名無しさん (2023-04-09 23:13:58)
- 描写されている限りでは勝戸の作品は古い時代劇をそのままマンガにしたようなもので、タイミングがあっていてもやはり古くさいと評価されてたんじゃなかろうか。 -- 名無しさん (2023-04-10 02:28:16)
- 時代劇のヒエラルキーなら本来斬られ役は一番上 つまりあの映画の中では勝戸は好きなことやってトップになれたわけで 抜け出したいわけがない -- 名無しさん (2023-04-10 07:58:54)
- 世間的にはバッドエンドかもだけど、本人的には破滅どころか望みが叶う形で終わるというのはなかなか珍しいな -- 名無しさん (2023-04-10 09:56:18)
- 好きなものを描きたいならまずある程度売れてからじゃなきゃ難しいよな。でも自分がやりたいように描いたものに限ってすぐ打ち切られるのもあるある -- 名無しさん (2023-04-10 14:40:50)
- 露出度が高めのコスチュームの美少女剣士を主人公にしたチャンバラ漫画は1周回って新しい気がするw -- 名無しさん (2023-04-10 17:37:51)
- ↑むしろビキニアーマーとか受けてたのを思うと連載当時でもブッ刺さったろうになあ……w(多分見る人が見れば「古きよき時代劇のオマージュが心憎い」とか評価されたろうし) -- 名無しさん (2023-04-10 17:48:24)
- 数少ないメリーバッドエンド回だね。こういうオチは何かと考えさせられる -- 名無しさん (2023-04-10 19:32:21)
- 例外といえばそれまでだろうが、93年って花の慶次がヒット飛ばして連載終了した後なのでは?あとコミック乱は上で言われるような「古い絵柄の時代劇漫画」を普通に連載してる雑誌なわけで勝戸は逆に「時代に早過ぎた」人物でもあるな… -- 名無しさん (2023-04-10 21:07:22)
- ↑4↑3『あずみ』は内容こそエロではないが(時代劇としては)露出度高めの美少女剣士が主人公だもんな。80年代に登場したかげろうお銀が大人気だったわけだし。 -- 名無しさん (2023-04-11 03:26:49)
- 提案の方向性が何かズレてるしこの編集は普通に外れだろ。バクマンに出てきた無能編集みたい -- 名無しさん (2023-04-11 08:47:42)
- 偶然だろうが、藤原さんのやってたひろしも後のクレしん映画で映画の中に入り込んでしまうことに… -- 名無しさん (2023-04-16 09:47:40)
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