空のグリフターズ ~一兆円の詐欺師たち~

ページ名:空のグリフターズ _一兆円の詐欺師たち_

登録日:2022/09/07 Wed 22:33:02
更新日:2024/06/27 Thu 10:26:12NEW!
所要時間:約 12 分で読めます



タグ一覧
詐欺 加藤元浩 犯罪 ダメゼッタイ 空のグリフターズ 空のグリフターズ ~一兆円の詐欺師たち~ コンゲーム



この世界にはおよそ17京円のお金があるという

その10000000分の1でいいの…

私には100億円が必要なんだ


『空のグリフターズ ~一兆円の詐欺師たち~』は月刊少年マガジンに連載されていた加藤元浩の漫画作品。全5巻。


Q.E.D』や『C.M.B』のような短編の推理作品や、
ロケットマン』のような大まかなストーリーはあるものの謎解きの流れ自体はそれらと同様な作品と異なり
本作は最初から最後まで一本のストーリーをじっくりと追う形式の海外ドラマを意識した構成となっている。


一か月以内に100億円を払えなければ生まれ育った故郷を永遠に失う事態に陥った主人公が
そのために詐欺、しかもチンケな詐欺ではどうにもならないので
世界中の大富豪を的にかけて一兆円もの大金をだまし取る完全犯罪を描くという
過去作とは視点を大きく変えた作風となっている。


登場人物(メイン主人公)


神入 空 (かみいれ そら)

金が欲しい  死ぬほどほしい

誰よりも 何よりも

たとえ奈落に落ちても

本作の主人公の一人。
「神入島」という島の権利を代々継いだ一族の一人娘で、
本来なら神入島とそこに唯一の旅館を継ぐ立場であった女子高生。
しかし父親が騙されたことで島のすべての権利を差し押さえられ、
残り一か月までに100億円を支払わなければならなくなってしまう。
やむを得ず島の近くの本土の街でアパートを借り、
心労で倒れた母親の入院費やアパートの家賃などのあらゆる費用をバイトで稼ぎながら
ひと月に1万円づつ捻出しながら100億を稼ごうとする。あと一か月で。
もちろん現実的に無理なのはわかっており苦心の末に風月が持ちかける「計画」に乗ることを決意する。


人が傷つくことを許容できない心優しい少女であり
他人をだまして金を得ることを許せる性格ではないのだが
絶対に失うわけにはいかない故郷を取り戻すために悪魔のささやきに乗る決心をした。


さしたる才覚もない普通の女の子、と言いたいところだが
騙される前までは島と旅館の後継ぎとして高度な教育を受けており、
4,5ヵ国語で日常会話どころか海千山千のプロを騙しきれる会話と腹芸ができて
殺人や暴力が本業な連中を5人くらいなら素手でブチのめせる腕っぷしと
その他いろいろこなせる加藤元浩ヒロインとしては普通の女の子。
100億は稼げなくてももっと割のいいバイトあるんじゃないかな


蒼 海路 (あおい かいろ)

忘れられない夏になりそうだ

神入島と取引のある本土側の港の漁師の息子。
空とは家族ぐるみの付き合いで、島を差し押さえられた後も気にかけている。
いろいろな意味で空を放っておけないために空と風月の「計画」に乗った。
常識人担当として読者の代わりに疑問点を尋ねたりする上に
漁師の仕事を手伝うために小型船舶一級免許と自動車の国際免許を持っており
さらにPCのシミュレータをやりこんでおり様々な乗り物を操縦する。


そして空と違って撃退することはできないが殺す気で襲ってくるマフィアたちや
対テロリストモードになった海外の警官隊に囲まれても逃げきれる普通の男の子。


秋山 風月 (あきやま ふうげつ)

この奈落に祝福を*1

空と海路の前に現れた謎の少年。
空とは別の理由で100億円を欲しがっておりそれを得る計画を練っていた際に
偶然出会った空たちを「計画」に加えることにした。
空達よりも年下の子供だがイギリス史上最年少で弁護士資格を取るほどの天才的な頭脳を持ち
大金を奪う「計画」のほとんどは風月の考案である。


自分たちに疑いがかからないようにする保身は完璧だが
人に詐欺をすることについて罪悪感などは一切なく
味方でない人間は死のうが破滅しようがまったく意に介さない。


いわゆる頭脳担当で荒事や肉体を使うことはしないが隠しスキルとして『変装』があり
空や海路が活動して気を引いている間に敵側の集団の中にバレバレの変装でふらっと入り込み、
なぜか誰もそれに気づかずに重要な品を預ける驚異的な変装と演技の才覚がある。
かつて世界を滅ぼしかけたことがあり、それが由来で金融に詳しい者の間では「悪魔」と呼ばれている。


イギリスの資産家ルイス・アイビン卿と日本人の妻ハナヤ・ショウコとの間に生まれた息子で
7歳にしてイギリスの名門大学に入学確実とされる実力のあった天才少年。


しかしルイスはショウコよりも愛人の方と結婚したくなり、
もちろん普通に離婚すればショウコや風月に相応の慰謝料や財産を渡さねばならないために
「ショウコがルイスの会社に損害を出した」という証拠を偽造した上で背任罪で訴えて
一切の金を渡さぬようにして叩き出した。


風月が大学を卒業して弁護士資格を得るのに必要な金は得られたものの、
裏切られて全てを奪われたショウコは自殺
若くしてどんな野望でも達成できそうな天才的な頭脳と知識を得た風月は
最初にそれを行使したのは父親を含めた金に目のくらんだゲスの住む世界への復讐であり
LIBORを利用して世界を破滅させかけるがそれでもまったく風月を恐れないルイスは
「私と対等に話したいなら100億円稼いでみろ。そうしたら口をきいてやる」と突き放す。


つまり風月の目的はルイスの鼻をあかしつつ復讐することであり
同じく碌でもない父親のせいで100億円を求めていた空に共感して計画に組み込んで
ちゃんと100億の分け前を渡して空たちの目的も叶えるつもりなのだが
計画の末に今度こそ世界が滅んだとしてもどうでもいいと思っていた。


用語集

LIBOR(ライボー)

London InterBank Offered Rateの略で…
詳しくは作中で解説しているのでそちらも参照。
ロンドンの銀行間で取引をするときの金利などの数値で
これを元に一般投資家も取引に利用していたのだが
作中でも現実の世界でも一部の銀行家が不正な数値を入力して不正な儲けを出していた。
当時7歳の風月はこの不正をしていた銀行に工作をしかけて金融恐慌を起こし
ガブリエルが気づいて止めなければ全世界が破滅する大恐慌となっていた。
この件で風月は一銭も得ておらず、ただ世界を滅ぼそうとしただけであり
それでいて仮に立件しても証拠がなにも残っていないという完璧な工作ぶりから
一部の金融家にとって風月は「世界を滅ぼしかけた悪魔」として恐れられる結果となった。


神入島(かみいれじま)

本土から小舟で渡れる距離にある50戸ほどの家がある小島。
前述の通り、本来は空の母親に全ての権利があったが
空の父親の神入康三が家族に黙って先物取引に手を出して損を重ね、
それを取り返すために追加で借金を申し入れた上に
康三自身には権利のない島の権利証や母親の実印を盗んで借金のカタにした結果
何も得ることがなくただ100億の借金が残ってしまう。
母親は何も知らなかったために康三を窃盗や詐欺で訴えれば
康三は刑務所に行くが島を守れる可能性があったものの
空と母親が事態を知ったと同時期に康三もショックで倒れてしまい
謝罪を述べながら死んでしまったため、法で解決するのが事実上不可能になってしまった。
もし裁判所が競売にかける前に100億を支払えなければ島を産業廃棄物の処分場にしたい企業が買う予定のため
後から買い戻すことができたとしても島の自然については戻ってはこない。


ここまで書くと康三が一方的にクズなのだが、
正規の銀行が合計100億になる金を融資する際に
担保として島まるごと+旅館一軒の権利証と実印を出されて
その本来の所有者の母親に一度も確認せずに融資をするというのはおかしな話で
おそらく後述の向井議員がそこまで含めて康三をハメたものと思われる。


タックス・ヘイブン

こちらも作中で解説されているが、ここに企業や法人の籍を置くと、
それらの実質上の所属国家が科している税金を払わずに済むようにいろいろ便宜を図ってくれる国や地域のこと。
タックスヘイブンはそれによって外貨を得ている「本業」なので他国からの課税の介入を跳ね除けている。
ただし合法的な「節税」の範疇ならばまだしも部外者の監視から保護されるという性質上、
違法な金のマネーロンダリングにも利用されるため犯罪やテロリストの温床ともなりかねない。
本作に登場するナイマン島はおそらく実在するケイマン諸島がモデルと思われ、どちらも高名なタックスヘイブン。
後述のガブリエルは顧客にあくまで合法な節税を提供するスタンスのため、
ナイマン島でマネーロンダリングや違法行為が行われることを嫌っており
他国の捜査機関の介入を招く行為を徹底的に排除している。


ウェルス・マネージャー

富裕層が雇用する「金庫番」
平たくいえば富豪から預かった金を
あらゆる手段を使って「減らさせない」できれば「増やす」のが業務。
作中では主に租税回避のためにその能力を駆使しており
豊富な知識で税金を払わずにすむようにしている。
本作のテーマの一つ「富める者はますます豊かに、貧しい者はさらに奪われる」を体現する職。


その他の登場人物

アルマ・マリア・ゾンデス

神は約束された

お前を殺そうとする者は誰であれ7倍の復讐を受けるであろう

個人資産500億円を超える資産家の美女。
金目当てで結婚してきた夫のアントニオとの離婚調停で悩んでいる。


ウォルター・ヒギンズ

人を金で結ぶと新たな世界が生まれるんだ

バハマの銀行家だったが北海油田の投資に失敗し
金も名誉も家族も失った男。


アルマとヒギンズの二人は風月の「計画」に必要なターゲットだったのだが
空や海路を気に入り計画に賛同する。
といってもこの二人は風月の頭脳は認めているが個人としては気を許しておらず
空たちのひたむきな姿がなければ手を貸さなかったと思われる。


ガブリエル

法はあなたを赦していますよ

ナイマン島のアンゲロス銀行のウェルスマネージャー。
数あるウェルスマネージャーの中でも最高の金庫番で、彼に預けた資産を外部から奪うことは不可能。
また厳格に法を執行する『法の使徒』と呼ばれており法知識においても右に出る者はいない。
自分の顧客のためなら法のグレーな点を付いたりちょっとはみ出しはする
そのため自分の顧客でもガブリエルが容認できない違法行為で資産を増やそうとする者、
特にガブリエルを欺いて行おうとする者には容赦しない。
かつて風月が目論んだLIBORによる世界の破滅を見抜いて食い止めた実績がある。


アリエル

お帰りなさい。ガブリエルさん

アンゲロス銀行に入ったばかりのスタッフでガブリエルの下に就けられた助手。
ガブリエル側における質問役兼驚き役。
かわいい。


ネイサン・クラウス

歴史を見ろ!奪われる側だった人間の誰を覚えてる?

記憶されるのは常に奪う側だ!

ナイマンのアンゲロス銀行のCEO。
マフィアではなく正規の銀行の頭取なのだが
趣味は捕まえた人間の指を折ったり爪を剥いでカリブ海に沈めること。
アンゲロス銀行を大きくするためならなんでもやり
敵対者への拷問・殺人その他犯罪もまったく躊躇しない。
汚れ仕事が必要なことはわかるがCEOが自ら前に出てノリノリでやることではない
風月いわく「人の生命に値段を付けられる男。しかも驚くほど安く
アクティブに色々やらかす割に短慮なのでその点を風月の「計画」に利用されることになる。
ルイスが風月の母親を陥れるのを手伝ったこともある。


向田議員

警察に押収されたら人生積んじまう

親の地盤を継いで政治家になったボンボン。
神入家の人間がほぼ全ての権利を持つ神入島に目を付けて
島の権利を丸ごと奪った後なら島を産業廃棄物の処分場にしても文句を付ける住民はおらず
全国の廃材を引き受ければ100億程度の費用は元が取れるため
前述の陰謀を企んで空に100億の借金を負わせた。
いわばこの物語のきっかけを作った元凶のためこいつをハメる分には空も良心が痛まなかった。
脱税を目論んで隠していた現金を数千万ほど燃やさせて一部を奪い取ったが
あくまで本来の「計画」の前哨戦でその活動資金を得るための生贄である。


ルイス・アイビン卿

嘘だ お前の欲しいのは私の金だけだ

風月の父親で本作の元凶その2
詳しくは風月の説明の格納部分を参照。
「冷徹な投資家で儲かるなら戦争にだって投資し、欲望のままに行動して特別扱いされないと癇癪を起こす」
として富裕層の中でも有名な人物。
ガチギレしている風月に対して、嘘でも謝ったり殊勝な態度を取ることが出来ずさらに罵倒する、
(世界を滅ぼしかけた風月に憎まれても安全を保てる材料があるわけではない)
その風月が残していった罠っぽい儲け話を疑わず突っ込んで痛い目をみる、
などの傲慢かつ無鉄砲で自分を顧みない俺様野郎。
ガブリエルの顧客の中には「本妻より愛人に財産を残したい」という者がいて適切な助言を受けていたのだが
ルイスは妻と風月に前述したような仕打ちをしたところを見ると
ウェルスマネージャーがいないか、いたとしても助言を聞き入れる性格ではないことがわかる。
風月が復讐しなくても近いうち破滅しそう
愛人が産んだ娘はかわいい。


富裕層たち

弱者はいつも自分達が正義だと信じてるからな

オレ達から金を巻き上げて怠けてる連中に配るだけ 返ってくるのは悪口だけさ!

悪どく儲けている金持ちからそいつが破滅しない程度に奪う、というのが
空や海路が詐欺をしても良心が痛まないギリギリのラインである。
風月としてはそんなもん知ったことじゃないが
よって「計画」も世界中の大金持ちたちを巻き込んでそいつらの金をほんの一兆円ほど奪うというものとなっている。
そのため作中ではちょいちょい富裕層たちが描写されているのだが
そういう理由で主人公たちにカモられる側ということで
そんな金持ちたちは全員傲慢で無能な連中ばかりとなっている。
(ガブリエルすら「本人の努力よりも『金持ち特有の黙っていても金が集うシステム』に守られているから金持ちでいられる」と言い切っている)
そうではない「真っ当な金持ち」を騙すのは気が引けるしそういう連中は引っかからないだろう…たぶん。


生贄の羊を無遠慮に貪っていた彼らが貪られる側になるのがこの物語と言える。




僕の項目に追記・修正しろ。

神に祈るより利率がいいぞ。


[#include(name=テンプレ2)]

この項目が面白かったなら……\ポチッと/
#vote3(time=600,1)

[#include(name=テンプレ3)]


  • とうとうこれが来たか -- 名無しさん (2022-09-10 09:46:56)
  • 空と海路がハイスペックすぎる -- 名無しさん (2022-11-17 04:48:08)

#comment

*1 ミルトンの『失楽園』で地獄(奈落)に落とされた魔王ルシファーのセリフ…と作中で言われているが直訳してそういう意味になるセリフは『失楽園』にはない。「天国で奴隷となるよりも地獄で自由を得る方が良い」という趣旨のセリフはあり、風月にこの言葉を言われた人物が「地獄で自由を楽しんでやる」と返しているのでそれを意訳したのかもしれない。

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧