登録日:2014/05/03 (土) 20:05:27
更新日:2023/12/15 Fri 13:33:40NEW!
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擬人化 世界史 地図 風刺 動物化 タコの姿のロシア 列強 風刺地図
【風刺地図って何?】
風刺地図とは、19世紀から20世紀頃のヨーロッパあるいは世界の情勢を表すために描かれた地図のことを指して言われる。
イマイチよく分からない人は、多分歴史の教科書の多くに載っている『タコのロシア』のイラストを思い出そう。あれが風刺地図だ。
あのタコの姿のロシアは当時のヨーロッパ諸国または日本から見た『南下政策をするロシア』を風刺した絵なのだ。
そう、風刺地図はどういうものかというと『当時のヨーロッパ諸国の領土を擬人化あるいは動物化』して描いた地図なのである。
風刺地図は当時のヨーロッパ諸国の関係を人や動物に例えて描くことによって伝えられている。
ただし風刺地図は出版された国によって描き方が大きく異なっているため中立的な描き方とは言えない。
例えば第一次大戦時のドイツで発売された風刺地図はドイツやその同盟国が強そうな描き方がされているが、敵対国のイギリスなどは苦戦しているように描かれている。
逆に同時期のイギリスで販売された風刺地図はイギリスなどの連合国が勇敢に描かれているのとは逆に敵対国のドイツは間抜けな感じで描かれている。
このように風刺地図は中立的ではないが、当時の各国の他国への印象が見えていて面白いものである。
風刺地図は19世紀末に発売されて以後徐々に種類を増やして行き、第一次大戦中に様々な地図が生まれていった。
しかし第一次大戦終戦後にこのような風刺地図はほとんど姿を現さなくなってしまった。
これは大戦後のヨーロッパの領土地図が大きく変わった上に、混沌としていたヨーロッパの列強の立ち位置がとりあえず定まったからだと思われる。
それは一つの時代の変化でもあるのだろう。
ちなみに日本も明治時代からこのような風刺地図が描かれており出版もしている。
日本の風刺地図は、日本も擬人化されておりそのためかヨーロッパ諸国だけではなくアジアの清国などの様子も描かれている。
【風刺地図での主なヨーロッパ諸国】
ここで紹介するヨーロッパの国家は19世紀から20世紀において世界史で一定の影響力を持ち、世界分割に関わった国である。
風刺地図でも当然独特の存在感を持っている国が多い。
●ロシア帝国
風刺地図ではおそらく一番目立っているユーラシアの大帝国。19世紀から20世紀初頭には南下政策を進めていた。
そのため当然他の列強には驚異の対象。そのせいでキモイ怪物のように描かれていたりあのタコだったり。風刺地図一番の被害者。
ただしロシアで作られた風刺地図では当然まともになっている。タコとのギャップに戸惑った人も多いかもしれない。
ちなみに風刺地図ではこのロシアの犠牲になった、あるいは現在進行形で南下されている国も描かれている。
ポーランドやフィンランドなどは既に毒牙に掛かり、オスマン帝国やペルシア、そして清国などはロシアに手を出されている。
まぁポーランドや清国に関して言えば他の国も分割におもいっきり手を出しているけどね。
●ドイツ帝国
『鉄血宰相』のビスマルクにより国土統一、そして19世紀のヨーロッパ情勢を支配したビスマルク体制を作り上げたドイツ。
風刺地図が登場し始めた時期は、ビスマルクの登場によりドイツが台頭した時代だからなのか多くの地図では強そうに描かれている。
ビスマルク体制時代の風刺地図ではフランスやオーストリアを圧迫している様子の描き方がされている。
第一次世界大戦前の風刺地図ではロシアから伸びる侵略の手を退けているようである。
第一次世界大戦中での風刺地図ではオーストリア帝国とともにフランスやイギリスと睨み合っている様子が描かれている。
●フランス
普仏戦争で敗れ、屈辱を味わったものの未だに列強としての力を誇るフランス。19世紀末にはドイツに対しかなりの憎しみを抱いていた。
どの風刺地図でも大体はドイツに対して憎しみの目を向けていたりドイツに圧迫されていたりする。
ビスマルク時代の風刺地図では普仏戦争で敗れた憎しみからか、ドイツへ復讐の目を向けている様子である。
という第一次世界大戦までは似たような描写の風刺地図が多くどの地図でもドイツに対して敵意丸出し。
第一次世界大戦での風刺地図ではとうとう念願?が叶ったのかドイツとドンパチ喧嘩しているようである。
●イギリス
『日の沈まぬ帝国』として世界の多くの国土を支配した大英帝国ことイギリス。
イギリス本国は欧州からほんの少し離れた島であるため、多くの地図では大陸の様子を監視しているようである。
このことから当時のイギリスの他国への外交をいかに慎重に行っていたかの様子が分かる。
なお第一次世界大戦のロンドンなどで出版された地図では他の国が動物化されている中、イギリスは屈強な男としてイラスト化されたりも。
●イタリア
19世紀頃にようやく国土統一を達成した旧サルデーニャ王国ことイタリア。
国の形が形なだけに多くの地図では人型として描かれている。
第一次世界大戦頃の風刺地図ではオーストリアに足で顔を蹴られていたりする。
これは当時のイタリアが連合国側に回ったことや、オーストリアとの領土問題があったことを示しているのだと思われる。
●オーストリア・ハンガリー
普墺戦争でドイツ連邦の盟主としての地位を失ってから、それから連合国家として成立したオーストリア。
多くの地図では顔が二つあったり、他の国とは違い二人いる描写がされていることが多い。
これは当時のオーストリアが東欧民族で構成された二重帝国だったからだと考えられる。
同盟関係であるドイツ帝国とともにロシアに抗戦していたり、またはイタリアと交戦していたりする地図が多い。
ただし第一次世界大戦前のビスマルク時代の地図ではドイツに踏み潰されている地図が存在したりもする。
●オスマン帝国
16~18世紀頃には東欧から中東や北アフリカを支配した中東及び東欧の大帝国…だった国。
実際は18世紀中盤から列強の干渉やロシアの南下政策、バルカンでの民族抗争に苦しむはめになってしまった『瀕死の病人』。
風刺地図ではロシアから迫る手に必死に抵抗している様子で書かれる場合が多い。東欧の様子を伺っているパターンのものもある。
オスマンが当時のロシアに苦しめられていたかがよく分かる。
『Serio-Comic War Map For The Year』などの一部の地図ではなんらかの骸骨を抱えている。位置的にこれはブルガリアである可能性が高い。
何故かブルガリアが骸骨に描かれている理由としてはブルガリアの4月蜂起によって引き起こされた虐殺を示唆しているのだろうか。
●その他のヨーロッパ諸国
もちろん上記で描いた国だけではなく、ベルギーやオランダ、デンマークなどのドイツ周辺のヨーロッパ諸国も擬人化されている。
永世中立国のスイスもイベリア半島のスペインやポルトガルも擬人化しているのでそちらにも注目して見てみよう。
ギリシャ以外のバルカン半島諸国家も19世紀末までの風刺地図ではオスマン帝国の扱いだが、20世紀の風刺地図では擬人化されている。
…ただしスカンディアナビア半島のスウェーデンやノルウェーは結構適当な描き方の気がしないでもない…
【ヨーロッパ以外の国】
風刺地図の多くはヨーロッパで制作されたこともあり、オスマン以外のアジア諸国などは描かれることが少ない。
しかし一部の地図ではヨーロッパ以外の諸国も描写されていることもある。そこで擬人化や動物化された主な国を紹介する。
また日本で作られた風刺地図は極東のアジア諸国が擬人化されている。
●大日本帝国
開国してから近代化に成功、日清戦争や日露戦争でも勝利しアジアでは唯一の列強国となった日本。
擬人化された日本は、いずれも大陸の方向を向いている。
南下政策を推進していたロシアへの警戒心や大陸進出への野心が表れているのかもしれない。
●清
18世紀までは東洋の大帝国として世界帝国を作るものの、19世紀から20世紀には西欧列強や日本に苦しめられ半植民地化した清。
また清を擬人化した風刺地図の多くは日本で出版された風刺地図である。
いずれの風刺地図でも当時の清国の混迷を表しているのか、強そうに擬人化あるいは動物化されていることはない。
動物化では豚になっていたり、擬人化ではタコ化されたロシアの触手に掴まれていたり。
タコ化されていたロシアに掴まれている地図に関しては、同じく弱体化したオスマンとは違いほとんど抵抗できていないあたりが悲惨さを感じさせられる。
当時の清国の弱体化の現状や、日本から見てどのように思われていたのかが感じられる。
●ガージャール朝(ペルシア)
18世紀頃に国土を統一するものの、ロシアの南下政策やそれを阻もうとする欧米列強に苦しめられるガージャール朝。
『滑稽欧亜外交地図』などのロシアがタコ化された地図ではロシアの触手に首を掴まれている。
実際当時のガージャール朝はもはやロシアとイギリスの半植民地にしか過ぎなかった。そんな現状を表しているといえる。
●アメリカ
アメリカ合衆国は他の列強国とは違いユーラシア大陸ではないので、当時の風刺地図では描かれることが少ない。
しかし日本で出版された『滑稽時局世界地図』などでは端っこに擬人化されて描かれている。
そこでは遠くからユーラシア大陸の国家の様子を伺っているようである。
しかしこの滑稽時局世界地図、一部おかしい点が見当たる。基本アメリカは英語にすると『America』とするのが普通だが…
この地図では『AMEPICA』と記載されている。アメピカ…?
●アフリカ大陸
19世紀末には一部を除いたほとんどが植民地化されていたためか、ヨーロッパから遠くないものの擬人化や動物化された地図は少ない。
しかし描写している地図もいくつか存在する。滑稽時局世界地図ではボロボロの布きれとして書かれている。もはや動物ですらない。
これは既にほとんどが植民地化されてしまったアフリカの状態を示唆しているのかもしれない。
当時既に立派な独立国だったエチオピアなども布きれで描写されているから実は単純にアフリカを描くのが面倒だった、
または印象が掴めなかったとか思ってはいけない。
【まとめ】
このように風刺地図は様々な国が擬人化や動物化されている。昔の有名な帝国や自分の生まれた国の昔の姿が色々な動物になっているのは見ていて愉快になれる。
また出版された地域を見てみると、当時その地域の人々がヨーロッパ国家やそこに住む民族をどのようにして見ていたのかが伺える。
そういう点からすると、非常に歴史的価値のある資料であるともいえる。
風刺地図は第一次世界大戦以降はほとんど出版されなくなってしまった。
しかし現在でも自分の国の形を人などに例えてイラスト化している人も多い。
地図の擬人化や動物化は今も昔にも通じる一種の遊び心であるとも言えるのかもしれない。
追記・修正は自分の住んでる国を擬人化してからお願いします。
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▷ コメント欄
- 教科書でビゴーの書いた風刺画はよく見るけど、アレもこっち系?清国が獲物扱いなのはいつものことだけどw -- 名無しさん (2014-05-03 20:41:26)
- ↑清はピザだしね -- 名無しさん (2014-05-04 20:12:58)
- ぶっちゃけると海外のタブロイド紙なんかじゃ今も普通にあるよね -- 名無しさん (2015-04-18 14:44:13)
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