登録日:2018/03/14 Mon 10:30:00
更新日:2024/02/19 Mon 13:16:24NEW!
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mtg 特殊なレイアウトのカード 反転カード 失敗したシステム 神河ブロック
反転カード/Flip CardはMtGにおける特殊なカードの呼称。神河ブロックで登場した。
概要
Magic: the Gatheringの25年に及ぶ歴史の中では多くの新システム・キーワードなどが登場した。
ユーザーに新しい体験と感動をもたらそうとする開発部の努力の元、素晴らしいシステムがいくつも作り上げられてきており、それらは度々再登場している。
……が、新しく作られたシステムの中には残念ながら明らかに「失敗」としか言いようのないものも多数含まれており、それらはひっそりと歴史の澱に沈んでいくことになる。
この反転カードはその「失敗」の側に含まれるシステムである。
反転カードって?
まず、反転カードについて言及する前に「位相」というルールについて説明しよう。
位相とはパーマネント(場に出ているカード)の「物理的な状態」を規定するルールである。
位相には4種類あり、
- アンタップ状態/タップ状態(縦向きか横向きか)
- 非反転状態/反転状態(正位置か逆位置か)
- 表向き/裏向き
- フェイズ・イン/フェイズ・アウト
この4つの位相をパーマネントは必ず持つ。
通常は「アンタップ・非反転・表向き・フェイズイン」の状態でパーマネントは場に出される。(タップインとか変異とか例外はそれなりに存在するが)
このうち最も頻繁に変化する位相はアンタップ/タップ状態である。というか、それ以外の位相は滅多に変わらない。
その滅多に変わらない位相のうち、非反転/反転状態に関係するのがこの反転カードである。
ではカードの実例をご覧いただこう。
Jushi Apprentice / 呪師の弟子 (1)(青)
クリーチャー — 人間(Human) ウィザード(Wizard)
(2)(青),(T):カードを1枚引く。あなたの手札にカードが9枚以上ある場合、呪師の弟子を反転する。
1/2
Tomoya the Revealer / 暴く者、智也 (1)(青)
伝説のクリーチャー — 人間(Human) ウィザード(Wizard)
(3)(青)(青),(T):プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカードをX枚引く。Xはあなたの手札のカードの枚数に等しい。
2/3
実物を見るとわかるが、どっちが上か(非反転か)が分かりにくい。弱い方が上だとわかるんだけど。
まず、このカードは正の向きにした場合普通に読めるカードとしてプレイされる。(このカードの場合は《呪師の弟子》である。)
場に出た後、なんらかの能力(大抵は自分の能力)によって「反転」すると、以降は反転先のカードとして扱われる。
このカードの場合、最初は見習いだったものが力をつけて名ある者になる、という成長や変化を示しているのだ。
ちなみに、反転後の特性は「戦場にあって位相が反転である」場合にしか意味を持たない。
それ以外の領域では常に非反転の状態として扱われる。
(マナコストに関してはテキストでは便宜上両方に書かれているが、実際のカードでは右上にしかないため、分割カードのように混乱は生じない)
クリーチャー→伝説のクリーチャーであったり、伝説のクリーチャー→伝説のエンチャントなど、色々と興味深い「変身」を行うカードが存在している。
理念
「条件を満たすことで強力なカードに変化する」というカードで、特に「性質を完全に変化させる」カードを1枚で再現しようとしたものである。
MtGの場合、いわゆる紐づけされたカードというのがかなり少ない。
ポケモンカードなら、ピクシーを使いたいなら進化前のピッピを入れざるを得ない。遊戯王でも、ジャンク・ウォーリアーを出すためにはジャンク・シンクロンが必要だ。
しかしMtGではそういう名称指定がゲームの理念になく*1、そのため成長や変身をカード1枚で表現する必要があった。
また、反転という「性質を完全に変化させる」行為を経ることにより、デザイン空間が広がるという意図もあったようだ。
確かに詳細だけ聞くと中々面白そうだし、他のTCGでもガンダムウォーでは変形機構を持つMSをこの形で再現しているなど、例がないわけでもない。
では一体何故「失敗」とされてしまったのか。
実際のプレイの際混乱しやすかった
ただでさえパッと見どちらが上か分からないことに加え、タップ・アンタップまで組み合わさるともはや向きが分からない。
しかも対戦相手がこれを使っている場合、こちらから見ると「今使われていないテキストが正しく読めてしまう」せいでプレイングに関して誤解も生んでしまう。
智也を例に出せば「…あれ、それタフネス2だよね?」「3ですね、反転済みです」なんてことが往々にして起こる。
そうならないために目印を乗せておけばいいという公式のアナウンスもあったが、MtGには「+1/+1カウンター」をはじめ様々なカウンターが存在する。
中には「気カウンター」なんてもんを自分で乗せる反転カードもある。どうしろってんだ。
これだけでも十分うんざりさせられるのだが、たとえば「反転後のクリーチャーをクローンでコピーした場合、それは反転前の状態で戦場に出る」というルールだとか、直観に反するルールがたくさんある。
両面カードならその面をそのままコピーできるのだが、こういった細々した部分が面倒くさかった。
美しくない
なんかずいぶん主観的な意見だと思うだろうが、画像検索をしてみるとわかるがどちらが上か分かりづらい。
イラストのモチーフもよくわからない。せせこましい。
分割カードの場合はそもそもスタートのコンセプトが「カード半分」であったため、シンプルなカードが主体となるので問題はなかった。
また、インスタント/ソーサリーが主眼ということは、イラストもある程度シンプルでもよいということでもある。
だが、クリーチャーはそうはいかない。クリーチャーの場合、イラスト=そのクリーチャーの姿である。
これがきちんと描けないのは非常にまずい*2。
また、横向きにして2枚配置したことで縦横比は通常のカードと同じだった分割カードと違い、反転カードは反転を前提としているために通常のカードを縦に押しつぶしたようなレイアウトとなっているため、これも美しさを損ねている。*3
テキストの制約がきつい
この特殊なレイアウトのせいでテキスト欄が狭いので、特異なカードにふさわしい派手な効果を持たせようにもそのためのスペースがない。
そのため、効果が非常に地味になる。「テキストの短いカードは強い」なんて言葉もあるから期待できそうなものなのだが、
神河時代は過去のカードの下方修正版がたくさん印刷されていたような時代である。名カード《けちな贈り物》だって、《直観》のほぼ下方修正版だし。
そんな時代に「テキストが短くて強いカード」なんて期待できないのである。*4
また、効果文を書くのでいっぱいいっぱいで、フレーバーテキストも持たせられない。そのため、「雰囲気」をあんまり表現できないカードになってしまった。
効果を読めば確かに「ああ、だいたいこういう理由でこうなったんだな」ってのはある程度分かるのだが、中には全く分からないものもある。
智也くらいならまだ「成長したんだな」と分かるのだが、《エラヨウの本質》くらいになると「え、エラヨウさんどうしてエンチャントになってんの?」というのが分かりづらい。そもそもエラヨウって誰。
後の両面カードが、たとえばジキルとハイドだとか狼男だとか怪物の目覚めただとかを表現しているのでわかりやすいのに対し、
こちらはなんでそういう風になっているのかさっぱりイメージできない。知らんおばちゃんがなんで呪文いっぱい唱えたらエンチャントになってんだ?って話。
弱いし地味
反転カードについて説明する場合、これに全く触れられていない。
反転カードは要は「条件を満たすことでカードを強化する」というプレイが軸になるわけだが、これだけ複雑なプレイを求めておきながら、効果に一切の派手さがない。智也はかなり派手な部類に入る。
また、反転の条件の厳しさに見合っていないことも多かった。たとえば《狐の神秘家》は、反転して得られるものが「オーラを移動できる」。わざわざ使うほどのカードではない。
《新参の武士》は1/1のクリーチャーだが、こいつが生き残っている状態でダメージを与えたクリーチャーを倒した時に反転する。
反転後は二段攻撃、武士道2を持つ2/3とそれなりのやり手だが、別のお膳立てが必要と考えると素直に別のカードを使った方がいいとなる。
確かにトーナメント実績のあるカードは、智也なりエラヨウなりといくつかあるのだが、それはどちらかと言えば「特定のデッキの専用機」として用いられることが多かった。
神河救済で登場した「派手な反転条件を持つ伝説のクリーチャー」サイクルは、EDHが浸透するにしたがってデッキが組まれるようになった。
しかし最初から伝説ではない反転カードたちが現在使われることはまずない。モダンやレガシーはもちろん、コモンじゃないのでPauperでも使えない。
反転前には何かわくわくするようなテキストがあるわけでもないし、クリーチャーとしての性能は低いし、それでいて反転後の効果も地味ではしょうがない。
これらの要素が絡み合い、はっきりと「不人気」の烙印を押されたシステムとなってしまったのである。なに、「神河ブロック自体が不人気」?聞こえんな*5
そしてその後
「1枚のカードに2つの特性があり、それらが切り替わる」というのはデザイン的にもフレーバー的にも魅力であった。
のちにイニストラードでこの反転カードの問題点を「裏面を犠牲にすることで」解消した両面カードが登場し、こちらは人気を博していくこととなる。
ただし裏面が既存のカードと違うという点は、ルール面ではなくプレイ面で多くの問題を引き起こすことになる*6。
そのため両面カードがいまだに受け入れられず「反転カードに戻してくれ」と言うプレイヤーが一定数いるのもまた事実。特に初登場のイニストラードでは好評と不評で相当はっきり分かれていた
人間が紙をいじってプレイする以上、どうしても限界はある。反転と両面、それぞれに問題がついてまとっている。デジタルなら簡単に処理できるんだけどねぇ…。
実際反転カードは大失敗だったし、その問題を完全に解決した両面カードが出来たから二度と出ることはないだろう。
しかしこの失敗があったからこそ、「両面カードをメインデッキに入れさせる」というTCG史上類を見ない冒険ができた。
反転カードの失敗は、MtGに根付いている。いつかもしかしたら、両面カードとして既存の反転カードのリメイク品が出るかもしれない。
追記修正者 (青)(青)
クリーチャー-人間 ウィザード
(T):記事1つを対象とし、それを追記する。追記した量が全体の3割以上だった場合、追記修正者を反転する。
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時間を無駄にしつくした者 (青)(青)
伝説のクリーチャー-人間 ウィザード
(T):記事1つを対象とし、それを編集する。
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▷ コメント欄
- 確かに両面の方が優れたデザインだけど、クリーチャーからエンチャントにシームレスな移行をしてる上位→本質サイクルは好きだったなぁ -- 名無しさん (2018-03-14 11:09:45)
- 効果テキスト欄を下に配置したら少しは見やすくなる気はする -- 名無しさん (2018-03-14 13:25:25)
- 構造の所為かどうかは分からんが、普通はソーサリータイミングなカード捨て効果がいつでもできるようになってしまったのもあったなぁ -- 名無しさん (2018-03-14 17:10:17)
- ツインパクトへの言及は無しか -- 名無しさん (2018-03-15 00:35:05)
- 追記修正しました -- 名無しさん (2018-03-15 13:32:18)
- ストームスケール10でくさも生えない。統率者2018で初めて再録されたってあたり相当問題児扱いされてるよな -- 名無しさん (2018-09-20 10:06:57)
- ツインパクトはこれじゃなくてエルドレインのアレの方でしょ -- 名無しさん (2021-10-07 15:58:30)
- 両面カードとやってることは変わらないから着眼点は良かったんだろうけど、カード丸ごと使った両面と比べると発想のスケールが足りてなかったんだろうなぁ。というか反転カードの前例を見て「いや、でもこのシステム自体は面白いですよ!そうだ!今度は裏面を丸々変身後にしちゃいましょう!」って言いだした奴は相当な狂人だな… -- 名無しさん (2021-10-07 16:29:34)
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*2 例として、過去に飛行を持たないのに空を飛んでいるイラストになったクリーチャーが問題視された。かなりの数のプレイヤーはイラストを見て判断することが多いわけで、当然重要になる。ただし最近は逆に「飛行を持っているのに飛んでいないようなイラスト」や「イラストで表現しづらい防御能力「到達」を見落とす」などが増えてきており、イラストに関してこの例を持ち出すのは言いがかりに近いのだが……。
*3 余談だが、似たような理由でアモンケットの分割カードをレイアウト的に嫌っている人もいる。
*4 余談だが、神河で高値を記録している名カードはだいたいテキストがかなり複雑。けち、十手、あざみ、梓、独楽、針…
*5 明らかに古代中国と混ざっている世界観、当の日本人でも読めない名前の当て字、禁止カードを連発するほどのインフレだった1つ前のミラディン・ブロックの反動からカードパワーが弱め、伝説や秘儀など他のテーマ・システムにも問題があったなど、反転カード以外にも反省点はたくさんあったブロックであった
*6 例えば裏地が薄いスリーブの場合は透けてしまうことでマークド扱いされて罰則を受けたり、ルールがしょっちゅう変更されたり、プロプレイヤーが文句をつけたことでドラフトに関するルールが競技レベルの適用度でまちまちだったり、そもそもカジュアルにドラフトをする場合だと両面カードの存在のせいでいちいちスリーブ代まで出費しなければならない。特に最近の「モードを持つ両面カード」の場合は裏表どちらの面も非常に複雑なテキストを持っており、いちいちカードをスリーブから出すことをしていたらスリーブとカードの傷みが進んでしまうし、戻す必要がある。そのためこれらの問題を解決できるチェックカード派と、それでもメインデッキ派の間には非常に深い溝があり、店によってどちらが支配的かが違うので言い争いも起きる始末で、「問題が一切ない」と言うには現在でもさすがに無理がある。
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