登録日:2018/02/19 Mon 22:53:34
更新日:2024/02/19 Mon 11:46:57NEW!
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サキ ブラックユーモア 短編小説 ショートショート 小説家 イギリス スレドニ・ヴァシュター 冷笑的
この物語にはモラルはない。なにほどかの悪を指摘しているにしても、
この物語は、それに対する療法を与えるものではない。
「アンベアラブル・バシントン」より。
サキ(1870 ~ 1916)はイギリスの小説家である。本名はヘクター・ヒュー・マンロー。
名前を聞いても恐らく「誰?」と思う人が大半かも知れない。
実際日本ではあまり知名度は高くないが、欧米では短編小説や掌編小説(ショートショート)の名手として有名であり、
「O・ヘンリー(1862 ~ 1910)と並ぶ短編の名手」と称されている。
また、イギリスの作家E・V・ルーカス(1868 ~ 1938)は「泊り客の枕もとにO・ヘンリー、あるいはサキ、あるいはその両方をおいていなければ女主人として完璧とはいえない」と述べている
【生涯】
1870年12月18日にミャンマーにてインド警察であった父親のもとに生まれた。
2歳の時に母親が牛に襲われて命を落とし、兄・姉と共にイングランドの祖母・叔母*1のもとに引き取られる。
やがてエクスマスのペンカーウィック校、ベドフォード校で学んだ後に父親と共にヨーロッパを旅行した。
1893年からは父と同様にインド警察に入り、生まれた国であるミャンマーへと配属されたが、僅か1年強で7度ものマラリア発症で健康を害した為、3年後に退職。
イギリスへ帰り、ジャーナリストへと転身。そしてイギリスのタブロイド紙等に記事を載せていく中で彼の文学への道が始まっていった。
1900年。自身にとって初の書物としてギボンの「ローマ帝国衰亡史」をもとにした歴史書、「ロシア帝国の台頭」を出版。
その後、1902年から1908年まで「モーニング・ポスト」の特派員としてバルカン・ワルシャワ・ロシア・パリへと赴き、
その傍らで「サキ」のペンネームを用いて短編小説を執筆し始め、「レジノルド」「クローヴィス年代記」「獣と超獣」を書く。
その後ロンドンに腰を落ち着け執筆活動を継続し、合計で長編2編・短編135編・戯曲4曲を制作する
そんな中、1914年に第一次世界大戦が勃発。
当時43歳で既に規定年齢を過ぎていたにも関わらず彼は軍に志願し、最終的に軍曹勤務伍長まで昇級するも、
1916年11月14日、フランス前線でドイツ軍のスナイパーに頭を狙撃され命を落とす。享年45。
なお、彼の最後の言葉は煙で敵に居場所が知られることを怖れて言った「 Put that bloody cigarette out!(そのいまいましいタバコの火を消してくれ!)」というものだったと言われている。
【作風】
冒頭でも述べた通り、ほぼ同時期にアメリカで活動していた小説家O・ヘンリ―と並ぶ有名な短編小説家とされている。
O・ヘンリ―は「最後の一葉」「賢者の贈り物」などの作品が有名でそういった作品に現れている、庶民的な目線から人情や優しさなどを根底に置いた、
心が明るくなる情緒的な文体が特徴である。*2
ではサキの作品はどうなのかと言うと、彼の作品の特徴を一言でいうと、
「冷笑的」なのだ。
O・ヘンリーのそれとはむしろ正反対で貴族的な目線から作品を語り、その人物達が慌てふためいたり恐怖したりしていく様を嘲笑うような作品になっている。
しかし作中にブラックユーモアが全体的に存在している為、ただただ暗い気持に沈んでいくわけではなく、読んでいる側が思わずクスリとしてしまうように描写も趣向が凝らされている。
作品内に出てくる人物の言動や思想に対して読者(そして恐らくサキ自身も)思わず冷やかでシニカルな目で見てしまうような作風になっており、残酷な結末を迎える作品も少なくない。事実日本で彼の小説がホラーやサスペンスのジャンルとして紹介されるという事もよくある。
O・ヘンリーとサキ、2人は短編の名手として同格と見られているがその作品の傾向は見事に「明」と「暗」という対照的な関係になっているのだ。
また、彼の作品の特徴として「意外な結末」という要素があり、途中までの内容を元にして読んでいてもラストでいきなりの急展開が来て物語が閉じられることが多い。先ほど述べた冷笑的な文体についても、そこまでは明るい雰囲気だったり心が温まるような展開だったのが、ラストの数行でいきなりぶち壊されて心が一気に冷えていくというパターンで描写されていく事も多い。
【ペンネームについて】
彼が「サキ」というペンネームを使用した由来はいくつかある。
その① 11世紀ペルシャの詩人オマル・ハイヤームの四行詩集「ルバイヤート」にて登場する給仕・酒姫(サーキィ)からとったとされる説。
一般にはこちらの方が有力とされている。
その②「サキ」と呼ばれる、南米のアマゾン北部に生息するサキ属・ヒゲサキ属に分類される猿の総称から取ったという説。
上記の詩についてもそうだが、猿の方の「サキ」の存在に触れている小説も存在するので可能性としてはあり得る話である。
【主な作品】
- スレドニ・ヴァシュター
恐らく彼の作品の中でもとくに有名な一編で映像化・アニメ化が何度もなされている。
病弱な少年は叔母の抑圧に耐える為に、物置部屋にいる「神」へ礼拝をしに行く。
- 開いた窓
神経衰弱となった男に少女が怪談を話し、男はその状況が実際に起きて怯えていくが…。
この作品に登場する少女ヴェラは「マルメロの木」「休養」などの作品でも登場する。
- トバモリー
ある科学者の手で人の言葉を話せるようになった猫の物語。
集まった紳士淑女の人間関係を次々とぶち壊していく…。
- 平和的玩具
子供達の「戦争」と大人達の「平和」の対決。
- 話上手
こういう話をすれば10分間騒がしい子供達を大人しくしておけます。
- 狼少年
同名のイソップの寓話は無関係。
青年が自分の領地の森で遭遇した異様な少年。その正体に青年は恐怖していく。
- 七番目の若鶏
むしろイソップのそれに近いのはこちら。
男の「幻想」は妻の死を醜く脚色する…。
- 第三者
事故が原因で和解した二人の男の前に「第三者」がやってきて…。
- ビザンチン風オムレツ
ソフィ・チャトル=モンクハイムはふたたび昔の社交界に出入りし始めたが、なお非常な注意を要する状態であった。
- 宵闇
作中の描写はどことなくO・ヘンリーのそれを思わせるがその結末は…。
- セルノグラツの狼
セルノグラツ家の神話の様な宿命。
これを見ているあなたは詩人的か現実的か。
サキは書くことを目の敵にしていた。
世の中には死ぬほどうんざりしていたし、その笑い声は、恐怖のためにあげた悲鳴が短く、
ひとつかふたつ、連なったものに過ぎなかった
―――V.S.プリチェット
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*2 もちろん、「二十年後」の様な苦々しい気持ちになるものや「運命の道」の様などう足掻いても救われない話もあるが。
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