登録日:2021/06/06 Sun 13:21:06
更新日:2024/05/27 Mon 13:10:14NEW!
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コナン・ドイル シャーロック・ホームズ シャーロック・ホームズのエピソード項目 ジョン・h・ワトソン 小説 密室殺人 まだらの紐
When a doctor does go wrong he is the first of criminals.
(道を間違えた医者は、最上級の犯罪者だ)
─── A.Conan Doyle「The Adventure of the Speckled Band」より引用
『まだらの紐/The Adventure of the Speckled Band』は、アーサー・コナン・ドイルの短編小説でシャーロック・ホームズが解決した事件の一つ。
『ストランド・マガジン』1892年2月号掲載。単行本では『シャーロック・ホームズの冒険』の8話目として収録されている。
短編作品の中でも非常に有名かつ人気のあるエピソードのひとつであり、ドイルも自選で第1位に選んでいる。
内容としては密室殺人モノで、犯人の用いたトリックを推理することが主題となる。
原語版では「Band」という単語が「紐・ベルト」以外にも「一団・楽団」という複数の意味を持つため、ミスリードする要素になっている。日本語ではこの辺のニュアンスが上手く表現できないのが残念なところではある。
今作の話はワトソンが依頼人から発表しないでほしいと言われたため未発表だったが、その依頼者が亡くなったことから発表されることになったという設定になっている。
【あらすじ】
1883年の4月初めの早朝、どうしてもホームズに会いたいという女性が訪れ、二人は叩き起こされた。
その女性ヘレナ・ストーナーによれば、2年前に亡くなった姉ジュリアの奇妙な死について調査してほしいらしい。
運命の夜、ジュリアはロイロット博士が吸うインド煙草の臭いに耐え兼ねヘレナの部屋でしばらく過ごしたあと、自分の部屋に戻った。
その際、ヘレナに対して「誰かが夜中に口笛を吹いているのを聞いたことはないか?」と聞いたという。
ヘレナが聞いたことはないと言うとジュリアは部屋に戻り、しばらくして恐怖の悲鳴をあげた。
ヘレナがジュリアの部屋に行くと彼女は恐怖に歪んだ顔で「まだらのバンドが…」と言いながら気を失い、医者の治療も虚しく息を引き取った。
ジュリアの死因は不明で、扉には鍵がかかっており、窓は鉄板で出来た雨戸が閉められていた。もちろん壁もびくともしなかった。
そして現在、部屋の工事のため一時的に姉の死んだ部屋で寝ることになったヘレナは、姉の死んだ時を思い出して眠れずにいたが、姉が言っていた口笛を聞いたのだった。
果たして口笛と死の因果関係とは何か。ジュリアの言った「まだらのバンド」の正体とは?
【登場人物】
・シャーロック・ホームズ
ご存知名探偵。
早朝からハドソン夫人に叩き起こされて、面白そうな事件なので最初から話に入らないと可哀想だろうとワトソンを叩き起こした。
・ジョン・H・ワトソン
ご存知ホームズの相棒。今回は結婚前の時系列のため、ホームズと共同生活をしている。
早朝からホームズに叩き起こされるが、事情を聞いて是非とも一緒に話を聞きたいと納得した。
・ハドソン夫人
ご存知ベーカー街221Bの女主人。
早朝からホームズを訪ねてきたヘレナに叩き起こされたが、
どうしてもホームズに会いたいと気が動転している彼女のために、ホームズを叩き起こした。
・ヘレナ・ストーナー
今回のホームズの依頼人。かつてホームズが解決した事件の依頼主から紹介されてきた。
一か月前にパーシー・アーミテージと婚約したが、姉の死と自分の身に起こった出来事に恐怖しており、酷い扱いをする養父を疑っている。
ジュリアが亡くなった際、口笛の音とガチャンという金属音を聞いたらしい。その死に関しては恐怖のあまりに死んだと解釈している。
・グリムズビー・ロイロット
ヘレナの養父。
没落貴族の末裔で、状況を何とかするために医者となりインドのカルカッタで患者を診ていたが、何度か家に泥棒が入ったことに怒りインド人の執事を殴り殺してしまい、懲役刑に服した後イギリスに戻って来た。
それからは世捨て人同然の生活をしており、友人はジプシーだけで、その一団を自分の土地に住まわせている。
インドの取引先から動物を送らせており、現在はチーターとヒヒを飼っている。自室には金庫があり、ミルクの入った皿と輪になるように結ばれた鞭を用意している。
ヘレナの後をつけており、ホームズに関わるなと警告した。
・ジュリア・ストーナー
2年前に亡くなったヘレナの双子の姉。
海軍少佐と婚約し、結婚式まで2週間というところで亡くなった。
毎夜低い口笛の音を聞いており、死ぬ直前には激痛に苦しみながら「まだらのバンド」と言い残した。
・ストーナー夫人
ヘレナとジュリアの母。二人が2歳の頃に再婚し、8年前に列車事故で亡くなった。
年1000ポンドの運用益がある動産を所持しており、全額をロイロット博士に譲るが、娘たちが結婚する際には規定の年額を分与するよう遺言していた。
【用語】
・ストーク・モラン館
今回の舞台でサリー州に存在するというロイロット家が代々受け継いできた館。
問題の事件現場はロイロット博士、ジュリア、ヘレナの寝室は一列に並んでおり、同じ廊下と芝生に面している。
部屋の間の壁には窓は存在せず、外向きの窓もかんぬきを閉めれば外から鍵を開けることは不可能。
ジュリアの部屋にはベッドの真上に使用人を呼ぶためのベルに結びつけられた紐が垂れ下がっていた。
【真相】
・グリムズビー・ロイロット全く隠されていないが本作の犯人。
妻から相続した動産を継娘たちに分与するのを嫌って犯行に及んだ。
犯行に使われたのはインドから取り寄せた毒蛇。
この毒蛇の猛毒は噛まれてから数十秒以内に死んでしまう凶悪なもので、しかも科学的検査でも毒殺だとわからないというもの。
さらに噛まれた痕も殆どなく、ホームズをして「よほど鋭い検死官でもなければ発見できないのが当然のもの」というほど。
ホームズはジュリアが寝室でロイロット博士のインド煙草の臭いを嗅いだことから2人の部屋の間には換気口があることに気付いた。
そしてジュリアのベッドが固定されており、その真上にベルと換気口が一直線に存在することに注目し、何かが穴を抜けてロープを伝い、ベッドの上の人間を襲ったという結論に達した。
ロイロット博士は蛇を金庫の中に隠し、口笛で自室に戻ってくるようミルクを使って調教しており、輪になった鞭を使って金庫に戻していたのだ(ヘレナが聞いた「ガシャン」という金属音は金庫を閉めた音)。蛇はミルク飲まないし耳ないから口笛聞こえないだろというのは世界中のシャーロッキアンが突っ込んでいるので気にしたら負けまた、降りた先の人間を噛むように調教していたわけではなく、「いつかは噛むに違いない」という割とアバウトな手段だったりする
ホームズはワトソンと共にヘレナの部屋に潜み、蛇が侵入してきたところを事前に奪った鞭で打ち据えた。
突然の攻撃に驚いた蛇はロイロット博士の部屋へ戻り、博士の首へ巻き付いて噛みつき、博士は自業自得の最期を遂げたのだった。
なお、その際に周辺住民が叩き起こされるほどの凄まじい恐怖と怒りの絶叫を上げており、ロイロット博士の死については様々な噂が上がったとされる。
・ジュリア・ストーナー
結婚が間近に迫ったために殺害されてしまった可哀そうな被害者。
彼女が残した「バンド」とは一団のことではなく紐のことで、「まだらの紐=まだらの蛇」という意味だった。
・ヘレナ・ストーナー
ホームズにより、博士が寝室に入ったら合図をして二人と入れ替わるよう言われていたため難を逃れた。
事件後、この件を公表しないよう願ったらしいが、彼女が作品発表の1ヵ月前に急死したためワトソンは公表した。
まさか自分が死んだ途端ワトソンが事件を発表するとは夢にも思わなかったであろう。
・シャーロック・ホームズ
今回は珍しく推理ミスをしたらしいが、館を調査中に推理を修正した。
ぶっちゃけ実物見なきゃわからない話だったのだが、ホームズ本人はこの事を「先入観で推理する危険性を示す事例」と評し、推理を修正できた事だけが唯一誇れることというほど恥じている。
間接的に博士の死に関わってしまったが、特に良心は痛まなかったようである。当然っちゃ当然。
・ジョン・H・ワトソン
「死んだからもう約束守らなくていいよね」と初っ端からヘレナとの約束を反故にするという暴挙に及んだ語り部。
一応博士の死にまつわる噂について真実を語りたいという事情もあったけどこいつ、『ボスコム渓谷の惨劇』でも同じ事してるしなぁ…
【疑問点】
本作に限らずホームズ作品の多くに言えることだが、作者は細かい考証よりもアイディアと物語としての面白さを重視している節があり、そのため後世の読者からは様々な疑問が提唱されている。
以下はその一例である。
- ロイロット博士はミルクを餌にして毒蛇を手なずけ、口笛の音で操っていたことになっている。しかし、現実の蛇はミルクなど飲まないし、隣室の口笛がわかるほど耳も良くない。*1(同様の推理が出てくる大逆転裁判でも盛大に突っ込まれていた。)
- 蛇を金庫などに閉じ込めていたら、窒息死するのではないか。
- 社会性の動物ではない蛇を、飼い主の合図で行動するように調教することなどできるのか。
- 枝や木の幹ならともかく、細い紐を伝って上り下りすることなどが蛇にできるのか。
- 小説内の描写からすると用いられた毒蛇はクサリヘビ科のように思えるが、そのような毒蛇に噛まれたら傷口は大きく腫れ上がったり壊死したりするのが普通ではないか。検死で発見されないなどということがあり得るのか。
- いくら強力な毒蛇でも、噛まれて10秒以内に死ぬなどということがあり得るのか。
- 1882年に「既婚女性財産法」が変わるまで、英国では夫が妻の全財産を管理することができた。したがって、娘たちに毎年250ポンドを支払うよう妻が要求していたとしても、そもそも所有権は妻にないのだから無視することができたはずであり、殺人の動機として成立しない。
- ヘレンの証言では、事件の晩に寝巻きで部屋を出てきたジュリアは右手にマッチの燃えさしを持ち、左手にマッチ箱を握っていたというが、それならどちらの手でドアの鍵をあけたのか?
【余談】
今回の舞台であるストーク・モランがあるサリー州は様々な作品に登場するスポット。
『ハリー・ポッターシリーズ』では、あのダーズリー一族が住むリトルウィンジングが存在することになっている。
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- 次は「運送手つづききまった鳥肉は…」の件を希望します!!。 -- 名無しさん (2021-06-06 13:33:31)
- 有名な話だが蛇の調教法に関しては現在の視点から見るとちょっとおかしい。まぁそこはお話上重要ではないからどうでもいいんだが。 -- 名無しさん (2021-06-06 15:43:45)
- シリーズの中でも犯行動機はかなりショボイ。逆に言えば妙に現実的ではある -- 名無しさん (2021-06-06 15:47:08)
- トリックは現実的じゃないがな 毒蛇 -- 名無しさん (2021-06-06 16:13:31)
- 大逆転裁判にて、ものの見事にヘビの調教法について突っ込まれている…… -- 名無しさん (2021-06-06 16:20:30)
- ヘビはミルク飲まないのもそうだが、耳がないので音がほぼ聞こえない(振動は敏感に感じ取れるらしいが)から口笛に反応して動くのもツッコミどころなんだよな。有名な蛇使いも実は笛の音じゃなく周囲を揺らしたり手を使うなどの威嚇でヘビを動かしている -- 名無しさん (2021-06-06 16:38:43)
- 真鱈の干物…… -- 名無しさん (2021-06-06 18:47:06)
- 相棒のセバスチャン・ロイロットはもしかしたらここから来てたのかもね -- 名無しさん (2021-06-06 18:49:24)
- 伊藤博文「蛇はミルク飲まないし笛で操れないぞ」とホームズに指摘する小説もあったな -- 名無しさん (2021-06-06 22:04:15)
- 博士とあるけど医者の意味でのドクターからの訳語なのかな? -- 名無しさん (2021-06-06 22:10:05)
- 毒蛇を犠牲者の部屋に放つだけで、殺せるかどうかは確定していないという点では、江戸川乱歩のいう「プロバビリティーの犯罪」に分類されるかもしれない。 -- 名無しさん (2021-06-07 01:08:46)
- >「死んだからもう約束守らなくていいよね」と初っ端からヘレナとの約束を反故にする ワトソンお前…ホームズの友人をやれるだけあるなぁ -- 名無しさん (2021-06-07 01:20:11)
- >検死で発見されないなどということがあり得るのか。当時は東洋の神秘は西洋医学では解けぬ!みたいなところあったからこれも仕方ない -- 名無しさん (2021-06-07 11:35:01)
- 子供の頃読んだ時は「へーなるほどなー」って思ったけど、特撮の理屈を信じてたくらいの年齢だったからだな、あれは -- 名無しさん (2021-06-07 13:29:44)
- ホームズに限らずフィクションでの毒物は誇張されがち。 登場する毒物はたいてい即死級の猛毒だけど、そんな劇薬は限られてるしそこまでの即効性だったら解毒剤なんて役に立たない。 -- 名無しさん (2021-06-07 21:35:17)
- 恫喝で曲げられた火掻き棒を元に戻す力技を披露するホームズ -- 名無しさん (2021-11-06 13:42:59)
- 作者が生きている頃に舞台化しようとしたさい、作者じきじきに蛇をミルクで調教しようとしたけれど駄目だったとかって話を見たことがある(ただかなり古い情報) -- 名無しさん (2021-11-28 19:37:36)
- 結局ヘレナさんは義父の殺意からは助かったがその後普通に病気か何かで亡くなったのか…ていうか当時は匿名や地域名を伏せて発表するという習慣がなかったのかなあ -- 名無しさん (2023-10-28 09:31:59)
- ↑「緋色の研究」でモルモン教が(間違った知識込みで)そのまんま出ている時代だからね -- 名無しさん (2023-10-28 10:32:21)
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