ダエーワ(ゾロアスター教)

ページ名:ダエーワ_ゾロアスター教_

登録日:2017/11/03 Fri 05:06:14
更新日:2024/02/15 Thu 13:44:21NEW!
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ダエーワ大魔ゾロアスター教に於ける悪の勢力。
悪神アンラ・マンユの眷属たる大悪魔達の総称である。


語源は『輝ける者』を意味し、これは、隣国インドに於ける=ディーヴァ神属と同じ語である。
この語は仏教にも取り入れられ、
『天』として、護法善神たる外教の神々の位階を示す天部諸尊として日本にも伝わる。


しかし、古代ペルシャでは、この語は元来の意味を残しつつも悪魔を示す語として、正反対の意味で使われた。
これは、ゾロアスター教の基盤を生んだ宗教改革者ザラスシュトラ(ゾロアスター)による唯一至高神アフラ・マズダと、それ以外の神性を分離させた分類の結果であると見られている。


悪神としてのダエーワは“divu”として、古代教会スラヴ語で「悪魔」を示す語として転用され、ラテン語の“diabolos”と共に、音の共通から悪魔を示す“devil”の語源になっていったとする説がある。



【成立まで】

ザラスシュトラの宗教改革以降の古代ペルシャの神系譜では、大天使アムシャ・スプンタと対立する構図が知られているが、元来はザラスシュトラの法の下には存在しておらず、後にゾロアスター教が「善悪二元論」を思想の基盤とするようになったことで、後代になって纏められていった概念であるらしい。


ただし、前述の様にザラスシュトラは、血腥い秘儀を信仰の中に含むディーヴァ神属=ダエーワを嫌い、悪神としていることからも解るように、元々の下地を生んだのは間違いなくザラスシュトラである。
ダエーワには、古くから古代ペルシャでも名を知られた神々の他、後代になってアムシャ・スプンタに対応する形で成立、または名前や属性を変えた悪霊が名前を連ねる。


最も知られるのはサーサーン朝時代に纏められたゾロアスター教の聖典アヴェスターの一つ『ヴェンディダード』に記された七大魔王であり、対立するアムシャ・スプンタを七柱としていることからも、ザラスシュトラ没後より時を経た、後代の作であるのが解る。


ただし、大魔王の面子については、記述によってバラつきもあり、更には七大魔王には含まないものの、古代ペルシャに於ける他の悪魔的な存在の名が挙がったり、それらと習合したりと、明確になっていない部分もある。



【悪なる神】


■アンラ・マンユ(アーリマン、アフリマン)

『怒りの霊』
詳細は個別項目も参照。
ダエーワを率いる大魔王であり、文字通りに他の魔王とは格が違う悪の世界の創造主。
それ故に、ダエーワとしてはカウントしない場合もある。


元来は唯一至高神アフラ・マズダにより生み出された、世界を創造する役目を担う、自由意思を持たされた双子の内の一柱で、
スプンタ・マンユが『善』を選びとり善神となったことから、自らは『悪』を選びとり、宣言と共に悪神となった。


スプンタ・マンユが『善』に基づいて生み出した恵みを与える創造物に対して、アンラ・マンユは『悪』に基づいて、危険な生き物や冬、災害といった、人間には扱い切れない苦難や誘惑を生み出した。


しかし、これは逆説的に困難や誘惑に耐えて『善』を選択し、アフラ・マズダの「天則」を選びとらなければならない、とするザラスシュトラの理念の体現である。


このように、ザラスシュトラの法の下では現在の第一世界を支配する破壊霊アンラ・マンユは『悪』ではあるが、決して邪悪な悪魔等ではなかったのだが、ザラスシュトラの没後のゾロアスター教が、解りやすい「善悪二元論」を突き詰めるようになったことで、アンラ・マンユの転じた魔王アーリマンは、
悪魔の中の悪魔として暗黒世界に君臨するようになった。


善悪二元論の結果、善神スプンタ・マンユがアフラ・マズダ(オフルマズド)と混同されるようになると、アーリマンは悪神として、オフルマズドと同格の存在とはされるようになったが、世界の終末には破れる運命を持つとされてしまった。


唯一至高神としてのアフラ・マズダの役目は、後に古き時間の神であるズルワーンが代行し、アーリマンはオフルマズドと共にズルワーンから世界の創造をする権利を与えられて共に生み出されるも、ズルワーンの悩みがアーリマンを悪神としてしまったことから、
ズルワーンはオフルマズドを後押しし、アーリマンを倒すように仕向ける、との解説も生まれてしまった。


これら、アンラ・マンユからアーリマンに至る悪神の系譜は、キリスト教世界の悪魔王ルシファー、更には悪霊の王サタンの神話の原型の一つとなったとするのは有名な話だが、
ズルワーンの悩みがアーリマンを生んだとする神話も、ズルワーンがアイオーンとして取り入れられたグノーシス主義の神話に見られる構図である。
グノーシスでは、真の神であるアイオーンのソフィアの憂いが、不完全なアイオーンであるアルコーン(デミウルゴス、ヤルダバウト)を生み出してしまったとされ、
醜く、不義の子であるアルコーンは、どんなに願ってもアイオーンの世界に至れないので、自分を崇めさせる偽りの世界を作り上げて、その世界の虚飾の王になったと云う。
その世界は不完全であるが故に、世界は苦しみに満ち……と、グノーシスではアルコーンをあの神の解説として用いている。


対立する『アムシャ・スプンタ』は善きなる神スプンタ・マンユ(オフルマズド)。



【六大魔王】


■アカ・マナフ

『悪なる思考』
六大魔王の筆頭で、この魔王より悪に傾く意志が発信され、その思考に囚われた者は正しい判断が出来なくなり、悪に手を染める。


対立する『アムシャ・スプンタ』は善き思考の主ウォフ・マナフ。



■ドゥルジ(ドゥルジ・ナス)

『虚偽』『不浄』
ザラスシュトラの掲げる『天則』に背く、不実な不義者(ドルグワント)を名前とする魔王。


後に、この語は不浄(ナス)と結び付き、蝿等の、死の汚れをも象徴する存在となった。
ナスとは死体のことを指し、この、死体に纏わり付き、不浄を広げる蝿も死の汚れの象徴となった。


こうして、ドゥルジは死の汚れを象徴する蝿の女王ドゥルジ・ナスとなり、更に後には、ドゥルジ・ナスは不浄の女悪魔達の総称としても用いられるようになった為か、ドゥルジを個別の魔王の名としては見なさないとする風潮も生まれた様である。


蝿を死の象徴であり、生命の運び手とするのは、キリスト教世界にも見られる


蝿を追い払う猛禽類や犬はゾロアスター教では不浄を払う生き物とされ、それ故に汚れを忌避する為に鳥葬が推奨されたと云う。


対立する『アムシャ・スプンタ』は正義を体現するアシャ・ワヒシュタだが、ドゥルジが単体の魔王の名として認識されなくなってからはインドラがダエーワの一柱として、対立する。



■サルワ

『無秩序』
法の理念の下に統制された世界の破壊者であり、それ故に暴風破壊の魔王とされる。
この名はインド神話の暴風神ルドラ、即ち破壊神シヴァを示す。


対立する『アムシャ・スプンタ』は秩序の主フシャスラ・ワルヤ。



■タローマティ

『理念に背く意思』
『背教』を司る女悪魔。
人々から信心を奪い、堕落させる。


対立する『アムシャ・スプンタ』は敬虔なる信心を守るアールマティ。



■タルゥイ

『熱』
植物を滅ぼす女悪魔。
その一方で、毒草や危険な植物の創造者であるとされる。
悪神ザリチュとは常に並び称される。


対立する『アムシャ・スプンタ』は水の女神ハルワタート。



■ザリチュ

『渇き』
恵みとなる植物を枯らし、反対に有害な植物を蔓延させる女悪魔。
悪神タルゥイとは常に並び称される。


対立する『アムシャ・スプンタ』は風の女神アムルタート。



【この他】

『ヴェンディダード』に記された名簿は上記の通りだが、他にも魔王として名前が挙げられている存在。


■インドラ

ドゥルジの説明にもあるように、ディーヴァ神属の強大な戦闘神であるインドラもまた、古代ペルシャでは悪魔として名前が挙げられている。
事実、古代のインドラへの供儀には犠牲や薬物を用いた物が含まれる為に、ザラスシュトラの理念から言えば悪魔と呼んでも差し支えのないものであったのだろう。
他にも戦闘神がダエーワとして名前が挙げられていることから、戦闘神=死の運び手と言えるのかも知れない。
古代から有力な神であり、更に古い時代にはヴァルナ(アフラ・マズダ)やミトラと共に、アーディティヤ神群にも名前を連ねている。



■ノーンハスヤ

古代インド神話に於ける、美しい双子の医術の神アシュヴィン双神のペルシャに於ける姿。
初期にはダエーワとされたが、後には『アムシャ・スプンタ』のハルワタートとアムルタートになったともされる。



■アエーシュマ

『狂暴』
古代ペルシャに於ける、代表的な悪魔的存在であり、初期にはダエーワを率いる者として名前が挙げられていた。


正義なき暴力の象徴であり、毛むくじゃらの姿で血塗れの武器を持った姿で描かれる。
特に家畜を害する者として恐れられ、酒による酩酊もアエーシュマに由来すると言われ、ゾロアスター教では神酒ハオマを除いては酒を推奨されない。


正義を司るミトラやスラオシャ、ラシュヌと対立し、ゾロアスター教の救世主であるサオシュヤントにより倒される運命を持つと云う。


その、古き伝承はユダヤに取り入れられ、色欲の悪魔アスモデウスの伝承を生んだと云われる。



■アジ・ダハーカ(アズダハー)

古代ペルシャ神話の頃より姿が見える巨大な有翼の龍蛇であり、人身蛇頭の怪物ともされる。
三つ首とも言われ、其々の頭が『苦痛』『苦悩』『死』を象徴している。
更には千の魔法を駆使して敵を苦しめる等、古代ペルシャ神話に於ける最強の怪物と言っていい。
後代になると人間の姿を執って善人をそそのかすともされるようになり、叙事詩『シャー・ナーメ』に登場する魔王ザッハークは、アジ・ダハーカと出自を等しくするが故に同じ存在であると見なされるようになった。


ゾロアスター教では悪神アーリマンが、オフルマズドの創造した世界を徹底的に破壊するべく生み出したとされ、アーリマンの化身とも息子ともされる。
強大な力を持つのは勿論のこと、悪の根源である為に、その身を傷付けると危険な爬虫類の様な不浄な生き物が涌いて出る為に、幽閉してダマーヴァント山の地下深くに封印するしかなかったともされる。
ゾロアスター教成立以前の、それも文字に残るよりも更に古い時代より図像に描かれており、この名は現在でもペルシャではドラゴンの意味で使われている。
古代ペルシャ神話ではアフラ・マズダの息子とされる火の神アータルと敵対し光輪を奪い合うが、アータルの命を賭してでも自らを封印するという宣言には萎縮し、身を退いたとされる。


インド神話で語られる悪龍ヴリトラと重なる存在である一方、世界の終末に幽閉より目覚めて大破壊を行った後に倒されると云う、キリスト教や北欧神話を思わせる伝承が残る。



■ジャヒー

ジェーとも呼ばれる。
古代ペルシャより伝わる女悪魔だが、元来は失伝された大地母神だったのではないかと考えられている。
後のゾロアスター教では悪神アーリマンを生み落とした母にして悪神の愛人とされ、アーリマンを生み落とした際に初めて月経を体験し、その苦しみを世界に蔓延させたとされる。
名前の意味を『性悪女』とされる等、悪意に満ちた説明がされるが、それらの伝承からも解るように、大地母神にして、月の女神であったのは間違いないとも推察される。
ある伝承では、世界の始まりの戦いに敗れて三千年の眠りについていたアーリマンが封印から醒めるが、
自身が封印されている間にオフルマズドの創造した善なる世界の素晴らしさに触れてしまい破壊神としての使命に迷いを生じさせてしまっと時に、
眷属の中で彼女のみが落ち込んでしまったアーリマンを奮い立たせ、魔王としての使命を思い出させることに成功したと云う。


■バリガー

人間を惑わす下級の女悪魔の総称。
ドゥルズーヤー、クナンサティー、ムーシュは、そのなかでも「三大バリガー」として恐怖の対象になったとされる。





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