登録日:2016/10/09 (Sun) 00:15:38
更新日:2024/01/29 Mon 10:59:59NEW!
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我孫子武丸 小説 短編 ミステリー バカミス ダイイング・メッセージ ネタバレ項目 フィギュア・フォー 0番目の事件簿 小説のマウンテンサイクル 僕らが主役さ個性のカタマリ スットンキョ~な連中ざんす! 国民的ギャグ おそまつ
この犯人当ては、論理の緻密さなどははなから問題にしていません
『フィギュア・フォー』とは、『かまいたちの夜』のシナリオなどで知られるミステリ作家、我孫子武丸の短編小説である。
アンソロジー集『0番目の事件簿』に収録。
この『0番目の事件簿』は講談社による、
有名ミステリ作家がデビュー前の素人時代に書いた小説を、最低限の誤字・脱字以外は修正せずそのまま発表するという、
早い話が黒歴史発掘企画である。
我孫子氏も本企画に参加するに当たり、京都大学ミステリ研究会時代に内輪で犯人当てゲームをするために書いた短編を提供した。
それが本作だ。
参考までに他の参加者がどんな作品を提供したかと紹介すると、
中学時代に書いたという『バスカヴィル家の犬』のパロディ小説だったり、
原稿用紙2枚分が丸々他の作家の作品の引用という大胆な構成だったり、
あの『人形館の殺人』の原型としてファンの間では名前のみ知られていた幻の作品だったり、
大半がこんな企画でもない限り日の目を見るのは難しそうな作品ばかりであった。
この『フィギュア・フォー』は、我孫子氏の代表作である『速水三兄妹シリーズ』のキャラクターが登場しているのが大きな特徴。
というか、ぶっちゃけシリーズの番外編のようなものである。
では何故デビュー後に発表されることなくずっとお蔵入りになっていたのかと言うと、作者自ら認めるほどふざけた話だからだ。
元々この三兄妹シリーズはコメディタッチのミステリなのだが、それでもこれを商業誌でやるのは作者の良心が許さなかった……と言えばいかに酷いか分かっていただけるだろうか。
大学生が悪ノリで書いた小説という表現が一番しっくりくるかもしれない。
上述した通り本作は犯人当てゲームをするためだけに書かれた作品のため、ドラマパートは徹底的に削られており、
本書に収録されている作品群の中では最もページ数が少なく僅か12ページしかない。
ちなみにタイトルにあるフィギュアとは、人形ではなく形という意味であり、後述する被害者のポーズを表している。
【あらすじ】
刑事の速水恭三は、現在捜査中の殺人事件の容疑者を絞り込むための知恵を借りるべく、弟が経営する店を訪れていた。
実は被害者はダイイング・メッセージを残していたのだが、それがあまりにも奇妙だったのである。
速水慎二は兄から聞いた話と見せられた現場写真を参考に、ある結論へと辿り着く……。
【登場人物】
- 速水慎二
本作の探偵役。速水兄妹の次男。
喫茶店を経営しており、イケメンのマスターとして近所の女子高生からはアイドルばりの人気を得ている。
- 速水恭三
警視庁捜査一課の刑事。速水兄妹の長男。
聞き込みの一環として容疑者と酒を飲みに行くなど割とフランク。
ただし死体を見るのは嫌い。
慎二の店に来ていた女子高生グループから無礼な言葉を浴びせられてしまう。
- 速水一郎
名前の読みは「いちお」。速水兄妹の長女で三兄妹の末っ子。
慎二の店でウェイトレスをしている。
騒がしい女子高生グループに対し露骨に嫌悪感を示しており、嫌がらせで店内BGMをジャズに変えてしまった。
- 松山清六
被害者。
若くしてサラ金会社の社長となったが、悪どい取り立てで多方面から恨みを買っていた。
自身も自覚があったらしく、「俺を殺したがってる奴のリスト:完全版」なるノートを所持していた。
殺害現場では、右手で胸の辺りを押さえるように倒れていた。
一方で左手は頭の方へ向かって高く上げられており、両脚は不自然に曲がっていてあたかもプロレスの四の字固めのようになっていた。
恭三はこの脚の形が被害者のダイイング・メッセージではないかと疑っている。
- 吉村太一
容疑者その1。
松山の大学時代からの友人。
商売のために松山から多額の借金をしていた。
脂ぎったデブ。あとチビでハゲ。おでんが大好き。
- 松山君子
容疑者その2。
松山の妻。夫婦仲はあまりよろしくなかった模様。
- 北野健治
容疑者その3。
父親が松山から金を借りていたが、追い込まれた挙句自殺してしまった。
動機という点では最も怪しいが、恭三は直接会ってみて犯人とは思えないとの感想を抱いている。
しかし松山の脚の形が方位記号の北を表している可能性もあるため、疑いは完全に晴れていない。
- 川村四郎
容疑者その4。
ギャンブルに狂って松山から多額の借金をしていた。
松山の脚の形から、名前に四の付く彼が犯人ではないかと恭三は睨んでいる。
- 田中和男
容疑者その5。
太一同様、松山の大学時代からの友人。
出っ歯が特徴。インテリであることを鼻にかけた嫌味な奴。
家が金持ちで、大学在学中におフランスへ留学している。
容疑者の中では唯一これといった動機が見つかっていないので、恭三は犯人とは考えていない。
もうこの時点で犯人に気付いた人も多いと思うけれど、以下ネタバレ注意
「いいかい。脚は、四の字のように交差させる」
「そして、片手を頭の上にやり、もう一方の手を…」
「嘘だ…そんな馬鹿な事があるもんか…そんな馬鹿な…」
「どんな奴だってそんな事をするはずがない! …死に際に、死に際に、」
「“シェー”をするなんて!」
恭三は脚の形にばかり注目していたが、実際には違っていた。
このダイイング・メッセージは両腕の形と合わせて初めて形になるのである。
被害者のポーズは、往年の名一発ギャグである“シェー”を表していたのだ。
現場で死体をじっくり見ていれば分かったかもしれない。しかし恭三は死体が苦手だったため、上半身と下半身に分割された現場写真でしか見ていなかったのが災いしてしまった。
わざわざ被害者がシェーをダイイング・メッセージに使ったのには理由がある。
ヒントは松山達が大学時代に使っていたあだ名。
松山清六=松が6つ。吉村太一=チビの太一。そして出っ歯の田中は……。他の友人に大口とかパンツ一丁とか頭に旗が刺さってるとか暴力女子がいたかは不明。
少なくとも吉村は赤塚作品が元々好きだったらしく、恭三に「警官は普段から銃を街中でぶっ放すのか?」と尋ねている。
……まああのわらび唄篇のシナリオを書いた人だし、仕方ないね。
【余談】
この『0番目の事件簿』のコンセプトは、
「有名なプロ作家も昔はこんなくだらないものを書いていたのだから、作家を目指す人は安心して作品を書いてください」というもの。
だからって本作を参考にして新人賞に応募するのは絶対に止めた方が良いと思うぞ。念のため。
本作は我孫子氏が1984年頃に執筆したもの。
我孫子氏は1962年生まれ。『おそ松くん』は1962年から1969年まで連載されていたので、氏の前後の年齢はまさに直撃世代だった。
元々内輪のみで読むために書かれたものなので、あえて自分達が幼少期に空前の大ブームとなったシェーをトリックに用いたのだと考えられる。
そのため、これ以降の世代だと漫画オタクぐらいにしか通じないネタと化すはずだったのだが……。
1988年に『おそ松くん』が2度目のアニメ化、それに先駆けて前年から漫画連載が復活し、新たなファン層を開拓するに至った。
2006年から始まったこの企画に本作が提供されたのも、ある程度の層にネタが通じると踏んだからだろうか。
その後2015年に『おそ松さん』のアニメが始まり、シェーは三度表舞台に立つこととなる。
結果本作は、幅広い層にネタが通用する普遍的な作品になってしまったと言えるだろう。我孫子氏も夢にも思わなかったに違いない。
当の我孫子氏は本作に一定の愛着があるらしく、特に黒歴史とは思っていない模様。
それどころか「犯人に気付かれぬよう血文字を書き残すよりもよっぽどシンプルで理に適っている」と自画自賛している。
ウヒョヒョ、追記・修正をお願いするざんす。シェー!
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▷ コメント欄
- 死に際にシェーをするくらいなら本家もむつ子も普通にやりそう。てか「フィギュアフォー」ってタイトルから全く想像できないオチだな。 -- 名無しさん (2021-09-05 13:10:14)
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