トロッコ(小説)

ページ名:トロッコ_小説_

登録日:2019/08/27 Tue 13:08:56
更新日:2024/05/09 Thu 13:39:15NEW!
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短編小説 小説 ショートショート 芥川龍之介 思い出 トロッコ ノスタルジー 国語 教科書 文学 石川賢 回想録 掌編小説 大人の世界 トロツコ



『トロッコ』は芥川龍之介の短編小説……と言うか掌編小説である。初出は1922年(仮名遣いの関係から当時は「トロツコ」名義)。
鉄道の切り替え作業を行っている所を見た湯河原出身のジャーナリストの回想録が元になっている。


中学校の国語の題材にも採用されているため、この作品を読んだことがある人もいるだろう。


かの石川賢によって漫画版も描かれている。




【あらすじ】

8歳の少年良平は、村外れで軽便鉄道の敷設工事を毎日見に行っていたが、その目的は工事そのものではなく、そこで使われていたトロッコである。


トロッコは土とそれを使う土工を乗せた状態で勾配を下り、平地へ到達して積んであった土をぶちまけた後は土工がトロッコを押して戻していく。
この光景に良平はトロッコに「土工になれたら一緒に乗れるか」「乗ってみたい、それが無理ならせめて押してみたい」と言った年相応の純真な気持ちを持っていた。


ある時、弟とその友達とで村外れにあるトロッコに土工がいないのを確認して乗り、動かして遊んだ。
適当な高さまで押し上げた所で、3人で飛び乗ってジェットコースターよろしくトロッコが線路を駆け下りるのを楽しんだ。


もう一度押し上げようとしたところで無断でトロッコを弄っていた事に気付いた土工達が怒鳴りながら着た為逃走。
それ以降乗ってみたいという気持ちになる事はなくなった。(良平は当時の土工のことが年ごとにぼやけながらも記憶に残っている。)


が、「押してみたい」の欲求にはいまだに決着がついておらず、悪戯をしてから10日ほどたった後に枕木を積んだトロッコを押している若い土工2人を見てこの人達ならば叱り飛ばさないだろうと判断し、押し上げることを買って出た所、果たして土工達は快諾してくれた。


「もうやらなくてもいい」。そう言われてしまうのではないかと不安がりもしたが、土工は「(降りる所まで)いつまでやってもいい」と答えた。
良平はその作業を楽しみ、登り切ったところで乗せてもらい、その先の下り坂を降りていった。
その際もトロッコから見える情景は大きく変わっていったがその変遷は良平に「元いた場所からどんどん遠ざかっている」という不安を抱かせ、彼の気持ちは暗くなっていった。
しかし、行きつく所まで行かなければトロッコは引き返さない。


一度止まった茶店の近くで土工から駄菓子を貰ったが気持ちは帰れるかどうかへの不安でいっぱいになり、3人でトロッコを押し上げる作業にも楽しさは見出せなくなっていた。



そして日が沈み始めた頃、再び似たような茶店に来た所で土工達が…


「われはもう帰んな。おれたちは今日は向う泊りだから」


「あんまり帰りが遅くなるとわれの家でも心配するずら」


と、良平に帰宅を促す。しかし家まではかなりの距離がある。
日の暮れかかった今の状況から途方もない距離を一人で帰らなければならないという事実に泣きそうになりながら良平は土工にお辞儀をして来た道を走って引き返す。



菓子包み、草履、羽織を捨てて走る良平。
行きと帰りで景色が違う事、その景色も日が沈むのに合わせてどんどん暗くなっていく事に恐怖し、泣きそうになったがそれを必死に押し殺して走り続けた。



「命さえ助かれば―――」


距離こそあるものの線路による一本道ではあった為、村まで帰ってくることは出来たが、喘ぎながら家の門口に駆け込んだ時、今まで我慢していた涙が一気にあふれ出した。



その泣き声の大きさたるや、父母は勿論、近所の女衆までくるほどである。



当然事情を知らない彼等は口々に何があったかを聞くが、良平は泣くばかりで何も答えなかった。先ほどまで走ってきた道で感じた心細さを振り返ると、いくら大声に泣き続けても、足りないぐらいの気持ちに迫られながら…………





それから年月が経ち現在では26歳になった良平は妻子と共に東京に出て雑誌社で仕事をしているが、彼は何故か特に理由もないのにこの件を思い出すことがある。


――塵労疲れた彼の前には今でもやはりその時のように、薄暗い藪や坂のある路が、細細と一すじ断続している。…………




【考察】

良平がかつて抱いたトロッコにまつわる鮮烈な出来事だが、「遠くに遊びに来たはいいが、家まで帰れるのか不安になっていく気持ち」……きっと似た感覚を味わった人は多いだろう。


まだ何も知らない「子供の世界」の住人である良平が「大人の世界」という未知の領域へと足を踏み入れ、そこで感じた不安。そして突然1人にされてそこから自分でなんとかしなければならないという厳しい現実と向き合わされる。恐ろしくなって当然である。
帰ってきた際に泣き叫んだのは何故か。安堵からか、それとも消えない恐怖からか…………それは考察の余地があるだろう。


そして良平は今でもその記憶が突然思い出されることがある。それだけ強い記憶だったのかもしれないが、もしかすると彼は大人になった事で子供だった頃の思い出に何か新たな感慨を見出したのかもしれない。








追記・修正はトロッコを上り坂で押したり下り坂で乗ったりしながらお願いします。




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  • 元いたところから遠ざかっていくことを「大人の階段」というのなら、もしかしたらその階段は下り階段なのかもしれないね。我々は転がり落ちるように大人になっていく -- 名無しさん (2019-08-27 14:35:30)
  • かの石川賢によって漫画版も描かれている。  不穏要素しかなさそう -- 名無しさん (2019-08-27 20:04:09)
  • ↑線路辿って帰るときの状景がおかしい以外はわりと忠実なコミカライズだよ -- 名無しさん (2019-08-27 21:51:06)
  • え?ゲッター線は?ゲッター線は出ないの? -- 名無しさん (2019-08-27 22:50:17)
  • 郷愁感とか寂寥感が抜群に上手い短編 -- 名無しさん (2019-08-28 00:26:55)
  • ↑2ゲッター線は出ません。 -- 名無しさん (2019-08-28 15:54:57)
  • 生きるか死ぬか単純かつ凄惨な生存競争が繰り広げられる石川世界で唯一の平和な世界かもしれない -- 名無しさん (2019-08-28 18:47:03)
  • 良かった。石川版はごく普通の漫画版だったんだね。レールの先がドワォな世界とかじゃなかったんだね。 -- 名無しさん (2019-08-30 14:35:41)
  • ノスタルジーに駆られ「少年の日の思い出」みたいなコメント欄を想像しながら記事を開いたのに、石川賢の話ばっかじゃねーか!思い出返せ! -- 名無しさん (2019-09-01 01:50:05)
  • たった一人のスタンド・バイ・ミー -- 名無しさん (2020-08-31 21:23:47)
  • 続篇「百合」だと良平はロシア文学のことを意識するなど、僅かながら精神に余裕を取り戻したようだけど、残念ながらこちらは未完に終っている… -- 名無しさん (2020-08-31 21:30:34)

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